電子音が響く薄暗い空間に、1人の女性の影があった。


綺麗な紫のロングヘアーに、上は白を基調としたジャケット下には髪と同じ色をしたスカートをはく。


そして女性の目の前のモニターには、以前行った新型のガジェットと、ある部隊との戦闘映像が流れていた。


その中で女性は最後、新型にとどめを刺した1人の男に目がとまる。

ん・・・?

映るのは、大きな砲を携えた魔導師の姿。

この男・・・まさか。

ふと、ある事を考えたが女性はその考えを振り払う。

そんなことはあり得ないと。


すると不意に後ろから声がする。

「やあ、ウーノ。どうかしたのかな?」

ウーノと呼ばれた女性は声の方向を振り返る。

そこには白衣の男が立っていた。

「ドクター、実は・・・」

そこまで言いかけてウーノは言葉を止めた。別に報告するほどの優先度は無い。

確証も何もない事だ。そんな事を言ってドクターに余計な気を使わせるわけにもいかない。

ウーノはそう判断した。

「・・・いえ、なんでもありません。」

「ふむ、まぁ良いがね。」

不敵にドクターと呼ばれた男性が笑う。

そして彼は誰にともなくつぶやく。


「・・・・もうすぐ始まる。我々の夢への挑戦が」


チラリとウーノはドクターを見やると、また自分の仕事を淡々とこなしていく。

期待しているよと、声をかけドクターはまた、暗闇へと消える。

期待している・・か。ならばその期待にこたえねばならない。全てはドクターのために。

そう、ドクターのために。


●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第12話 〈力と代償〜前編〜〉●

マリエスさんと話をして以来、少しづつだけど、分かってきた気がする。

その証拠と言っては何だが、ここ数週間続いていたイライラも、最近ではほとんどしなくなっていた。

今日は、この前あった六課からの依頼の調査資料の提出ために六課の隊舎へと足を運んでいる。



・・・っていうかね・・。

「レイナさん、これはちょっとおかしいんじゃないですか!」

僕は大きなダンボールに入った資料を担いで、その腕にも資料の入った紙袋をぶら下げている。

紙と言っても、集まればその重さは結構な物だ。

はっきり言おう、僕には過積載です。

「ん〜ダメなんだよ〜。隊舎内なんだから大きな声出しちゃ」

正論すぎる正論ですね・・。

僕らが向かう先は、隊長室。ここの部隊長の部屋だ。

・・・八神はやてニ佐・・・か。

これまた偉い人に会うものだと、若干緊張してしまう。

この前会った、リリィさんも話はあまりしなかったが、どこか独特な雰囲気を持っている人だった。

しかも、話じゃ19歳だとか・・

僕と7つ違い・・。

キャリアっていうのは凄いんですね。

想像もできない話に若干苦笑いしてしまう。

それに気付きレイナさんがこっちを見て笑う。



「何、笑ってるのかな?」

「あぁ、いえちょっと六課の部隊長の事を・・・」

レイナさんは僕の返答を聞いて、フフッと声を出して笑うとレイナさんもまた少し苦笑いになる。

「ねぇ〜凄いよね。19歳で部隊持ってニ佐だよ。ホント、才能ある人って凄いねぇ」

「でも、レイナさんだって指揮官だったんでしょ?似たような年齢で。」

それを聞いたレイナさんは、おどけた感じで手を顔の前で左右に振る

「いやぁ、あたしは指揮官って言っても小隊長つまり、今で言うライアの上官みたいな立場だったからね。

それに今は、もう小隊指揮官っていうのは小隊長に、まとめられちゃったみたいだしね

居ても、居なくてもあんまり困らないような立場だったから・・・」

レイナさんはアハハっと明るく笑う。

「まぁ、言ってみればお飾りみたいな感じかな。やってる事は小隊長とさほど変わらなかったし。

指揮官って言っても、そこまで偉いってわけじゃないからね。」

まぁ、そんなものなのだろうか。

互いにそんな事を言い合いながら、たどり着いたは、隊長室。



結局最後まで、荷物を持たされてしまった・・。



レイナさんが隊長室のパネルを操作する。

すると、インターフォン越しに「どうぞー!」という明るい声が返ってきた。

いよいよニ佐にご対面。

名前だけは知ってるけど、どんな人なんだろうと緊張の面持ちで僕はレイナさんと隊長室に入った。





「よー来なさったなぁ!」



・・・・タヌキさんがいました。

・・・もとい、八神部隊長が入るなり笑顔で手を振っていました。

一瞬で僕たちは、緊張していたのが馬鹿らしくなってしまった。

「もう、はやてちゃん!いきなりそんな感じじゃ、お二人がびっくりしてるです!」

