魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第15話
時空管理局地上本部。
その一室にきれいな黒髪を湛えた女性が座っている。
女性は、上級幹部の青を基調とした局員の制服に身を包み、手を顔の前で合わせ静かに目を閉じていた。
「・・・・・・また何か考え事ですか?」
不意に声がした。女性はゆっくりとその方へ眼をやる。
そこにいたのは、ブロンズのショートヘアに、やや釣り上った赤い目。
そして黒一色のダークスーツに身を包んだ女性だ。
「・・・・・いや・・・・うん、まぁそうなるのかな?」
その問いに静かに答える黒髪の女性。話し方だけ聞けば非常に軽く感じるがその言葉の一つ一つになんともいえない思惑を感じてしまう。
だがそれを感じ取ったスーツの女性だったが、その答えに、釣り上った目尻を少し下げ微笑する。
「それで、一体何をお考えで?」
「いやぁ、なに・・・・別段変ったことではないさ、いつもどおりだよ」
黒髪の女性は合わせていた手をゆっくりと開くとその女性に問いかけるように言った。
「彼の事だよ・・・。いつもね」
彼・・・・・・。スーツの女性にはそれが何を指すのかすでにわかっていた。
無限の欲望・・・・・・ジェイル・スカリエッティ。
彼女がスカリエッティのことを知りたがっているということは、そして独自にいろいろ調べていることは知っている。
そして、彼女が知りたい本当の事も。
だがそれを今考えても仕方がないことだ。
しょせん私には彼女の考えている事がわかったところで、その先までは考えが及ばない。
スーツの女性は、数秒目を閉じ下を向くと、すぐに気持ちを切り替えた。
それと同時に黒髪の女性もまた話題を切り換える。
「ところで・・・・・少々私の妹の周りが楽しいことになっているようなのでね・・・」
スーツの女性はその言葉を聞くと、さっきとは打って変わってわざとらしく深くため息をついた。
その様子を見て黒髪の女性は、柔らかくほほ笑んだようだった。
はぁ・・・・どうやら今日は、その妹のところへ出向くようだ。
私は半ばあきれながらも身支度を整えるために、黒髪の女性の服を用意する。
まったくこのお方は・・・・。わかっているのだろうか。自分の立場ってものが・・・・。
●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第15話 〈不思議な女性〉●
ま〜ったく・・・・・。レイナにティアナのことで話があったから、一緒に帰ってきてみりゃ、
隊舎の一角で黒山の人だかりが出来てやがる・・・。んで、何やってんのかと思ったら・・・・。
うちのと、ミミィかよ!・・・・ったく。
「あのなぁ朝っぱらから元気なのはいいことだがな、時と場所を考えろ馬鹿野郎が!」
「ライアそれは、あんたも言えないんじゃ・・・」
後ろから何か、聞こえるが無視だんなもん!
レイナの声を無視しつつ、いまだにらみ合う両者を見やる。
はぁ〜・・・。もうほんとに。
このミミィってやつがどうしてスタークに突っかかるのか、まぁあたしも嫌われてるんだが。
その理由を考えると頭痛がしてくる。
ただ幸いだったのは、ここにいたのがミミィだけということだ。
この状況であいつまでいたらたまったもんじゃなかったぜ・・・・・・。
あたしは、安堵のため息を漏らして2人に背を向ける。
まぁ、にらみ合っちゃいるが、これ以上厄介なことにはならねぇだろう。
重ね重ね、ほんとにあいつがいなくてよか・・・・
「誰がいなくて良かったんですかぁ?」
あたしが、安堵した次の瞬間唐突にそんな声がした。
あたしの体を、悪寒というか寒気というか・・・・・なんだかわからねぇけどそんな感じのものが駆け巡る。
そして恐る恐る、声のしたほうに顔を向けると、背丈はあたしと同じぐらいで、鮮やかな青色の髪をツインテールにまとめた女がにこやかに立っていた。
いや、あたしからすりゃ立っていやがったっていう表現のほうが正しい。
しかもかなりの至近距離に。
「レ、レレ・・・・・レイニー・・・・」
思わず後ずさる。
「んもー・・・お姉さまったら・・・・そんなに照れなくても・・・・・」
そう言いながらレイニーずずいっとさらに顔を近づけてくる。いや、どこからどう見ても照れてねぇだろうが・・・・!
