注意どのENDでもありません。



ケイスケの機動六課の後のクリスマス




空が赤い。

同時に凍えるような寒さが布団の中にまで進入してくる。

ジリジリと不快な大音量を発している目覚まし時計引っ叩き時間を確認すると、まだ7時。

つまり空を染めているのは夕日ではなく朝日ということになる。

首元から進入してくる冷気を体を丸めて遮断すると二度寝の要求がもくもくと首を伸ばして。

ベクションとクシャミを出したせいで目がしっかり覚めてしまった。

「う〜さむ……」

そろそろ起床しないといけないのだが、心地よい温度を持った毛布から逃れられない魅了攻撃を続行中。

それに頑張って耐えて素足を床に着けると、冷えた外界から暖かい布団界に逃げ込みたくなる衝動に駆られる。

しかし、スヌーズ機能によって復活した目覚ましの音は徐々に出勤時間が迫っていることを一々告げてくる。

仕方が無いと、冷蔵庫から牛乳、パンを収めた食器棚からロールパンとバナナを取り出し。

布団に包まって食べた。

気分は冬眠中の熊、喉を通る冷えた牛乳は、残念ながら寝ぼけた頭を覚醒モードに切り替えさせる。

似合わない、そう言って憚り無いスーツに着替え、寒さ対策にマフラーとコートと手袋を。

懐炉まではいらないだろう、部屋の鍵を施錠し。

「へくし」

変だな、クシャミが止まらない……というか寒いな。

電車に乗り暖房が体を温めてくれる。

ああ、気持ちいい……








はて、なんで乗った時の駅なのだろうか?

普段朝乗り込むホームが電車の窓越しに見受けられる。

時間を確かめると

「ちょ!?」

2時間近くが経過しており、端末には数回の着信履歴が残っている。

急いで立ち上がる あれ?

