仕事もひと段落終えて僕は、乱雑に積まれていた新聞を適当に取った。
日付は・・・数日前のものだ。
パラパラとめくっていると、ふととある記事に目が行った。
写真は無かったものの、見出しで「機動六課初出動 リニアレール上で交戦」と書いてあった。
・・・機動六課かぁ。
結局色々あって・・・主に僕が・・・迷惑をかけちゃったなぁ・・。
そう言えば最近走っている姿を見ないけど、どうしたんだろうか。
やっぱり忙しいのかなと、そんなどうでもいいような事を考えている、今日この頃・・・。僕はとても平和です・・。
●魔法少女リリカルなのはstrikers〜空を見上げる少年〜第9話 〈理解しろ!〉●
「それは、てめぇだけだっつぅの!!」
「ん?どうかされましたか、小隊長。」
「・・・・いや、どこかの能天気が平和とか言ってた気がしたもんで・・。」
「・・・そう言うのを、電波受信というのでしょうか?」
さぁ、そんなもんかね。
あたしはいま隊長室にいる。
いつも通り、制服もラフにネクタイもしていない。
で、今スタークが報告に来てるってわけだ。スタークがやれやれといった感じにため息をつきながら、あたしのデスクに報告書を置いた。
あたしはその報告書に目を通しながらここ最近の出来事をふと振り返った。
ともかくここ1週間は平和では無かった。
六課は出動していないが、その前にも小規模なガジェットとの戦闘など、立て続けに3件も出動を繰り返した。
この前の件で、おそらく確実に目をつけられたようだ。
最後のなんてあのクソボール≠ェ2体もいやがったし、何よりAMFもより実践的に使ってくる奴だったから、何度か冷や汗かいたぜ・・。
に、してもだ。最近あの六課が初出動だったらしい。
どんなもんかね、と状況把握用に設置された定点カメラでその様子を見てたんだが・・・。
新人にしては・・・というよりも、明らかにあいつらおかしくねぇか?
チビコンビも初めはかみ合ってなかったが、でっけぇ竜みたいなん出てきたし、オレンジと青い方もそつなくガジェットを破壊していた。
戦い方はまだ若干固いが、実力もそして持ち合わせるその力≠焉Aはっきり言えば、新人にしちゃあ飛びぬけていやがる。
聞けばオレンジと青いコンビは、元々救助隊だったそうじゃねぇか。現場慣れはしてるんだろうがそれでも・・・だ。
それに、加えてあたしはあの六課の構成を聞いて、驚きを通り越して寒気すら覚えたね。
「高町なのは」・「フェイト・T・ハラオウン」「八神はやて」・・・・・この3人だけでも凄ぇってのに、
他にも「八神はやて」の守護騎士の4人もいるらしいじゃないか。それに加えてあの4人だろ?
ッハ! その気になれば、世界の一つや二つぶっ壊せそうな戦力だよな・・。
あたしはさっきスタークが提出した報告書に目をやった。
バサバサと乱雑にその資料をめくっていくと・・・あった。六課の戦闘記録だ。
その資料に目を細めるあたしに唐突にスタークがこんな事を言った。
「・・・すぎた力は必ず災いを呼ぶ・・というのでしょうか、まぁ使いまわされることばとしては」
「ん、スターク?」
「自分はこれが怖いです。力を持つから災いを呼ぶのか、災いがあるから力を持つのか・・・難しいですね。」
あたしにはそのスタークの言葉が妙に頭に残った。
新聞を眺めてボケっとしていると後ろからレイナさんに声をかけられた。
「やっ!少年君、何見てるの〜」
言うが早いか僕の手からパッと新聞を持っていく。
聞く前から持っていく気満々ですかレイナさん・・・。
「ふ〜ん・・・あぁこの記事ね。あたしも読んだよこれ凄いよね〜、それだけ注目されてるってことなのかな、やっぱり」
っていうか僕は新聞に載るような人たちに、ケンカ吹っ掛けたのか。今思うとなんてバカな事をしたんだと、思うなぁ。
思わず苦笑い・・。
「そういえばさ、ボケっとしてるってことは今日はもう仕事終わっちゃったんでしょ?」
そう、もう今日はひと段落ついており、仕事は無い。
特観は、平時こんな感じだ。舞い込む方が珍しいともいえる。
忙しい時と暇な時の差が極端に大きいのも、この部署の特徴なのかもしれない。
「ンフフ〜久しぶりにお姉さんが鍛えてあげよう!」
そう言って腰に手をあて胸をドンって叩く。
胸が無いからその音も良い音が・・・・
「少年君危ない(棒読み)」
気がつけば僕はレイナさんの振り下ろしたファイルに頭部を痛打されていた・・。
口は災いのなんとやらですな・・・。
僕は頭にたんこぶを作ったまま、レイナさんに連れられて臨海公園に向かった。
久しぶりのスパーだなぁ・・といっても・・1週間近くか・・・うん、やっぱり久しぶりだ。
棒も持ってきたし、前と同じように間合いを中心に・・・・って、ん?あれは・・。
あたしは、ジョギングコースに目をやった。正確にはジョギングコースを走る人達にだ。
スターク君と、あれはスバルちゃんにティアナちゃんそれにあとの2人は・・・前にはみなかった子たちだけど・・・あの子たちも六課なのかな。
にしても珍しい組み合わせだ。特にあの中にスターク君が入るだけで珍しく感じるのは彼には失礼なのだろうか。
まぁ、こないだのライアの話を聞いたからっていうのもあるんだろうけど。
あたしの視線に気がついたのか、軽くこちらに向かって頭を下げてくる。
それを不思議に思ったのか、同じようにスターク君の視線をたどるスバルちゃん。
