魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第8話
僕は今、ジムニーさんに連れられて、ある場所へ向かっている。
こうして廊下を歩いていると、この技術開発部の建物には第1技術開発部や第3技術開発部など複数の開発部が
一か所に集められた場所のようだ。
ジムニーさんが不意に足を止め、僕に向かって「ここよ」と微笑みかけてくる。
僕にはこの人が、本当に女性らしく感じた。
いやぁ・・・ほんと色んな意味で・・・。
僕は頭の片隅で、とある明るいそれでいて結構目茶苦茶なポニーテールの上司を思い浮かべながらジムニーさんの招きに応じてその部屋に入った。
●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第8話 〈2人の上司は密会中〜後編〜〉●
数分前〜応接室〜
「すいません、ジムニーさん。ちょっとお願いがあるんですが・・。」
資料をまとめていた、私は不意にラウル君から声をかけられた。
お願い?なにかしら、私にお願いとは。
私は、キョトンとしてしまったがその頭では色々と考えていた。
初めて、あった私にお願いごと・・、何かしら。
ん?初めて会った?
初めて会った
↓
私の美貌に一目ぼれ
↓
私を誘っている
↓
ベッドイン
「ラウル君あなたにはまだ早すぎるわ。」
今度はラウル君がキョトンとなってしまったわ・・。あれ?間違えたかしら・・。
・・・・いやおかしなところは無いと思うのだが。
私はキョトンとする彼を見た。
じゃあ・・お願いというのは・・なんだろう?
「・・・・・まぁ良いわ、それでお願いって?」
「あ、はい実は・・・。」
そう言うと彼はポケットを探る。・・・何、あ、あぁ私ってば早とちりを・・。
「そうね、私はロボットものが好きよ。」
・・・あれ?また何かおかしなことを・・・?ポケットを探るってことは大抵映画のチケットが出てくるんじゃないの?
彼は若干苦笑いしながら、私にある物を手渡した。これは・・・・・デバイスね。
「それ・・・ちょっと壊れているんです。」
彼の発言を聞いてようやく合点がいったわ。そういうこと、お願いってデバイスの事だったのね。
私ってば・・・。昔っから想像力だけは豊かなのよね。
それよりも、壊れているから・・・えぇと。
「それで、これを私にどうしろと?」
「ちょっとアドバイスをいただきたいんです・・。その・・ジムニーさんって技術部の人だからそう言うのにも詳しいかなって思って。それ一応自分で組んだんですけど・・
どうも、元が古いの使ってるから、故障も多いし。」
私は自分で組んだというところに反応した。私は職業柄デバイスなどの魔法技術関連に関わる事が多い。というかほとんどだ。
これまでも数え切れないほどのデバイスを見てきたが、そのほとんどが局で使われる、オードソックスな物だった。
いや、まぁそれで普通は良いのだが、私はどうも満足できなかった。そんな時に出会ったのが、カスタムされたデバイスだった。
局の隊長クラスともなれば、それなりに自分に合ったものを使っている。そして製作する際にはそういった要望が来る。
カスタムされたデバイスは、その要望のいわば具現化。そういったデバイスには使い手の性格が見え隠れする。
私はそういう事から、カスタムされたり自分で組んだという、所謂お手製デバイスに人一倍関心を示してしまう癖があった。
今回もそれだ。アドバイスしてくれという彼の頼みよりも、そのデバイスに興味がわいている。
私は、興味津々な気持ちから来る、おもちゃを見つけた子供の様な笑顔を何とか抑え込み、目の前の少年に言った。
「ついてきなさい!」
久しぶりに面白いものが見れそうだわ!
へくちっ!!
