扉を開けるではなくぶち破ったのは誰でも無い、クロノだ。
後で聞けばねーちゃんでもそうしたと言っていた、第一手で相手と差を見せつける交渉術だ何だらしい、らしいが。
HOME_REHOME 09話
現在バリア内で電撃に耐えてたら意味ないと思うんだ。
「ぐおお、ドンだけ続くんだよこの電撃!!」
「く、不味いか、長期戦になると……」
長い杖と黒い胸元の開いたドレス、濃いめの化粧をしたフェイトちゃんのかーちゃん、プレシアさん。
単独で戦艦を落としかけるほどの人。
さっきも十数人いたアースラの戦闘員を一人で退けたそうだ。
現状はかなり不味い、入った瞬間に雷を打たれて足が止まってしまった。
バリアで防いでいるが、ずっと防いでいる訳にも……
五つのジュエルシードは、プレシアさんの隣りにフヨフヨ浮かんでいる。
その五つが共鳴するみたいに少し少し光を増して。
それと同じように揺れが強くなっていく。
「くそ、どーすんだよこれ!!」
一か八か解除したとして、普通の雷なら背が一番高いオレ一人に当たるはず。
だったらその隙にクロノとねーちゃんにプレシアさんを。
……やるか。
三人で張っているバリアの内一つでも力が抜ければ破られてしまうだろう。
この状態の硬直を解くには身体の一つや二つ!!
「雪児、変な事考えるなよ」
そう声をかけてきたのはクロノ。だけどこのままが不味いのも分かってるはず。
「じゃあどうすんだよ!?」
「今考えてる!!」
クソ、なんか無いのか?なのはちゃん達を待つってのも何時になるか分からないし、かと言ってこのままだと……
そんな中、一人沈黙を保っているねーちゃん、何か考えてるっぽい。
ゆっくりと、閉じていた口から出たのは。
「雪児、お前一人でやれ」
驚愕の提案だった。
△△△△△△
何もかもが私を裏切る。
アリシアは甦らない。
ジュエルシードは期待通りの出力に達しない。
フェイトは私の期待に答えない!!
挙句の果てには管理局の介入だ!!
夫は私を捨てた、会社は私を利用した!!
何もかもが煩わしい、もう私にはアリシアしかいない、アリシアを取り戻す。
アリシア、アリシア、アリシア、アリシア、アリシア……
もう私にはアリシアしかいない。
失われた伝説の魔法都市アルハザード、しかし私は知ってる、アルハザードはある。
虚数空間にさらに穴を開けたその先にかの地はある。
そこには死者蘇生の魔法すらある。だから今目の前にいる三人等に煩っている場合では無いのだ。
いい加減、どれだけ私の魔法を受けていると思っている。
どれだけ人数が集まろうと無駄な事。私の魔力に対抗できる人間なぞ、ここにはあの艦長以外に……
「いい加減消えなさい!!」
ミッド式の魔法陣を足元に展開、プラズマランサーを打ち込む。
バリバリと空気を裂く雷鳴と光の中に邪魔者は消えていく。
あはは、そう私の邪魔をするものはみーんな消える、リニスみたいに……
さあ、最後の仕上げを、背後にアリシアのポットを転送。
後はジュエルシードが砕けるまで力を……
「それが、アリシアって子か」
……何ですって?
誰がしゃべった、管理局の三人はさっきの魔法で!!
爆煙が去ったところには、たった一人、たった一人だけが残っている。
バカバカしい、単にあの子一人置いていかれただけだ。
背中に生えた黒い光の羽には興味があるが、どの道今からアルハザードにいく私には関係無い。
もう一度、今度はフォトンランサーで十分だろう、それで終わりだ。
周囲に展開したライトニングスフィアが全弾命中する、バリアの上からでも十分に押しつぶした……筈なのに。
背後に黒い羽を浮かべた子は、尚も立ち続ける。
ゾクりと身体が冷えたような気がした、有り得ない。
私がたった一人の少年にそんな感情を持つなど、冷静になれば肌寒いのが原因に過ぎない。
――肌寒い? 気温管理されたここで?
