窓の外を覗くと、笑顔で喜ぶ局員達が見える。
スバル達はまだ帰ってきてはいないようだったが、あの顔を見るに作戦は成功したんだろう。
ふと、あたしが出ていれば・・・・と思う。そしてすぐに、別にあたしが居ても居なくても変わらないという考えに至った。
そうだ・・・。あたしなんかが居ても意味が無い。
意味が無いんだ。
スバルの様な突破力も、エリオみたいな速さも、キャロみたいな特別なスキルも無い。
無いものづくしなら、あたしでも勝てるかな・・・・スバル達に。
そう考えると、自然に、今の感情に不釣り合いな笑みがこぼれた。
でもそこに、面白いとか情けないとか、そんな感情は無くて、こぼれたのはただ渇いた、感情の無い笑いだった。
あたしはしばらく、そのまま渇いた笑いをこぼし続けていた。
●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第20話 〈必要な事〉●
「あぁ、分かった・・・・・そうか」
我は、次々に送られてくる報告に目を通しながら、片手間で通信に答える。
やはり、どうも釈然としない気分はあるが、そうも言っていられない。
既に姉上は、コントロールを退室してたため、上への報告書もまとめるのが大変だ。
いつも意味ありげな言葉を残し、去っていく姉上。それが決まってタイミング悪く・・・まぁ姉上にとっては、
タイミング良くなのだろうが、出ていくものだからたまったものではない。
そう丁度今のこんな感じだ。
これだけの戦闘の後だ。事後処理だけでも大変だというのに、更に上への報告書。
姉上が居てくれれば、書類作成後すぐに目を通してサインしてもらえる。
フラッとどこかへ行ってしまう放浪癖だけは、なんとかしてもらいたいものだと常々思う。
「三佐!こっちの方は大丈夫みたいですね」
横で、作業をしていたレイナが言う。
そう言えば、ラウルにやらせるファイルが意外に多いな。
・・・・・まぁ妙な事を考えたんだ、これぐらいはやってもらわねばな。
「そうか、ならもう、特にお前がしなくてはならんことも無いしラウルに連絡でも入れて上がってもらって構わんぞ?」
その言葉を聞き、ホッと息をつくレイナ。おまけにあくびを1つ。
完全に、仕事モードからプライベートモードに切り替わっているようだ。
「そ〜ですか・・・では、そうさせていただきますね」
レイナは、立ち上がると数冊の分厚いファイルを束ねて両手で持ち上げる。
少しよろめきながらも、なんとかバランスを取りながら器用に部屋を後にした。
・・・・・あ、しまったレイナに言う事があったのだが・・・・。
我は手近にいたマリアスを呼ぶ。
「何でしょう?」
いつものように、素早く反応するマリアスに、メモを渡す。
「これをレイナに渡しておいてくれ、今出て行ったばかりだから、すぐに追いつくはずだから」
内容を見て少し苦笑するマリアスだったが、何も言わずにレイナを追いかけて行った。
我はそんなマリアスを見送ると、どうしても気になる事に対して、反抗せず素直に思考を傾ける。
椅子に腰かけ、ゆっくりと目を閉じ集中する。
そう言えば、スターク・ルシュフェンドという魔導師について、あまりにも知らない事が多すぎる。
生まれは?3年前にライアの補佐官になったのは良いが、それ以前はどの部隊、もしくは訓練校にいたのだ?
答えは、何も出てこない。そもそも、あいつは一体なんなんだ。
ふむ、少しスタークについて調べてみる必要がありそうだな。
調べれば経歴ぐらいは出てくるだろう、まぁそれは良い。
それに、かすかに聞き取れた、姉上に言ったあの言葉。
欲望
・・・・なんだか、とてつもない何かが動きだそうとしているんじゃないのだろうか。
我はそう思わずにはいられなかった。
結局、事後処理が完璧に終わる頃には、日付が変わってしまっていた。
俺は、自室に戻ると、ヘリオスをデスクに置き、ドサッと身体をベッドへ投げ出した。
自室は、特に何の飾りも無い殺風景だが機能的な物だ。部屋の隅に卓上ライトセットのシステムデスクと、窓際にベッドが置かれ
そのすぐ横に小さな冷蔵庫がある。
部屋の電気すら付けていない、真っ暗な部屋に窓から月の明かりだけが、俺を照らしていた。
(あれは、一体何だったのだろうか・・・・・)
俺はボーっと考える、ただ漠然と、何があったかを。
考えても出るようなことではないのにだ。
・・・・・・あの闇に落ちる刹那に見えた、俺と瓜二つの、いうなれば俺自身・・・・あれは一体誰だ?