「お、お前、いきなりどっから湧いて出やがった!!」
「お姉さまがどこにいようと、私はすぐに駆けつけるのです!」
「いやいやいや、全然答えになってねぇからな、お前!!!」
迫る顔を、無理やり手で引き離す。するとその行為に声を荒げたのはミミィだった。
「な、なんてことを!小隊長はライア陸曹のことを第一に思ってるんですよ!?それを、こんな乱暴に・・・・っ!」
「大丈夫です、ミミィちゃん!この程度のことで私はへこたれたりしませんから!」
「小隊長、ご立派です!どんな困難にも果敢に挑戦していく!その姿勢私も見習わねば!!」
・・・・・はぁ、もう良いぜ・・・・なんかどうでも良くなってきた・・・。
毎回のことなんだよな。
でもやっぱり慣れねぇ・・・いやむしろ慣れたくなんてないんだが。
・・・・・レイニー・ミスリルと、このミミィ・アルデアはともに第8小隊の小隊長とその補佐官っていう間柄だ。
職務自体は失敗もまぁあるが、おおむね優秀。
あの三佐も、及第点と言っていた。何の問題もない、そう職務上は。
こいつの・・・・・いやこいつらの問題はむしろプライベートだ。
レイニーはあたしよりも年は4つ下だが、キャリは上は1年後輩にあたる。・・・・まぁ階級は同じ陸曹だが。
初めて会ったのは訓練校だったかな。そのころからレイニーは何かとあたしを慕っていたが
その時のあたしは、まぁ先輩後輩って仲ぐらいとしか思ってなくて、頼られるのはまんざらじゃなった。
ただ、それを放っておいたのが問題だったのか気がつけば、あたしをお姉さまと呼び事あるごとに抱きついてきたり、
さっきみたいに、迫ってくるようになっていた。
すでに卒業前ぐらいから、若干そういった行為があったから、あたしは配属部隊が違って少しほっとした。
それからしばらくの間、音沙汰もなくて、まぁ任務か何かで一緒になることはあっても、同じ部隊にはなるなんてことはねぇだろうと思っていたころに
どこからともなく部隊再編成の話が舞い込んできた。
その部隊再編成でこの108にやってきたのがこいつだ。このレイニーそして、その補佐官ミミィをひきつれて第8小隊の小隊長に就任したんだ。
その時あたしゃ、いやな予感がしていたんだ。でもまぁ、さすがにもう卒業してから数十年が経過した頃だったから少しはマシになってるだろうっていう希望的観測があった。
でも、実際はその逆で、あたしに会えなかった期間が長すぎてさらにその行為はエスカレートして居やがった。
・・・・信じられねぇよ、ほんとマジで。
あたしはチラッと、あのバカ2人を見やる。
まったくまだやってやがる・・・・。って・・・・・ちょっと待てよこれはチャンス・・・・!!
気がこっちにむかねぇ内にさっさと逃げちまおう!
ソロリと足をあの2人とは違う方向へ出したときガッと右肩を掴まれた。
ビクッと体を震わすが、つかんだ相手を見てホッとしたのと同時にいやな笑みを浮かべるレイナにいやな予感がして声のトーンを下げつつ叫ぶ。
「レ、レイナ、いいから放せって!」
「イヤイヤぁ・・・・お姉さまだって・・・・あんなに慕ってくれてるのにそれを無視しておいてっちゃうのかなぁ〜?」
「ば、バッカ!!おまえあいつのヤバさを知らねぇんだって!!」
レイナは右肩を掴んでそのままあたしの左側に立ちまわる。ちょうど肩を抱いている感じだ。
そのまま顔を近づけイタズラっぽい声はそのままにささやく。
「ちょっと待てってお前この、形はまずいって!!」
普通ならただのヒソヒソ話の姿でも、あいつの目からしたらそれが、イチャついているようにしか映らない。
レイナもそのことはよく分かっているようだ。いやむしろわかっているからわざとやっているのだろう。
そのままレイナは調子に乗ってあたしの腰辺りに手をまわしてくる。・・・・・・あぁ・・・・やばい。すでに後ろか変なプレッシャーを感じる。
あたしは怖くて見れないけど・・・・。
きっとすごい顔してやがんだろうなぁ・・・・。
そしてしばらくの沈黙が流れた後、響いたのはレイニーの叫び声だった。
「な、なんということですかぁぁっ!!!!お姉さまに気安く触れてあまつさえ、こ、こ、腰にまで手を・・・・!!!なんて、うらや・・・・うらやましい!!!」
「い、言い切った・・・・」
スタークの困惑の声が聞こえたような気がしたが今はそれにいちいち意見を思っているような雰囲気ではないようだ・・・・。へたすりゃ死ぬ・・・・・!!
