平日の授業が終わる、これから明日までは俺の自由時間だ。

「生きてるって素晴らしい……」

「ああ、アシスタント終わったのか」

そう、今月の真雪ねーちゃんの締切が終わったのだ!!

ねーちゃんは今頃一休みして来月のネームを考えてることだろう。

ご苦労様です……。

「お、じゃあ久し振りにゲーセン行こうぜゲーセン」

竹下の誘い、そう言えば最近こいつらと出て無いんだよな。

久し振りに悪くないって思うのだよ。

「うし行くか」








杉並と竹下とつるんで校門に行くと、混んでいた。

なんだこりゃ?

まるで前が進んでいかない、まるで会場前のコンサートだ。

「ああ、何だか誰か校門で待っているようだな……」

……ほう。












「「杉並ー」」

な、何だ? とビビり入ってるがこの学校でその手の騒動はコイツが原因に決っている。

サッサと帰るためにコイツを犠牲に捧げるしかない。

「ま、まてお前ら!? 何をする!!」

「気にするな、ただのグレイ運びだ」

「ケケケケ、シネバヨイ」

ズルズルと輪の中心に向う、さあ今回はどんな美少女だ? 意外とお嬢系か?

中心に近付くが、まだ対象は見えない。

輪には男女比率が半々くらい、つまり女子受けもいいタイプって事。

段々と見えて来た、かなり背は小さい、まだ小学生くらいじゃないか?

「うお、金髪だ金髪?……」

金髪プラス小学生。













嫌な悪寒が止まらない、ここは悪いが戦略的撤退を

「あ、雪児やっときた!!」

ゴッドはいねええ!?

風校と海中の面々がギョロリと呼ばれた人間を検索、少女の視線を正確に辿って。

「ゆ、雪児?」

すまん!! 杉並後でメシ奢る!!

一番に反応しそうな竹下に杉並を叩付けて。

「え? え? 雪児何!?」

大声は堪忍してー!!

物のように脇に少女を抱えてダッシュ、既に人さらいの領域だ。

だが分かる、分かるぞ。

周囲から漂うリア充シネ、リア充氏ねのオーラを。

このロリコン共が、お前らが士ね。

空気が破裂する前に高速離脱、冷静になると馬鹿じゃね? って思えるのが辛い……





        HOME_REHOME 12話








「で、何故来たフェイトちゃん」

ある程度混雑から開放されたところで質問……なんか呆れられてるんですが。

「はあ、雪児……明日病院行くって言ってたよ」

あれ?

