前回のあらすじ

幼女の発育に貢献をしますた。


































ヴィータを出し抜き、レリックを奪取し、待機組に合流した束音達。

「お疲れ様セインちゃん」

「セインはそのままレリックをドクターの所に運んでくれ」

「……後は任せて」

無事の帰還を祝うはずが、なぜかセインには目も合わさずに、束音を取り囲んで睨みつける四人。

「じゃあボクもそのまま帰りますね」

異様な雰囲気に危険を察知した束音はワザとふざけた言葉使いで場を切り抜けようとする。

「セイン姉は帰って良い。ただし忍者、テメーは駄目だ」

「いや〜〜〜………そうだ、俺ホテル内での戦闘で負傷をしてだな。傷をドクターに見てもらおうと」

「忍者……無事に帰って来てね……」

「ちょっ!?おまっ!」

敏感に空気を察知して地中に逃げるセイン。そして取り残された束音に仲間達の手荒い祝福が降り注いだ。



ノーヴェの気合いの入ったデンプシーロールを皮切りに、チンクのスティンガーの嵐とクアットロの情け容赦のない罵倒の嵐。
肉体と精神を著しく損傷し、ダウンした束音に追い討ちとばかりにブスブスと木の枝を突き刺すオットー。

「あの…………いえ、その…………お取り込み中の所大変申し訳ないのですが……………逮捕してもよろしいでしょうか」

その過激な内容に追っかけて来たエリオは、おっかなびっくりに話し掛ける事しか出来なかった。





























裏・竜魔武芸帳改め魔法使いを回避せよ。その9



































鉄と魔法が火花を散らして、群青の空を色鮮やかに彩る。

「思ってた以上にやるなぁ」

感嘆のため息を漏らしながら、束音は戦場を見渡す。

ノーヴェは青髪の女と上空で拳の花火を散らし合う。

赤髪の少年とピンクの少女は二人で、チンクとオットーに挑み掛かる

クアットロとツインテールの少女が戦場の動きを掌握する為に動いている。


「……でも、まだまだだなぁ」

地上の二人組は経験の差と実力の違いからかチンクとオットーが余裕で押している。

上空のノーヴェは互角の戦いを演じてはいるが、クアットロの方が一枚も二枚も上手なので、彼女達の戦いはバックアップの厚みの違いから、ノーヴェの方が競り勝っている。 

「しかし、あいつらの成長スピードは凄いな」

以前に映像で見た列車での戦いの時に比べれば別人のように腕を上げている。

たしか……エリオにキャロ、スバルにティアナ……と言ったかな……

今回は勝てる。
だが、次にまみえた時に勝てる保証はない。

なにか切欠さえあればすぐに化けてしまう年頃だ。

「悪いが潰させて貰うぞ」

冷ややかに呟き、戦場の影へと姿を潜めていった。

……

side〜ティアナ


襲い掛かる魔法を避けながらティアナは内心舌打ちをしていた。

エリオとキャロは押されており、斬り込み役のスバルは釘付け。

スバルを援護し、彼女を主軸に形勢を立て直さなくてはならない。

しかし、

「ふふふ……なにをそんなに焦ってますの?」

勘に障る笑顔を張り付かせた眼鏡の女が邪魔をして、援護にいけない。それどころか、

「あらあら、ノーヴェちゃんたら……ちゃんと援護してあげなくちゃね。え・ん・ご」

その嫌みな言い方にカァーっと頭に血が昇る。

「うわぁ」

「きゃぁ」

重なるように響くエリオとキャロの悲鳴。

急がなくちゃ!