あ、こっちに気がついた。元気だなぁ相変わらず彼女・・。
―――――ってほら前見てないとぉ・・・あたしはスバルちゃんが木に直撃した時の音を多分忘れない。
本当にきれいな「ゴッ!」って音だった。
そしてそれを見るスターク君の視線も、若干呆れていた。
スバルちゃんの激突で突如として終わりを告げた彼女たちのランニングタイム。
今はあたしの周りに少年君、スターク君、ティアナちゃん、スバルちゃんとオチビちゃんたちが2人座っている状況だ。
「それにしても、珍しい組み合わせですね、とくにスタークさん」
おや少年君も同じように思っていたみたいだね、まぁ仕方ないでしょこれは・・。
「本当は1人で走るつもりだったんだがな、彼女もオフシフトだそうで半ば無理やり・・。」
「え、いやあたしは、そう言うつもりじゃなくて一緒に走れれば楽しいかなと・・ほら108部隊の人だし・・。」
「でも、スバル普通ね、『あの108の人ですよね?今から走られるなら一緒に走りましょう!』って言って普通の人が困らないと思ったの・・。」
ティアナちゃんがジト目でスバルちゃんを睨む。その様子は、怒られた子犬そのものだなぁ。
でもすぐそのあと「まぁ、気にはしてませんがね」というスターク君の言葉を聞いてまたぱぁっと明るくなった。
喜怒哀楽も激しい娘のようだ。あたしが言えないか・・。
「ところでスタークさんって仰るんですね!よろしくお願いしますあたしスバル・ナカジマっていいます!」
「って、あんた名前すら聞かなかったの!?」
あ、あはは・・こりゃ本当に強引に引っ張ってこられたなスターク君・・。ライアの補佐官で強引な事には慣れてると思ったけどどうやら知らない人までは
それを応用できないのか・・・。
「スターク・ルシュフェンド。階級はナカジマ二士と同じだ。好きなように呼べばいい。」
「あたしはティアナ・ランスターあたしも階級は同じだから、好きなように呼んでくれればいいわ。」
なんだか、自然に自己紹介タイムだなぁ・・・ん?そうだちょうどいい。あのオチビコンビの名前も聞いてみよう。
「ところでなんだけど」
そう思い言葉を発したあたしにみんなの注目が集まる。
「・・・・ヒーローってこんな感じ?」
「・・・知りませんよ!」
「つれないなぁ・・・まぁ冗談は置いといて・・。」
あたしは手のひらを、オチビコンビにひらりと向ける。
「そのオチビちゃんたちはどなた?六課のメンバーなのかな?・・・・少年君オチビに反応しない!」
「ラ、ライアさんにチビすけ呼ばわりなもんでつい・・」
あたしは、チラッと少年君を見やった後また視線を2人のオチビちゃんに向ける。
その2人はハキハキとした声で、自己紹介をしてくれた。
「あ、はい!エリオ・モンディアル三等陸士です・・えっと・・そのよろしくお願いします!」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です、よろしくお願いします。」
キャロちゃんに、エリオ君ね。この子たちも良い子そうじゃないか。
「あたしは、レイナ・リーンバーン特定地域観測課っていう地味なところで地味に活躍するお姉さんで。こっちのちまっこいのが・・・。」
「ち、ちまっこいって・・あ、僕はラウル・スカッフと言います。階級は三等陸士だから一緒ですね。
こちらこそよろしくお願いしますね、一応こう見えてもレイナさん陸曹なんですよ・・。」
こう見えてもってなんだよ、こう見えてもってさ!どっからどう見ても立派な上司じゃないか。
まったくこりゃこの後のスパーでボコボコだな。
さて互いに一通り自己紹介が済んだところで、スターク君が復唱する。
「ナカジマにランスターニ士、そしてモンディアルとルシエか・・。」
その復唱にティアナちゃんが、ちょっと待ったとスターク君に問う。
「なんであたしだけ階級付きで呼ぶわけ?スバルもエリオもキャロも呼び捨てなのに。」
それにさらりと答えるスターク君。
「階級が同等でも、年齢は自分の方が下です。そういう意味を込めて申し上げたのですが・・。」
スターク君まるでそれじゃ上官に向かっていうセリフだよ・・。
まぁティアナちゃんの言いたいことも分かるんだけどね、周りがフレンドリーとまではいかないけど、名前で呼び合ってるのに自分だけ
階級付きでしかも敬語でしょ、なんか仲間はずれっぽい気分になるよねそりゃ。
「良いわよそんなの、気にしなくてもッ!いい、あたしも普通に階級はずして呼んで分かったわね!」
「・・む、いやですが・・。」
「敬語も無し!あんたの考えで言わせてもらうなら年上が言ってんのよ、だったら従うのが筋ってもんでしょ?」
そういわれちゃ黙るしかないスターク君、しばらく考えてゆっくりとうなずき、ティアナちゃんを見ると静かにこう言った。
「ランスター、これでいいのか?」
ティアナちゃんの顔は満足げだった。
でもこれはそれだけでは終わらなかった、次に彼に言葉を発したのはスバルちゃんだ。
「ん〜・・・出来ればスバルって読んでほしいけどなぁ・・なんかナカジマって変な感じがするんだよねぇ、みんなあたしをスバルって呼ぶし・・。」
そう一人でごちるといきなり、スターク君の方へずいっと前に出る。
「ねぇ、出来れば「ナカジマ」あたしの事をさ「ナカジマ」スバルって「ナカジマ」呼んで「ナカジマ」くれないかなって、ひどくない!!」