「フェイトちゃんも着いてきなって誘ったのも雪児」

……思いだした……フィリスねーちゃんの検診って今日だわ。

「はあ……真雪が雪児は忘れてるって、言ってた通りだ」

面目ない……









△△△









「何で自分で言って忘れるのかな」

「いや、だからごめんって」

普段は耕介ほどでは無いにしろ、見上げるくらいにある雪児の顔が、私と同じくらいに下がる。

そのまま平謝りで色々言ってるけど、正直信頼出来ない。

現在進行系で謝罪する雪児、そのまま歩いて海鳴大学病院ってところに。

正直目立つ、広い敷地にポンポンと背が高い建物が並んでいるから。

ここにいるフィリスってリスティの妹さんが担当医らしい。

私の中ではリスティが白衣を来て煙草を咥えてるってイメージで……

「あ、雪くんちゃんと来たんだ」

イメージで……






「貴女がフェイトちゃん? 初めまして、フィリス矢沢っていうの」

目をゴシゴシと……小さい身体にクリっとした瞳、長い銀髪、口調も優しい人。

「雪児、この人がフィリス?」

「そうだぞ」

なんという詐欺……










フィリスに案内された棟には何とか研究何とかって書かれてる。

難しくてまだ読めない。

中に入ってゆったりとした服一枚に着替えるように指示される。

下着も無いからスースーして気持ち悪い。

同じ服に着替えた雪児が先に何か器具がある部屋に。

ベッドを前にいつもみたいに手を振ってる、緊張感無いな。

「ほらフェイトちゃんも」

フィリスに急かされて小さく、本当に小さく持ち上げた手。

それに雪児の表情が反応するけど……







「あの、雪児は……」

「ああ、雪くんの病気は知ってる?」

それは聞いた。

雪児やリスティの羽、アレが病気。

副作用であんな力を持つって。

だけど病気は病気、その分病弱だったり、何かが欠損したりしているらしい。

雪児を見てると全然信じられないけど……

血を抜き、機械を通し、血圧、肺活、色んな検査をして、おっきい注射も。

これだけ見てると信じるしかない。

「じゃあ雪くん、能力検査、準備はいい?」

「ういー」

……やっぱり軽いなぁ。













「じゃあ次フェイトちゃんいいかな?」

おっきい白衣を翻すフィリスにそう言われてようやく私もやるんだって思いだした。

その間雪児は外に出される、待っててくれるらしい。

雪児がやったのと同じ検査、モニター室にいるのは女の人だけになった。

ただ、雪児のより色々検査はされる。

口にヘラを入れられたり、トイレで……だったり。

初診っていうのはこういうものなのだろうか?

フィリスが終わりって言ってくれてから、服を取りに診察室に。

雪児待ってるだろうな。

早く行こう。

「フェイトちゃん、ちょっといい?」

フィリス?













イスに座って貰ったココアを飲む、ちょっと……ううんすっごく甘い。

「あち」

「あ、ごめんね、大丈夫?」

ハンカチを出してくれる、何を話すのだろうか?

雪児達の知り合いでリスティの妹、何よりフィリス自身のまとう空気。

これだけで信用してしまうのは迂闊なのだろうか?

フィリスが次に出したのは写真だ、写ってるのは銀髪の人が三人と蜂蜜みたいな髪の可愛い人が一人。

一人だけがやけに照れたようで、これはリスティだろう。

背景も良く見るとさざなみ寮だと分かる。

「それね、左から私、今アメリカにいるシェリーって子とリスティ、最後が知佳ちゃん」

へーって思って写真を見直す、リスティは今と全然違う。

身体もそうだけど、何処となく達観してるような今のリスティみたいな感じを受けない。

知佳って人は優しそうだ、写真だけでそんな気にさせるって凄いんじゃないだろうか。

反対に、フィリスは……

「無表情でしょ?」










……意味に察しがついて首をブンブン振って否定する。

だけど本当はそう思ってしまう、リスティもそうだが今のフィリスと写真の中とは。

そう、印象が違いすぎる。

「フェイトちゃん、自分の身体の事知ってる?」

!? 身体がビクって反応するのが押さえられなかった。

母さんは生きてる、だけど私の生まれの事までは変わらない……変えようが無い。

ここに、地球に来てからの日々で忘れてしまいそうになったもの。

違うということ、周りとは明らかに違う私の異常。

そう思うと何かが、まるで世界に独りぼっちになったような。










「わ……私は……」

「その写真を見て」

写真を持った手はカタカタと震えていた、なのにその感覚が無い。

四人が写るさざなみ寮、フィリスは何を言いたいのだろう。

頭に疑問が浮かんで、答えが出ないまま疑問だけが頭を支配して。

「私達、そっくりでしょ、三つ子でも無いのに」

何かに縋るように写真を、確かに三人はそっくりの姉妹だ……いや。









そっくり過ぎる……





そっくり……






「私とシェリーもね、クローンなの。リスティのね」

フィリスの言葉がスルリと入ってくる、その意味を聞き取るのに一秒、理解するのに一秒。

クローン? 確か体細胞から同じ人物を作る技術。

私と……

自然と、視線は苦笑するフィリスに引きつけられた。

フィリスの話してくれたのは、三人の昔話。

超能力を持った人を兵士にしようとした組織。

そこでリスティは生まれた、何人も何人もいる兄弟その中の一人として。

さざなみ寮に来たのは知佳って人の力をコピーさせるため。

HGSというのはそういう事も出来るらしい。

だけど、リスティは組織を全然信じて無かった、優しい言葉を冷たい目で話す人達が嫌いだった。

だから組織の人達は作った。

リスティの力を持って、自分達に従順な存在を……

それが。









「だけど私達はこうしてる、リスティと知佳ちゃんと、寮のみんな……他にも色んな人に助けられた」

それって……







私だ……

求められた方向は違う、違い過ぎる。

だけど、誰かに助けられて、自分を始めて……

「だから、ですか?」

リンディ提督が私をここに滞在するのを認めたのは。

じゃあ、雪児が誘ってくれたのは








「うーん、それは無いと思うけど……」

あれ?

