時空管理局本局。

次元世界渡航の中継地点としての意味合いもあるミッド文明の象徴。

同時に次元世界の座標基点にもなっている。

そういう意味に置いては管理局は次元世界を支配していると言っても言い過ぎではない。

その現状に反発するグループも無くは無い。

ただ本局に異常自体でも発生すれば何が起きるのか予想しきれないくらいミッド魔法文明は広大だ。

何時だか読んだ被害予測は数十の世界が滅び、死者目算は2が何乗ってレベルだったはず。












「えっと、スッゴい規模の国連ってこと」

「そんな感じかな、クロノ達は……そうだね、タイムパトロールみたいな感じかな」

「なるほどね、ありがとうフェイトちゃん」

耕介の簡易講義の理解は早い。比較が雪児だから誰でも早いかもしれないけど……

リンディ提督からの手紙を読んでから数日、私は今予想外に落ち着いている。

スグにでも飛んで行きたい私の反応を見越してかリミッターがついた私では本局までの次元転移は不可能だった。

私から魔力を受け取るアルフも同様に、本調子ではないユーノ、なのははそもそも転移魔法自体が未経験。

アースラ側からのサポートを待つ数日は普段の私なら焦燥してしまったかもしれない。

まあ、その……寮の生活にすぐ追われてしまうのでそれ程でもなかった。



             HOME_REHOME 13話







「フェイトー順番だよー」

手を振るアルフに応じて窓口に、受付のお姉さんに本局に入るための手続きをお願いする。

「えっと、フェイト・テスタロッサ、使い魔のアルフ、保護者の槙原耕介」

「はい、こちらには何を」

事務らしいあまり感情を介さない声に対して私は少し、ほんの少しだけ気後れしてしまう。

「母の見舞いです」

チラリと耕介を見た受付の人が何を思ったのかは表情からは伺えなかった。

やはり感情を感じない声色で本局に入る手続きをこなした彼女、最後にゲートに案内して次の人に取り掛かった。

「んっ−−結構面倒なんだね」

巨漢の耕介が背伸びをすると私では腰にも身長が届かない。

かといって圧迫感を感じるでもない。大きな樹に触れるような落ち着きすら感じる。

さざなみ寮の管理人を何年もやっているせいか、こういうところはお父さんって感じだ。

少しだけ、耕介を父さんと呼ぶ雪児が羨ましい……













「来たか」

ゲートを抜けた先のホール、その中心にある花壇にいるバリアジャケットのインナーをまとった人。

私服やスーツ、または局の制服の中に一人そんな格好をしているのは若干浮いていると思う。

だけどこれが僕の普通だって主張してるように感じるのはそれだけ着慣れているって事なのかな?

「やあクロノくん」

親しげにクロノに声をかける巨漢に周りの目が集まったのがわかる。

耕介からすれば息子の友達に挨拶しただけに過ぎないけど、ここは時空管理局本局。

身体は大きいけど魔力を感じない耕介と最年少執務官のクロノの組み合わせに疑問をもつだろう。

耕介の次に視線はアルフを舐める。ミッドなら使い魔は珍しくもない、だけど魔力の無い耕介に付き従うのはアンバランスだ。

アルフは普段から着ている肌を随分露出した格好だから、少しだけ嫌な感じを受けている。

手を握ってあげて、気を落ち着かせておこう。

最後に私に視線が向くと疑問が解けたとばかりに、そして目を丸くしている。

良くも悪くもミッドは魔力偏重主義だ、耕介ではなく私に警戒の視線を集めるあたり。

「ここは落ち着かないな、早く移動しよう」

クロノはそう言うとすぐに移動を開始、私達を囲む人の輪はその道を空けるように開いていく。

耕介が前を進み、その後ろをアルフと追っていくと人混みが嘘のように真っ直ぐ進むことができた。

例え魔力が少なくても、耕介は歩くだけで目立つからだと思う。















時空管理局本局は私も初めてだけど、おっきい。

凄くおっきい。

局員用と民間用を別にした宿泊施設、商店、デバイスの整備施設、娯楽。

おおよそ普通に街くらいの規模があるし、それに付随する民間人入場不可な管理局本局エリア。

雪児が見てたテレビの宇宙コロニーが二つくっついて、その一個が局って感じだろうか。

「凄いな、人はここで生まれ、老いていくってやつか」

「残念ながら、時空管理局の歴史はそんなに長く無いですよ、ここで生まれるって人は少なく無いですけど」

あくまで桁違いのサービスエリアとクロノは言う。

住む人はいるが局からなら地上に行くのは難しく無い。

普通局員なら地上にベースを持つそうだ。










「いやそれでも凄いさ、クロノくんくらいでも家を二つ持てるんだろ?」

えっと、クロノくらいなのはまた特別だと思うよ?