クラっとして気がつくと床に手を着いて倒れてしまった。

暖房の中にずっといたはずなのに、床の温度すら暖かく感じるほど寒い。

自分の現状を冷静に観察しなおし、それで出た結論は。

これは……やばいかも。







『そか、暖かくして安静にするんよ』

「すんません」

はやてさんに電話して、病院に駆け込んだ。

診察結果はウイルス疾患、所謂インフルエンザ。

病院でオマケとして受け取ったマスクを当てて、はやてさんに報告した時の会話である。

どうりで寒い筈だと原因が判明して一安心。

『しっかし、間が悪いなホント』

「まあ仕方ないじゃないですか」

『それはわたしが言うべき台詞と違う?』

ボーっとしつつも受け答えできる、はやてさんとの会話は半ば脊髄反射で行っているからと思われる。

自覚すると頭痛と熱でこれでもかと不健康状態なのが分かる。

今日は家に戻りぐっすり眠るしかないだろう。

『ホントに、今日は……』

そう、今日は12月24日。

クリスマスという時期だった。










病気の休み、普段はこないかなーなんて思いながらも、いざとなると冗談じゃないと思う。

まあ、お約束というものだろう。

しかし、一人暮らしという状況に置いてはこの上なく洒落にならない。

「うう……」

痛む頭を手で押さえる、ほんの少しだけ楽になった気がする。

炊いてあるお米に水をぶち込みレンジでチンと。

流石に風邪初日に玄米からお粥を作る気力は無い。

碌に味など気にせずかっ込み、薬を常温にしたポカリで飲み込んだ。

最低限の体の調整が済み次第、ベッドの中に潜り込む。

後は眠気に従って眠ればいい。

とはいえ、近所の借金取りのスピーカー、それに対抗する隣の奥さんの文句。

聖王さまが世界を救ってくれます、甦りますだのと放送する街宣車。

くらくらとそれだけで上下不感覚に陥ってしまう。

外の音を切ろうと入れた音楽も逆に頭痛の種だ。

「あーもううるせー」

普段の体力なら大声で文句を喚くところだが、今の俺の声は玄関に届いたのかも怪しい。

早く意識が飛べばいいのに……

そう切に願う。













意識が戻ると最初に目に付いたのはやはり赤い光だった。

ただし、今回のものは部屋の外の照り返し、ようするに夕日。

どうにか起きるまで地獄のようだった頭痛は部屋の中で活動する分には我慢のできるレベルに落ち着いて。

「誰か、いるのか?」

物音がする、隠す気など無い時点でどうせ知り合いの誰かだろう。

引き戸の先の板の間にあるキッチンスペース、というか通路にキッチンがあるような狭さだが。

そこに影が映る、随分と小さい。

誰だろう、流石にまだ本調子じゃない俺の脳は答えをはじき出してはくれない。

「あ、パパおはよー」

パパじゃねぇ、と言いかけて出なかった。

ヴィヴィオ、現在教会の学校に通う小学生。

管理局の中でもエースと名高い高町なのはさんの義娘にして、何の因果か俺を父親と見る女の子。

ロングの髪にピコンと左右にリボンで結んだ束を垂らした変則ツイン。

その少女は、その両手に花柄の鍋掴みをはめて。

鍋を持っていた。










ニコニコと見つめられながら丼に入ったお粥を口にするがこんな状態では食が進まん。

というより明らかに五百グラムはあるのを食べるのはキツイ。

味は無いし、バリバリと歯ごたえタップリ。

むしろ消化に悪いのではなかろうか……

最後の一口をかなり限界気味に飲み込む。

頑張れ俺負けるな俺。

冷えたせいか、歯ごたえがバリバリにクラスチェンジしても負けるな俺。

「ごっそうさん、不味かった……」

「そ、そこはお世辞でも美味しかったって言うんじゃないかな……」

アホか、んなこと言って方向性を間違えたまま大惨事を撒き散らしたらどーすんだよ。

「うう相変わらずスパルタなパパ……愛が欲しいよ」

煩いだまれ、病人に生米を食わせるような人間にはこんなもんで十二分だ。

「あ、まだ熱があるんじゃ」

立ち上がろうとしたところでヴィヴィオの静止が入る。

それを無視してベッド下をゴソゴソと……

「にゃにゃにゃにゃにゃ、と、突然にも処理を始めようとする父、ヴィヴィオはどーしたら!?」

何を考えている何を……

合成樹脂で出来たハードケース、中には色々と入っているが目標物は縦に配置してある。

それを袋から取り出し、一つを俺に、一つをヴィヴィオに。

「ほれ付けろ……」

鼻に当てて針金を折り曲げる、それで空気が上には逃げにくく、かつフィット感も向上。

風邪のお供のマスクである。

「ほえ」

「風邪うつるから今日は帰れ」

また今度遊んでやるから、一人暮らしのアパートは所謂1Kだ、俺を隔離しておく部屋も無い。

そういうわけでこの小娘を置いておく場所も無いのだ。

流石に子供に風邪をうつすのは忍びないし、何よりなのはさんとフェイトさんに悪い。

まだ学校に楽しんで通っているヴィヴィオを休ませるのもよろしくない。

「つ、ついにパパのデレ期がきた!!これで勝てるよ」

誰に勝つんだよこのクソガキ……

「とにかく帰れ、どうせなのはさんが家でケーキでも用意してるんだろ?」

喫茶店の娘であるなのはさん、魔導師だなんだとやっているがお菓子作りができるのは変わりが無い。

とはいえ、出来自体は桃子さん曰く、まだまだ店には並べられないとのこと。

しかし食べる分にはその辺のチェーン店ものに比べたら十分に美味しい。

以前ご馳走になった時には美味しくいただいた。

そして今日は地球で言うところのクリスマスイブなる日、鶏肉とシャンパンで飲み食いしてしめにケーキを食べる日。

そして










「早く帰らないとサンタがこねーぞ」

「やだなーパパ、其れは元々ニコライってママの世界の聖人の伝承だよ?」

えっらい可愛くない回答だった。これだからインテリは!!










