この作品は鬼丸さんの作品、ケイスケの機動六課の日々とIFなのはシリーズを見た後に読むことを強く推奨いたします。












アキレス腱。
踵から、ふくらはぎにかけての筋肉の名称。
別称として弱点としてもあげられる。

由来を語れば歴史と神話の話になるが、太古の昔に起きた戦争『トロイア戦争』において活躍する英雄アキレウス。
彼は幼少時代、自身を不死身にするために冥界に流れる川の水を浴びた。
だが、川の水を浴びるさいに、母に踵を抱えて貰っていたため、踵には水を浴びることは出来ず、そこだけは不死にはならなかった。
結局、トロイア戦争においてアキレウスは獅子奮迅の活躍をするものの、踵を射抜かれて戦死してしまった。

つまり、何が言いたいのかと言うと、どんなに強くて強大な存在であろうとも弱点があると言うことである。


―御神流―
素手の北斗、剣の御神と呼ばれる程の名高い暗殺剣。

その暗殺剣を修めた剣豪、高町恭也に関する二つ名は多い。

「チート乙」

「テラ厨二」

「シリーズ人類失格」

「剣術ってレベルじゃねーぞ」

などなど。 
上記4つの二つ名は彼の身体能力と御神流の凄まじさを語る上では欠かす事が出来ないものである。
そうした、強さ以外にも彼の二つ名は多い。 

「一級フラグ建築士」

「歩くフラグ製造機」

「それなんてエロゲ」

見て分かる通り、彼はモテた。非常にモテた。 
年下、年上、同年代は言うに及ばず、人外にもモテた。


「蛙の子は蛙」


こんなことわざがあるが、そのことわざ通りなら、彼の父、高町士郎もそうでないか? 

事実、高町士郎は大いにチートで大いにモテた。

そんな彼がなぜ、当時パティシエだった桃子とゴールしたのか?

暗殺者兼ボディーガードと菓子職人では、接点が無さ過ぎる。


―桃子―

パティシエは一種の芸術家であると私は考えている。

どんなに美味しい物でも見た目が悪ければ、誰も食べはしてくれない。
特にお菓子などはそうだ。

美味しいのは当たり前、美味しそうにも見せなければならない。

要は見た目。感性の問題。 

自分で言うのもなんではあるけど、私は味覚も感受性も豊かであると自負している。
もちろんそれにあぐらをかくような真似はしない。

修行の場を海外に求め、味覚と感性に磨きを掛ける毎日。

そんな日々をおくるなかに私達は出会いました。

お客様として。

海外で出会った日本人。それに士郎さんの人当たりの良い性格も相まって、彼と打ち解けるのは早かった。

ううん、早いなんてものじゃない。
いきなり口説かれた。

普段の私なら絶対に断る。

いくらなんでも、会った初日になびくほど私は尻軽ではない。

断ろう。

気持ちは固まっている。
だけど、その決定に五感の全てと、一番重要視している感性までもが異を唱える。
大好きなお菓子を作る時でさえ、ここまでの高ぶりを覚えたことはなかった。