なんで隊舎で命の危険を感じなきゃならねぇのかわからないが、はっきりって理屈じゃない。緊急事態なんだよもう!!
そしてレイニーはキッとレイナを見据えると、何の迷いもなくレイナに向かって飛びかかる。
「待っていてください、お姉さま!私がすぐにその不埒な女を!!!」
い、いやあたしからすればお前もその不埒な女なんだが・・・・
「蹴ります!!!」
言うが早いかレイニーは上半身を左側にひねるとそのままの勢いで右足を振りだす。
あぁぁぁ、もう何でこんなことになっちまうんだよっ!!!
っとと、こりゃ予想外!ライアの方に行くかなとか思ってたけどあたしのどこに来ちゃった!?
まぁでも蹴りますって言って大人しく蹴られるわけにもいかないでしょうに!
あたしは、レイニーが振り出した足に合わせそれを左腕でしっかりとガードする。
「中々、やりますね・・・・・私の蹴りを受け止めるとは」
「そりゃどーも・・・・っよっと!」
軽口をたたきながら、相手の足を払いのける。
はらわれたレイニーは蹴りだした足を後ろへ引きながらほんの少し距離を取った。
レイニーはもうすぐ着地するが、重心が後ろに行っている今の体勢から、
少なくとも追撃は無いはずだ。
「今度はこっちから行くよ!」
あたしも言うが早いか、相手の懐へ飛ぶ。
しかし、あたしの思惑はもろくも崩れ去った。
レイニーは確かに着地した。
だが、着地を行ったのは足ではない。
手だ。
器用に身体を反転させて、手で着地したレイニーは、その流れで再び攻撃を開始する。
しかも、重さの無い苦し紛れの一発ではない。
ガードした腕にずしりと来る一撃≠セ。
「っく!ちょっと、冗談じゃぁ・・・ッ!!」
「だから言ったでしょう最初に?・・・・・蹴りますってね!!」
その一撃を繰り出すや、今度はすぐさま、腕の力で起き上がりまた一連の動作の流れで攻撃を繰り出してくる。
・・・・・この子、信じられない程高いボディバランスの持ち主だ。しかも使うのはどうやら足だけ。こういうトリッキーなの結構苦手なんだよなぁ・・・・
でも・・・
足技しか使わないと、分かれば攻略法はある。
基本的にこちらに蹴りだしている時、足はとび蹴りでもない限り必ず一方の足は地面に付いている。
要はそういうことだ。それが弱点。
いくら、ボディバランスに優れるって言ったって、攻撃中に軸足をさらわれれば!
あたしは、その攻撃を待つ。
必ず来るはずだ。
レイニーはこれまでトリッキーな足技を使っては来たが、どれも重いが一撃で倒れるような威力ではなかった。
これまでは手数で圧倒する猛襲だったのだ。
だがそれでは止めはさせない。
そもそも相手は、経緯はどうあれあたしを蹴り倒したいらしいしね。
・・・・・だからこそ・・・・・・・・ッ!
「それではそろそろ・・・・・蹴らせていただきます!!」
レイニーは言うと、右の前蹴りの流れからそのまま回転を付け、軸足を変えて再び蹴りかかる。
俗に言う回し蹴り。
来た、これを待ってたんだ!
あたしは、そのハイキックを一瞬の脱力で下へ避ける。
「えぇ!?ちょっと、なに避けてッ!!」
「どこの世界に、蹴りますって言われて蹴られる馬鹿がいるのさッ!ほら、足もとががら空きぃ!!」
あたしは、しゃがんだまま、レイニーの軸足をさらうべく右足を勢いよく伸ばす。
勝った!!相手も焦っている、よっし!!これで立ってられるわけが・・・・・って!?
でもそう確信したあたしは今日2度目の驚愕を味わう。
確かにあたしの右足はレイニーの軸足にしっかりと、打撃を与えた。
はずなのに・・・・。
「ちょ、ちょっ!!そんなのアリなのぉッ!!」
当たった軸足はびくともしない。
そんな馬鹿な!
ライアでさえ軸足を攻撃されたらよろめくのに、なんでこの子平然と・・・・・ってしまった!!