ハッとしてバリアを張る少年を観察する。
羽が、最初は腰位までだった羽が、今は膝に達するほど巨大化していた。
△△△△△△
かなりのものだな……
プレシア・テスタロッサの背後に回り込む間、彼女は雪児に掛かりきりだ。
煙幕がかかるほどの雷撃を隠れ蓑にリスティさんのテレポートで離脱、雪児の熱吸収を全開にして耐える。
「潰れろ!! 潰れろ!! 潰れろぉぉぉ!!」
なるほど、彼女の状態は恐らく正常とは言えないだろう。
経歴から見ても、目の前の事に集中する傾向があるが、それでも今の彼女は異常だ。
気が付いているだろうに、雪児のバリアは彼女の攻撃の度に固く強くなっている。
彼女の雷に加熱された熱を吸収してエネルギーにしているらしい。
全く、アレだけの力があって何であんな……ああ、馬鹿だからか……
「行くよ、クロノ君」
確かに急げば急ぐほど雪児の負担は下がる。
だけど焦って見つかったら意味が無い。
「……あのままだと空気が無くなって雪児が倒れる」
……了解です、しかし本人に伝えて無いあたり、理解して……
「スゲー、スゲー、こんな手があったのかー」
……100%気が付いて無い……
取りあえず、しばらく雪児がやられる事は無いだろう。
ならば今はプレシア・テスタロッサに気付かれないように移動する事が先決か。
中腰で見つからないように移動するとリスティさんの後ろ姿が目に入る。
思わず余所を向いてしまった。
「リスティさん、後ろを取ってどうするんですか?」
声をかけたのは若干邪な目で見てしまった照れ隠しだ、自覚できる分タチが悪いと自分でも思う。
振り返らず黙々と進む姿から、口ではアレコレいいながら今でもプレシア・テスタロッサを止める雪児を心配する気持ちが見て取れる。
「まあ見てなよ、ようはあの石を奪い取ればいいんだろ?」
だけど、雪児の姉はそんな焦りを一切見せない笑みを、振り向き、披露していた。
後少し、この時の庭園、最下層は施設内とは思えないような場所だ。
浮遊する石、かつては若葉が茂ったとおぼしき枯れ木、隠れるところに苦労は無い。
そこをプレシア・テスタロッサの視界に入らないように移動を繰り返す。
物音を立てないように移動する技術はアリア達に習ったものだ。
ネコと同じレベルの移動術を要求された時には理不尽に感じたものだが、今となっては有り難い。
後数メートル、雷撃魔法の轟音の中、一歩一歩の足と地面の摩擦音が心臓に悪いのが不思議だ。
聞こえる訳が無いと理屈で認識していても、それでも今この絶好の機会を自分で潰したらと気が気でない。
一歩一歩を早く、丁寧に
ズガンと爆音が突然響く、思わず心臓が止まりそうになった。
雪児に何かあったのかと、つい頭を出して音の元を確認して
「ごめんなさい」
バチリと後ろから柔らかい手のひらと電気が流されて。
自分の意思を伝えなくなった身体が倒れ込む時に目に入ったのは、金の細糸だった。
△△△△△△△△
天井が崩れ、目の前に落ちた破片が壁を作った。
壁はフェイトのかーちゃんの雷を防いでくれた。
でもこれ、少し外れたらオレがペシャンコだったんですが……
? はて、攻撃が止んだ。
罠かとも思ったが岩から顔を出して様子を見ようとすると、三つ影が。
一人は単パンにタンクトップと色々目に毒な女性。
一人は一番小さい身体を白と朱の巫女服に身を包む金色の幼女。
最後は黒いマントに黒い服、黒い鎌に髪と同じ金色の刃を付けた少女。
アルフ、久遠、フェイトちゃん。
この場に置ける、主役と言っていいメンバーがそこにいた。
「何をしに来たの」
疑問系で聞きながら、答えを聞くという気を全く感じない。
拒否してるような感じ、いや、絶対的に拒絶ような感じを受ける。
その視線に晒されて、身体が固まるのは仕方が無いのだろう。
フェイトちゃんの身体が少しだけ固くなるのが見えた。
そんな彼女の背中に触れるのは久遠、頑張れというように優しく触れる。
「……母さん」
「貴女に母と言われる理由は無いわ!!」
こちらに向っていた杖が今度は三人に向う。
間に合うか? と疑問に思ったが、勘で間に合うと判断した、割り込むように杖とフェイトちゃんの間に立つ。
杖を向けただけでフェイトちゃんのかーちゃんは雷を撃ってこない。
冷静になってしまったという事だろう、さっきみたいに無限ループでハマってはくれない。
その視線はフェイトちゃんに欠片も興味を持ってはいない。
違和感を覚える程に。
向き合ったまま、どちらも動きが無い。
オレはフェイトちゃん達がいるから動けない、アッチはオレのバリアを破れない。
どちらも状況を変える方法が……何だ?
ジュエルシードの輝きが消えた、だけど圧倒的な力が消えたようには。
数瞬の間、全員の視点がジュエルシードに集中し、光を失った。
強烈な閃光から回復した目に映ったのは、ジュエルシードの中心がビシリと表現するように裂けた空間。
気が付いたらさっきの場所からかなり吹き飛ばされていた。
空間に浮かぶジュエルシード、その五つが均等に並び、今までとは比べ物にならない力を中心に集めて。
「な、なんだぁ?」
「いけない、暴走だ!!」
暴走って何だよ、とフェイトちゃんに聞く間も無く、更にジュエルシードの力は増していく、既に伏せないといけないくらいに。
「あーーーうーーー!!」
「うわ、あぶねえ!!」
その中心に吸い込まれるように、一番小さい久遠が吹き飛ぶのをキャッチ。
童女姿のまましっかりと足に捕まって貰った。
既にフェイトちゃん、アルフも四つん這いになって暴風に耐えている。
一度吐き出したものを取り込むように力は外側ではなく、内側に向って圧力を生み出す。
ねーちゃんにクロノ、フェイトちゃんのかーちゃんは?
ねーちゃん達は隠れてたんだけど、フェイトちゃんのかーちゃんは?
「母さん!!」
いた、部屋の端っこの端っこ、フェイトちゃんソックリの子が浮かぶシリンダー、そこに横たわっている。
見た感じ、気絶してしまったのか?ピクリともしないで――ゴフと何かを吐いた――
「母さん!!」
「!? ダメだフェイト!!」
アルフの制止の前にフェイトちゃんはシリンダーの方に飛び出す。
ジュエルシードの方に若干流され、それでも執念というものか、少し少し近付いていく。
取りあえず、あの石を止めないと不味くないか?
「くおーん」
オレの意思を汲み取った久遠、バリア解除のタイミングに合わせ、雷を打ち込む。
これで……ダメか!?
