街灯もない神社の境内。

そこにその暗闇よりも深い黒い塊が立ち上がる。








そういえば最近やったト○ロの黒いの。

あれの巨大バージョンと言うべきか。

警戒するなとはとても言えない外見。

150cmあるオレの、明らかに高さだけでも二倍はある。

でも重いように見えない不思議な黒いの。

えっと、異常は見つけたけど……何これ?







HOME_REHOME 1話目









「なあ、久遠、これなんだ?」

フルフルとする仕草で知らないと伝えて来る。

つまり残念してるものでもない。

……取りあえず那美さんかとーちゃんかリスティねーちゃんに連絡を取ろう。

後ろズボンに突込んである携帯電話を取り出して。

……取り出して……

ポケットに戻した。

やってみる、やりもしないうちから頼るのは何か負けた気がする。

左手首のバンクルを外してポケットにしまった。

「……久遠、ちょっと試してみる」

喋れない動物状態でも、びっくりしたのが分かる。

未だに動かない固まりを睨んで、











力を外に出した。

あのバンクルはリミッター。

ちょっと人とは違うものを普通になるくらいに押さえるもの。

外した瞬間から世界が変わる。

目には真っ暗に映ってる世界が昼間以上によく見えるのでなく感じている。

そして

今久遠の目にはオレの背中に黒い虫の羽が映っている筈。

HGS正式名称高機能性遺伝子障害。

先天性の遺伝子疾患病だが、その中である特性を持つケースがある。

手のひらに力を溜める、そうとしか表現できない。

集まる力をーー


思いっ切りーー「うりゃー!!」ーー振り回した。







超能力、HGSはそんなものを使えるケースをいう。

うちではオレ以外にリスティねーちゃんや知佳さんがそのケースだった。

背中にリアーフィンってイメージでできた羽を生やして念力や瞬間移動って力を振るえる。

何で使えるかなんて分からない。

オレからすると、手を動かすくらい自然な事だから。













その力を黒い固まりに思いっ切り振り抜いた。







熱という形で放出された力が、固まりに当って






「□□□□□□」






聞き取れないような声をあげて、これで…







「□□□□」





あれ?







「□□□□」






な、なんか何にも効いてないような……






黒いのがグルグルて回って……





「うわーー!!」

「くーん!!」

さっきのなんかまるで答えて無いんだ、もう一度力を溜めて熱を放つが

「□□□□」

何それ? と言っているように反応すら返ってこない。

「もう一発!!」










三度目の正直と力を……溜まらない。

「あれ?」

ムーンと力んでも何も起きない、それどころかリアーフィンが消えそうなような……






あれ?

「ゆきじ……がすけつ?」

あ……






いつの間にか人型になった久遠の言う通り、これは力が無くなった時の……

黒いのはグルグルと力を溜めてるみたいな動き……

ま、まず!!

