魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第3話
他の人から見れば本当に些細なことなのかもしれない。
多分、言った側もそんなに悪気あって言ったわけじゃないと思う・・。
それでも、僕の心にはひどく刺さるような言葉だった事は記憶している。
●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第3話 〈見返すんだ〉●
「僕と戦ってください・・・」
僕はこれまでの和やかな雰囲気をぶち壊す様に冷たく言い放つ。
レイナさんが、「あっちゃぁ・・・」と言って顔に手を当ててるけどるけど、そんなのお構いなしで話を続ける。
「どうなんですか?戦ってくれるんですか?くれないんですか?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!いきなり・・どういうこと!?」
訳が分からずに、語気を強め理由を聞いてくるスバルさん。どういうこと・・か。そりゃいきなり、そういうこと言われたら、
普通そういう反応になるよね。・・でも・・今ほしい返答は・・・そんなんじゃない。それにその理由を丁寧に説明できるほどすでに僕は冷静じゃなかった。
・・・・うわっちゃぁ〜・・、やっちゃった・・。
この子たち機動六課だったのかぁ・・
あの目を見るかぎり、ちょっともう何言っても止まりそうにないし。
にしても、湾岸地区なんですかって聞かれたときに気が付くべきだったのかも知れない。
こんな恰好だから、間違いなく局員ってことは分かってたしそれに加えて、湾岸地区ってことに反応する・・、
こりゃもう機動六課のメンバーってことを疑ってかかるべきだったなぁ・・。
でもいまさら、自分の迂闊さを悔いても、少年君の行動が取り消せるわけじゃない。
・・・だけど、ちょっと待てよ。これはある意味で・・良いチャンスかもしれない。
現状の少年君の実力が見れるいい機会になるかも。
彼を鍛え始めてからすでに1年半ほど、実力の底を見てみたいという気持ちもある。
頭に血が上っちゃってるから、なに仕出かすか分からないぶん、危ない賭けだけど・・・。
こんなチャンスは・・・滅多にない。
そう思うや否や、あたしはすぐに口を開いていた。こういうのは少しでも深く考えると、また不安な事考えて実行に移すのが遅れちゃうからね。
思い立ったら即行動に移した方がいいんだ。
それは、意外な申し出だった。てっきりレイナさんは反対するだろうと思っていたからだ。
まぁ反対したところでそれを振り切ってでもやるつもりだったし・・こっちにとっては好都合だ
「あー、ねぇスバルちゃん・・。どうだろう、少年君と模擬戦してみないかな」
「え、いやでもあの・・何が何やらいまいちよくわからないんですけど・・」
「いやでもさ、いま完全に冷静さを失ってる少年君に何言っても無駄だと思うんだ・・。だからお願い、多分1戦交えればさ、気も晴れると思うから!」
「え、えーとで、でも・・・」
「良いじゃない、やってあげれば?」
更に意外な人からの後押し。スバルさんも意外だったのか「ティア!」と声を張り上げて驚きを隠せていない。
賛同した声が若干呆れを含んでいたのに対して、表情は明らかにこっちを敵視するように睨んでいる。
「どういう理由があるのか、わかんないけどさ。戦えって言ってるってことは少なからず勝てるとか思ってるってことでしょ
舐められたもんよね、あたし達も。言っとくけどさっき確かにあたし達はあんたの動きは良かったとは言った。でもそれだけよ。
良かったって言った意味は、思ってたよりはって程度の意味。さっきのは、「本気だった」「本気じゃなかった」関わらず、あの程度じゃ1対1でやってもあたし達には勝てない・・」
ティアナさんもまた、冷たく言い放ってゆっくり立ち上がる。身長の低い僕は自然とティアナさんを見上げる形になっていた。
「やってくれるってことで良いんですよね・・。」
僕はスバルさんに向き直って念を押す。
スバルさんの顔からももう困惑の色は消えていた。そしてゆっくり確かにうなずいた。
「・・・うん・・いいよ。分かった・・でも・・一つだけ条件があるの」
「・・・条件・・なんですか?」
「模擬戦が終わってからでいい。どうしてこんなこと言い出したのか、きっちり説明して、お願い」
スバルさんはまっすぐ僕の目を見て言う。そこに好奇心とかそういった類の色は感じられない、ただ純粋にその理由を知りたいだけ。
僕は少し考えてから、ゆっくりうなずく。
「・・・分かりました」
この瞬間僕とスバルさんの模擬戦が決定した。