あいつが言った、曖昧という言葉・・・・。あれはあいつと俺の存在が曖昧だと言いたかったのだろうか。
そして今はとも言った。・・・・ではいつか、その曖昧さに1つの答えが出るというのだろうか・・・・。
そしてその答えが出た時・・・・俺は――――――
俺はゆっくり瞳を閉じ、答えの出ない問題からまるで逃げるかのように、まどろみの闇へ意識を投じた。
・・・・・ここは・・・・?
気が付けばそこは深い闇の支配する世界だった。
どうして・・・・・俺は、部屋のベッドで寝たはずじゃあ・・・・
周囲を見回せど、そこには人っ子一人いないし、何の音もしない。
「誰も・・・・・居ないのか・・・・?」
「いや、君が居る」
ポツリとつぶやいた言葉への誰か≠ゥらの返答がする。
俺は勢いよくその方向へ身体を向けた。
その声の主は、他でもないあの時、闇に落ちゆく俺を、金色の眼で見つめていた人物だった。
特観に戻ると、そこには、2階の観測室の机でぐでーっとしたレイナさんが・・・・。
こ、これは、最近じゃ稀に見るだらけっぷりだなぁ。
「あ、少年君遅かったねぇ」
視線だけ動かして、僕を見やる。顔すら動かす事を煩わしく思っているようだ。こりゃ相当だな・・・。
いやそもそも、なんでこんなにだらけてるんだ?
「何かありました?」
「このファイルの所為だよぉ・・・」
そう言って、また視線だけで床に山積みにされた、ファイルを指す。
これが一体?
話の繋がらない僕にレイナさんは、更にポケットから紙きれを取り出した。
何かの・・・・・メモかな。結構場繰り書きだけど読めなくはない。
え〜っと何々・・・
レイナ、あのバラバラにしたファイルだが、まとめるのはラウルにしても最終的にキチッとお前が仕上げるんだぞ
「これじゃあ、やる事たいして変わらない・・・・っていうか少年君と一緒じゃん!!!」
「そもそも、レイナさんがグチャグチャにしたんでしょうがッ!!!」
「少年君が変な事考えるからじゃん!」
「会話が不成立ですよ!!」
逆切れされても困るんですけどね!
僕はもう一度、ファイルの山を見やる・・・。
そして、もう本当に自然とため息が出てしまった。
「ん?何さ、そのため息は」
「・・・・聞かなくてもわかるでしょ」
「あ、全部任せてって事を表す、斬新な合図とか?」
「もういいです」
僕は、疲れて重い身体を引きずりながら、ファイルの山と格闘することにした。
時計の針は、既に12時を回り、外はすっかり深夜。
外は静かなものだが、特観の中では、キーを叩く音やファイルの紙が擦れる音で意外とにぎやかだ。
・・・・嫌なにぎやかさだけど。
レイナさんは、僕がまとめたファイルの確認作業に追われ、僕はファイルを時系列ごとにまとめ直す作業をしている。
本当にバラバラにしたんだなぁ・・・。こりゃ大変だぞ。
「あ〜〜〜・・・むッ・・モゴモゴ・・・・ねぇ、少年君」
ふとレイナさんが、どこから取り出したのか、せんべいを食べながら僕を呼ぶ。
僕はそれに振り返らず、声だけ返す。
「なんですか、何かミスありました?」
「いや、ミスはないんだけどさ。ほら、ちょっと気になっちゃってね、ティアナちゃんの事」
その名前を聞き、僕の手が止まる。
ティアナさん・・・・そう言えば謹慎中なんだよなぁ。
ティアナさんの事を忘れかけていた頭に、自分のことながら喝を入れてやりたい。
なんてお気楽な頭なのだろうか。
「あたしもさぁ、今ふと気になっちゃってね・・・・何事も無ければそれでいいんだけどさ」
