Ground over 第二章 -ブルー・ローンリネス- その6 初戦




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「やばいな・・・・思ってたよりも遥かに速いぞ」


 見張り台に立って双眼鏡を眺めながら、俺は盗賊達の動きを見張っていた。

双眼鏡で最大の倍率での見える姿とこちらへ駆けて来る盗賊達の速度を考慮に入れて、

村への到着がいつになるかを頭の中で計算する。


「・・・遅くても十分って所か・・・・」


 頭の中で計算された時間を認識し、額から汗が出るのを悲しいほど自覚した。

もうすぐ始まろうとしている襲撃と攻防戦。

今までの生活には到底あり得なかった事柄がもうすぐ始まろうとしている・・・・・


「どうする・・・?俺はどうすればいいんだ・・・・」


 この村へ辿り着いて盗賊達を警戒はしていたが、ずっと平和だった。

もしかしたら何もないんじゃないか?このまま平和のまま終わるのではないか?

ひょっとしたらという甘い期待を俺はしていたと思う。

だが、今の現実はそんな俺を嘲笑うかのように見事に裏切ってくれたのだ。


「・・・介様!京介様っ!!」

「おうわっ!?いきなり耳元で叫ぶな、この馬鹿!!」


 双眼鏡から目を離して、俺は横目で飛んでいるキキョウを見やる。


「ご、ごめんなさいですぅ〜、盗賊さん達が攻めて来たって本当ですかぁ!?」

「そんな事に嘘をついてどうする。ほれ、あの辺りを見ろ」


 俺が指差す方向を目で追って、キキョウはわかり易い反応を示してくれた。


「ふぇぇぇぇ!?本当にこっちへ来ているじゃないですかぁ!?」

「本当って・・・お前俺を疑ってたのか、この野郎!?」


 俺は双眼鏡を近くにおいて、キキョウの小さな頬をつねる。


「痛いれふ!痛いれふぅ!!!
だってだって怖いじゃないですかぁ〜!!この村を攻撃するんですよぉ!!」


 キキョウは赤くなった頬を柔らかく撫でながら、俺に詰め寄った。

この虫が言いたいことは俺にもあまり分かりたくはないが、それでも十分に分かる。


「そんな事は分かってるよ。お前が騒いでもどうにもならん」

「うえぇ〜、どうしますかぁ?やっぱりここは大人しくごめんなさいって」

「謝って許してくれる連中にはぜんぜん見えないぞ、俺は」


 暗い上に遠目では判断はできないが、あまり人格が出来ている連中には見えない。


「じゃ、じゃあどうしますかぁ?やっぱり逃げたほうが・・・・」

「どこに逃げるんだ?大体連中は馬に乗ってきているんだぞ。
こっちは村の人全員を乗せる馬がない。明らかに機動力不足だ」

「うう、じゃあどこかに隠れて・・・・・・」

「だ・か・ら!どうしてお前はそう後ろ向きなんだよ」


 ピンク色の髪を揺らしておろおろしているキキョウに、俺は言葉を続ける。


「何のために俺たちが雇われたと思ってるんだ?盗賊団より村から守るためだろうが」

「あ、そうでしたぁ!京介様のお力があれば、盗賊さんにだって負けませんよねぇ」


 半泣きだったくせに、コロっと俺に微笑みかけるキキョウ。

俺は深々と嘆息して、こいつにはっきりと言ってやった。


「ご期待に添えなくて悪いが、俺はあいつ等を相手に戦える程力自慢じゃないよ」

「ええっ!?だって、だって京介様はあの時モンスターを追い払ったじゃないですかぁ!」

「あれはたまたまうまくいっただけだ。
それに追い払ったんじゃなくて、一時的に撹乱させただけだ」


 事実、俺特製の目覚ましを爆破させてもあのモンスターは生きていた。

もう一度襲われたら、バイクに乗っても逃げ切れるかどうかはちょっと自信がない。


「じゃ、じゃあ・・・・・・・」

「ああ、俺や葵は戦えない。だからこそ、こうして今まで見張りをしてきたんじゃないか」