後でまた来ると言ったので来るなと返事。

周囲からの騒音も止んでいる、今のうちに眠ろう。

最初は冷たい布団だけど、体温が移るうちに暖かくなっていく。

瞼が重い、薬が効いてきたみたいだ。

ベッド下に置いてあるペットボトルから水分を補給。

寝よ……












またまた空が紅い、今度は朝日だ。

時計を確認すると7時。

確かヴィヴィオを帰したのが5時過ぎだったから半日以上眠っていたということになる。

頭が痛い……頭痛はまだ治まっていない。

外は寒いが布団の中は暑い、こうなるとどうしようもない。

汗を掻いてれば熱も早く落ち着くだろうと思い込んで無理やりにでも眠ろう。

一応脇の下と頭を冷やしていたパットを交換したほうがいいかもしれない。

救急箱をまた開けて

「寝てるかなあ?」

ガチャリと玄関を開けてまたやってきたよヴィヴィオ。

今度はちゃんとマスクをしているようだが。

どっちみち帰すべきだ、まだまだヴィヴィオの体は幼いんだから。

「あ、着替えるの? 手伝う〜」

着替え? ああ俺パットを交換するから上着を脱いでいたんだったか。

靴を脱ぎ散らかしてペタペタとやってくるが。

「帰れ」

「体拭いた? 調べたんだよ、汗掻いてるんだから濡れたタオルで」

「真面目に帰れ」

ピッシリ言っておく、何度も言っている、こいつにうつすわけにはいかないんだから。










「でも……」

寂しそうだし、心配そうな顔をしているヴィヴィオ。

だけど、今はその我侭を許していい状態じゃない。

反射ストーブの上に置いたヤカンに水を補充して湿気で部屋を満たして。

下着も交換したほうがいいかもしれない、汗だくで気持ちが悪い。

飯どうするか……いいやレンジで……











「あ、汗拭く」

「だから、うつるから近寄るな」

「やだ」

って待ておい、タオル置き場から一枚を取り、それを水に濡らして。

何処で覚えたんだか、濡らしたタオルを魔法で加熱して近づいてくる。

「ちょ、おい」

「ふっふっふよいではないかよいではないか」

「何処で覚えたんだよそんな文句!?」

「いいんだよ、ヴィヴィオ聖王、偉い人、パパ町民。ほら問題なし」

有り過ぎるわ!! 都合のいい時だけ聖王になりおって!!

普通の女の子はどーした!!

ああ、まて、よせ、脱がすな!!

半脱ぎ状態でしかも汗で張り付いたシャツが引っ張って動きにくい!!

「ええい、うぶなねんねじゃあるまいし、ところでうぶなねんねって何?」

「……自分で調べて下さい。って待て下は本当に「ケイスケ、ヴィヴィオは……」あ……」










金色の閃光に目を焼かれ、突風が襲ってくる。

気がつくと背中を床につけた仰向け状態、ただし服は半脱ぎ。

「フー!! フー!! フー!!」

ヴィヴィオは部屋の角っこにて黒くて白い、そんな矛盾した存在に抱きかかえられている。

久しぶりだなあ、暴走フェイトさんは。

「ケイスケ……一体何を……」

「えっと」

「いや!!聞きたくない!!」

どっちだよ。









真ソニックと、やたらとエロい格好、尻が半分くらい見えるくらい。

ヴィヴィオを庇うように俺に背を向けているので視界はごちそうさま状態だ。

「ヴィヴィオがヴィヴィオが……看病をしている時にここを触れとかそんなとこを
……あまつさえ●●●を●●して●●●な●●●を●●●して●●を●●させて●●●
なんてことを言って●●した●●●をそしてとうとうヴィヴィオの●●●に……」

……

……










「フェイトさん……」

「フェイトママ……」

生暖かいというより、呆れの混じった視線、しかしフェイトさんは止まらない。

このまま行くと何処まで行くのか少しだけ興味がわいてくる。

こういう場合どうしたらいいのかな? 笑えばいいのか?

