Ground over 第一章 -始まりの大地へ- その6 旅立ち




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「はあ〜〜〜、まったくどうしてこうなるのやら・・・・」


俺が今いるこの世界にも一日があるのか、空は群青色から次第に赤みがかかっていた。

地平線が広がる草原の大地に、時間の移り変わりを促しているようだ。

俺は景色に目を奪われてつつ、案内所から少し離れた場所に停めてあるバイクの椅子に座る。


「悪いな、相棒。まだ、俺達の世界に帰れそうにないんだ」


ハンドルをさすりながら、俺は独り言のように呟く。

確か村から迎えがくるっていってたのに遅いな・・・・


「それにしても、えらい仕事を引き受ける事になったな・・・」

俺は、先ほど皆で話した会話の内容を思い出した。















「帰れないってどういう事だよ!お前の力で何とかできないのか!?」

「無理ではないですけどぉ〜、私の実力では可能性が低いんですよぉ〜
もし、術の制御に失敗したら、京介様達をとんでもない世界に結び付けてしまう可能性があるんですぅ〜」


キキョウの呑気な声に、俺はどうしようもなく腹が立った。


「可能性が低いだと!だったら、最初からそんな術を使うな!」

「落ち着け、京介」


横から葵が俺の肩を掴む。


「お前こそなんでそんなに落ち着いてられるんだ!?
俺達、帰れないんだぞ・・・・
こんなモンスターがいるような世界に、俺達は留まらないといけないかもしれないんだぞ!」


俺は言いきって、ふと自分の失言に気づく。


「いや、悪い・・・・お前達の世界を悪く言うつもりはないんだ・・・」


柄にもなく感情的になっている自分が少し恥ずかしかった。

いつもなら、もっと論理的に物事を考えられるはずなのだが・・・・


「いや、別にかまわんさ。お前さんの立場からすれば、ここは立派な異郷だ。
戸惑うのも無理はない。
ほれ、コーヒーのおかわり、注いでやるよ」


親父さんは俺のカップを持ち、カウンター内でこぽこぽとコーヒーを入れてくれる。

香ばしいコーヒーの独特の香りが、俺の鼻をくすぐる。


「とりあえず、まずは現状について整理をしよう。
まず、友と俺はキキョウちゃんの術により、この世界へと導かれた。
そしてモンスターの襲撃から、俺達はキキョウちゃんを助けた。
ところが肝心の術を制御できないキキョウちゃんは、俺達を元の世界には帰せないと、こういう事だな。 召喚に携わる系統の術は、命令者の危機がなくなり次第解除などはされないのか?」

「一般に、術は世界に広がるエネルギーを、術者の精神力で自分のイメージ化に変えて力にしますぅ。
召喚術も同じで、 世界の壁を自分の術で破壊して、異世界の生物に助けを呼ぶんですよぉ。
つまり召喚したものを送還するには、術者が再び壁を破壊しないと駄目なんですぅ」


キキョウは困ったように、ぐすぐす半泣きになって説明する。


「つまり、お前には世界の壁を壊す力はあるって事だな。
とすると、俺達を帰すのにたりないものはなんだ?」

「どの世界の壁を壊すのかを選択するという『術のコントロール』なんですよぉ。
制御とコントロール、その二つが出来てはじめて術は完成しますぅ」

「世界の壁っていうけどよ、そんなに世界っていっぱいあるのか?」


何しろ、今までは地球という星の大地の上で過ごしていたのだ。

いきなり世界、世界と言われても、まったくぴんと来ない。


「当然だ。世界は、何も人類のみが支配しているばかりではない。
自分が今いる場所とて、大局的に見ればちっぽけなものだ」


カスミは、横から淡々と言う。

それはあからさまに、俺の視野の狭さを馬鹿にしている響きがある。

へいへい、どうせ俺は井の中の蛙ですよ。


「召喚系統の術で究極と位置づけられるものでは『神様の住む天界』、
『魔王が住む魔界』のコンタクトを取る事といわれていますぅ」

「神様に悪魔だあ?また、そんなメルヘンチックな事を・・・・」

「友よ、この世界では常識となっているかも知れん。
迂闊な発言は馬鹿にされるだけだぞ」


ぐっはあ!?親父さんやカスミの奴、すげえ馬鹿にした目で見てる!?

くそう、この程度で科学は敗北なんてしないぞ!!


心の中で負け惜しみを言いながら、俺は親父さんが入れてくれたコーヒーを飲む。


「とりあえず、このままではどうしようもない事は分かった。
キキョウちゃん、何か他に方法はないか?
まあ俺的に帰られなくても充分オッケーなのだが、友はそうもいかんだろうからな」


おーい!!俺だけかよ、現状を批判しているのは!?