「雷!!」

かわいらしい声が響いたと同時に真っ暗な境内に真っ白い光が満ちた。

眩んだ目が戻ると、黒いのがいたところ……

そこは焦げた後と、真っ青な石が転がっていた。




































で、だ。

「どうなんだ那美」

「うーん、私も何でも知ってるって訳じゃないから何とも……耕介さんは?」

「いや、那美ちゃんが知らないのにオレみたいな半端アルバイターが知ってる訳ないでしょ、御袈月は?」

「すみません耕介さま、僕も……」

……あのー。







「こうなると薫に連絡する方がいいか」

「そう……ですね、楓ちゃんに葉弓さん達にも、すっごく危ないものですし」

「そうだね」









……あ、足が……

「あの、皆様、雪児様が……」

「いいんだ御袈月、これは久遠を巻込んだ罰なんだから」

とーちゃんのお達しで正座一時間を更に延長。









黒い玉が消えて、焦げた地面に罅が入った以外はいつもの神社。

さっきまでがうそみたいに静まり返っている。

原因っぽい宝石を手に家に帰ろうとした瞬間。

神社にパッと現れたのはリスティねーちゃん。

銀の短髪と身体にフィットした服がラインを強調している。

そして……烈火のように怒っていた。








ねーちゃんは現在警察の協力者をしている。

理由は、よく知らない。

というより教えてくれない。

普段は、寮の暴帝と呼ばれる真雪さん二号というくらいオレをいじる意地悪ねーちゃんだが。









「雪の字!!」

雷のような怒声に周辺が引きつるように震えた。

同時に背中から生まれる光る羽。








槇原リスティ、ねーちゃんもHGSだ。

それも最も戦闘向けって言われてるくらいの。

最初こそ、周辺を見回したが、やがてそのおっかない目は俺に向き。

「じゃあ、寮で言い訳を聞こうか……」

底冷えのする声が辺りに響いた。















寮で出迎えてくれたのは、こう言うトンデモ関連のメンバー。




久遠の飼い主の那美さん。

とーちゃん。

そして御袈月。







那美さんは神咲って御祓い屋。

とーちゃんは那美さんのねーちゃん、薫さんから神咲一灯流ってやつを習ってる。

何でも霊力って力で幽霊を倒すのが一灯流で、それに関しては神咲一門で一番容量があるとか。

御袈月はそのとーちゃんが使う刀だ。

霊剣って言って、簡単に言うと幽霊が憑いてる剣で、世界に数本しか無いらしい。

数少ない、寮の男仲間だって事が幽霊より重要だけど。










「で、雪児」

とーちゃんはいつものように声をかけてくる。

だけど分かる、すっごく怒ってるのが。

基本穏やかで、とっても色々おっきい人だけど

オレが悪い事をした時はすっごく怖い。

「何ですぐ寮に帰らなかったんだ?」

……素直に最初に思った事を言えばいい。

言えばいいのに……

「久遠も一緒だったら帰るべきじゃないか?」

ねーちゃんと同じHGSでもとーちゃんには勝てる気がしない。

「……そ、その、オレでも何とか」

ブオっと耳に残る風が響く。

痺れる頬と、冷たい壁に触れる反対側。

キーンとする耳鳴り。

「こ……耕介さ……」

「那……こ……あ……」

痺れが徐々に頭に昇る、目に映るのは、とーちゃんの……























ほっぺたにペロペロと舐められる感触がある。

暗い、目が覚めて最初に思ったのはそれだった。

次第に暗闇に慣れて見回すと、ここが自分の部屋だって理解する。

ああ、とーちゃんにひっぱたかれたんだっけ?

濡れたほっぺたの方には一匹の子狐、久遠がいた。

そっか、ガス欠だったし、気絶しちゃったんだ。
















オレの部屋は昔のとーちゃんの部屋。

かーちゃんと結婚する時に離れを作ったんだけど、オレが一人で寝るようになってから貰ったんだった。

「ありがとな」

多分ずーっとやっててくれたんだろう。

頭を撫でると元気に鳴いてくれる。

耳を澄ませばまだ話し合いは続いているみたいだ。

まだ間に合う、ベッドの縁に手をかけて、

重くて持ち上がらない……

何がって身体が、












「く、久遠、取ってライター、ライター取って」

机の上に置いてあるライター。

久遠は器用にそれを咥えて手のひらに乗せてくれた。

火打石を引いて火を、熱を作り。










「む、ふん!!」

リアーフィンを展開した。

手元のライターから感じる熱が消えて身体に活力が生まれていく。

リアーフィンはイメージだ。

実体は無いんだけど特性によって形状が変わる。

例えば今東京に行ってる仁村知佳、やっぱりHGSなんだけど、光を吸収して力を出せる。

コード:エンジェルブレス。

実に知佳ねーちゃんに似合ってると思う。

うんうん、きれーだしやさしーし、一度決めたらってカッコいいとこもあるし。









……現実に帰ろう。

取りあえずオレの場合は熱だ。

こうして熱を作れば力を回復できる。

普段は念力で持ち上げてるけど、体重なんか160Kあるからガス欠だと本当に動けない。

何でリスティねーちゃんは軽いのにオレはこんなんなんだろう?

