わたし、高町なのはは最近よく聞かれる事がある。

ヴィヴィオの学校関係で保護者会に行けば必ずといっても良いほどある質問をされる。

職場である教導隊では、そこまで露骨ではないがやはり同様の質問をされてしまう。

正直煩わしいと思わなくも無い、この事を話す人の感情は興味七割心配二割

一割……非難……

話題の内容は、ヴィヴィオのお父さんについて……










「はあ……」

教導隊のオフィスは珍しく人がいなかった。

比較的、教導先と比べて綺麗なオフィスは、各員の机にある私物のおかげで殺風景ではない。

それでも人がいないというだけでどこか寂しい。

いや、いない訳ではない。今わたしが目を通している資料を作成した人がいる。

ただその人はわたしの隣ですーすーと寝息を立てているだけで。

日本では珍しくもない黒い髪を短く切ったそれに触れるとくすぐったそう。

ちょっと楽しいかも。

触れると「ううん」ってうねるその反応が。

「人の気も知らないで……」

不満と安心が混じって苦笑になる、本当どこがいいところなのかな……

ペンを机と頬で挟んでいるから起き上がりは中々愉快な事になりそうだ。

机に仕舞った膝かけを風邪をひかないようにケイスケにかけてあげた。




            ケイスケの機動六課の日々 なのはEND バージョンすりー








『高町さん、失礼ですが旦那様は?』

必ずと言っていいほどこの言葉で始まる話。

『いえ、わたしだけです』

大抵はこれで終わる話題だけど、それで終わらない人もいて、そういう人に限って。

『いけませんよ、父親と母親が揃って初めて家族と……』

『あの、一応恋人というかそういう人が』

『あら、どんな人?』

これが大抵の流れ。

そこできちんとケイスケ君の事もちゃんと言う。

わたし自信、少し流された感じはあるけど、ケイスケ君とこうなったのは後悔は無い。

だけど……












『失礼ですが、何故そんな男と』

はぁ……

よく我ながら怒らないよね、自分でも感動するくらいだよ。

押し付けられるこんな人でないと駄目だって決めつけ。

そこまで言うなら何故席を入れないなどの追求。

見合い写真を持って来た人には本気で撃ち込んでやろうと半ば思った。

それに思い止まったのは、わたしが彼の……












「ん……ごめんなのはさん、終わった?」

まぶたを擦るケイスケ君の頬にはクッキリとペンの跡が。

ダメ、まだ笑っちゃダメ……

顔洗ってこいと促して後ろを着けて

「なんじゃこりゃー!?」

アハハ、成功、大成功。
















「今日のご飯どうする?」

和食かなー? と相槌。ケイスケ君はじゃあ何処で買うかと色々考え始める。

ケイスケ君の良いところか……

何故ケイスケ君なのか、何処がよいのか。

そんなところをパッと出すことが出来なかった。

もちろん、言い出した人みたいに収入やら誰々に似てるとか、そんな自慢をしたい訳じゃない。

だけど……どうしてもケイスケ君じゃないといけないって事を言えなかった……

まず丁寧さは無いけどきちんと家事を手伝ってくれるよね。

まあ、ちょこーっとだけカロリーとかも考慮して欲しいけど。

それに、ヴィヴィオもよく懐いている。二人は少し嫉妬しそうなくらいに仲がよい。

元々は冗談だったパパという呼び方に相応しいくらいに。








「うにゃー!!」

「ほいほい」

自宅リビングで、ゲームコントローラーを全身で振り回すヴィヴィオを的確に最小の操作で追い詰めていく。

コントローラーの反応を明確に認識し、操作をコンボ化して

「パパー手加減してよ」

「だが断る!! 勝負の世界は非常なのだヴィヴィオ!!」

大人気ないというか同レベルなだけかも……

ご飯を一緒に食べる時の姿はまさに餓えているって感じ。

今日はわたしが作った肉じゃがとサラダとお味噌汁。

かっこむように食べるケイスケ君とお上品に食べるヴィヴィオ。

二人を見てると安心してしまう、家族的というべきだろうか? そんな中に自分もいるということが何か安心する。

ご飯の合間に付けたテレビには旅行番組が写っている。

ヴィヴィオがその旅行番組を見て、質問してケイスケ君が答える、それを興味津々と聞くヴィヴィオ。

何が悪いのだろう……この二人はこんなに幸せなのに。