「何事も無ければ、謹慎処分なんてくらいますかね・・・・?」
「・・・・・・だよねぇ」
レイナさんは大きく息を吐くと机に突っ伏した。
疲れもあるんだろうけど、ティアナさんの事も考えての行為だろう。
僕だって、同じだ。
どんな理由があるのか分からないけど、ティアナさんは少なくともおかしかったし、あれで何事も無いっていうのは
誰がどう見ても、考えられない事だった。
「ティアナちゃんの謹慎処分っていつまでだっけ」
「確か2日間のはずですから・・・・明後日、いやもう日付変わっちゃってますから明日ですね」
「明日かぁ・・・・まずは謹慎明けの状態を見てからだね」
「そうですね、それからじゃないと、何とも」
本当に、大変なことにならなけりゃ良いけど・・・。
その心配が杞憂に終わる事を願いながら、僕は再び作業へと戻っていった。
「・・・・・・・お前は誰・・なんだ?」
「それは、君が一番よく知っていると思うけれど」
闇が支配する中、目の前にいる俺≠ノ問いかける。
だが俺≠ヘそれを、実に曖昧な答えで返してきた。
俺はいら立ちを隠すこともせずに、語気を強めた。
「ふざけるなッ・・・知っていたらこんな事は聞かないッ!」
「僕は別に、ふざけてなどはいないのだが」
俺≠ヘ心外そうに口をとがらせると、組んだ腕の上で指をトントンと弾ませ、何かを考え始める。
にしても、一体こいつもそうだがココはどこなんだ?
光のひの字も無い闇だけが支配する世界に、ポツンと2人俺が立っている。
心の中とかでも言うのなら、俺の心は真っ黒か・・・・。なんだが複雑だな。
「安心したまえ、心の中では無いよ」
「なッ!?お前なんで俺の考えが・・・・ッ」
「もちろん、それは僕が君だからだよ」
「それは・・・・どういう、それにここはどこなんだ、後お前も一体・・・・あぁぁクソ!!」
分からないことだらけで、流石の俺も頭を抱えるしかなかった。
そんな俺を諭しながらも、どこか楽しげな笑みを浮かべる俺=B
俺にはその笑みが酷くこの場所には不釣り合いに感じて、自然と怪訝な顔になっていた。
「あぁ、まぁそんな顔をするのも仕方が無い・・・・まだまだ、曖昧だからね」
「そういえば、お前あの時も、同じ事言っていたな・・・・どういうことだ?」
「・・・そういうことだけれど」
「ふざけるなッ!」
我慢も限界。俺は俺≠フ胸倉をつかもうと、睨みを利かせて詰め寄る。
だが俺≠ヘその手を、右手で防ぐと、若干前のめりになって体勢の崩れた俺の右肩を掴み、
俺の勢いを利用して、そのまま後ろへ軽く腕をはらった。
元から体勢も崩れていただけに、立て直しも利かず、俺はされるがままに地面に倒されてしまった。
「まぁ少し落ち着きたまえ、大体君から質問しているんだ。ほしい答えが来ないからと言って、いら立ち
掴みかかってくるとはね・・・・礼儀を教えてあげようか?」
「ック・・・・なめるな!」
「ふぅ・・・・やれやれ」
俺は、素早く立ち上がると、俺≠ノ向かって飛びかかる。
だが俺≠ヘ余裕の表情でニヤリと笑うと、次の瞬間には俺の顔面に巨大な砲身≠ェ付きつけられていた。
「・・・・・な・・・・んだ・・と――――――――ッ!?」
巨大な砲身のソレは、力強く無骨で、幾度となく俺の窮地を救ってくれた相棒・・・・
見間違えるはずの無い愛機。力の象徴。
「ヘリ・・・・オス?」
そのフォルムは間違いなく俺のデバイス、ヘリオスだった。
だが・・・何故こいつがヘリオスを?
