夢にまで見つつも諦めていた。

華やかなドレス。
胸元や耳を飾る煌びやかな宝石。
薄い化粧とひかれたルージュ。

物語に出てくるお姫様のような衣装。

でも動きを制限されたドレスも胸元や耳から感じる宝石の重みは少女に現実だと突き付ける。

いっそ夢であればと少女は祈る。

「セイン……顔が暗いぞ」

「だって……」

「だっても、かかしもない。そんな心配十年早い!」

「いひゃいいひゃい」

こちらの心配などお構いなしに、ほっぺたを伸ばしてくる、タキシードを身にまとった王子様。

……

暗い顔をしたセインの頬を抓り上げる。

こいつ最後まで反対していたからなぁ。














裏・竜魔武芸帳改め魔法使いを回避せよ〜その7




「駄目だよ忍者死んじゃうよ」

「忍者は魔法を使えないだよ」

涙目で反対するセイン。セインだけではない、ナンバーズ全員が反対をした。特にセイン、チンク、オットー、クアットロの反対は強く、ジェイルと一緒に閉口したのは記憶に新しい。

「キマイラの時は……」

「あのときの忍者の役目は陽動!戦闘なんかしなくて良かった!」

「いや、全員まとめて来ちゃってな……」

「勝手に計画を変更されて、どれだけ私達が焦ったかご存知で?セインちゃんなんか焦って勝手に持ち場を離れてしまったのですわよ。連れ戻すのにどれだけ苦労したかお分かりで」

「ここで潰しといた方が有利かと……」

「チンクもそうだったな。私と同じく待機組なのに、工場に突入しようとしたのだぞ」

「なっ!?トーレ姉様、あれは、その……う〜〜〜忍者!貴様が悪い!たしかにキマイラを倒したのは認めよう。だがな、あいつらは魔法も使えない脳筋の集まりだ!管理局の一級魔導師と比べる方が方がおかしい!というか、ゼストの時もそうだ!あの時の忍者の役目は陽動であり姉の話しも聞かずに……」