なんだろ急にくしゃみが・・・。
「おいおい、なんだよ急に、風邪か?」
「いや・・・多分誰かが・・・そのあたしのうわさをしてるんじゃないかな。」
「・・・・なんだそりゃ・・。まぁそれにお前に風邪はねぇわな。」
む?どういう意味だろう。丈夫って言いたいのかな。
ライアは右手をひらりと返すとサラリとこう続けた。
「お前、バカだし・・・」
「おっぱいには言われたくない!」
「せめてそこは、大目に見てやるからバカを語尾に付けやがれ!!!」
とまぁ、時々脇道にそれながらも続く密会。
そしてまた話は戻って2人の部下の話に。
「それでさ、結局あのチビすけをどうしたいわけ?お前は。」
「まぁ、まだまだ先だけどよ」と付け加えたライア。うーん・・・どうしたい・・・か。
「正直言うとね、よくわからないんだ。まだ・・・。」
ライアはチラッとこっちを見たけど別に驚くとかそういうアクションは起こさなかった。
その返事は彼女にとって驚くほどでもなかったらしい。
「少年君ね、元々武装局員の卵だったって話はさっきしたでしょ。でもさ、じゃあ将来、武装局員になりたいのかって聞いたら多分あの子も・・・・分かりません
っていうと思うんだ。」
ライアは黙ってあたしの話に耳を傾けてくれる。
「そして、今あの子を支えているものは、良くも悪くも見返したいっていうある種の意地みたいなものなんだよ。
最近の少年君をみるとその思いに一定の変化はあったみたいだけど
根底は変わらない。得てしてそういう思いは行き過ぎて、時に取り返しのつかない事にもなりかねない・・・。」
思えば、「見返してやる」という気持ちは一種の相手への恨みのような感情ではないかと思う。
『自分は落とされた。だから見返してやる。』これだけ聞けば耳触りのいい言葉だ。そうだね、頑張って!で終わる
でも、裏を返せばそれは、『よくも自分を落としてくれたな!』という恨みの感情を、はらんだマイナス面も持っているということだ。
まぁ相手からすれば逆恨みもいいところだろうが。
考えすぎかなとも思う。でもスバルちゃんとの一件もある。強く出すぎる事があるのは事実だし、考えすぎぐらいがやはりちょうどいいのかもしれない。
「・・・・・・だからさ、あの子が自分の気持ちに整理とか付いて・・何かしらアクションがあるまでは、あたしもよくわからないんだ。鍛えといて何だけどね。」
「そっか、ま、お前がそう思うなら・・そうなんだろ。」
ライアも深くは聞いてこなかった。
今度はあたしがライアに訪ねた。
ライアは少し考えるとこう切り出した。
「正直聞いといて何だけどあたしも、迷ってんだよな。」
ライアは苦笑して、頭をかく。
「あいつの腕はさぁ、砲撃のスキルに特化して言えばもうそれなりのレベルにはあるし、正直あの腕を腐らせるにゃ勿体ねぇと思う。」
ライアは自慢げに行った後、少し下を向いて複雑な顔をした。
「でもそれって結局あたしが思っての事だろ。腕がいいから、力があるから、あいつはここにいるべきだって・・・。それは全部あたしが勝手にそう決めてるだけの事だ。
だけど、あいつが何を望んでいるのか・・・・分からねぇけどあたしとまったく同じって事ははないと思う。ただそれが当たり前になってるってだけでな・・。」
要はライアはこう言いたいんだろう。
彼には力がある。それはライアにとってそして部隊にとって必要な物なんだろう。でもそれを決めたのは彼なのか?