さらりと4回も「ナカジマ」って入れたよスターク君!?ライア、彼はあんまり冗談を言わないって言ってたけど、あれは嘘だな・・。
あたしが見た感じ中々高いユーモアをおもちで・・。
結局1人轟沈したスバルちゃんを尻目にスターク君は静かに告げた。
「ともかく、呼び方をこれ以上変える気は無い。」
頑固っていうのかね、仕方が無いここは少し助け船をお姉さんが出してあげよう。
「そういえば、この前はしっかり呼ばなかったけど、スターク君あたしの事はなんて呼んでるのかな?」
「リーンバーン陸曹と・・呼んでおりますが。」
「・・・それライアに何か言われなかった?」
「固すぎるとは言われました、一瞬誰かわからなかったと。」
だろうねぇ、あたしも分からなかったし。
「その呼び方をかえなさい!」
あたしはズビシッと人差し指でオーバーアクションでスターク君を指さす。若干驚いたが、スターク君はまたさらっと言う。
「陸曹は陸曹でしょう。自分にとっては。」
どこかで聞いたようなセリフだねぇ。でもお姉さんは負けないからねん!
「でも、さぁこれは年上の言うことだよね〜、さっきの流れからして・・」
一瞬スターク君の顔が「しまった」ってなったけど、たたみかけるよあたしは!
「だったら、さっきのティアナちゃんじゃないけど直すべきだよね、年上からの意見は聞かないとねぇ〜」
「・・・・っ!」
「それとも何かなぁ〜、自分で言った事を自分で覆しちゃうのぉ〜」
「・・・む、むぅ・・・!!」
少年君が、「もう、そこらへんで・・」となだめに入るけど悪いね、もうちょっとなんだ。
「ほらほらぁ〜どうするのかな〜?」
「・・・・っはぁ・・・。」
あたしの執拗な攻めにようやく観念したのか、スターク君はあきらめのついた顔だった。
「・・・ではレイナ陸そ「陸曹いらない!」・・・・はぁ、ではレイナさんで・・これでよろしいですか?」
うんうん、やればできるじゃないか!じゃあ・・
「他の子もできるよね?」
一瞬「え!?」ってこっちを振り返ったけど、あたしのイジワルな笑顔をみてあきらめたのかスターク君はスバルちゃんたちに向き直った。
そこには、さっき以上に身を乗り出したスバルちゃんがいた。
「・・・スバル、ティアナ、エリオ、キャロこれで良いのか・・・?」
うわぁスバルちゃんあたしには見えるよ、その高速に左右に振られる柴犬のごとき尻尾が!!
「ん?そういえばまだ少年君の呼び方が残ってるね、まともに名前で呼んでないんじゃないの?」
そう言うと何故かスターク君は少し不機嫌そうな顔をした。
そしてゆっくり少年君の方を見ている。
そしてその視線から何かを感じ取ったのか少年君が口を開いた。
「・・・・まだダメです。」
その答えに驚きスターク君は「えっ」と誰にも聞こえないぐらい小さな声で漏らす。
少年君は、真剣な眼差しでスターク君を見据えて言った。
「まだ僕は、あなたに名前で呼ばれちゃいけない気がします。」
「・・・・・・」
それを黙って聞くスターク君。多分この2人にしかよく理解できない感情のやり取りがあるんだろうが、周囲はポカーンだ。
「・・・なんとなくそう思います。」
少年君はしばらくスターク君をじっと見据えていた。
なにはともあれ、こうして自己紹介だけで30分以上を費やしたあたし達だった。
僕はしばらくしてハッとした。
スタークさんを除くみんなが、ポカーンとしている
無理もないか、はっきり言ってスタークさんにも意志が伝わったかどうかさえ分からないような発言だったからなぁ・・。
でも、なんかそんな気がしたんだ。ふと・・だけど。
何なんだろうか、この気持ちはよくわからない。
でもまぁ・・・場の空気をぶっ壊した事だけはよく理解できます・・・
あぁ、レイナさんそんな目で僕を見ないで・・・当事者も気まずいんです。
その後レイナさんが、何とか仕切りなおしてくれてその場はなんとかなったけど。
・・・これはスパーが怖いな・・。
それにしても・・。
僕はみんなが立ち上がるのにつられて、立ち上がると、同い年か、少し下位の少年と少女エリオ君とキャロさんを見る。
彼らも機動六課の・・。
そう思うとまた少し嫌な気分になる。切り替えたはずなのにな。
どうやら、まだうまく切り替わっていないようだ、心持とかそういうのが。
その視線に気がついた2人が近寄ってくる。
「どうかしました?」
エリオ君が不思議そうにこっちを見てくる。
「いや、ただ・・その君たちも六課なんだなって思ってね。」
何を話せばいいのやら。相手の事をよく知らないっていうのはこうも話にくいのかと困ってしまう。
「そういえば、ラウルさんでしたよね、ラウルさんも武装局員なんですか?」
「いいや僕は違うよ。僕は特観って所でレイナさんにお世話になってるんだ。で仕事の合間を縫って同時に鍛えてもらってるんだよ。
今日だってそれを死にここに来たようなものだし・・。」
「あ、そうだったんですか。すいませんなんだかお邪魔しちゃいましたね。」
「あ、いや別に邪魔ってわけでは・・・」
凄くしっかりしてる。
「あ、あのところで2人は、失礼ですけどおいくつ・・・」
「あたし達は、2人とも10歳です」
やっぱり年下じゃないかぁ!10歳だろ・・・僕と2年しか違わないのにこの落ち着きは何なんだろう・・。
「少年君・・・わかるよその気持ち・・。」
「一番分かってほしくない人に・・・ッ!」
優しく肩をたたかないでくださーーーい!