「いや、りぃんあまいで。こういうのは、第一印象が全てを決めるんや・・・今のでキッと緊張もほぐれたはずや!」

うん・・まぁ緊張はほぐれたどころか、緊張なんて言葉はどこかに吹っ飛びましたよ。

と、いうかその小さな浮遊物は・・・。

「あ、あの〜・・・特観のレイナ・リーンバーンと、部下のラウル・スカッフなのですが・・・。」

レイナさんも若干どう対応すればいいのか分からないようだ。

八神部隊長は、こちらに向き直るとニヤリと笑う。

「知ってるで。特にそっちのラウルっちゅう子はな。」

名指しされてドキッとする。ま、まぁ心当たりはありますね・・・ホントに。

「まぁええわ、私が機動六課部隊長八神はやてです。そしてこの子が・・・。」

「リインフォースUです。主に部隊長の補佐をしているです、よろしくですよ!」

なるほど、あの小さい妖精みたいなのも、この部隊の隊員だったのか。



「ほんなら、とりあえず持ってきてくださったものだけ、頂きましょうか?」

僕は抱えていた、ダンボール箱と紙袋を部隊長のデスクにドサッと置く。

その量を見てあからさまに嫌そうな顔をする部隊長。

「こ、こんなにあるんやね・・。」

「ダメですよ、はやてちゃん。体良く、他部署へまる投げなんてしちゃ・・・。あの後大変だったですよ!」

「そ、そんなことせぇへんて!あれは・・・そのちょっと他の部署の腕試しに・・」

「なら今度は、はやてちゃんをリィンが腕試しするです!」

部隊長の顔に「しまった」という色が見て取れる。どうやらうまく丸めこまれたようだ。



・・・・なんとなく、どこかで見たような関係な気がしてならないが、この際は深く考えないでおこう。

部隊長は、「分かった、分かったぁ!」とリィンさんを振り払うと、今度はこちらに向き直ってジッと僕を見つめた。

そんなにジッと見られると・・・その。何というか照れる。

しばらくじっと見つめて、いきなり・・。



「自分、もう少しでスバルをキズものにしかけたってホンマか?」

ぶはッ!!言い方ってもんが無いのかこの人は!!知らない人が聞いたら、警察に通報されちゃう!

「あはは、自分おもろいなぁ。まぁ今のは言い方半分冗談やけど、でもスバルから話は聞いてるで?」

まぁあれだけの事だから、それなりに話題には、なったんだろうなぁ。

どう伝わったかが非常に気になるところだけど。

「・・・ふ〜む。でもなぁ、スバルのプロテクションを破ったんか・・。」

ぶつぶつと独り言を繰り返す部隊長。

それを間近で聞くリインさんも不思議な顔をしている。

聞いているリインさんがそうなら、当然僕たちにも何を考えているかなど分からない。



「よし!」

バンとデスクを叩いて立ち上がると、とんでもない事を言い出した。

「ちょう、気になることもあるし、今度、六課の新人らと自分らで模擬戦をやるで!」

「「「はぁ!?」」」

いやいやいやいや・・・何言ってんのこの人!何思考回路が僕らと違うの?

偉くなると見えるものが違うっていうけど、次元まで違うの?


「ちょ、ちょっとはやてちゃん!何言ってるですか!!」

「そうですよ!いきなり模擬戦なんて!」



いきなりの事に戸惑う僕とリインさん。


当然レイナさんも、困惑気味だろうと振り返ると・・・・・・あぁもう!!何その顔!!!


「ふ〜ん、八神ニ佐中々面白そうですねそれ♪」

「やろ!話し分かるなぁレイナさんは!」

♪じゃねぇよ!!!

何がどう面白いの!

それに今僕はデバイスだって無いんです・・・そうだ!デバイスが無い事を!!

「ざ、残念ですが、今僕デバイスが無いんですよねぇ〜。ホントはしたかったんですけどねぇ。デバイスが無けりゃ無理ですよね、流石に・・」



「ふっふー、そんな逃げは許さないよ少年君!それにデバイスが無くても、汎用のクロスレンジのデバイスもあるしね。」

それを聞き部隊長が「あっ」と声を上げる。

それにつられ一同の注目は部隊長に。

「いや、あかんねんそれじゃ。」

ダメなの、どうして?

「正直に言うと、ウチはラウル。あんたの実力を見たいっていうのもあんねん。」

少し真剣な顔つきになる部隊長。

僕の・・・実力?

そんな大したもんじゃないけど・・・。

「まぁ、目的は他にもあるんやけどな・・・・ほなどないしようか」

いや、だから中止でいいじゃないですか・・・。

「だったら、あたしがご連絡しますよ。都合がつく日を後日また。」

「そうか、そうしてくれるか〜。助かります、レイナさん」

座ったまま少し頭を下げる部隊長。

あれ?

「それでは、あたし達はこのあたりで失礼します!」

あれれ?

「ほんなら、連絡楽しみにしてます!」

あれれれ?

