ミッドチルダ海上隔離施設。
隔離、なんて大仰な名前が付いてはいるが、施設自体の方針はそんなに物騒ではない。
高ランクの魔導師、及びそれに準ずる人間を都市内に収容すると不意の事態があるからだ。
ここはその中でも比較的問題の無い人、魔力が不安定だったり、対外的に見て不安だったり。
そんな人が入る場所である。
空が見えるガラス張りで採光がキツイくらいの部屋。
足元には芝生があり、室内公園と言うべき場所はとてもじゃないが隔離施設の名前とイメージが一致しない。
そんな場所にホワイトボードを設置した我が姉貴分、ギンガ・ナカジマの授業風景は青空教室としか表現できなかった。
見学する俺、ケイスケ・マツダ。
ナンバーズ達の授業風景は、一応、一応真剣風。
しかし……
「うーし、終りーノーヴェ、サッカーするっすサッカー」
「おい、引っ張るなウェンディ！！」
「お、アタシも行くー」
ナンバーズの中でも明るい側の三人が姉さんの講義が終わった瞬間に飛び出していく。
それを追うのがチンクで、オットーは読書室に、一緒なのはルーとアギト。
気をつけるように姉さんが一言言って機材を片付けて。
ディードは何故か俺んとこに……
「何故来る」
「メイドですから」
会話になってねー気がするんだが気のせいか？
俺もいつもなら直ぐに部屋に帰るか元気組に引っ張られる。
だからこれは偶然だった。
ふっと一人出て行かない奴が一人いた。
栗色の髪の毛の下、少し眠そうな顔が覗く子。
その子は一人で機材が無くなった露天教室の片付けをしていたのを見たのは。
ケイスケの機動六課の日々番外編 縁の下の人と
その時からちょっとだけ彼女を観察して見た。
どちらかと言うと大人しいタイプでオットーと違い俺から逃げたりもしない。
手伝えば普通にありがとうと言ってくれる、そう、異常なくらい普通の子だった。
そうして見ると、施設の端々で色々な事をしている。
ナンバーズの洗濯した服を畳んだり、遊んだり本を読んだりした後を片付けたり、食事の配膳を手伝ったり。
そう、異常なくらいふつーのいい子なのだ。
逆に見れば……
「あははは、あ、お菓子無くなったっす、ディエチーお菓子ー」
「はい、あんまり食べ過ぎないで」
サッとお菓子を出すディエチとそれを食べるウェンディ。
散らかしたままでメンバーが去ったら黙って掃除している。
……姉さんに通報しますた。
ディエチ視点
「外、ですか？」
「そう、普通に外に出てみない？」
ギンガに呼び出されて何かと思えばこんな話、姉妹達の買い出しをしてこないかという事らしいけど。
別に私じゃなくてもいいよね。
「じゃあノーヴェ達に行かせて下さい」
みんな外に出たがってたし、みんなの方が楽しんでくるだろう。
私は特に外でしたい事も無いし。
「うーん、でもね、貴女以外だと不安というかなんというか……」
そう苦しそうにギンガは言う、そう言われて他の姉妹達のパターンを……
チンク……補導？
ノーヴェ……何かしそう。
双子……予想できない……
セインとウェンディ……
「分かった、私が行くよ」
恐らく私と同じ結論に至ったギンガが疲れてるみたいだった。
ギンガに借りた私服で施設の前に。
海からの風を防ぐものが無いから、強い風に髪が乱れてしまう。
ギンガの話では誰かが案内してくれるって話だけど、誰だろう。
外部で私を知ってるような人は六課の人間だけど……
「あー、もう来てる」
「ほれ見ろ、場所違うじゃねーか」
「えー、だってメモしたもん、ねえマッハキャリバー」
『……』
「ほれみろ」
騒がしい掛合いをしながら男女の組が近付いて。
黒髪の男、空色のショートの女。
「ごめんね、ディエチ待たせちゃった？」
「ううん、時間通りだから」
ギンガの妹で、ノーヴェと同じ遺伝子を持つスバル。
「あーワリィ、ごめん、堪忍して」
ここでは珍しい男のケイスケ。
この二人だった。
ケイスケ視点