「そうですねぇ・・・・やっぱり術を制御できる術者を探すしか方法がぁ・・・」

「それは難しいのではないか?召喚は、数多くの認定されている術の中でも特別ランクにされている。
そう安々と見つかるかどうか怪しいものだ」


いやな事を、あっさり明確にカスミは言う。


「認定されているってどういう事だ?」

「えーとですねぇ、術はその力の強力さゆえに、協会で規制がされているんですよぉ」

「協会って?」

「大陸で術そのものを一括して管理している組織だ。
それぞれの国であちこちに支部を立てて、術の教育や発展をメインに活動している。
不正使用、あるいは強力すぎる術などは規制して、術の安全性を促している所でもある」


なるほど、何処の世界でも危険性を重視して緩和を促す組織は存在する訳か。


「すると、その協会に行けば、ひょっとすると高レベルの術者に巡り合えるかもしれないわけだな」

「協会は術者の援助もしているからな。
高レベルの実力者は登録されているかもしれん」

「本当か!?」


ようやく見えてきた希望に、俺は心が軽くなるのを感じた。


「ああ、まだ見つかるかどうかは分からないけどな。
とするとだ、協会を尋ねないといけない訳だから、王都に行かないといけないな」


王都、つまりこの国の首都か。


「それって、ここからどれくらい距離がある?」


もし近ければ、バイクでとばして今からでも行きたい所だ。

時間がたてばたつほど、俺達はより一層過酷な立場に追い込まれる。

なぜなら・・・・


「何をそんなに焦っているのだ、友よ。どうせなら、しばらく観光といこうじゃないか。
帰られる方法も見つかった訳だし」


限りなく呑気な葵の言葉に、俺は頭を抱えたくなった。


「あのなあ、もうちょっと状況をシビアに考えた方がいいぞ。
俺達はこの世界での常識がまったくないんだぞ・・・・・ それに第一!金とかどうするんだ、おい」


はっとして、葵は手もとのコーヒーとメニュを見る。

壁のメニュー覧には『ホットコーヒー 銀貨2枚』と書かれていた。

金銭問題に関しては、メニューの一覧を見て思い出したのだ。

この世界(いや、この国だけかもしれないが)メニューを見る限り、通貨制度であるようだ。


「そういえば、我らには一銭の金もなかったな。
親父、えーと、ここの勘定だが・・・・」

「ははは、さすがに無一文からたかるつもりはねえよ。
だが実際問題、金がないとはこの先まずいと思うぜ。
王都までは、ここからずいぶんあるぞ」


親父はビジョンを操作して、再び空中に大陸マップを映し出す。

その地図には現在の俺達の位置と、これから向かうべく王都の位置が赤く光っていた。

って、ちょっと待て!?


「えーと、さっき走ったバイクの距離と時間を、この地図の高原との縮尺を計算すると・・・・
おーい、めちゃくちゃ遠いじゃないか!!」


俺の頭の中のCPUがはっきりと、距離的計算を暗算してくれた。


「ちなみにどれくらいの距離だ、友よ?」

「俺のバイクで全力でここから24時間走り続けて、一週間ほどかかる距離だ」

「なにー!?すると、徒歩じゃ・・・・」


徒歩だと、まあ一ヶ月は平気でかかるな。

それに、またあんなモンスターなどが出てこられたら、さらに時間がかかる。


「まあ、ここから乗合馬車が出ているからそれに乗るとしても、無一文じゃ乗れねえな」


親父さんがありがたい忠告をしてくれた。

はてさて、いきなりのピンチをどうするか・・・・


「あの〜、私でよかったら何かお仕事をさせて下さい!」

「嬢ちゃんに?」


眉を寄せる親父さんに、キキョウは眼前で必死で頼み込む。


「お願いしますぅ!!何でもやりますからぁ!!
京介様と葵様がこうなってしまったのは、全て私の責任なんですぅ!!
だから、だからぁ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ピンクの小さな髪を揺らして、キキョウはぺこぺこ親父さんに頭を下げている。

俺はため息を一つついて、その背中をぎゅっと掴む。


「キャウ!?」

「お前に恵んでもらうほど、俺は落ちぶれちゃいないぞ。
自分の事は、自分できちんとするのが俺のやり方だ」

「で、でもぉ、私の所為で・・・・・」


言い出しかけたキキョウの口を、人差し指でそっとつぐむ。


「とりあえずここまでの事態になったからには、お前に責任を押し付けている場合じゃないだろう。
いろいろと納得はいってないけど、不測の事態に臨機応変に対応できないようじゃ
一人前の科学者にはなれないからな。
だから、その・・・お前もいちいちそういう顔をするな。調子が狂う」


例え人間じゃない生き物とはいえ、女の子が泣いている姿を見るのはやはりいい気持ちはしないものだ。


「京介様・・・・」


な、何だよ?そんなに頬を紅くされると、こっちが恥ずかしくなるじゃないか!