しばらく話すうちに色々分かった。この2人が魔導師ランクBとC−だってこととか、変換資質持ちだとか竜召喚士だとか・・・
僕には、なるほど凄いんですねとしか言えなかった。
聞けばスバルさんやティアナさんも彼ら以上に凄いらしい。
ただ、僕からすれば周りが凄い人だらけで、若干の気おくれを感じてしまっていた。
六課の4名は言うに及ばず、スタークさんは前線で活躍する砲撃魔道師だし、レイナさんだって、元武装局員の指揮官だった人だ。
僕はふと考えた。
あのスバルさんと一件で自分の考えにある変化が起きていた。
それは一言でいえば力
今まではただ漠然と「見返してやる」と思っていて、その方法までは実際のところ、考えが回っていなかった。
ただ今は少しその考えが回るようになってきて自分なりに考えた結果出た答えが力≠欲することだった。
僕の今の現状は多分それだと思う。力が無いからみんなに気おくれしてしまうんだと。
焦っているわけではないけど、そんな感じ。
正味、分からないことだらけだ。特にこういった問題は。
仕事みたいに、はい出来たっていうのが無い分どこに終わりがあるのか分からない。
いや、むしろひょっとしたら焦っているのかもしれない。
けど・・・それすらも定かではないほどよくわかっていない。
だけど僕は彼らの環境に少しだけ嫉妬してしまった。
別に特観が嫌いなわけじゃない。むしろレイナさんと特観の仕事をするのは好きだ。
やりがいもある。だけど・・・はぁ・・どうすればいいのかその答えはまだまだ見つからない。
そんな僕をスタークさんは、じっと見ていた。その目はどこか複雑そうだったらしい。
「さて!」
レイナさんが、勢い良く言葉を発してくるりとこちらを向いた。
「少年君、あたしたちもそろそろやることやっちゃおう!」
確かに、スパーをやるために、ここに着たのに、このままダラダラももったいない。
僕は、前と同様マントをはずして上着を脱ぐ。
「それじゃ、まず走っておいで、あたしは準備をしておくから。」
しかし、その会話に口を挟む人がいた。
「・・・・今からスパーをするんですか?」
スタークさんだ。
「え、うんまぁね。そのために出てきたんだし。」
レイナさんの答えに、少し何かを考えると、意外なことを口にした
「その相手・・・自分がしても?」
僕は思わず「えぇ!?」とその場にいる人全員に聞こえるような大きな声で発してしまう。
さらにスタークさんは、僕に向かって信じられないことを口にした。
「そして、場所はここじゃなく108の訓練スペースを使う。あそこなら、魔法も使用できるしな。」
僕は目でレイナさんに助けを求めるが・・・イジワルそうな笑みを返されるだけだった。
え?本気ですか?
そのやり取りを聞いて、興味津々なのはスバルさんをはじめとする六課のメンバーだ。
「ふーん、ラウルもそうだけど、あたしは射撃型としてあんたに興味があるわ、純粋にね。。」
とはティアナさんの弁。
「でもあたしもラウル君の魔法戦を外側から見てみたい気もするなぁ・・」
とはスバルさんの弁
「僕も、興味があります!年が近いって言うもありますけど、先輩ですし、何か学べることがあれば・・」
とは、エリオ君の弁
「はい、あたしも・・・大丈夫ですよ!あたし『ヒーリング』とかもできますから!」
とはキャロさんの弁。それは何か違うと思う・・・少なくとも励ましの言葉やその類ではない・・。
一通りの、意見を聞き終えスタークさんが静かに告げる。
「・・・よし決まりだな。ついて来い」
どうしてこうなったんでしょうか・・・僕はひとりごちりながら、上着とマントを着なおし
移動し始めた集団の最後尾をついていった。
「で、なんであたしが呼び出されなきゃいけねぇんだ?」
「仕方がありません・・訓練スペースの個人的な使用は、小隊長の許可が必要なのですから・・。」
ちげぇよ!あたしが聞いてんのはそこじゃねぇよ!
まだ、お前が出した報告書に全部目を通してねぇんだよ!!