中等部半ばくらいが一般局員の最低基準だったはず。

局が出来る前の時は魔導師は十歳で成人扱いなんて時代もあったらしいけど。

多分、雪児と同じ歳で執務官なんてほとんど前例は無いはずで、その前例を覆したクロノは相当のエリートだと思われる。

白い本局のタイルを鳴らしながら歩くクロノは、耕介の質問に苦笑で返していた。













……美味しくない……

もったいないけど一口飲んで諦めた。

寮に入る前は食べ物に興味の無かった私だが、耕介のご飯やなのはの家の喫茶店の味に慣れた今となってはこの紅茶は受け付けな
い。

リンディ提督と合流するってクロノに案内されたファミリーレストラン風のお店だったがこれは無い。

耕介はコーヒーをブラックで飲んでいるが少し顔が渋い。

これは私達が日本の味に慣れてしまっているからだろうか?

クロノも耕介と同じブラックだが黙々と飲んでいるし。

意外とアルフは文句が無いかのようにホットミルクを美味しそうに飲んでいる。

少し貰うと普通だった。どうも私と耕介がハズレを引いたみたい。

クロノは……どうなんだろ。







店内の隅にある周りから見えにくい席、一番奥側に私とアルフと耕介。

「ごめんなさい遅くなって」

綺麗な翡翠色のポニーテールがピョコンと入口からこちらに。

外見は全く提督って階級にある人には見えない、だけどこの人は母さんクラスの魔導師でもあるんだ。

リンディ・ハラオウン提督、戦艦アースラの艦長さんは落ち着いた大人って装いでやってきた。

グリーンティーを頼んだリンディ提督、私が寮にいられるのは彼女のおかげ。

でも砂糖は入れすぎだとおもう……

一個二個三……七ツで数えるのはやめた……













本局が入った施設のお隣りのブロックにそれはあった。

お隣りと言っても、目に見える訳じゃない。

分かるのは無機質な看板が張ってある程度。

そもそも巨大な人工居住空間であるので、その中に全く地上と同じようにってやるのは無駄なんだ。

その中をリンディ提督に先導されて歩いていく。

全く誰ともすれ違わない、生活感を全く感じない廊下が何故か不快。

「フェイトさん、いいかしら」

リンディ提督が案内した病室、ネームプレートには一人の名前しかない。

個室なんだ、それに納得するような、個室でないといけない理由に思い当たる。

複雑な感情が頭の中をグルグルと駆け回って。

突然グシグシと頭を撫でる手の平が当たる。

後ろからだから顔は分からない、だけど太くてゴワゴワする指。

今ここでそんな手の持ち主は一人しかいない。

料理、掃除、洗濯を繰り返してきた、日常というものをこれでもかと刻んで来た手の平。

伝わる体温、それを感じると心が徐々に落ち着いていく。

後ろを振り返ると心配そうなアルフ、顔色は変えていないが足を焦れるように動かすクロノ。

……うん、もう大丈夫。

ドアに向かって、自分とは思えないくらい落ち着いてノックを。

開けたドアの先に待つ、母さんとの面会。

私の大切な……








「おーい杉〜」

今日こそは何も予定が無いはず、最近フェイトちゃん関係とばっかり遊んでいたので、久しぶりに同じクラスと触れ合うべきだろ
う。

今回のフェイトちゃんの付き添いはとーちゃん、ちみっとさみしー気もするが付いてって何か出来るわけでもないし。

ということで、今日はオレ、槙原雪児久しぶりに学校の繋がりを優先だ。

夏が近くなって窓際以外も暖かくなった午後の教室。

空も真っ青で遊べという天恵が降ってくるようである。

教室の後ろの方でいつものメンツが集まっているのに。








「……」

「……」

「……」

な、なんだ? 三人から生暖かい視線を感じるぞ?