今あたしはしゃがんでいる。そしてレイニーは、不敵な笑みをたたえながら既にハイキックの動作を終え次の攻撃モーションに移っていた。
「今度こそ、蹴ります!!」
そう最悪な事に、今から立とうが、立とまいがそしてガードしようがしよまいが、どこを探っても致命的な一撃が入る事が確定していた。
あぁ、もう!自爆っていうのはほんとこういう事を言うのかね!
レイニーは再びハイキックの遠心力を使って、今度は勢いよくミドルを繰り出す。
あたしは覚悟を決め、目を強くつぶって、歯を食いしばる。
(だぁ〜もう、願わくば意識を一撃で刈り取らん事を〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・・・)
って・・・・・あれ?
・・・・あれれ??
しょ、衝撃が来ない・・・?
あたしは、恐る恐る目を開けてみる。
するとレイニーの足があたしの顔ギリギリで止まっていた。
・・・・・本当になんで?
しかもよく周りを見渡してみると、みんな一点を見つめ一様に青ざめている。
うん?後ろになんか気配が・・・・・
あたしはその気配を確かめるべく後ろを向く。
これは・・・・誰かのふとももかな・・?
ズズッと視線を上に上げていく。
そしてあたしもまた同様に青ざめた。
「・・・・・・何やら楽しそうな事をしているな・・・止めない方が、良かったか?」
「さ、三佐・・・」
あたしはいっそのこと、蹴られて意識でも飛んだ方がマシだとその時本気で思ってしまった。
「それでは、僕はこの辺で」
僕はお大事にと一声かけてエリオ君の病室を後にした。
いや、僕たちと言った方が正しい。
僕の隣にはスバルさんとキャロちゃんもいた。
流石に2日連続で帰らないというのも問題だろうって考えたのか、僕と一緒に湾岸地区の隊舎まで帰る事になったのだ。
にしてもあれから色々話したが、もうエリオ君の心配は必要ないだろう。
むしろ心配なのは・・・・
「あ〜ぁ、帰ってティアになんて言ったらいいんだろうなぁ」
そうティアナさんだやっぱり気になる。
「まぁなんて言ったらって、いつも通りでいいんじゃないですかね、変に気を使ってもそれはそれで・・・」
「う〜ん確かにそうなんだけどさぁ・・・なんていうか1日帰ってない上にティア謹慎処分中でしょぉ〜。なんか声かけづらいよねぇやっぱりさ」
「でも、部屋に戻ったら嫌でもティアさんに会っちゃいますよね、スバルさん」
確かに気まずいのは理解できる。うん。
ただキャロちゃんの言うとおり、部屋に戻ればいるわけで。
僕たちはそんな会話をしながら、病院を出て駅へ向かう。
ここからレールウェイに乗って数分で湾岸地区に到着だ。
その道中。
ふと目にとまった人物がいた。
綺麗な黒髪を湛えた女性だ。そのそばにはブロンズの髪をした女性もいる。
黒髪の女性の方は、長いスリットが入った丈の長い淡いペールブルーのワンピースを身につけ、ブロンズの女性の方は、
シンプルに上が、白いシャツに黒の上着、そして下も黒のタイトジーンズとシンプルなモノトーンファッションで、少し小ぶりなポーチをぶら下げていた。
別になんてことない2人の女性だったんだけど・・・・。
僕が歩みを止めその2人をじっと見ていると横からスバルさんが、小脇をつついてきた。
「なになに、ラウル君ああいう女性が好みなの?」
「ラウルさんって、結構年上が好みなんですねぇ」
そうそう、なんか頼りがいがあって・・・・・
「って違いますよ!!いきなり何言ってるんですか!?」
「いやだって、あの人ジッと見てたからそうなのかなぁって・・」
ま、まぁ見ていたのは事実ですけど・・・・何もそれだけ・・・・で・・・・・・・・。
ふとその黒髪の女性と目が合う。
その瞬間だった。
ッ!?