「俺専属のパティシエになってくれないか」

そう情熱的に口説いてくる士郎さん。私は本能に従うままに……


「そこから先は言わなくても分かるでしょ」


「いや……なんつーか、ご馳走様です」

ことの始まりは、ヴィヴィオが翠屋のシュークリームが食べたいと言い出したのがきっかけ。

なのはさんと三人で翠屋に行くことになった。

で、ヴィヴィオがシュークリームを食べ過ぎてお腹を壊してしまい、なのはさんと一緒にトイレに。

お店には俺達以外の客がいなく、桃子さんと2人っきりになってしまったので、場の繋ぎの為に話を振ったのが始まりだった。

頬を赤らめて、馴れ初め話をしてくれる桃子さん。

本当にご馳走様です。

「……っと、いけない、洗濯物を干さなくちゃね。ケイスケくんはゆっくりしててね」

奥に引っ込んでいく桃子さん。入れ替わるように現れる士郎さん。

「おや、いらっしゃい」

「お邪魔してます」

うららかな午後の日差しの射すカウンターでコップを磨く士郎さん。

大人しいそうな……なのはさんが絡むと豹変するが……武人特有の落ち着いた渋みのある人だ。

そんな人が、初対面の人を情熱的に口説き落とすなど想像も出来ない。

桃子さんが気に入ったと言えばそれだけの話ではあるが、いまだにヴィヴィオ達も戻らず、男2人で黙っているのも芸がない。

「さきほど、桃子さんにお聞きしましたが、随分と情熱的だったそうですね」

「ん?なんのことだい?」

「いえ、お二人の馴れ初め話をお聞きしまして」
随分と情熱的だったようですねとからかい半分に茶化す。

ケイスケ自身、話を振っておいてなんだが、深く聞くつもりはなかった。ただ、なんとなく沈黙に耐えられずに話を振っただけである。

照れるか、ノロけるか。どちらかであろうと思っていたが、士郎さんの反応は違った。

「……ケイスケくんは、なのはと付き合っているんだよね。なのはのことをどう思う?」

真剣な顔付きに固い声。
怒ったのかと思うも、質問が唐突な上に見当違い過ぎる。

第一に一番、彼氏として一番答えにくい質問だ。
どう答えたものかと頭を捻るが、こちらの返答を待たずに士郎さんは、言葉を重ねる。

「いや、これはこちらの言い方が悪かった。娘のボーイフレンドには答えにくい質問だったね」

「いやっ……」

「今から言う話は他言無用だよ」

辺りを気にしながら、重々しく呟く士郎さん。

俺は無言で頷くしかなかった。

「ケイスケくんは私……いや、私達一族の流派は知っているよね」

「深くは知りませんが、ある程度のことは」

「少し、自慢話にはなるが、私自身も昔は相当に腕に覚えがあってね。適材適所と言うわけではないが、色々な修羅場に顔を突っ込んだものだよ」

静かに天井を見上げる。在りし日の事を思い出しているのか。 

「銃が主流の戦場で、剣を頼りに戦うんだ。自然と気配を敏感に察知する術に長けていったよ」

事も無げに言っているが、平たく言えば音速で迫る攻撃を回避しているのだ。
尋常な察知能力ではない。

「仕事柄、多くの国を渡り歩いていたんだが、とある国に入国してから、しばらくして、ずっと……それこそ四六時中監視されているような気配がしたんだ」

「されているような?」
「気配の元を辿っても、誰も居ないんだ。いや、辿るというのは語弊があるな。間近で……そう、手を伸ばせば触れられるような距離から監視されているような感覚だったよ」

透明人間の存在を本気で信じかけたよと苦笑する士郎さん。

「見える敵なら戦える、聞こえる敵なら近づける……でも見えず聞こえず、気配だけ。こんな商売をやっていたんだ、死ぬ覚悟出来てはいるが、だからと言って死にたい訳でもない。随分と精神的に病んだもんだよ」

「士郎さんがですか……」

想像が出来ない。

「まぁ、そんなときかな。朝起きたら無性に甘い物が食いたくなってな、街に出掛けてわけだよ。そこで……出会った」

ここから先の展開は誰もが読める。
疲れている士郎さん、そこで出会った桃子さんに癒やして貰うという展開。 

ノロケばなし。 

なのに、士郎さんの声はさらに硬さを増し、周囲を気にすらしている。

「桃子から聞いたと思うが、おかしいと思わないか」

「なにがですか」

「会った初日に本気で口説いた上に、桃子に到っては了承までしたんだぞ。君の目から見て、私達はそんな人間に見えるかね?」

たしかに……桃子さんの話を聞いたときは、自分自身で思っていたではないか。想像も出来ないと。

「付け加えるなら、こんな商売をしているんだ。恨みならいくらでも買っている。事実、私は助かったが一族郎党を爆殺されたこともある。だから、女と遊ぶことはあっても本気にはならないように戒めてきた。いや……私だって人間だ。そうと決めても心のどこかで自分の伴侶を探していたのかもしれない」

だが、と言葉を区切り、

「だからと言って、初対面の人間をこちら側に本気で引っ張り込むなど、正気の沙汰ではない」

先程の話より、よほど想像しやすく、理にかなっている。

「でも……」

「ああ、桃子を抱いたよ。その日にな。今思い出しても、どうかしていた。たしかに桃子は魅力的だし、私の好みだ。だが、あの日の桃子は……」
魔性の領域だった……

絞り出すように呟いた。

士郎さんは頭をふり、俺を見る。

「ケイスケくん、魔力とは遺伝するものなのかね?」

「えっ?あっ、はい。遺伝はします。ただまれになのはさんみたいな突然変異もあります」

遺伝で言えば、ハラオウン家、突然変異と言えば部隊長やなのはさんがその身近な代表例ではないだろうか。
あとは人工的なフェイトさんやエリオみたいな例もあるが、これは例外中の例外な上に犯罪だ。