まあ、何だな……買い出しっつーのは時間と労力がいるもんだな……
スバルとディエチを連れてデパートに、高いんだが全部揃えて移動の手間考えたら………
「あ、ディエチこれ可愛い、ウェンディにはこれかな？」
「うん、いいんじゃないかな」
まあ、なんだ。
カートがあったのが唯一の救いか……
口出すと三倍くらい文句が来るから言わないけど……
「ね、ねケイスケこれどう？」
ニットの付いたスカートまで一体のワンピースを合わせたスバル。
下にはスパッツでも合わせるんだろうか、丈が短い。
「あー、いいんじゃね？ 元気と普通の中間くらいで」
てか今のスバルの服と近いし。
シャツの形が今着てるのと、首回りが広いのが違うくらいのを持ってるのだ。
そっかーと陳列に戻すな、決めろよ今ので……
あーだこうだとディエチに話し掛けるスバルだが、ぶっちゃけ俺より語彙が少ないディエチは
「うん」とか「似合ってる」ばっかり。
それが施設全員分続く訳で……
途中何度か喫煙所行った俺悪くない。
「それでね、なのはさんが――」
「へえ」
ご飯時になって入ったのは一応パスタが出る店。
デパートの上階って所は割高で普通の味か、高いけど美味いのどっちかになる。
今回の店は高いけど美味い方のはず、多分。
一応、初めて外で食べるディエチに気を使った、スバルとなら間違なく大食いサービスの店だ。
当然だが周囲の視線は釘付けである。
スバル………のサラダボウルに！！
サラダバーも無いとこにコイツと行くほど無謀では無い！！
間違い無く今後ブラックリスト入りなのだが……
サラダボウルを重ねて球を作ったような形に野菜がこんもり盛られて、空の玉がもう四つ……
スバルも大概だが、それを涼しい顔して流すディエチも。
「ああ、クアットロで慣れてるから」
あの眼鏡なのかよ食事王は！？
香ばしい溶けたチーズの独特の香り、長い方のトマトを煮込んだソースと緑のトッピング。
付け合わせのピザカッターでゴリゴリ、端っこパリパリ。
ナイフとフォークでクルクル丸めて……丸めて……
「やってられんかー！！」
ガッと取って、ガツっと食って、アチー！！
「ケイスケ、だらしないよ」
「知るか、こうやって食うのがうめーんだよ」
最初こそディエチがどう食べるの？ とか抜かすので使ったがピザ、おむすび、寿司は手で食うから旨いんだよ。
綺麗に丸めてフォークで指すスバル、しかし実に高速。
切る掴む食うを繰り返すオレ、ディエチは手掴みを選んだようだ。
スバルはショックを受けたようだが知らん。
お返しとばかりにパスタを山と取られた。キサマ既に目的を見失ったな！？
ここに来ても、ディエチのやつは一歩引いた位置で観察するように、微笑んでいた。
「オラー！！」
荷物いっぱいでは何だからってコインロッカーにしまう事に、しかし六名分の荷物、中々入らない。
最後に買えばという意見もあるかもしれんが、百貨店は比較的閉店が早いので却下。
電車に乗るときのＩＣカードで借りるからカードロッカー？ は開く時はピって開くくせに閉まらないで苦戦させやがる。
服の弾力で、もうちょっと押せばってところで閉め切れない。
「ねーケイスケー、シワになっちゃうよー」
「うるせえ閉まらないんだよコイツ！！」
かなり力を込めているというのにドアは頑固に抵抗する。
確かに格納量をちみーっとオーバーしているが。
「半分も閉まらないのは違うと思う」
案外容赦無いねディエチさんや。
「もう、アタシがやる？」
「いやスバルがやるとシャレにならん」
どういう意味だと突っ掛かれるがそのままの意味である。
「……二つ借りればいいのに……」
ディエチの身も蓋も無いツッコミでスバルのカードでも借りる事となる。
荷物が無くなり鞄のみ持ち歩く最初の姿に立ち返った。
スバルが楽になったねーって話し掛けてそうだねとディエチが返す。
はっきりいいたい。一番荷物を持っていたのは俺だと。