こう、わっはっはっはっはと。

「ヴィヴィオはお嬢様学校の生徒としてクスクスと笑うよ」

それは陰険なのか微妙だな。





キッチンルームに二人を追い出して、自分でタオルを使って拭いた。

フェイトさんを正気に戻すのはヴィヴィオが受け持つ。

しかしヴィヴィオ、顎に真下から真上に打ち抜く掌底は危険だからツッコミには使ってはいけない。

「ご、ごめんね、本当にごめんね」

いや、慣れてますんではい。

フェイトさんは黒い執務官服をに戻ってしまった、ほんの少し残念と思ってしまった。

ヴィヴィオの瞳がキュピーンと光を放った気がするが、特に他意は無いんだぞ。

着替えと汗を拭いたから少しだけスッキリした、寝苦しいのだが、それでも少しだけマシ。








「じゃあまた寝ますんで、ヴィヴィオ連れ帰ってください、今度こそ」

「うん、病気じゃ仕方ないもんね」

うんうん、フェイトさんは流石に物分りがいい。

うっ、喉が。

ゴホゴホと咳が、タンまで出た、マスク交換しねーと……

「だ、大丈夫?」

「平気、全然平気だから、寝てれば治るから」

こういうとなんだが、俺は結構体力はある方だから治るのも早い。

ガンガン寝て、水分とって薬を飲んでればそれで治る。

だから早いところ二人を帰した方が。

「フェイトママ、パパ冷えちゃったんだよ暖めないと」

「え、じゃあ毛布持ってきて」

「ママこういう時は人肌がいいって本で読んだよ」

「……よし!!」

「よし、じゃない、いやそれは止めて本当に止めて」

何かは知らないが、その選択肢は強制ルート行きな気がする、逃げられないレベルの。

ヴィヴィオ、てめえ何小さくチッって舌打ちしてやがる。








フェイトさんがうどんを煮込んで行ってくれたのでそれを夕飯にする。

ヴィヴィオはちゃんとフェイトさんが連れて行ってくれた。

確か今年の風邪に関する手引きでは熱が引いてから三日間ほど空けるようにあったな。

年末の忙しい時期で悪いことしたが、俺の分なら他のメンツでも何とかなる量だ。

万が一はやてさんが俺を死亡させる量を追加してたりしなければ。

ああ、後ヴィヴィオのやつにプレゼント渡せなかったな、少し残念かもしれない。

朦朧としていたから気がつかなかったが、今日は既に25日だ。

まあ、それはフェイトさんとなのはさんがやってくれただろう。

なのはさんには何処の店に予約しておいたのかは伝えてある、勝手に取りに行って渡してくれたと思う。

手間を掛けさせてゴメンとメールだけでも打っておいた。

「寝よ……」

今俺にできることは一刻も早く身体からウイルスを駆逐すること。

それには眠るのが一番なのだから。

ミッドでは聞こえるはずの無いクリスマスの歌。

地球組から教えてもらったそれが何故か耳に届く。

本格的に眠気が来た、この歌は、悪くない……









真っ暗だ。

時間を確認すると23時、中途半端な時間に起きるということは、大体復調したってことだと思う。

頭痛も大分引いた、熱を測ると少し高い程度に。

といっても感染症なんだから、それで外出来客制限が無くなるわけじゃない。

「暇」

そう、この時間が辛い、眠りすぎて眠くなくなり、かつ体調がほぼ治った深夜が。

真っ暗な部屋の中、なんとか手探りで電気をつければ見慣れたいつもの部屋。

食べた後、洗い物をしていないからシンクに食器が溜まっている。

鍋等の調理器具に関してはフェイトさんが洗って行ってくれたのか、干して定位置。

軽く食器をスポンジで拭いて水洗い。

ついでに畳を箒で掃いて掃除。

そうするともうすることが無い。

「流石に食欲までは復活してないからなあ」

多分明日になれば食べたい欲求が復活するだろうけど、今はまだその状態じゃない。

第一、トロトロになった炭水化物系じゃないと食べる気が起きないだろう。

テレビでも付けるか、そう思って定位置のテーブルに目を向けると、一緒に置いてある端末が点灯している。

なんだろ。

何時もの広告メールだと思って展開、新着メールが二件と表示されている。

やっぱりな、確認すると送信者が

なのは隊長、ヴィヴィオ。

そういえば登録時に隊長とか六課の状態のままだったことを思い出す。

とりあえずなのはさんから。







……はあ仕方がない……

メール本文を閉じてある番号に。












「もしもし、ヴィヴィオか?」

「パパ!? どうしたの急に」

良かった、まだ起きてたか、高町家の就寝は早いから日付変更前でちょっと不安だった。

なのはさんに電話してから、ヴィヴィオに電話許可をとって。

それで電話をかけたんだが。

「パパ早く寝ないといけないんだよね? 大丈夫?」

「ああ、それより悪かったな」

「ううん、心配してくれたからだよね? だから」

「そっちじゃなくてな、昨日今日行けなくて」

ホエ? ととぼけた声が電話越しに響く、こっちがなのはさんと連絡とったのを知らないのだから当然か。

「ケーキ、ヴィヴィオが焼いたんだろ」

「なんで知ってるのーーー!?」










そう、なのはさんに連絡して教えてもらったこと。

『今年のはヴィヴィオが焼いたんだよ、一週間くらい練習して』

『そ、そうだったのか』

『うん、みんなに食べてもらうって、だけど風邪だからね、しょうが無いよ』

『ごめん、今食べたら多分……』

『分かってるって、でもすっごい残念そうだったから、今ならまだ起きてるはずだよ』

『うい、夜更かしは大目に見てくれる?』

『クスクス、うん今日だけ特別』






とまあこんな話をしていたのだ。

「えっと、えっと……」

だから昨日今日随分と構ってきたと思ったら。

「治ったらまた焼いてくれ、今度はちゃんと味見させてもらうからな」

一拍いやそれ以上か息を飲んだのが聞こえてしまった。

もうすぐ日が変わる、いうなら今のうちか。

「ギリギリだが、メリークリスマス」

「うん、メリークリスマス!!」







あとがき

ちょっとギリギリですがクリスマス話です。

何となくヴィヴィオメインの話となりました。

今回はどのルートでもなく、誰とも付き合ってない状態となっております。

そうなると一番絡むのがヴィヴィオなんですよ。

スバル? 元々ミッドに無いイベントなので余りこだわっておりません。

それでは失礼します。








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