なのはとティアナは病院の前に居た。

二人の瞳は決意に燃えていた。


スバルの事故の後、二人は激しく気落ちしていた。

しかしゲンヤのお陰でなんとか持ち直し、今度はスバルと腹を割って話し合おうと考え自らを奮い立たせた。 

この打たれ強さ……やはり彼女達は強いな。

その光景をゲンヤは、感慨深く眺めていた。

しかし入院して、やつれきったスバルの様子を見ているので、

その劇薬の投与は、スバルがある程度回復してからにしてくれと、なのは達に頼んだ。

また、見舞いについても、停職中のギンガに気兼ねなく行かせてやりたいので、見舞いに行くのは自重してくれないかと、

機動六課を中心にスバルの知り合いに一人々々に頭下げて回った。 

皆、気持ちの良い連中で、 

「そういうことなら分かりました」

「スバルにはよろしく言っておいてね」

等、目から涙が出そうになった。

日々が流れ、スバルの体力が回復したのを見計らい、なのは達にGOサインを出した。

なのはもティアナもスバルに言いたい事が沢山あった。この日の為に、色々な事を考えた。 

スバルとこう話そう。

スバルにこう諭そう。

スバルにこう怒ろう。

スバルにこう謝ろう。

スバルに、スバルに………… 

色々あった。

また、なのはは、スバルに亡き兄の話をしようと思っていた。

そして伝えよう、兄さんはこんなこと望んでない。スバルがそんなんじゃ、兄さんが安心してあの世に逝けないよと。 

その夜、なのはは久し振りに兄の夢を見た。 

墓地で美味しいそうにメロンを食べている兄の夢を…… 

朝起きて、一人笑ってしまった。

きっと、兄が心配して夢に出て来てくれたのだろう。

兄らしく、励ましの言葉や慰めの言葉なんて一言も言わず、ただメロンを美味しいそうに食べていただけだけど……

でも、それがとても兄らしくて嬉しかった。

同時刻墓地にて 

シャクシャク。 

うむ、メロンは美味いな。 

まさにベリーメロン! 

うむうむ。 

……

うん、大丈夫だよ兄さん。わたしは頑張るから……だから、兄さんも天国から見守っていて下さい。

同時刻墓地にて 

「いたぞ!捕まえろ!」

「墓叩っ斬ったうえに、お供え物まで盗むとはとんでもねぇ野郎だ!」

「ふん縛って管理局に突き出してやる!」

「まっ待て、あのお供え物は俺の物で……」

「寝言言ってんじゃねぇぞ!」

「朝っぱらから、酔っ払ってんじゃねぇぞ!」

「言い訳ってレベルじゃねぇぞ!」

「っ!こんなとこで捕まってたまるか!」

「逃げたぞ!追え追うのだ!」

「のおぉぉぉー」

閑話休題。

そんなこんなで話は冒頭に戻る。

二人の瞳は決意に燃えていた。

スバルと分かり合う為に。 

ゲンヤは、二人の熱意を信じた。

また、女性だけでの話もあるだろう、そこに異性であり、ましてや、肉親が居たのではスバルも話ずらいだろうと考えて、

二人に全てを託して参加しなかった。

「ティアナ、行こう」

「はい」

気合いも十分に病院に入っていった。

……

良介はスバルのベッドの上でゴロゴロしていた。 

先程までスバルと『アイス』を食べあっていたのだが、潤んだ瞳で、シャワー浴びて来ます、と言って出て行ってしまった。

この言葉を額面通りに受け取るほど、ガキでもない。

しかし、

スバルの奴、積極的過ぎるだろ…… 

戦闘スタイルは特攻、突撃の猪突馬鹿なところがあったが、まさか恋愛にかけてはそれが輪をかけて凄まじくなるとは……

思わず飲まれちまったぜ……

やっぱりクイントの娘だな。

ギンガの方が色濃く受け継いでいると思ってたけど、そんなのことはない。スバルもきっちりと受け継いでやがった。

あ〜あ、俺ともあろうものが、まさか、あんなハチマキ娘に捕まるなんてな。

そんなとりとめもないことを考えていたら、扉をノックする音が聞こえてきた。 
「スバル、開けていいかな」

なのは!

