Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その2 寂れた村




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結局、俺達が『ルーチャア村』に辿り着いたのは夕暮れ時だった。


「これは・・・・」


村まで馬車に乗せてくれた従者さんに丁寧に礼を言い、馬車から降り村へと足を踏み入れた俺達だったが、

この世界での初めての訪問といえる村の有り様は、一言で言うと荒んでいた。

現代の日本の住まいとは程遠い木々で作られた古めかしい建物が並び、所々木切れやガタが目立っている。

乾いた風がさらさらと地面の砂を運び、村全体をまるで寂しさで染めているようだった。


「ここの村だけではない」


俺達が呆然と見詰めている事に気がついたのか、カスミは口を開いた。


「この辺りの近隣の村の人間は、盗賊団の数多くの襲撃や略奪に耐えかねて、どんどん村を捨てている。
特に若い成人男子は村を捨てて都へ流れるものが多い。
残されたのは所帯を持った家族に、身寄りの無い子供や弱い年寄りだ」


行き場が無い者、村に思いを寄せて留まる者。

そして・・・・・逃げられない者。

それぞれに理由はあれど、皆生き残りに必死なのかもしれない・・・・

「とりあえず、これからまず兵舎へ向かう」

「兵舎っていうと、雇われた連中が集まっている場所か」


馬車から降ろしたバイクを押しながら尋ねると、


「ああ、兵舎は私達の宿も兼ねた唯一の起点だ。
急ごしらえではあるが、他に集まる場所が村には無かった」


なるほど、冒険者達の基地であると共に寝泊まりする場所でもある訳か。

村の家の造りから想像すると、あまり立派な建物を期待する事はできないが・・・・


「それと言っておくが、お前達は今日の予定外の仕事引受人だ。
私からも口利きはしてやるが、報酬や生活条件に関してあまり高望みは出来ないと思え」

「まあ、贅沢言える身分じゃないからな。
何十人と集まっているんじゃ、村にとっても維持もかかるだろうし・・・・」


傭兵や冒険者が集まっているとしか聞いていないが、

彼らとてボランティアだけで集まっている訳ではないだろう。

正当な報酬は当然約束されており、さらに寝食の世話費となると村にとっての負担は大きい。

そこへ今日いきなり仕事を手伝うので金をくださいといっても、村側は渋い顔をするのは当然だ。


「我々は旅費が稼ぐ事が出来ればそれで良しだ!贅沢を言うつもりはないぞ」

「はい!一生懸命働きます〜!」


キキョウはやる気を全身から発散しており、葵はいつも通りのペースで答えた。

悲壮感というものがこいつらにはないのだろうか・・・・


「分かってもらえればそれでいい。くれぐれも村への迷惑行為はやめろ。
それと、お前のそれ」

「ああ、バイクの事か」

「村人だけではなく、冒険者や傭兵達の混乱の的になる。
異端者扱いされても文句は言えないが、それでも持っていくのか」


カスミは整った眉をひそめて、バイクを一瞥する。


「こいつは俺にとっての相棒でな、今回の仕事でも役に立つかもしれないだろう。
だから馬小屋でもいいから停める場所を提供してくれないかな?」


こいつの機動力は今回の仕事でも役に立つかもしれない。

馬より扱いやすい上に、操作能力は段違いに高いからだ。


「仕方があるまい。兵舎の裏にでも停めておけ。ただし、何かあれば即刻責任はとってもらうぞ」


カスミはそう言って、俺を睥睨する。

偉そうに言いやがって、こいつ!とか怒鳴ってやりたいが、現状の立場はカスミが上だ。

下手にもめるのは避けよう。

俺は適当に愛想笑いを浮かべて、バイクを再び押し始める。

意外と重いよな、中型のバイクは・・・・・・

そうしてしばらく村の中を歩いて、俺達は一つの大きな建物に辿り着いた。


「ここが兵舎だ。我々はここを拠点に村の護衛と盗賊団退治を務めている」


案内された兵舎は予想とは違い、かなり大きな建物だった。

急ごしらえと言っていたが、なかなかどうして外見はかなり頑丈そうな建物で、

正面から見ると横に広く、窓が規則正しく並んでいる。

恐らく一部屋一部屋きっちり分類されて、それぞれに冒険者達が寝泊まりしている部屋があるのだろう。


「そういえば村の入り口付近に、この建物と同じ高さの建物みたいなものがあったけど・・・」


村へ来て馬車から降りた時に、最初に目がついた建物について尋ねる。


「あれは見張り台だ。盗賊団は夕刻から深夜にかけて強襲してくる傾向がある。
不意をつかれないように、常に見張りを立たせている」


なるほど、その辺りの守備はほぼ完璧か。


「京介様、いよいよお仕事ですね!私、頑張りますからぁ!」

「ま、まあほどほどにな」


なんかこいつ、仕事と聞いてからえらく張り切っているよな・・・・


「ところで、これから我らはどうすればいい?」

「まずは皆に紹介しよう。その後、今後の方針の説明とお前達の仕事の分担をする。
とりあえずついてこい」

カスミは兵舎の入り口に向うと、見張りに立っていた一人の男が慌てて敬礼する。

金髪のやや若い感じの男で、長槍を片手に装備している。