その一心で焦ったティアナは、連携の事など頭から消し飛び、上空の赤髪の犯罪者にクロスファイヤーを撃ち放つ。

発砲する瞬間に銃身が僅かにブレてしまうが、そんなことにすら気付かないほどティアナは逆上していた。

そして、血の気が一気に引いた。

援護のつもりで撃ったクロスファイヤーがスバルの背中目掛けて飛んでいく。

「スバル避けてぇぇぇ!」

ティアナの悲鳴が戦場に木霊する。

……

side〜束音

ティアナ……と言ったかな……やれやれ、末恐ろしい少女だな。

上空の同僚に向かって悲鳴を上げるティアナを見て感嘆の溜め息をつく。

劣勢に立たされ、心に余裕が無い状態。しかもクアットロの挑発に乗り、逆上したうえでの即射による援護射撃。

そんな状態で、ノーヴェに当てているとはな……

その事に気付いた束音は、慌てて小石を投げつけて、銃口を僅かにだが逸らさせていた。

なにはなくとも、ノーヴェを救え敵の司令塔を潰せた。

ほっと一息尽きながら、オレンジ色の魔弾の行方を目で追う。

あの弾道なら、青髪……スバルと言ったかな。あ〜あ、直撃だな。

このとき、束音を含めた全員がスバルに
直撃を確信して、スバルから視線を切っていた。

ただ、束音だけが着弾まで視線を切らずに見ていた。

おかげで、最初に異変に気付いたのも束音であった。

まるで一陣の風のようにスバルと魔弾の間に、割って入る白い影。

「……出やがった」

我知らず呟く。

甘栗色の長い髪と純白の戦装束。

使用武器は砲に似た高性能の杖型インテリジェントデバイス。

年の頃は10代後半。

「参ったな……ありゃ10代の小娘が出すプレッシャーじゃないぞ」

出撃前から、ジェイルに散々聞かされていた要注意人物。

「あれは君の天敵だよ。特に屋外で出会ったら逃げの一手を推奨するよ」

ジェイルの言はもっともだ。

奴の姿を視認したときから、脳や感覚からは危険信号のアラームが出っぱなし。

「スバル大丈夫?ティアナももっと周りに気を付けなきゃ駄目だよ」

「なっ!?」

「なのはさん!?」

戦場に朗々と響く鈴を転がしたような天使の歌声。

だが、その内容は束音をして背筋を凍り付かせる内容であった。

嘘だろ……あの投石を見破るなんて、あの女、どこまで戦場を見渡してやがるんだ……

冷たい汗が背中を伝う。

「テメェなにもんだ!」

突如現れた、高町なのはにタイマンが邪魔されたと思い、殴りかかるノーヴェ。

「ばっ馬鹿!やめろぉ!!」


制止の声も虚しく、ノーヴェの拳は止まらない。

ドンッと肉を鈍器で叩いたような鈍い音と共に上空から砲弾のように吹き飛ばされ、何本もの木々をぶち抜き、地上に叩きつけられるノーヴェ。

間近で見ていたスバルを筆頭に六課のメンバーやナンバーズも視認を許さない程の速度で振り抜かれたレイジングハート。 

唯一、視認が出来た束音も絶句していた。

おいおい……あれはたしか砲撃主体の遠距離戦型魔導師。
白兵技能は高くないはずだろ……

脳裏によぎる愚痴。

しかし、その愚痴は正鵠を射ていた。

高町なのはの真骨頂は射撃と砲撃にあり、それと比べれば先ほどの白兵技能などとるに足らない些末な技能であった。

「皆、離れててね」

先ほどと同じく朗々と響く鈴を転がしたような声音。

先ほど天使と揶揄したが、天使なんて可愛いらしいものではない。

あれは、魔王だ。

その声を聞いて、一目散に逃げ散る六課の面々。
蜘蛛の子散らすとはこのことか。まるでスポーツかなにかのような爽やかな逃げっぷりにはチンク達は、あ然としてしまう。

が、その意味をすぐに身を持って知ることとなる。

魔杖が桜色に輝き、そこから射出される魔弾が雨の如く地上で戦う束音達に容赦なく降り注ぐ。

降り注ぐ魔弾を回避することで手一杯であり反撃することなど出来はしない。歯噛みをしながら、攻略の糸口を探る束音。
しかし、早々に解決策が浮かぶわけも無く、魔弾の雨は止まることはない。

しかも束音はまだしも、チンクやオットーには完全に回避することは不可能であり、徐々にではあるが体力を削られている。

これじゃジリ貧だ。なんとかして逃げるしかねぇ。

……

side〜なのは


連くんに似てる。

それが高町なのはの第一印象であった。

雨の如く降り注ぐ弾幕をかすりもせずに回避し続ける人物。

姿形も似てはいるが、なにより体の動かし方がそっくりだ。

竜魔の技は門外不出ではあるが、なのは自身、連音とは肩を並べて戦ったり模擬戦を良くやるので、彼の動きを把握はしている。


また、以前にレリック強盗が使用した武器と技術に、連音が多大な関心を寄せていると報告書でも上がっている。 


もしかして、行方不明の連くんのお兄さん?

ならばなぜ、テロリストになど協力しているのだろうか?

なぜ魔法を使わずに、それどころかバリアジャケットさえ纏わずに回避に専念しているのか?