「此所に来いって言ったの雪くんでしょ?」

多分何にも考えて無いよってフィリスが。

……心に一番に生まれた感情は、感謝でも安心でも同じ人を見つけた喜びでも無く。

「はあ……まあ雪児だし」

「雪くんだもんね」

呆れだった。

何かあったら連絡してくれと渡された名刺って紙。

普通の挨拶でもいいからってメールも書いてある。

部屋を出る時になって……

あれ? 雪児は?







その話に関係が無いのだろうか、確か雪児もHGSさっきの検査はそれ用のだって。

「ねえ、フィリス……雪児はさっきの話とは」

「えっとね、何と言うか……」

分からないの。

そう返事が返ってきた。

……分からないってどういう事なんだろうか。

雪児の明るい顔の下には何かあるのだろうか?

なのはと久遠と雪児。

三人は私を助けてくれた、だから、私は……

何かあるなら、三人の力に……











「雪児くん? 売店でほら、まだ立ち読みしてる」

受付の人が指差す先に……漫画を読んで時々笑い出す雪児。

何かムカムカするので蹴ってあげた。
















「いってー」

雪児が何か言っているが知らない。

人が真面目に悩んでる最中に漫画を立ち読みしてるような人には天誅だよ。

ここ、海鳴大病院の周辺の地図を来る前に確認した時、気になったところがある。

近くだったから寄りたいと、言うのはやめた。

雪児は絶対興味無いんだろうし。

「おーいフェイトちゃん何処行くんだ〜」

返事もせずに目的地に、後ろからちゃんとついて来てるのが分かるし。








周囲が硝子張りって図書館としてはどうなんだろう。

海鳴市立図書館を見た最初の感想はそれだった。

母さんのところは、そもそも次元世界に浮く人工物しか無いところだったけど。

本を直射日光に当てると焼けるし、ほっとくと虫が食べるし。

貴重な本はさじ加減が難しいんだ。

「うーん」

入ると早速雪児が頭痛を訴える、頭を使った訳じゃないからただの条件反射だ。

厚い本の背表紙を見ただけでそんなになるなんて、どれだけ勉強が嫌いなんだろう。

「えっと……」

い、いけない……ある重要な事を忘れていた……

「ね、ねえ雪児」

流石にさっきまで邪険にしていた相手に頼むのは心苦しい。

だけど、まかさこんな事を見ず知らずの人に頼むのも……

「ん? どったの?」

えっと、その……

「ほ、本の」

「本の?」

「分類が読めない……」










「それこそなのはちゃんに頼めよ」

「なのはの迷惑にはなりたくないもん」

オレはいいのかって愚痴を無視して集めるのは最近の地球の流行とか話題とか。

そういう情報。

この間で分かったんだ。

この世界の人間じゃない私に足りないのは、溶け込む努力だって!!

だからこそ、地球の文化を知らないといけないんだ。

「デカルチャー」

「何それ?」

「安心しな、小学生はまず分からん」

ならいいや。取りあえず服とか芸能とか音楽とかゲームとアニメでいいよね。

雑誌コーナーを中心に、日付が新しいのを目当てに集める。

フンフンこんなのがあるんだ……斜め読みして気になったのだけジックリ読む。








漫画は寮の図書室に沢山ある、この前手伝ったのは漫画。

真雪は漫画書きさんだから、資料なのだろうか、凄い沢山あった。

だから詳しいのはそっちでいい、今は可能な限り情報を集めるべきなんだ。

パラパラとまとまりが無い本が消化されていく。

そんな中には海鳴を舞台にした記事も……





『静かな地方を襲うピンクの閃光』『空飛ぶ大型犬』





……私は何も見なかった。

よし次にいこう、今読んでいた週間雑誌を片付けて次を。

一応雪児に声をかけてから行った方がいいかな?