そんなときに・・・。
『小隊長・・・訓練スペースの使用の許可を頂きたく』
何であたしなんだよ!!別に許可ぐらいあたしじゃなくてもそこらへんの小隊長クラスひっ捕まえりゃ良いだけの事だろうが・・
いや、本当にマジで、後輩に代理頼もうとしたぐらいだったからな・・・。
・・・・ただ・・ちょっと性格に何アリだが・・。
あたしは、フンッと鼻を鳴らすと不機嫌な声でスタークに聞いた。
「んで?ここで何するんだ、六課のやつらまで引っ張ってきて、チーム戦でもするのか?」
「あいつと模擬戦です」
スタークはあのチビすけに目線を移動させる。
は〜ん・・ばるほどね、模擬せ・・・・・って何!?
「お前・・何に考えてやがる!?」
「・・は?」
意味が分からないのですかといわんばかりの声で返答するスタークに
若干苛立ちを覚えながら、さらに追求する。
「いや、だから何でお前とあのチビすけが・・・・なんだ吹っかけられたのか?」
「・・・いえ、自分から。」
意外な答えだった。こいつが誰かに自分から率先して、絡んでいくとは思わなかったからだ。
基本的にこいつは戦闘時以外は、無感動で、自分から誰かに何かを吹っかけるようなやつじゃない。
むしろいつもはその逆で、周囲と距離を置いてあまり前へ前へでてくるやつではないのだ。
「・・い、いやマジで一体、何考えてんだって!」
「・・・・色々と、感じるものもあります」
「・・・・・!」
あたしはそれからは、追及しなかった。何か感じる物ねぇ。
ほんの少しだが最近チビすけを見るスタークの目が少し変わったように感じる。それがなんなのかは分かんねぇが。
あたしはゆっくり準備をするチビすけを見る。
正直に言うと、レイナの部下・・・いや教え子がどんな戦い方をするのかには興味がある。
スタークが負けることはまず、ねぇだろう。こいつはまだキャリアは短いが今日まで前線でからだ張ってやがる。
いくらレイナが鍛えてるといえ、実践経験の少ないやつに負けるほどスタークは弱くも甘くもない。
たぶん一瞬で終わるんだろうか。
だが・・・もしいい戦いになれば?
そんな憶測があたしの中で飛び交う。
あたしはゆっくり息を吐くと、スタークに言った。
「いいだろ、スターク。スペース使用の許可を出してやる」
スタークは静かに「ありがとうございます」といって頭を下げた。
スタークさんから、この模擬戦のルール説明があった。基本的にはまえのスバルさんの時とかわらなかったが、
前と大きく違う点が一つだけあった。
「ば、バリアジャケット展開ですか!?」
そうだ、とスタークさんは静かに自分のデバイスを懐から取り出して起動の準備を始める。
どうして・・と食い下がるとスタークさんはチラッとこちらに目をやった。
「怪我をしたいなら、展開しなくてもいい」
スタークさんはさらりと言ってのけると、自分のバリアジャケットを展開した。
この前、高原で見た服装だ。
展開後スタークさんは、身体をこちらに向けてしっかりと僕を見ている。
その目は「お前も早くしろ」と催促されているようだった。
なんでこんな・・・。
僕は観念すると、バリアジャケットを展開する。
着てきたマントはそのままに、首周りに長いマフラーが巻きつき、局の制服は、黒を基調とし、前にファスナーの付いたジャケットに変わり下も同様に黒の長ズボン。
左右の腕には、防護用の甲冑が形成されている。
いたってシンプルだが、動きやすさを考えればこれが一番ちょうどいい。
その姿を、スバルさんたちも興味深く見つめている。・・・そう言えば何気にバリアジャケット展開したの何カ月振りだろうか。
前の模擬戦の時もバリアジャケットは展開しなかったから物珍しいのかな・・やっぱり他人のバリアジャケット姿は。
それを見て、スタークさんはきびすを返した。
「では準備しろ。」
静かに言い放つ。僕も深くうなずいた。
どうも、なんでこうなったのかイマイチだけど・・・・・。
やってやる!