「それだよ。君もなのはも私も……いや、管理局の皆も勘違いしているのかもしれない」

「勘違い?」

「蛙の子は蛙……桃子は魔導師なんじゃないのかな?」

「それは……」

確かにそうだが……いや、いくらなんでも……肯定と否定。情報が頭の中を錯綜し、口ごもってしまう。

「他にもある……全て私の推論だが、聞いて貰えるかね」

俺は黙って頷くことしか出来なかった。


その1
―PT事件、闇の書事件における対応― 

桃子は子煩悩だ。
なのははもとより、連れ子である恭也達にも深い愛情を持って接してくれた。

そんな桃子がなぜ、なのはを戦場に送り出した?
理由はなのはの決意を知り納得した……理解のある立派な母親だ。

だが、その理屈は今のなのはにこそ通用するものであり、当時の小学生だったなのはには通用するものではない。

たしかに、管理局においては、なのはぐらいの年の子が前線に出て戦うのも珍しくないと聞く。
クロノくんが良い例だ。

だが、それはそういった環境で育ったからと言う訳の話だ。

日本人の一般的な意見を言わせてもらえれば、いくら娘が稀有な才能を持っていたとしても、娘をましてや、小学生を戦場に送るなど考えられる事ではない。

付け加えるなら、非殺傷。
娘の手が血で染まることなど望んではいないが、戦場において、相手を殺さないなど……私の意見を言わせて貰えば正気の沙汰ではないよ。

なのに桃子は娘の背中を押した。

荒事が苦手で、子煩悩な桃子が堂々と。

そして、その姿を見た私も恭也も美由希も反対せずに後押ししてしまった。
いや、『反対する雰囲気さえ生まれなかった』いくらなんでもおかしくないか!


その2―桃子の美貌―

桃子は美人だろ。
それに物凄く若作りだ。ケイスケくんも一度なのはのお姉さんと勘違いしたみたいだしね。

リンディさんやレティさんやミゼットさん、皆、美人で若作りだね。

いや本当に皆さん物凄く若作りだ。

……女性の美に対する追求というものは凄まじく、昔も今も国境さえも関係ない。

ありとあらゆる手段を講じてきた。

どうやらそれは、次元の向こうでもそうみたいだね。

魔法を使って若作り……いささかファンタスティック過ぎる話だけど、現になのはは魔術師だ。

空を飛んだり、光線を出すんだ。

なら、そんな魔法があっても不思議ではない。いや、人間の欲という観点で考えれば、空を飛んだり、光線を出すことより遥かに需要度は高い筈だ。

さて、ミッドチルダ生まれの魔術師であるリンディさん達の美貌と日本生まれのパティシエの桃子の美貌。


以上の2点を踏まえた上で、ケイスケくんは言ったよね。

魔力は遺伝すると。

なのはは、物凄く稀有な魔力の持ち主なんだよね。 
たしか……潜在的にはSないし、SSランクはあるとか……しかし、恭也も美由希には魔力のカケラも見当たらない。もちろん私もだ。

要は、魔力がゼロの男との間に産まれた娘がそれだけ凄まじいと言うのなら、桃子の魔力はどれくらいなのかね? 

最低でもSSSランクは確定ではないのかね。というかそれ以上のランクはあるのかね?

ともかく、それほどの魔力の持ち主だ。管理局の事を知っていた。ないし、ミッドチルダ生まれなのかもしれないな。 

ならば、なのはを戦場に送ってもおかしな話ではない。それに、いざとなったら自分が戦えば良いだけの話だからね。

若作りの件も簡単に説明がつくな。

………
……

「まぁ、これは全部私の推察。根拠なんてないさ。ただ……ケイスケくんに聞きたいことがある。魅惑の魔法や遠見の魔法といったものは存在するのかな」

「……存在します」

「そうか……」

「士郎さんは……」

「なにがどうあれ、私は桃子を愛しているさ。今までも、そして、これからも」

「……」

「桃子はパティシエになる夢を捨ててまで俺に付いてきてくれた。それだけは動かし難い事実なんだ。ケイスケくんに聞いたのは、長年歯に詰まっていた物を取り除く為だよ」

話疲れた、甘い物でも食べようかと、シュークリームを出してきた。

ぬるくなったコーヒーを飲みながらシュークリームを食べる。

疲れた脳に糖分が行き渡る。

少し、気持ちが弛んだところで、士郎さんが口を開く。 

「なのはは桃子の血を色濃く受け継いでいるよ。さて、それを踏まえてもう一度、ケイスケくんに質問だ。なのはのことをどう思っているのかね?」

瞬間、甘くて美味しいシュークリームの味が消えてなくなった。

「人生の墓場に入る覚悟を決めているのなら良いが、君はまだ若い。まだまだ遊びたい年頃だろう。ハメたつもりが実は嵌められていたでござるの巻き。では哀れ過ぎるからなぁ」