知佳ねーちゃんは断固答えてくれないし。









そんな事考えてるうちに、何とか動けるくらいに回復できた。

久遠を胸に抱き上げて、暗い部屋を歩く。

本棚と机、テレビは無いけど机のノートパソコンは知佳ねーちゃんから貰った大事なもの。

後はベッドくらいしかない。

殆どリビングにいるからだけど。











よし、今度はきちんととーちゃんに話すんだ。

さっきはびびっちゃったけど今度はそうはいかない。

久遠を抱いてる反対の手でグっと拳を握り。

「とーちゃん話しがある!!」

バーンと扉を開けた先は……









先は……







パタンと閉めた。

「明日にしようか久遠?」

「くーん……」

消極的賛成と判断する。

寝よ寝よ、久遠も那美さんとこ帰りにくいだろーから泊まってけ。

二人で布団を被って外界情報を遮断する。

たまに張り詰める空気にビクっとして中々眠れない。

「……かーちゃん怖い……」

「くん………ガタガタ」

怒ると怖いんだよね……

























翌日。

気絶するほどのビンタ打った刑でかーちゃんに怒られても朝のご飯を作るとーちゃん。

それを捕まえる。

「とーちゃん」

「ん……」

まだ怒ってるよね。

でも目のクマは隠せない。

辛くてもかーちゃんを台所に立たせる訳にはいかないのが辛いとこ。

懐の久遠を床に放す、とことこと距離を取ってくれるのは流石だよ。

「……とーちゃん」

「那美ちゃんがな、昨日の石、東北の葉弓さんに送るそうだ」











葉弓さんっていうのは那美さんの親戚。

神鳴流って呪い祓いをやる家の人だ。

きれーな髪と目が印象的な日本美人。

そっか、呪いとかそっち系なんだ……

「で、だ、その、な」

? なんでとーちゃんが?

「那美ちゃんが言うにはまだ海鳴にある可能性があってな……」

うん。

「……雪児がよければ手伝ってって」

「本当か!!」

よし、それなら……あれ?














