『エリオ、君はまっすぐに育つように』


そう言って笑顔で僕を引き取ってくれたフェイトさん。

信じていた者に裏切られ、モルモットのように扱われ過ごす日々は、僕を摩耗させるには十分な日々だった。

斜に構え、世捨て人か自殺願望者か。
ただただ無気力に生きていた。

そんな境遇から助け出してくれたフェイトさんの言葉と笑顔は今でも胸の奥で輝いている。


























でも、



























ごめんなさいフェイトさん。

まっすぐに生きれそうにないです。



目の前で激しく火花を散らす桃色と紫色の少女達を見て思う。



どうしてこうなった……











裏・竜魔武芸帳改め魔法使いを回避せよ〜その10

副題 

『とあるピカチュウのひとりごと』


隊長からの散開命令は、仲間達の心胆を寒からしめるものであった。

リミッター付きとは言え実力は嫌と言うほど知っている。

散開とは名ばかりに、一目散に逃げ散る。

背後からすぐに、高架下を電車が走っているときのような、腹の底に響く鈍い音がした。 

初めての敗戦。
高町なのはの射撃魔法。

その二つがエリオの心から余裕をなくしてしまった。

「ここどこ?」

無我夢中で逃げ回り、気付いた時には森の奥深く、戦闘エリアからは随分と離れていた。

バラバラにはぐれてしまった仲間達。

敵の戦力だって、出尽くしてるとは限らない。これでは各個撃破の良いお手本だ。

早く仲間達と合流しなくては。

しかし念話を飛ばしているが誰一人繋がらない。

困ったなと頭を捻る。

捻りながら視界の隅をよぎる鮮やかな紫。

思わず目を奪われた。

フェイトに引き取られてから、エリオは美人を見慣れてきた。

フェイト自身も美人であるが、親友たる、高町なのは、八神はやてしかり、また、それぞれの家族も美人揃い。

六課に赴任した後も、同僚達は美人だらけ。

そんな環境下において、自然とエリオの目は肥えていった。

そのエリオをして、思わず見とれてしまうほど美人……もとい美少女であった。 
鮮やかな紫色の髪。

白く透き通った肌。

憂いを帯びた瞳。

なにより、全体から醸し出す儚げな雰囲気がエリオの保護欲を掻き立てる。

そこまで考えてハッと気付く。

任務中に僕は何を考えているんだ!

頭を二度三度振るい、正気にかえり違和感に気付く。 

なぜこんな危険なところにいるんだ?

もしかして、アグウスタの宿泊客?

そうだ、それ以外には説明がつかない。

ならば、保護しなくては。 

「あの……っ!!」


少女に向かって飛んでくる鈍い鋼色の……あれは銀髪の人の……流れ弾!?

そこから先は考えるより先に体が動き……驚く彼女を有無を言わさず押し倒し、凄まじい衝撃を全身に感じた。

……

side〜ルーテシア


婚約者でもある忍者の安否が気になり、ジェイルに無理を言って忍者達を見守っていたのが、そもそもの始まりであった。


『馬鹿忍者……大好き……大好きだよ忍者』


『ああ、俺もだ』

オークションパーティーにおいての忍者とセインのやりとり。

「くせぇーこいつはくせぇー臭いがぷんぷんするっす!」

「ほぉ……忍者もなかなか」

「ドクター、熱燗です」

それをこたつに入りながら居間で見守る(テバガメ)ジェイル達。

ウェンディを始めとした他の居残り組ナンバーズも「甘酸っぱいし、なんだが恥ずかしいから、チャンネル?を変えて。いや、やっぱり変えないで」と年相応の反応をしめしながら、食い入るようにモニターを見つめている。