危うくシュークリームを吹き出しかけた。
見れば、士郎さんの目元はニヤニヤしている。

「……娘の彼氏に言うセリフじゃないっすよ」

ジロリと睨むがどこ吹く風。

「なに、君からふっかけて来たんだ。これくらいの反撃は予想したまえ」
そう、笑いながら言う士郎さんの顔は晴れ晴れとしていた。


―桃子―

微笑みながら、庭で洗濯物を干す桃子。

「私は桃子を愛しているさ。今までも、そして、これからも、かぁ……ふふ」

翠屋の構造上、店内の会話が庭にまで届くことはまず有り得ない。

よほどの大声で話すか、盗聴器を使う。または、特別な“なにか“を使用しない限りは聞こえるはずがない。

「でも、士郎さん……その推察では70点ですよ」

私達が結ばれた日……士郎さんは私と初対面と思っていますけど、私はその前から知っていましたよ。

出会いは偶然、私が市場に買い出しに出掛けたときのこと。

金や茶色の髪……白人が主流この国において、黒髪は珍しく、それは、故郷を思い出すには十分であった。

少し気になり、私は彼に近寄った。


一目見て、全身が雷に打たれたように痺れ、心臓の鼓動が激しくなる。

一目惚れだった。

私は見た目や性格からして、おっとりした人と思われやすいが、それは表面的なもので、本来は、行動的……いや即応的と言った方が正しい。

私はパティシエ。
心に浮かんだをお菓子を即座に、現実にしなくては務まらない。
例を上げれば飴細工。 
熱くトロトロに溶かした飴が冷えて固まってしまう前に形作る。

だが、相手は物言わぬ菓子と違って人間だ。

出来ることなら、その場で押し倒してしまいたかったが、万が一逃げられてしまったら元も子もない。

だから、私は熱い思いをグッとこらえて、彼を遠くから観察することにした。

初日――彼は私の視線に気が付いた。
最初は偶然かと思った。でも、どんな角度から眺めても、どんな場所から覗いても、彼は私を探し当てる。
真剣な顔付きで私を見つめる。

こんな事は初めてだ……嬉しい、とても嬉しい。やはり、彼は私の運命の人。赤い糸……ううん、赤い鎖で繋がっている人。

体の奥からドロドロと湧き出る嬉しさと欲求。

もっと知りたい。もっともっと知りたい。

観察する時間が増えた。
高速思考、分割思考。

観察する時間を増やす。
朝起きてから夜寝るまで、もちろん通勤、仕事、食事中、ありとあらゆる時間で観察することを怠らなかった。


2ヶ月――私は、士郎さんの事を色々と知った。
身長、体重、血液型、誕生日、趣味、嗜好はなんて序の口。 
ほくろの数まで熟知している。

そこで分かったことだが、士郎さんはこの国にボディーガードとして来ている。

御神流と呼ばれる剣術を使う凄腕のボディーガードであり、職業上仕方のないことでもあるが、警戒心も強く、洞察力も神掛かっている。

実力差から見れば力押しも、絡め手も不可能。

だが、世の中に完璧、完全と言うものはない。

どんなに凄かろうが、付け入る隙が有る。

士郎さんの場合は御神流ではないだろうかと私の勘は告げている。

銃社会において、剣のみを頼りに戦い抜いているのだ。その研鑽の深さは疑いようがない。

武道を通しての人格形成、我が国では聞き慣れた言葉だ。

即ち、士郎さんの人格を語る上において御神流の教えと言うのは、外す事が出来ないはず。 

御神流……聞いたことのない流派ではあるが、私の“力“を使えば容易いこと。

私は御神流について調べあげ、ついに御神流の弱点を見つけ出した。

御神の剣士がその真価を発揮するのは、大切な人を守るときだということ。
守る為には、自ずから、害意、敵意、殺意といった攻撃的な気配に敏感になっているということ。

ならば、そこを突けば良いだけの話ではないか……ふふふ。

その日は一日中笑いが治まらなかった。


――桃子の考えた策は、厳密言えば策でも何でもなかった。
種を明かせば、自分の思いをストレートにぶつけるだけである。
愛情100%の媚薬入りシュークリームと一緒に。
いかに、御神流が士郎が気配に敏感だからといって、好意や愛情と言った気配までは対象外だ。