「そ、そうでしたよね。ごめんなさいですぅ〜」


 それに正直葵はどうかは分からないが、俺は戦いたくなどなかった。

俺はあくまで巻き込まれた形でこの世界にやって来ただけだ。

この世界の常識に縛られるような真似はしたくはない。


「別に謝る事はないよ。俺達は俺達で出来る事があるはずだ」

「そうですよねぇ!!私、頑張りますぅ!!」


 小さな手をぎゅっと握り締めて、ガッツポーズをとるキキョウ。

勇ましいがどこか可愛いその姿に、俺は状況を忘れて笑ってしまいそうになった。

とりあえず咳払いをして感情を隠し、俺は口を開いた。


「今、葵があの女に報告に行っている。すぐに作戦が展開されるはずだ。
お前はソラリスの所へ行って、俺のバイクと部屋に置いてあるリュックを持ってくるように頼んでくれ」

 
 バイクは村へ到着してから簡単にしか整備はしていないが、何か役に立つことがあるはずだ。


「了解しましたぁ!!すぐに伝えてきますねぇ!!」


 びしっと一礼をすると、夜の闇の中で仄かに光る羽を揺らしてキキョウは素早く飛んでいく。

あんなポーズを教えたのは葵だな。

まったくあいつは余計ばっかり教えやがって・・・・・・・

不平を漏らしながら、俺は双眼鏡を手にとり見張りに戻る。


「どうなるかだな、この夜に・・・・・」


 逃げても騒いでも、何をしようとしてもいずれあいつらは攻めて来る。

キキョウに言ったように、俺は自分の出来る事を精一杯やるのみだ。

先程までの緊張感と恐怖はいつのまにか無くなっていた事に気がついたのは、それから後の事だった・・・

















「奴等を村に入れれば終わりだ。甚大な被害が出てしまうだろう。
よって、我々は村の外で奴等を迎撃する」


 その後葵の報告はカスミに伝わり、雇われた傭兵達や冒険者達全員が村の入り口に集まっていた。

まるで嵐の前の静けさのように、ぴりぴりとした緊張感のみがその場を支配している。

集められた面々全てが厳しい表情をしており、前に立つカスミも表情を険しくしている。


「見張りの報告によると、盗賊達は一直線にこの村を目指している。
敵の数は約三十。数ではこちらが上であるが奴等は全員騎馬だ。
だが幸い、この辺りは障害物もないなだらかな平原だ。
よって、弓矢での援護を交えた迎撃を行う」


 カスミのその後の説明を要約すると人員を大きく三つに分けるらしい。

前線、弓矢、そして後方支援。

まず前線が襲撃をかける盗賊団と正面からぶつかり攻防戦を行う。

これだけでは質が高いとはいえ不利だが、盗賊団が前線に集中する頃合を見計らって横から弓を射掛ける。

標的は馬のみに集中することにより奴らの混乱を促す。

前線・弓矢と二部隊で崩れた所を後方支援が合流し、盗賊団を掃討する。

これがカスミの立てた作戦の全てだった。


「私は前線で戦い指揮をとる。各人員の配置は既に私の一存で決めてある。
時間がないので各自速やかに行動し、部隊のリーダーの指示に従うように。以上だ」


 カスミの言葉が終わると、持っている武器を掲げて一斉に熱い叫びをあげる冒険者達。

勝利への勝ち上げか、はたまた戦いの予感を感じても武者震いかどうかは分からないが、

俺にはどうもついていけそうになかった。


「うるさいな、まったく・・・・」


 耳を抑えながら、高らかに叫ぶ冒険者達を見渡して渋面になる。 


「うおぉぉぉぉーーーー!!今こそ我輩の大活躍の時だぁぁぁぁーーー!!!」

「って、お前もかよ!」


 人様の隣で大声で喚く一友人に横蹴りをする俺。


「うおうっ!?何をする、友よ。
今こそ我等がこの世界で冒険者として活躍するスタートラインではないか!!
気合を入れなければ戦いに勝つことはできんぞ」


 すっかりその気かよ!?

