――――それは、大河たちが道ばたで古びた本を拾い、
強制的にアヴァターに呼び寄せられ(拉致られ)るほんの二週間ほど前である。 ピンッと、水面が揺れる。
王都郊外の風は、木々の他に遮る物がないためか、いつもすがすがしい。
木々のざわめきと、木漏れ日以外、何も存在しないこの泉での水浴びが唯一の楽しみだ。

家は、少し窮屈。
義妹ほどではないけれど、仕来りと愛想笑いに満ちたあの場所は嫌いだ。
本当に義妹(あれ)はよくやっていると思う。
息苦しい大人達に囲まれていて、あの小さな体がつぶれてしまわないだろうか?と、心配になる。

まあ、ここでのんきに水浴びなどしている自分が心配するのはお門違いなのだろうけど。

「さて、と」

周囲に人影がないことを確認し、泉からあがる。
再び水面が揺れ、水の跳ねる音があたりに響き渡る。

この雰囲気は、人をいやでも感傷的にさせる。
おそらくはこのアヴァターでも随一の「癒し」のスポット。

もし「破滅」に心があるのなら、この場所に来れば彼らも同じことを感じるのだろうか?
そうすれば、彼らとの共存も可能になるかもしれない…
そんなことを考えながら、完全に水からあがった身体を、風になびかせる。

もう少し余韻に浸りたいところだが、このままでは風邪を引いてしまう。

肩から手の先へ、太股からつま先へ、
長くのばした髪先から、水がしたたり落ちる。
用意していたタオルでそれらを拭き取ると、下着に手をかける。


「うむ、今日も実に漢らしいトランクス
ジジィもいい仕事をする。何でも異世界の下着で男物だとか。
「このデザインが俺の心を振るわせるのだ」

さて、そろそろいいか。

「どうだったかな、読者諸君。結構まぎらわしい内容に仕上がったと思うが」

無論、確信犯だ。

そもそも、ここは「根の世界・アヴァター」。立派なお風呂文化が存在する世界である。
こんな、王都に近い泉で水浴びをするなんて、馬鹿か、「真の漢」たる俺だけであろう。

俺こそ、このアヴァターにその人ありとうたわれた「真の漢」
「そう、俺の名は…」




「世界は常に生産と破壊との間で揺れ動いている」

アヴァターの歴史とは、この一言から始まる。
『根の世界・アヴァター』すべての始まりが発生する場所にして、すべての終わりが始まる場所。
九つの州からなる国、それを統治するのはレッドカーパス州にある『バーンフリート聖王家』

「そして、世界を破壊する『破滅』と、

世界を救うとされる、人々の希望『救世主』」

終わりの象徴、世界を破壊し、蹂躙し、犯し尽くす異形の軍団。
その名は『破滅の軍団』
そして、それに対抗しうる存在こそ、『救世主』
その名の通り、世界を救う者。

―――だが、俺は疑問に思う。

   世界を救うのは、救世主だ。
   世界を救った者を「救世主」と呼ぶのだから当然だ。
   だが、「ヒト」を救うのは、救世主でなければならないのか?

「見極めなければならない」

「救世」が本当に我々「ヒト」を救うのかを。
「救世主」、その存在の意義と理由を。

そのために、俺は行く。

「―――いざ、フローリア学園へ!」



「と、いうわけで。みんな、仲良くするのよぉん」
「え、何この割愛されっぷり!?」

俺のめっちゃかっこいい編入挨拶は?!
この乳教師、ヒトが五時間と十分ほどかけて考えた、最高の挨拶を、よりによって全部切りやがった!

そのあんまりな所業に、心優しき救世主の卵たちは怒りを持って教師に刃向かうのである。

「納得いきません!どうして新しい救世主候補が男なんですか?!」

刃向かわねーのかよ?!
期待してたのに…

―――ちなみに。この突然立ち上がった赤髪の少女。救世主クラス現主席、リリィ・シアフィールドである。
あと、さっき人の挨拶をカットしたのは、このクラスの戦技科教師。ダリア。
でかい乳が特徴。

「うーん、そんな風に怒られてもねぇ。私もさっき知らされたのよん?」
悩ましげに揺れる双丘。
「いかん、だまされるな!あれは脂肪だ!油だ!燃やせば消える儚き存在…うぉ、なんかかっこいいぞ!」
最後らへんちょっと悪役っぽいけど。それはそれで美しい。