好意や愛情で一服盛られるなど、いかに御神流とは言え理外の理(ことわり)である。

付け加えるならば、2ヶ月に渡る観察の結果、士郎の好みは熟知している。桃子は士郎の理想的と呼べる女性になりきっているうえに、魅力を“力“で上乗せした。

初対面の印象と言うのはとても大切である。

士郎とて男だ。
好みの異性が愛想良く近付いて来れば悪い気はしない。

しかるべき用意をしたのち、桃子は士郎が甘いもの……とくに自分が勤めているお店のシュークリームが食べたくなるように“力“を使用した。 

その日、ホイホイとお店に現れた士郎は……

あとは語るまでもないだろう。


洗濯物を干し終えた桃子は、うーんと、ひとのび。

「私も大好きですよ。士郎さん。今までも、そしてこれからも」

呟いた一言は良く晴れた空に溶けていった。








えくすとらステージ・いち


「蛙の子は蛙……と言いますが、あんな凄まじい母親の血を引いてるのが、自分の彼女。そこんとこどう思っとるん?」

「いきなり湧いてくるんじゃねぇよ。ってかなんで、部隊長がその話を知ってるんだよ」

「酷い、酷いわケイスケくん。湧くなんて、人を虫みたいに。あと、話を知ってるのは、盗聴していたからや」

「盗聴とかサラッと言うな!」

翠屋から帰ってきた次の日、上記のように部隊長にいきなり絡まれた。

「まぁ……あれは特殊な例だから……なのはに限って……」

ヤンデレはしないだろう、と強くは言い切れない。

だって根拠がないんだもん。

「だから、まずは検証や」

「……なんか嫌な予感がプンプンしてきたぞ」

……

「と言うわけで日記や」

「なにが、と言うわけで日記やだ!不法侵入にプライバシーの侵害だぞコラァ!」

「ケイスケくんがおるから不法侵入やないな。ノープロブレムや」

「プロブレムだ!百歩譲って不法侵入じゃないとしても、プライバシーは侵害してるわ!」

「さーて、日記にはなんて書いてあるやろ」

「スルーすんな!」

結局見ることになりました。 

や、実は俺も気になってたんだ。内容。 

……

某月某日

体重が一キロ増えていた。
食事制限をして、もっと体を動かさなくては。

でもケイスケくんの手料理は美味しい。

食事制限がしにくくて困るな。


某月某日

ケイスケくんがフローラ曹長とまた揉めていた。
「あなたに彼女は相応しくないわ」

「俺達の関係にとやかく言うな」

二人とも、私の事で真剣になってくれるのは嬉しいが、もっと仲良くしてもらいたい。 

某月某日

ケイスケくんが夜遅く、お酒の匂いを漂わせながら帰ってきた。

付き合いを諫めるつもりはないけど、ヴィヴィオの教育に悪いな。

それとなく注意しておく。

……

「なんやケイスケくんのことだらけやな。いや〜愛されとるな」

いや、まったくもってその通りなんだが、それ以上、内容が至極真っ当な事に、内心安堵のため息が漏れた。

「最近、ネタ……げふんげふん糖分不足やから、もっと摂取しなあかんな〜」

「ネタって言いやがった!」

……

某月某日

ケイスケくんの手料理は美味しい。
最近益々美味しくなってきている。

「一工夫加えたんだ」

と言っていた。たしかにどこかで食べた事があるような味。
う〜ん……どこだろうな?

某月某日

ケイスケくんが、またフローラ曹長と揉めていた。

「このDQN事務員」

「教導隊の人気投票で、ビアンカ空曹に負けたくせして、うるせーぞ」

二人とも、私の事……じゃないけど真剣になっている。なんか蚊帳の外にいるみたいだ。

某月某日

ケイスケくんが、また夜遅くお酒の匂いを漂わせて帰ってきた。

ジャケットをハンガーに吊してあげたら、名刺がポロリ。

「ぱふぱふ屋アッサラーム」

……つっ、付き合いだものね。仕方ないよね。

でも、腹は立つからケイスケくんの寝顔をつねる。

……

「なんや、ケイスケくんもあの店の行くんか」

「え゛っ!?」

「まっええわ、続き続き♪」

「いやいやいや、そこんとこ詳し……ぐはっ」

深々とボディーブローが突き刺さる。

……

某月某日

料理がどんどん美味しくなっていく。
どんどん、はやてちゃんの料理に似ていってる。

一工夫かぁ……一工夫ねぇ……

某月某日

「ほらよ、炎のリングだ」

「あっ……ありがとう……ございますわ」

ぶっきらぼうに炎のリングをフローラ曹長に投げ渡すケイスケくん。

もし水のリングまで取ってきたら、私にも考えがある

某月某日

ケイスケくんがまたまた夜遅くにお酒の匂いを漂わせて帰ってきた。
それと、ほのかに香る香水の匂い。

頭を冷やさせた方がいいのかもしれない。

……

「…………」

「…………」

ガタガタと壊れた洗濯機か小動物か。
体の震えが止まりません。
俺なんかは、この時点でページをめくる力なんてないのに、部隊長はそれでも、震える指に力を入れながらページをめくる。

さすがは、十代で一部隊の長になっただけのことはある。

顔は真っ青だけど。

……

某月某日

ケイスケくんがスバルと……頭を冷やさせないと。

某月某日

ケイスケくんがディードと……頭を冷やさせないと

某月某日

ケイスケくんがフェイトちゃんと……

某月(以下略)