いや、分かっているんだ、分かってしまうんだ……

ケイスケ君は、あまり階級というか社会的な地位とかに興味が無い。

むしろ自分の周りさえ良ければいいやって人で。

そういう社会って意味ではわたしとは対極にいる人。

六課での関係を知らない人にとって、接点そのものが見出だせない。

「なのはさんどうかした?」

え?……ご飯が止まってた。

ヴィヴィオもジッと心配そうな目で、いけないいけない。

「大丈夫、元気元気」

ガッツポーズでニッコリしなくちゃ。

二人に心配はかけさせない、これはわたしの問題だから。
















ケイスケ視点

とりあえず帰路について、なのはさんとヴィヴィオに玄関で送られる。

十分程度住宅街を歩き、自販機でコーヒーを買うと携帯が震える。

開ければ予想通りヴィヴィオからのメールが来ている。

『ママどうしたんだろ?』

なのはさんが致命的に間違えてる点、あんな対応されれば何かありますと証言してるようなもんだ。

『さあ?知らんよ悪いがm(_ _)m』

『うーん、仕事じゃないなら、わたし?』

『いや、なのはさんが判断つかんなら、他人絡みに間違い無いが……ヴィヴィオなら即(`ヘ´)してる』

具体的な原因に関しては明日以降調査するしかなかろう。

まあ、なのはさんは大抵の問題は何とかする人だ。

だけど……色々その分抱え込む人だから。

勝手にやるしか無いわな、これが。










「面倒くせ」

選んだ俺でも面倒くせ……

『とりあえず気にしとく、面倒だけど』

『それでもやるパパでした』

うっせ。そう短い返信を送って、今度こそ帰路に着いた。

ガコンと缶をクズカゴに突っ込みながら。














ふぁ……ねむ……

教導隊のなのはさんの隣の席、この配置に値段を付けたらスバルやフェイトさんはいくら出すだろ。

朝の沸いた頭でそんな事を思いつつ、今日のなのはさんのスケジュールを確認する。

飛び込みが無ければ今日もふつーに帰れるはず……

携帯端末にスケジュールデータを転送。

今日の教導予定ってなんだっけ……面倒くせえ、走ってろで終わらねえかな……

「お前、それは既に教導じゃないぞ……」

「おはようございます、ヴィータ」

「相変わらず敬語な呼び捨てだなお前」

じょーしヴィータ、恨むならそのエターナルロリ体型を怨んでくれ。

ふくたいちょーで呼ぶのが一番しっくり来るんだがな。

お子様体型の割にしっかり者なヴィータ、しかしお子様体型。

さん付けは何かしっくり来ない。

徐々にオフィスに人が増えてきたようだ、美形とコワモテしかいないここはヤ●ザの事務所。

女性比率が結構高いのだが、女子プロみたいなのもいるし。

「おはよ、ヴィータちゃん、ケイスケ君」

……ああキャットファイトだわ一番的確なのは……

しかし、なのはさん普段通りのつもりなのだろうが……

確かにしっかりとしてるし、俺みたいに眠そうでもない。

? マークを出したなのはさんに近づくと少しだけ匂いが……

うっ……少しだけクラッとした、恐るべし。

顔を左手で押さえて右手の小指で。

「ケ、ケイスケ君!?」

ええい動くな、手元がズレる。

テンぱるなのはさんの頭を押さえつけて、それでも少しの動きでサイドポニーがピチピチと手に当たる。

その感触は心地いいが、今は目的を果たそう、動かないように、ゆっくりと指でなのはさんの目元を拭う。

やっぱりな、小指には結構白いやつが付いてた。

その拭った目元の色は青。

「なのはさん、軽く医務室行ってからな」








「お前……恥ずかしくねーの?」

いや恥ずかしいよ、真面目に。

だけど、さっきのなのはさん普段しない化粧までして隠す気だったから、あの場で言わないといつもの。

「大丈夫、元気元気」

が始まるのだ。

医務室で栄養剤くらい飲んできてくれたらこっちも安心できる。

仮眠してくれればベスト、間違っても疲れた状態をシャマルせんせにばれるよりはマシ。

「ああ、シャマルはな……」

「おっかないですよね」

医務官であるシャマルせんせの堪忍袋というか核ボタンには触りたくない。

なのはさんは医務室に、ヴィータは自分のデスクに。

俺もメールチェックしてなのはさんの準備を代わりに。

「あのように高町一等空尉をたぶらかしているんですね」

……シカトしよ。

えっとデータ端末のレイジングハート用データを転送して。