二言三言言葉を交わして、部屋を出る僕ら。

・・・流されてない、これ確実に。

部屋を出るときに一瞬見えたリインさんのかわいそうな者を見る顔が、ひどく突き刺さった・・。


さて・・・どうしよう。



















さて、約束の2週間が過ぎた。


俺はジムニー技師から連絡を受け、デバイスを取りに来ている。


だがそこは技術部ではなく湾岸地区の洒落たカフェだ。

先についた俺は、コーヒーをすすっている。

約束の時間はもうすぐだが・・・・中々来ない。


まぁ技師も副主任という立場だ。色々とあるのだろう。

にしても気になるのはどう仕上がったかだ。

一体どこでどんな、違いを出しているのか、そしてどこまでオリジナルに近いものなのか・・・。

難しい要望だったが技師は引き受けた。

引き受けたという事は、少なくとも出来るという自信があってのことだろう。

考えを巡らせていると、カフェの入口に見覚えのある女性。

どうやら来たようだな。







「ごめんなさいね、乗り遅れちゃって」

ガサッと持っていたカバンを椅子に置き俺と会い向かいの位置に座る。

服もいつもの白衣ではなく、ペールブルーの女性物のスーツにスリットの入ったセミタイトスカートを着ている。

「それで、出来たんですか?」

俺の質問を予想していたようで、技師は不敵な笑みを浮かべる。

「あたしは、これでも専門職よ?要望にはしっかり答えたつもりよ?」

笑顔でウィンクをすると、近くにいたウェイターにカプチーノを注文する。

「まぁ難しい要望ではあったわよね。見えないところで、違いを出さなきゃいけない訳だし」

俺は聞きながら、またコーヒーをすする。

技師はまた不敵に笑うと、人さし指をピンッと立てる。

「期待して、良いわよ」

その声は自信に満ちていた。








俺たちはしばらく、時間をつぶしさっそく技師が持ってきたデバイスを拝見すべく場所を外へ移す。


少し距離はあるが臨海公園まで行くことにした。

少なくともデバイスの話をするのに、こう言った街中よりはいい。

「そう言えば、彼とは会った?」

俺は目線だけチラッと動かす。

「いいえ、まだあれから一度も。我々も暇ではありませんし、あいつにはあいつの仕事もありますので。」

「そう」と言い後ろを付いてくる。

このデバイスが完成しなければ、あいつに会っても意味が無い。

どの道、完成前にあいつが来たら追い返すつもりだった。

だから、こっちの準備が整うまであいつが俺に会いに来なかったのは結果としては良かったのだ。

はたして、あいつは答えを見つけたのだろうか。・・・気づけよ、そう心でつぶやく。

臨海公園はもうすぐだ。


























特観に帰った僕たちだったが、正直焦っていた。

いや、というかそもそもなんでこんな事になったんだろうか。

確か僕たちは、八神部隊長に資料を置きに行っただけのはず・・・。

それがいつの間にか、模擬戦の約束に置き換わっている。

そして何より焦っていたのがデバイスだった。



あれ以来僕は自分のデバイスがどうなったかを知らない。というよりここんとこは、そっちに気を回せるほど余裕も無かった。

あの悩みは、マリエスさんとの話し合いで一定の答えも出たけど・・・。

どうするか・・・・。

っていうかね・・・。

「レイナさん!なんであの時面白そうだなんて・・・!」

「いや、だって六課だよ六課!この前はあんな形だったし、あたしも興味あるんだよね〜」

のんきに・・・!

やるのは僕なんですよ!!

「分かってます!?やるのは――――――」

「そうだね、やるのはあたし達だね」

そう、あたした・・・・え?

どういうことだ、あたし達?それじゃあレイナさんまで勘定に入ってるみたいな言い方だけど・・・・。

レイナさんはチッチッチッと指を振り、ニヤリと笑う。

「少年君、聞いてなかったの?八神部隊長は、六課の新人らと自分ら≠チて言ってたんだよ?」


そう言えば、そんなニュアンスで言ってたな〜・・・・って!

うわぁ・・・やられた。

そんなとこまでさらっと・・・あの人やっぱりタヌキじゃないか!


・・・・でもちょっと待てよ。向こうは4人だ。


やるしかなくなったことについては、もう若干諦めが付いているが、人数が合わない。

チラッとレイナさんを見やると・・・・あれ?うなずかれた。なんでだろ。

「人数の事は気にしなくていいよん。居るからね良い感じのが2人」

え、もう?


レイナさんはちょっと待ってと言うと、おもむろに空間モニターを開く。

そこにはツンツン頭の乱暴な女性・・・ライアさん?

『っち、あんだよこっちは忙しいんだっての!』

明らかに機嫌が悪い・・まぁ無理も無いか・・仕事中だからな。

「ねぇライア、今度六課の新人4人と模擬戦することになっちった。」

『・・・おい、なんだか嫌な予感しかしねぇぞ・・!』

うん、ぼくもそう思う。その証拠に凄い良い笑顔だもんレイナさん。

「ライア、スターク君同伴でお願いね」

『はぁ!?、お前あたしが言った事聞いてたかよ!?』

「うん聞いてたよ、すっごく暇だって」

『てめぇは一度耳鼻科行ってきやがれこのバカ!あたしは忙し「そっかーそんなに暇ならよろしくね!じゃっ!!」お、おいちょとま』

一方的に切った・・・・。

レイナさんはこっちを向くとさっき以上に満面の笑みを浮かべる。

「ね、いたでしょ。あたしは良い友人をもったなぁ〜」

・・・・友人の定義がどうなっているのか、凄く聞きたいです。

とにもかくにも、人数は集まった。


後は、デバイスか・・・どうしよう。




























ここらへんで良いだろう。

俺たちは適当にベンチに座る。

「いきなりだけど、これがあの子のデバイスよ」

座っていきなり、自分のカバンの中から、待機状態のS3Uを俺に手渡した。

待機状態でも少し重たくなっているのは理解できた。デザインは同じだがな。

手渡して、すぐに技師は説明を始めた。

「このデバイスはS3U−SU。基本骨格はS2Uの物を使用したけど、オリジナルはほぼ使えなかったわ。その辺は勘弁して頂戴。」

・・・・やりすぎたな。

少し後悔する。至近距離からの一撃は思った以上にヤツのデバイスを削ってしまったようだ。

「当然ベースに使ったS2Uも最新のロッドの物を使用したわ。というよりそうしないとこの微振動破砕の能力を持つデバイスのフレームが耐たない。

基本的な動作は全て以前の物と一緒よ。使い方取りまわし全部ね。変更点は以前言っていた質感と処理速度のアップと新フォルムの追加、大きく言えばこの3つよ。」

新フォルム?