彼がいれば分かることもあるだろうが、あいにくと、別の任務に就いている。

様々な疑問が脳裏を駆け巡る。

「全員集まれ!!」

戦場に響き渡る大喝。

声まで連くんにそっくなの。

そう思ったのは、戦闘が終了してから数時間後であり、最初に感じたのはどうしようもない違和感。

この状況下において一カ所に集まるなんて、自殺行為以外のなにものでもない。

と、言うことはなにか来る。

あの連くんのお兄さんかも知れない相手の策だ。

用心をするに越したことはない。

弾幕の密度を維持したまま高度を上げ、ティアナ達を更に後方に下がらせる。

犯人の二人の少女が彼の下に集まる。

「高町なのは!恨みは無いが斬らせてもらう!」

先ほどよりもさらに大きく、もはやがなり声に近い大音声が地表から響く。

ぶんぶんと風車のよう振り回し、弾幕を切り払っていた剣をこちらに向ける。

「予告しよう。この切っ先が貴様の心臓をえぐり出す」

先ほどの事と言い、次は攻撃ヶ所の予告と来た。

本来なら馬鹿にされていると腹を立てても良いところだ。

だが、彼の攻撃をまだ見ていない。

剣を天に掲げるように突き出した不可思議な構え。

連くんはあんな構えをしたことはない……

あの構えからどうやって攻撃を?

魔力刃を飛ばす?

それとも文字通り突きに来るのか?

相手は連くんのお兄さんかもしれない。
用心の上に用心を重ねてやり過ぎではないの。

自然となのはの目は掲げられている剣に集中してしまう。

「臨・兵・闘・者」

片手で印を結びながら、不可思議な呪文を唱え始める。

剣がうっすらと光を帯び始める。

「皆・陣」

輝きがどんどんと強くなる。

「烈・在」

鷹のように鋭い瞳が私の心臓を射抜いている。

「前」

来る!

「くらえぇぇぇぇぇぇ!」

裂帛の気合い。
ただ声を出しただけなのに背筋に震えが走る

魔力の全てを防御に回す。

冷たい汗が背中を伝う。

久しく味わっていなかった緊張感。

一秒が一時間にも感じられる程の濃密な時間の中。

そして、限界まで光輝いた剣が、






















































爆発した。


「えっ?」

思わず零れた間抜けた声。

もう一度改めて考える。

敵の剣が光って輝き、爆発した。

そう剣が爆発したのである。

もちろん剣が爆発したのだから、上空にいる私にはカスリ傷一つ無い。

失敗?自爆?でもああまで、自信満々に言ってそれはないと思う。

ならば……なにを……

爆煙と爆風により舞い上がった土埃により極めて視界の悪くなった地表睨み付けて……まさかっ!?

