そう、
いつの間にか
あなたは
私の世界のすべて
………
……
…
「……ぷにぷに」
「ええい、つつくんじゃない。ちみっ娘」
ぷにぷにぷにぷにぷにぷに
「誰か助けてくれぇぇぇ!!んが、……だから木の枝でつついちゃ駄目ぇぇぇぇー!!」
「にや」
「……なにをしてるんだね忍者、オットー」
呆れたように声を掛けてくるジェイル・スカリエッティ。
目の前には、地面から顔だけ出して埋まっている束音と、そんな彼を木の枝でつっついているオットー。
今日も、ジェイルの秘密基地は平和です。
裏・竜魔武芸帳改め魔法使いを回避せよ〜その4〜
「なるほどなるほど。チンクとデートしたのがセインにバレて沈められたと」
「デート違う、買い物だ買い物。以前、彼女のコートを駄目にしてだな」
「だからそれをデートと呼ぶと思うんだがね……」
やれやれと肩を竦めるジェイル。
「で、オットー。君はなにをしているのだね」
「忍者のほっぺ、ぷにぷに」
「そうかそうか、それはよかったね。ほら、晩御飯が出来たから手を洗っておいでなさい」
「…………うん」
名残惜しそうに忍者を見つめ、最後の駄賃とばかりに突っついて去っていくオットー。
「……なぁジェイル」
「なんだい忍者」
「あの娘もお前が開発したんだよな」
「……まぁ……ね………」
「…………………そうか」
「………………深くは聞かないのかね」
「…………………夕日が綺麗だな」
「………………ああ、綺麗だね」
カァーカァーと遠くでカラスが鳴いていた。
ナンバーズ[・オットー。
中遠距離戦闘支援を目的とし開発される。
IS『レイストーム』は攻撃から捕縛も出来る万能攻撃である。
短めの髪に一人称は「僕」であるため男の子と思われがちだが、立派な女の子。
体型はチンクにとても良く似ているがチンクよりもさらにスマート。
ガリュー曰わく
『我々の業界ではご褒美です』
とのこと。
「……チンク姉、食事のときくらいコート脱いだら」
「せっかく忍者が姉の為に買ってくれたのだ。姉の為だけに。だからこうして感謝の意を示しているのでな」
「っ……こっ……これだからチンク姉は……体が子供なら、考え方も子供なんだね」
「っ!……ふっふん、姉はまだ成長するから良いのだ。いずれウーノ姉様達みたく立派な体に成長するのだ。胸だけ子供なセインには言われたくないな!」
忍者ですが食卓の空気が最悪です。
竜虎相打と言うよりも、モグラ(セイン)とリス(チンク)の喧嘩。
ジェイルを筆頭に、他の面々は、素早くおかずを持ち運び新しいちゃぶ台に移動。
我関せずと黙々と食事を取る。
一部……ガリューがどちらが勝つかと賭の胴元を始め、ウェンディがお小遣いを全額賭けたり、クアットロがニヤニヤとデジカメで撮影したり、
「忍者、婚約者の私にはなにも買って……モガモガ」
「ルーテシア、忍者のHPはもうゼロだ。これ以上の追撃はやめるんだ」
無自覚に無情で無慈悲な追撃を行おうとするルーテシア。
それを寸でのところで止めるゼスト。
あと変わったところで言えば、ディードがなぜかメイド服を着込んで皆の給仕に回っているだけだった。
ちなみに当事者の束音は二人に挟まれていて逃げ出せなかった。
幸いなことに、二人は口論に夢中になり、口論の当事者である忍者の存在を忘れていた。
だが、二人の距離は近く、逃げ出そうと体を動かせば気付かれてしまう。
こうなった以上、気付かれぬように体を丸めて嵐が通り過ぎるのを待つしかない。
ツいてねぇ……と思いつつ頭を下げると、オットーと目があった。
いつの間にちゃぶ台の下に潜り込んだのか?いつの間に俺の股ぐらにいたのか?