「なんか悶えてるし。ダリア先生、こんなの認められません!」
「悶えたらいかんの?」

つーか、めっちゃアウェイなふいんき(変換できない)。
特に赤い髪のお方はまさに怒髪が天を衝いていらっしゃいます。

「でも、彼は、王宮からの正式な要請でここに来てるのよん」
あ、また揺れた。
つーか話すたびに揺れるんか、この乳は。
「けしからん、じつにけしからんよ」

「あと、そいつはさっきから何をぶつぶつ言って居るんですか?!」
「言ったらいかんの?」
独り言は癖なんだよぉ。

「正式な救世主候補って訳じゃないの。王宮からの『査察指導官』。
救世主候補生達の適正の査察と、状況に応じての生活的・戦闘的な指導をする立場なのよん」

「まってください、それは私たちの救世主候補生としての適正が、王宮から疑われていると言うことですか?」

わざわざ挙手してから述べるのは…見たまんまだろう、僧侶の少女、ベリオ・トロープ。
彼女もダリアに負けず劣らずのけしからなさ。

「早い話がそう言うことねぇん。もっとも、疑っているのはごく一部だろうけど」

そう、俺の役職はダリアの言うとおり、「査察指導官」。
自他共に認める、破天荒くんである俺につとまるのか?と疑問かもしれないが、
こう見えて与えられた仕事ぐらいはきっちり果たすのが俺の信条。
「彼を追い出せ、とは言いませんが。その措置には納得できません」
本部、こちらD小隊。どうやら敵に援軍が到着した模様。敵勢力はかなり強力。繰り返す、敵勢力はかなり強力。

「でもねん、これはミュリエル様の決定でもあるのよん?」
「お母…学園長がっ?」
当学園、学園長、ミュリエル・シアフィールド。
リリィ・シアフィールドの義母である大魔導士。
さっき会ってきたけど、なーんか含みを感じるんだよね、あの人。こう、雰囲気に

「今のところは、破滅に目立った動きもないから…王宮にもいいところをアピールしなきゃねぇん?」

「…………」
「……………」

乳の割にはなかなか筋道たったことを言う。

……だから、乳は関係ないんだって。

「…………………納得いきません」
「ぬぅ…」
しぶといのが一匹おるなぁ…!

「いえ、納得できるわけがありません、納得したくありません、納得するわけにはいきません」
「がはっ」
さ、三連撃…

「代々の救世主候補は女性だったはずです。そこに異分子が紛れ込むことは、崩壊を招きます!」
「言ってることはわからなくもないけど…」
困ってる、ダリア先生困ってるよ。

「だいたい、『査察官』なんて言ってますけど、一般人に私たち救世主候補の適正がわかるわけありません!」
「かちーん」
いま、なんか来た。

「それに、なんかアホ面だし」
「――――カチーン」
カウント・ツー。

「ぶつぶつ独り言はうるさいし」
「―――――――カッチーン」
アゲイン。まだ三度目。耐えろ、俺。

「そんなどっかの馬の骨をつれてこられても迷惑です。
それに、その『査察官』様に、そもそも査察できるほどの力があるかどうか?」
「――――――――――――――なめるでないぞ、貴様」
いかん、つい地が。
「あら、癪に障りましたか?それはごめん遊ばせ、おほほほほ」
こ、この女。
全く謝る気がありませんのことよ?!

「――――いつまでも『候補』の身に甘んじている小娘に言われたくないのぉ」
いかん、また地が。
「なんですって?」
しかし、今の言葉はなかなか効果があった模様。
いざ、ノンストップ・俺。

「嘆かわしいことに、召喚器を自在に操る者が居なくなって早1000年。
いつのまにやら救世主とは『召喚器の真の力を引き出す者』ではなく。
単に『召喚器を呼び出せる高慢な魔導士』に変わってしまったようだな?」

「…言ってくれるじゃない、馬の骨」
「…どうした、もっと言い返してみろ。平和ボケ魔導士」

「………」
「………」
「尋常に勝負だっ!」
「消し炭にしてやるわ!」


「展開は読めてたけどぉん…」
「リリィの性格なら、あそこまで言われて手を出さない方がおかしいですね」
「………最悪の…状況」




「え〜…始めぇん」
「わーお、めっちゃ投げやりや」

ダリアは、もう呆れ果てて面倒みきれんといった顔で…いや、実際そう思っているんだろうけどさ。
まぁ、このだだっ広い闘技場に来るまでの数々の舌戦を右と左の耳から訊いてりゃそうなるわな。

「ぶつぶつ言ってんじゃないわよ!」

あっちはあっちでやる気満々だし…ごめん、正直冷めてきたわ、俺。
よく考えればここは大人である(少なくとも彼女よりは年上であろう)俺が我慢すべきだった。
今後は自重しようと思う、うん。