「ほう、なかなか優しい所があるじゃねえか」

「う、うるさいな!それより、俺達で出来るバイトとかはないか?」


これ以上茶化されると、話が訳の分からない方向へといってしまう。

俺はさっさと本題に入る事にした。


「仕事ね・・・・お前さん達、何か出来る事とかあるかい?
実動に役に立つポテンシャルみたいなのが」


親父さんは何やらカウンターの傍に立てかけている紙の束を手に取る。

どうやら、仕事について書かれている書類のようだ。


「科学ならお手の物だぞ」

「超常現象に関してなら任せておいてくれ」

「ようするに、まったくの役立たずって事だな」


胸を張る俺と葵に、容赦ないカスミのつっこみが入る。

こいつ、こっちの話は聞いているだけのくせに、ここぞとばかりに・・・・


「うるさいな!とりあえず親父さん、何か出来る事はないかな?」

「ここは冒険者や傭兵の寄り合い場所もかねているから仕事の斡旋も出来るけど、
あくまでも冒険者や傭兵用の仕事だ。
お前さん達にモンスター退治等の仕事をさせる訳にはいかないだろう」


俺達の身なりや物腰から、戦いのシロウトと判断したのだろう。

それは懸命である。

日本でも俺は科学一身に勉強、葵は趣味に生きてきた。

はっきり言って、格闘技の経験は学校の体育でしかやっていない。


「うーん、確かにそういう仕事はちょっと難しいな」

「何を言う、友よ。我らに正義と勇気と愛がある限り、誰にも負けはしない!」

「愛とかがあるだけで勝てるなら、戦いなんぞこの世に存在しなくなるって」


何やら燃えている葵に、俺は横から冷ややかなつっこみを入れる。


「ははは、元気のいい兄ちゃんだな。
それにしても素人で仕事となるとな・・・・・・うん?
そうだ、カスミ。こいつらに仕事を手伝わせてみちゃどうだ?」

「・・・なんだと?」


よほど意外だったのか、カスミは反復して尋ねる。


「リーダーであるお前さんなら、仲間に入れても反対はしないだろう」

「それはそうだが、こんな素人は役立たずだ」


何の話か知らないが、俺はカスミの言葉にむっとなる。


「ちょっと待てよ。まだやってもいない内に、無理って決め付けるのはあんまりじゃないか?」

「剣も満足に扱えないのだろう?そんな奴に何ができる」


この野郎〜、女だけど・・・・・

基本的に男女差別はしない俺としては、やはり舐められている事に我慢してはならない。


「よーし、やってやろうじゃないか。葵もいいな」

「望む所だ!初の冒険者としての仕事、やりこなしてみせよう」


葵は、自信満々に親指を立てる。

こんな時こそ、持つべき者は相棒である


「二人はどうやらやる気満々みたいだぜ。どうする、カスミ?
妖精の譲ちゃんもついているんだ、簡単な雑務くらいはこなせるだろう」


親父の援護発言がきいたのか、カスミはしばし思案顔の後ため息を吐いて、


「・・・・分かった。元々、この仕事を紹介してくれたのは親父さんだ。
この二人には、前線への後方援護をしてもらおう」


ブルーの髪をすっとかきあげて、カスミは渋々という感じで頷いた。


「よかったですねぇ、京介様!!そういえばお仕事は何ですかぁ?」


俺も具体的に聞いていなかったので、親父さんに同じ質問をする。

すると、親父さんは一つ咳払いをしてこういった。

「ここから北西にある『ルーチャア村』での盗賊団退治だ」















「京介、迎えの馬車が来たぞ。そろそろ行こうぜ」


はっとして後ろを見ると、支度を終えた葵やキキョウがこちらに手を振っている。

まったく、どこまでも能天気な奴等だよな・・・・

俺はため息ついて、ふと高原の方を見ている。


「・・・・・・」


これから先がどうなるのか、もはや俺にはまったく分からない。

偶然辿り着いてしまった新しい世界、新天地。

不安もある、納得できないやるせなさもある。

しかし、なぜだろうか?

俺の心には、ここでのこれからに、こんなにもわくわくさせる不思議な気持ちがある・・・・・


「さてと、行くか!」

アール高原、はじめて訪れたその始まりの光景をしっかりと目に焼き付けて、俺はバイクにまたがった。
















<第一章 始まりの大地へ 完 第二章 ブルー・ローンリネス その1に続く>

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