ジュエルシードは何も変化が無い、それどころか嫌な感触がバリア越しにも感じられる。
空気が重くなるような、拒絶されるような。
「母さん、母さん、母さん!!」
横目にフェイトちゃんがたどり着いたのが見える、どうも気絶しているみたいだ。
「フェイトちゃん、久遠手伝って!! なんかヤバいって!!」
もう一度久遠が、今度は大人モードに変身する、本気モードだ。
「やるよ、フェイト!! 雪児、解いて!! アルフ、手伝って!!」
普段とは比べ物にならないくらい滑舌よく久遠の指示が飛び出す。
アルフからチェーンバインド、フェイトちゃんからサンダースマッシャー、久遠からはライと力強い言葉と力が開放。
その三つは、迷わずジュエルシードを縛り打ち抜く、が。
「嘘だろおい……」
微動だにしていない、その全てを弾き返されていた。
「はあ、はあ、つ、疲れて……」
久遠? そういやオレ達の前で全力を出してからまだ数時間しか経っていない。
フェイトちゃんも色々ダメージあるみたいだし、ここまで来るまで闘ったりしてる筈。
「アルフ!! フェイトちゃんとこ行け!!」
フェイトちゃんも杖に寄掛かるくらい疲弊している、オレの力であの石の怪物を倒せた事が無い、ってことは多分オレには倒せない
ズリズリと摺足でフェイトちゃん達の方に向い壁になる。
後ろから風が来るんじゃなくて、正面から吸い込まれるのは奇妙な感じ。
ヤベェ、ねーちゃんとクロノはまだかよ……
今度はエネルギーの補充なんか無い、ガリガリと削られていく一方。
周囲の熱を吸収して、バリアに変換を。
「ね、ねえ、なんか寒くない?」
そう言い出したのはアルフだった、そしてようやく気が付いた、ねーちゃん達が離脱した訳を。
リアーフィンの熱吸収をカット、それでも身体の中にはまだ大量の雷の熱が残ってる。
だけど状況を変えない限り何時かはバリアが……
焦りが徐々に失われていく熱をいつも以上に感じさせる、気にしないような量の消費で、いつもの倍くらい気力が消費された。
ど、どーすんの?
羽が徐々に小さくなる、その時間は短くて濃い。
普段の倍くらい消費しているようで、それでいて力の流れが明確に覚えられる。
打つ手無く最後の瞬間にジリジリと押し出されている感じ……いや引っ張られてるんだけど。
頬に浮かんだ汗が気持ち悪い、袖で拭うと余計にベタベタして気持ち悪い。
久遠もフェイトちゃんも疲労から回復していない、今の二人が回復する前にオレがガス欠になるのが予想できる。
いっそバリアを解いて楽になりたいと内から囁く声が止まらない。
精神が切れそうで、それなのに下手に頑丈に出来た脳味噌はプレッシャーに耐えている。
ああ、とーちゃんのメシが食いたい、かーちゃんの病院で動物に触りたい、学校行って友達連中と馬鹿したい……
真雪ねーちゃんの漫画が読みたい、美緒ねーちゃんのバイクに乗りたい、御架月と月見がしたい……
さとみさんとみなみねーちゃんとバスケしたい、薫ねーちゃんと十六夜さんとお茶呑んでゆっくりしたい……
知佳ねーちゃんに会いたい、シェリーねーちゃんにもフィリスねーちゃんにも
ゆうひねーちゃんの歌が聞きたい、ソングスクールのばあちゃんやフィアッセさん達……
力が少なくなって来た、いよいよヤバい。
ああ、そういや……なのはちゃんどうしたんだろ?
「フェイトちゃん!! 久遠ちゃん!! 雪児さん!!」
ぼーっとし始めた視界に、上からピンクの光線。
空からカバさんじゃねーや。
△△△△△△
時間が無いと思ったから床を打ち抜いて来たけど……
プレシアさんは倒れていてクロノ君とリスティさんがいない。
雪児さんが必死でバリアを張っていて、フェイトちゃん達は疲れてる。
「なのは、先ずは!!」
ユーノ君の言いたい事は分かってる、ジュエルシードに向ってディバインバスターで封印をする事から。
足元から凄い力で引っ張られるけどそれは頑張って耐える。
耐える分杖の先がブレてしまう、それでもこのくらいならまだ……
「シューット!!」
レイジングハートからディバインバスターの発射宣言、ピンク色の光が柱みたいに暴走するジュエルシードに。
これで……って!?
ディバインバスターの光線は、ジュエルシードに……届いてない!?
五角形に浮かんでいるジュエルシードは、少しだけ配置を歪めただけで暴走を続けてる。
「ゆ、ユーノ君何で!?」
今までこんな事は無かった。
シールドで防がれる事はあっても全く効かないなんて事は。
「た、多分だけど、きちんとロストロギアとして使ったからじゃ」
つまり、今まで相手にして来たのは説明書も読まないむちゃくちゃ操作、今は全国トップランカーがやってるようなもの?
ユーノ君によく例えが通じなかったけど、多分そんな感じなんだろう。
ど、どうしたら……
ディバインバスターのバリエーションなら今の倍くらい凄いけど時間がかかるし。
それにそれで封印できるとも限らない、アレは撃ったらもう魔力が切れる、ど、どうしたらいいの!?
そうしている間もジュエルシードの暴走は強くなっていく、時間をかければかけただけ封印が大変になるんじゃ……
わ、私が失敗したらみんなが……ど、どうしよう本当に
「なのは、僕が「なのはこっち来て!!」」
久遠ちゃんが大人モードで呼び掛ける、つまり……うん!! それなら!!