「いや、それはだなぁ……」

「僕も反対……僕のレイストームさえ解除出来ないのなら、バインドされたら終わりだよ」

「うぐ……」

思い出すだけで頭が痛くなる思い出。
皆をなんとか宥め、すかして、丸め込むのに多大な労力を要した。

ホテルアグウスタ、オークションパーティー。

セレブを対象として行われるそれに、レリックが出品される。

会場内に入ってもセインの表情は暗かった。

「なぁセイン」

「なによ……」

「俺にチャンスをくれないか」

彼女の手を握り締め、瞳を見つめながら力強く言い放つ。

「当たらなければ、どうと言うことはない」

「ばっ!馬鹿じゃないの!?そんな事出来るわけないよ」

「見もせずにそんなこと言うな」

「見なくても分かるよ!いい忍者!管理きょ……「セインっ!!」きゃっ」

怒声に驚き涙目になるセイン。

「……驚かせてすまない。だが、一回だけで良い。チャンスをくれ。この大言壮語が嘘かどうかを見極めくれ。それになセイン……」

「ぐすっ……なによ」

「もし失敗してもお前がいる。お前が助けてくれるんだろ。だから俺は安心して戦える」

臭いセリフなのは理解している。理解はしているが、言わなければ彼女は納得してくれないだろう。

「俺はお前を信じている。だからお前も俺を信じてくれ」

恥ずかしさを押し殺しつつも嘘偽りのない本音を吐露する

「……馬鹿……忍者の馬鹿……助ける決まってるでしょ……馬鹿ぁ」

泣きながら束音に抱き付くセイン。
そんなセインを優しく抱きしめる束音。

二人だけの世界。
しかし、現実的にはそんな世界はありはしない。


「ほっほっほ、運が良いの色男。周りに野次馬が少なくて」

束音と同じくタキシードを着込んだ老人が、笑いながらそう告げる。

「…………え゛っ!?」

そこで束音はここが会場である事を思い出した。

周りの人達がこちらを見ながらニヤニヤしていることに。
そして、セインはまだ泣きながら抱き付き現状に気付いてないことに。

「…………」

オークション開始までまだ時間はある。

束音はセインを連れて逃げ出した。

……

sideepisode〜決意〜

「「「……………………」」」

ノーヴェですが待機組の空気が最悪です。

暇なのでモニターを通して会場内の忍者達を見ていたのがそもそもの間違いであった。

セイン姉を説得する忍者は男らしく、とても好感が持てた。持てたんだけど……

底光りするクア姉の眼鏡。

スティンガーでジャグリングを始めるチンク姉。

拾った小枝で地面を突ついているオットー。

忍者……お前の男気は認めてやる。
だけど帰ってきたら一発殴らせろ。

新たな決意を胸に秘め、ノーヴェは待機を続けた。

……

「わぁ〜あのネックレス綺麗だね」

「そうだな。シンプルな割に上品だよなぁ……ってなんだよあの開始価格は!家が一軒は建つぞ」 

セレブ達のオークション。

忍者達に払える金額などゆうに超えているので、二人は冷やかし半分で商品を見つめている。

「おっ!あの剣は良さそうだな」

「うん、忍者に似合いそうだよ。……ってなによあの値段。ガジェットが一個大隊量産出来るよ」

「……ガジェット一機で幾らなんだよ?」

火花削る値段の釣り上げや。
誰にも入札されずに失笑されて下げられていく商品。
要所要所で入る司会の絶妙な合いの手。

「ねぇ……忍者」

「ん?なんだ?」

「楽しいね」

「そうだな」

「さっきはいっぱい泣いちゃったけど、でも折角のパーティーなんだもん。夢だったドレスも着れたし、やっぱり楽しまなくっちゃね」

「そうだな」

「あっ……ん……」

軽く引きよせて頭を撫でる。
猫のように気持ちよさそうに目を細めるセイン。

近づいた彼女にそっと告げるように囁く。

「……随分と安上がりな夢だな」

あまりの暴言に細めていた目を開くセイン。

だが束音は気にも止めずに言葉を紡ぐ。

「そんなに安上がりなら俺が叶えてやる。飽きるほどパーティーに連れてってやし、ドレスだって着れないほど用意してやる」

「忍者……」

「だから……」

「うん……」

「楽しみに待ってろ」

「うん……うん……」

「だから……これが最後みたいな言い方はよせ」

瞬間、セインの体が固まった。

セイン、いや姉妹全員が持ち合わせている諦観。

勝てるはずのない戦い。

管理局にたった十数人で挑む愚かさ。

逃げようか。と考えたことはセインに限らず、全ての姉妹が考えたこと。

それでも、生みの親たるジェイルは戦う姿勢を崩さず、さりとて、それを彼女達には強要せずに

「逃げたければ逃げても良いんだよ」

と四六時中言い聞かせた。

それだけではなかった。

長期の潜入任務につき渡された明らかに多すぎる費用や偽造身分証の数々。
そのまま逃げても生活には困らないだろう。

言外に告げられている意味。

任務を終えて帰還をすると、真っ先に出迎えてくれるジェイル。
その寂しそうな、それでいて嬉しそうな顔。

そんな顔をする親を見捨てることなど彼女達には出来るわけもなかった。

暗い未来が決まっているのならば、今を精一杯楽しもう。

十人十色な姉妹達。
性格や思考には様々な違いこそあれ、この一点においては共通事項であった。

しかし束音は、明るい未来を語ってみせた。

何も知らない第三者の軽い言葉ではない。
現状を全て知った上での言葉。

その力強い言葉がセインの胸に暖かく染み渡る。

涙が止まらない。
折角泣きやんだのに、
折角楽しもうとしたのに……

嬉しくて、嬉しくて、涙が止まらない。

「なんども……泣かすな……馬鹿ぁ……馬鹿忍者……」

「馬鹿馬鹿言うな、自覚はしている」

「馬鹿忍者……大好き……大好きだよ忍者」

「ああ、俺もだ」 

ここで一つのすれ違いが生じた。

セインの好きはloveであるが、束音の好きはlikeであった。

このすれ違いがなにを生むのか……

……


sideepisode〜さらなる決意〜

「「「……………………」」」

ノーヴェですが待機組の空気が最悪です。

モニターを切りたいのですが、三人の無言の圧力に負けて、継続したのがさらなる間違いだった。

セイン姉を男らしく口説いた忍者にはとても好感が持てた。
持てたんだけど……自重しろ馬鹿!

髪をほどき、眼鏡を外した決戦仕様のクア姉。

数が三倍に増えたチンク姉のジャクリング。

ポキリポキリと小枝を折るオットー。

忍者……お前の漢気は認めてやる。
だけど帰ってきたらいっぱい殴らせろ。

さらなる決意を胸に秘め、ノーヴェの待機は続く。

……

すんすんと泣くセインを胸に抱き寄せながら会場を見渡す。

先ほどとは違い、周りはオークションに集中しており、こちらには気付いていない。

壇上に上げられる品々、そろそろレリックの出番が来る。

心地良いセインの体温を感じながらも、来るべき瞬間に備え、束音はいつになく高揚していた。

そんな束音の頭の中によぎる一つの疑問。

「おっ〜と!あちらのお客様がまたまた落札されました」

先ほどから、競売品を落札しまくって、ドヤ顔をしている人物。

あれ……ガリューだよな。





皆さん、セイン分補給してますか?








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