杉並竹下フェイフェイからは何かの壁というかバリアというか、そんな雰囲気がビンビンする。

教室の奥のほう、避けられるといえば避けられてる、しかし悪意は感じない。

どっちかというと、バイキンバリアー!! とかそんな感じ。

いやそっちの方がきっついって説もあるが。

何故だ、ここ最近確かに付き合い悪かったかもしれない。

しかしこんな扱いを受けるような事は無かったはずだ。








「え、えっと皆さん?」

「ちょっと、ロリコンさんが何か言ってますよ?」

「嫌だわロリコンが移るじゃないの」

「おお怖い」

ロ……ロリコン!?何でいきなりそんな事言われなきゃ……







−−あ、雪児−−







アレ以外ねーよ!!

「ちょ、ちょっと待て!!あいつは、フェイトちゃんはうちの寮の新入りで!!」

「えーだからって駅前で別の小学生と合流するかー?」

駅前って……アレかなのはちゃんか!?

つか竹下いたのかあそこに!!

「なーゆっきー?うちもな、色々可笑しい事に耐性があるつもりやで?でもな、連日小学生とキャキャウッフはちょっと……」

引くなよ!!つかキャキャウッフって何でだよ!?

「うち、ゆっきーは年上趣味とばっかりと思っとったけど、違ったんやな、ごめんな」

ちょっとまてやフェイフェイ。

「てかそういう役は杉並だろ!!」

「オイ」

「少なくとも杉並は小学生には手を出さんやろ」

「オイ」

「あいつと一緒にすんなよリアルニコポ撫でポと」

「オイ……」

「いや、なのはちゃんのお母さんはうちのオカンと友達で知らん顔や無いんよこれ」

んなフェイフェイの個人的家庭環境なんかしらねーよ。

「人の話をきけー!!」

す、杉並が切れた!!何故だ!!

「ふふふ、みんな死ねみんな死ねみんな死ね」

オレは……オレは……断じてこれがいつも通りだとは思わない!!