懐かしい妹の声を聞いて和むどころか、背骨に氷柱を突っ込まれた感覚におちいった。 

なぜなら、顔じゅう、いや、首筋に致まで、スバルのキスマークで埋め尽くされているからである。

もしそんな顔を、扉の向こう側にいる、妹のに見られたら、自分がこの世の向こう側に行ってしまうからである。

「開けるよ、スバル」

ティアナまでいるのか!

少しでも時間があれば、逃げ出すことも出来ただろうが、ティアナはこちらの返事も待たず、扉を開けてしまった。

結果、布団にくるまるという最悪の隠れ方をしてしまった。

ズカズカ入ってくる二人。

布団の中で、二人の足音に震えながら、それでも打開策を考える。 

打開策その1  寝た振り

ゆさゆさと布団越しに体を揺すられる。

「スバル起きて、今日はスバルに話が合ってきたの」

やばい、布団を剥がされたらアウトだ。

打開策その2  スバルの振り 

「なっなのはさん、ティア、どっどうしたのかな」

「スッスバル!?どっどうしたのその声!?」

「風邪引いちゃったみたいで、喉がおかしくなっちゃったんだ。
顔もむくんで、なのはさんやティアにも見せられないぐらい酷いんですよ」

この答えに、二人は苦い顔をした。
スバルとの面会に当たって、こういった事態を避けるために前もって医師からスバルの容態を聞いていた。
その話によると、今日は精神的ダメージはあるものの、体調や体力には問題はないそうだ。
つまり、スバルは、私達を避けているのだと考えた。わざわざ変な裏声まで使って……

「そっそうなんだ……ごめんね、そんな時に押し掛けて」

「でね、スバル。そのままで良いから聞いてほしいの」

それでもなのはとティアナはスバルの心を解きほぐそうと熱く語り始めた。

スバルに対する自分達の思いを、考えを、途中今までこらえてきたものが堰を切って溢れだし、涙を滲ませながら大いに語った。

最後に、スバルも間違えていた所があったが、私達も間違えていた。もう一度一緒にやり直そうと締めくくった。

もしスバルがこの話を聞いていたら、間違いなく泣いただろう。 

感動しただろう。 

しかし、話を聞いていたのは、宮本良介である。

感動するどころか、布団の中でスバルが帰ってきて、鉢合わせしたらどうしようと、

ハラハラしていたので、せっかくの話もほとんど聞いていなかった。

ゆえに相槌も、 

「はぁ」とか、「そうですね」と気の抜けた返事しか返さなかった。

コレが二人の心に火を付けた。

「ねぇ……スバル。せめて布団だけでも取ってくれないかな」

「はぁ……ってえ゛!?だっだから、あたし、風邪を引いて……」

「嘘だ!!」

「ごめんね……医師に前もってスバルの容態を聞いてきたんだ。スバル……元気なんだよね……」

「え゛っ!?」

「スバル!あんたまだ、先輩が死んだのは自分のせいなんて、自惚れているの!それは先輩に対して失礼よ」

おいおいおいおい!普段散々と俺に失礼な態度を取っているお前が言うセリフかい! 

「ねぇ、スバル……お願いだから、顔を見せてよ……兄さんだって……兄さんだってこんなこと望んでないよ!」

心底望んでるぞ!いもうとー! 

どうする……どうするよ俺!? 

下手な事してみろ。

間違いなく、クイント再会コースをたどるぞ。

打開策その3  逃走 

こうなったら、1、2の3で布団をぶつけて逃げるしかない。

よし、行くぞ!

1 
「ねぇ、」


「スバル」

さっ……
「布団を……」
「おっおまたせし……へっ!?」

このタイミングで来るかー!?
あまりのタイミングに俺は完璧に出鼻を挫かれ固まってしまった。

「えっスッスバル!?」

「なっなのはさん!?ティア!?どうしてここに!?」

「いや、それはわたしのセリフで……ってことは……」

「この人……誰なのかな……」

ヤバいヤバいヤバいヤバい……いや待て、落ち着け、落ち着くんだ、宮本良介。

俺様の灰色の脳味噌はこんな逆行を跳ね返してみせる打開策を産み出せるはず。

ぽくぽくぽく……

ち〜ん!