雪児も分厚い本を立てて……

……動いて無いね、雪児。微動だに……

対面に座る雪児の前に立つ本をそーっと……

静かだと思ったよ。









はあ、本を戻してこよう、さっき取った場所に一冊一冊戻して回る。

ふっと困った……五十音順に並んでるらしいけど、五十音順が……

雪児は……司書さんが近付く、その瞬間だった。曲がった背筋が伸びた、閉じた瞳が開いた。

何処から見ても寝ていたとは思えない正しい読書の姿勢だ。

……焦点があっていれば……

「雪児ってまともに授業受けてるのかな?」

あれを見ると流石に心配してしまうよ……

本を戻そう、上の方から順番に……漢字のタイトルが……

どうしよう、近くに誰かいないだろうか? 恥ずかしいけど読んで貰うしかない。

真雪が、分からない事があったら「ワタシニホンゴワカリマセーン」って言うように言われたけど……

「あの、すみません……」







うそだよね、やっぱり、絶対、間違なく。

私が声をかけたのは、やっぱり同じくらいの歳に見える女の子。

どうしても、見ず知らずの人なら近い人を選んでしまう。

「はい? わ、金髪さんやー」

動く椅子に座った女の子、後で知った名前は八神はやて。

彼女は丁寧に教えてくれる。

一冊、また一冊順番に本を元の場所に返して。

椅子を私が押しながら図書館を歩いて回わり。

「詳しいね、はやて」

私がタイトルを言えば直ぐにその場所を教えて、案内してくれる。

「あはは、私こんな足やろ?せやから本の虫になってまうんよ」

「あ、ごめんね……」

ええんよ、って言ってくれるけど恐縮してしまう。

失礼な事を言ったのに、何でもなかったように返してくれるはやてに感謝。

なら、私も気にしない、多分それが正解。

「フェイトちゃんはこの街に来たばっかしなん?」

「うん、この間、転入試験を受けて……」

「フェイトちゃん?」

あうあう忘れてた〜〜

まだ通知来てない、試験結果が〜〜

や、やっぱりダメなんだろうか? 不合格だからまだ来てないとか。

なのはと一緒に通えない、アリサと一緒に話せない、すずかと遊べない……

「ぐす……」

「ちょフェイトちゃん!? フェイトちゃん? 誰かーこの子の保護者の人ー!!」

なのはーみんなーごめんなさいー!!







△△△








「ご迷惑をおかけしました……」

「いやいや、気にしないから、いやほんまに気にして無いんよ?」

というか、こんな床に抉り込むように頭下げられたら……

いやもうグリグリと床に押しつけとるし……

首の動きに合わせてフルフルする髪の毛がちょい怖い。

誰や外人さんに土下座教えたんは。








フェイトちゃんはついこの間この街に住むようになったらしい。

えらい偶然や、うちにおるみんなもつい最近来たばっかり。

まあ、少しだけ事情が複雑やけど。

「フェイトちゃんは何で日本来たん?」

「あー、えっと、色々複雑なんだ、ごめんね」

うーん、気になるけど私もうちの子達の事は上手く説明出来ないやろうし。

お互い様っちゅー事で納得するしか無いんかな。

「あ、はやて携帯持ってる?」

……こ、これが伝説の








アドレス交換っちゅーやつなんか!? 私初めてや!!

大急ぎで椅子の後ろにしまったポケットから取り出す。

「赤外線出来るかな?」

「ちょ、ちょい待って」

あれ? えっとどうするん?

メニュー出してあっちこっち弄るけど……

「あ、あかん……ごめんフェイトちゃん分からんわ……」

「え……」









あ、呆れさせてもうたかな?

