それは記憶を無くした竜魔と亡霊の邂逅。






























母に似ている、いや瓜二つと思えてしまう。

その考えは失礼であるのは重々理解しているとはいえ……

とある昼下がり、ひょんな事から、フェイトはアリスと二人でショッピングに出掛けた。

二人でお店を回っていると、母と一緒に買い物をしているみたいであり、マザコンであったフェイトは、失礼だと思いつつも、母と彼女を重ねてしまう。

母と一緒に買い物をする。

一般的な家庭の光景。
だが、一度も叶うことのなかった光景。

修道服を身に纏った彼女がたまらなく母に見えてしまい、甘えたくなる。

優しい陽光が降り注ぐ、そんな昼下がり。














































「なぜ下着姿で出歩いているのだ!?」

同時刻のとあるミッドの昼下がり、束音は生活用品を買いに出かけ、大いに困惑をしていた。

街を行き交う老若男女が、下着姿で街を闊歩しているのだ。

イベントかイベントなのか?

頭を抱えて混乱をしながらも、ズボンのベルトを緩める束音。

そんな彼にジェイルからの通信が入る。

『どうだね忍者』

「……どうだねって……この原因はお前仕業かぁ!」

『ふむ、そのリアクションからすると、どうやら成功したみたいだね。どうだね男の夢「服が透けて見えま酢」の効果は』

「おまっ!、どうりで朝っぱらから酢豚なんて重いモノを出すなって不思議に思っていたが、そんなものを盛りやがったのか!!お前、帰ったら覚えて……」

通信機越しに怒鳴り上げようとした束音の前をキャッキャッと通過する女子高生の集団。


「………………まぁ、あれだ。俺の心は海のように広いから許してやろう」


『ククク、その間が気になるところではあるけど……まぁ優雅な1日を過ごしたまえ』

「ママーあのお兄ちゃん、鼻からボタボタ血を流してるよ」

「こら見ちゃいけまんせん」





裏竜魔武芸帳改めて魔法使いを回避せよ〜その12

副題『灯火』









「世の中は広いぜよ」


街を行き交う人々を眺めながら世の理(よのことわり)について思いを馳せる。

深く考え過ぎてしまったのか、前から歩いて来た女性にぶつかってしまった。

「あっすいません」

流れるような金髪と恐ろしいほど整った顔立ち。

どこかで見たことがあるような顔であるが、今はそれどころではない。

けしからん胸とそれらを包む、これまたけしからん黒色のきわどい下着。

けしからん、まことにけしからん。

通常時の束音なら大いに動揺したであろうが、今の束音は世の理に思いを馳せる哲学者束音である。


「いえ、こちらこそ失礼致しました」


いかなる状況下においても哲学者は紳士たれ。
束音は実に、哲学者らしく優雅に振る舞った。
優雅に典雅に、さりとて曇り無き澄んだ眼(まなこ)は極めて自然で流麗に、まるで澄み切った清流のように金髪の女性を流れるように見つめ回す。

そのけしからん姿を脳内の最重要フォルダにしっかりと焼き付けた束音は、春風のように立ち去ろうとして、

「目の前をちゃんと見て歩かないから、ぶつかるのですよ」

彼女と良く似た顔立ちの黒髪の女性。

「ぼっ!ボンテージィ!?」

「へっ?」

「っつ!!」

ボグッとおよそ人体を殴っては出ない音色を立てながら束音のレバーに突き刺さる鉄拳。

漫画、はじめの一歩で例えるならば、見開き1ページのボディーブローだろう。

「オウフ」

束音の意識は途切れた。


……


よいしょと米俵を担ぐように目の前で気絶した男性を担ぎ上げるアリス。

戸惑う私をよそにアリスは淡々と告げる。 

「すいません。用事が出来ましたので今日は帰りますね。では」

笑顔なのに有無を言わせぬ迫力。

笑顔と反比例する鋭い眼光は、まるで、「ジュエルシード探して来い」となかなかの無茶振りをしたときの母とそっくりであり、フェイトは黙って、彼女の後ろ姿を見続けることしか出来なかった。