そんなものまで付けたのか。だが差別化にはちょうどいいのかもしれんな。

「新フォルムスパイク≠ヘ微振動破砕の能力を最大限生かした突貫攻撃の出来る所謂、スピアー状の形体ね。この状態は主に相手のバリアを指し砕く事が出来るの。

バリアブレイクの能力がある事色々調べていて分かった事だし、何より彼小柄でしょう?小柄な身体を巧く使って最大限の攻撃が出来るデバイスに仕上がっているわ」

というよりも、元々それだけの能力があったのだろうこのS3Uにはただ、経年というものが足かせとなって、それを最大限引き出せていなかったのだ。

ふむ・・・と少し考える。

あいつは多分、答えを見つけるはずだ。

いら立ちの意味も、俺の言った意味も。

その時あいつはどんな成長をするのだろうか。



いや、そもそもなぜおれはあいつの事をここまで、考えているのだろうか?

考えてもそれだけは答えの出ない事だが・・・。

ふと時々考えてしまう。



・・・・まぁいい。とにかくあいつの力はここにしっかりある。

あとはあいつがどういう答えを俺に聞かせてくれるかだ。

「本当に、ありがとうございました」

俺は深く頭を下げる。苦手な女なんだがな・・。礼はきっちりとせねばなるまい。

「ッフフ良いわよ、改まってそんな事。それより、そのデバイスしっかり返してあげるのね」

それが別れの挨拶だった。

俺は技師の後ろ姿を見送ると、手に持ったデバイスを見やる。

黒光りするデバイスは、今か今かと起動を待っているようだった。


デバイスを凝視していた時不意にモニターが開く。俺はあわててそのモニターを見た。

・・・・ん、小隊長?

『スターク・・・・はぁ・・』

「いきなりため息をつかれても困るのですが・・・」

『何か知らんが、あのチビとレイナとあたしとお前で六課の連中と模擬戦をすることになったらしい』

え、六課の・・・。それにあいつも一緒か・・。

『まったくあのヤロー。一方的に切りやがって・・お前も気がのらねぇとは思うがスケジュールだけ調節しといてくれ』

「・・・いえ自分は・・。というか一歩的なのに受けるのですね」

モニターのむこうの小隊長は、面倒くさそうにボリボリ頭をかくとぶっきらぼうに言った。

『ッハ!こっちだって出たくねぇがね、108の体裁ってもんもあるんだよ。ほら協力体制敷いてんだろ。それでさ・・』

なるほどね・・・。まぁだがこれはグッドタイミングだ。俺は分かりましたと言ってモニターを切ると何もない空間を睨む。

さて・・・・・舞台は整ったな。

俺はレイナさんに通信を開く。

よし、これでいい。























あれから数日、結局僕の手元にデバイスが無いまま模擬戦の日を迎えてしまった。

というより、なんでデバイスが無いのにレイナさんはこの日を指定したのか・・。

キョロキョロとあたりを見回す。

場所は廃墟都市区画。

その名の通り、かつて栄えた都市のなれの果て。

傾いたビルなど、なんともまぁさびしいところだ。

僕の隣にはレイナさんがいる。

その顔は、自信満々な色が見て取れる。


一体何の自信なのか・・・。



しばらくすると、ヘリの音が近づいてきた。

緑色の輸送ヘリだ。

目を凝らすと・・・あれは八神部隊長?




