夜空に浮かぶ満月

月明かりに照らされた森

獣も眠りにつく夜の世界

その森の中で一人の男がいた


序章


月明かりに照らされた森の中で黒いコートを纏う黒髪の男が
近くの木に背を預けて立っていた。

「・・・」

腕を組み目を瞑っていたが何かを待っている様子である。
しばらくそうしていると森の奥からガサガサと物音が聞こえてきた。

「・・来たか」

スウと目を開け前方からくる『それ』を見据える。
月明かりに照らされた『それ』は身の丈が2mくらい近くあり、
額に一本の角が生えている『異形の者』・・・『鬼』と呼ばれる存在・・

『ほ〜。妙な臭いをしたので来てみたら、人間とはな・・』

『鬼』は眼前にいる男を見つめると、フンと鼻を鳴らした。

『退魔師・・・という類でもないな・・大方、この森に迷ったのかも
 しれんが・・丁度いい、腹が減っておることだし貴様を食らうとするか』

それを眺めていた男は組んでいた腕を解き木から離れると、クククと笑って
いる『鬼』に向かって近づいていった。 

『ん?ほほ〜、自ら近づいてくるとはな。よっぽど我に食われたいみたいだな』

近づいてくる男に向かって腕を上げ、目にも止まらぬ速度で振り下ろし
男の胸を貫こうとする。

ブン

『ん?』

だが、振り下ろした腕が急に軽くなるのを感じチラと見るとそこにあるはずの
腕が肘の上まで消失し、傷口から鮮血が吹いていた。
呆然とする『鬼』の顔が影に覆われる。

『な・・』

グシャ

肉が潰れる音とともに『鬼』は仰け反り2,3歩よろめく。

『が、がは』

体勢をなんとか直し血まみれになった顔を押さえ、この人間が!と
言いながら前方にいる男を睨んだ。
月明かりに照らされた男の両手には剣が握られていた。
だが、その剣は

『な、なんだ!?それは!?』

男が握っていた剣・・両刃で身の丈が2mちかくあり、刃は
分厚くとても剣と呼べる代物ではなかった・・
あえていうのなら鉄の塊といった方が妥当であった。

「ふぅぅ・・」

息を吐き握っている剣を構えると顔面を押さえている『鬼』を
見据える。

「貴様に聞きたいことがある・・」

「5年前ある神社を襲い、そこに祭られていた御神像を奪い
 その時にいた男女二人を惨殺したあと逃走した『鬼』は貴様なのか?」

『5年前だと?ふん、ここ50年間、我はこの森から一歩も出たことは
 ない・・それに外界のことなど興味はない』

「そうか・・・」

落胆した顔をし、構えていた剣を解き背中に下げている鞘に戻すと
『鬼』から背を向け歩き出す。

「貴様が犯人ではないのなら、これ以上ここにいても意味はない・・」
 
その場から立ち去ろうとする男に『鬼』は顔を押さえていた腕を
離すと跳躍し男の頭上に迫った。

『これだけのことをしでかして逃がすと思ったのか!!』

『鬼』の爪が男の頭を薙ぎ払おうとする。
だが、迫る爪を男はかわすと同時に剣の柄を握り、体を『鬼』の方に
向け普通の人間の目には追えない速度で鞘から抜き上段から『鬼』の
頭上目掛けて降り下ろした。

ズバ

斬り裂く音とともに『鬼』の体は真っ二つにされ地面に崩れ落ちた。

『き・・きさま・・』

顔が分かれているのにもかかわらず、『鬼』は男を見上げ言葉を
途切れながらも紡いでいた。

「まだ、生きていたか」

『き・・さまは・・・一体何者・・だ・・
 霊力を・・もたぬ人間であ・・りながら・・我を
 斬り裂くとは・・』

「・・・」

『それに・・きさまが・・もっているそ・・の・・剣は
 一体・・』

「斬馬刀『紅葉』(もみじ)・・・それがこの剣の名前だ」

『!・・な・・るほ・・ど・・それが・・かの噂に聞い・・た
 鬼を・・滅するために造れた・・存在・・斬馬刀『紅葉』・・』

『そして・・それを携え・・退魔師の類でなく・・普通の人間で
 あ・・りながら我ら『鬼』を・・滅する者・・・・』

『その人間の名は・・・桜華(おうか)・・・それが・・きさまなのか・・』

「・・・ああ、そうだ」

『ふ・・なら我がかなう・・相手では・・なか・・ったな・・』

そういうと『鬼』は息を引き取り、体が崩れ灰になった。
その光景を見ていた男・・桜華は灰になった『鬼』に向かって十字を切る。

「汝の魂に幸いあれ・・」

その動作を終わらせるとその場から背を向け森の奥に立ち去っていった。





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