慌てて地表にアクセルシューターを打ち込むも、さらに砂埃が立ってしまい更に視界が悪くなる。

広域索敵魔法を掛けるが該当はゼロ。

「やられたの」


歯噛みをしながら呟く。

爆煙や土埃が収まった所には誰も居なく。

撃破したはずの赤髪の少女の姿も見つからない。 

逃げられた。

まんまと敵の手のひらの上で踊らされた。

幾千の戦場を踏破し、幾万の戦士と戦いその全てに勝利してきた。

だが、こんなにふざけた相手は初めてだ。

「次は絶対に捕まえてやるの!!」

怒りも露わにレイジングハートを振るい、なのはは天地に吼えた。



……

side〜束音

洒落にならない速度で眼前を通過するレイジングハート。

砲口がこちらを向き、とても心臓に悪い 。

「ひぅむぐっ」

悲鳴を上げそうになるオットーの口を慌てて抑える。

気持ちは分からんでもないが今叫ばれたら計画が台無しになってしまう。

悲鳴が漏れぬように力強く口を塞ぐ。

オットーも落ち着きを取り戻し、小さく、それこそ蚊の鳴くような小さな声で呟く。

「ごめん、忍者」

「気にしなさんな。俺だって悲鳴をあげる寸前さ」

「うん……でもごめん」

震えながら強く抱きつくオットー。

「しかし……いっっ……連射だけが売りの低威力なアクセルシューターがあの威力とはな……砲撃魔法の威力は想像もしたくないな……」

傷の痛みに耐えながら、愚痴を零すチンク。

「うう……」

背中からはノーヴェの呻き声。
打ち所が悪かったのか未だに意識を取り戻していない。

改めて現状を認識する。

左右に満身創痍のチンクとオットーが抱きついており、気を失ったノーヴェを背負っている。 

この状態で高町なのはに気付かれたら終了だ。

「だったら、もっと強く抱き締めなさい」

「……そんなに顔に出ていたか?」

「それはもう。お馬鹿な忍者の思考くらい読めますわ」

目の前には相変わらず、人を食ったような、それでいてどこか優しそうな笑みを浮かべるクアットロ。

お馬鹿呼ばわりされるのは癪にさわるが、

「………………まぁ、お陰で助かったしな」

ぎゅっとクアットロを抱きしめる。

「さっきも言いましたけども、これはもともと一人用ですのよ。もっと強く抱きつきなさい」

緊急事態とは言え、互いの吐息さえ分かる距離に変に緊張してしまう束音であった。


……

side〜クアットロ


『シルバーカーテン』

ナンバーズWクアットロのIS。

電子情報戦において様々な用途をもつが、戦闘時においては光学迷彩の役割を担う。 

本当は一人用ではなく、これぐらいの人数なら苦もなく隠せてしまうが、もう少しこのお馬鹿の焦る顔を眺めながら、彼の体温を感じていたかった。

そう、このお馬鹿。


高町なのはが増援で駆けつけてきたときに、私(わたくし)は瞬時にISを発動。
予想攻撃範囲から撤退をした。

指揮官には指揮官の戦い方がある。

弾幕にさらされる妹達を冷静に見守りながり、打開策を考える。

秒間数百にも及ぶ策が浮かぶも、その全てが届かない。

撃破どころか、逃げ出す事さえ不可能であった。

『魔王高町』

その異名を肌で感じてしまう。

どうしようも無いほどの敗北感に包まれてしまう。

残されている選択肢は一つ。

忍者や妹達が撃破されるときまで、高町なのはの戦闘情報を引き出せるだけ引き出す事。

それは忍者と妹達を見捨てる事でもある。

見捨てはしない。そんな選択肢は選ばない。なにか策があるはず。


指揮官としての考え。クアットロとしての考え。

そんな板挟みな思考の海に埋没する私を一気に引き上げる怒鳴り声がした。

忍者?

何かするつもりかしら?

何をしても打開出来る訳がない。

でも、忍者でしたら……

相反する思考。

そのせめぎ合いの結果、静観の選択肢を選ぶ。

そして、その後の展開は頭が痛くなる連続であった。

散々に高町なのはを挑発した後に、あろうことか剣をチンクちゃんのISで爆弾に変えて、その爆発を利用して姿を眩ましたのだ。

チンクちゃんとオットーちゃんは集まった時に話を聞いたかもしれないが、こちらはなにも聞かされていない。

忍者の演技により高町なのははもちろんの事、私でさえ騙されてしまったほどだ。

だがそれも数瞬、あの爆発を見て驚きもしたが、すぐに悟った。

忍者の真意に。

この計画の要は私であることに。

慌てて、爆煙と土埃が舞う中心地に行くと、

「よっ!待ってたぜ」

の一言。

私が来ることを信じて疑わない言動。

呆気に取られる私に頓着する事もなく、懐からフック付きのロープを取り出し勢い良く投げるや、気絶しているノーヴェちゃんを魚釣りよろしくポーンと回収。

「よし、早く隠してくれ」

滅茶苦茶な展開。
未だに呆気に取られる私。
だが、指揮官としての思考が逃走可能と判断している。

心とは別に脳からの指令で体が動く。
ISが発動。 

光学迷彩が私達を包み隠す。

隠すと同時に安堵感が体を満たす。

まだ楽観視出来る状態ではない。

でも、私がいくら考えても解けなかった問いを答えてくれた。

私が解けなかった問いを……

それに私が一瞬とはいえ、騙されるなんて……

自らのアイデンティティに関わら事であり、負けたとさえ言えることなのに、悔しさなど一欠片も出ることもなく、クアットロの心には温かいなにかが満たされるだけ。

「これぞ忍法微塵隠れの術……なんてな」

目の前でお馬鹿な事を呟くこいつは、私のアイデンティティを無自覚に滅茶苦茶に踏みにじったのに……

飄々とした悪女として振る舞っている私を信じてくれた。

もし、高町なのはが私より先に忍者の真意に気付いたらどうするつもりでしたの?

私がもう戦線を離脱していたらどうするつもりでしたの?

他にも言いたい事は沢山ある。

でもこんな状況下で言い合える訳もない。

だから、

「お馬鹿さん」

様々な思いを込めて呟いた。

「ん?なにか言ったか?」

「いいえ、なんでも無いですわ。それよりこれは元々一人用ですわよ。くっつかないとはみ出てバレてしまいますわよ」

でもやられっぱなしは性にあわないですわ。
だから、困らせてやることにした。

「………………………………………マジ」

「マジですわ。ほらはやく抱き付きなさい」

顔を真っ青にして汗をダラダラとかく忍者を見て、クアットロはすこしだけスッとした。




了。 
















































































同時刻〜ホテルアグウスタにて〜


『女将を呼べ!このサンドイッチを作ったのは誰だ!』

荒ぶるガリューがいたとかなんとか。 




本当に了。 





あとがき

皆さん、クアットロ分補給してますか? 
無い方は良ければ補給してください。 









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