ケイスケくんがはやてちゃん、ヴィータちゃん、シグナム、シャマル、ティアナ、キャロ、シャーリー、オーリスさん、トーレ、オットー、ディエチ、エリオと……頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭頭冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと冷やさせないと。

……

日記を閉じる。

「……あーケイスケくん」

「なんでしょうかぶたいちょう」

「セリフが全部ひらがなになっとる気持ちはよー分かるけど、気持ちをしっかり持つんやで」

「もてるわけないっす。だいいち、なんかおかしいのがはいってますし」

「エリオくんね。なら問題なしや。六課の時から、ケイスケ×エリオかエリオ×ケイスケでよく皆で熱く議論したものやで」

「なに議論してんだ、てめぇらは!」

「おっ!戻った戻った」
「はっ!?……部隊長、まさか、その為にわざと……」

「いや、エリオの件はマジやけどな。そんなことより、日記戻してはよ」

「頼むから、一発殴らせろ!」

「ははは、断る。さぁ、日記を戻して逃げるでぇ。見つかったら、頭冷やS」

そこから先をはやては言えなかった。

眼前を横切る、桜色のごんぶとビーム。

衝撃波に思わず顔を背ける。

ビームが消え去り、モウモウと煙が立ち込めるが、すぐに外からの風が煙を吹き飛ばす。

室内なのに風?

部屋の片側の壁が丸く綺麗に抉りとられ、もう片側は、綺麗な人型に抉りとられている。

そりゃ……風の通りも良くなるはずだ……

内心、そうゴチながらレッツ現実逃避。

空いた穴から、なのはなんて見えません。

「ふふ、ケイスケくん……親しき仲にも礼儀はあるな〜恥ずかしいな〜ちょっと許せないな〜」

「おっお茶漬け、お茶漬けなのは。これは不幸なスレ違い。板違いだから。たしかに、部屋に無断で珍入したのは謝るが、それもこれも、あのポンポコタヌキが!なっなっな、餅突いて話せば分かるさ」

「ケイスケくんがまず落ち着こうかな」

深呼吸だよ深呼吸と嘲うなのは。

ひっひっふーひっひっふー…… 

「ふふ、ケイスケくん。私、実はそんなに怒ってないんだよ」

「えっ!?」

「ケイスケくんだって、男の子だものね。好きな娘のことを知りたいって、当然の欲求だものね」

「いっいや、たしかに、そっそういった欲求はあるけど、こんな犯罪チックな方法じゃなくて……「ふふ、なんか照れちゃうの」

聞いてねぇ……

「……でもねケイスケくん」

先ほどまでのぬるま湯のような雰囲気が一遍に吹き飛び、真冬を通り越えて、北極も真っ青な凍てついた波動。

「はやてちゃんと一緒にイチャイチャしていたのはマイナスかな〜」

「ちっ違うんだ、あれは……「料理の件と言いケイスケくんは浮気症なの」

それに、今週末に有給取っているけど、どこに行くのかな?まさか水のリングを取りに行くのかなとクスクス嘲うなのは。
反論なんか出来ませんし、聞いてません。

こうなったら……

「三十六計逃げるに如かず」

とんずら。

全力のとんずら。

そんな俺のちっぽけの全力も、背後から聞こえる呟きによってかき消される。 

「少し頭冷やそうか」

光の奔流が俺を飲み込んだ……






























沈黙と暗黒が辺りを支配する無限の空間。
目の前に広がる青く美しい星……背後には、ウサギが餅を突いていたり、かぐや姫の出身地と呼ばれているものが……

「いらっしゃい、餅は売り切れやで〜」

「うるせぇ!」




えくすとらすてーじ・つぅー

「……捜索願いは出したのかね」

「はい、先ほど」

「そうか……なにはともあれ彼の無事を祈りたいものだな」

「……」

「おっと、すまんすまん。矢神君は仕事に戻っていいよ」

「はい……失礼致します」

樫の木で出来た重厚なドアを出て、長い廊下をポツリと歩く。

―鬼丸商事―
日本を代表する企業の一つであり、

『ゆりかごから墓場まで』


『ょぅι゛ょからババアまで』


『幼なじみ、同級生、上級生、下級生、先生、委員長属性、体育会系、不良系、嫉妬系、ツンデレ、クーデレ、ヤンデレ、nicebort』

上記のようにお客様の幅広いニーズに応えている、天晴れな企業であり、創業者の鬼丸氏は生ける立志伝として著名人でもある。

―閑話休題―

鬼丸商事、企画六課課長、矢神はやては深いため息を付きながら長い廊下を歩いていた。

彼が音信不通になってはや三日。

彼とは学生時代からの付き合いであるが、まさかこんなことになるなんて……

アパートや実家、果ては友人知人全てに連絡を取ったが、誰も知らない分からない。

夜逃げや蒸発の線も考えてみたが、特に悩んでいる様子はなく、金銭面において苦労していると聞いたこともない。

ならば犯罪に巻き込まれたのか?