ヘリは丁度僕たちの近くに着陸。リアハッチが開きそこからスバルさん、ティアナさんなど六課おなじみの4人が顔を出した。


ローターが巻き上げる風が、激しく周りをあおる。


そして一番最後に髪を抑えながら八神部隊長が下りてきた。

「レイナさん、今日はよろしゅうな!」

「こちらこそ〜!」

互いに声を張り上げないとヘリの音で聞こえない。

八神部隊長もそれを嫌い、指で合図をヘリに送る。

それを受けてヘリのパイロットが機体を上昇させる。



ようやく張り上げなくても聞こえるようにはなった。

「お久しぶりです、ラウルさん!」

エリオ君とキャロちゃんがペアで駆けよってくる。

いつ見ても・・・なんでこんなに落ち着いているのか・・

その声を筆頭に一通り挨拶をすませる。

「にしても、遅かったですね八神部隊長しかもヘリで来られるなんて・・・」

「ん?あ、あぁまぁちょっと色々あってな」



ん?歯切れが悪いな・・。

その返事にレイナさんも一瞬怪訝な顔になる。

「そんなことより、今日はしっかり頼むで・・・って人数が足らんみたいやけど・・?」

話題をスッと変えた部隊長、レイナさんもそれにどうやら乗っかるみたいだな。


「いやぁ、もうすぐ来るはずなんですが・・・あ、来た来た」

一同が一方向を見やると・・・・・

・・・・・ライアさんその目はダメです。

みんながその目を見て固まる。


スタークさんは相変わらずだけど・・。


「・・・・てんめぇ・・・・・ふっざけてんじゃねぇぞ、このばかやろう!!!!」


「わ!いきなり何さ!!」

胸倉をつかんで頭を前後に振りまくる。

「いきなりじゃねぇ!そりゃこっちのセリフなんだよ!!!!」

「六課のみんなはこんな、大人になっちゃだめだよ!」

「ふざけんなーーーー!!!」

あぁ、固まったっていうのはこういうのをいうのだろうか・・。


こりゃしばらく、ギャーギャー言い合ってそうだなぁ・・。












僕が頭を抱えていると、いつの間にか、隣にスタークさんがいた。

「・・・気がついたか?」

その目は遠くを見ていたが、声は僕に向けたものだった。

僕は、ふっと笑みを浮かべ、スタークさんと同じ方向を見やった。

そこに何があるというわけではない。

ただそのあたりの風景を漠然と見ている。

「えぇ、一応ですが」

ふわっとした答えに怪訝な顔になったスタークさんだったが、静かに「そうか」といって目を細めた。

そして僕にさらに近寄ってあるものを手渡した。

これは・・・


黒光りする待機モードのデバイス・・・。

S3U−S・・・・。

それを受け取って、不思議そうにスタークさんを見上げる。

スタークさんは、またどこか遠くを見て淡々と言った。

「・・・気がついたのなら、お前の力を自分で感じてみることだ。自分がどれだけの力を持っているのか、それを自分で体感するんだ」

え、自分で・・・。僕はデバイスに目を落とす。

黒光りするデバイスは何も語りかけてはくれない。でも・・・。

「そして、それはそのためのデバイスだ」

何を言わんとしているのかは理解できる。

このデバイスは、前のS3Uではない。

「・・・・ようやく、お前の全てをぶつけられるデバイスを手に入れたんだからな」

そして今の言葉で確信した。

・・・・僕の全て。それがどのぐらいなのか、自分でもわからない。

ただ、いろいろ悩んで、迷って、考えて。

気がついたことがあるのは確かだった。

それを受け止めてくれるデバイス。

僕はデバイスを握る力を強める。

そして決意のこもった目でスタークさんを見返す。

スタークさんは深く頷くと、きびすを返した。

「見せてもらうぞ、お前の答えを?」

僕もそれに深く頷き返した。




















ライアさんはもうすでに一通り、挨拶を終えたようで、バリアジャケット姿になっていた、スタークさんも同様だ。

僕もそれにならって、バリアジャケットを展開する。向こうも4人とも展開し終わっていた。

・・・・ってそういえばレイナさんのバリアジャケット見たことないな。

「お前、出来んだろうな?」

「ライア、誰に言ってるの?出来るに決まってんじゃん!」

ガッツポーズを作ると拳と拳を胸の前で勢いよくぶつける。

「そんじゃ、まぁいってみよーか!」

それがトリガーなのかは分からないが光に包まれ一瞬でバリアジャケット姿に。

その姿はライアさんのデザインとまったく一緒だった。靴は普通のだけど。

ただ髪はポニーテールがほどかれ、綺麗なブロンズの髪を風になびかせていた。

これが、レイナさんの・・。

それを確認した八神部隊長が、号令をかける。

「ほんなら、ルールの説明や。デバイスは非殺傷なこれ当然やで。制限時間は30分どっちかのチームを全滅させるか、

制限時間終了後に立ってる人数の多い方が勝ち。ちゅうことで。ええか?」


互いにうなずく。異議はないようだ。

「フィールドは事前に下見した結果、この区画一体を使用する」

そういってモニターに地図が表示される、結構広いが・・それでいて広すぎることもない・・・絶妙だ。

「それじゃ、5分後のスタートやで。作戦練るなりなんなりして・・。あとスバルら、分かってると思うけどもし負けたら・・・・」

「は、はいそれはもう!」

「わ、分かっています!」

「が、頑張ります!」

「わ、私だって!」

上からスバルさん、ティアナさん、エリオ君、キャロちゃん。なんだろう罰ゲームとかそんなのがあるのかな。

「うん、わかっとるんならええわ。それじゃしっかりやるんやで!」

言い残し部隊長は、再び降りてきたヘリに乗り込む。

なるほど高みの見物ですか・・。

にしても・・・

僕は近くにいたティアナさんに話しかける。

「あのティアナさん、負けたら何かあるんですか?罰ゲームとか?」

「・・・・そうね、生死をかけた罰ゲームが待ってるわ」



・・・・どうやらこれは聞いてはいけなかったようだ。












さて・・・俺は考えていた。

この模擬戦のフィールドの広さを見たとき俺は、これはチャンスだと思った。

この広さならフルバックの位置からでも相手陣営のフルバックに砲撃が届く。だがそれは向こうも同じことは考えているはず。

問題はむしろ個人技でこちらが少し負けているということか・・・。

たぶん相手はこちらを分断してくるだろうが・・・。それはそれでいい。

事前に相手の資料には目を通した。そこまで期間があったわけじゃなかったから、細かいところまでは

わからなかったが、スバルがフォワード、エリオがガードウィング、ティアナがセンターガードそしてキャロがフルバックということはわかった。

するとだ・・。前に出てくるのはエリオとスバルの両名。

俺はチラリとメンバーを見る。

スバルの相手は、一度模擬戦の経験のあるラウルでいい。そして小隊長とレイナさんだが・・・。小隊長の話ではレイナさんは

クロスレンジを得意とする魔導師と聞いた。本来ならスバルに当てたいところだがエリオにはスバル以上の速さがある。

一度戦ってラウルのクロスレンジ技術はそれなりに高いことは知っているが速さはそれほどでもない・・。

ここはまぁエリオに当てるのが妥当か・・。

小隊長には遊撃をやってもらおう。分断されたときにも、遊撃なら自由に動き回れる。小隊長にはミドルレンジの魔法がある。

いざとなれば中で戦えるだけの能力もある方だ。

俺も特に当てる人物を決める必要はない。射程はある。

ティアナは放っておけば怖いが・・・前に出てこないのなら優先度は低い。

これでいい。

俺は号令をかける。

よし行こう!