彼が自ら進んで局に入ったのは確かだろうけど、でも好き好んで戦う人はいない。でも彼は力があるから腕があるからデバイス片手に戦っている。
その日常が、戦う事が、既に彼の中では当たり前だと思っているから。でもだから迷っているのだろう、ライアは。
そんなのでいいのかと。いくら腕がいいとはいえ彼はまだ15歳。あたしが言うのもなんだけど武器を手にとって戦うにはまだ若い。
彼に会って初めて感じたのは年の割には、とても落ち着いていると感じた。でも逆にそれがここにいる事は当たり前だからという前提があったからあんなに、
落ち着いていたのではと、今になって少し思う。
思案するあたしをよそにライアは、話し続けた。
「あいつ、最近思うようになってきたんだけどよ、別に会話が嫌いとかそういう事じゃないんだよな。少し・・その不器用なんだ色々と。
人づきあいもそう、そして自分の事を相手に伝えるのもそうだ」
確かに彼は、自己紹介や事務的な説明、後はライアにツッコミとかは多少入れていたがそれ以外はあまりしゃべらない。
そう・・特に自分の事は。あたしにはそれが、彼が一定の距離を置いているようにも感じられた。
でもその疑問はあえて飲み込んだ。ここで聞くことでもないだろうと思ったからだ。ライアはは更に続けた。
「けどよ・・色々不器用だけど、細かいところに気がきいたり・・・根はいいやつなんだけどな、優しくて。ただ無口でムスッとした顔でいる時が多いから誤解されるんだ。」
ライアは目を細めて優しい顔だった。
あたしはそれを聞いて、ちょっと笑ってしまった。まるでそれはライアの事じゃないかってね。ライアは無口じゃないけど、根はいいやつで面倒見もいいし
乱暴な口調だが、なんだかんだで優しい。
不意にじゃあ自分はどうだろうかと考えた。
少年君はどうだろうと。
少年君は基本的に優しく丁寧で分け隔てなく誰とでも話せる才能がある。そして何より人付き合いはうまくも無いが下手でもない・・・。
それをあたしなりに自己分析した性格と照らし合わせてみる・・。
丁寧・・・ではないなぁ・・あ、でも誰とでも話せるかなぁ・・。で、人づきあいも・・・・そこそこ・・・。
ま、まぁ似てるといえば似てるだろう・・・うん。
そんなあたしの思案の内容が分かったのか、ライアが「ッハハ」と笑みを漏らした。
そう思うと、ライアもあたしも特に変わってないなと思う、そりゃ外見は・・・・・ねぇ。それなりに成長したけど、内面はそうでもないらしい。お互いに。
あの胸はけしからん!と思うけど・・・。
あたしは、話し終わったライアに「コーヒーおかわりは?」と聞いて立ちあがった。ライアは「あぁ」と言ってコーヒーカップをさし出してくる。
どうやらもう少し話は続きそうだな。
正直何にいらついているのか分からない。
何故?
あのジムニーという女のせいか?
それともガジェットか!?
俺がいらつき始めたのは、確かにあの女と話をしてからだ。
あの女は、事もあろうにガジェットが使えるかと聞いてきた。
そんなもの使えるはずが無い。
あいつは少し賛同したが、俺はノーだ。
ガジェットは質量兵器だ。魔法みたいに非殺傷設定が出来るような武器は持ち合わせちゃいない。
それにあの女はガジェットとデバイスが同じといった。そう考えるならと。
だが、俺はそうは思わない。
俺のがインテリジェントだからそう思うのか?
仮にそうであっても、デバイスとあんな兵器とは違う。
奴らに理性など無い。
やれと言えばためらいなく殺す。
だから・・あれは・・・・!
あぁもう!!一体何だという。こんな気持ちは初めてだ。
・・・・いや・・初めてか?