模擬戦は、六課の敷地内にある訓練用のスペースを使うことになった。
遮蔽物のほとんどなく、地面には砂で、広さはそこまで広大ではない。まるで小さなグラウンドみたいな所だ。
模擬戦の進行は階級の一番高いレイナさんがすることになった。
「いいね、時間は無制限。どっちかが魔力切れや戦闘行動不能と判断した時点で終了だよ。当然だけどデバイスは非殺傷設定を忘れずに!」
双方に聞こえる大きな声で、レイナさんが叫ぶ。その声を聞きながらスバルさんの方をちらっと見やる。
スバルさんの方はすでに、デバイスを起動させていた。カードリッジシステムを組み込んだ結構大きくゴツいデバイスだ。
それを右腕に装着している。見ただけでクロスレンジ主体の格闘型っていうのは分かった。
それに加えて真新しいウィルが縦に4つついたローラーブーツ。クリスタル部が点滅して何やらスバルさんもそれに反応しているところから察するにあれはインテリジェントデバイスなんだろう。
僕も、自分のデバイスをポケットから取り出す。スタンバイモードでカード形体になっている「S3U−S」を起動させる。
これは正式採用されたデバイスではない。いや、元々は正式採用されたS2Uの基本骨格を使ってはいるが、中身は全くの別物。
持ち手部分は、S2Uのそれを使っているが、フレーム自体は展開するとLの字になってその先から魔力刃を形成する、鎌状のデバイスだ。
S2Uがロング・ミドル・クロスとオールラウンドに対応していたのに対して、これは機能をミドル・クロスに限定した変則的な物。
また、デバイス魔力刃構成部が微振動し、相手の内部にダメージを与える『微振動破砕』の機能も持っている。
これだけ見ればそこそこ優秀なデバイスだが、元の骨格になっている部分のS2Uはもう数十年も前の廃棄ギリギリの物。そのためいろんな所が、ガタつき、故障も頻発するのが最大のネックだ・・。
まぁこのデバイスの出生にもイロイロあるんだけど、今はそんなことを考えている場合じゃない・・。
「そいじゃぁ、そろそろ始めようか〜!」
レイナさんがまた、声を張り上げる。
その声を聞いて僕はゆっくりと、歩きだした。
そして、グラウンドのほの真ん中でスバルさんと向き合う。
「終わったら・・きっちりと聞かせてもらうからね・・理由!」
「・・・分かってますよ・・約束は守ります・・」
軽く言葉を交わす。そしてゆっくりと自分のデバイスを構える。
互いに構えたことを確認してからレイナさんが、右手を大きく振り下ろした。
「では、始め!!!」
刹那僕は一直線に切り込んだ。
「始まったか・・」
あたしは、合図をした後ゆっくりそのフィールドを離れた。いくら進行役っつっても巻き添えは勘弁だからね・・。
一定の距離を取りながら2人の攻防を見やる。
スバルちゃんのスタイルがクロスレンジ主体ってことが分かった時、この模擬戦を持ちかけたことは正解だったと思った。
少年君を鍛え始めてからもう今月で1年半ぐらいになる。
初めのころに比べれば少年君は格段に成長してきてる。
それに、加えて少年君を鍛えきたあたしは格闘型。
いつもあたししかスパーの相手がいないから、やりながら少年君の成長を判断するしかないし、それだと細かい身体の動かし方とかが詳しく分からない・・。
動機がどうであれ、腰を据えてじっくり中立的に少年君の実力を把握できると思ったからこその進言・・。
でも・・スバルちゃんの構えを見て・・これはミスった・・と思った。
そう、あたしは1つ大きなことを見逃していたんだ。
・・・実力が違うって事を。
あたしは、あのティアナって子が只者じゃないっていうことはなんとなく気づいてはいたんだ・・。
でも・・そりゃそうだよね・・。パートナーを組んでいるんだからさ。
どちらか一方だけが・・只者なんてことはあり得ないんだ・・。
みた感じ、かなり足もあるし攻撃も重たそう・・。あたしとのスパーは基本組みついてのクロスシフトでの動きとそこでの間合いの測り方をメインにやってきた。
あたしでもあそこまで速く縦には動けない。まぁ多分あれはデバイスの能力っていうのもあるんだろうけど、使う側もヘボじゃぁない・・。
でもまぁ、やりようが無いわけじゃない・・。S3Uのあの機能があれば、ピンチをチャンスに変えることは可能かもね・・
後は・・デバイスが持てばいいけど・・何気にそれが一番心配だったりするんだよなぁ・・言っちゃ悪いけど・・ボロいから・・
「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁッ!」
「・・っ!!!!」
スバルさんの右をかろうじてS3Uで防ぐ。
くっそ、なんて重い一撃・・!