俺は盛大にため息をついて、もう傍らに立っているソラリスに呼びかける。


「おーい、ソラリス。この馬鹿に今から俺たちがやる仕事をもう一度説明してやってくれ」

「え?あ、はい!
僕達の仕事は村の人達の避難施設への誘導と護衛です。
村人の安全を優先として、村の警護を終始務めます」


 傭兵達に比べて、ソラリスは簡易的な武装スタイルに身を固めている。

私服姿の俺達程ではないが、手にしている槍と胸のみを覆うプレートがなければ一般人と変わらない。

ソラリスの熱心な説明に、葵はまともにショックを受ける。


「な、なんだとぉぉぉ!?戦えないのか、我等は!」

「当然だろう。俺達が前線にでも行ってみろ。一秒で奴らの餌食になるぞ。
実戦経験もなければ戦う訓練もしてない俺達に何ができるんだよ」

「ジーザス!運命の女神はいまだ我らに宿命を与えずという事かーーー!!!」


 葵はその場で悶絶して、ごろごろと地面に転がる。

子供と変わらない仕草に俺は視線を逸らして、ソラリスに話し掛ける。


「避難施設ってちゃんと用意がしてあったんだな。村人全員を収納できそうか?」

「・・・難しいですね。急ごしらえの小屋なので、一時しのぎが精一杯です」

「なるほど、もし盗賊達が村に侵入されたら・・・・・」

「・・・・はい、その時はもう・・・・・」


 沈痛な表情で、ソラリスは静かに頷いた。

なるほど、避難施設はあくまでも村人を安心させるための一時凌ぎってわけか・・・・・・

俺は額に手を当てて夜空を仰ぎ見る。

今回の盗賊団襲撃による迎撃に雇われたベテランの殆どが戦いに出向く事になっている。

村人を警護するのは俺達やソラリスのようなルーキーである。

前線で戦うカスミ達を信頼するしか解決策はなさそうだった。


「分かった。混乱が広まらないうちに村人を全員早く非難させよう。
おら、葵!いつまでもショックを受けてないでとっとといくぞ!」


 俺はうじうじといじけている葵の襟首を掴んで無理やり引きずる。


「い、いいのですか?苦しそうですよ・・・?」

「ああ、大丈夫。これ位で死ぬほどやわな奴じゃないから。
悪いけど、こいつが復活するまでバイクを転がしてくれないか?」

「分かりました!それにしても見れば見るほど不思議な構造ですね・・・・」


 うーむ、自分のバイクに興味を持ってくれるのは大変嬉しい事だが、

構造を解説する時間もない上に、各部品を全てちゃんと理解させるのは不可能に近いだろう。

結局、俺はソラリスの独り言を無視して歩み始める。


「たく、ちゃんと歩けよお前・・・・・・」


 冒険者達がそれぞれに活発的に動き回っている所を潜り抜けるのは結構大変な作業だ。

人をより分けて進みつつ、俺は村の中心への進路をとる。

ふと気がついて振り向くと、ソラリスはじっと村の外を見つめている。


「どうした、ソラリス!早く行くぞ」

「あ、はい・・・・・・・」


 名残惜しそうに何度も振り返りながら、ソラリスはこちらへと歩いてくる。

まあ、気持ちはわかるけどな・・・・・・


「ソラリス」

「は、はい!何ですか、京介さん?」

「・・・・あいつ等を信じようぜ。
俺はあいつ等の実力とかは分からない。だがよ、仮にもあの女を含めて皆精鋭揃いだ。
それにあの女だって、毎日各地を走り回って情報収集をして対策を立ててたんだ。
これで負けるわけがないって」


 不安なのは俺も同じだ。じっとしていられないのも分かる。

だけど俺達にできる事は戦う事じゃない。


「そ、そうですよね!!リーダーも皆もいるんです!!
負けるはずがないですよね!!」


 俺の言葉にソラリスは瞳に力が戻る。俺は苦笑して頷いた。


「俺達は自分の仕事をしよう。早く村人を誘導しないと」

「分かりました!!僕が案内をさせていただきます!!」


 バイクは相当重いはずなのだが、ソラリスはぐんぐん押して歩いていく。


「まあ、いざとなったら我輩が戦いに出て奴等を蹴散らして・・・・・」

「まだ言っているのか、お前は!」


 したり顔で頷く葵はほっておいて、俺は何気なく振り返った。

負けるわけがないよな・・・・・・・・・

俺は何度も自分に言い聞かせるように呟いて、村人が集まっている筈の中央広場へと向かった。
  













<第二章 ブルー・ローンリネス その7に続く>

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