あたしは、憮然とした顔で立っていた、ライアの小脇をつつく。
「・・・っなんだよ・・」
「いや、うん。スターク君ってよくわからないね。」
あたしは、思った事をポンっと言ってみた。ライアはいつもどおり鼻を鳴らす。
「そんなもん、今に始まった事じゃねぇよ。前も言ったろうが。」
前とはあの密会の時だ。ライアはあの時スターク君の事を話すのがとても楽しそうだったが、その中に少し寂しさが見え隠れしていたように見えた。
複雑な心境というのかな。
あたしは、ライアから視線を戻すとこれから戦うことになる2人を見る。
少年君も今は気合の入った顔をしている。
スターク君は相変わらず、だけど。
正直、また一瞬だけ自分の興味本位でイジワルな笑顔をしてしまった自分を少し後悔している。
やっぱり駄目だなぁ。スバルちゃんの時もそれで痛い目見たっていうのにね。まぁあの時はこっちから吹っ掛けたんだけど・・。
そうこうしているうちに、少年君とスターク君が互いにデバイスを起動させ、位置に着いた。
前は遠巻きだったから、いまいち大きさがピンとこなかったが、こうして目の前で起動するとヘリオスというデバイスの大きさにやや圧倒される。
通常デバイスといえば、この前見たやつだとスバルちゃんのあのローラーブーツ型のデバイスであったり、少年君のS3Uの様に大鎌状であったり
前に、ライアの部隊で見たような汎用の杖状の取り回しのしやすいものを想像する。
しかしヘリオスは、一般的なデバイスという概念からは少し離れているように感じる。
間のまま砲身で、砲撃・射撃魔法しか持っていませんというのが見ただけで分かる。
それは、結構致命的だ。
わざわざ弱点を露呈しているようなものなのだから・・。
それとも、近づかれてもそれだけの技量があるのだろうか。
どちらにしても、また興味がわいてきている自分が嫌になった事は確かかな。
こうして対峙、してみるとスタークさんの雰囲気もそうだが、やっぱりあのデバイス・・・確かヘリオスといったかな。
あのデバイスの大きさだけで、苦しいぐらいの圧迫感を感じる。
僕たちがにらみ合っている、その間にライアさんが割って入ってくる。
チラッと僕とスタークさんを見やると、右手を上げてそれを大きく振り下ろした。
「そんじゃあ・・・・・はじめ!!!」
その瞬間に僕のいたところを、閃光が襲う。
僕は横に飛んでそれを回避。
あんな砲撃を、この短時間で・・!
僕の攻撃は、何度も言うが届かせるところから。相手は砲撃デバイス・・近づけば!!!
しかし再び、その閃光が迫る。ゴウッ!っという音ともに僕のマントをかすめる。
マントの端が・・・・削られた!?
このマントは常につけているが、バリアジャケットの一部では無い。いや正確にいえば一部とも言えるのだがこれには、対魔法戦闘用に防御術式が組み込まれている。
常にまとっているのは、展開時にこの分の魔力を消費しなくて済むようにだ。
そのため、これは正確には僕の魔力で防御魔法を行わない。初めにこれだけと決めた定格出力が最も安定した防御力となる。
ただし外部からの強烈な衝撃には瞬間的に、その定格以上の出力で防御運動を行う。
その出力は結構な物なのだが・・・それをかすっただけで、削られた!?
僕はようやく、理解した。というよりも遅すぎた。
「スタークさんは・・・初めから!!」
決めに来ている・・・・!そこに微塵の油断も無い。
なんでここまでするのか・・・模擬戦でしょ!と心中で叫びながら僕はその砲撃を回避し続けた。
さっきから横へは移動しているが一向に距離を詰められない。
前に出ようとすると絶妙なタイミングで小さいのが飛んでくるし、そして気を抜けばあの砲撃だ。
・・・・えぇい!一気に突っ込むか・・・いやそれこそバカだ・・。
スバルさんの時はまだ、速さはあったが近づいてきてくれたから起死回生でああいうこともできたけど・・。
・・・くそ!
俺は立て続けに、砲撃、射撃を繰り返す。
ヘリオスの処理能力の速さと収束速度がなせる技だ。
あいつのデバイスを始めてみるが、鎌というフォルムから察するにクロスレンジ主体なのだろう。
近づけさせるわけにはいかん。
近接も無いわけではないが、オプションの幅はグッと狭まる。
「レイ・スナイプ!」
ray snipe fire!
レイスナイプは俺の持つ射撃魔法の中でも最も連射性能に長ける直射型の射撃魔法だ。
威力は牽制程度だが、足止めにはちょうどいい。
砂煙が上がる中、ヘリオスの砲身に取り付けられたメイン・オペレーション・ディスプレイのカメラアイはしっかり相手をとらえている。
左目のディスプレイと連動するこのシステムは、策敵の他ヘリオスの様々な情報を確認できる。
そして俺はlock on≠フ単語に目を細め、トリガーを引いた。
bastar!<wリオスのその声とともに、太い灰色の閃光が放たれる。
「もう終わり・・・か?・・・なら俺の考えは・・・。」
ひとりごちる。さっき小隊長には色々感じるものがあるいったが、違う色々ではない。
俺は、この模擬戦を吹っ掛けた理由が分かっていた。
そして、その理由が、考えが正しければ、あいつは・・・・・。
俺は撃ち終わると、構えを解き粉塵まう戦場≠見据えた。
「ヘリオス・・・奴は?」
There is still a reaction. It is not when falling.=iまだ反応があります。倒れてはいません)
ヘリオスの返答に、俺はまた眼を細めた。
まだ確証は持てない・・・か。だが必ずこの模擬戦であいつは行動で表すはずだ!
俺はヘリオスを再び構えなおした。
っく・・・危ない・・。
さっきの粉塵をわざと巻き上げての一発は危なかった。
今は攻撃の手がやんでいる・・・。行くか?この距離を少しでも縮めないと・・!
でも、あの連射速度が脅威だ。
どうする・・。でも迷ったら終わりか!
策が無いわけじゃないんだ、でも・・・・いや・・・。
僕には今のスタークさんとの物理的な距離だけじゃなく、精神的な距離も感じていた。
僕の周りには、凄い人たちが多すぎる。
近くにいても、その距離が遠く感じる・・・よくわからない。これがなんなのか。
でもだからと言って、それが分からないからといって立ち止まれば、どんどんその距離が離れていくようだった。
僕には・・・力が足りないんだ!