俺は何にいらついているのかはっきりしないもやもやを抱えたまま、レールウェイで108の隊舎を、目指した。
ジムニーさんの後について入った部屋は、なんと言うか言ってみればデザイナーオフィスのようなしゃれた空間だった。
あたりを物珍しそうに見渡す僕にジムニーさんが微笑しながらチラッとこっちを見やった。
「フフッ、もっと工場的な場所を想像したかしら?それとも、もっと薄暗い町工場みたいな?」
「あ、いえ・・そういうことは・・」
「それより、こっちよ。さ、座って。」
ジムニーさんは自分のデスクに腰をかけ、デスクのしたから取りだした折りたたみ式の簡易的な椅子を用意して僕を座らせる。
そしていきなり・・・。
「じゃ、起動してみて。」
なんて事をのたまった。
「え、えぇ!?こんなところでですか?っていうか僕は別に修理してもらおうとかそう言う事じゃなくて話を・・・」
「だから、修理するにもアドバイスするにも結局それを見なきゃ始まらないでしょ?」
そ、それはそうなんですけど・・ねぇ。良いのかな・・。
「それにここで起動させて驚く人間なんていやしないわ、こんな事日常茶飯事ですもの。それにここをどこか分かってる?そういう事≠専門的に扱うのがココなのよ。」
ジムニーさんは言い聞かせるように人差し指をピンと上げ、ウィンクする。・・・まぁそう言うことならと僕はデバイスを起動させた。
そしてスタンバイモードのカード形状から光に包まれた愛機がそのシルエットをさらす。
クローズドフォルムで姿を現した愛機を見て、ジムニーさんが目を輝かせた。
そして少し興奮気味に「ちょっと、見せて頂戴!」とデバイスを僕の手からさらう。
その顔は明らかにおもちゃを見た、子供のごとく無邪気な笑顔だった。
色々な角度から見た後、ジムニーさんはポツリポツリ呟くようにデバイスの特徴を言い始めた。
「ふ〜ん・・・ベースはS2Uなのね・・かなり古いロッドだけど・・。なるほど・・だからコアに処理用のサブコアを増設させて、コアの劣化を
補ってるのね・・。」
柄の部分を見てそう言うと次はブレード部分に目をやった。
「セラミックブレードか・・・このブレードヒンジはオリジナルね・・・あるいはジャンク品を見つけたか・・どっちにしてもきれいな仕上がりだわ・・。
ふむふむ・・・ここから魔力を放出して・・・マギリンクブレードを形成するのね・・。なるほどなるほど・・。」
やっぱり技術者だなぁとか思う、こう言うのを見ていると。細かい専門用語を連発しながらひとりごちるジムニーさんを見て僕はそんな事を考えていた。
「・・・・う〜ん・・でもやっぱりいろんな所がくたびれてるかなぁ〜・・。」
そう言ってデバイスをデスクの上に置くと僕の方へ向き直って、今度はデスクの引き出しから、ドライバーセットを取りだした。小さい精密ドライバーというやつだ。
おもむろに1本取り出すとジムニーさんはこう言った。
「ちょっと、バラしてみてもいい?」
「なッ!いやいやそれは・・・」
いきなり何を言うのかこの人は!さっきもそうだったけどどうやら少しズレているらしい事は理解できた。
でも次の言葉を聞いた瞬間僕は、反論が出来なくなる。
「・・でも壊れてるんでしょう?特に・・・魔力形成用のインバーターとか微振動破砕のバイブレーションシステム・・・とか?」
うえ!?僕は一言もそんなこと言ってないのに、どうして故障個所が・・・。僕は思わず目を見開いた。
そしてジムニーさんはそれを見て「あら、図星ね」とすぐさま続けた。
僕は少し考えそして・・・。
「・・・じゃ、じゃあその部分だけなら・・・お願いします・・。」
否定はできないだろう、相手の方が専門家だし・・。それを聞いたジムニーさんは満面の笑みを浮かべて「任せて!」といった。
ちょっと変わった人だけど、やっぱりこの人も凄い人だった。
チラチラと、ジムニーさんの手元を見ていると、実に手際良くブレードの部分を分解していく。
もう、既にブレードは本体のヒンジから取り外され、ヒンジ内に収まっていた、魔力駆動のモーターとブレード内に仕込まれたインバーターを含む
基盤が顔をのぞかせている。
この間、5分もかかっていない。
ジムニーさんは、細かくパーツを部分別に分けて一息つく。