起動させられるのは、管理者権限を持つ俺かデバイスマスターや、技術部の面々に限られる。
そんな現実的な事を、こんな何処とも分からない、真っ暗な世界で考えるのは少しズレているのかもしれないと思いながらも、
その他に考えられうる、可能性を思考する。
だが、どれもこの状況が説明できる決定的な理由には、ならなかった。
その俺の混乱を知ってか知らずか、俺≠ヘまた再び余裕そうな笑みを浮かべて、言葉を発した。
「これで、分かってくれただろうか?」
「・・・・・何を理解しろって言うんだ」
「では聞くが、君は今、この状況を説明できるのかな?」
「それは・・・・」
言葉に詰まった俺を見て俺≠ヘヘリオスを待機状態に戻して、こちらへ放り投げた。
俺がそれを受け取ったのを確認すると、俺≠ヘゆっくりと瞳を閉じる。
「時には、感じたままを受け入れることも必要だ。僕は君なのだからね?」
さらりと、事の本質を言ってのける俺=B確かに、そうでしかヘリオスを起動させられた意味や、
俺に容姿が瓜二つである事を充分に説明できない。
だが・・・・いやでも、それでも中々納得などできない。俺は俺一人だというのに、もう1人の俺だと?
そんな、どこかのアニメやドラマじゃあるまいしすんなりと、「はい、そうですか」というわけにはいかない。
「納得できていないようだけれど事実なんだから仕方が無い、今はそれでいい」
「・・・・・今は?」
「いずれ、本当に分かる日がやってくる・・・・そうだな、今は・・・・うんそれの予行練習みたいなものだと思えばいい」
「予行練習って・・・」
「真実は唐突に訪れる物だから・・・・その真実を前にして君がどうするのか・・・・興味があるね」
ニヤリとまた笑うと、戸惑う俺に背を向けゆっくりと歩き始める。
「お、おい!何処へ行くんだ!!」
叫ぶが、俺≠ヘ構わず歩みを続けていく。
ゆっくりと闇へと溶けていく身体。
まだだ、行かせるわけにはいかない。あいつにはまだ聞かなくてはならなことがある。
俺は、追いかけようと身体を動かそうとするが・・・・動かない。
身体を何かで縛られたような感覚だった。金縛りに近いのかもしれない。
俺の意に反して、身体は全く動かない。ただ眼だけが、闇に今まさに消えようとしている俺≠とらえていた。
「ま、待て!一体お前は何なんだよ!!誰だというんだ!!」
何も考えずに、ただ頭の中で思いついた言葉を叫ぶ。
そして奴は、闇に消える刹那、俺に向かって一言つぶやいた。
「え!?」
・・・・その声はしっかり耳に届いた、届いたは良いのだがそれは到底信じがたいある人物の名前であった。
―――――そんな・・・・・馬鹿な・・・・
俺は膝から崩れ落ちた。
それだけの衝撃ある答えだったのだ。
奴の姿はもう見えない。
だが俺は、ずっとあいつが消えた場所を見つめ続けていた。
それと同時に、認めたくない、認められないそんな衝動が身体の奥底から湧き上がってくる。
俺は・・・・・・俺は・・・・・・・ッ!!
そして頭の中でさっき、奴が言った言葉が鮮明に繰り返される。
「・・・・僕?・・・・僕は」
うぁ・・・・ッ!!
「―――――――だよ」
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!
「ッは!!!!」
俺はガバッと身体を起こす。息は乱れ、酷い寝汗をかいていた。
「はぁ・・・・はぁッ・・・・・俺は・・・・」
あたりをゆっくりと見渡す。
そこは殺風景で、飾り気のない1室。
俺の・・・・部屋。
傍らの時計に目をやる。
デジタル表示の壁掛け時計にはAM3:14と表示されていた。
俺は、ベッドから立ち上がると備え付けのウォーターサーバーへ向かう。
付属の紙コップを手にとって、サーバーの水をコップに、なみなみと注ぎ、こぼれて身体が濡れるのもいとわず一気に飲み干す。
プハッと大きめの声で息を吐くと、再びベッドへ戻りドサッと腰を下ろした。
何の音もしないし、外からも音は聞こえない。
そりゃそうか・・・・こんな時間だ。交替の部隊ならともかく108のこの棟には通常シフトの連中しかいない。
こんな時間に、音がする方がおかしいな。
・・・・ふぅ・・・。
俺はようやく落ち着いてきた頭で、少しあの夢の事を考えた。
・・・・いや、夢だったのか・・・・?
妙にリアリティのある夢だった気もしなくはない。
あいつが最後に言った一言を思い出すと、ズキンと頭が痛くなる。
・・・・俺は、一体何なのだろうか。
普通の魔導師では無いのか?