結局まともにこちらから仕掛けられたのは、初めの1発だけ。
後は、ずっと相手のターンだ。
体格はそこまで大きくないのに、はっきり言って一発あたりの重さはレイナさん以上かもしれない。
あんなの、1発食らったらそこで終わりだ。
それに・・もうひとつ・・厄介な事がある。
それは速さ。
デバイスを振り回すために、間合いを取ろうとしても、すぐにその差を詰められる。
それに、相手は自分の身体の一部がデバイスみたいなものだ。
攻撃も移動も・・・速すぎる。
パワーも体力も相手に劣っている状態では長引かせるだけ僕にはどんどん不利になっていく。
バインドとかが、あればいいんだけどね・・あいにくそっちは苦手でなかなかモノに出来ていない・・。
「・・っく・・手ごわい!!」
そんな当たり前のことを口走ってしまうほど・・今の僕は焦っているのかもしれない。
どうする・・どうすれば足を止められるんだ・・。
攻撃を防ぎながら、思考する・・。
そして気づく・・。
・・・そうか。別に足を止めなくても、届けばいいんだと
基本的に僕のデバイスでの戦闘は、いかに1発を届かせるか、というところから始まる。
元々一撃といってもそこまで重たいのも大きいのも持っていない、まずは本人に直接当てること。そこからだ。
そのためには、まず・・・・・固さを見る。
スバルさんの回し蹴りをS3Uで受け止める。そして次にそのままの回転で来る左を身をかがめてそのまま前に飛ぶ。
スバルさんは僕との衝突で身体の回転を緩めるつもりだったようで、空を切った左のせいで若干体勢が崩れる。
いくら縦の速く動けても体勢が崩れれば、すぐには移動できない。
そしてその隙を僕は逃さない!
「ストライクバレット!」
ストライクバレット。僕が持つ数少ないミドルレンジの直射型の魔力光弾。射程は短いが威力はそれなりに高い。
着弾点・・つまりスバルさんがいたところを確認する。着弾時に舞い上がった砂が風によって飛ばされ無傷のスバルさんの姿が確認できる。
そしてその前には青色の魔力障壁「プロテクション」・・。
一般的なバリアタイプの防御魔法だけど・・。
予想以上に固い・・
でも・・そんなに想像を絶するレベルじゃあない!
僕はS3Uを握りなおしてそのまま突撃。
初めの1発はただの斬撃だったけど・・次のは違う!!
「ウェイブシザーズ!」
微振動を含んだ魔力刃がスバルさんのプロテクションとぶつかる。
「今度は、こっちの番です!」
「なッ!」
多分初めてスバルさんの焦った顔を見たかもしれない・・。
僕は構わず、さらに体重をかけていく。
微振動を帯びた魔力刃、初めは単純に切断力の向上を狙ってのことだったんだけど、
あとあとになってこれに意外な使い道があることが分かった。
いくら魔力障壁といったって、すべては魔力結合以外の何物でもない。
そして物理的な振動破砕が内部に深刻なダメージを与えるように、魔力的な振動破砕は・・・・
相手の魔力結合を破壊する!
「し、しまった、これは!」
いまさら気がついても・・もうどうにもできない!
「バリアブレイクッ!」
ガラスが割れるかのように、スバルさんのプロテクションが割れた。
その反動でスバルさんの身体が大きくのけぞる。
今なら反応出来ても身体が追いつかない!