お前らはビニール袋一つくらいしか持たなかったと。
だがまあ、こういうケースにおいて俺が手ぶらだと逆に周囲の視線は辛いのだが……
しかし、こうして二人並んで見るとスバルとディエチは好対照だ。
かたや明るく好意を基本隠さないスバル。
かたや物静かで積極的ではないが好意自体は表現するディエチ。
多少なりとも楽しんで欲しいのだが本人が何しろ周りを気にするタイプ。
スバルみたいに自分が何より思いっきり楽しむタイプとの相性が良いだろう。
俺はなんつーか、どうしてもどっかで計算を入れてしまうから……
そういう意味では突っ走るタイプのスバルとでよかったかもしれない。
なんでスバルを連れてきたのか、それは単純にスバルが一番気が楽だからだ。
ランスターに部隊長も気は合う。合うけど微妙に気を張ってしまう。
別にそれが嫌というわけではなく、むしろ心地好いのだが、たまにそういうのがかったるくなる時もある。
そういうのが無いスバルだから俺は無条件に信用も信頼もできるのかもしれない……
「あら？」
声が聞こえた瞬間、さっきまでの余裕は足を生やして逃げ出しました。
「さー道を変えるかー」
ほぼ直角に進行方向を転換、ダッシュ。
薄暗い路地に足を踏み入れ、一気に加速を！！
「なーに私から逃げ出してんのよ」
無駄な努力であった。
気配の気の字の一画目も無く無音で背後を取られナマモノのように首根っこを捕らえられる。
「あ、シスターさんこんにちはー」
「シスター？」
振り向きたく無い俺の代わりに的確に教えてくれてありがとうスバル。
若干だがディエチを見ての動揺を華麗に隠して。
「ハァイ、スバルちゃん」
ナンバーズⅡにして廃棄区画近くの教会孤児施設責任者。
俺が苦手とする人間ランキングぶっちぎりのトップ３。
不良堕落外道シスタードゥーエが営業スマイル百万円で微笑んだ。
四人掛のロッジ席、座る女性三人の見た目は高レベル。チラチラと彼女達には視線が注がれている。
しかしながら、ここの綺麗な華には棘では無くて核ミサイルが搭載されているのを理解しているのは残念ながら俺だけなのだ。
「じゃあ二人とも好きなのを頼んじゃいましょう」
そういうシスターの中では既に支払いは俺の財布と確定しているのは言うまでもない。
それが分からないスバルでは無いはずだが……
「やった、ご馳走様です」
覚えてろよこの野郎！！
「あの、私は……」
「ディエチちゃん、男が払う時に気持ち良く払わせてあげるのも思いやりというものよ」
流石、店どころかマンション一つポーンと買わせた女は言うことが違う。
翌日現金に換えていたが……
コーヒーを啜りながら仏頂面で賛同する以外に俺に道は無いし。
「へーディエチちゃんっていうの」
「はあ……」
何を白々しいとスバルと口には出さないで心で同意。
密偵、スカウト技能特化型であるシスタードゥーエはナンバーズの中でも特殊な立場にある。
ナンバーズの中でもチンク以降の稼動を待たずに管理局、聖王教会しかも中枢に潜んで長い。
そのためセイン以上のナンバーズは、名前と存在は知っているがそれ以外は全く知らないという状態。
おまけにシスターの持つＩＳライアーズマスクはほとんど完璧に近いため、展開中のシスターを戦闘機人と判断すらできない。
とはいえ、こうして俺達みたいに知ってる人もいるわけで。
現在堂々と表街道を歩いているのはスカリエッティが捕まっている以上何か自分で始めたりしないという判断が内部的にされたから。
それで問題が無い訳では無いのだが……
……何年もあの手この手その手あっちの手で潜り込んだシスタードゥーエ。
局教会企業問わず三桁近いスキャンダルの種を抱え込んでいるのだ……
ＪＳ事件一つでさえ局の根幹を揺さぶるというのに。
果てはＪＳ事件級から家庭崩壊まで、万事取扱ますなこの人は現在半ば放置されている。
「相変わらず底がしれん……」