内容は教導を受ける連中のバイタルデータと、次に訓練用の道具……スフィアのコントロール端末。

訓練所にあったはずだ、確か。

マップデータも持って、よし忘れ物無し。

「待ちなさい」

くそ、無視で引き下がれよオメエ。

ここ教導隊に来た時からやたらと絡む女。

どうも俺がなのはさんと絡むのが気にくわないらしく文句たれてくる。

気にくわないならシカトしてくれよ、その方が互いの精神衛生上、有意義だろ。

ヴィータが平気か?って目を向けて来てる。それに問題無いと小さく頷く。

なんつったけコイツ……青い髪をロングにしたその姿はギン姉さんを少しだけ連想させるもの俺の精神を苛立たせる。

だけど姉さんの親しみのある表情はこの女からは感じない、感じるのはただ一つ。

疎ましさだけだ。

「フローター曹長、申し訳ありませんが時間が押しているので失礼してよろしいですか?」

「フローラです、陸士。話はまだ終わってませんよ」

うっせーなー、別になのはさんが恋人作ろうが情夫囲おうがお前に関係ねーだろうが。

俺の勤務態度に身嗜みからハンカチの有無まで至る小言。

言ったな!! お袋にも言われた事無いのに!!

「聞いているんですか陸士!!」

ボケのネタにするくらいはな。










「ふぁ……」

ねむ……、欠伸をむにゃむにゃと噛み殺しつつなのはさんの教導を見ながらデータを取る。

端末にはレイジングハートから戦闘データが送られ、それを元にして表計算ソフトを更新していく。

青空の下、パイプ椅子に座ってカチカチ打ち込むのは中々シュール。

えっと、11:21:05エイフマン一等空士撃墜、原因:回避ミス。

11:25:25イム二等空士撃墜、原因:防御魔法選択ミスっと。

基本的に教導隊なんてところで俺にできることなんてほとんど無い。

だから業務は基本なのはさんのサポートくらいになる。

俺が銃火器をある程度使えると言っても、各世界から集まった戦闘技能のエキスパートが集まる教導隊にはそれ以上の銃器爆発物専門家もいるのだ。

どちらにしろ、中途半端な俺ではその分野においても力になれない。

そうしていると端末に個人チャットが立ち上がった。

誰だよと思えば、今まさに目の前で飛んでるのからだ。

『ケイスケ陸士、よろしいですか?』

こうも丁寧なのは知り合いに滅多にいない、そういう意味ではレアな人である。

『ん、平気ですよレイジングハート』











なのはさんは相変わらず模擬戦闘中、記録転送も稼動中。

にも関わらず同時進行でチャットを行える、そのくらいレイジングハートというデバイスは高性能だ。

六課隊長陣のデバイスはとにかくAIの成熟度が高い。

インテリデバイスの価値は稼動歴で決まると言ってもいい。

リイン曹長は別格として、十年も現役で居続けたデバイスってだけで価値は別格だ。

それでいて本体も度重なる改修を受けて最新モデルと比べても上位のスペックを誇る。

ついでに価格も。

インテリデバイスは古いベテランのコアユニット程価値がある。

しかし、逆に言うと最新のパーツと規格が合わない事も多い。

地球風に言うと、SATA端子が無いとか478コアとかスロット1のマザーボードって感じだろうか。

生産ラインが減れば価格は高騰する、工業製品の宿命と言ってもいい。

そうなったらユニットを新型に移設するしか無いのだが、元々使い手が少ないインテリデバイス。

技術者も少ないし、費用も高い。

マリーさんとかシャーリーはその数少ない技術者なんだが……

環境のおかげか、レイジングハートはフレーム最新、AIベテランと破格のスペックを有するデバイスの一つだ。

『マスターの件ですが、お話の機会を設けていただけませんか?』

『そんなに酷いの?』

『はい深刻な問題です』

レイジングハートは逐一根拠を提出し始める。

最近の画像に診断データを張り付け、何故かSDアニメーションでヘルプまで付いて。

教導記録は相変わらずリアルタイムに同期されている。

つまり現在このデバイスは、魔力運用、データ記録、圧縮、チャット、アニメーション付き資料作成、データ転送。

これを全て同時にやっているのか……

あ、ヤバい。

『ストップ!! こっちのマシンがラグる!!』

『御心配無く、既に管理者権限まで掌握済みです、処理優先順位を変更しています』

レイジングハート―― 恐ろしい子!?