「外見に反して、中々シンプルな作りなのね、あなたのデバイス。」
僕のデバイスがシンプルなのは、極めて単純な理由だ。そのブレード以外のほとんどがジャンクとあり合わせのパーツでできている事と、そのために起こる故障を、
あらかじめ予測して、整備性を高めてあるためだ。そのため、取り回しはしやすく扱いやすいが、繰り返すけど故障が多い。
その故障の理由を聞くい意味でも、ジムニーさんにお願いしたのだが・・・、色々あったがこれは間違いではなかったらしい。
「・・・まぁいいわ。ほらこれを見て?」
ジムニーさんはおもむろにブレード内部にあった、基盤を取り出して僕に見せた。・・・見事に焼き切れてますな。
「これを見て、その顔だと、何度か故障してるのねやっぱり。」
僕は黙ってうなずくと、ジムニーさんは人差し指を顎に当てた。
「・・・はっきり言ってもいいのかしら?なんで壊れるのか。」
・・まぁそれを聞きたいわけで、僕としても。それを踏まえたうえで改良できるならしたいと思うし。
僕は無言の肯定でその問いに答えると、ジムニーさんは「ふぅ」と聞こえるように息をはくと、きっぱりといった。
「これをこのまま修理して、新しいインバーターやバイブレーションシステムを取り換えたとして。・・・これまたすぐに壊れるわよ?」
予想外の返答でした。アドバイスどころか、このデバイスはダメですって。僕は少し焦って聞き返した。
「い、いやそんな、どうして!?」
「あなた、これが壊れた時、この微振動破砕のバイブレーションシステムを使った直後にインバーターが火花飛ばさなかった?」
僕は「えっ」となってしまった。――――その通りなのだ。このデバイスが壊れたのは、スバルさんのプロテクションを「ウェイブシザーズ」で切り裂いたそのすぐ後だ。
確かにバチバチッ≠チという嫌な音が耳の奥に残っている。
そして同様の故障は、スバルさんと戦う前にも、実際数十回と起きていた。
だが、これまで放置したのは、自分ではどうしようもなかったからだ。更に言えば、改良するにも、
色々とカツカツなこのS3Uでは現状が、いっぱいいっぱいで、基盤もこうやって置くしかなかったからだ。
それに一つ気になることもあるし・・。
変な言い方だが、現状様々な妥協の上に出来上がったデバイスがS3Uであり、僕のデバイスであった。その事は分かっているつもりだった。
ただ、こうもきっぱりとダメだといわれるとは思ってもいなかったのだ。素人から言われるダメだとプロから言われるダメだでは、その大きさは天と地ほどの差があった。
言葉に詰まる僕を見かねたのかジムニーさんは基盤を持って説明し始めた。
「いい、まず根本的にインバーターとこのバイブシステムがある位置が悪いわ。インバーターはあなたの魔力あるいは大気中の魔力の密度を変換して
このブレードに魔力刃を形成する。それだけでも相当な熱量よ。そのうえで、使う側にも負荷のかかる微振動破砕。このハバイブシステムが発する熱量自体は、
それほど多くないでしょうけど、それでもその熱量の相乗効果は大きいわ。これをもし、単体でブレードを振動させるだけならおそらく故障は少ないでしょうけど・・・」
チラッとこちらも見る。やっとそれなりに落ち着いた僕は、ある程度何を言いたいのかは、予測できていた。
「・・・そんな事はまず無理です・・・・・。」
「そうね、無理だと思うわ。というよりそもそもこれ自体が若干質量兵器と取られかねない代物よね。魔力刃を形成しないでも攻撃は出来るわけだから。」
その時の僕は多分苦い顔をしていたんだろうと思う。そう、僕が気にしていたのはそこだった。
質量兵器に入るか入らないのか、僕のデバイスは微妙なグレーゾーンだったからだ。
これが質量兵器だとされたら、デバイスは取り上げられる事は必至だし、何より上司のレイナさんにまで迷惑がかかってしまうかもしれない。
僕は恐る恐るジムニーさんの顔をうかがった。するとジムニーさんはなんてことない、普通に笑っていた。
「・・あ、あの!」
「そんな事はどうでもいいでしょう?」
意外な言葉だ。この人には色々驚かされる。
「これが質量兵器かどうかなんて言うのはどうでもいいことよ。あなたが使う分にはね。」
僕が使う分には・・?