片手に持ったままポケーッとしとるフェイトちゃん。

美少女やな〜キラキラしてサラサラした髪の毛に小柄な身体はお人形さんみたいや。

呆然としたまま数瞬、ちっさくて形のいい唇から出て来たのは。

「私も分かんない……」

予想外過ぎるやろ反応が……










フェイトちゃんがちょい人呼んでくる言って進んだ先にはおっきいお兄さんがおる。

椅子に座ったままの私は大抵の人を見上げてるけど。

フェイトちゃんに比べて随分おっきいから、きっと中学生とか高校生なんやろう。

フェイトちゃんがそのお兄さんをゆさゆさと揺らす。

ゆさゆさ、ゆさゆさ、ゆさゆさ―――――

あれ? ひょっとしてフェイトちゃん無視されとらん?

本を読む姿勢、机の先に肘を乗せて本を両手で持ったまま、背筋がピンと伸びて全く動かん……あれ?










手も動いとらんのと違う?

「ううう、えい!!」

ちょ、キック!? キックしたでフェイトちゃんが!!

流石にお兄さんも飛び起きて。

「ん? フェイトちゃん? ふぁぁぁ」

「寝とったんかい!?」












お兄さんはフェイトちゃんの携帯と私のを受け取るとピピって簡単に通信した。

病院とあの子達以外では初めての相手。

ピンク色の携帯にはフェイト・テスタロッサって名前が登録された。

「ありがとうございます」

「んーいいよ別に」

しかしフェイトちゃんとどういう関係なんやろう。

呼んでも起きなかった事に対してフェイトちゃんにブリブリ文句を言われてる槙原雪児さん? やったっけ?

名字も違うし、どう見ても二人は血が繋がってるようには見えん。









「もう!! もう!! 何で寝るの!? 起きないの!? 私恥ずかしいよ!!」

「あー、いやごめんって」

「雪児、絶対反省してないよね!?」

これだけ聞くとしっかり者の妹とだらしないお兄ちゃんやな。

ちなみにとっくに図書館からは撤収済みや。

「あ、八神ちゃんだっけ? 八(やっ)ちゃんでいい?」

いやいやいや、堪忍してください。

あんまりセンスとかは良くないな。










「はやてちゃーん」

お、シャマルや。

豆粒くらいの大きさにしか見えないくらい遠いけど、この声の主は間違ない。

若草色のジャケットに白が強いロングスカート、ショートボブなフェイトちゃんとはまた違う金髪。

どっちがええってものや無いけど、フェイトちゃんのは彼女の美人さんぶりを引き立てる感じ。

シャマルは見る人を落ち着ける感じっちゅーの表現が合っとる。

全体的にゆったりとした雰囲気は若奥様って感じや。

「もう、はやてちゃんいなくなってびっくりしましたよ」

「あはは、ごめんなシャマル」

怒るって言うより心配したって気持ちのが強いんやろう。

シャマルの声色は安心したーって感じるわ。

「あ、シャマルこの子はフェイトちゃんでお兄さんは槙原さんや」

「……」

「……」









あ、あれ? 何でフェイトちゃんとシャマルは二人共見つめ合って止まっとるん?

視線を合わせたまま二人ともじーっとしてて、なんやろ?

「え、えっと、八ちゃんのおかーさんでしょうか? 槙原雪児っすども」

一見するとこの空気を破砕しようとしてくれたように聞こえるが。

分かってまうわ……











んなもん考えてないわこの人!!

湯蛸みたいにまっかっかやもん!!