「陸士ーデータちょうだーい」

えらく軽い声を上げたのは今日の教導部隊の人だ、ほいって暫定資料を送り付けた。

ああ、なのはさん、なんか有り得ないくらいイライラしてるな。

資料のなのはさんはちょっとした時に不満がでるのか、手足の末端部分が落ち着かない。

それのせいか、ベッドに入っても中々寝付けず寝返りを繰り返している。

それでも朝はキチンと起きる分は流石だ。

……でもいいのかこんな画像送って……なのはさんの許可なんか下りてる訳無いし。

『何を今更……マスターの寝相など見飽きてるでしょう』

『黙れこのオッサンデバイス』

『訂正、わたしの人格ベースは女性体です』

めちゃくちゃどうでもいいな、その情報。








「陸士ー、レポート何書けばいいのー」

「長所を伸ばす方向がなのはさんの好み」

ついでに本人の評価資料の原案を送り付ける。

どうせ俺が作った叩き台だから構わん、なのはさん修正で色々変わるし。

あ、最後の一人が墜ちた。記録記録。

『相変わらず同時進行ですねあなたは、マルチタスクも無いのに』

『ネトゲしながらチャットすればこのくらい普通だ』

別のチャットの話題を書いたりする誤爆も普通にやるが。

新規ゲームのオープンチャットはログ流れが激し過ぎる。










『それはそうと申し訳ありませんケイスケ陸士』

『はい?』

『誤爆しました』

……はい?

大事な事なので声にも出しました。

目の前にふわりと影が降り立つ。

顔を上げにくい、というか上げたくない。

「…………」

む、無言ですよセンセー!!

