記憶を無くした竜魔と定めに従う竜魔。
そして、竜魔を受け継ぎし新たな竜魔。
三つ竜が彩り、様々な思惑が交錯したJS事件。
その裏で起きた小さな事件。
心に傷を負った元狙撃手と生まれながらの狙撃手。
本来なら交わる事など無かったが縁が、亡霊の導きにより交わる。
「その……バイクを綺麗にしてくれたお礼に、飯でもどうですかシスター」
「まぁ、『ジョウジョウエン』の焼肉を好きなだけ食べて良いだなんて。ヴァイスさんと聖王様に感謝を」
「酷すぎるシスターがここにいた!」
……
…
「凄い」
視界に映るものが全て初めてであり、また知っている。
大都会クラナガンの人混みの中、ディエチはおのぼりさんよろしく、キョロキョロとあたりを見回す。
……
…
「御馳走様でした」
「まさか本当に『ジョウジョウエン』で焼肉の食い放題をする羽目になるとは……」
財布の軽さに鬱になる。
シスターアリスと飯を食いに行けたのはツイていたが、この出費はツイてない。
秤にかければどちらに傾くのか「火事だー火事が起きたぞー」……どうやら秤の傾く向きは決まったみたいだ。
……
…
燃え盛る火炎の中、ディエチはどうすれば良いのかと困惑していた。
パニックを起こした 人混みに押されてしまい、階段から転げ落ちてしまう。
全身をしたたかに床に打ちつけてしまい、体が言うことを聞かない。
不幸の連鎖か、スプリンクラーが作動せず、まさに詰んでいる状態であった。
それでも、火炎に呑まれての焼死はごめんだ。
スプリンクラーさえ撃ち抜けば……
己がISであるイノメースカノンを呼び出し、構え……構える事が出来なかった。
痛みにより手は震えて照準は無茶苦茶。
加えて、炎や煙に邪魔をされて、スプリンクラーがよく見えない。
それでも、必死に狙いを定めて、
「銃、借りるぞ」
「えっ」
突如現れた男は、イノメースカノンを奪い取るや、惚れ惚れとするような綺麗なフォームで、スプリンクラーを狙撃した。
……
…
「ディエチちゃんか……可愛かったな」
「あら、私では役不足でしたか」
「ちょっ、違いますよシスター」
「この心の傷は、デザートでしか癒せません」
「たかりまくる恥知らずなシスターがいた」
……
…
交流を重ねる二人。
「あのヴァイスさん、お口に合えば良いかと」
「手作り……弁当……だと……」
「あっ……ご迷惑、でしたか」
「いやいやいや、そんなことはないです。ありがたく頂きます!」
「ヴァイス陸曹、顔が真っ青でしたよ。どうしたんですかね?」
「せやな〜なんか変なもんでも食べたんかな〜?」
「…………ふぅ、仕方ありませんね。教会に伝わる、お薬を処方致しましょう」
「うぅ〜……ありがとうございますシスターアリッ…………にがっ!くさっ!臭さで目が痛っ!」
「全部飲まないと効きませんよヴァイスさん」
「いや、これはちょっと……」
「全部飲まないと効きませんよ」
「…………はい」
「なんや、二人からごっついlove臭がするで!ハアハアハア……」
「わぁー!部隊長、鼻血!鼻血!」
……
…
動き出す数奇な運命。
炎に包まれるロングアーチ。
「嘘……だろ……」
「……なんで、なんでヴァイスさんが……」
銃口を向け合うヴァイスとディエチ。
射線が互いを捉え合う。
針で突つけば破裂してしまいそうな緊張の中。
「ヴァイス陸曹!助けに来ました!」
「ディエチ!助けに来たよ!」
「「!」」
思考するよりも先に引き金が引かれる。
一秒を百分割した刹那の間、ヴァイスはディエチの頭上に降り注ぐ瓦礫の塊を見てしまう。
意識だけが白熱するなか、コールタールのような重い空気をかきわけて、瓦礫に照準を定める。
体に衝撃が走る。
意識が暗転をする。
それでも残された力で引き金を引き絞る。
慣れ親しんだ心地よい衝撃が身を包む。
最後にディエチの驚いた顔と、粉雪のように降り注ぐ瓦礫の破片を見て、安心して暗闇に呑まれていった。
……
…
「ゆりかごの起動に成功か……出撃したまえ」
「かしこまりましたドクター」
「忍者はどうだね」
「こちらの出撃と同時に出るそうです」
「……セインの救出は任せたよ」
……
…
「右舷及び艦主に被弾」
「このゆりかごの弾幕を越える威力と量とは……ウーノ、現状を報告したまえ」
「はっ、現在、ゆりかごは小破。運航に支障はありませんが、これ以上の攻撃を受けますと……」
「……母は強しと言った所か、それとも『虎の尾』ならぬ『魔王の尾』を踏んでしまったかね」
船体を襲う絶え間のない衝撃。
「っ!動力部に被弾!推力5%減。運航に支障はありません!!」
「……ディエチを使う。ディエチに出撃準備をさせたまえ」
「ディエチを……ですか……しかしディエチは……」
「二度も言わす気か」
「はっ……かしこまりました……」
……
…