ジェイルとゼストは、忍者の春の来訪に我が事のように喜び祝杯を上げている。

そんな浮かれている中、

「……っ!!」

婚約者たる忍者の浮気を超えた、裏切り行為。

初めての失恋と心の痛み。

ルーテシアは感情の赴くままに駆け出し、テレポートを抜け、気が付いたらアグウスタ周辺の森林。

走り疲れ、とぼとぼと歩きながら、少し冷えた頭で考える。

考えてみれば忍者がなにかしてくれたことはなかった。

いつもこちらから行動をしていた。

婚約者と言ったのも、キスしたのも私から。

忍者はいつも困ったように微笑んでいただけ。

最初はそれを忍者の照れ隠しだと思っていた。

でも、あれは、子供な私に大人な忍者付き合ってくれただけの事……

画面越しに見た忍者の表情。
あんな表情、一度も向けられた事がなかった。

セインは忍者を、忍者はセインを。

ともすれば、私は一人相撲の上に二人の仲を引っ掻き回していただけの……

「ふふ……」

乾いた笑いが自然に浮かぶ。

それでも胸を刺す痛みはある。

勘違いとはいえ初めての失恋。

「次は……負けない」


今は眠っている母の言葉を思い出す。

『落ち込むなんて贅沢な真似をしちゃだめ。人生は戦いの連続よ。落ち込む暇があれば立って戦いなさい』

どんなにつらい時でも、この言葉を思い出して立ち上がってきた。

事実、ルーテシアは母を失ったときも、ゼストの助けがあったとは言え、ジェイルを見つけ出し、自得した召還魔法を武器に戦い、ムシキング……ではなくガリューを呼び出し己の使い魔にしている。

その行動力と打たれ強さに、ジェイルは舌を巻き、ゼストは「メガーヌ譲りだな」と苦笑いをしていた。 

それに比べれば、今回の事など、なんと些細な出来事だろう。

ルーテシアは気を取り直し、俯いていた視線を上げて、青空を眺め……目の前に迫る鈍い鋼の塊が映った。 

あれは、チンクのスティンガー……流れ弾!?

ジェイルを探す為、母の為、幼いながらに修羅場を渡り歩いたルーテシアの頭脳が刹那の速度で訴える。

回避不可。

防御推奨。

バリアジャケットの構築不可 

肉体のみの防御……不可。 

すなわち、死。

回避出来ない死を目の前に、ルーテシアは全て受け入れ、

「いや」

ポツリと本音を零し、

そして、雷火の如き速度で体当たりをしてきた赤い影に押し倒された。

……

目を覚ますと、見知らぬ少年がいた。

「良かった……目が覚めたみたいだね」

「……あなたはだれ?」

「ここは危険区域です。ホテルとは真逆の方向に逃げてください」

こちらの話など聞かずに一方的に話し掛けてくる。

見知らぬ……いや知っている。

あの赤い影、もしかして彼が、

「あと……もし、管理局員がいたら……僕が……ここで……」


私を庇ってくれた人!

ガランと音を立てて倒れる槍。

支えを失いそのまま倒れる小さな体。

慌てて受け止めて、手のひらに感じる湿った感触。

「血」

止まる様子もなく、彼の背中からドクドクと溢れ出てくる。

見ず知らずとは言え命の恩人を見捨てるほどドライではない。

治癒魔法を唱えようと精神を集中させるも、意識を失った為にさらにルーテシアに体重が掛かったので、支えきれずに思わずたたらを踏んでしまう。

ぐじゅりと水気を含んだ草を踏みしめる感覚。

まさかと思い視線を下に向けると、あたり一面真っ赤な草原となっていた。

思わず息をのむ。

もしかして彼は、気を失った私を長時間守っていたのか?