ああ、背後でデータを受け渡したやつが逃げたのが分かる。

あのやろう、後で筋●バスターだ。

「な、なのはさん?」

「……ケイスケくん」

出来てる分のデータを渡しても無言である。

レイジングハートのディスプレイデータを次頁に移すのも心なしか遅い。

「お疲れ様……」

この一言にそら恐ろしくなったのは俺だけだろうか……












なのは視点

……なんでよりにもよって今日やらかすかな……

視点が気が付くと足元に落ちる。

前を向こうと姿勢を直すけどすぐに落ちる。

……別にさ、何かして欲しいとは言わないよ。だけど。

せめて……今日は評価を落とすような事はしないで欲しかった。

『マスター、陸士は』

「分かってるよ」

分かってるんだ、レイジングハートは、わたしがこんな状態だからケイスケに声をかけた。

わたしが……









そう、例えばはやてちゃんがわたしの悪口を聞いたなら、何を言われても受け流すと思う。

その後で散々愚痴を話してすっかりするんじゃないかな。

フェイトちゃんならそもそも迷わず反論したと思う。

例えはっきりとした答えが無くても、好意と信頼って感情だけで。

「はぁ……」

何考えてるんだろう、わたし……

仕事しなくちゃ。

早く自分の報告書類書いてみんなが持って来る前に。

「ねえケイスケく……」





隣の席には、誰もいない。

今は顔を見たくない、何故かは分からない。

だけど、話しはしたい。隣にいて欲しい。

「はあ……」

『マスター……』

本当、何なんだろ。わたしは。













ケイスケ視点

「すみません!!」

ああ、いいよいいよとさっき話してた相手に。

まあ、自分との会話が原因だと思うよな普通。

いつものように訓練所の片付けをしているところ。

シュミレーターのスイッチを落として、使用済薬莢の回収と忘れ物をチェック。

さっきの子は……まだ気にしてるのか、顔色がすぐれない。

解散時のなのはさんは表面上元に戻っていた。

まあ、あくまで表面上。

内部はまだ色々煮えてるんじゃなかろうか。

夕日が海に沈みそうな光景、海に浮く訓練所から見るのは絶景で。









「空から見てえな……」

海鳴でなのはさんに見せてもらった光景は今も目に焼き付いている。

それ以上に、夕日に染まったなのはさんの横顔が……

「空ですか? 飛びましょうか」

「いや、いいよ」

せっかくのお誘いだが断っておく。

なんかな、なのはさん以外と見るのは違う気がする。

それよりさっさと終わらせてコイツも自分のレポート作成に戻らせよう。

空薬莢を整備課に持ち込むために箱詰めをして。

持ちますと言われるが重たいので俺が持つ。

空を見上げると、もう日は落ちて暗くなっていた。












「何をやったんですか貴方は」

「別に、ちょっとした巡り会わせの不運ですよ」

フロ……フロ曹長の追求が面倒くさい。

整備課に空薬莢を置いてきた帰りに確保されてしまった。

廊下の影になる部分での詰問はガリガリと何かが削れていく。

ああ、俺もいつもの精神状態じゃない、早いとこいつものなのはさんに戻って貰いたいのだ。

それなのにコイツは毎度毎度……










「大体、貴方自身は何故高町一等空尉に近付くのですか、何の……」

何って……そりゃあ。

なのはさん、高町なのは。

管理外世界の地球生まれ、エースオブエースなんて呼ばれる人。

六課ってところじゃなきゃ俺は一生関係を持たなかった。

関係無い人、ただのそんな人がいるって知識で終わった。

「じゃあよ、なのはさんの何知ってんだよ」

「高町一等空尉? それは管理局が誇る魔導師の鏡でその魔力、戦術あらゆる点で」

「もういいや」

有名税ってやつだよなこれ、別に俺はその辺どうでもいい。

ただ……俺は……

俺は……









呆れて、笑って、意地悪な顔して。

膨れて、怒って、喜んで。

恥ずかしがって。

ただ……








「なのはさんと、一番近くで一緒にいたいだけだ」

飯食って、テレビ見て、寝て、起きたらおはようって。

そんな風にただヴィヴィオと三人でいれればそれでよくて。

迷惑かけるだろうし、怒らせるだろうし、悲しませたりもすると思う。

それでも、その倍の倍くらい。

愉しくいられればいい、その役を誰かにやらせるとか。

「なのはさんが何だろうとしらねえ、俺がなのはさんといたいんだよ、ただそれだけだ」

じゃ、ってフローラ曹長を置いて仕事場に戻った。













何でこんな事まで話さないといけないんだよ。

耳が熱い。

無機質な隊舎の廊下が冷たいから余計に熱い。

トイレに寄り道して顔を洗っても熱さが抜けない。

ちくしょう、報告書を書く間なのはさんの方向を見れなかった。

気まずい、めっちゃ気まずい。










なのはさんの業務が終わってしまった。

帰る準備をしてしまったら無言で立ち上がるなのはさん。

困った、何がともかく困った。

時間を置いてズレて帰るというプランを真っ先に考えたが没。

というより帰る準備が終わったらこっちをジッと見られたらそんなのは無理だ。

搾り出すように「終わりました」と発言して、返ってきたのが「そう」だ。

そのまま金魚のフンのように付いてきたが。

マジどうしよう、いつもの行動パターンなら買い物してなのはさんで飯コースなんだが。

だけど今は……









電車のホームに来て、帰宅に渋滞する列車に。

グイグイ押されるのが嫌なので二人で隅に立って。

「あ、あのさ」

「何?」

冷たい突き放したような返事。

取り付く島も無いとはこの事だ、30分程度の時間をこのままってのは割と拷問なのだが。

混雑が酷くなるにつれて二人の身体は密着する、こんな状態でも角になのはさんを追い込んで壁をするのは既に習慣だからか。

グイグイ押されるとなのはさんの柔らかい部分がしっかり当たってしまう。

空気読んでないが、それでも嬉しいような気持ちになるのは仕方ないはず。

「な、なのはさん?」

また何? とか言われると反応がしにくくなる、早いとこ主題を。

「帰ったら話し、いいです」

どうにかそれだけを確約させられた。










なのはさんの自宅、近々一軒家を借りようかなどと話しているが今はマンションだ。

ドアをなのはさんに開けてもらい、荷物をテーブルに。

買い物袋から買ったものを出して冷蔵庫に。

なのはさんが着替える間にコーヒーを入れて。








10分が経過した。

あれ?

