舞い散る刃風と爆炎の中、眼前に迫る大槍の煌めき。

ときに大蛇のようにうねり、ときに閃光のように視認すら許さない速度で突き出される大槍。

我ながら今まで良くかわせていたものだ。

しかし、それもこれまで、眼前に迫る刃を回避するべき方法はない。

目玉の一つは覚悟せねばなるまいか……

刹那の時が、ゆっくりと流れる。体は動かないが、思考だけだ疾走をする。

痛いのかな……嫌だな……



視界が赤く染まる。

咽せかえるほど鉄の匂いが鼻に付くも、痛みが来ない。

痛覚にエラーが出たのか。

恐る恐る瞳を開けると、黒く大きな背中。

「間に合った。怪我はないですか」

優しい声が降り注ぐ。

「にん……じゃ……?」

安堵に染まる瞳が姉を包み込む。

姉が無事だったことに心底喜んでいるのが分かる。

だが……

優しげな顔から微かに聞こえる息切れと歯軋り。
そして、腹部を貫いている大槍。

「どうしましたチンクさん?」

無理をしている優しい笑顔に優しい声音。

そのどれもが姉の……

姉の……
























勘にさわる。

あんなに無鉄砲な馬鹿者を誰が放っておけるものか!

だから、姉が面倒を見なくては。











裏・竜魔武芸帳改め魔法使いを回避せよ。その5




み゛ーんみ゛ーん

「最近は猛暑が続くから洗濯物が良く乾く」 

燦々(さんさん)と照りつける太陽と蝉時雨の下、洗濯物を干しているジェイル。


「…………で、忍者。君は日光浴をしているのかね?それとも干されているのかね?」

「…………その発想はなかった」

屋上の給水塔にスティンガーで貼り付けられている忍者。

今日も暑い一日が始まる。

……

「ふむ……セインに修行をつけていたら、ムラムラしてしまい、押し倒した所をチンクに見られて貼り付けられたと」

「全然違うわ!滑って転んだ拍子に押し倒したような形になっちまったんだよ」

「そうなのかね?先ほどセインが、忍者に情熱的に押し倒されて〜とニコニコと皆に話していたがね」

勘弁してくれ、誤解だ!と叫ぶ忍者。

正直な話、私が勘弁してもらいたい。


先ほどの居間での光景を思い出す。

ノロケるセイン。

額に青筋を浮かべるチンク

俯いて顔色が分からないオットー。 

口元に笑みを浮かべてそんな三人をからかうも眼鏡の奥に剣呑な光を浮かべるクアットロ。

それらが程よく絡まり科学反応を起こして、小規模な台風が発生。

ジェイルの頭に醤油と酢とラー油の瓶が直撃、頭から即席の餃子のタレを被る羽目となる。

おまけに見事なたんこぶまでこさえてしまった。

お陰で変な時間にシャワーを浴びて服を洗濯することになった。

余談ではあるが、タレまみれのジェイルを見て、胸を高鳴らせてしまったウーノ。

心の奥底で、かぷりとしたいと思ったのは彼女の最重要秘密事項となったのは言うまでもない。

またそんな彼女の心の内を唯一見抜いたガリューは、チョコレートソースとホイップした生クリームをそっと手渡し、彼女の新たな世界を広げる事に深く貢献をした。

……

「まぁいい。それよりもスティンガーを……」

「抜かない方が良い。抜いたらボンだ」

「ISまで使っているのかね」

「ああ、今日一日ここで頭を冷やせだそうだ」 

服がボロボロだ、と愚痴る忍者。

器用に衣服のみを貫いたチンクの技量を誉めるか、ISまで使用した事を怒るか……

み゛ーんみ゛ーん

「……暑いね」

「……夏だからな」

み゛ーんみ゛ーん

「頭は冷えそうかね」

「……冷えると思うか」

「……後で、冷たいジュースを持ってこよう」

「ありがたい」

とりあえず、忍者の心配をする事にしたジェイルであった。

……

「機動六課?」

「そう機動六課。あの八神はやてを筆頭に、高町なのは、フェイト・T・ハラオウンなどの一騎当千の強者を集めた非常にやっかいな集団だ」
 