その人の目を見たとたん全てを見透かされたような感覚に陥る。
その人の目は深海の様に深い青色だった。
よく吸い込まれそうな目っていう表現があるけど、まさにそれだ。
そして、気がつけばその女性が目の前に立っていた。
「え・・・・あ、あの・・・」
言葉がうまく出ない。スバルさんもキャロちゃんも、僕を見て
不思議そうな顔をしているが、僕にとっては今なんで目の前にこの人がいるのかさえよく理解できていない。
そりゃまぁ当然歩いてきたんだろうけど・・・。僕にはその目しか見えていなかったのかもしれない。
戸惑う僕に黒髪の女性が声をかける。
「どうしたのかな?私を見ていたようだったが・・・・」
僕は話しかけられてようやく、我に返れたのか言葉を必死に紡いだ。
「いや・・・そ、そのすいません」
必死に紡いでこれが限界だった。
とりあえず、凝視してしまったことに対する謝罪・・・・・ということになるのだろうか。
「ふむ・・・・まぁ別に見つめられる事自体は嫌ではないが、あまりにも私をジッと見ているものだから少し気になってしまってね」
彼女はおもむろに手を顔の前でゆっくりと合わせる。なんだろ・・・。何か考え事かな?
そしてそのまま目線を動かしていき、その瞳がスバルさんとキャロちゃんを捉えた。
一瞬みられて、ピクっと反応した2人に女性は合わせた手をゆっくりと開きながら2人に話しかけた。
「君たちの事は、良く知っているよ。スバル・ナカジマとキャロ・ル・ルシエだね?」
「「「えぇッ!?」」」
僕も含めて3人が同時に驚きの声をあげた。
どうしてこの人スバルさん達の名前を・・・。
更にその女性は、僕の方へ向き直ると
「そして、君はラウル・スカッフ。君の事も私は良く知っているんだよ?」
僕の名前まで・・・・。
い、一体この人なんなんだ・・・・・
もちろん困惑しているのは僕だけではない。スバルさんもキャロちゃんも同様だ。
だがそれを知ってか知らずかその女性は、柔和な笑みを浮かべているだけ。
なんだか・・・・この笑顔が妙に気味悪く映ってしまう。
その雰囲気に若干押されつつもキャロちゃんが意を決して女性に問いかける。
「あ、あの・・・あなたは・・・その・・・・・・」
「・・・・おや、私は自己紹介しなかったかな?」
女性は、不思議な顔で少し離れた位置に立っていたブロンズの女性を見やる。
そう言えば今気がついたけど、あの女性も知らない間に近くにいたんだな・・・・。
話をふられたブロンズの女性と、黒髪の女性は互いの視線だけで何かを感じ取り、僕には両者が少し頷いたようにも見えた。
その後、黒髪の女性は僕に向き直ると、再び柔和な笑みをたたえ僕たちに自己紹介を始めた。
「いやぁ、すまなかったね。私は、ミデル・アルバークそして彼女が・・・」
「クラミエ・ディエルです。どうぞよろしく」
ミデルさんと・・・・クラミエさん・・・ね。
名前を聞いたところで僕たちを知っている理由にはならないが、名前が分かるか、分からないかでは多少だが気持ちの持ちようが変わってくる。
それは僕だけではないようでスバルさんが、ど直球に尋ねた。
「それで・・・そのどうしてミデルさんは、あたし達を知ってるんです?」
「うん?あぁ、まぁこう見えて私も、管理局に関係のあるところで働いているものでね、機動六課・・・いや凄いものだ」
そう言うと、クラミエさんはポーチから新聞を一部取り出し自分の顔の前でかざして見せた。
あの新聞は・・・・。
その記事には見覚えがあった。少し前僕がレイナさんと一緒に見てた物と同じ記事だ。
「ほらね?こうしてメディアにも取り上げられている。君たちはあまり自覚が無いのかもしれないが、君たちは既に結構な有名人なんだよ」
「えぇ!そ、そうなんですか。なんだか恥ずかしいね、キャロ」
「はい、な、なんともいえないですけど、そう改めて言われるとやっぱり気恥ずかしいですねぇ・・・・」
やっぱり当の本人達っていうのは、そうやってメディアに取り上げられている事は、中々分からないものなのかな。
でも・・・・と照れる2人を尻目に僕は目線をミデルさんに向ける。
その視線に気づき、ミデルさんも視線を落とす。
「その、じゃあ僕の名前を知っていたのはどうしてですか?」
「君の事かな?・・・・君の事は私の知人からね」
知人?知人ってだれだろ・・・・。少なくとも僕は会ってるよねその人と。
だって僕は、新聞にも何にも取り上げられてすらいない訳だし。
「まぁ、そんな事はどうでもいい事じゃないかな?」
「え、どうでもいい事?」
少しムッとなってしまう。確かにスバルさんやキャロちゃん達ほど注目も期待もされてないけど、
それでも、自分の事をなんだかこう・・・・ないがしろにされている気がして。
少しむくれる僕にミデルさんは笑いかけると諭すように言った。
「あ、いや言い方が悪かったね、別に君を軽んじているわけではないんだ。私も言葉足らずだったかな・・・・」
そう言うと、ミデルさんは両手を口元で合わせる、あの動作をして少し何かを考えた後、前回同様ゆっくりと開いて、こう口にした。
「私はね、こう言いたかったんだよ。私が君達を知っている事など、どうでもいい事だろうと」
「えっと・・・・それはどういう・・・」
「私は君達を知っていて、そして君達は今、私を知った。要はそういうことではないのかな?