これだ、これしかない! 

打開策その4  うやむやにする

「ふっふっふ……なのはもティアナもまだまだだな。俺様の物真似に騙されるとは」

「えっ!?その声は!?」

「兄さん!?」

「やっと気付いたか馬鹿共め!」

布団を跳ね飛ばし、一瞬だけ二人はの視界を塞ぐ。 

そう、この一瞬が勝負の時。

「「きゃあ」」

この一瞬に二人を抱きしめる。

「お前等が心配でおちおち死んでもいられないぜ」

「嘘……でも、この温もりも、声も、匂いも兄さんだよね」

「先輩……生きて生きていらしたんですか」

「ああ」

そう言って、抱きしめる力を強める。 

二人の顔を胸板に押し付ける。 

断じて、断じて、顔は見せない。見せられない。見せれば、死、あるのみだから。

「兄さん……痛いですよ……」

「俺の心臓の音が聞こえるだろ」

あまりの綱渡りな状態に、心臓が爆発しそうです。

「はい……はい……兄さんの、兄さんの心臓の音が聞こえます……よかった、よかったです。ひくっえぐっ……」

「先輩……私、私……うぐ……えぐ、勝ち、勝ち逃げなんか許さないんですから……また……また……」

「ああ、また勝負しよな」

「「うわあぁぁぁぁん」」

よし、泣いた! 

今だ、こいつらの視界が悪くなっている今がチャンス。逃げるチャンスなんだ!

俺は出口に向かって走り……

「うんうん♪なのはさんもティアも良かったですね。でもそれ以上はダメですよ。恋人のあたしが許しません。なんてね、なんてね♪」

うおぉぉぉぉぉい!

空気読めスバル!

くそ、緊急離脱しなくては…… 

ガシガシッ

「先輩……」

「どういうことかな、兄さん」

ぜっ全然動けない……というか、あなた達、ついさっきまで泣いてなかったですか!?

なにこの殺気!?

「どこに行くんですか……兄さん」

「先輩、この首筋から、顔にあるマークはなんなんですか……」

ギュイイイイ

「あっ肋が、肋が折れる。はっ離してくれ」

「えへへ〜宮本さんのエッチ。そんなにキスマークを見せつけなくても良いのに」

お願いだから空気を読んでください!! 

「「……」」

ボキッ!ペキッ!

あっ肋が……肋が……あっばらばらに……

「兄さん……」

「先輩……」 

「「頭……冷やそうか……」」

…… 
… 




この時が、少し嫌だった。 

抜け殻のようになってしまった妹への見舞い。 

でも、いつまでも、これでは駄目だと思った。

今日は、スバルと腰を据えて話合おう。 
そう勢い込んで、わたし、ギンガ・ナカジマは妹の病室をノックした。 

「スバル……入るわよ」

「あっ!?ギン姉だ!いらっしゃい、開いてるよ」

妹の明るい声に驚いた。昨日までの陰鬱とした声ではなく……そう、彼が死ぬ前の時のような、太陽のような元気で明るく朗らかな声。 

一体なにがあったのだろう…… 

疑問に思いながらも病室の扉を開く。 

「スバル、一体どうし……って……ずっ随分と風通しが良くなったわ……ね」

病室に入って驚いた。 

だって、壁が綺麗に無くなっているんですもの。 

そう、なのはさんのSLBを撃った時みたいに、綺麗にぽっかりと。 

お陰で風通しが良くなりすぎて、ビュンビュンと風が入ってくる。 

夜とかどうするんだろう? 

「えへへ〜眺めが良いでしょ」

「えっええ、そうね」

そういう問題かしら?

確かに壁が無くなったお陰で、景色が良く見える。

夕日に映える山々が綺麗ね…… 

赤々とした光に包まれて山が茜色に輝いている。

まるで燃えているよう…… 

煙まで立ち込めて、本当に燃えているみたい……って!本当に燃えてる! 