あの怪我なら痛みで念話も出来ないだろう。

仲間も呼べずに刻一刻と迫る死と相対しながら、彼はただただ見知らずの私を待っていたのか。

そうでなければこの惨状は……

そこまで考えて、今は関係ないことだと、治癒魔法を再度展開する。

今度はしっかりと抱き止めたので、たたらを踏むこともなく、治癒魔法の発動に成功。

優しげな光が、真っ赤な草原を彩った。

……

side〜エリオ

暖かくて柔らかくて良い香りがする。

それが記憶の底にある母の記憶と重なる。

『母さん』

体が重くて寒くて、逃がさないようにと抱き止める。

『母さん……捨てないで』

捨てられないように、逃がしてしまわないように力を込める。

逃がさないように、抱き止めているぬくもりが、体を包むように優しく広がる。 

『大丈夫。私は捨てないよ』 

その言葉を聞いて僕は安心して意識を落とした。

……

side〜ルーテシア

治療も済んで、後は起きるのを待つだけ。

適当な場所に寝転がしておけば大丈夫。

なのだが、

『母さん……捨てないで』

寂しそうに呟く彼を見捨てる事が出来ず、場所を変えて膝枕で休ませて上げている。

静かに寝息を立てる彼を見続けながら、自分でも驚くほど、心が穏やかに落ち着いている。

「あなたは母親に捨てられたのね」

クセのないサラサラの赤毛を梳きながら語りかける。

「私の母親はずっと寝ているの」

ハラリハラリと髪を梳く。

「私よりずっと強いのね。だから、あんな真似できるのね」


くすぐったそうに身をよじるも、どこか甘えているような仕草。

その仕草に心が暖まる。


ルーテシアには長いこと同世代の異性が周りにいなかった。

ゼスト、ジェイル、は父や兄の替わりになったかもしれないが、同世代の異性は不可能である。

束音はそれ以前の問題。

要はルーテシアは異性に対しての免疫が極端にない。

だからこそ束音に、いきなりと言ってよいほどの早さで求婚をした。

そんなルーテシアの前に、美少年であり、なおかつ母性本能をギュンギュンと刺激する上玉が一人。

命懸けで守ってくれた逞しさと勇気と優しさ。

同じ年(推定)。

ドラスティックな出会いとトドメとばかりにイケメンとくれば、免疫のないルーテシアはコロリといってしまうのも無理はない。

もちろん彼女がこんな打算的な考えをした訳でない。

本人も意識していない潜在意識の動きである。

それに、失恋してすぐに乗り換えるほどの節操なしでもない。




後にエリオは語る。

なんで僕はもっと早く目が覚めなかったのだろうか、と。

……

夢見が悪いのか、くるしそうに唸るエリオ。

驚いたルーテシアは、また抱きしめれば落ち着くかと思うも、先程の緊急事態とは違い、別に抱きしめなくとも、それ以前に私はそこまで軽い女ではなくて……と思考の袋小路に迷い込み、

 

「うう〜ん」

……仕方がない。これは緊急事態であり、命の恩人に対する救急措置。(この間0.3秒)

寝ているエリオを立たせる事は出来ないので、一緒に寝転びながら抱きしめようと、体勢をズラしたとき、先程まで自分がいた場所を物凄い速度で通過する白い物体。

きゅくるーと悲鳴が上がると同時にメキメキと音をたてて背後の木がへし折れる。

物体が飛んできた方向を見ると、まるで天使のような笑顔を浮かべるピンク色の少女がいた。

「すいません。フリードがいきなり飛んでいって。
もう駄目ねフリードったら。
あっエリオくんを看病してくれてたんですね。
ありがとうございます。
あとは私が看病しますから、あなたは早く非難してください。
あちらの方にスバルさ……管理局の方々がいますので」

一気呵成の長台詞。

一見心配しているように見えるが、こちらを見ずに 言っているあたり、額面通りに受け取る馬鹿はいない。 


いきなり現れての高圧的な態度。

なぜこんな態度を取られなければならないのか?

彼女の目線を見ればすぐに分かった。

赤髪の彼。

嫉妬。

なら、この二人の関係は?

二人の薬指には指輪はない。

夫婦ではない。

ならば恋人?

いや、いきなり得体の知れないなにかをぶん投げてくる激情家だ。

なら、あんな長い台詞など話さずに「彼は私の恋人です離れて下さい」の一言で済ます筈。

と言う事は友達以上恋人未満が妥当ところ。

それなら遠慮など必要ない。

「彼は命の恩人。私が看病する。」

『目には両目を、歯には……そうね歯には歯を全部ブチ折りなさい』

青空に浮かぶ笑顔の母とその教えを思い出す。

ピンク色の少女に見向きもせずに、寝転がって抱きしめる。

プレッシャーが増したとか、空気が震えるとか、「きゅくるー」と叫ぶナマモノの悲鳴とか、全部スルー。

あてつけ半分。
もう半分は、まだ自分でも気付いていない気持ち。

ん、また彼が震え始めた。

ふふふ、寂しいのね。 

もっと抱きしめなきゃ。

彼の震えがさらに増したの気のせいだと思っておこう。


side〜エリオ

こんにちは、エリオ・モンディアルです。

唐突で申し訳ないのですが、詰んでます。

逃げ場がありません。

えっ?

いきなり過ぎて話が分からないって?

はい、実は狸寝入りしてたんです。

目が覚めたら、あんな美少女が膝枕ですよ。

しかもチラッと目を空けたら潤んだ瞳で僕を見てるんですよ。

いや〜美少女を助けてフラグが建つなんて物語の中だけだと思っていたんですけど、まさか本当にあるんですね。

しかも自分が当事者ですよ。

まさに我が世の春がキターー(゜∇゜)

って感じで思わずガッツポーズしましたよ。ええ、心の中で。

でも…………短い春でした。

キャロです。

キャロに見つかったんです。

冗談のような速度でフリードが飛んで……いや投げられて来て、


『ねぇエリオくん。エリオくんの血の匂いがして心配して来てみれば……なんの冗談かな?』

深く静かに研ぎ澄まされた念話が頭の中に響きました。

迂闊な返答は死に繋がります。

でも上手い返しが思いつきません。

よって、出ません。

気絶したフリです。

居留守です。

『なんで返事を返してくれないのかな』

口調を荒げたり、ヒステリックに叫ぶなんて、子供っぽいことはせずに、淡々と話しかけてきます。

『なんで寝たフリなんかするのかな』

ハッタリ……だと思いたい。と僕は考えいました。

『エリオくん、10秒あげるね。それまでに起きてくれなければ……』

起きなければどうなるの!?