……
… 


――同日夜――


帰って来ない忍者を心配して、探しに出掛けるセイン。

路地裏の片隅。そこで見つけた無惨な姿の忍者。

服はボロボロであり、その隙間から見える素肌からは、たくさん鞭の痕。
手首には手錠の痕と、まるで拷問にでも掛けられたような無残な姿。 

「そんな……酷い……ううん、そんな事より早くドクターに治療してもらわくちゃ」

急ぎアジトに帰還しようと、束音を抱きかかえて気付く、香水の甘い香り。

薄く香るそれは移り香ともいえる。

「………………」

整った柳眉がじわりじわりと釣り上がる。

先ほどまでは涙目だった瞳が、スゥーッと冷たく細まる。

「うぅ……絶対、女王……様なんて……言わない……からな……うぅ……」

「…………ふぅん……随分とお楽しみだったみたいなんだね」 

地底に流れるマグマのように、熱く静かに呟かれた言葉は闇夜に消えて、スゥーと地面に沈んでいくセイン。


……


エピローグ


ロングアーチに響く鼻歌。

「今日は随分と機嫌が良いですね」

「ええ、素敵な出会いがありましてね」

「そう言えば、フェイトさんと一緒に買い物に出掛けたんですよね。お二人とも美人ですから、格好いい人にでもナンパされたんですか?」

「そうですね。とっても良い声で鳴いて……こほん、お話しをしたのですが、とても素敵な殿方でした。またお会いしたいですね」

「連絡先は交換しなかったんですか?」

「それが逃げら……こほんこほん、急用が入ってしまったようで、急ぎ帰られてしまい……フられてしまったのかもしれません」

「ええー!シスターアリスをフるなんて信じられませんよ」

「言っては悪いですが、見る目がないですよ。その男性は」

「ふふ……でも、それは一時の思いです。実は最近気になる殿方がいまして」

「おおっーと!まさかの爆弾発言!」

「誰なんです?誰にも言いませんから教えてくださいよ」

ティアナ、スバル、アリスと女同士の会話の華が咲く。

そして、そんな三人の……アリスのセリフを聞いて、顔が真っ青になるフェイト。

「大丈夫フェイトちゃん、顔が真っ青だよ」

「大丈夫だよなのは。うん、大丈夫。アルフ、そろそろジュエルシード探しに行こう」

「フェイトちゃんが壊れたー!?」


今日も六課はなんだかんだで平和でした。 






















































エピローグ2

「ハクション!」

「あれ、風邪ですかヴァイス陸曹」

「なんか悪寒が……」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。それに、今日は勝負の日でな」

「勝負?」

「シスターアリスをデートに誘う!」

「……骨は拾ってやりますから、精々派手に玉砕してください」

「馬鹿、縁起でもねーこと言うんじゃねぇ!」







エピローグ3

「なにをしているのか…………売れるのかね?」

基地の一角において、なぜかお店開かれている。

そんな苦情を渋い顔をしたトーレから受け取り、現場に来てみれば、

『ロウソク売ります』

看板を掲げて、簡易店舗にてロウソクを売っているガリュー。

あまりにも堂々とした態度なので、二の句が告げずに固まってしまう。

そんな彼の前ををトテテと横切る小さな影。

「10本頂戴」

駄菓子屋でお菓子を買うように手に握りしめていたお金を手渡すオットー。

ガリューはポンポンとオットーの頭を撫でて、紙袋にロウソクを11本と鞭を入れて手渡す。

「ありがとうガリュー」

紙袋に入った品を嬉しそうに受け取り、ニコニコと走りさるオットー。

微笑ましそうでまったく微笑ましくない光景。

走り去るオットーを見つめながら、ガリューに問いかける。

「ガリュー……誰に売った……いや売れたんだね?」

『いつものメンバー。商売繁盛、オイシいです』

「………………………………………………それはなによりだ。そういえば居間の襖(ふすま)の滑りが悪くてね。一本良いかね」

ロウソクを買い、居間に向かう。

途中、忍者の部屋のある方角から、

「あ゛づ!」

「いだっ!」

「俺にそんな趣味ね゛ーがっ、らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

などなど、割と切羽詰まった忍者の声が聞こえるが、今は襖の方が重要だと己に言い聞かせながらジェイルは立ち去りましたとさ。











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