あたしは考えていた。

この模擬戦のフィールドの大きさを見たとき、少しあせった。

大きいとか小さいとかではなく、相手の射程の問題だ。



射撃スキルでは負けているとは思わない。でも・・・・圧倒的に射程が足りていない。

ここをどうカバーするか・・・。っ考えるのよ。あたしみたいな凡人はこういうことでしか、才能のあるやつには太刀打ちできないんだから!

さて・・・・。



「・・・ねぇ、・ァ!」

それに不安要素はほかにもある、あのラウルだ。スバルのプロテクションを破った相手・・。あれも侮れない。

「ティ・・ってばー!」

それに相手が誰をどう当ててくるかも問題よね・・。

「ティアってばぁ!!!!」

「っ!!!!」

気がつけば耳元でスバルが叫んでいた。

キーンとする耳を押さえつつ、クロスミラージュの角でスバルの頭をたたく。

「っさいわね!!いま考え事してんのよ、こっちは!」

「い、痛い痛い、ちょっとティア、角はだめ!!わかったわかった悪かったよぅ〜!」

まったく・・・。スバルので、考えがまとまらなかったじゃない!

・・でも、まぁ。

あたしはチラッと敵陣営を見やる。

戦力はたぶん互角か、ちょっと無効が上。ラウルの経験不足とレイナさんのブランクを差し引いても

イコールにはならないだろう。だが、個人技ならば一転こちらのほうが上かもしれない。

スバルの頑丈さに加えて突破力、速さのエリオにキャロのブースト・・・そしてあたしの射撃。

束になってこられると怖いけど・・・それぞれを分断して・・いざとなればあたしとその場の誰かの間に挟んでしまえばいい。

たぶんこっちの考えに気づくまでは、あまりあたしには積極的に狙ってこないはずだろうし。

それにスタークは、確かに脅威だが前に出てくるタイプではない、ライアさんは気になるがその場合の対処もそれなりに考えてある。

よし・・これでいいわ。

あたしは号令をかける。


さぁて!行くわよ!!!
































それぞれが、持ち場に着くと大型のモニターが模擬戦会場に開く。


「両チームとも、ええみたいやね・・・それじゃぁ・・」



僕は待機モードのデバイスに力をこめる・・。見せてやろうじゃないか!

「はじめ!!・・・・・・ていうたらスタートな?」



思わず、前にめりにズッコケてしまった。


「もう!はやてちゃん!」

リインさんの声だ。・・・なんだか気持ちがわかるなぁ・・。



「あはは・・ちょっとしたお約束やんか〜・・じゃあ、まぁ気を取り直して・・」



「始め!!!」



自分の力を見せる30分間が始まった。































始まった、始まった!

とある廃ビルの屋上から模擬戦を見守る2人の影があった。

片方はブラウンの髪を、一方で結び、はやてと同じような陸士の制服に身を包んでいる。

そしてもう片方は、きれいな金色の髪を流し執務官であることをあらわす全身黒のスーツに身を包む。

「なのは、うれしそうだね?」

なのはと呼ばれたブラウン髪の女性はテヘヘと笑う。

「うん、まぁね。相手は現役の陸戦魔導師2人にちょっとわけありな2人でしょ。今のあの子達の能力を測るにはちょうどいいんだもん

こんな機会あんまりないけからね。フェイトちゃんはどう?」

「・・・まぁ少し心配ではあるけど・・・私もなのはと同じかな」


フェイトはふっと笑顔を浮かべたがすぐにどよーんとした雰囲気になってしまう。それはなぜか・・

「っていうかはやて・・こういうことやるならあたしにも事前に知らせてほしかった・・なのはが声かけてくれたから知ったようなものの・・」

「にゃはは・・・それは・・・ねぇ」


なのはは思わず苦笑い。

そしてスッと目を模擬戦会場に向ける。

さて・・がんばるんだよ、みんな!
































僕の割り当てはスバルさんか・・。

そういえば、以前模擬戦しようなんて約束していたことに気がつく。

僕は高速だった道路の上を走る。

しばらくすると、スバルさんの魔力光である水色の砲撃が・・・・って下!?



すばやく跳躍する、そしてたった今いた道路が崩れていくのを確認した。

煙がはれると、そこにはハチマキを巻いた少女・・・スバルさん!


僕は起動する、僕の力を。


S3U-Sを!




光に包まれ一瞬にして鎌の形になるデバイス。。でも・・・持った感じが違う。


形は一緒だが、重さ質感そして感覚的な全てが。


でも不思議と違和感はなかった。

・・・よし


スバルさんをみやる。行きますよスバルさん・・・これが僕の力です!!



僕は刃を閉じたクローズドフォルムのまま跳躍し一気に間合いをつめた。

速さがあることも、頑丈なのも知っているがそれでもネタはばれている。


ウェイブシザーズを当てるタイミングも前と一緒じゃだめだろう。

勢いのままスバルさんがナックルを振りかぶって思いっきり突き出す。

それを、S3Uの柄の部分で受け流し、下についたS3Uを軸に体を跳ね上げ、スバルさんの腹部にけりかかる。

「させない!」

「―――ッ!」

スバルさんは左手でそれを受ける、しまったつかまれた!