病室はシンプルな作りだった。

荷物を収納する戸棚、キャスターの付いた食事をするテーブル。

窓の外は何故か青空が広がっている、カーテンも付いている。

ここは次元空間に浮かぶ本局付きの病院のはずなのに……

おそらく、精神安定の一環なんだなと何処か頭の片隅でそんなことを考えていた。

そんな部屋の中心を占めるベッド。

病院の物らしい余計な装飾など何も無い真っ白なシーツの上に。

「……」

声が出てこない、昨日まではアレを話そう、これを話そうと色々と考えていたはずなのに。

シンプルな寝巻きに真っ黒で波うった黒髪。

今まで見たことの無い病的なまでに真っ白な顔色に浮かぶのは、やっぱり真っ白な表情だった。

苛立ちも、怒りも、アリシアの記憶にある優しい笑顔も、苦悩も。

全く見出せない。

グルグルと、グルグルと何かを考えては形にならないで霧散していく。

「……か……かあ……さん」












口を出せる雰囲気じゃなかった。

雪児やリスティから聞いた印象と全く一致しないことも影響していると思う。

二人から聞いたプレシアさんの印象は、怖い、ヒステリー、絵に描いたような魔女。

しかし、今フェイトちゃんの話を聞く彼女はまるで介護されるお年寄りみたいだ。

「それで、洗濯して干して、雪児はいつも靴下が反対で、何回いっても」

とはいえ、息子のだらしなさを楽しげに語られると何か複雑だな。

リンディさんもクロノくんも俺より前に出ないで親子の空間を見守っている。

アルフだけは今にも飛び出しそうなのを必死で自分を抑えているのだろう。

腕や足がプルプルとしている。

「……そう……」

フェイトちゃんは必死だ、まるで搾り出すように話題を変えて今の自分を話す。

しかしプレシアさんの反応は……皮肉にも良いとはいえない。

そんな態度に俺は怒っていいのだ。寮に来た当初の俺なら間違いなくフェイトちゃんをかばうような発言をしたはずだ。








だけど……俺は親になった。

リスティと、雪児と。美緒ちゃんとの最初の繋がりもそうだったのかもしれない。

知ってしまっている、フェイトちゃんにプレシアさんが何をしたのか、何を喋ったのか……

もしも俺が愛さんに、寮のみんなにそんな風にしてしまったら。

リスティや雪児を傷つけてしまったら……




そう思うと、何も口を出せない。





「また……来るね」

面会時間いっぱいになるまで、胸の内を吐き出したフェイトちゃんだったが、それでプレシアさんの反応は変わらなかった。

リンディさんが時間を告げたときの表情は、ざんねんと安心を混ぜた、不思議な表情をしていた。

肩を落として部屋を出るフェイトちゃんにアルフとクロノ君が付いていく。

俺は。

リンディさんに引き止められた。









部屋の中の住人が急に半分になっただけなのに、随分と寒くなった気がする。

俺が見た時から全然動かなかったプレシアさん、そして普段ののんびりした目を辞めたリンディさん。

自分は場違いではなかろうか。

俺は神咲と言っても、御架月の持ち主である事以外は何も無い。

薫ちゃんだって、多少は術とかも使えるようだけど、俺はそっち方面は一切習っていない。

だってそうだろう、俺はあくまでさざなみ寮の管理人なのだ。

運動と、御架月って家族といるためだけに神咲の端くれになったような男。

それが俺、槙原耕介なのだから。

リンディさんは船の艦長さんで、プレシアさんは大魔導師で。

どうにも気後れしてしまう……

「すまないわね、槙原さん」

……初めて話したプレシアさんの声、随分と疲れている。

いや、疲れが目に見え始めた、息は細く浅く、目蓋の重さに耐え身体を起こすのも負担になっているように。

フェイトちゃんとの会話での疲労なんかじゃ絶対にない。

これは……








「槙原さん、これを」

リンディさんから手渡された封筒、折り曲げないで書類を入れるA4サイズに近い。

受け取った手にはかなりの枚数が入ってると思う重量と厚みがある。

取り出した中身の書類には何が書いてあるのかは読めないが、ビッシリとアルファベットに近い文字が並んでいる。

「これ、は?」

「プレシアさんの全財産、フェイトさんへの贈与と耕介さんへの管理権を移す書類です」

……ちょっと。

「プレシアさんの特許権等の入る口座の名義、通帳、カード等が他にも」

「ちょっとまって下さい!!」

何なんだこれ。

プレシアさんとフェイトちゃんはこれから仲良くなって行くんじゃ無いのか?

俺は当事者じゃない、むしろ一歩引いたところで話しを聞いていただけの人間だぞ。

書類のアンダーラインを引いた部分、そこの部分だけがプリント文字じゃない。

震えるような、ミミズがのたくったような文字、読めなくても分かる。

これがプレシアさんのサインだ。








仲直りするんじゃないのか?

うちで預かるのは裁判が終わって刑期が終わるまで、じゃ無かったのか?

「分かっているでしょう」

ボソッと呟くプレシアさんの一言、ストンって全てが落ちてしまった。

「ダメなんですか?」

「ええ」

リンディさんの声も厳しい自制がある、普段と変わらないように響く中にほんの僅かな震えが混じっているから。

ベッドテーブルを借りて一枚一枚封筒に入った書類を確認するように取り出していく。

それぞれの右下には、たまに線が切れるほど弱々しいサイン。

リンディさんが一枚一枚書類を説明していく、日本語で書いてある書類もあるのは俺への気遣いだろう。

異世界の財産をどうこうするのに日本の書類なんか価値が無いのだから。

記入と説明の間、プレシアさんはベッドに深く沈み込んで。

途切れ途切れな息、この人の体力は一体どれだけ減少しているのだろうか。

そんな体調なのに、フェイトちゃんの前では……









「終わりました」

サイン記入は全て日本語だ、立会人を担ったリンディさんから一つ一つ記載事項を読み上げる。

簡潔にまとめれば、プレシアさんの所有権の全ては違法物品を除きフェイトちゃんに。

十五歳になるまでは代理管理人として俺が名前を貸す。

不動産関係や時の庭園はリンディさんを通じて管理してもらえるそうだ。

税金は気にしないでよい程度は特許使用料が入る手筈らしい。

「これで、全て終了です、ありがとうございます耕介さん」

「いえ……」

俺は何もしていない、フェイトちゃんを預かるだけで何もしていない。

フェイトちゃんの学費や養育費は管理局経由でうちの口座に振り込むらしい。

全てが終わって、プレシアさんの顔には安堵の表情が浮かんでいる。

まるで全部をやり切ったように――生きる事を諦めたように。

なんだろうな、これ……まるで……

「……永かった……本当に永かったわ」

!? プレシアさん!!