「例えば、銃を持っている人が居たとするでしょ。じゃあその人は質量兵器を持っているからダメだとでもいうのかしら?・・・まぁいまの風潮からすれば持っていても
だめだってことになるでしょうけど、私はそうは思わないわ。私あのスターク君って子がガジェットについて『命令されたままに忠実に動くただの人形でしかない!』と
答えた時あたし言ったわよね、それならデバイスとて同じ事だと。あれがどういう意味か分かる?」
僕は思案する。デバイスと・・・ガジェット。このまったく似ても似つかない2者がジムニーさんは同じだという。
僕はまず技術者独特の感性なのかと思った。僕たちには、理解できない言いまわしなのだと。だが・・・・・・本当にそうか。
理解できない事を、彼女は聞いてくるだろうか・・・、と。彼女だって素人相手にしかも12歳というようやく右か左かが分かってきたような奴に話しているという自覚は。
あるだろう。だったら、答えはノーだ。絶対に僕にだって分かる簡単な答えなのだろう。それになによりこの言葉デバイスと同じといったのはジムニーさんだが、
その前の発言はスタークさんだ。つまりこれは技術者ならではの言いまわしという考え方は必要ない。
まずこの言いまわしを考えてみよう。
僕は『命令されたまま忠実に動く』というところに注意を払った。
命令されたままに忠実に動く。ガジェットは基本的に1つの目標を達成するために動くというのはレイナさんからもらった資料で読んでいた。
誰が操っているのかは分からないが、そこには「何故動くの?」という疑問は生まれない。
では、デバイスはどうか。デバイスは基本的に魔導師が持ち魔法行使の補助をしたり、自分を守る武器になって戦ってくれる。
それを命令しているのは、少なくとも魔導師で、デバイスはそれに忠実に従う確かにこの点においては、ガジェットと似ている部分がある。
命令され、それを行使する。そこにデバイスの「何故?」は入ってこない。なるほど似ている。
つまりは、そう言う事なのだろうか。浅い考えだが。
そういう意味で言ったのであれば、納得できなくもない。
やはりこうやってガジェットの事を客観的に考えられるのは、
ガジェットと戦っていないからなのかと再びそんな思いがよぎる。
ジムニーさんは、僕を見て「ま、そう言う事よ」と言ってまたデバイスの話に話題を変えた。
レイナがおかわりのコーヒーを淹れてくれている。コーヒーミルで豆をジャラジャラと挽く音がしている。
そんなレイナにあたしはおもむろに聞いた。
「そういやぁよ、あのチビすけの事、配属された経緯とか、魔法とかは聞いたけどよどんな奴かは聞いてなかったな。」
レイナはその言葉を背中で受け止めると、笑顔で返した。
「え!?なになに聞きたいの!」
むちゃくちゃはしゃいでいやがる・・・。っへ、あのチビすけの事になると途端にいい顔になりやがる。・・・あたしもスタークの時そうだったのかと少し思った。
レイナは、コトッとコーヒーをまたあたしの近くの台に置くと、ニッコニコしながら話し始めた。
「少年君はねぇ〜。なんと言っても可愛い!」
「お前コーヒーぶっかけんぞ・・・。」
レイナは、イヤ、ホントなんだって〜!とか言ってやがるが・・・。聞きてぇ事はそういうことじゃねぇの!・・・まぁそういうこともあるんだろうけどさ!
