Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その12 作戦




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 馬車より降り立った地は広大な草原であった。

青々とした緑が日向より息づいており、地平線が見える彼方まで続いている。

町まで送ってくれると言っていた卸者さんには事情を説明し、無理を言って降ろしてもらったのだ。

ルーチャ村より徒歩で軽く3時間ほどで戻れるよ、と卸者さんは気楽に笑っていたが、

現代日本の都会で悠々と暮らしていた俺には酷な距離であった。

いざとなればバイクを使用すればいいのだが、燃料の無駄遣いはできない。

はあ・・・・・

もしあのまま馬車に乗っていたままだったら、今ごろは次の目的地へ辿り着いている頃であろう。

今時分で選んだ選択はお世辞にも賢いとは言えない。

今から俺達はとんでもない事をやらかそうとしているのだから。


「・・・と、いう事でだ」


 街道の脇に腰を下ろし、葵とキキョウに座るように促す俺。

二人の強い決意を秘めた眼差しを見つめながら、俺は口が開いたリュックを下ろした。


「俺達三人で盗賊団退治に乗り出す事にした」

「うむ。今こそ我等英雄チームの本領発揮というわけだな」


 いつから俺達は英雄になったんだ、いつから。

今のところただ単に状況に流されていただけだろうが。


「私、頑張りますぅ!皆さんを絶対の絶対にたすけますぅ!」

「役立たずが約一名いるという過酷な状況の中を、俺達は戦わなければいけない」

「うえ〜ん、私だって何かのお役には立てますよぅ〜」


 まったくあてにならない事を言うキキョウ。

でも、確かにこいつの使いようによっては役に立つのかもしれない。

俺は苦笑気味にキキョウを見下ろして、話を進める。


「かと言って、このまま闇雲につっこんでも意味がない。
次こそ殺されて屍をさらす事にしかならないからな」

「ここは村へ戻ってカスミ殿と合流した方がよいのではないか、友よ。
前回の襲撃時も彼女の作戦があればこそ、戦果をあげられたのだからな」

「そうですよぉ!京介様、私達が戦う事を告げれば喜んで迎えてくれますよぅ」


 何にも分かっていないな、こいつらは・・・・

俺は頭痛のする頭を抑えて問題点を指摘する。


「あのなあ、お前ら。俺達はお役ごめん扱いされたんだぞ。
『やっぱり俺達も戦う事にしたよ、よろしく!』とか言っても無駄だ。
また直ぐに叩き出されるのが関の山だ。
あの女は俺達の助けを必要としてはいない・・・・」

 出なければ無下に追い出したりはしない。

俺の話に耳を傾けていた葵が口を開いた。


「カスミ殿はどうするつもりなのだろう。
村に残って戦うつもりなのは分かるが、無駄に命を落とすだけではないのか?」

「・・・・あいつは生き残ったメンバーと共に最後まで戦う事を選択した。
そして・・・」


 俺は一呼吸間を置いて、広がる青空に視線を向けて呟いた。


「・・・・勝てるとは思っていないだろうな。
盗賊達と心中するつもりだ」

「ええええぇっ!?そ、そんな・・・・・・」


 ここからは俺の想像に過ぎないが、あいつは恐らく・・・・許せないのだろう。

不甲斐ない自分、任務を果たせなかった自分、大切な命を守れなかった自分。

その全てが許せないから・・・

最後の最後まで戦士として戦い、リーダーとしての職務を全うし、死ぬ。

俺達を村から出したのも役に立たないという点も無論あるだろうが、

俺達を自分の戦いに巻き込む事はしたくなかったのではないだろうか?

そしてそれは他の冒険者達も同じだろう・・・・・

殉じ、命を捨てる。冒険者なりの美意識なのかもしれない。


「あいつらは責任を感じてるんだ。村を守りきれなかった事に、な。
生き残った時の報酬とかそんなのは、もう頭の中にもないだろう。
あの女が集めただけある。どいつもこいつも救いようのない馬鹿ばっかりだ」