大変、山火事だわ! 

「すぐに消防に連絡を……」

「大丈夫だよ、ギン姉。よく見てよ」

「なに言ってるのスバル!山火事なのよ!一刻を争うのよ!それにほら、銃声が聞こえたりピンク色の光線が出たり……ってなんです……コレは……」

時折、どこかで聞いたことのある悲鳴が聞こえてくる。

スバルは、そんなハチャメチャな風景をニコニコしながら見ていた。

「スッスバル!?コレがなんなのか、知っているの!?」

「うん、一言で言うとお仕置き……かな」

「おっお仕置きぃ!?」

いくらなんでも、規模が大きすぎるだろう…… 

「うん、お仕置き。ちゃんと正面から堂々と言えば良いのに、なのはさんやティアを誤魔化して煙に撒こうとしたから」

「えっ?」

「それに、絶対にあたしの事を、空気読めてないって思っていたんだよ。失礼だよね〜あたしだって空気ぐらい読めますよ〜」

「誰の事を言っているの」

なんとなく分かる。きっと山の中で悲鳴を上げている人物だろう。

スバルの視線は、山から動かない。 

きっと今の話も、私に半分。あとの半分は山の中にいる人物に向けられたものだろう。 

山を見る。 

相変わらず、山は燃え上がり、マシンガンの如く銃声が響き渡り、光線がシャワーのように降り注いでいる。

それでも元気に悲鳴が聞こえることは、その人物はよっぽどタフに違いない。 

「ふっふ〜ギン姉、気になる?」

「ええ、教えて欲しいわ」

「でも、ダメで〜す。教えませ〜ん」

「なんで、意地悪しないでよ、スバル」

「だって、ギン姉の方があたしより詳しく知ってそうだし」

「しっ知らないわよ!あんなハチャメチャな人は」

「本当〜?」

一人だけ、一人だけ心当たりはあるが、彼はもう……

「……わ……た……、彼を…こ……」

「あ〜ギン姉、落ち込んでいるところ、悪いんだけど、明日には全部分かるよ。それに明日から、きっとギン姉も忙しくなるし」

「……えっ!なんで?」

プルルルルル 

携帯が鳴り響く。 

ってコレは仕事用の……

「ギン姉〜病院では、携帯禁止だよ」

「うっ、ごめんなさい。でもなんの用かしら?」

今は停職中のはず。

疑問に思いながらも電話に出ると……

……

話終わって電話を切ったギン姉は、緊急の用事が出来たと言って、足早に去って行った。

電話の内容は聞かなくても分かる。

その生き生きとした顔が全てを物語っていた。

ただ部屋を出るときに、

「スバル……あなた知っていたのね」

と拗ねたような声で言われた。

なんとなく、宮本さんが意地悪をよくする理由が分かった。

なんというか、嗜虐心をそそるとはこういう事なんだろうと思った。

あ〜なんか、ティアの胸とか揉みたくなってきたな〜

しかし、即日に連絡が入るとは…… 

恐るべし管理局…… 

それとも、宮本さんがそれだけ愛されているのか……判断に迷うところだ。

外に目を向ける。

山から相変わらず、銃声と光線の雨あられのなか、宮本さんの悲鳴が木霊していた。 

あっ……落雷。

フェイトさんも来たんだな〜

もうすぐしたら、ギン姉も到着するだろう。 

本音を言うとあたしも行きたかった。 

でも両手につけられたギブスがそれを許さない。 

早く治さないとな〜

山で繰り広げられている狂騒を見ると、彼が本当に皆から愛されているのが分かる。

でも、譲るつもりは全くない。

だって、あたしは宮本さんの……


茜色に染まる山々から響き渡る狂騒曲を聞きながら、少女は恋心を更につのらせる。

その恋心が、孤独の剣士の未来を左右させるものになるとは、まだ誰も知らない。 


あとがき

スバル追加エンドは、オチだけではなく、若干甘めにしてみました。

あと今回の作品は、友人からの指摘により若干作風を変えてみました。 









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