さらなる追い打ちをかけるべく、もう一度地を蹴って前へ飛ぶ。
これで・・決まりだ!
驚いたわ・・もっと簡単に決着がつくと予想していたのに・・。
それどころか、スバルのプロテクションの固さを見切ってそれを破るなんて・・。
デバイスの付加能力のおかげといえども、ちょっと信じられない。
全体的に見ればスバルが優勢だけど・・今の一連の攻撃だけ見れば・・優勢なのはラウルだろう。
現にラウルは今、決定的なチャンスなのだから。
僕はS3Uを構える。
決まりだ・・よけれられるわけが無い・・!
その時だった。
今まさに振り下ろすその時。
バチバチっという何とも嫌な音がした。
「え!?」
この音は・・そんな!まさか・・!
その音の原因は、僕のデバイス。
S3Uのちょうど魔力刃を構成しているセラミックブレードの付け根。
そこには魔力変換のためのコンバーターや出力のためのコンデンサーがある。
このタイミングでそれがトラブったのか・・ッ!!・・。
どうする・・今なら勝てる・・勝てるんだ。
後は振り下ろすだけだ。
でも、魔力刃を形成できないS3Uじゃ、ただのセラミックブレード・・。魔力刃のように非殺傷設定など出来るわけが無い・・。
当たれば間違いなくただじゃ済まない。
・・いやでも・・このチャンスを逃せばもう勝ち目はない。多分この一連の動作が終わったところでレイナさんに止められてしまう。
嫌だ・・
こんな負け方・・目の前に勝ちがあるんだ・・逃したくない・・
それに相手は機動六課のメンバーだろう・・!
決めたじゃないかあの時!!!
見返してやるって・・
もうあんな思いは、ごめんなんだ!
そう勝てばいいんだ、そうしたらあんなこと言った人たちを見返してやれる!
僕はS3Uを強く握る。そして一気に振り下ろす!
勝った・・・そう思った刹那だった
僕は顔の右側に強烈な衝撃を受けた。
衝撃のあまり僕の身体は思いっきり弾き飛ばされる。何度か、地面に身体を打ちつけてようやく止まった。
かすむ目でさっきまでいた場所をみるとそこには、今まで見たことないほど激昂したレイナさんが立っていた。
「・・君・・いま何をしようとしたんだい・・?」
「君は、もう少しでこの子を殺してたかもしれなかったんだよ、分かってるのかい!!!!」
殺・・す・・・。
熱くなっていた頭がその言葉で急速に冷えていく。
殺していた・・僕が・・スバルさんを・・・。
「見返すんじゃなかったの、あの時そう決めたんでしょ・・」
呆然とする僕にレイナさんは語りかける。
「でもさ・・・どこの世界に人殺しを見返す人間がいるってのさ!!」
人殺し・・。僕が・・殺していた・・。
頭が冷えて・・途端に、さっきとった自分の行動が恐ろしくなった。
こんなこと初めてだった・・本当に・・。
手が震えている。近くに転がていたS3Uですらしっかりつかめないぐらいに・・。
怖い・・。
怖い・・。
怖い・・
その単語だけで頭の中が埋め尽くされる。
手だけだった震えは、いつしか身体全体にまで回っていた。
実際は殺していない。それどころかスバルさんは無傷だ。
でも、結果としてみれば、殺していたかもしれない。殺すまではいかないまでも大怪我をさせていたかもしれない・・。
そう・・僕が・・ぼく・・が・・。
震える僕にレイナさんが近づいてくる。
レイナさんは、無言で僕の手を引きゆっくりと立たせる。
そして一言。
「ちょっと、どこかで落ち着いてきな・・」
転がっていたデバイスを待機状態に戻して僕のポケットに入れる。そして僕はレイナさんに促されるようにその場を後にした。
〜あとがき〜
見返すと・・戦闘シーン短ッ!ってことに若干驚きます(爆
さてここと次の回でラウルの過去が少し明らかになります
お楽しみに?
それと、この前管理人様の方から、感想が届いていますと、メールをいただきました。
名前などが無かったのでどなたかは、分かりませんが、ありがとうございました!
とても励みになります!
これからもがんばって書いていきますのでよろしくお願いします〜
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