どこも他の人間とも変わらない。
でも、あいつは俺に・・・・
分かっている事とは言え、どうしてもそっち方向へ考えが行ってしまい、頭痛が俺を襲う。
―――えぇいやめだ、やめ!・・何か別の事を考えよう。
俺はかぶりを振ると、無理やりその考えを頭の隅に追いやり、何か他の事は無かったかと思考を巡らせる。
すると1人の少女の名前が頭に浮かんだ。
ティアナ・ランスター・・・・。
そう言えば、あいつ大丈夫なんだろうな。
謹慎処分を食らったと聞いたが、それでまた変に気負ったりすると最悪の方向へ流れて行ってしまうこともある。
・・・・・確か謹慎処分は今日までだったか。
明日、一度行ってみるか・・・・。
その方が気分もまぎれるだろうしな。
どんな理由があろうと、俺は小隊長補佐官だ。
上に立つ物が、迷っていては下は死ぬ。
たとえ迷っていようとも、それを部下の前では絶対に見せるわけにはいかなかった。
ティアナを気を紛らわせる口実に使うのは、気が引けるがこう考えでもしないと、またあの事を考えそうで怖い。
俺は、そのまままたベッドに倒れ込むと、ゆっくりと目を閉じた。
そして次に起きた時は、窓から朝の気持ちいい日差しが、俺を照らしていた。
結局あれよあれよと言う間に、1日なんてすぐに過ぎてしまった。
今日はティアナさんの謹慎が解除される日かぁ・・・。
僕はふとそんな事を考えつつ、ふらふらっと特観の観測室を後にして、玄関から外へ出る。
今日もいつもと同じ綺麗な、青空の広がる良い天気だった。
の
今日はレイナさんがリリィさんのところへ用事とのことで、特観は責任者不在のため1日休業。
まぁやらなきゃいけない事っていうのも特には無いし、レイナさんには悪いけどゆっくりさせてもらおう。
・・・・・・とまぁ外に出てきた物の、特にやる事っていうのが無い。
特に行きたいところも無いし、休みに何したらいいんだろうって悩むのってもうアレかな。この年でワーカーホリック?
それだけは勘弁だ・・・。
僕は首を左右に振りながら、とりあえず臨海公園に足を進めた。
あそこなら・・・誰かいるだろうし。
そんな適当な考えだったんだけど。
まさかいるとは思わなかった。
臨海公園に到着して、しばらく散策しているとベンチに座る見知った女性を見つけたのだ。
赤いツンツンした髪型が特徴的な、ライアさんだった。
ライアさんは、何か身体を動かしていたのかタオルを首から下げ顔の汗をぬぐっていた。
服装も、いつもの制服姿でも、バリアジャケット姿でもない、深い赤色のジャージ姿だ。
「お?チビすけ、お前も身体でも動かしに来たか?」
「いえ、ただ普通に散歩です」
「・・・・ジジくせぇなぁ」
若干気にしてる事をさらっと言うあたりが、ライアさんだな。
っていうか、小隊長がこんなところで1人身体動かしてて、いいんだろうか・・・。
それに今日はスタークさんも見当たらない。大体2人で一緒にいるのに。
「あいつなら今日、六課へ行ってるぜ?」
「六課ですか?」
どうやら、あたりを見渡す僕の行動から、スタークさんを探している事を察したライアさんが答える。
へぇ・・・・六課に。まぁ大体理由は想像が付いたけど。
間違いなくティアナさんの事だろう。
今さらながら、僕も六課へ足を運んでみればよかったかなとも思う。
暇だから来ましたというのでは流石に、ダメだろうけど、ティアナさんの事っていう理由だったらひょっとしたら会えたかもしれない。
だけど、それだからと言ってすぐに行く気にもなれなかった。
行きたい気持ちはあったが、いざ会ったら会ったで何を聞けばいいのか、わからなかったからだ。
とりあえずなんとなく手持無沙汰になった僕は、ライアさんの横へ腰かける。
最近良く思うことなんだけど、ライアさんって口調は荒いけど凄く優しいんだよなぁ。
今も、僕が座る場所に置いてあったスポーツドリンクやハンドタオルをスッとどけてくれた。