ゆっくりと目をつむるそれに嫌な予感が。

スースー

寝ただけか、びっくりさせないでくれ。





「耕介終わったの?」

合流したフェイトちゃん、それはもう嬉しそうだ、こんな子に……



『プレシア本人の意思です』




リンディさんが病室を出てから教えてくれたこと。

プレシアさんはフェイトちゃんに教えるつもりも、触れ合うつもりもないと。

自分はもうすぐいなくなるのだから、地球で、そっちで生きたいなら。

自分の事をなるべく振り切れるように。

フェイトちゃんからすれば、プレシアさんが話を聞いてくれただけで嬉しいみたいだ。

きっと彼女の中では、これからもっと仲良く、明るくなっていく未来が開けている。

語れない、語る事は出来ない。

所詮自分は管理人といっても他人なのだ、家族の問題に口を挟む事は出来ない。




だけど。




だけど。






じゃあ、今度何か作ってあげるのはどうかな?」

それで何もしないくらいだったら、俺はとっくにあの寮の、さざなみ寮の管理人を辞めている。

プレシアさんの気持ちも、判らなくは無い。

長期に渡って病気を放置して悪化、体力的にも驚きだがお歳六十手前らしい。

俺だってまだ想像できない、お迎えの心配をするような心境は。

だけど。

「え? でもまだご飯とか食べられないって」

「何も食べ物で無くてもいいんじゃないかな」

例えば花とか、絵とか。 フェイトちゃんの写真でもいいだろう。

プレシアさんだって、本当はフェイトちゃんを幸せにしてあげたいはずなんだ。

例え短い間だとしても、別れが近いとしても。

幸せな記憶があれば、きっと立ち上がれるから。

もしも、落ち込んでしまっても……

アルフが、なのはちゃんが、うちの愚息が。 うちの寮生達が、きっと立ち上がらせる。

もちろん俺もだ。

「そうか、そうだね……耕介!! 私そうするね!!」

ああ、フェイトちゃん、頑張れ。







「シグナムちょっといい?」

一軒屋の平均的なリビング、大きめの液晶テレビを二人の子供が熱心に視聴している。

その二人を見守る、室内犬にしては大型な一頭、ソファーに座った女性がいた。

触ったら切れると言わんばかりの鋭い雰囲気と、朱の美しい髪をまとめた姿は美しさと実用性を合わせた日本刀のよう。

守護騎士シグナム、ヴォルケンリッターと呼ばれる古代ベルカのロストロギア、闇の書に仕える騎士の将。

声をかけたのはキッチンにて洗い物をしていたためかエプロンをしているが、それが随分と似合っている。

ほんわかとした雰囲気が、どこか奥様風な印象を周囲に抱かせている。

シャマル、同じくヴォルケンリッターの参謀及び支援を担当する女性。

ここ、八神家には闇の書と呼ばれるロストロギアが存在する。

優れた魔力資質をもつ人間をランダムに選択し、主とするある意味タチが悪い特性を持っていて。

ここ地球のように、魔法がない世界で日本のように平和な地域に主が生まれること自体が珍しい。

そんな世界で生まれたはやては、彼女達に家族になって欲しいと願い。

ヴォルケンリッターと闇の書は、今までにない平穏な日常を手にいれていた。







「魔導師がいた?」

有り得ないとシグナムは頭を振る。

闇の書が起動して数週間、主に害を為す存在が無いかどうかを綿密に調査している。

結果、地球において魔法は存在せず、管理局からしても管理外世界として認識されていることは確認済みだ。

だからこそ、自分達はこの町で何もせずに。

「でも間違いないの、おそらく相手にも私が魔導師だと気が付かれた」

「誰なのだ相手は」

「フェイトちゃんって子、はやてちゃんと友達になっちゃったの」

シグナムの心情はその言葉でかなり揺れていた。

主であるはやての足は謎の麻痺に犯されている、そのため同世代なら通うと言う学校にも通っていない。

付き合いは病院と、たまに家の管理をしてくれるハウスキーパーぐらいでしかない。

そんなはやてが楽しげに語った存在がフェイトという同世代の少女だった。




『あんな、初めてやねん、携帯アドレス交換って、昨日も電話でな』

そういって楽しそうに電話で話す姿に微笑ましいと思ったばかりなのだ。