雪児さんの後ろに着地、フェイトちゃんも久遠ちゃんも疲れてる、雪児さんのバリアは徐々に小さくなって来てる。
「雪児さんもう少しだけお願いします!!」
おーうとやる気を感じないけど、多分、きっと、一応大丈夫だと思う。
久遠ちゃん、フェイトちゃん、少しだけ待って、おっきいの行くよ!!」
「うん!!」
「分かった」
よし、シューティングモードで周囲から……うん行けそう。
ジュエルシードも吸ってるけど魔力ばかりというわけじゃないみたい。
後少し、後少し……
「いいんだ、僕なんか……」
「いやお前、女子の友情に混じるのはな……」
? 二人は何を……
集中、集中、久遠ちゃんとフェイトちゃんは私の合図待ち、三人掛りならきっと大丈夫。
レイジングハートに集まる力が臨界を迎えるまで後10 9 ……
本当は撃とうと思えばもう撃てる、だけど今ここでベストを尽くしたい。
感覚がこうやればとプランを告げる、いけると何となく思う。
カウント5から口に出して……
「5 4 ……」
フェイトちゃん久遠ちゃんの力が高まっていくのを肌で感じ、変だけど安心する。
「3 2……雪児さん解いて!!」
雪児さんの羽が消えて、同時に台風みたいな風を全身に浴びてしまう。
ありがとうございます、きっと成功させます。
最後のカウントは
「「「1!!」」」
「サンダースマッシャー!!」
「雷!!」
「スターライト、ブレイカー!!」
二人の力も混じっているのか、金色の光が少しだけ混じる私の閃光がジュエルシードを貫いた。
△△△△△△
今までで一番派手かもしれない。
三人の少女から伸びる閃光、金の二本がピンクの一本を守るようにジュエルシードに直撃した。
「やった?」
「これで駄目なら諦めるようだよ」
ユーノがそう言うだけの事はある、こうしているだけで力に吹き飛ばされそうだ。
周囲の風も止んで、後は封印するだけに……「嘘!?」
楽観的な思考はなのはちゃんの叫びにキャンセルされた。
ジュエルシードが……見えて来た……
少し、ほんの少しだが三人のビームを押し返しているような……
「不味い!! なのはのはそんなに長く出るような魔法じゃ!!」
オイユーノ!!そんな悲観的情報をしっかり断言するな!!
「う…うううう」
「あう、は――は――は」
「……」
いけない三人とも限界が近い、少しでも力を貸せれば。
右手を伸ばして力を……いつも以上に情けない熱線がジュエルシードに。
「チェーンバインド!!」
「ストラグルバインド!!」
ユーノ、アルフも光で出来た帯と鎖でジュエルシードをバリアの上から締め上げる。
後少し、後少しなのに!!足りない力が、時間が!!
久遠とフェイトちゃんの雷が、なのはちゃんのビームが、徐々に徐々に……
く、クソ
「もう――ダメ――」
誰もが諦めを感じる強大な、ジュエルシードの力が「アポート」
!? よく知った呟きを合図に力が弱まった!!
三人もそんなチャンスを逃す子はきっと一人もいない。
「今ァァァァァ!!」
久遠が叫ぶ。
「―――やぁぁぁぁぁぁ!!」
フェイトちゃんが吠える。
なのはちゃんが、杖を
「いっけぇぇぇ!!」
振り下ろした。
三つの閃光は今度こそジュエルシードを覆い尽くす。
二人に二つのジュエルシードが飛んで来て
「ヤレヤレ、主役みたいなタイミングだな」
咥えタバコにニヒルな感じの笑みを浮かべたねーちゃんが。
「全く危機一髪だ……」
ジュエルシードを一個杖にしまうクロノがやって来た。
気が付いたら振動は全て止まっていた、床や壁の穴も染が消えるように小さくなっていく。
もう気を抜いても良いだろ、腰を床に落として大の字で横になる。
はあ、終わったー
「オイ雪児、せめてアースラに帰るまでは気を抜くな、フェイト・テスタロッサ」
クロノから一々苦言が飛出し、その矛先はフェイトに向う、折角明るかった彼女がまた……
「あーフェイトちゃんや、何かやらかしたならちゃんと言わんといかんぞ」
真っ白な顔を蒼白くにまで変えたフェイトちゃんが何したのかは知らんが、まあ先ずはそれからだろ。
な、何だ? クロノがこー白けたみたいな視線を俺にぶつけてくる。
何か変な事言ったのだろうか?
「はあ、いいよもう、エイミィ、記録は無いな」
『はい? 何の事でしょう? 艦長の息子殿』
はて、一体全体何がどうしたのだろうか?
フェイトちゃんも土下座するんじゃないかというくらいの勢いでクロノに謝り倒して、ツンデレなクロノは知らないを連呼する。
まあとにかく、後……何したらいいんだ?
「プレシア・テスタロッサはアースラで身柄を拘束する、フェイト・テスタロッサは拘留こそしないが」
クロノは何故かそこだけ強調するようにして
「くれぐれも、くれぐれも大人しくしていてくれ」
ああ、ほっとくと奪還しかねないよな彼女、久遠となのはちゃんに付いててもらうか。
後これはどうするんだろ? 溶液に浸かったフェイトのかーちゃんだかねーちゃんだかは。
プレシアって人にバインドって光の糸を使ってクロノが拘束する。
なんか縛りがエロい希ガス、あくまでオレがそう思うだけなんだが。
二十年以上前の死人か……七瀬さんじゃあるまいし、きっと魂も無いんだろうな。
そう思うと少しだけ切ない。
さて、プレシアさんを一番力持ちなオレが抱えて、これでアースラに――ピシ――へ?