そこに何故知っているのかという話は必要だろうか?ただ私は君達を知っていた、それだけの事だ。
だが人は、知りたがる。君達の様に何故だと・・・・ね。そんな事を考えても、何の得にもならない、無意味だと知っていることでさえ」
「えぇと・・・」
だからつまり・・・・な、何を言いたいんだこの人は。
僕達は同様に首をひねる。
スバルさんに至っては、今にも頭から煙が出そうだ。
僕達の状況を見て、ミデルさんは笑みを崩さず穏やかな顔でそれを見守っている。
だがそれを見かねたのか、クラミエさんがようやく口を開いた。
「ミデル・・・・そこまでにしてあげて下さい。あなたの考えなんて、
宇宙人か、ミッドチルダ以上に発達した次元世界の住人ぐらいしか理解できませんよ・・・・」
「おやおや・・・・手厳しいね」
クラミスさんの言葉に、ミデルさんは振り返りながら苦笑いで返す。
クラミスさんは少し、呆れた顔をしながら、腕を組みため息をついて再び口を開いた。
「それよりも、よろしいのですか、時間の方は?」
クラミスさんは、おもむろに空間モニターを操作し、時計を表示させた。
「むぅ・・・・もうそんな時間か・・・・」
「では・・・」
「うむ、車を回してくれたまえ」
その言葉にクラミスさんは無言で頷き、きびすを返し走り去る。
「そういうわけだからね・・・・いやすまなかったね、こちらから一方的に話しかけてしまって時間も取らせてしまった」
「いえ、大丈夫ですよあたし達、今日は特に急ぎの用ってありませんでしたし」
「でも・・・・スバルさん、そうは言っても私達流石に、午後からの訓練に余裕を持って、間に合うようにって、考えると結構・・・」
「えっ?う〜ん・・・・た、確かにそう言われるとちょっと厳しいかなぁ」
「なら、早く言った方がいいね、もうすぐレールウェイの時間だろう」
ミデルさんがそう促すと、スバルさんとキャロちゃんは「そうですね」とそれに肯定し、一礼してから先に駅の方へ駆けていく。
「君はいいのかな?」
ミデルさんは、柔和な顔で僕にも同様に促す。
まぁ僕も、ここに居残る理由は無いわけで。
それじゃあ・・・・と思った瞬間いきなり通信が入る。
これは・・・レイナさん。
『あ、少年君!』
「な、なんですかいきなり・・・」
というか・・・なんでそんなに声をひそめて・・・
レイナさんの声はかなり小さくて、車が1台通過する音でも聞き取りづらくなるほど小さな声だった。
『い、いや・・・そのちょっと助けてほしいんだけど・・・・』
「助ける?誰からですか、っていうか今どこにいるんです?」
『う〜んと・・・・いうなれば鬼がいる地獄かな・・・ってちょ、ちょっとライアちゃんと隠してってば・・!』
「ライアさん?」
『い、いや良いの良いのこっちの話、とにかく来てよね!!』
「いや来てってどこへ行けばいいんですか!?」
『あぁ、と場所はね・・・・ってうあっ!?ちょっと三佐!!いや別に何もしてないでs・・・』
「あ、あのちょっと!!??」
切れちゃった・・・・。
何?いや本当に何??今どこにいるの、レイナさんは!?
「どうかしたのかな?」
僕とレイナさんの通信に疑問を持ったミデルさんが、問いかけてくる。
「いえ、こちらの事です・・・」
僕は苦笑いをして返す。にしても来いって言ったってなぁ・・・場所がわから「ふむ・・・・108の隊舎ではないかな?」・・・・え?