「――――っとまぁ冗談はさておき。あの子はねぇ、ホントに優しい子なんだ〜。感情をもろにストレートに出してくるし。」
そのあたりはスタークとは違うな。スタークは感情を読み取るのが難しいからよ・・。苦労するぜ、あの性格・・。
「根は強いと思うよ、ただその感情がストレートすぎるがゆえに、熱くなりやすいんだけどね。そこもいいところかな。」
まぁそれは分かる。どこかで抑えなきゃいけない時でも、そういう奴はなかなか抑えられないんだ。『感情を爆発させる』っていう言いまわしはホントにうまいと思う。
そして大抵そういう奴はあと後後悔するんだよな、そこで気がつくんだけどさ。そういう意味では良くも悪くも自分の扱いには不器用な奴かもな。
「ただ・・・誰とでも話せるのはいいけど押しが弱いから、自分からは積極的に・・っていうタイプじゃないかな。まぁお話は好きだし良く漫才みたいな事やっているよ」
「なるほど・・・・若干人見知りするタイプってことかね。」
レイナは笑って「そうかも」とだけ答えた。
少し・・・・・レイナがうらやましく思ってしまった。ホントはこんな事考えちゃいけないんだろうけど。
レイナは、自分の部下とこんなにも近い距離にいるのに、どうしてかあたしとスタークは少し距離を感じる。もちろんだが恋愛感情とは全く関係が無い。
ただなんとなく距離を置いているような気がしてならねぇんだよな。
別にここまで、なんて考えちゃいない。だけど、色々話を聞いていると、あいつらは上司と部下って関係とは少し違う。
スタークはあたしに、冗談とかあまり言わねぇ。
話も・・あまり積極的じゃねぇ。
だけどレイナとあのチビすけは、冗談も言い合う。話も積極的にする。
人づきあいが不器用な者同士が会えば、こうなるんだろうか。あたしも正直そんなにうまい方ではないし、スタークは言った通りだ。
そんなところに少しさびしさを覚えた。らしくねぇけどな。
らしくも無いセンチな気分に少しなっちまったあたしを、レイナはいつの間にかニヤニヤしながら、見ていた。な、なんだよ・・気持ちわりぃ。
「大丈夫だよ、ライア。スターク君はちゃんとライアの事慕ってるから。ライアが気にしてるよりももっと近くにいるんじゃないかな?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇ、急になんてこと言いやがる!」
あたしは、なんで赤くなってんだよ!そうじゃねぇっての!!
「はいはい♪」
やろう・・・・・でも・・・・・・・少し気が楽になったか。相変わらず単純だわ。
だが・・と。あたしは思う。
レイナはこれからも、あのチビすけを鍛えていくんだろう。
強くさせるために、そして向こうも強くなるために・・・・
あたしは少し心配だ。
これからあいつは・・・。
「・・・迷う・・だろうな・・色々と。」
ポツリとつぶやいたあたしの言葉にレイナは穏やかな顔で返してくる。
「・・・良いんだよ、それで。迷わないとダメなんだ。悩まないと。
悩んで、迷ってそれで初めて気がつくこともあるしね・・。」
あたしは、それを聞いて軽く息をついた。
その後もしばらく色々雑談やら言い合いをして、ふと時計を見ると既に時間は16時前だった。
さて・・そろそろ、あいつが技術部から帰ってくる時間だな。あたしはコーヒーを一気に飲み干すと、ゆっくりと立ち上がった。
それにつられてレイナも立ち上がる。
「うん?帰るの?」
「まぁな。レールウェイの時間もあるし・・。」
あたしは、そのまま部屋を出て、玄関を開ける。
後ろを振り返るとレイナが、これまた笑顔で立っていた。こいつは笑顔以外表情をしらねぇのか・・。
「じゃあ、今日は楽しかったよ!またやる?こういうの。」
「っへ、良いな、こっちも結構有意義な時間だったぜ!」
久しぶりだったけど、こうしてゆっくり話してみるとやっぱりお互いに変わってないわ。
「今度来る時までに、このドア引き戸にしとけ?」
「じゃあ観音開きにしておくよ、神々しくあたし参上みたいなね。」
軽口をたたきながら別れる。
・・・・やっぱり変わってねぇ。
僕はその後、色々話し合った結果、基盤の位置をずらすか、ブレード内部の一部を削ってそれに合わせるかして、後は熱対策をする事とだけアドバイスをもらって技術部を後にした。