右手はすでに引かれ、また攻撃の態勢に入っている。

「でぇぇぇい!」

「・・っくっと!!」

とっさにS3Uの刃を展開。それに、驚き手を放した隙に一度間合いを取った。

ファーストコンタクトは、引き分けですか・・。

でも、やれないわけじゃない。

今日はよく見えているし、対応できる。

こういうのもきっと、スタークさんが気づけよといったもののひとつなのかもしれない。

「・・なかなかやるね!」

「僕だって、いろいろ気がついたんです・・っよ!」

軽口をたたきながら互いにいい、緊張感で打ち合う。



今日は勝ちます!



















少年君があれほどねぇ〜。いやぁ、お姉さんはうれしいよ・・。

あの悩みに何の手も出さなかったことは結果いい方向へ動いたようだ。

あたしは今、大通りを走っている。

周囲に気を配りながらね・・・。さてぇ・・・。

「っ!」

後ろを振り返る、一瞬何かが光った!

そこかっ!

あたしは体を反転させ、右手を一気に突き出してその勢いのまま光とぶつかる!

「凄い速さだねぇっ!!」

「そちらこそ!!まさか受け止められるとは思っていませんでしたよ!!」

互いに挨拶代わりの一撃。身体強化したあたしの右腕とあの子のデバイス確かストラーダだったっけ?

その2つが激しくつばぜり合いを起こす。

でも威力は・・・っく!

「あっちゃぁ!向こうのほうが上かぁ!」

当然向こうは、距離を高速移動してきている分重さに移動エネルギーが加わっている。ただとまって踏み込んでいるあたしのほうが押されるのは目に見えていた。

分が悪いねぇ!

あたしは勢いのまま後ろへ飛ばされる。何とか体勢だけは保てて、倒れなかったのは幸いだ。

倒れたら追撃か。・・・って!あたしはチラリと後方を見やる。

豆粒サイズだがオレンジ色のスフィアを従えた・・ティアナちゃん。

しまったこりゃあ、仕掛けに乗せられたかな・・。

気を抜けば・・・あたしを撃てるよねあの距離からでも。

まぁ、でもそれぐらいハンデをあげようじゃないか!

なんて言ったってお姉さんは・・・・ちょっと強いよ?







ヘリの中から、はやては、会場を見下ろす。

なるほどな、スタークちゅう子も中々思い切った事をするなぁ。

ティアナを完全無視とはなぁ。

まぁいざとなれば、あそこからでも撃てるっちゅう一種のメッセージなんやろうけど・・。

反対にティアナはエリオを使こて、うまくレイナさんを挟み込んだみたいやけど・・。

どうもうちには、あのレイナさんの余裕が気になるところやね。

そもそも、彼女がどんな戦い方をするのか、詳しくしらんのもあるけどな。

・・・で、うちの最注目株のラウルちゅうちまっこいのや。

頑丈さではスバルと比べモノにはならんけど、

クロスレンジの対応は、結構驚いた。

とっさか、考えてかは分からんけど、非戦闘員という事を考えれば、スバルと打ち合えてるんははっきりって奇跡に近い。

ふむ・・・。ウチは手を顎に持っていくと、もう片方の手でモニターに送られてくる定点カメラからの映像を切り替えスターク陣営の4人を写す。

・・・・この4人。会うべくしてなんやろうか。

ふと、思ってしまう。失礼だと思ったが、レイナ・リーンバーンという女性を個人的に調べさせてもらった。

いくらレイナさんとライアさんに繋がりがあろうとも、8年間も合わなかった2人が偶然とはいえ出会うのだろうかと。

運命・・・なんて言葉は陳腐かもしれないが、そう思えた。

なんとなく、この4人は何かをしそうな、そんな気がしてならなかった。

それが、気のせいなのか、そうではないのかは今のところは何とも言えないのだが。





















俺は少し小高い、倒壊したビルの上にいた。

丁度、ここからなら、ある程度を見渡せるし、射線状に遮蔽物もあり、こちらも射線軸はとれないが向こうもこちらを撃ちにくい。

ふむレイナさんをエリオで挟んだのか・・・これなら、自分が動く必要はない。

距離の調節はエリオが行って、自分は後ろからタイミングを見て撃てばいい。

・・・やっぱり考えてはいたが、しっかり考えてくるな。

「お〜い、スターク。あたし行こうか?」

不意に少し下から声がした。小隊長だ。

「いえ、まだいいでしょう」

俺は定点カメラにアクセスする。

丁度レイナさんがエリオと打ち合っているのだが・・・。

「まぁ確かに・・・なんつーかこの笑顔だしなぁ・・」

呆れた調子で返す小隊長。そうだ・・・こちらにもよくわからないのだが、何故レイナさんはあんなに笑っているのか。

実際後ろからはティアナ、そしてエリオの速さは言わずもがな。正直苦しいはずなのだが・・・。

何故あそこまで余裕なのか・・・。


「・・・何か考えてやがんなあいつ」

ポツリと言う小隊長。まぁそんな気はするんですよね。

その時いきなり通信が入った、これはレイナさん?