遅くない?

なのはさんの部屋をノックしても返事が無い。

「なのはさーん?」

やっぱり返事が無い、開けてみると暗い。

電気もついてない。

悪いと思ったが初めてでもないし、中に入ってみる。

デカイベッド、その上にモッコリと膨らむ影。

下着姿のままで、寝息が影から微かに聞こえる。

まあ、なんだ、ようするに。

「寝んなよ、これで……」






話し合いはどーしたんだよ、ご飯どうすんだよ、風邪ひくだろ。

色々文句が浮かんでは久しぶりに見た平和そうな寝顔を見て消えていく。

……毛布だけでもかけるか……

押し入れから毛布を出して、身体にかけて。

少しだけ近づいて感じる体温にちょっとドキドキして。

とりあえずキッチンで飯作るか、と思ったら動けない。

「ん……」

裾、ズボンの裾が掴まれてる、細くて綺麗な指で。

……面倒くせ。







本当面倒くせ。

こんなふうに喧嘩みたいなのしてるのが面倒くせ。

ゆっくりとベッドに近付き、座り込む。

なのはさんが離さないのが悪い。

自分でもこれは無いわって言い訳で俺も横になる。

寝ちまお。

疲れてたのか、意識がすぐに遠くなる。

そのまま……














なのは視点

『まだ腹が決まらないなら言ってやる!! ヴィヴィオを奪い返す!! アンタの力が必要だ!! 手を貸せ、高町なのはぁ!!』

ああ、懐かしい声、それが何時どんな場所で叫ばれた言葉なのか思い出せない。

ふわふわとした気分が自分の思考をまとめさせない。

ああ夢を見ているんだ、そうなんとなく理解する。

乱暴で、頭の悪さと育ちの悪さが出ているような叫び声、それが心に残る言葉だった。

手を貸せかあ、女の子に向かって言う言葉じゃないよね。

でも、それがちょっとだけ嬉しかったりもしたと思う。

自分を認めてくれた、高町なのはって『わたし』を求めてくれた。

それが、それだけが。








場面が変わる





何してたんだっけ?