「リーダー、お帰りなさい!村長がお見えになられています」


こちらにも聞こえるほどの大声でその男は言った、というか怒鳴った。


「分かった、すぐに会おう」

「すいません、お疲れの所を・・・」

「かまわん、これも私の仕事だ」


申し訳なさそうな見張り君(俺が命名)に、カスミは冷静に答える。

こいつ、結構信頼度が高いんだな・・・・・

見張り君の態度を見て、改めて俺はそう感じた。


「会議室に皆が集まっていますのでそちらに・・・・と。
リーダ、そちらの方々は?」


俺達に気がついたのか、見張り君はやや不振げな顔をする。


「ああ、この者達は・・・・」

「紹介しよう!」 説明しようとしたカスミを遮って、葵は胸を張って声を張り上げる。


「我らはこの度盗賊団退治に抜擢された冒険者だ!!
その名も『皆瀬 葵』!こっちが我が片腕『天城 京介』!!
そしてこの可愛い妖精がキキョウちゃんだ」


いつから冒険者になったんだよ・・・・・・


「どうもはじめまして、よろしくお願いしますね」

キキョウがぺこりと頭を下げると、見張り君はつられて頭を下げる。

その様子が妙に可笑しくて、俺は口元を緩める。


「冒険者様ですか・・・・
妖精を連れて旅をしているなんて、さぞ高名な方々なのですね!
申し遅れました、僕は『ソラマス=リータ』といいます!
若輩者ではありますが、どうぞよろしくお願いします!」


堂々と名乗り、見張り君(ソラリス)は再び深く低頭する。

うーむ、葵の言葉を鵜呑みにするとは純朴というかなんと言うか・・・・

「そんなに頭を下げなくてもいいって。
俺達も若輩どころか初心者に近いから、いろいろとよろしく頼むな」

「いえ、そんな!僕の方こそよろしくお願いします!」


いや、だから頭を下げなくても・・・・

俺は対応に困り、傍らに立っているカスミに視線を向ける。


「この者達は冒険者ではない。今回の仕事の補佐をする一般人に過ぎないんだ。
気を使う必要は一切ない」


フォローをしてくれているのか、駄目出しをしているのか理解に苦しむ発言をするカスミ。


「まあいずれ大成して名を響かせるとしようか」

「いずれも何も、俺達は元の世界に帰る為に仕事をするんだぞ。そこを忘れるなよ」

「ははは、まあそういう事にしておこう」


気楽に笑って、葵はずんずん中に入ろうとする。

こいつ・・・・・いろいろな意味で大物になれる気がする・・・・・・


「では、私が案内させていただきます!皆さん、こちらです!」


槍を入り口の傍に立てかけて、ソラリスは先導して中に入っていく。

俺はため息を吐いてバイクを槍の傍に立てかけて、カスミ達と共に中へ入った。
















「遅れてすまない、村長。馬車の手配に手間取ってしまった」

「いえいえ、こちらこそ連絡が遅れて申し訳ない」


兵舎中央会議室、そう呼ばれている部屋に俺達は今いる。

会議室と言っても大きな机が中央に二つ、その周りに椅子が並んでいるだけの簡素な作りになっていた。

窓から零れる茜色の光と中央に吊るされているランプが、部屋を仄かに照らす。

そんな二つの机、その前方に位置する所にカスミと村長が並んで座っており、

そこからずらりと冒険者や傭兵のメンバーが集まって並んでいる。

一人一人顔を見るが、どいつもこいつも一癖二癖ありそうな連中ばかりだ。

そんな奴等に並んで座っていると、どうも落ち着けない気分である。


「カスミ様、きゃつらの足取りは掴めましたかな?」


気高さと強い意思を感じさせるカスミの横顔とは裏腹に、ルーチャア村長の顔は深く険しい。

顔に刻まれた無数のしわと長く伸びた白髪が、まるで村長の深い苦悩を感じさせるようだ。


「今日、案内所の店長に詳しい情報を入手した。
奴等は前回襲った村から襲撃ポイントを変えて、こちら近辺に移動したようだ」

「す、すると!?」

「・・・・・次はこの村の可能性がある」


カスミの冷酷ともとれる言葉は、村長には死刑宣告のように聞こえたようだ。

顔を手で覆い、深い絶望の表情を見せる。

集められた冒険者や傭兵達も顔色を変えて、それぞれにどよめきを見せた。


「奴等の行動に対し、これまで行動は後手にまわってばかりいる。
奴等の本拠地がつかめればこちらからの襲撃も可能なのだが、いかんせん掴めない」


カスミは少し悔しそうに表情を歪める。

おや・・・・?

俺はそれを聞いて一つ疑問に感じ、右手を挙げる。


「ちょっといい?」


すると、カスミのみならずこの場にいた全員がこちらに視線が集まる。

こ、恐い、恐すぎるぞ、あんたら!?


「カ、カスミ殿・・・・彼らはお仲間ですか?」

「そうそう、リーダー。こいつら、一体何なんだよ」

「来ている服も見た事がねえし、何か怪しいよな」

村長にあわせて、冒険者達や傭兵達も次々に不振と疑いを露にした声をあげる。

な、何か雲行きがいきなり怪しくなってきたか・・・・・

俺は挙げた手を所在無さげにフルフルさせた。
















<第二章 ブルー・ローンリネス その3に続く>

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