「……あ、はいどうもはやてちゃんがお世話になったようで」

我に帰ったのはシャマルが早かった……いやいやいや。

「ちょい待ち、お兄さん!! 何も疑問に思っとらんやろ!?」

あ、あかん、漫画やったら?? って頭に出とる。

やって明らかにシャマルと私は違うやろ、気にして欲しい訳やないけど……

でも全く気にしないっちゅーのは違うやろ。









「はやてちゃんそろそろ」

「えー」

いつもだったら全然かまへん、せやけど折角友達が出来たいうのにもう……

「えっと、ヴィータちゃんがお腹空かせてますよ」

あ、せやね家に帰ってみんなのご飯作らな。

名残惜しいけど、フェイトちゃん達に別れを言ってシャマルに押して貰う。

「後で電話するね」って言ってくれたのが感激や。

「はやてちゃん嬉しそうですね」

「気分は最高や」

こないだの誕生日、突然家族が出来て、今日は友達が出来て。

今までは病院の人にヘルパーさんくらいしか無かった繋がり。

それが嘘みたいに急に知り合いが増えて。

今でもこれが夢じゃないかと思う。











ほんまの私はずっと一人で家に寝てて。

一人でずっと行ってない学校のテキストやって、テレビ見て、ヘルパーさんの作るご飯食べとる。

そんな時間が帰って来てまうんやないかって。

左手を抓ればやっぱり痛い、こんなに嬉しい事は無い。

「なあなあシャマル、今日ハンバーグにしよか?」

「え、ええ、いいですね。ヴィータちゃんが喜びます」

せやろせやろ? 出かける前に確認した冷蔵庫の中身を思い出して、必要なものをシャマルに言えば。

「えっと、みくにやさんの卵が今日は安かったですよ」

よっし!! じゃあ買い物開始や。

終わったらタネをこねるのをシャマルに手伝ってもろうて、シグナムに焼くの手伝って貰って。

ヴィータには美味しく食べてもらって、ザフィーラ用に玉葱抜きも作らな。

一日の何でもない事に、一人の時には有り得んかった楽しみがある。

ああ、今なら胸張って言える、私幸せや。












△△△










……ちょっと知佳ねーちゃんに似てる……

何かフェイトちゃんも含むところがあったみたいだが問題無い。

今度メールか電話してる時にでも便乗すれば連絡がつく、そう考えると今日は良い日だったな。

病院から駅前までバスで戻る、オレもフェイトちゃんも飛べば早いんだが、まさか昼間っから飛ぶわけにはいかない。

寮までのバスの時間が15分くらいある、中途半端な時間。

翠屋に行ってみるが生憎なのはちゃんがいないのでフェイトちゃんはションボリと。







「シュークリームをパックだな、分かった」

「まけてください」

「もう!! 雪児は!!」

レジにいた恭也さんにすかさず値段交渉しようとしたらフェイトちゃんに阻止されてしまう。

恥ずかしいらしい。

「値切りって基本ですよね?」

「基本だな」

恭也さんは理解してくれるのに……










五分遅れて到着したバス、Suica使えないからバスカードと定期で乗り込む。

遅れるとは思って無いフェイトちゃんが、一分前でバスが来てない状況で大騒ぎしてたのは見てて楽しい。

バスの中でも窓の外をじーっと見ているのは見てて和む。

「なに? 雪児」

「いや……」

そう、ただ……

「シュークリーム抱いてるとドライアイス溶けるよ」

「!? 早く言ってよ!!」

白い肌を真っ赤にして焦るのを見るのは中々楽しいのである。












「久遠ー」

寮の手前になってから呼び掛ければ塀の上からピョコンと頭を出して来る。

「くーん」と語尾に♪でもつきそうな声を上げてジャンプ、それをキャッチ。

フワフワでモコモコな毛に包まれた子狐は腕の中で丸くなる。

「ただいま、久遠」

フェイトちゃんが撫でればやはり気持ち良さそうに鳴いてくれる久遠。

門にも一匹の動物の影がある。

大型のハスキー並のサイズのイヌ科、本人曰く狼だそうだが。

「アルフおいでー」

フェイトが両手を広げて座ってさあ来いの構え。

尻尾をブンブン振りながら前足を肩に乗せ、顔にペロペロと舌を。

しかし、熊みたいな爪を持った大型犬が少女に乗しかかると見た目が怖い。

まあ、アルフはフェイトちゃんの使い魔とかいう不思議生物らしいので、きちんと話しが出来るから問題無い。