「底？ あるか試してみる？」
うりうりとシスター服の裾をチラチラさせスバルとディエチを赤面させる。
ＪＳ事件の後であっても結局苦手意識は刷り込み済みで意味が無いのだろう。
多分、一生頭が上がらないのだろうと極めて明確に未来が予想できる。
「ね、ね、ディエチちゃん」
「はあ」
既に強烈なキャラと認識してしまったせいか、ディエチは押され気味。
まあ、なんだ酔っ払いにチェーンソーって神殺し振り回されたと思って諦めてくれ。
「ご家族の事、聞いてもいい？」
「へー、そのウェンディとノーヴェって子が騒がしいんだ」
「うん、ノーヴェの方がお姉ちゃんなんだけど、すぐにムキになるから」
「それでセインって子は半袖をこよなく愛すると」
「本人曰くポリシーらしくて、一度教会に行ったらその場で改造して」
あー、うん。
なんだぁ、ディエチさんはお口が軽くなったなぁ……
俺やスバルとの時とは大違い、口元に手を当てないと隠せない笑みを浮かべて。
「では大変ではありませんか？ お一人で洗濯までも」
「いえそんな……」
ドゥーエ視点
ケイスケのやつを見かけたのは完全に偶然だ。
街に施設のガキどもの衣類や自分の化粧品関係を買いにきた帰り、ふっと見かけただけ。
スバルちゃんは予想通りだが、もう一人の連れには流石に驚愕し、偶然を聖王陛下に感謝した。
とりあえず今度ヴィヴィオにケーキを食べさせてあげよう。
ディエチ。私の直接の面識の無い姉妹の一人を連れているという偶然。
顔を知らない訳では無い、既に捕まったドクターやナンバーズ全員の顔を見てある。
だが見るだけ、話までは流石に出来てはいない。
監視の目をくぐり抜けてやるのがただ世間話なんて、余りにリスクに合わないから。
だからこそ、この偶然の機会を逃す気は無いのだ。
「それでチンクは頭を洗う時に」
「シャンプーハットですか、失礼ですがお姉さんですよね」
まさかシャンプーが目に入るを未だにやっているとは……
からかいたい－－直接からかいたい！！
ギンガだったら頼み込めば入れ代わりに乗ってくれるかしら？
「三番目の姉のトーレは厳しいんだけど、すっごい不器用で口下手なんです」
ほうほう、あー変わらなかったのね、初期メンバーの子達って。
通常なら私達ナンバーズにはデータ共有機能がある。
十二人の姉妹のデータを経験として共有することで訓練の短期化を狙うもの。
そして共有する事によって姉妹同士の結束が高まる。
しかし、私に限ってはそのネットワークに含まれてはいない。
潜入用の私はドクター陣営との接触は控える必要があり、私が実際何をしていたのかはドクターすら把握はしていなかったはずだ。
では私が他の共有したナンバーズに劣るかというとそんな事は無い。
私の横に座る男の子、今現在不機嫌にコーヒーを啜るケイスケ。
彼ら施設の人間を育て、鍛えてきたのは私だ。
諜報型戦闘機人たる私に子育て機能なぞあるはずが無い。
この十年以上の期間に身につけた経験であり、スキルだ。
延々と基地の内部に留まっていた姉妹達と比べ身体のアップデートが出来ず全てを経験値のみで成長させてきた。
だけど、それを姉妹達と共有出来ないのもまた事実。
だからなのかもしれない、施設の子供達を育てたのは……
明るく、姉妹達の話をするディエチが少しだけ羨ましかった。
ケイスケ視点
シスターとディエチの思わぬ対談は、外出時間ギリギリいっぱいまでかかった。
あれでシスターは結構、情に厚い。敵味方で扱いが激しく変わるが。
会ったことすら無い姉妹の境遇が気になったとしても仕方ないだろう。
「楽しかったねディエチ」
「うん、ケイスケの失敗談とかみんな喜ぶね」
てめぇもかディエチ……
紙袋を七ツも持って無ければ蹴りの一つもプレゼントしてやってるのに。
無意味にエアキックを繰り出すが、当然レイピアが発射される事は無いのである。
「つかディエチさー自分の買物いーのかよ」
