Ground over 第六章 スーパー・インフェクション その14 難所






 思わぬ形で遭遇したナズナの森の盗賊達を全員残らず縛り上げて港町まで護送、役所へと引き渡した。彼らには手配がかかっていたので、高額ではないが金を受け取る。

以前は河路が長雨で閉鎖されていた為盗賊達も野放しにしていたようだが、今は問題も解決して開通されたので新しく手配がかかったらしい。流通の活性化に、盗賊の存在は邪魔になるだけ。

俺にとっても盗賊達は目的の障害となるので、一石二鳥だったと言える。障害を排除した上に、資金も手に入った。加えて、頼もしい仲間達とも合流出来ている。


「……つまり、私に講師になれと言うのか?」

「少しの間だけ、指導をしてやって欲しいんだ。こいつと一緒でかまわない」

「ふーむ、悩みどころではあるな。吾輩としては、旅がてらモンスターと戦ってレベルを上げて行きたかったのだが」

「ロールプレイングゲームじゃあるまいし、お前のレベルに合わせてモンスターが出てくるとは限らないんだぞ。このナズナがたまたま、見習い冒険者の修行に適した地方なんだ。
長期的な計画ではないにしろ、ある程度は日数もかかる。その間、腰を据えて修行すればいい」


 葵やカスミと合流した俺は、改めて自分の計画を打ち明ける。今回一人一人目的が違うが、俺の計画に適した役割分担を定めている。

目的が違うからといって、何も別行動ばかりする事もない。要は彼らの目的に見合った指示を出せばいいだけの話。計画は既に練っており、動き始めている。

とはいえ、俺は科学者であって指導者ではない。これまで勉強も実験も一人で行ってきた分、他人との共同には不慣れな面もある。だからこうして、話し合う。


「"蒼い目"のファイターラビットを餌にヤブガラシ村へ冒険者達を誘い、村に人を集めるのが目的か。活性化に繋がるとは限らんぞ」

「村を活性化させるのは、村人の役目だ。あくまで、俺は機会を生むだけ。生かせないのならそれまでだ」


 村おこしとはそもそも、各地方において経済力や賑やかさを向上させるために行う活動だ。地方を振興させる事で、村の活性化に繋がる。

ただ活性化には当然、肝心の村人が元気でなければならない。精神的な病、現代病にかかって引き篭もった今の彼らではすぐに消沈してしまうだろう。


まずは、固く閉ざされた扉を開かなければならない。


「報酬10000という高額な賞金であっても――いや高額である分、信憑性を疑うだろう。見習い冒険者とはいえ、無垢な者ばかりではない」

「葵さんや、異世界の冒険者様にかの名言をどうぞ」


「"宝くじは、買わなければ当たらない"」


 名言どころか単なる俗語なのだが、俺の作戦の意図を悟って得意満面に言う葵にカスミは目を白黒させている。こういう感覚は、庶民でなければ分からないものかもしれない。

案内所に登録されている冒険者全員が常に忙しいとは限らない。ハローワークと同じ、案内所はあくまで仕事を紹介するだけだ。

冒険者の全員が全員、仕事に合ったスキルを持っているとは限らない。見習い冒険者――俺達の世界で言う職歴無き未経験者が、仕事にありつけず困っている。

港町が発展すれば仕事だって増える、食うには困らないかもしれない。だが、仮にも冒険者が冒険以外の職に就いても到底満足出来ないだろう。


そして此処は異世界、我が祖国のように教育制度や就業施設も充実していない。冒険者案内所でも聞いた話だが、多くの見習い冒険者が仕事を探しているらしい。


胡散臭い高額の賞金、存在も疑わしい賞金首。徒労に終わるのだとしても、追い求めなければ決して手に入らない。彼らはきっと、賞金を出しているあの村へ訪れるはずだ。

ワールド・ワイド・ウェブシステム概念を利用した人脈ネットワークで、街中に情報は張り巡らせている。


人間インターネットの情報伝達力なら、急速に広まるはずだ。科学に、敗北はない。


「そうして集まってきた冒険者達を、私が短期間で指導する。喜ばれるかどうかは別にして、有料にするのは何故だ?
冒険者案内所では同じく短期間だが、無料でトレーニングコースを行っている。金を取ってしまうと、良い評判は立たないぞ」

「これも案内所で聞いたけど、そもそもトレーニングコース自体それほど評判は良くないんだろう?」

「私も受講したことはあるが、確かにそれほど得難い経験とはならなかったな」


「所詮無料だからな、教える側だって提供出来るものは限られる。全員の面倒を見てやれる余裕もないだろう。
こちらは有料だが、金に見合った技術や知識を提供する。それに何より、金を払う分受講者だって必死で修行するだろう。無駄金にしたくはないだろうからな。

それに、試験制度も設ける」

「試験制度……?」

「試験に合格すれば受講料を割引、そして仕事を斡旋する。肝心の試験は、ナズナの森のモンスター退治なんていいかもしれない。
あの森のモンスターを退治できる実力が身につけば、仕事にもありつける」

「――なるほど、既に案内所とは事前に話をつけているのだな」

「おっ、よく分かったな?」

「お前との付き合いも、いい加減長い。この程度の根回しくらいは、お前なら考案した時点で既に実施しているだろう」


 先程案内所に行って所長に相談したからな、実際。異世界に馴染んだつもりはないが、カスミとの人間関係はこうして通じ合えるほどには長くなっているようだ。

正直、事業と呼べる程の計画ではない。村おこしは自分の祖国でも各種自治体で行われてはいるが、どの地方でも有効と呼べる決定的な策というものなんてない。

成功例も俺の知る限りでは少ないし、大きく成功した事例なんてそれこそ滅多にない。時と場合による運も大きいらしい。

地方の特色や地域産業等をもとにした独自的な施策が一番分かりやすいが、あの村には個性がない。だからこそ過疎化が起きて、村人が生きる気力を失っている。


科学者である俺が売り出せるものといえば、技術と知識。この村おこしでは、その二つを目玉にして売り出していく。


「話は分かった。この村おこし――お前の知識と、私の技術が売れるかどうかに成否はかかっている。この私に、お前の計画を託せられるのか?」

「勿論だ、俺はあんたを信頼している」

「……」


 逡巡なく明言した俺に、カスミは真摯な表情で頷いた。科学者は基本的に孤独ではあるが、人が在っての技術と知識である事も承知している。

科学の発展、その礎となるのは人だ。人無くして、発展などありえない。此処が異世界出会っても、俺は科学者としての矜持を捨てたりはしない。

相手が冒険者という科学者とは異なる存在であっても、必要となれば信じて託す。自分自身の知識と技術に自信を持っているからこそ、相手に預けられるのだ。


「葵、お前は彼女の一番弟子だ。当然集ってくる見習い冒険者は、お前を目標とする。お前には、広告塔となってもらうぞ」

「他ならぬ吾輩を村の宣伝とするとは、友も分かっているではないか。そういう事であれば、喜んで引き受けよう。俄然、やる気が出てきたぞ。
日々研鑽を惜しまぬ友に負けぬように、吾輩も結果を出そうではないか」


 村おこしのCMは基本可愛い女の子がポイントなのだが、冒険者に売り出すには屈強な男がいい。英雄気取りの男であれば尚の事、己の見せ方も心得ている。

これならば、葵の目的とも合致する。この男が強くなる事で宣伝材料となり、俺の目的とも一致する。歯車は見事に噛み合わせられた。


後は結果を出すのみ――目的を合致させた俺達は再びパーティとなり、問題の村へと向かった。












































<続く>






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