シャマルが直ぐに自分に話さなかったのを怠慢だと思うと同時に、若干気持ちが分かってしまった。

自分達は、主はやてを主という以上に慕っているのだ。

はやての幸せこそが、今の自分達の成すべきこと。

「……ともかく、様子を見るしかあるまい」

ひょっとしたら自分達と同じく管理局とは合いいれない立場かもしれない。

一緒にいたという少年は魔導師ではなかったのだから、管理局とは違うのだろう。

一応の方針を打ち立て、同じヴォルケンリッターであるヴィータ、ザフィーラにも徹底させなくては。

そのシグナムの予定は。




「なあシャマル、今度の買い物でお菓子とか沢山買うてくれん?」

今度、フェイトちゃんが遊びに来るんよ

主の意見においてあっさりと打ち崩された。


あとがき

期間が空いてしまって読んでくれている方申し訳ないです。

プレシア関連の話でした。

そんな簡単に仲直りはいたしません。

でも正気のプレシアさんには結構地獄かもしれないです。

二人に関しては今後の関係構築次第ですね。



拍手返信

>※鬼丸さんへ
>おー、スルーされること多々なさとみさんがしっかり出てる。さすがです。
>後はこの時代で言うと我那覇舞というボクっ娘がいるはず!

さとみさんは一応みなみルートでいましたので、通好み用に出してみました。
ただ残りのメンバーは立ち絵すら……ちょっと特性が出てこないのですよ。
美緒ルートエンドでしかいないし……



>※鬼丸様へ
>初めまして。 HOME_REHOME楽しませていただきました。  
>さざなみ寮の騒がしくやさしい雰囲気が感じられてとても楽しかったです。
>これからも応援しています。

はじめまして楽しんでいただけて幸いです。
フェイトはこれからこの寮の住人になりつつ、自分の問題に絡んでいきます。


>※鬼丸さんへ
>雪フェイ早々にはやてとエンゲージ。これからどう雪児が絡んでいくのか楽しみです。
>でも雪児が絡むとシリアスシーンが1/5(当社比)に…www なんというゆるさwww

雪児今回出番少な目。
まあ頭脳労働にはとことん向かない子なのでこういうシリアスシーンには向かないのですよ。
ゲージが下がるしねwww


>※鬼丸さんへ
>やっぱシリアスを許さないさざなみ寮だね、フェイトも明るくなっていいことだ
>将来どんなさざなみ補正が性格にかかるか今から楽しみだ

さあ、これからどんな補正がかかっていくでしょうか?
今回は雪児が混じらないのでかなりシリアス展開でした。


>※鬼丸さんへ
>ケイスケはいずれは聖王モードのヴィヴィオに押し倒されたりしそうですね。
>そしてなのはさんも流されるままに一緒に…

ああ、おっきくなった姿は見せ付けそうですね。
流石にそんなことになるほど理性が無いとは思いたい。

大丈夫……だよね?


>※鬼丸さんへ 次は是非ともIF親子丼ルートを…

いやいやいや、どうしてそんな行為にいたるのですかwww



>※鬼丸さんへ
>王様の仕立屋のピザネタがでてましたね。
>というかケイスケのキレかたがあのピザ屋の親父みたいだ…

王様はアニメとかの話は無いけど知ってる人が多いですね。
意外ではないですが、あれのスーツとかの知識は馬鹿にならないです。

後小話も。


>※更新期待して待ってます。

大変お待たせして申し訳ありません。


>※鬼丸さんへ
>なんというナンバーズのおかん的存在www そしたらおとんはケイスケかwww?
>そしてメイドというオマケがついてくる罠www

偶にはまともなだけの子が欲しくなった。
ディエチはそういう意味では清涼剤です。
きっといい嫁になりますぜ。

メイドさんがいるので家事スキルが必要ないかもしれない。


>※鬼丸さんへ
>今回はヴィヴィオは名前だけか、スクロールしきるまでどこで出てくるのか期待している私がいたのぜw

この魔改造ヴィヴィオ、決してVIVIDみたいにはならないですわww
もし次を書くときはきちんと出番を用意いたします。









追記 拍手は出来るだけあて先を書いて送ってください。
拍手はリョウさんの手で切り分けられています。

作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。