「そ、そうだよ！！ ディエチの服！！ 本当にあれでいいの！？」
ディエチの選択したのはシャツやズボンや、結構地味。
いや、勿論見た目が一級なコイツの－－というか六課関係者やナンバーズは全員美人美少女なのだが－－容貌なら十分に魅力的になんだが。
……
「ケイスケ……どうかした？」
いや、世の中の格差に少し凹んだだけだ。
まあ、ともかくコイツの自分用に選んだのは約三名以外も着れるようなもの。
具体的にはちっこい二名とスッゴくちっこい一名以外。
「何故かケイスケがチンクを怒らせるような気がする……」
「同感……」
「ちょ、お前らも同罪だろ！？ このジュニア向け！？」
二人してクスクス笑いながらサイズが合うから仕方が無いって！！
「やだなーちゃんとチンクが着れるようなシックなタイプにしたよ」
「ああ、その後「でもルーちゃんの方が似合いそうだよね」って会話がなけりゃな」
……
……
「えへ♪」
ええいペコちゃんスマイルしたって逃がさんわ！！
「ふふふ、大人しく俺と同じ墓穴にはまるがよい」
「台詞だけだと変なプロポーズだね」
ディエチ、貴様何故一人余裕を！？
「普段の信頼の差……かな」
爆殺フラグを一人回避しそうな方は余裕の微笑をこいております。
「つかそれはいーんだよ！！ お前の買物はいーのかって話！！」
徐々に周りの風景は海に切り替わっていく、このまま十分くらいで施設に着いてしまう。
まだまだナンバーズが自由に外に出るのは時間がかかるだろう。
今日みたいなのは例外中の例外なのだ。
特にディエチはナンバーこそ後発だが、実際はチンクに次ぐ古株、自由には遠い……
こんな買物の機会は滅多に無いのに……
「でも……特に無かったし」
欲しいものが？ って意味だろうか。オットーほどではないがディエチは言葉が少ない。
ペアだったクアのやつが人の３倍は話すやつだったからバランスがとれていたが、ソロでは本当に言葉が少ない。
「あれ？ 俺らの案内した場所が悪かったのか？」
それにもディエチは首を振る。
「私は別に……みんなが楽しそうなら……」
別にいらない。
よ……欲がなさすぎる……
背後からペカーっと後光が見えるくらいに。
日々物欲センサーと戦う俺には辿り着けない境地にこのお嬢様はいらっしゃった！！
「ただいま」
お帰りと大きな声が上がる、こんな施設だが今は間違い無くここにいる奴らの家なのだから。
何時もの広場にて今日の戦果報告会が開催される。
全員に配布される服にお菓子等の嗜好品。
「ふっふんディエチがせっかく買ってきたからな」
「あ、それアタシが選んだんだよ」
テンプレツンデレ乙ノーヴェ。
パーカーにデニムスカートは特徴が無いがノーヴェには良く似合う。
一番あれじゃないこれじゃないを始めるのがウェンディとセインだろう。
早速着替え大会を……エ？
ダブル腹、へそ。
俺の今の脳で処理できたのはこれだけであった。
「ケイスケ！！ 回れ右ー！！」
よく聞き慣れた声の指令にイエスマムと若干マニアックな返答。
自動ドアを出てから一気に息を吹き出す。あいつらアレだ、恥ずかしくないのか？
いやこの空気扱いが少し六課入った直後を思い出す。一ミリも嬉しくないが……
「おお、ルールー似合ってるぞ」
「そう」
アギトのルーテシアへの反応は分かりやすい、世話好きでルー大好きを隠さないアギトはこういう時好ましい。
ホワイトのドレス風のワンピースが随分と彼女に合う。
事件がなければお嬢と言っていいルーだから似合う、そんなルーにカメラを向けて画像を保存する。
これをメガーヌおばさんに転送すれば喜ぶだろう、もう一枚、今度は声をかけての写真撮影。
カメラ音を聞きつけたスバルが、その後にはウェンディが。
結局全員での集合写真にまでなってしまった。
お、メールだ、端末を開けるとメガーヌとある。さっそく返信を返してくるとはいい反応である。