「矢神課長」

「……あっ、昴」

中島昴。
企画六課の期待の新人であり、ショートカットの健康的な女の子。
彼とは幼なじみの関係であり、道場では共に汗を流した間柄。

そう、道場。
彼は空手と合気道をやっていた。
彼自身、「昴や姉さんにくらべたら大したことねぇーよ」と笑っていたが、それは道場での話。喧嘩では無類の強さを誇っていた。

彼を拉致するのは骨が折れ過ぎるし、第一に彼はお金持ちではないし、特別な地位にある人間ではない。

ハイリスク・ローリターンどころかノーリターン。

つまり、その線は却下やな……

ならば……

「う。か……ょう。やが……ょう」

「ん!?」

「ん!?じゃないですよ矢神課長。その……鬼丸社長はなんて……」

「あの人は人情派な人やからな。話をしたら、クビにはせんみたいよ。それどころか、社内報を使って、支社にも捜索に協力させるって言うとったわ」

怯えた小動物のような不安な面持ちが一転、安堵の色が浮かぶ。

幼なじみ……いや、それ以上の感情を彼に抱いているだけあって、彼に関する事なら、我が事のように喜ぶ。

まぁこの決定は、私も嬉しいんやけどな。

しかし、喜んでばかりもいられない。まだ、彼の処遇が決まっただけであり、これからが本当のスタート。

刷られてきた社内報を見て……って早すぎやろ鬼丸社長!

とっともかく、捜索は始まったばかりや。絶対に見つけ出してやるからな。
松田圭介くん。














いや、驚いた。

えっ!なにが驚いたかだって? 

座敷牢だよ座敷牢。まさか喫茶店に座敷牢があるなんて誰も思いもしないだろ。

あっ、申し遅れました。俺は松田圭介。鬼丸商事の事務員でした。

えっ!?なんで過去形なんだかって?

そりゃ、何日も会社を無断欠勤すればクビだよクビ。

まぁ……好きで無断欠勤してるわけじゃないんだけどね。


「おはよう圭介くん。今日も良い天気だね」

座敷牢に似つかわしくない朗らかな声。

「そうだなーこんな日は散歩しながら歩き煙草に限る。だからそろそろ出してくれ」

栗色の柔らかな長い髪とメガネが、チャームポイントの女の子。

「ゴメンね。それはまだ出来ないんだ。だって圭介くんを狙う不届き者が大勢いるんだもの。御神流の名に掛けて絶対に守り通して見せるから。ずっとずっと守り通してあげるから」

高町美由希さん。

翠屋の看板娘の一人にして跡継ぎ。

そして、俺が一目惚れした人でもあり、久しぶりにナンパに成功した人でもあり、なぜか俺を拉致監禁した人。

……

ところで、高町さんちの桃子さんとなのはさん。
二人がヤンデレならば長女の美由希さんはどうなんだろう?

『蛙の子は蛙』と言うが、美由希と桃子の血の繋がりはない。

しかし、我が国日本には素晴らしいことわざがある。

『朱に交われば赤くなる』

『氏より育ち』

そんな訳で、美由希さんも立派なヤンデレさん。
また、彼女が納めている御神流。
何度も語ってはいるが、御神流が真価を発揮するのは大切な人を守るとき。

『守る』

ときに命を賭け、ときに命を捨てて。自身の身など省みず。
流派の教えとは言え、それは深い愛情表現にも似ている。

長年、数多の修羅場を守り抜けて来た御神流。
護衛対象との恋愛には事欠かない。
事実、護衛対象と結ばれた御神の剣士は数多く存在する。

すなわち、なにが言いたいのかと言うと、御神流―特に女剣士―はヤンデレとの相性が抜群に良かったのである。
要は、

「私が彼を守るの」

「彼を守るのは私しかいない」

「ずっと、ずっーーと守ってあげるね」

「あのお方は私が居なければ駄目なんだ。私が側で守ってあげなければ駄目なんだ」

などなど。
上記の書き置きはほんの一例であり、護衛対象を拉致してしまった御神の女剣士はちょいちょいいる。

日本の歴史を紐解いて見れば、古くは側室。明治から現代にかけても『妻妾同衿』と言ったように、一夫多妻とは言わないが、日本男児は恋多き存在である。
なにせ、『浮気は男の甲斐性』『浮気は文化』とまで言われているぐらいであるのだから。