 俺達が出ていくと告げた時も、誰も非難しなかった。

あいつらは最後の最後まで俺達を励ましてくれたのだ。

皆、応えようのない笑顔で・・・・・


「死んで、責任を果たすか。男としてはかっこいい最後だな」

「まあな。だけど」


 俺がにっと笑うと、葵も心得たように笑った。


「我らにしてみれば馬鹿げているな。人間、生きてこそ楽しい。
生きているから何でもできる。幽霊にだって会える」

「最後がかなり気になるがそういう事だ。このままあいつらも村人も不幸には終わらせない。
俺達で運命をねじ曲げよう」

「賛成ですぅ!京介様ならきっと大丈夫ですよぉ」

「その根拠のない自身はどこからわいてくるんだ、お前は・・・・」


 でもまあ、いい加減前に出ないといけないだろう。

訳の分からない世界へ連れて来られ、でかいとかげに追いまわされるわ、あの女に馬鹿にされるわ、

盗賊団達にいい様に弄ばれるわでいい所が一つもない。

人間、やっぱり自分のやりたいようにするのが一番だ。  


「よし、俺達の今後の目標だ。
まず、村人に村を捨てさせるような真似はさせない」


 うんうんと力強く頷く二人に合わせて、俺も話を続ける。


「誰も死なせない。ソラリスも、あの女もだ。
そのための解決策は一つ。あの馬鹿共を叩き潰す事だ」

「うむ、村に蔓延る悪党を叩きのめせばすべて解決だ。
今こそこの世界での我等の役割を果たす時がきたのだな、友よ!」

「かっこいいですぅ!素敵ですぅ!」

「ただの不慮の事故と成り行きな感じがするのは俺の気のせいか?」


 盛り上がる二人に冷めたつっこみをする俺。

自分たちのやりたい様にするという点では自分の意思ではあるのだが。


「気にするな。英雄伝説の最初の1ページを飾る瞬間がすぐそこに来ている。
ふふふ、血潮がたぎる・・・・」


 怪しい笑みを浮かべる葵に、俺は頬添えをついて脇の手を上げる。


「先生、質問」

「む、何かね京介君」

「それでどうやって盗賊団を退治するのですか?」


 そう、肝心なのはここからだ。

性根こそ腐っているが、仮にも奴等はカスミ達すら苦戦させた獣の群れ。

しかも今回はカスミ達の戦力は半減している上に、リーダーも深手を負っている。

俺達なんて戦いはど素人である。

勢いだけで勝てる相手なら、初めからこんなに悩んだりはしない。

俺の素晴らしいまでの指摘に何故か爽やかな笑みを浮かべて、葵は親指を立てた。


「馬鹿だな〜、友よ。それを考えるのがお前の仕事じゃないか」

「結局俺かぁぁぁ!!」


 葵は一発手刀で叩き倒して、俺はため息を吐くしかなかった。


「ああ、もう!結局、俺が作戦立てるしかないのか。
う〜ん・・・・・」


 何とかしないといけないのだが、どうすればいいのやら分からない。

何しろ圧倒的にこちらが不利なのだ。

冒険者ではプロに値するであろうカスミがお手上げなのに、俺がどうにかできる問題だろうか。

事態の深刻さに背中が重くなる気分だった。


「今の所、自分ができる事をするしかないか・・・・・
まず持ち物をチェックしよう。何か対策が浮かぶかもしれん。
葵、お前の鞄の中身見せてくれ。って、相変わらず重そうだな、お前の鞄」


 俺の意見に従って鞄を肩に担いで持ってくる葵だったが、みるからにずっしりとした重量感を感じさせる。

別に珍しい事でなく、こいつは大学に来る時も普段時もいつも鞄を下げている。

本人曰く「どこで必要となるかわからない」との事なのだが・・・・・・

おかげで二人乗りをすると燃費がかかって仕方がなかった。


「召還される前は放課後より真夜中の墓場を観察する筈だったからな。
それ相応の機材を用意しておいたのだ」

「・・・・そんな所に俺を連れて行くつもりだったのか、お前・・・・」


 もしこの世界につれて来られなかったら、俺は墓場で一晩過ごす羽目になっていたという事になる。
う〜ん、召還されるのもされてないのも嫌だぞ、それは・・・・


「ふふ、我輩の素晴らしい機材の数々に驚くなよ、友よ」


 機材ね、役に立つのかどうか・・・・

しかしながら、たまにこいつはどこで仕入れてきたんだと聞きたくなる位の怪しいグッズを持っている。

ひょっとしたら何らかの役に立つ物があるのかもしれない。

一筋の奇跡を期待しても罰はあたらないだろう。


「それじゃあ見せてくれ。こっちの荷物とあわせて使えるかどうか考えるから」

「分かった。見よ!この素晴らしきマイアイテムの数々を!!」


 鞄のチャックを一直線に開封し、葵は中身を次から次へ出してくる。

どれどれ・・・・


「漫画雑誌五冊に音楽CD、アニメ関係のCDが数十枚。
デジカメにビデオカメラ・・・って、こんないい機種持ってたのかお前!?
使い捨てカメラにCDデッキ・・・・って、おい!何でデッキなんぞあるんだ!」