「でも管理局なんだろ。裏から手をまわしてどうにかならないのか?」

「評議会の回答は自力で頑張れ……大方、戦闘機人の能力を実戦で知りたいのだろう。分かりやすく噛み砕いて言えば、天然物に養殖品が勝るのか興味津々と言ったところかな」

「そりゃまた……」

言葉に詰まりながら特製の長いストローでジュースをすする忍者。

「評議会は強い力を欲しているのさ。次元世界の平和を維持する為には、強い力が必要なのさ」

「ガキ大将には逆らえない。シンプルではあるが、一番効果的だもんな」

言い得て妙な例えに、笑いをこらえながらジュースを飲むジェイル。

「なぁジェイル」

「なんだい?」

「なぜこんな回りくどい真似を?」

しばらくの沈黙の後、

「戦闘機人も人造魔導師技術も褒められたものではない」

呟くように話すジェイル。

その一言で束音も理解した。

要はお巡りさんが悪事を働けないのと一緒であり、しかし力がなければ治安維持が出来ない。と言った所であろう。

「現在の管理局の主力は天然の魔導師。ゆえに管理局は人材発掘に躍起になっている。付け加えれば、次元世界は広過ぎる。管理局はいつだって人材不足なのさ」

「だから、安定した力と数を揃えられる養殖品に魅力を感じているのか」

「ご明察。後は実戦データを取るだけ。評議会も気合いを入れているのかな。相手は一級の天然物……一部養殖品もあるけど、揃えてきたよ」

「機動六課だっけ?やっぱり強いのか?」

「……ガジェットが一個中隊ほど潰されたよ。勝てるとは思っていなかったけどね」

映し出された映像には、銃や拳や槍や魔法で次々とガジェットが鉄屑にされている。

「たしかに凄まじい光景だが、この程度なら、俺やナンバーズでも」

「彼等は六課の新米であり、これが初陣だそうだ」

新米、初陣、その単語を聞いて束音も渋い顔をする。

「新米の初陣でここまでやれれば上出来過ぎる。しかもこいつらの年齢からすれば伸びしろは腐るほどありやがる」

こう言った相手は育つ前に叩くに限る。
と零したあとに、なんでそんな事を当たり前のように知ってんだ。と悩む束音。

「先にも述べたように、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやてとその守護騎士、ヴォルケンリッターは彼等と比べれば格段に強い。いや次元が違うと言っても差し支えがない」

ジェイルの手が微かに震えている。

「だからと言って逃げることは出来ないのだろ?」

「出来たら苦労はしないよ」

「お役所勤めの悲しさだな」

そんなジェイルの恐怖を見取って、ことさらにおどけた返し方をする束音。

「ははは、たしかにそうだな。お役所勤めの辛さだね。ははは」

そんな束音に釣られるように笑うジェイル。

互いに笑いあったあとに、束音は切り出した。

「……この戦(いくさ)。どう転んでも、あんた達に明るい未来が無いようにしか思えんのだが……ジェイル、お前が唯々諾々と破滅への道を進むとは思えない」

束音は今まで抱えていた最大の懸念を零した。

仕組まれた事、逃げられぬ事とはいえ、管理局に喧嘩を売った。

「なにを目指して走り続けているんだ、ジェイル・スカリエッティ」

だからこそ、束音はジェイルに問うた。
友の考えが知りたかった。

束音の真意がジェイルに伝わったのだろう。

「娘達の幸せかな」

「幸せか」

「そう、幸せ。娘達の幸せを願わない親はいないだろ」

力強く言い切ったジェイル。
そんなジェイルがただただ眩しく見える。

「その為には、なんとしても確保しないとね」

「なにを確保するんだ?」

















「レリックと聖王」










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