僕は前に出ることに決めた。
距離を詰めなきゃ・・・!
せめてこの物理的な距離ぐらい!
スタークさんがまた、砲撃を放つ。威力は変わらず高いでも・・・僕はS3Uのコアのすぐ下にあるウェイブ・コントローラーの最大値にした。
バイブレーションシステムが刃を小刻みに振動させる。その振動は僕の身体にも若干伝わってくる。
そして僕はその砲撃に向かって思い切り踏み出し砲撃に向かって、一気に振り出す!
魔力による微振動破砕は、魔力結合を弱め一気に砲撃を衰退させる。
しかしいくら、減衰させてもその威力は、かなりのものだ・・・でも!
「うぅぅぅぅぅッ!!」
拮抗する砲撃と魔力刃、しかし刹那刃が砲撃にめり込んだ。
「よっし!!そのままいけぇぇッ!!」
一度切り込んだ刃は驚くほど簡単にその砲撃を切り裂いた。
「なッ!」
スタークさんの驚きの声を上げるが、僕はそんなのにかまわず一気に距離を詰める。
距離さえ詰めてしまえば!!
僕は、自分の間合いにスタークさんを入れると、勢いそのままにきりかかる。
ヘリオスにその刃が届こうとしたその時だった、突如として固い壁にぶつかったかのような感覚に襲われる。
「・・ッこれは!」
見れば、薄い魔力障壁。
「っく!プロテクション!?」
「・・・少し違うな、これはヘリオスの装甲だっ!」
僕はその硬さに驚き一旦引く。
「そ、装甲!?でもそれは魔力障壁じゃ・・」
固さに混乱した頭を、落ち着かせながら上がる息で言う。
「この装甲はまたの名をフィールドシフトアーマーという、特殊な装甲だ。
ヘリオスは、マスターへの負担を極限にまで減らし、砲撃に専念できるようにという理念のもと作られたデバイス。
そしてこのデバイスは、マスター全体を覆う魔力障壁とこの本体の物理装甲によって守られている。」
な、なんだって!?
それじゃ・・あの砲撃をかいくぐっても・・・またその先にはあの固い防御があるのか!?
冗談じゃない・・!
防御が破れないんじゃあ・・・いや・・。
破れないんじゃない・・・破るんだ!
僕は再度、攻撃に転じる。
そして再びあの障壁にぶつかる。
火花を散らす魔力刃と障壁のせめぎ合いに、若干のいら立ちを覚える。
具体的になんのいら立ちなのか分からないが、とにかくいら立った。
「なんで、なんでぇッ!」
踏み込んだ足にも再度力を入れる。
噛みこみさえすればいいんだ!行けよっ!!!
「ッ!!」
俺はさっき言った事を、顔で焦りながら心で笑っていた。
フィールドシフトアーマーという、特殊な装甲?・・そんなもの初めから無い!
これはあいつを更に焚きつけるためのウソなのだ。
あれは正真正銘俺の、コアプロテクションだ。
自分を覆う広範囲の強固なプロテクションだが、その形が今回は幸いした。
ちょうどヘリオスを覆うような球体(コア)で形成されるそれは、さっきのウソにはちょうど良かった。
ただ…今もそうだがこいつは、プロテクション系でもなかなかに消費魔力がでかい。
長くは耐えられん。まぁこちらも持久戦にする気はさらさらだが。
だが、思った通りだった。
あいつは今苛立っていることだろう。顔を見れば分かる。
そのいらつき、そして自分ではそのいらつきの意味をよく分かっていない。・・・本当にお前は読みやすいな・・。
にしても・・・想像以上に粘るなこいつ!!
俺は砲身を素早くラウルに向ける。
「っえ!?」
この状態からの反撃などあり得ないと思っていたのか、あいつの顔には一気に冷や汗が噴き出した。
「離れんと・・・砕くぞ!」
砲身に光が集まる。これはさっきまでの速射型の砲撃ではない。
これは収束砲撃。ヘリオスの堅牢な装甲とフレームだからこそ、マスターの負担度外視で使用できるならではの砲撃だ。
strike inferno!!
さっきとは比較にならないほどの閃光が放たれる。終わったなと・・・一瞬思ったのが油断だったのかもしれない。
あいつは素早く身をひるがえしその砲撃を寸でで交わすと、更に内側へ飛んできた。
俺は、それに反応するために、砲撃半ばのヘリオスを無理やり横へふるう。
ヘリオスの装甲とあいつのデバイスが今度は直に触れあう。
さっきよりも更に大きな火花が散る。
丁度そこは、ヘリオスの砲身部分・・・。
・・・仕方が無い。正直ここまでとは思っていなかったが・・。
不本意だが・・ならばこれでジ・エンドだ。次で決める。本当はもっと良い形で終わりたかったんだがな・・。
俺はヘリオスにマズルオープンの指示を出す。
本来は砲撃中に、さらなる攻撃力と砲撃範囲の拡大を狙って砲身を上下に少し開くのだが、今回の使い方は違う。
砲身とはげしくせめぎ合っていた、S3Uの刃が、上下に解放された砲身に飲み込まれる。
そして俺はそれを確認すると、マズルを閉め、トリガーを一気に引いた。
っく!なんて固い装甲!!
でも・・でも!!!