気が付いた瞬間には崖が崩れていた、アリシアちゃんのいたところ――オレが立ってたところを含めて。
△△△△△△
時の庭園突入から数日。
ジュエルシード暴走の影響調査のため、アースラは数日の間現宙域に留まる事になった。
幸い大規模次元振動も、虚数空間も収縮の傾向が見える、Aランクロストロギア暴走事件にしては極小規模の被害ですんだと言える
観測が一瞬も休めない時間も過ぎ、多少の余裕が出た。
今回の事件について、管理局に報告しない部分について個人的にまとめておこうと思い、日記を広げたところだ。
今回の事件を察知したのはジュエルシードの起こした次元振動。
スクライア一族が発掘し、管理局に移送する筈が、原因不明の事故で第97管理外世界にばらまかれたロストロギア。
別に、ロストロギア移送中の事故なんか珍しくも無い……とにかく、ばらまかれたジュエルシード、それを集める三組の存在があった。
ジュエルシード発見者、ユーノ・スクライアと協力者である高町なのは。
ミッドチルダ出身の魔導師フェイト・テスタロッサと使い魔のアルフ。
現地魔法集団、退魔士である神咲那美と久遠、そして槙原雪児。
この三組が合流した時、封印に時間が掛かってしまったために、ジュエルシードの次元振動は起きてしまった。
話を聞いた限り、それまでユーノ・スクライアとフェイト・テスタロッサはジュエルシードを奪い合っていたらしい。
だが僕達アースラが到着した時には既に友好を築いていた。
現地到着の時、揃っていた三組の意思確認を行おうとしたが、フェイト・テスタロッサが逃亡する。
彼女は具体的な回収理由を持たない、言うなればお使い役に過ぎなかったからだ。
彼女本人は、母に言われた通りに集めていたに過ぎない、何に使うかも分かっていなかった。
バックにいたプレシア・テスタロッサの目的、それは27年前に死んだ娘アリシア・テスタロッサの蘇生。
ジュエルシードのうち、現地組織の回収分は既に強固な封印が施され、回収は不可能となっていた。
今回、プレシア・テスタロッサに渡っていたジュエルシードがもっとあれば、この程度の被害では済まなかったかもしれない。
彼女はジュエルシードの莫大な魔力を使い、次元トンネルを作る事を目的としていたのだから。
彼女の履歴を調べた限り、と言っても二十年以上前の情報だったがこのような短慮をする人間では無かった。
娘を失った研究中の魔導炉事故、その安全責任者だった彼女が作ったというチェックマニュアル。
もっとも納期ばかり気にした会社にほぼ無視されたらしいが、暴走の危険性はこれに従えば予め発見出来ただろう。
それほどリスクコントロールに慣れた彼女だったのだ、事実、検査では正常とは言えない状態にあった。
ともかく、フェイト・テスタロッサとアルフからの事情聴取に辺り攻撃を仕掛けて来たのが事実であり全てだ。
フェイトのデバイスごと格納されたジュエルシードを奪取、本拠地である時の庭園の駆動炉の魔力を無理矢理注ぎ込んでの暴走。
周囲に飽和する魔力に耐えられない次元は、外に魔力を逃そうとする。
そうして空いた虚数空間を通り、底に眠るアルハザードを目指す。
本当に、穴だらけで話にならない……
虚数空間にアルハザードがある、その仮説は分かる。
不可能が無いとまで言われた魔法文明だ。
歴史から突如として消えて、消えた直後に起きたという大規模次元振、この二つが揃えば虚数空間に落ちたと子供でも連想する。
だけど、例え虚数空間にあるとしても、虚数空間の何処にある?
魔導師であるプレシア・テスタロッサが、魔法が使えない虚数空間でどうやって探す……どうやって移動する……
とにかく、彼女はフェイト・テスタロッサを初め、人造生命の研究、他にも有りとあらゆる研究を行なった。
全ては実の娘、アリシア・テスタロッサを蘇らせるために。
そうしている内に、何時しか何かが狂ったのだろう。
話を戻そう、フェイト・テスタロッサはプレシア・テスタロッサに捨てられた。
そうとしか表現は出来ない、ジュエルシードの奪取時の次元間魔法、そして庭園に突入した武装局員を介して告げられた決別。
ショックで放心した彼女を何が蘇らせたのかは知らない。
ユーノ・スクライアと高町なのは、槙原雪児と久遠、そして神咲那美さんの代りに来たリスティ・槙原。
最終的には復活したフェイト・テスタロッサとアルフも加えたメンバー。
プレシア・テスタロッサの制御を失ったジュエルシードを止めたのは、この全員の力だった。
プレシア・テスタロッサは現在アースラにて拘留中、いや、治療中だ。
今の彼女は、何も出来ない……
全ての支えを失った今となっては……
あれは――
「雪児!!」
リスティさんの声の前に走り出した、雪児の力は虚数空間でも消えない。
が、それは万全の時の話だ。
今、僕の視界にスローモーションのように映る彼は
既に黒い、短過ぎるくらいの黒い翼を出して飛ぼうとしている。
――しているだけだ。
力が足りないんだと、頭の冷静な部分が告げ。
彼の足場が崩れて行くのを、その場にいた全員が走りながら見る事になる。
彼と、彼が抱えるプレシア・テスタロッサと、シリンダーに入ったアリシア・テスタロッサが虚数空間に落ちていくのを。
その時の雪児の表情は、恐怖でも無く、驚きでも無く。
迷いだった。
その瞬間、何を考えたのかは、本人にしか分からない。
僕達見ていた人間に分かる事はたった一つ。
雪児は自力で助かった、プレシア・テスタロッサも連れて。
彼は跳んだのだ。
アリシア・テスタロッサのシリンダーを足場に。
△△△△△
外が見たいな……
アースラの客室の窓から見える世界は不思議な色をしている。
知佳ねーちゃんに借りた昔のSFみたいにエーテルでもあるんだろうか。
ベッド脇に丸まった久遠はこの数日ずっとオレの側にいる。
オレよりフェイトちゃんのところに行けと言ってもオレの傍を離れない。
飛んで戻った時には、誰もが言葉は無かった。
少しだけの沈黙、その後には身体の心配と『仕方なかった』の慰め。
事実、オレもそう思う。
あの時、アリシア・テスタロッサはただの屍体で、オレとプレシアさんだけでも助かるにはあれしか無かった。
あの数秒でオレ達を引っ張りあげるには
ただ、あの後からぼーっとするだけだ……
何か気になる事はあるはずなのに、それを考えるのも億劫。
だから誰かが部屋に入って来ても、何も感じなかった。
肩を掴まれて揺さぶられる、けど、それがどうしたのだろうか……
目は見えてる、周りも分かる、けど何なのかが分からない。
「……雪児!! 雪児!!……はあ、仕方ない……」
不意に――身体が浮いた。
ジンジンする頬、浮遊感、そして地――面!?