「敵は今船外で猛威を奮っている管理局の魔王こと高町なのは。彼女は非常に素早い上に桁外れに堅い。艦砲ではどうしようもないわ。そこでディエチによる超長距離狙撃による攻撃をするわ。一時的にではあるけど、ゆりかごの全魔力をイノメースカノンとディエチ、あなた達に預けるわ」
「……」
「他に空戦が可能な者達はディエチの援護よ」
「うへぇ……あれの相手はきついっすよ」
「私はあれに斬り込まなくてならないのですね」
「無理に攻撃を仕掛けなくて良いわ。皆の役割は陽動。ディエチ、あなたの腕に期待しているわ」
「……」
「ディエチ!」
「……はい」
……
…
交差する射線。
互いの威力に射線はズレて外れてしまう。
直撃こそ免れたものの、余波の威力さえも凄まじく、瓦礫と粉塵が容赦無くディエチを襲う。
降り注ぐ瓦礫の破片。
あのときの焼き直しだな……
粉雪のように降り注ぐ瓦礫の中に思い浮かべる、最後に見せたヴァイスの笑顔。
なんで笑っていたの……なんで満足した顔をしていたの……なんで……なんで……
体を動かすと痛みが走る。
罰……かな……
彼を殺した罰。
なぜ彼が笑顔で倒れたのかは分からないが、遠い空の上で今だに姉妹達に猛威を奮う高町を撃墜すれば答えが出てきそうだ。
痛む体を引きずりながら、イノメースカノンを再度構える。
集積する魔力。
姉妹達が次々と傷つくなか、冷静に照準を定める。
スコープの中の高町が桜色に輝く魔杖をこちらに向ける。
気付かれた!
チャージ量99%。あと1%足りない。
桜色の奔流が迫る。
スターライトブレイカー!?でもっ!!
恐怖に任せて引き金を引くのは簡単だ。
迫り来るスターライトブレイカーを冷静に見つめながら、チャージがされるのを待つ。
『100%』
イノメースカノンに浮かぶ数字。
桜色の奔流に呑まれる直前に、ディエチは引き金を引いた。
そして、『真横』から受ける衝撃に吹き飛ばされた。
……
…
暗い森の中、ディエチは目覚めた。
「いつ……ここ……は?」
「よぉー目が覚めたか」
「ヴァイス……さん……?」
「ったく、あの高町隊長相手に射撃で勝負すんなて自殺行為も良いところだぞ。俺が撃ち飛ばしてなけりゃ……「そっか、私、死んじゃったんだね。……物好きだよねヴァイスさんも……自分を殺した相手を迎えにくるなん……いたっ!?」
ポカリと拳骨が落とされる。
「アホ!生きてるわ。俺様があんなひょろ弾で死ぬわけないだろ」
「嘘……ヴァイスさん……生きて……」
「ほら、足もあるぞ。ったく大概お前も無茶苦茶だな。」
「ヴァイスさん」
感極まって抱き付くディエチ。
……
…
結論から言えば、ディエチの砲撃は高町なのはを沈黙させるには到らず、上空では今だに猛威を奮い続けていた。
炎上するゆりかご、傷付くナンバーズ。
しかし、そんなの関係ねぇ。とばかりに森の中でいちゃつく二人。
被害はあるけど非殺傷だから死なないという安心感もあるからであろう。
二人の距離がだんだんと縮まり、
くちゅりと水音の伴った音が、ディエチの目の前でした。
閉じていた瞳を開けると、目の前でヴァイスの唇をこれでもかと奪う黒髪のシスター。
「!?」
「ごめんなさい。やっぱり彼は渡したくはありません。それに私のキスの方が良かったですよね」
突如、本当に突如、目の前で繰り広げられた痴態。
今まで女性経験が皆無とは言わない。
しかし、こんなにモテた事もなければ、積極的にされたこともなく、結論から言えば、ヴァイスはポロリと本音を零してしまう。
「えっ!?あっはい。気持ちよかった『ガチャ』で……す……」
眼前に突きつけられる銃口。
「ねぇ、ヴァイスさん。私ちょっと耳がおかしくなったみたい。もう一度言って頂けますか」
先ほどまでの潤んだ瞳はどこへやら、光の無い瞳でヴァイスを見つめるディエチ。
背後からバシンと地面を叩く鞭の音。
前門の虎後門の狼。
「あうあうあうあうあー」
ヴァイスがどう答えたのか?
それはまた別の項で記すことにしよう。
また余談ではあるが、天災レベルの猛威を奮っていた、高町さんちのなのはさん。
「墜ちろ、心優しき魔王よ」
「ヴィヴィ……オ……ごめ……ん……」
激闘の末に束音が、
「…………ありえねぇ。殺すつもり心臓に全力で放った螺旋を直撃させたのに…………」
気絶させました。
束音曰わく
「目を覚ます間に決着をつけないと負けが確定」
とのこと
満身創痍のまま、単独で地上本部に斬り込みを開始。
残る強敵は八神はやてと連音の二人。
結構詰んでいる状態。
もちろん嘘予告。
セインも好きですがディエチも好きです。
ディエチ分、補給してますか?
犬吉さんのファントムアリスに、ヴァイスのバイクを綺麗にする場面がありますが、それでここまで想像した私はきっと疲れているのでしょう。脳が。
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