『10』

ハッタリだ。ハッタリに決まってる!

『9』

ハッタリさ!

『8』

ハッハッハッタリハッタリなんだか。

『7』

ごめんなさい。もう無理です。

キャロの静かなカウントダウンに5秒ともたずに心が折れてギブアップ。

ジャンピング土下座の準備に入ります。

と思ったら体が動きません。

いや動かないのではなく、抱きしめられて動けなかったんです。

うっすらと目を開けてみたら、可愛らしいピンク色の唇が見えました。

甘い香りが鼻孔を漂よいます。 

ふにゅんと、小さいながらも二つの膨らみの柔らかさも伝わってきました。

天国。まさに天国としか言いようがないのですが、残り時間は、あと6秒。

天国を堪能していたら、本当に天国に旅立ってしまいます。

残念ではありますが、彼女から離れて……

『0』

ええ、ゼロです。零。

間にある654321はありませんでした。

余りの理不尽さに絶句ですよ。

巨大な気……じゃなかった魔力が吹き上がりました。

体感でSランクオーバーです。

ああ、終わったな。

純粋にそう思いました。

そしたら、目の前でそれに負けじと、凄まじい魔力が吹き上がったんですよ。

いや、ビックリですよ。 

助けた彼女はオーバーSの大魔導師。

Sランクオーバーに挟まれたBランクって……ははは、なんの冗談ですかね。 

二人は話合っていたみたいですが、こちらは魔力の余波に巻き込まれてアップアップですよ。

とてもじゃないですが、聞ける余裕なんてありません。

そこから、先はあまり覚えていません。

ぱぁーっと世界が光に包まれて……

「気づいたら病院のベッドかいな。モテる男はツラいな〜」

お見舞いに来た部隊長はニマニマと笑いながらの事情聴取。

「まぁ、全治一週間もせんし、オーバーSに挟まれた貴重な体験やと思っとき」

はい、でもあんなレアケースは二度とごめんです。 

コンコンと響くノック音。

どうぞ。

「大丈夫ですかエリオくん」

かちゃっと入ってくるキャロ。 

大丈夫だよ。いらっしゃい……ってかどうしたのキャロ?その肉塊?

「エリオくんが事故で一週間くらい入院するって聞いたから、元気が出るようにと思って……」

はにかみながら、「上手に焼けました」と肉塊を渡すキャロ。 

はにかむ笑顔は萌え萌えですが、渡すものがゴッツいです。

さすがは元狩猟民族。

ワイルドです。

昨今流行りのモンスターハンター……ではなく、肉食系女子です。


ところで、爆心地にいた僕が入院してるのなら、キャロと彼女はどうなったの?

という疑問が浮かびますよね。

彼女の行方は分かりません。

あの爆発を見て駆けつけてくれたティアナさんやスバルさんが来たときにはもう居なかったそうです。

まぁ、Sランクオーバーの魔術師です。心配は無用でしょう。


そして、キャロの方ですが、爆発のショックで前後数時間の記憶が消し飛んでしまったみたいです。

それ以外はなにも問題がないので一日二日の検査入院で済みました。

規格外過ぎですよね。

でも、記憶が無くなっているので少し……いやだいぶホッとしています。

理由は言わなくても分かりますよね。

「――ウガのお肉なんだよ。食べて元気だしてね。……エリオくん聞いてるの?エリオくん」

えっ!?ああ、ごめんごめん。少し考え事をしていてね。

「もう、せっかくのジンオウ――ううん、早く食べないと冷めちゃうよ」


そうだね。

はむっ、はふはふ、はむぅ。

食べたことない味だけど美味しいね。

「そう、よかった♪」

いや、本当に美味しいよ。

「うんうん♪ところでエリオくん」

なに?

「仏の顔も三度までってことわざ知ってる?」

知らないな?なにかのことわざ?

「ううん、知らないなら良いんだ」

ニコニコと笑いながら、お茶を差し出してくれるキャロの笑顔がとても綺麗でした。


了。















エリオのじゅなん、はっじまっるよ〜 













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