ああ買い物だった。

右手に買い物袋、左手にヴィヴィオ。

スーパーの野菜やお肉にお魚を二人で見ながら今晩のご飯に話し合う。

お菓子を一つまで、そう言うとヴィヴィオは走ってお菓子コーナーに。

今のうちにキャラメルミルクの材料を集めておこう。

帰り道を二人で歩いて、家の鍵を開けて。

お帰りって声を聞いて……











手が少し痺れてる、力いっぱい握りしめてたのはズボンだろう。

部屋のサイズにしてはかなり大きいベッド、間違い無くわたしの部屋だ。

ベッドにあるもう一つの重み、寝息。

わたしを抱き抱えるように横になったケイスケ君。

無警戒、無反応。それどころかぐっすりと眠っているように感じるのはどういう事だろう。

「わたしは怒ってたんだよー」

子供のころから伸ばし、今では一つにまとめている自慢の髪。

その先っぽで鼻辺りをくすぐってやると嫌そうに何時も生意気な顔が歪む。

自分の格好は下着のままでその上に毛布がかかるような状態だ。

構うもんか、散々こんなのは見せ合ったんだから。

ケイスケ君の横になり、毛布を二人で。

ヴィヴィオにするように肩を叩いて。

そうしていると何か落ち着く……











正直イライラしてた、ケイスケくんとフローラ曹長が二人でいたのは。

フローラ曹長がケイスケくんを嫌ってるとか、相性が悪いとか。

そんなのは吹っ飛んでしまった、何か不安定でフラフラして。

だけど……取り合えずああいうのは本人に伝えて欲しいのでギリギリ許して。

「でも、嫌われる気がしないんだよね……」











固いツンツンする髪の毛、そろそろ切ってあげるようかな、前髪が眉毛にかかる長さだし。

多分、わたしは今安心してる。

手に届くから、わたしが。

高町なのはがエースでなくてもいい場所に。









おおーい分かってるのかねきみー。

わたしが我が儘で、何にも気にしないでいていい場所がどれだけ数少ないかって。

まあ、分かってたらこんなにムカムカさせたりしないか……





ケイスケ君はわたしの反対だ。

ケイスケ君は何時だって自分のことを一番に考える。

自分が楽しいように、楽なように、幸せなように。

わたしは、悲しいことが嫌だったから、フェイトちゃん達みたいな悲しいのは嫌だったから。

だからこうしてきた、何時でも戦えた。

でも思うんだ、わたしはわたしが周りに悲しい思いをさせたくないと同じように。

ケイスケ君は、自分が悲しい思いをしたくないから、周りのためにがんばれるって。

自分って範囲がすっごく広い。自分の周りが悲しいのが自分の悲しいに繋がるから。

だからわたし達は反対だけど凄く似てる。

だから、堪らなく遠くて、近くて、だから。








そろそろ起きよう。

夕ご飯……はケイスケくんの当番か、お風呂くらい洗っておいてあげようか。

もうヴィヴィオも待ってるかもしれないし。

お腹空かせたら可哀想だもんね、よしっと

名残惜しいけど、ここは一気にパッと起きて。

「あ」

「あ……」

……ベッド脇、そこに座り込んだ愛娘、そして……

「ヴィヴィオー何してるのー?」

「えと、えと……ご 飯まだかなーって」

「そっかーごめんねー、で……その両手のものは何かな」

背中に両手を隠していたら何かありますって言ってるようなものだよね。

「えっと……」

「ヴィヴィオ?」








おかしいね、お話しする時は相手の目を見てやるように教えたのに。

忘れちゃったかな?

どうしたのかな?

もう一度。

「ヴィヴィオ?」

冷や汗がダラダラと、薄暗い部屋だけどそのくらい見えるよ。

ゆっくりと前に回されるのは。

裁縫針。

「ヴィヴィオ?」

「ご、ごめんなさーい!!」

うーん何故こんな事する子になったのだろうか……

取り合えず、マットの下のはもう使えないだろうな。

「むーん……なのはさん?」

はいケイスケくんも起きるのー。

今日のご飯は魚のバター焼きでした。













ケイスケ視点

……むう……一体全体何がどうなったのだろうか……

音符マークを浮かべそうなくらいにご機嫌なお姫様。

そういうにはちいと歳を重ねすぎた人。

朝の時点で変なのだ、ヴィヴィオを送り出してからの出勤時間。

歩く俺の手は重い。









「どしたのさ?」

「マーキングー」

俺は電柱柱か……

朝っぱらから元気ですね。

てかいい加減にハズいんだけど、もう隊舎の目の前まで近付いてるんだが。

「わたしね、思ったの」

「何を?」

「こーやってケイスケ分を補給しておけば何言われても平気だって」

言ってる事が意味不明なんですが……

これがなのはさんの中では理屈が通っているのだろうか?

俺にはサッパリ分かりません。

とにかく、なのはさんの機嫌は治ったと見ていいのか?

以前は隊舎どころか人前すらいちゃつくのは嫌がったのに、どういう風のふきまわしなんだ?









「おーう……」

あ、ヴィータだ、おーう。

「……あれだ、うん、なのはは風邪か?」

熱は無いと思う、多分。

一目なのはさんを見てそう判断した気持ちも分かる。

というか俺がヴィータの立場でも同じような感想を持ったことだろう。

心配になって頭を触ってみるが、やはりそんな事は無い。

「ヴィータちゃん、縄張りはしっかり主張しないと取られちゃうんだよ」

「訳わかんね……ああそういう事ね」

はい? ヴィータ何か分かったのか?

スマンが俺に分かりやすく解説してくれ。

「ようするに、ケイスケは自分のって主張してんだろ?」

「うん、そうだよ。ケイスケくんはわたしの。だからなんだよ」

……それはどういう意味合いなのでしょーか?

よりぎゅーっと握られる手の平が暖かい、いい加減俺の体温が上がってる。

グイッと手が引かれる、急だったから反応できなくてバランスを

「ちょ!?」

「わたしの安心できる場所なんだから」

そう、すぐ側で、満面の笑みで、宣言された。











後書き

何となく書いてしまったなのはIFのバージョンすりー。

あれ? なんでこんなメイン的扱いになってるんでしょうなのは。

恐るべしヴィヴィオという名のフラグ!!



それでは失礼します。








追記 拍手は出来るだけあて先を書いて送ってください。
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作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。