「とーちゃんいいのか? 昨日の今日で」

「ああ、まあ真雪さんにな、雪児だって何かしたいだろって」

真雪さんが……











仁村真雪、この寮の主的存在で草薙真由子って名前で漫画を書いてる人だ。

知佳ねーちゃんのねーちゃんで、まあとにかく凄い、本当に凄い人。

でも今はありがと。

「……なあ、雪児とーちゃん何で怒ったかわかるよな」

「……うん」

久遠も連れて、危ないって分かってるのに……それでもそこに行っちゃった。

何かできるって、それだけで……

結局出来なくて、久遠も危ない目に

「まあ、なんだ、だから真雪さんはな、コイツにできる事やらせろって、俺は早いって、そのだな……」

とーちゃん。

「何いいたいかわかんねー」










「あっはっは、耕介じゃあ簡単には言えないよなー」

珍しい……本当に朝のリビングには珍しい顔だ。

最近の分煙の流れを何それというように咥えタバコをした女性。

ワイシャツをラフに羽織ったスタイルのいい美女。

眼鏡から覗く鋭い瞳が印象に強い。

さっきの話にあがった仁村真雪さん。

「……珍しい……」











本当に珍しい。

なにせ普段は完全な夜型人間だし。

朝まで漫画を書くなんてよくあること、稀にオレも手伝うけど、その時は朝の5時に寝るような感じだった。









「なあ、雪児」


「ん」

真雪さんはここである意味一番強い人。

今は香港にいる人達を除けば一番年上だからか、大人って感じが一番する。

だからだろうか? 普段はだらしない人の筆頭みたいだけど。

寮の大事な時にはきっちりと締める人だ。

「お前、約束できるか?」

……強さじゃない、人的な重圧って感じ。

多分これを断ったら、また何もできないで……

「那美の言うことをきちんと聞く、無茶だと思ったらすぐに引く」

……すーはー、すーはー。

呼吸を整える、意思は……変わらない。

しっかりと、真雪さんの目を見て……

「うん」



















そうして回収を始めて数日。






「雪くーん、久遠ー大丈夫ー?」

「那美ー」

暗いグラウンドを一直線に走り那美さんに久遠が走る。

拾った石はこれで三つ。

かなり、というかほとんど久遠に助けてもらっているんだけど。

オレ、これで本当にみんなの力になれてるのかな……





後書き

まさか、とらハ2だっていうのに初回から感想をいただけるなんて……

みなさま本当にありがとうございます。

と、このような経緯で無印回収戦に参戦です。

美緒は戦闘者ではないのでお話し合いには参加しませんでした。

雪児はHGS能力者です、とらハでいた羽の生える超能力者ですね。

PTに久遠、那美(不定期)を加えて、魔王エンカウントはまだ先です。

それでは失礼します。

追伸

前回拍手返信が漏れてしまっていた方申し訳ありません。
修正しておきます。




>鬼丸さんへ
>今さらだけどなのはの誕生日の話は書かれないのですか?
>バレンタインの話にちらっとあったから気になったので今さら送りました。

すみません、ネタが沸かずそのまま放置していましたw



>鬼丸さんへ
>ケイスケがヴィヴィオのパパ&にぃという運命から逃れるにはヴィヴィオ自身と
>くっつくしかないというある意味最大級の罠

ええええ!! そ、そんな、ケイスケに未だにロリコン化の危機!?
というかなのはと色々やりにくい関係になりますなw

>鬼丸さんへ
>ケイスケの機動六課の日々 第七話フリード<久遠<アイ?

いえ、次郎です。
とらハ2でもいた猫ですが、まだ生きてます。


>鬼丸様宛
>電文:祝・新シリーズ。リリなの世界はとらハ2の8年後くらいのはずだから、
>雪児もリスティと同じく養子かな? 
>なんにせよ、とらハ2さざなみ寮大好き人間の私には嬉しい限り。まったくもっ
>てありがとうございます。

どうも!! いまだにとらハ2を知っている人がいてうれしいです。
養子、当たりですw



>鬼丸さんへ  
>ケイスケシリーズを一気読みしました。素晴らしいです。
>本編をああいった形で終わらせることで、ギャルゲーでいう個別ルートをIFとして書く。
>無限の可能性って素晴らしいです、マジで。
>つまり、まだまだ書いてくださるってことですよね。大好きです。
>最後の方になって、ケイスケのファミリネームが「マツダ」としっかり車関係な
>のに気づきました。
>他のオリキャラはそういうの気にして作られてない気がしたので、そういう細か
>いところもグーですよ。

本当は真ENDとしてXをやろうと思っていました。
しかし4期とvividがががががが



>鬼丸さんへ
>新連載おめでとうございます。 何故かこの主人公も総受け、弄られになりそうな電波が…
>まあ、それは置いといて、ケイスケ共々期待しています。

いえ、それ以前に末弟なので色々弱いですwwwww


>鬼丸さんへ
>まさかの新連載。某理想郷で発祥したBIN病なる病気にならないよう御気をつけ
>て下さい。

欝病? ええその辺は気をつけております。


>鬼丸さんへ
>IF ENDディード(メイド版)希望
>実際にケイスケの家に住み込みでメイドさんをして、ケイスケがハプニングに巻
>き込まれる感じで
>ケイスケにメイド萌えの素晴らしさを
>そもそもメイドというのは…うわっ何をs
>グハッ(`ε´(○==

なんという展開!! というかそんなにメイドが好きかああああああ

私も好き。



>鬼丸さんへ
>新作オメ!そして久遠ktkr!!
>アニメ化して久遠も出ると思ったのに、現れたのが淫獣だったショックは忘れら
>れない…… 「淫獣殺害方法」を108式まで考えたものだ……

本当に出ないときは絶望しました。
久遠属性はフェイトに受け継がれたと無理やり自分を納得させた自分。


>>>鬼丸さんへ。 
>http://www1.fctv.ne.jp/~false/toraha/data/history.html を見るに、2-3間
>は7-8年後ということなのですが…。
>中学生がいるとすると計算合わなくないですか?

ええ実は養子フラグです。
詳細は後に色々晒していきます。


>鬼丸さんへ
>新連載お疲れ様です。とこれで、ケイスケの〜はもう書かれないのですか。

いえ、たまに書いています。
更新は不定期になっていきますが、たまにはアップする予定です。



>鬼丸さんへ 
>耕介の息子が主人公の話ですか。果たしてだれと結婚したんでしょう

何かで特に何も無かったら愛さんとってあったのでそれを採用しています。
つまり愛さんEND、ミニは二号です。


>鬼丸さんへ
>新連載できましたか〜。実はゆきじ君のステータスはケイスケを継承していたり
>して…!?(主に不幸体質な部分とかw)

不幸といいますか……三下体質? って思ってたり。


>鬼丸様
>続き〜きぼんぬ

えっと気長にお待ちください。




追記 拍手は出来るだけあて先を書いて送ってください。
拍手はリョウさんの手で切り分けられています。

作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。