ちなみにうちの寮では久遠以外にも色々こういうのもいるので慣れっこなのだ。

次郎って猫は普通の猫なのだが、頼めば新聞くらい持って来てくれる位に。

美緒ねーちゃんとさくらさんはアルフの仲間に入るかは微妙〜。









「フェイトフェイト、はやくもどろ、はやくはやく」

オレの肩に乗ったまま人型になった久遠、どことなく焦ったようで、それでいて楽しそうだ。

「そうだよフェイト、早く戻ろ」

アルフまで……

久遠がオレの肩からジャンプ。

見事にアルフの首に飛び降りる。学校行ってる間に随分と仲良くなったもんだ。

寮の玄関ではきちんと足の裏を洗うアルフを追えばリビングに。

リスティねーちゃんがドラマの録画を見てるのに適当に挨拶、目標はテーブルの上。

他の郵便物に比べて随分と大きい封筒がある。A4サイズの分厚いソレには送り先が作ってると明確に分かる印刷がされている。









「あ、これ……」

宛先はうちの住所、受け取り人名 フェイト・テスタロッサ。

差出は、聖祥附属小学校。









「ああああいう、どどどどうしよう雪児」

ああ、いや、なんだ開けるしかないだろ。

結果が気になるのかガチガチのフェイトちゃんだけど、封筒のサイズで分かるようなもんだ。

この寮を受験の連絡先にしていた受験生だっているのだ。こういう時の合否なんて分かりやすいもの。

せんべえ囓るリスティねーちゃんからハサミを受け取りフェイトちゃんにパス。

久遠とアルフが寮に入った状態のまま彼女をじーっと見つめていて。

リスティねーちゃんからはハサミ以外にもう一つ受け取った。











ゴックンと唾を飲み込み、スーハースーハーと深呼吸をするフェイトちゃん。

封筒を立てて中身を下に、ハサミで先端をゆっくりと切っていく。

頬には一筋の汗が垂れるほど彼女は緊張しているのだ。封筒の中身を机の上にゆっくりと……

「フェイト・テスタロッサは本校編入試験に……」

一枚目の、こういうのを告げる割りに安っぽいペラ紙、それに書かれた文書を覚えたての日本語で音読。

集中したフェイトちゃんはコチラの事など目に入っていない。

それをよいことに指に紐を絡ませて準備万端に備え。








「……合格……」







パン、パン、パン、パン、パン

「きゃ」

リスティねーちゃんの、オレの、キッチンに隠れたとーちゃんの、ドアの後ろから真雪ねーちゃんと那美さん。

仕事やバイトでいないメンバーを除いたさざなみ寮全員からのクラッカーだった。

「おめでとうフェイトちゃん」

「よかったね」

「これで知佳の後輩だな」

「おらー耕介宴会ー」

あっという間に四人に囲まれたフェイトちゃんから少し離れてオレと久遠、アルフ。

クラッカーにびっくりしたのか、フェイトちゃんはまだ状況を理解していないらしい。

ポケッとしたまま手元の文書と頭に掛かった彩りの紙紐に交互に視線を投げるだけ。

カタンと急にフェイトちゃんが沈み込む。

あれ? って思ったらもう彼女は床に尻餅を付く寸前。

手を掴まえようと伸ばすが








「よっと、大丈夫?」

「ふあ……あれ……耕介?」

サッと腰を支えたのは我が家の家事を支えるビッグ主夫。

とーちゃんは極めて自然に引いた椅子にフェイトちゃんを移す。

「えと、あの合格って……」

「ほれ、一緒の学校だって教えてやんなよ」

番号メモリーからなのはちゃんを検索、ダイヤルしてからフェイトちゃんにパス。

『はい、なのはです、雪児さんどうかしました?』

「あ、なのは?……私、フェイト……」

スピーカーモードだから会話が筒抜け、それを気にもしないで。

『フェイトちゃん?……あ!! また雪児さんが意地悪したんでしょ!!』

あの子の中でオレはどーゆーキャラ何だろうか。

一度ジックリお話ししてみたいな……








『? 何かセリフを取られたよーな』

『あの、なのは……私ね……』

ほんの少し、ただ自分の中でも整理できて無いんだろう。

少しだけ空いた間。

『フェイトちゃん? ひょっとして試験!!』

「合格だって……」

『だ、大丈夫だよ!! 学校違ったってほら、放課後、放課後遊ぼ』

おいおい。

「えっと、合格したよ? なのは」

『ほえ?』

「だから、合格」

『?……合格……合格……!! やったねフェイトちゃん!!』