第一印象がレイナさんとの胸倉の掴みあい(じゃれ合いともいう)だったから怖い印象があったけど。
「まぁ、でもアレだな。スタークもあんなにお節介じゃないんだけどな、本来は」
「お節介?」
「あいつ昔は、こんなんじゃなかったんだ。どこか壁作って人と距離を取りたがる奴だったんだよ。
それがさぁ、お前に始まり今度はティアナだろ。どうしちまったのかね」
「ひょっとしたら、それが元々のスタークさんなのかも・・・」
「そうかもな」
カカカッと、白い歯を見せて豪快に笑うライアさん。
本当に元気もいい人だなぁ・・・・レイナさん程じゃないけど。
「そう言えば、ライアさんはスタークさんと一緒に来たんですか?」
「あぁ、丁度レイナに用事があったんだが、どうも行き違いになっちまったらしくて」
「確かに、レイナさんは今日108の隊舎へ向かってるはずですからね」
「そうなんだよなぁ、知ってたら隊舎で待ってたのに・・・あの野郎スケジュールぐらい言えよってな」
「いやいや、わざわざ言わないでしょ」
「まぁ、そりゃそうだけどよ・・・」
そう言って、少しむくれるライアさん。
こういう表情の豊かさも、優しさと同じようにライアさんの魅力の1つだろう。
無邪気・・・・ともいえるのだろうか。
「それで、お前これからどうすんだよ?」
「え?あぁ・・・・えと・・・・どうしましょう」
苦笑いで返す僕を見て、ライアさんはニヤッと笑うと、勢いよく僕を立たせた。
「だったら、お前、あたしとスパーしねぇか?興味あるんだよレイナがどうやって育てんのかさ」
「え!?いや、それは・・・・」
「んだよ、なんか文句でもあんのか?」
「いや、文句は・・・・」
あっても言ったら、またややこしくなるからなぁ・・・。
その無言がダメだったのかもしれない。気が付けば僕はもう断れない雰囲気のど真ん中にいた。
「おーし!1人のシャドウにゃ飽き飽きしてたところだ、準備しろよチビすけ!」
「い、いま本音出ませんでした!?」
「へ?まぁ、気にすんなよ、ほら行くぜ!」
・・・・・・いい人で魅力的なんだけどこういう強引なところは、どうにか直してほしかったりもする。
「あの、すいません」
俺は六課のロビーにある受付にいる。
俺の問いかけに、営業スマイル的な笑顔で受付の女の子が返事をした。
「はい、何でしょうか?」
「108のスターク・ルシュフェンドニ等陸士です。ティアナ・ランスターニ等陸士にお会いしたいのですが・・・」
「はい、少しお待ちくださいね」
手早く手元のモニターを操作しなにやら調べる受付嬢。
リズミカルにキーをタイプし、モニターには多くの情報が流れるように表示されている。
そして、申し訳なさそうな顔をして結果を報告した。
「すいませんけれど、ランスターニ等陸士は現在外出中ですねぇ。今日はフォワードメンバーは午前中シフトでしたから・・・」
午前中・・・・。チラッとロビーの壁掛け時計に目をやると、時刻は丁度昼の12時を回ったところだった。
昼飯か・・・・買い物か・・・・なんにしても、空振りだったようだ。こんなんだったらあらかじめアポでも取っておけばよかったと思いながらも、
ここへ来ようと思ったのが今日の朝3時頃ではアポの取りようも無いが・・・。
仕方が無い出直そう。
俺は、受付嬢に軽く会釈をするとロビーを後にした。
六課の隊舎を出た時だった。
ん?今何か音がしたような・・・。
あたりをきょろきょろ見回すも、俺の周囲は誰もいない。
・・・・気のせいか?
そう思ってまた一歩踏み出した時にまた物音が聞こえる。
やっぱり聞こえる・・・・。これは・・・・魔力スフィアの飛行音か?
だがどこからだ?
俺は音に釣られて、木々の生い茂る中を進んでいく。
しばらく歩いていくと、オレンジ色の光弾が確認できた。
僅かながら、身体に緊張を走らせ、近場の木の影に身を隠し慎重に状況を確認した。
(―――あれは・・・・ティアナか、何をしている・・・?)