命を賭けて戦っている最中によその女とチュッチュッチュッチュッしていれば、カチンとくるし、思いが溢れて拉致してしまうのも詮無き事。

余談ではあるが、御神の女剣士がヤンデレた場合、拉致監禁型のヤンデレ行為に良く走る。
『守る』という行為が如実に現れている現象である。

……

「だ〜か〜ら〜、俺は命を狙われるほどの大物でもなければ、大事を起こしたりもしてませんよ。」

「ふふ……圭介くんは一般人だから気付かないだけ。圭介くんの周りには大勢の不届き者がいるの……だから、ね♪」

なにが、「ね♪」なのかさっぱり分からんが、今日も今日とて説得失敗。
普通ならもっとテンパる所だが、まぁ、惚れた弱みと言うか、意外に冷静な俺がいる。

「まぁ、どうにかなるかな」

事実、どうにかなった。

数日後、同僚の昴が壁を菩薩の拳で破壊して助けだしてくれた。

「圭介は渡さない!」

「この泥棒猫!」

しかし、それは第二の序曲に過ぎず、海鳴を舞台に繰り広げられるドタバタ大恋愛に発展をすることとなる。

……えっ!?ケイスケ・マツダ?誰ですか、それ?世の中には三人はそっくりさんがいるって言いますからね〜 









蛇足

圭介の企画六課の日々登場人物一覧。


―松田圭介―

少年時代より空手と合気道を習うも、ストリートファイトが一番得意なDQN事務員。

翠屋にて高町美由希をナンパしたことが人生最大の間違いと悲観するも、美由希endでは、「まぁ、ありかな」と達観。悟りを開く。

物語の主人公。だからチートな程に主人公補正が掛かる。だけど、周りも大概チートキャラなので、実にしょんぼりな性能となってしまう。

「ケイスケ・マツダ?だから他人の空似だろ」


―高町美由希―

本作のメインヒロインでヤンデレ。
御神流とメガネキャラを武器に圭介争奪戦を繰り広げる。

刃物の収集を好むが、圭介と知り合って以来、圭介を収集することが一番の趣味となる。

余談ではあるが、初めて圭介に出会った日のことが強烈にインパクトに残っているらしい。
本人曰わく、インディペンデェンスDayとのこと……なんのこっちゃ。 

「ふふ、私がずっとずっと守ってあげるね。」


―中島昴―

本作のメインヒロインの一人でなかなかなヤンデレ。

空手と合気道をミックスして出来た、シューティングアーツと呼ばれる痛い武術の使い手。
シューティングアーツと幼なじみポジションを武器に圭介争奪戦を繰り広げる。

過去に、「戦闘機人」と呼ばれる県下最大最強のレディースに所属していたことがあり、それを圭介には秘密にしている。

余談ではあるが、シューティングアーツの開祖は母の中島クイントである。
アメリカ出身、忍者になりたいと来日。
空手と合気道を忍術と誤解する。
誤解に気付いた時にはすでに空手と合気道の達人になっていた。
「まぁ、でも旦那や娘も出来た事だし、まっいいかな」とポジティブシンキング。 

「圭介……圭介圭介圭介圭介圭介圭介圭介圭介圭介……」


―矢神疾風―

本作のヒロインの一人。やっぱりヤンデレ。

黒い思考と関西弁を武器に圭介争奪戦を繰り広げる。

圭介の上司にして、鬼丸商事の若手筆頭。
圭介との出会いは、彼女が事故に合って車椅子生活を余儀無くされたとき。
図書館で本を取るのを手伝って貰ったのが出会いの始まりなんだとか。

余談ではあるが笑いとお約束には一家言持っており、ちょいちょいと身分を偽っては、お笑いライブに出ている。

芸名は夜店(やてん)

いつか圭介とコンビを組んでプロデビューしたいと考えている。

本名の「疾風」はあまりにも男らしすぎるので「はやて」と平仮名でよく書く。

「ははは……ほんま圭介君は面白いなぁ〜ほんま面白ろ過ぎて……してしまいそうや」


―鬼丸社長―

東の江田島、西の鬼丸と言われるぐらいの古今無双の男前。

噂によると、民明書房に記載されている技の大半を習得しているとかなんとか。

彼にスポットライトを当てすぎると、クレーム……ではなく、そのあまりの強さゆえに、バランスブレイカーになってしまうので、ご利用はご計画的に。

日本を代表する企業、鬼丸商事を一代で築き上げた益荒男でもある。
入社してくる女子社員の八割がヤンデレ、残り二割がツンデレと、とんでも比率。

「まともな女子社員テラホシス」と日々社長室で愚痴をこぼすのが日課。



この作品を展示して頂いたリョウさん、掲載を許可して頂いた鬼丸さん、そして、最後まで見て頂いた読者の皆様に感謝を


ヤンデレ良い、リリンが生み出した文化の極みだよ。











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