人工のツヤツヤした床に思いっきり手を叩き付けて姿勢を直す。
それで手の平に、頬に、打ち付けたところが痛い。
「何すんだ!! って……」
目の前の影はオレより二十以上大きい、それでいて姿勢は綺麗だから2mを超えるんじゃないかと錯覚しかねない。
「とーちゃん?」
「ああ、とーちゃんだぞ、分かるか?」
さざなみ寮管理人槙原耕介その人がいた。
「で、どーしたんだ? 話してみろ」
「いいよ、別に」
もう終わった事なんだ、そしてオレは間違って無い、だからいいんだ。
そう思った時、何かがグスリと痛かった、気のせいだよ、と今度こそ口に出そうと……
「……あれ?」
頬が……冷たい……濡れてる……
「あれ? あれ? あれ?」
止まらない、拭いても拭いても冷たい涙は止まらない。
「なんで、だよ……」
悲しくなんか無い、昔知り合いだった春原七瀬さんだって言ってた。
自分みたいに二十年以上自縛霊して自分が分かるのなんか滅多に無い。
二十年以上前のアリシアちゃんの魂だって、もう消えちゃったか転生したかしてるはずなんだ。
だから、あれは……
ポンと大きな手の平が肩に触れる、何年も何年も料理に使われた分厚くて繊細なとーちゃんの手。
「雪児、がんばったな」
へ……
頑張った?……違う……そうだ違う。
いや、あれは……あれは……
「でもアリシアちゃんだっけ? きちんとしてあげられなかったな」
あ、ああ、そうか、そうだな、失敗で――踏み付けて――
「あ、う――あ、ごっ――っ――な――うあ」
言葉が上手くでないで、苦しい気持ちと、謝りたい気持ちで胸が――
「――っあ、うあ――」
ポロポロと、タガが外れたみたいに出て来る涙、とーちゃんの手を背中に感じて、久遠だけがそれを見ていた。
我に返るとやたら恥ずかしくなる、何いい年してガン泣きしてるんだ。
少し時間を貰って洗顔しようとお手洗いに行くと目ヤニとか色々酷い。
バシャバシャと水をぶつけてスッキリした。
戻ると、やはりとーちゃんがいた、というか何でとーちゃんいるの?
「ん、とーちゃんは付き添いだよ、那美ちゃんのな」
へー、ん? 何で那美さんが来たんだ?
△△△△△△
ここ数日の私に対しての扱いは、かなり穏やかだったと思う。
拘束も無かったし、何より母さんを見ていれば……
母さんは目覚めている、いるのに……
「母さん……」
母さんは、何も反応しない。
アースラの治療室のベッドに、魔法封印の手錠はかけられたままだ。
本当は私もこの手錠が必要なはずなんだ、母さんの後ろに回り込んだクロノ達を魔法で足止めしたんだし。
だけど
「なんの事だ? その時に何かされたなんて記録に無い」
「まあ、そう言う事、反省してるんだろ?」
リスティもクロノも、何も無かったみたいに。
申し訳無い気持ち、私にできる事が無いのが何より心苦しい。
母さんがいる、そして私は何も知らなかった、仕方ない。
そう、そして一番言われたくない言葉。
私は……母さんから思われてはいなかった、利用されたから。
違うんだ、私は母さんに喜んで欲しいと思っていた。
母さんのためなら何でもするつもりだった。
だけどその母さんは、アリシアを完全に失った母さんは……
あの時、今でも出来る事は無かったと分かってる。
崩れる足場に、落ちて行く雪児、母さん……アリシア。
もしも間に合っても魔法が使えない虚数空間で私は無力だ。
母さんも雪児も、ましてやアリシアのシリンダーを支える事は出来なかった。
だけど、私は……母さんが助かって、嬉しかったんだ。
だから、御礼を言いたい、言いたいのに……
「こんにちは、いいかな?」
突然掛かった声に振り向く、そこにいた人は見覚えがある。
そう……確か久遠を探していた雪児と一緒だった人。
茶色い制服ではなくて、真っ白い服に赤いふちが付いた久遠に似た服を着てる。
物腰が、ここ最近にあった人の中で一番柔らかい印象。
「神咲那美、覚えててくれた?」
ニッコリと微笑む那美、えっと……
「お、お久しぶりです……」
何故か丁寧に返事をしてしまった。
△△△△△△△△
「オーッス、フェイトちゃん」
久遠を懐に入れてプレシアさんの病室に行く。
部屋の外で壁に寄掛かったフェイトちゃん、那美さんは……中だよな。
「あ、雪児、久遠」
「くん」
元気に飛び出す久遠とフェイトちゃんは、少し戸惑ってるかな?