［もっと露
削除
俺は何も見なかった。
ディードは予想を一ミリも間違えなかった、よって予想通りの反応であった。
「飽きられてしまいました、きっと私はこの後使用人に払い下げられ灰かぶりのような生活に……」
無視だ無視しようこのアマ……
オットーは……
「何？」
いや、何も言うまい……
野郎が着てもいいような服に女性風のシルエット、実に初見の人間は性別判定に困ることだろう。
そして相変わらず俺の正面には立たない。妊娠するとか腐るとか酷い事言わないだけマシと思ってしまう俺は疲れているのだろうか。
チラ、サ チラ、サ
この視線を合わせると回避は未だに直らんが。
で、ディエチ。
着替えもしないで自分の分を周りに着せたりしている、しかもそれが楽しそうなのだ。
シスターの時にも思ったが、こいつは本当に家族が好きなのだろう。
饒舌で、本当に楽しそうなのが意外だったから。
そんなディエチだから今回の件とかかなり意味無かったのではないだろうか？
やはり楽しむには他の連中がいないといけなかったのではないか。
しかし、彼女は致命的に抜けている点があるのに気がついているだろーか。
「おーい、スバルー」
「ん？ ああ、りょうかーい」
反応したスバルが自分の分として別にしている紙袋に取り付く。
そこから取り出したカッターシャツとスラックスは少しだけスバルとはサイズが合わないものだ。
それを懐に抱き。
「はい、ディエチ」
「え？」
虚を付かれたようなディエチの呆けた顔は実に見ものだ、撮影のついでに撮っておこう。
「いいよ、私は」
ふっふっふ、お前がそう言って断ることも了承済みだよディエチくん。
「でもこれディエチ用に買ったんだし、着てみない？ きっと似合うよ」
「つか全員分買ってるんだから、お前も着替えないとみんな受け取りにくいぞ」
言葉こそ焦ったような発言は無い、しかし目は泳ぎ、周りに助けを求めるような仕草。
スバルに強引に渡された着替えを抱きしめながらなのでちょっと可愛いかもしれない。
周囲からの視線はどんな風になるだろう、早くしないかと彼女の遠慮を削るよう。
「わかったよ、ありがと」
観念した。
オットーと似たようなものなのに、ここまで印象は変わるものなのだろうか？
身体にフィットする作りの服はディエチの身体のラインをこれでもかと強調する。
それでイヤラシイ感じがしないのは質というか気品というか。
「イテ！？」
腿にビシリと鞭を打ったような痛みが走る、犯人はマッハで逃げ出して隠れやがった。
なんでこー俺の周りは人の思考を読めるのだろうか、この世の七不思議に一度上げてどっかの編集部に持ち込みたいぞ。
きっと何故か世界の終わりの予兆を汲み取って、「「「「「な、なんだってー！！」」」」」ってやってくれることだろう。
「いいのかな？ これで」
「うん、すごく似合うよ！！」
たまに思うがここまで邪気が無く人を褒められるスバルは男だったら天然ジゴロになるのではなかろーか。
助けを求めるようにまた視線を迷わせるディエチだが、やはり周りも彼女の新しい格好を楽しんでいる。
ニコニコした笑顔で見守る姉妹。
若干の苦笑、観念したかのような諦めが少しだけ混じって。
「ありがと、スバル、ケイスケ」
中々いいご褒美を送ってくれるディエチだった。
後書き。
ふっとディエチの話を書きたくなった。
ナンバーズはVIVIDで目立っていますが、それでもちょっとピンで目立たないディエチを目立たせてみたかった。
こんな子ではないかと思うのですがいかがか？
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追記 拍手は出来るだけあて先を書いて送ってください。
拍手はリョウさんの手で切り分けられています。
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