「うん、うん、学校同じだよ、なのは!!」

ああ、もう半泣きしちゃってもう。

親友同士で喜んでるのに割り込む趣味の持ち主では無い。

取りあえず全員テレビ前に退避して邪魔をしないように。











「ふう、一段落かな」

そう言ってオレの隣りに来たとーちゃんの手には封筒が握られている。

入学案内とか、その手のが書いてある書類関係。

こんなのが入ってるからあの封筒の時点で確定なんだが。

「おい、耕介アイツだけどさ」

まだなのはちゃんと何か話すフェイトちゃんを親指で指す真雪ねーちゃん。

火は付いて無いが咥えた煙草がやけに様になってる。

パラパラとパンフレットを捲るとあるページを指定、そこは。

「これ、どーすんだ?」

そこはお金に付いて書かれた部分、計って書いてあるところ。

えっとゼロが12345……ウゲエ。









た、高いし、流石は小中高大一貫学校!? 寄付金って何だよ……

真雪ねーちゃんは、知佳ねーちゃんの学費。ずーっと払ってたんだよな……

しかもその最中に寮の部屋は買いとってるし……スゲエ……

「あんましすぐ動く金ねーだろ、いいのか?」

こうして実際の金額を見るといくらオレでも心配になってしまう。

かーちゃんの動物病院はアレだし、とーちゃんは実質寮費が収入だし。

オレ……バイトでもしようかな……

「ああ、実はソレ関係でもう一つあってな」

ズボンのお尻ポケット、そこからとーちゃんはもう一枚の封筒を取り出す。

今度はさっきとは違う、宛名も、差出人も無い真っ白な封筒。

もう開けた後があり、そこから取り出した手紙。横から読むと一番上にはこうあった。


時空管理局提督
リンディ・ハラオウン
アースラは数日前に出発したがもう着いたのだろうか。

「とーちゃん?」

「プレシアさんが目を覚ましたってさ」

背後で喜ぶフェイトちゃんに、これは吉か凶か。

オレには判断出来なかった……




あとがき

フェイト周りの環境が変わっていきました。

今後もはやて関連やお見舞いに転校とイベント盛りだくさんでございます。

そして雪児はちょっと影が薄いなり。




>※鬼丸さんへ
>雪児のゆる?い感じがたまりまへんwww


正直主人公としてはアクが強いと思っていましたので、受け入れてくれる人がいるとめっさうれしいです。



>※鬼丸さんへ
>久遠分が足りない! 純粋なフェイト最大の難所になる真雪&リスティはまだ動いていない……
>つまりまだまださざなみ寮のターンは始まってすらない!

寮初心者フェイトがどうしてもメインになってきています。
今回の話でちょこっと変わってきたフェイトちゃんでした。



>※鬼丸さんへ
>HOME_REHOMEの11話を読んでフェイトの可愛さに感動し、ユーノの扱いに涙しました。
>というか、この話に限らずユーノの出番が少ない!
>ケイスケのときに至っては出番0だし!
>彼に日の光は当たりますか!?

予定上ではユーノが目立つ話を用意しています。
ええ本当ですよ、ええ本当。



>※鬼丸さんへHOME REHOME最新話読みました。
>いや〜やっぱとらハ2の世界はと言うかさざなみ寮はいいなあ。
>3部作やリリカルも含めて一番好きな作品で下から、しかしさとみさんとは随分と懐かしいキャラをw
>個人的に耕介が好きなので、頼れる優しいお兄さん的になのはやフェイトたちと関わる場面が欲しいです。
>そしてロリじゃいの称号を得る(マテ


美緒エンドによると後に寮に所属するようですので出番となりました。
みなみちゃんルートで無いと出ない超マイナーキャラを理解してくれてありがとうございます。


>※鬼丸さんへ
>さりげにバーニングアリサがネタとして出てる件。


とりあえずアリサが関わる時は必須ネタかと。


>※鬼丸さんへ 
>最新作読みました。すずかさんとのすれ違いにきづく日が来るのか?と心配になります。

気付いたら気付いたで死にたくなる罠。


>※鬼丸さんへ
>雪児が絡むとクロノが年相応の子供に見えてしまう不思議www 仲の良い悪友といった感じにwww


そのような関係を想定しております。
クロノユーノは雪児周りの男としては超貴重な常識的な人です。


























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