飛び出した久遠はフェイトちゃんの胸元に飛び込んで頬をペロペロと小さい舌を出して舐めていく。
凄いよなぁ、こんなに久遠を懐かせるなんて。
「あ、雪児さん!! 大丈夫ですか!?」
お、なのはちゃんだ。
「雪児!! この馬鹿、愚弟!!」
「痛い、痛いぞねーちゃん!!」
なのはちゃんの後ろから走ってきてヘッドロックするねーちゃん。
その後もユーノが、クロノが、アルフが。
次々来ては殴ったり叩いたり怒鳴ったり。
リンディさんやエイミィさんにも心配かけたらしいし。
いや本当申し訳無いです。
「いやはや、やっぱり肉親は強いねー」
「本当、私が何言っても反応もしなかったのに……やっぱり年かしら……」
な、何があったんだここ数日間の出来事は……
全く記憶に無い――いや、なにかうっすらなんか聞いたような見たような……
な、なに? ねーちゃん、気にしなくていいって何があったの?
いいからじゃなくて何があったの!?ねえ、ねえ!?
なのはちゃん達に視線を向けたら何故かフイっと逸らされた。
いやマジ何があったんだ!?
「ふう、これで大丈夫じゃないかと、あ、雪くん久し振り」
背後のドアを開けて出て来たのは那美さん、確かプレシアさんの部屋だよな?ここ。
那美さん……何しに来たんだ本当。
……予想していたが……
「よってプレシア・テスタロッサは心神喪失状態と……」
――頭から湯気がでそーです。
こっそり隣に座ってるなのはちゃんの膝を突っついて「分かる?」と小声で聞いてみる。
「えっと私も詳しくはあんまり……」
だよなあ!! オレの理解が不足してるんじゃないよな!!
「そこ、5歳も年下の子の同意で安心するな」
クロノの手厳しいツッコミ、だって難しーいんだよ〜〜。
「えっとね、犯罪を犯した場合にその人が正常な判断を下せたのか……ようするにまともだったか違ったかで罪が違うんだ!!」
「「おおお!!」」
ユーノ先生マジ分かりやすいです。
クロノが疲れると全身で表現しているが、仕方ないだろ分からんのだから。
んで? それがどーしたの?
「だから、……もういい、今後の話だよ、とりあえずプレシア・テスタロッサの身柄は管理局で押さえる、ここまではいいか?」
一瞬だけフェイトちゃんがビクっとした、まあかーちゃんが逮捕されると言われて愉快な人はいないだろう。
周囲を見回して意見の一致が見えてから、クロノはもう一度息を整えて話を進める。
本人も愉快な気分はしないだろう、どっちにしろ人を不幸にする決断をしているようなものだ。
とても同世代のやつの精神とは思えない。
クロノは執務官? とかいう仕事人間でオレはただの学生って環境の違いがそうさせるのだろうか。
いやオレがクロノの立場をできるとは思えないが。
「それで、久遠から意見があった、プレシア・テスタロッサを神咲那美さんに見てもらえと」
そうしてやっと順番が来たといわんばかりに那美さんが立ち上がる。
巫女服に身を包み、しっとりとした雰囲気でゆっくりと立ち上がるのを見てると別人のように
「はい、わきゃ……うー、ごめんなさい」
うん、袴の裾を踏んずけたな、これでこそ那美さん。
「プレシアさんを見たところ、残念してる、悪霊みたいなものの残滓を感じたので、それは祓ってあります」
? 悪霊?そんなもん憑いてた……ってあの場にいたメンバーでそういうのが分かるのは−−
足元で久遠が一鳴き、そうか久遠がいたな、じゃあそんなのが憑いてたからってことに?
「それはプレシアさん自身の念みたいな、そう言ってみれば生霊みたいなものです、よっぽど悔しかったんですね……娘さんの事が」
え、えっと? また話について行けなくなったんだが……
「では、今は正常な状態に?」
「いいえ、いきなり正気に戻ったようなものですから理性が現状を見返すまでは、一応経過をよく観察してください」
議事進行はクロノが中心に質疑応答し、それをリンディさんが眺めて、エイミィさんが記録しているような感じだ。
こ、こういうのに参加するのはすっげー遠慮したい、何言ってるのかわからん。
「後、体調についてはまた別の原因があるみたいで」
「ああ、それについてはミッド移送後に入院してもらう予定になっている、原因も分かっているから問題ありません」
そ、そうか健康なら何よりだ……うん、色々と。
「それでは」
ま、まだあるの? 正直今の状態でいっぱいいっぱいですよ、オレは。
「フェイト・テスタロッサ、君の今後についてだ」
ほえ?
△△△△△△△△△△△△
「え?」
突然、だけど当たり前の話題。
でも、何を言われても私の気持ちは決っている。
「私は母さんと「駄目よフェイトさん」」
な、何で!? 私の発言に割り込んだのはリンディ提督、このアースラで一番偉い人。
私を見る目は極めて真面目で有無を言わさない雰囲気すらある。
「フェイトさん。プレシアさん、お母さんの入院は必要よ、その間どうするの?」
それは勿論お見舞いして、お世話して……
「フェイトさん、貴女はまだ子供なのよ、それに……言いたくは無いけど……」
一瞬目を閉じたリンディ提督、そこから感じてしまう。
ここから先は、私にとって……
「今のプレシアさんに、常時貴女が付いているのはマイナスになってもプラスにならないわ」
――それは!?