僕は唐突なミデルさんの言葉に目を丸くする。
「あぁ、いや先ほどの通信失礼ながら少し聞き耳を立てさせてもらっていてね」
「・・・・・はぁ」
「通信自体は短かったものの、判断材料はあった気がするね」
特定できる何かなんて・・・僕は気がつかなかったかけど・・・・。
「相手の女性は、1人の名前を挙げていたね確か・・・・そうライアと」
ミデルさんは、またまた手を口元で合わせ考えながらつぶやく。これまでも何度かこの仕草を見たがどうやらクセの様だ。
「ライア・・この名前には聞き覚えがある・・・そう・・・・ライア・フォルティモア陸曹だったかな。
そして彼女は、次のようにも言っていたね。三佐・・・と」
確かにライアさんと三佐っていう言葉は出てきていた。
でもそれだけで・・・・場所まで分かるものなのだろうか。
「ライア陸曹がいて、そして彼女は三佐とも言葉を発し、更にかなり声をひそめていた。このことから彼女は、
この三佐と呼ばれた人物に隠れてこの通信を行っている事が推察できないかな?」
・・・・言われてみればそうだ。それに・・・レイナさんは確かこうも言っていた鬼≠ニ。
「ここまで言えば、もう分かるかな?」
ミデルさんはゆっくり手を広げると、口元を緩めた。
そう、レイナさんが鬼と呼ぶ三佐なんて1人しかいない。リリィさん≠セ。
それにそこにライアさんもいるとなると・・・・確かにミデルさんが言った通り、レイナさんは108の隊舎にいる可能性は極めて高かった。
にしても・・・
僕はチラリと、ミデルさんを見やる。
これまでの言動から不思議な人だなぁとは思っていたけど、さっきの何気ない会話から、すぐに答えを導き出すあの観察力や推察力・・・・
それに加えて、管理局関連の仕事に就いているという事実。
一体この人は何者なんだろう・・・・。
「ところで・・・」
僕が、そんなことに思考を巡らせていると、ミデルさんが唐突に言葉を発した。
「108に行くのなら一緒にどうかな?私も108に用事があるのでね」
その言葉と同時ぐらいに、白いワゴンが僕達の目の前の道路に停車する。
降りてきたのはさっき、車を取りに行ったクラミスさんだ。
クラミスさんは、ワゴンのスライドドアを開け、すぐ脇で待機している。
い、いやいやいや・・・えぇ〜!?
本当にこの人・・・・いやこの人たち何者なんだ?
「我に、隠れてコソコソと・・・・いい度胸ではないかレイナ?」
うぅぅ・・・助けを求めたのが修羅場を招いちゃったよぉ・・・。
大体、それもこれも・・・・
「ライア!なんで動いたのさ!!」
そうだ、こいつが動かなきゃもう少しは話せただろうに!
まったくもって使えないおっぱいだ!
「馬鹿言ってんじゃねぇ!そもそも、あたしゃ、やめとけって言っただろうが!!いいか、レイニーはなぁ・・・・」
「私がなんですか!お姉さま!・・・まさかついに・・・・・・・キャーーーー何も部隊長や皆のいる前で発表なんてしなくても・・・・」
「だぁぁーうっせぇ!!お前は入ってくんな!!ややこしくなるだけだーーー!!」
「貴様ら、いい加減にしろ!!」
ここは108部隊の部隊長室。
本来なら、三佐がいて凛とした雰囲気の中、静かに執務をこなす部屋も今は、カオス状態・・・。
あの騒ぎの件で、当事者である、あたしやレイニーはもちろんライアや、半ば巻き添えくった感のあるスターク君まで一緒にこの部屋まで連行≠ウれたのだ。
「大体貴様ら、どんな問題があろうと、隊舎内でしかも小隊長クラスが騒ぎを起こしたということの意味が本当に分かってるんだろうなッ!」
その小隊長クラスにあたしは含まれてないよね。だってあたし小隊長じゃないs・・・・
「無論だがレイナ、お前も含まれているからな?」
うっ・・・・やっぱり含まれてるのかぁ・・・
「まぁ、当事者が含まれてないってのもおかしな話だしな・・・」
「ライア・・・お前が何か言える立場か・・」
あぁもう三佐頭抱えちゃった・・・。
っていうかさぁ・・・
あたしは頭を抱える三佐を尻目にライアにささやきかける。
「ホントに、あたしが居なくなってから個性的なの増えたよね108って」
「そぉか?あたしゃお前もかなり個性的だと思うんだけどな・・・」
「いやいや・・・まぁそれは否定はしないけどさ・・・もうちょっとおとなしかった気がするんだけどなぁ」
「まぁ、風紀委員的な役割もしてたナカジマ捜査官が六課へ出向になっちまったりしたからなぁ・・・それで少し騒がしくなったのは事実だろうけど」
そう言えばそんな話をどこかで聞いた気がする。
っていうかそれ以前に108って今は六課に協力してるんだっけね・・。
と、そんな会話をヒソヒソ話していると、それに気付いたレイニーがまた勘違いな声を上げる。
「あぁぁ!!またお姉さまにそんなにベッタリと! 早く離れなさいこの女狐!!」
「め、め、女狐ぇ!?」
初めて言われたよそんな事!