「勿論墓場で臨場感を出すためだ」


 俺は呪いとかは信じないが、罰当たっても知らんぞ・・・・


「着替えに歯ブラシ・・・って、なんで生活用品が入ってるんだ!?」

「ああ、お前の家に泊まるつもりだった」


 ・・・・いつか宿泊費とってやる、こいつ・・・・・


「なになに、お札に鏡?なんだ、これ?」

「うむ、近くの神社に売っていてな。魔を払う力があるらしい」


 ・・・・またインチキくさいグッズを・・・・・・・


「後はオセロに将棋に麻雀・・・レジャー用品か」


 全てを総合しての結論。

こいつはこのカバンさえあればどこへでも生活する事はできる。

そしてもう一つ・・・・


「何の役に立たんわ、こんなもん!!!」

「何だと!?我が機材の数々を馬鹿にするのか、貴様!」

「どうやってCDやカメラで盗賊退治ができるんだよ!!!」


 くそ、ちょっとでも期待した俺が馬鹿だった・・・・・

葵の持ち物で武器と言えるのは、底にあったモデルガンくらいだろう。

俺は文句を言い続ける葵を無視して、自分のリュックを点検する。

まずネジやプラスチック、装甲板等の部品が数々。

ドライバーなどの作業用機材は必須品なので当然携帯。

で、肝心の武器はと言うと・・・・・

爆裂弾が残り8個。催涙弾が三個に煙幕弾5個、照明弾が4個。

手持ちはこれだけだった。

元々こんな世界にくるつもりもなかったし普通に家に帰る筈だったので、武器は少ない。

それに平和な日本で住んでいる身であったので、武器にしても全て護身用である。

すなわち・・・対個人用であり、殺傷能力はまるでない。


「俺と葵は戦闘力は皆無。キキョウは回復担当のみ。
となると、この手持ちだけで何とかしないといけないのだけど・・・・・」


 相手は騎乗の上に戦いなれており、数は20〜30未満。

向こうも痛手こそ負っているが、まだまだ戦力は十分。

そして・・・・得体のしれない力を扱う首領。

ひきかえこっちは漫画雑誌にCD、デジカメにビデオカメラ、使い捨てカメラにCDデッキ。

お札に鏡、オセロに将棋に麻雀、モデルガンに爆裂弾、催涙弾、煙幕弾、照明弾・・・・・・


「・・・・勝てるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 改めて自分がやろうとしている事に苦難を感じながら、

それでも引き返せない道を自分で進んでいる事にため息をつくしかなかった。


「すごいですねぇ〜、これ全部葵様の持ち物ですかぁ!」


 人が苦悩している横で、キキョウは目をキラキラさせて見ている。

まったく呑気な奴である・・・・・・


「京介様、京介様」

「何だよ、今必死で対抗策をだな・・・・」

「これはどういう道具なのですかぁ?」


 キキョウが好奇心旺盛につんつんしているのは、デジカメだった。

俺は説明がめんどくさいので、簡潔に解説した。


「それを使えば風景や人物を記録できて映し出せるんだ」

「そ、そんな事ができるのですかぁ!?
すごいですぅ〜、まるでビジョンみたいですねぇ」

「ん?そうだな、ニュアンスは同じ・・・・・」


 ・・・・・・・・・・待てよ?

そうか・・・・・・・


「ふふふ・・・・はっはっは・・・」

「??ど、どうかされたのですぁ・・・?」

「はっはっはっはっは、でかした!!」


 俺は満面の笑みを浮かべて、キキョウの小さな手をぶんぶん振った。

傍らで葵は呆然とした様子で俺を見る。

「どうしたのだ、友よ。なにをそんなにはしゃいでいる?」

「葵、キキョウ。いい作戦を思いついたぜ」

「ほ、本当か!?」

「ああ。うまくいけば犠牲は0だ」


 俺たちが現状でうてる最善の手はこれしかない。

かなり運任せではあるけどな・・・・・

俺は心の中でそう呟いて、二人に今思いついた作戦内容を話した。












<第二章 ブルー・ローンリネス その12に続く>

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