「どうしたの、とっとと武器を持ってきなさい!」

で、そんな冷め始めた俺に、彼女のその言葉は

「は?」

なぜかとても不思議なことのように聞こえた。

「剣?魔法?それとも徒手空拳?!どれだって相手になってやるわよ!」

「甘いねぇ、お嬢ちゃん」

思わず笑みが覗くほど。

…だって今まで、真顔でそんなこと聞いてくる奴居なかったから。
そんな、めっちゃ甘いけど、俺好みの正々堂々とした態度とられたらさぁ。

「…全身全霊で相手しなきゃいけないじゃん
「何ですって?」
「なんでも。聞こえなかったならいいよ、べつにさ」
男の子は恥ずかしがり屋なのだ

ざっ、という土を踏む音が二つ。
お互いに呼吸を落ち着けて。
俺は彼女のさっきまで怒りで崩れていた端正な顔を見ながら、
戦いの準備を始める。

―――意識を集中

―― 胸に気合い
――― 一歩に全力
―――― 身体は胴体を軸に左腕を後ろにするように螺旋(ねじ)のように思いきり回して。
――――― 目は正面。

呼吸を一つ、もう一度意識を集中。

この間わずかに一秒。だが、人の感じる限界まで引き伸ばされた一秒。


なぜだか、いつもこの瞬間には、考える
―――無限の可能性に無限の困難がつきまとうなら



向こう見ずな勇気は、俺のたった一つの武器だから。
横にも後ろにも斜めにも進まない

「Ready…」

前傾姿勢。
狙うは常に正面一点。
左手に握るのは我が誇りにして、武器。

「GO!」

どんな盾さえ撃ち貫く一撃を……放つ!

「クライシスッ・ブレイカァァァッ!!」
「ッッ?しょうかッ?!」

豪放一撃、身体に溜めた全エネルギーで踏み込む。
彼我の距離は5メートル強。だが、そこはまだ俺の間合いだ。
この踏み込みなら、4メートル。
そして、残りの1メートル強を埋めるのは背後の武器
後ろに回したのは身体だけではなく。その先、左手に持った、敵を穿つための「一撃」。
『召喚』された白熱は回転とともに一つの形状をとる。
それは長く、堅く、強く、重く、速い。

直後、リリィの展開した魔法障壁にぶつかる。
不完全な召喚によって呼び出された其れは未だ白熱のまま一瞬その動きを止める。
このタイミングで障壁を展開されてしまうのは全くの予想外。
…なぜなら、そんな予想に意味はないから。

相手が悪かったな、リリィ・シアフィールド。
「其れ」はいかなる困難をも破壊する、問答無用の一撃必殺!!

「ドリルは男の…ロッマァァァンッ!!」

いつもこの瞬間には考える。
―――無限の可能性に、無限の困難がつきまとうというのなら。
俺達は一つの可能性に向かって、一つの巨大な困難に突き進む男になろう。
無限の回転とたった一つの道を突き進むこの武器とともに。




リリィ・シアフィールドは、勝者を見上げた。彼の顔には勝者にふさわしい笑みが浮かんでいた。
それは、敗者さえ魅了する王者の笑み。
彼の手に、すでに先ほどの光を放った武器はない、それはまるで泡沫だった。

「あんたは…何者…?」
そのあまりの力に、余裕に、そして何より優しささえ感じられる笑みに、リリィはそう問わずにはいられなかった。

「俺は…」

その男は、まるで少年のような笑顔を浮かべながら、高らかに言い放った。

「最強無敵の『漢』…ケンだ!」


それが、この男の道の始まり。このときより、彼は『ケン』であり。
――――漢の道を歩み始めた






とある舞台裏――――サブタイトル「俺のドリルで天を突く」
えっと、始めましての方しかいないと思いますので自己紹介をば。
新参者のくろかげと申します。好きなアニメはロボット系でございます。
今回、リョウさんがデュエルセイヴァーの小説をお書きになるとのことで、便乗させていただきました。
このことについてはリョウさんに主役と一緒に菓子折りでも持って
「便乗して申し訳ないっ!」と、土下座したい気分であります。
それについては画面越しに自分が土下座するにして、本編についてちょっと語らせていただきます。
この「Cosmology breaker」、「コスモロギーブレイカー」といいます。
意味としては「世界観を破壊する者」といったところでしょうか。
しばらく原作主人公の大河の出番はありませんが、
登場後もこのオリジナルキャラクター「ケン」を主役に添えてやっていきたいと思います。
彼は見た感じ破天荒で若干情緒不安定というか、口調が定まっておりませんが、仕様です。それについては後々。
では、今回はこのあたりで。
ちなみに舞台裏サブタイの元ネタは某ドリルアニメです。兄貴〜!






作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
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