咄嗟の出来事に思考が追いつかず、ポカーンと口を開けてしまった。
「忍者、あ〜ん」
「んがっ!?」
こちらの返事などお構いなしに、股下から閃光のように、割り箸に突き刺された唐揚げが口の中に飛んできた。
「おいしい?」
「…………美味い、美味いよオットー。でもな、『あ〜ん』はあんなジャブみたいな速度で出しちゃ駄目だぞ」
「ぷにぷに」
「こら、ちみっ娘。話聞いてんのか?お箸で人を突っついてちゃ駄目だぞ」
「忍者」
「華麗にスルーか、ちみっ娘。ええい!だから突つくな」
「好き」
「はいはい、好きね好…………へっ!?」
「僕、忍者が好き」
「はっ?へっ?」
「でも今日はもういい。また明日やるね。バイバイ」
ちゃぶ台の下から抜け出して、タタタタッーと去っていくオットー。
「……なんだったんだ一体?」
首を捻るも顔が少しにやけてしまう束音。
ちょっと、いやかなり不思議でズレている娘ではあるが、好きと言われて悪い気はしない。
「ねぇ忍者……」
「姉達もぷにぷにしていいか」
両頬に突きつけられる冷たい鋼。
「おっおおぉお落ち着け、落ち着けセイン、チンク。そんなもので突っついたら辺り一面血の海に」
「だ・ま・れ♪」
「ロリコンなのは大いに推奨するが、姉以外に目が行くのは許容出来んな」
「\(^o^)/」
「オットー」
「ドクター?」
部屋に戻ろうとするオットーを追い掛けて呼び止めるジェイル。
「その、なんだね……オットーは忍者の事が好きなのかね」
先ほどのやりとりを聞いて、もし本当なら、彼女もナンバーズ計画……ジェイルに万が一があった場合に備えて、ナンバーズを母体としてジェイルのクローンを宿す計画……から除外しようと考えていた。
と言うよりも、ジェイル自身はこの計画には反対の立場であった。しかし評議会からの要望であり、なにより、
「素晴らしい案ですね。是非実行いたしましょう。ただし妹達になにかあったら大変です。まずは、長女として私がお受けいたしましょう」
と、ウーノのごり押しにより可決された。
――その際に小声で、『責任』とか『認知』とか物騒な単語をウーノは呟いていたが、幸か不幸かジェイルは聞き逃してしまった。
ウーノが被験者になった為に、他のナンバーズに関しては彼女達の意思を尊重するとした。
しかしジェイルとしては、何かにつけては他のナンバーズに計画の叛意を促している。
ゆえに先ほどのオットーの発言を聞き、これ幸いにとオットーに話し掛けた。
「うん。好きだよ。僕は忍者の事が好きだよ」
「そうか、なら……」
「ナンバーズ計画でしょ。僕もセイン姉やチンク姉と同じく拒否するよ」
その一言が聞けてホッとする。肩からまた一つ荷が降りた気分になる。
「そうかそれは良かった。ところで忍者のどこに惚れたんだい」
肩の荷は降りた。降りたはずなのに、違和感や重圧がのしかかる。
「一目惚れ。初めて忍者を見たときにビビっときたんだ」
それを誤魔化すように軽口を叩く。
「でも忍者は倍率が高いぞ」
「倍率?ふふ……問題ない」
重圧が増す。背筋に嫌な汗が流れる。
「セイン姉さんもチンク姉さんも忍者に甘え過ぎ。端的に言うと直接的過ぎる」
食堂から聞こえる忍者の悲鳴。
「二人の板挟みの果てに疲れ切った忍者は癒やしを求める。そこで僕が癒やしてあげる……心も体も」
ニタリと嘲(わら)いながらオットーは続ける。
「でも忍者は奥手。だから、女性としての僕を意識させないように、距離を詰める必要がある。その際に、セイン姉さんかチンク姉さん、出来れば二人を同時に怒らせるとなお良い」
食堂から聞こえる忍者の断末魔と「うわーお小遣いスッたっすー」 というウェンディの悲鳴。
「忍者は来るよ僕の所に」
「なっ……なぜその話を私に……」
「ドクターはマッドだけど僕達の事を真剣に考えてくれている。だから僕も真剣に答えただけ」
だからドクターは裏切らないよね。
目の前で謳うようにさえずるオットー。
どうしてこうなった。
と脳内で、開発段階から現在の教育方法まで高速で見直すジェイル。
今日も今日とてジェイルの秘密基地は通常運行でした。
side〜クアットロ
焼き魚をついばみながら、床に倒れ伏す忍者を見て思う。
ナイスですわ、オットーちゃん♪
でもね、あなたの行動では癒やしにはなるかもしれないけれど、女性として見られことはないわ。
だから、私(わたくし)が奪って差し上げますわ。
クアットロの脳裏を掠める、『あの出来事』
羞恥心で顔が真っ赤になりそうになる。
そう……
絶対に、絶対に許しませんわ。
あんな恥を私にかかせて!
一生を掛けて償わせてやりますわ。
覚悟しなさい……忍者♪
了
本音を言えば、束音のヒロインはメインにセイン。サブにチンク、オットーと、ある意味片寄った仕様となる予定でした。
しかしまさかのクアットロの参戦。
なぜ参戦させたのか?それは犬吉さんが、クアットロのエロ話があるからとおっしゃられたからです。
だから、次回の話は犬吉さんに任せますか。おや?誰だこんな時間に……
作者さんへの感想、指摘等ありましたら投稿小説感想板、