そこには周囲に無数のスフィアを浮遊させて、光ったスフィアに素早く反応して、クロスミラージュを構えるティアナがいた。
どうやら、自主練習をしているようだが・・・・・。
(にしても、凄い汗だな・・・・周辺に飲料水の類も見られない・・・)
さっき受付で午前シフトという話を聞いたが、12時になったのは、ものの数分前。明らかに数分でかく汗の量では無い。
あの汗の量から見て、今日は午前中訓練だったのだろう。
そしてその後ここへ移動して、ロクに休みも取らずにここでずっと自主練習をしていた・・・とこんなところだろうか。
だがこれは自主練習というより、ただ身体を酷使しているだけ≠セ。
しばらく静観を決め込もうとも思ったが、ティアナが力無く膝をつくのを見て流石にたまらず声をかけた。
「ティアナ!」
「あ、あんた!」
気まずそうな表情で顔を伏せるティアナ。その表情から少なくとも自分が無理をしているという自覚はあるようだ。
「何をしている」
「なんでも良いでしょ、あんたには関係ない!」
「それは自主練とは言わんぞ」
「だから関係無いって言ってるでしょ、ほっといて!」
声を荒げ、俺に構わずまた無理を続けようとするティアナだが、既にフラフラだ。
こんな状態で続けさせたら、それこそティアナが倒れてしまうのは目に見えていた。
「いい加減にしろ!」
俺はさっきよりもはるかに、大きな声でティアナを制止する。
その声に、反発していたティアナの身体が一瞬ビクッと跳ねた。
こちらに背を向け、顔を伏せている。
「こんな事をして、何かが変わると思ったか?何の準備もなしに無茶を続ける事が、自分にとってプラスになるとでも?」
「・・・・た・・・・に・・・何が・・・」
「ふざけるな、こんな事をしてもただ自分の身体を壊しているだけだ、何の得にもならん」
「あんた・・・・に・・・」
「そんなの事より、今は他にやるべき事があるだろう!」
「あんたに何がわかんのよ!!!」
「ッ!?」
さっきまでとは違うティアナの、怒号。
その声には、怒りの他に悔しさや自分自信へのふがいなさも感じ取る事が出来た。
「あんたにとってみれば、そりゃそんな事≠ネのかもしれない・・・でもあたしにとっては・・・・凡人のあたしにとっては
このぐらいの事をしてもまだ足りないの!・・・・あたしにはスバルみたいな高い身体能力もエリオみたいな速さも、
キャロみたいな能力も何もない、何も・・・・できない。死に物狂いでやらなきゃ、ランスターの魔法は無力じゃないって証明することも出来な・・・ッ!」
気が付けば俺は、ティアナの頬を叩いていた。
「俺は・・・・こんな奴を警戒していたのか?こんな腑抜けを・・・・。もう少し骨のある奴だと思っていた俺が馬鹿だった!」
「あんた・・・何を言って・・・」
「お前、ふざけるなよ本当に・・・・!それ以上言ってみろその顔ふっ飛ばすからな」
俺はこれまであいつに感じた以上の怒りを感じていた。
さっきの事を聞いて、ティアナの悩みがあのチビとほとんど一緒であるということは分かった。
だがあのチビは、それを口には出さなかった。
だがこいつはどうだ?
散々自分を卑下したあげく、自分の出来る事すら満足にしても居ないのに、何も出来ない?俺はこんな奴を認めていたのかと思うと
自分自身にも憤りを感じる。
くそッ!
だがこのまま、放っておくのもそれはそれで、気にかかる。
認めていた相手だからこそ、このまま潰れてほしくも無いのも事実だ。。
俺は、怒りの混じったため息を漏らすと、ティアナにこう告げた。
少し・・・・いやかなり強引で目茶苦茶な手だが、こいつが潰れるよりはマシだ。
「ティアナ・・・・六課を出ろ、今のお前にはそれが一番必要な事だ!」
「え?」
不釣り合いなティアナの抜けた声が一言、その場に響いた。
〜あとがき〜
どうもしるくです。お久しぶりですね〜
第20話どうだったでしょうか?
スタークの身体に触れつつ、ティアナ編のスタートです。
なお大幅に原作からストーリーがずれますんでそこのところはよろしく!
それでも良いよっていう心の広い方ばかりだと私信じております(マテ
ご感想ありがとうございます。
「このss、なかなか面白そうなので執筆頑張ってください。」
ありがとうございます!そう言っていただけると意欲も倍以上に湧いてきます!
頑張らせていただきますのでよろしくお願いします!