「ごめん、助けて!!」

その通信に割って入ったのは小隊長だ。

「お前、何か策があったんじゃねぇのか!余裕な感じで笑ってたじゃねぇか・・」


「つい・・楽しくて」

えぇい!

「小隊長!レイナさんをバックアップ!」

「ったくよぉ!」

・・・まったく。こっちまでだまされてしまった。













さっきから拮抗しっぱなしだ。

僕はうまく中に入れずスバルさんは、決定的な一撃を決めきれない。

中に入って戦うのは同じながらこちらにはリーチという武器がある。

言うまでも無い、S3Uだ。

でも避けるのも命がけだ。

スバルさんの攻撃は一撃が重い。

もらえば一撃で落ちる。

スバルさんのナックルの攻撃を横へ回転しながら避けそのままの回転で刃を回しこむ。

それを器用に身を反転させて左手で防ぐと、左手を前に出した、反動を利用した左足の回し蹴り

信じられない身体の使い方だ。身軽なんてもんじゃない。どこからでも撃ってくる。

これがクロスレンジの・・スバルさんの実力・・。

本気じゃないにしても、その差は明らかだ。

でも僕だって、ここで負けていられない。

もっとよく気がつかないと・・・。何か・・。

何か無いのか・・・。

何か・・・ん。

今・・何か・・。

一瞬視界に見えた、一本の線。見間違いか・・?

いや、でもこれは・・。





この感覚はいつかのレイナさんとのスパーの時に感じたものだ。



はっきりと見え始めるその線。



その線が表す物、それはすなわち相手の絶対的な間合い。

届かないでもこっちの攻撃は通る、絶妙なライン。

自然と僕の身体は、無意識にそのラインに身体を合わせていく。

そして、スバルさんが突っ込んでくる。向こうもそろそろ決めたいのか、かなりの大ぶりだ。

「行くよ、ラウル君!悪いけど決めさせてもらうからね!!」
その声もどこか遠くに聞こえるほど今、僕は集中していた。

スウッと視界が鮮明になり、ライン≠ェはっきりと見える。

スバルさんの一挙手一投足が、見ていなくてもはっきりとイメージが出来る。

相手がどう動くのか、どうしたいのかまで鮮明にだ。

だがそのそのラインは≠ヘ一定、動く事は無い。相手がどう動いて、どんな攻撃で例えそれが打ち出すタイプでも

効果範囲と言うだけでその本人の間合いは変わらない。


本当にこんな感覚は初めてだ。でも・・これならいける。


僕はS3Uを振りかぶる。

その次に素早くライン≠ワで跳躍する。

「リボルバァァァ」

「ウェイブッ!」

ラインに乗った!


そして互いに、得物を振り下ろした!

「キャノォォォンッ!!!」

「シザァァァズッ!!!」
















結果は、スバルさんのナックルは僕にギリギリ届かず、逆に僕のS3Uはしっかりスバルさんの首元に突きつけられていた。

ウェイブシザーズを選択したのは、プロテクション対策だったが・・案外あっさり決まって正直驚いてますが・・。

相手が直打の重い攻撃を選択してくれた事も幸いした。あれでミドルとかの射撃系だったら、こうなっていたかは分からなかっただろうが、なんにせよ・・・。



「か、勝った・・・ハハ・・」

まだちょっと実感が無いや・・。というか欲自分でも何が起きたのかいまいち分かっていないのだ。

でも・・・あれは本当に何なんだろう・・。

あれも僕の力だという事は間違いないんだろうけど。

気づけ・・か。

こういう事をスタークさんは言っていたのかもしれないな・・。

「くっそー、負けた〜・・」

しゅんとうなだれながらも、妙に明るい声で敗北宣言をするスバルさんだったが、これははたして勝ちでいいものか・・・。

微妙なラインでもあるけど。

「あ、あのスバルさんこれは・・・」

「ラウル君の勝ちだよ、どっからどう見ても。ね、マッハキャリバー?」

It is a complete defeat. =i完敗です)

いまさらだけどそれマッハキャリバーっていうんですね。

However, the following are not defeated. =iですが、次は負けません)

そして、負けず嫌いな子でした。


「そうだね、次は絶対に勝つ!」

親指をグッと立てて高らかに宣言する。

「それじゃあたしは脱落だから、フィールドの外に出てるよ、頑張って!」

と、言い残してスバルさんは、模擬戦フィールドを去る。

それを見送るとスタークさんから連絡がきた。

「・・・勝ったか」

「はい」

「・・・何があったかは聞かんが、その感じを忘れるな良いな?」

僕は頷くと、一度スタークさんの方へ戻る。どうやらライアさんがレイナさんの援護に出ているらしい。

その分のカバーだ。



残り半分か・・。

思った以上に戦っていたんだなと、思いながらも、僕の中は、程よい充実感で満たされていた。

























































〜あとがき〜
gdgdでやたら長くてすいません。しるくです。
六課との模擬戦の内容の前半部、題で言う力≠フ部分を書いてみました。
八神部隊長の扱いは、どの小説でもこんな感じなので(爆
で、ようやくなのはさんフェイトさんが出てきましたね、見せ場はまだないですが。
これからティアナ撃墜フェイズに入っていきます。
あの場面はみなさん色々あるんですね。

内心では・・・飛ばす気でしたが(爆
あそこはstrikersを語る上でも結構重要なシーンですし、僕も少し考える事がありますしね。

そこらへんをお楽しみ(?)頂けたらと思います。



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