さっきから、いら立ちがつのる一方だ。
砲身には触れたんだ後少しで!!!
そう思った刹那不意に、感触が消えた、見るとヘリオスの砲身にS3Uが文字通り噛まれていた。
更にその砲身の中に光がたまっていく・・・これは!!
次の瞬間僕を襲ったのは灰色の閃光だった。
何度か地面に打ちつけられてようやく、勢いが止まる。
そして目の前には、至近距離で砲撃を受け大破したS3Uがあった。
その先に、悠然とたたずむスタークさんがいた。
その時自分のいら立ちが、ピークを迎えた事がはっきり分かった。
気づけばスタークさんに詰め寄っていた。
「なんで!どうして!!―――――こんな!!!」
僕はS3Uを握りしめ、詰め寄る。どうしてこんな事を!模擬戦で相手のデバイスを壊すだなんて、聞いたことが無い!
「・・・・お前は、本当に分かっていない。」
「な、なにを!?」
何が分かっていないって・・。
「お前は、何故自分が、いら立っているのか本当に分かっているのか?」
「そ、それはスタークさんが・・あなたがデバイスをッ!」
「違う!」
スタークさんはこれまで見たことないような鋭い目で僕を見た。
「・・・お前はやはり何も分かっていない、そんな奴にデバイスだと?笑わせる。」
「え!?」
壊しておいて謝罪の一つもない、それどころか笑わせるだって?
ふざけるなよ!
キッと睨み返す僕にスタークさんは、更に鋭い目と口調で言う。
「お前がそのいら立ちの意味を理解するまで、これは俺が預かっておく。」
そう言うと無理やり僕の手からS3Uをむしり取った。
なんでこんな・・・。
それにいまいち意味も分からないし!!
「だから・・・・だから・・・なんだって言うんですかぁぁ!!!!」
僕は今日一番の声の大きさで叫んだ。
それを聞きスタークさんは深く息を漏らすと、そして諭すように言った。
「・・・おまえが、そう≠フ内は、お前にデバイスを持たせるわけにはいかない。これは別にお前が武装局員じゃないからというわけじゃない。
・・いや、平時戦わないからこそ、今のお前にはデバイスを持たせておくわけにはいかないんだ。」
「・・・・」
その口調は、さっきまでとは違い、幾分穏やかで、その中に複雑な感情も混ざっていた。
いら立ちの・・・意味?
僕にはよく分からない。それが何なのかが。
混乱する僕にスタークさんは去り際にぽつりとこういった。
「お前がまだ俺に名前を呼んでもらうわけにはいかないといった意味が、俺にもなんとなくわかる。」
残されたのは何が起きたのかいまいち理解できない、それでいてまだいら立ちを隠せない僕。
そしてまったく理解できていない六課の4人。・・・いや・・ティアナさんだけは少し・・。
そして何かを感じ取ったのか渋い表情をしているレイナさんとライアさんだった。
これで良かったのかと、終わってから思うのはいつものことだろう。
だが・・・不思議だ。
これまで、相手にこんなお節介を焼くような事などした事が無かった。
・・・しかも会って間もない、あいつなどに・・・。
だが俺は何かを感じたのは確かだ。
あいつが俺に名前をと言ったときに・・・。
自分でもこの感情だけはよくわからない。
それにもう一つ・・分からないといえばあのジムニーという技師に会った時にも感じたいら立ちもそうだ。
最近の俺は少しおかしいようだ。
隊舎へ向かう俺に小隊長から念話が飛んできた。
『・・・あのチビすけ自身のための予防線ってとこか?』
『・・・そうなります。』
『ふぅ、しっかし派手にやらかしたな。あたしはなんて言って部隊長に頭下げりゃいいんだ?』
『そんなに、ひどいです?』
『特に、地面がな・・。えぐれてえぐれて。もう一回土を入れなおさねぇと無理かなこりゃあ・・。』
『・・・申し訳ありません。』
『ま、訓練スペースの事はいいけどよ。だけどてめぇ、自分でやらかしたんだからな。自分で何とかしろ?』
『それは分かっています。あいつが、いら立ちの意味をしっかり理解してさえくれれば・・』
『そりゃ、お前が六課を見て言ってた事かよ?』
『まぁそれ関連でしょう・・。まぁですが・・気がつかない力と言う物は・・・厄介なのかもしれませんね。』
小隊長はその返答に無言で、念話を切った。
正直自分がどうしてここまで力≠ニいう一文字が心に残るのか、分からない。
やはり、最近の俺は少しおかしいようだ。
〜あとがき〜
最後まで読んでくださいましてありがとうございます。しるくです。
本話は、ちょうどティアナがアグスタで自分を凡人と思いつめていく前後の時系列ぐらいです。(何このふわっとした表現w
なので、今回ラウルにはティアナと同じような悩みで
少し悩んでもらうことにしました。
これからの回で、何故スタークがこのような行動に出たのか、そしてラウル君のいら立ちの理由とは?
後は順を追って、スタークのヒミツ等も、ツラツラと書いていこうかと思います。
そう言えば昨日細かく書きすぎた設定の文字数をカウントしたら1万8千文字にまで・・
オイオイこれ全部使い切れるのかよwとか普通に思いましたが・・。
それでは、本話のあとがきはこのあたりで、失礼いたします、お疲れ様でした。