僕は帰りのレールウェイに乗り込むと、外の景色に目をやる。
景色は移り変わり、やがてその景色の中に青い海が広がってきた。
正直海は好きだ。広くて、雄大で、でも何より僕は、あの揺れる水面の曖昧さが逆に好きなようだ。
フラフラとひょうひょうと、すました顔でなんでも受け止めてくれて、それでいてつかみどころのないトコとか。
多分海と山どちらが好きかと言われれば僕は絶対海というだろうな。僕には山みたいに、白黒はっきりしているのはどうも苦手なようだ。
そう言う水面みたいな人物をふと頭の中で思い浮かベた。軽口だけど色々受け止めてくれて、ふざけるくせに、言う事は言う。そんな人。
今頃何やってんだろうと、考えながら僕は下車の準備をした。
既にいらつく気持ちもある程度収まり、俺はレールウェイから降り隊舎方面へとタクシーを捕まえる。
運転手に場所を告げ、俺は窓の外に目をやった。
外の景色は市街地の喧騒を離れ、徐々に郊外の木々の揺れる緑豊かで静かな場所へと移っていく。
正直山は好きだ。いや山の自然が好きだ。この景色を見ただけで、まだ若干残っていたいらつきは完全に姿を消してしまった。
海と山どちらが好きかと聞かれれば、俺は絶対山という。海のあのどっちつかずな曖昧さが気に入らなかった。山にはメリハリがある。
優しさと、厳しさの・・。そのどちらかがはっきりと出るから俺は山が好きなのかもしれないな。
そして俺はそんな人物を知っている。口は荒いが、言う事はビシッと良い・・。豪快といえば良いのだろうかな。・・そんな人だ。
俺は1人で「ッフ」っと笑いながらその人を思い浮かべタクシーに揺られた。
時刻は、もうすぐ17時。そろそろ少年君が帰ってくるころだ。
あたしは、2階の観測室の椅子に座って、のんびりとそんなことを考えた。
今日の密会はクセになりそうだったなぁ〜。
互いに互いが、色々話し合うっていうのは良いことだよねうん。それに長く会ってなかったしね。
ライアも強い顔で話ししてたし・・・。
う〜ん今度はいつやろうなぁ〜
なんて事を考えていると、下でドアの開く音がした。どうやら帰ってきたみたいだね〜。
あたしは「よっっと!」の掛け声で立ち上がると、少年君を出迎えるべく足を1階の玄関へ向けた。
1階に下りて玄関を見る。そこにはいつもと変わらない、小さなあたしの部下がいた。
そしてあたしは少年君を見てこう言った。
あたしが隊舎に戻った時まだあの野郎は戻ってきていなかった。
とりあえず、自室で制服に着替えて、隊長室へ。
殺風景な部屋に、あたしのデスクと部屋の隅に、応接用のソファのあるごく普通の隊長室だ。
あたしは自分のデスクに腰掛けると、今日あった事を思い出した。
あの密会はなかなか面白れぇもんだった。互いに腹割って話すのはやっぱりいいもんだよな。
・・・・8年ぶりか。
土産話は今日しただけじゃ物足りねぇんだ・・・今度はいつやるのか、楽しみだぜ・・。
あたしがそんなことを考えていると不意に部屋のドアが開いた。そこにはいつもと変わらねぇ、無愛想なあたしの部下がいた。
だからあたしはそいつにこう言った。
「「おかえり、お疲れ様」」ってね。
〜あとがき〜
皆様お読みくださりありがとうございます。しるくです。
この小説を始めたころは前編とか後編とか
そんな長い物語なんて書けないだろうなと思っていましたが。
気づけば前編後編の物語になっていた・・・何これ怖い!
さてこの前後編と続いて、レイナとライアこの2人が自分の部下をどう思っているかを
中心に、最後に少しちょろっとラウルとスタークが自分の上司をどう思っているかに触れて書いてみました。
スタークは出てきてまだ回も浅いし書くにあたってどうかなとも思ったのですが、
より深く人物の説明にもなるかと思って
色々触れてみましたがいかがだったでしょうか?
後この密会編で初登場で、初視点のジムニー技師ですが、基本ズレキャラということでいきますので(爆
これ・・逆だったらレz(ry
それではまたこの辺で失礼させていただきます。機会がありましたらまた次回ここでお会いしましょう。
それでは、失礼いたします。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、