「あぁもう、いい加減にしろと・・・何度言えば分かるお前達は!!」
「・・・・・ほんと、手の付けようがないっていうのはこのことか・・」
ポロっとつぶやいたスターク君の声が凄く耳に残った。
さっきも言ったけど、完全にこの場はカオスだ。
連行したまでは良かった。だがその後、事の発端であるレイニーがあることない事全部あたしのせいにしたせいで、
話がややこしくなってそれにミミィやライアまで口をはさんで来たもんだからさぁ大変・・・・。
あたしに非が無いわけじゃないけど、「あの女がお姉さまを誘惑した」だの「それを自分は阻止しただけ」だの言われりゃそりゃこじれるってもんだろう。
まったくさっきの女狐発言といい・・・・彼女ホントにちょっとおかしいんじゃないの!?
そのまま話もまとまらないまま、数十分が経過しようとしていた時、不意に部屋の扉の開く音がした。
騒いでいたのが自動的に止まり、皆が扉の方向を注視する。
「し、失礼します・・・」
そこにいたのは三佐の副官マリアスちゃんだ。
マリアスちゃんは、若干このカオスな空気に圧されながら、おずおずと部屋に入ってくる。
「その、お客様です・・・」
その声と同時に入ってきたのは・・・・・・少年君!
いやぁ、本当にグッドタイミングだよぉ!
あたしは目を輝かせて喜ぶが、三佐はそっけなく言う。
「マリアス・・・今は取り込み中だ、少し外で待っていてもらってくれ」
三佐は、大体の事を把握しているようで、少年君が来た事には何の疑問も持たないようだ・・・
あたしが連絡取ってた相手・・・・やっぱりバレてた・・。
まぁ・・・仕方が無いか・・・・とあきらめかけたが、何故だかマリアスちゃんは部屋を出ていこうとしない。
むしろなんだか少し困惑しているようにも見えた。
「む?何をしているマリアス、聞こえなかったか? 今は取り込み中だと・・・・」
「い、いえその・・・」
マリアスちゃんの様子を怪訝そうな顔で見やる三佐。確かにあたしから見ても様子が少しおかしい。
「お客様っていうのは、ラウルさんだけではなくてですね・・・」
更に怪訝な顔になる三佐。
だがすぐに、部屋に入ってきた女性を見て、その顔が驚愕に代わる。
「んなッ!!」
三佐のこんな驚いた声初めて聞いたかも・・・。少年君の後に入ってきたのは、2人の女性。
うわぁ、綺麗な人・・・・。
思わず見とれてしまう。だた単純に綺麗なだけではない。
その身にまとう雰囲気や、動作一つとっても優雅だった。
思わず見入ってしまった、その女性と偶然にも目が合う。
女性が物腰柔らかに、軽く頭を下げる。
それに釣られてあたしも、頭を下げてしまった。
それと同時に、当然の疑問が頭をよぎる。
この人は・・・・・誰?
だが、その答えは聞く前に三佐が答えを言ってくれた。
「あ、姉上!!!」
まぁ、言わずもがな、その場が一瞬で凍りついたね。
そしてこれが、あたし達と・・・・
大いなる欲望の探究者との
ファーストコンタクトだった。
〜あとがき〜
あばばばば〜・・・フランちゃんかわい・・・・
あ、みなさん!どうもおこんばんちわ!しるくです。
今回も最後までお読みくださってありがとうございます!
さてね、前で言ったかもですが新キャラ登場回です。
というか皆さま、キャラが若干多すぎるっていう事はありませんよね?
まぁ、そんな事は無いと思いたいですが・・←願望
まぁこの小説はこんな感じで進んでいきますのでね♪
これからもよろしくお願いします!
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、