「ちょっとリンディさん!!そんな言い方!!」
「くーーーん!!」
「落ち着きなさい、雪児くん、久遠ちゃん」
……っハッキリ他人に言われるのは自分で思った以上に厳しかった。
理屈は分かっているんだ、アリシアを完全に失った母さん、そしてアリシアになれない私。
弱っているなら尚更だろう。
やっぱり……無理なのかな……ダメだ涙が……
「フェイトさん、貴女達に必要なのは時間よ、今からって訳にはいかないの」
「……はい」
理屈は納得できる、できるけどやっぱりショックはある。
仕方ない……よね。
「? あのねフェイトさん勘違いしてない?」
? 何を……
「私は何もお見舞いはしちゃいけないとは言ってないわよ?」
え? あ、じゃ、じゃあ。
お行儀が悪いと分かっていても机に乗り出してリンディさんに迫ってしまう。
時間が必要、見舞ってもいい、それって。
「今のプレシア・テスタロッサの体力では裁判にも耐えられない、だから裁判開始までの身の寄せ所をどうするか、という話だ」
あ、うん、そうか……ど、どうしよう、ミッドチルダに住むところなんか無い。
地球の隠れ家は……お金がもうあんまり無いし……
「んじゃオレん家こねー? いいよなとーちゃん」
雪児の家? でもそんなの悪いし。
「ん、フェイトちゃんさえよければとーちゃんはいいぞ、愛さんも……」
「ああ、私は構わないよ、うちは寮だし」
え? でも……
「……すみませんお家賃が……」
「ああ、ツケでいい……かなあ?」
一瞬悩んだ雪児はお父さんの顔色を伺うように、リスティとお父さん、雪児の家族。
「まあ、いいんじゃないか?愛さんに聞かないといけないがな」
「雪児と違って真面目だしなフェイトは」
え? うん勿論払うし、それに……
チラリと見るのはなのは、彼女は……
「じゃあフェイトちゃんご近所さんになるの!?」
「えっと、その……」
「あ、私はフェイトの好きな方に付いてくよ、賛成だけどね」
アルフ……そうだよね、アルフのお家も……
「じゃ、じゃあお願いします」
そう頷いた瞬間になのはが、久遠が飛び出して来て。
「やったぁ!! よろしくフェイトちゃん」
「くーーーん!!」
え、えっと嬉しいんだか恥ずかしいんだかなんだか、ふ、複雑だ。
こんな流れで、気がついた時にはリンディ提督があっという間に色々な手続きをしてくれて。
気がついた時には荷物が纏まって、寮の前にいた。
海鳴の山の中、前に行った温泉がずっと先にある。
そんな場所にある二階建ての建物、庭には何かのスポーツ用のコート。
先に寮に入っていった耕介って雪児のお父さん、リスティ、久遠。
玄関に足を踏み入れて
「お邪魔します」
「違うよフェイトちゃん、今日からしばらくここは君の家なんだから」
え?……先に玄関に上がったリスティは雪児に向けるようないやらしい目ではなく、優しい目。
久遠も何かを待っているような、そんな……
「えっと……その……」
な、なんだか恥ずかしい、何をいったらよいのかは分かってる、分かってるんだけど。
返事なんか貰った事無かったし。
三人の視線は言わないとダメーって雄弁に語っている。
「……た、ただいま」
最後の方がどうしても声が小さくなって聞こえなかったかもしれない。
だけどもう、顔から火が出そうな状態。
「はい、おかえりなさい」
あ、うん、その、悪くないかも。
この新しい家は。
>鬼丸さんへHOME_REHOME07話の感想
>黒同士、クロノと恭也って通ずる物が無かったんですかね?w 後、なのはの不憫さに泣いた。
>兄よ、もう少し良い言い訳があっただろうに…。雪児のほうがましな言い訳に見えるw
>そして、そんな言い訳に騒げる雪児のクラスメイトが大好きだw
うーんその辺忘れてましたぜ。
クロノは元々なのちゃん用に設計された決戦兵器ですからプチ恭也なんですよね。
まあTVはなのはさんになってしまってフラグがへし折れましたが
クラスメイトは正に楽しい連中を想定しております。
学生は騒いでナンボwww
>鬼丸さんへ
>さすが久遠。人外魔境海鳴のとらハ軍団最強だな
>そしてついに久遠は次元を越えて信者を増やすw あれ?さざなみだけじゃなくて御神流まで参戦フラグ? ……
>闇の書逃げてええええ!!
いやはや、久遠は色々最強ですよ?
そして、知っていて放置している高町家ではないのですよ。
>鬼丸さんへ
>雪児のマイペースっぷりはもはや神の域か!?どんだけ己が道を進むさこの子はwwww
>そしてやってきました久遠のターン!!でも元に戻った途端に「お腹すいた?」は吹いたwwww
>これぞ久遠クオリティーwwww
うーん終盤に至るまでマトモに事態を理解していないのではこの子……
ちなみに久遠は理解してますよ? 体が小さい時はそっちに引っ張られてますが。
>鬼丸さんへ、
>うん、恭也がすげえWWW それにあれを信じるすずかに萌えました。
すずかちゃんはもうちょっと人を疑う事を覚えよう。
そして恭也は、至極真剣に発言していましたwww
>※鬼丸さんへ
>もし教会編が続いたら、カリムがディードに御主人様に調教されるメイドという
>知識をはやてと一緒に植え付けていそうですね。
>そして、オットーが男装執事はありかな。とか言ってさらにパニックに…
ぬ?男装執事は公式ですぜ?
はやては面白がって色々吹き込みかねない……
追記 拍手は出来るだけあて先を書いて送ってください。
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