「にぃ、いい加減にパパになってよ」

「はっはっはっ、ワロス」

いつものやりとり。
しかし、今日のヴィヴィオを一味違った。

「いいもん、いいもん、それならこっちにだって、考えがあるんだからね」

子供の駄々は可愛いものであるが、彼女の場合は聖王の駄々でもある。

結論――洒落にならん。

「アッー」

………
……

side〜なのは

「おかえり、なのは。もうすぐ飯が出来てるぞ。」

「ママお帰り〜」

玄関を開けたら、ケイスケくんが料理を作っていました。 
しかも、何気に私のこと呼び捨てです。
でも、あ〜良い匂い……じゃなくて!

「ケイスケくん、どうしたの?なんで居るの?」

「なんでって……ここが俺の家だからに決まってるからだろ。仕事のやり過ぎでボケたのか?」

「いやいやいや、なに言ってるケイスケくん。冗談も大概にしないと……」

言いかけて、違和感に気付く。

彼は、冗談は好きだが、決して悪乗りをするタイプではない。

むしろこうした事に関しては、キチンとした分別を持っている。

違和感が増し、疑惑がどんどんと膨らむ。

先ほどまで慌てていたのが、嘘のように冷静さを取り戻した。

注意深く、彼を観察してみると、 

「……うわぁ」

目がナルトみたいに渦巻いている。

ぐ〜るぐるぐ〜るぐる。

長時間みてると、確実に酔いそうだ。

うん、確実に混乱している。

では、なぜ、彼が混乱しているのか。しかも単なる混乱魔法ではなく、指向性を含んだ混乱魔法……いや洗脳魔法。
その指向性を考えてみれば……

「……ヴィヴィオ」

「なっなに、ママ」
ただ声を掛けただけなのに盛大にどもるヴィヴィオ。

これでは犯人です。と言っているようなものだ。 

「頭……冷やそうか」

ヴィヴィオが泣いて謝ったの、それから数分後の事でした。

一夜明けてのロングアーチ医務室にて―

「これは厄介な事になったわね」

シャマルがため息混じりに、そうこぼす。

「術式が複雑過ぎて、解けそうもないわ。さすが聖王様と言ったところかしら」

「それじゃケイスケくんは……」

「安心して、解けなくても、おおよその概要は分かったわ。長くても1ヶ月くらいで元に戻るわ」

「良かった」

あのままじゃ、私はもとよりケイスケくんも可哀想過ぎる。

「なに言ってるのなのはちゃん。最長で1ヶ月、ケイスケくんは、なのはちゃんの事をお嫁さんだと認識しているし、ヴィヴィオは自分達の子供と思っているのよ。ご丁寧に、偽の記憶まで捏造されているわ」

「え゛っ」

「ケイスケくんの話だと、桃子さんにお試しで付き合ってみればと言われて、付き合い始めたのが馴れ初めなんだとか」

「……なんか、本当にあり得そうなの」

「ともかく、これから1ヶ月はケイスケくんと仲良くね」

キーンコーンカーンコーン。

「あら、もうお昼。なのはちゃん、はやく行かないと食堂が混むわよ」

私は、これがあるけどねと、可愛らしい包みに包まれたお弁当を取り出した。

「実は……」

「なのはちゃんもお弁当?でも、なのはちゃんってたしか……」

「ケイスケくんが……」

パカリと蓋を開けると、ゴマがふりかかった俵結びのオニギリと、色とりどりのおかず。小さなタッパーには一口サイズのリンゴ。 

「うわぁ〜美味しそうね。まさに主夫の鑑ね」

シャマルとお弁当(はやて作)の食べ比べをしました。

結果を言えば、はやてちゃんの作ったお弁当に軍配が上がったけど、唐揚げだけは、はやてちゃんのより美味しかった。

それに負けたからと言っても、比べる相手が悪すぎただけであり、彼のお弁当も十二分に美味しかった。

「……なのはちゃん。本気でケイスケくん、落としたら。私達みたいに働く女性にとっては優良物件かもしれないわ」

とやたら、本気で言ってきたのには若干引いたりもした。



「お帰り。飯にする、それとも風呂か?」

少しばかり、シャマルの気持ちが分かったかも知れない。

なんだかんだで、三週間が過ぎた。

最初のうちこそ戸惑ってはいたが、日が経つに連れて、ケイスケくんのありがたみが分かってきた。

朝は誰よりも早く起きて、朝食とお昼のお弁当の支度。

朝食を食べ終えると、手早く食器を洗う。何度か手伝おうとしたが、「なのははゆっくりと飯食ってれば良いんだよ。その代わり、仕事頑張ってくれよ。うちの稼ぎ頭なんだから」と笑いながら言って手伝わせてくれなかった。

仕事中こそ、普段と変わりないが、仕事が終わると、一目散にヴィヴィオを迎えに行き、一緒に夕飯のお買い物。

家に着いたら、夕飯の仕込みをすませて、家中の掃除、洗濯。

それらが終わった頃に私が帰ってきて、少し遅めの夕飯になる。

驚いたことに、夕飯の場合、ケイスケくんはキッチンとリビングを往復するだけで、私達と一緒にはご飯を食べないのだ。
私とヴィヴィオがご飯を食べて、ケイスケくんは料理を作る。

もちろん、一緒に食べようと何度も言ったが、

「料理は熱々の作りたてが美味いんだよ。だからこれで良いんだ」

と言って、断ってしまう。 

鍋料理などなら、一緒に食べてくれるが、ハンバーグなどの焼き料理になると、もうだめだ。
天ぷらの時などは、丁寧に一品々々、いちいち揚げて持ってくるので、何回も往復して、申し訳なくなってしまうほどだ。
大変だろうし、疲れもするだろう。 
しかし、そんなものはおくびに出さずに、キッチンから、少し大きめな声で何気なく話を振ってくる。

ヴィヴィオは、学校で起きた事を中心に嬉しそうに話、私もついつい釣られて、色んな事を話してしまう。 

夕飯を食べ終わったら、また食器を洗い。

次はお風呂。私とヴィヴィオが一番風呂に入り、その間、ケイスケくんは私とヴィヴィオの制服のアイロン掛け。

風呂上がりには、冷たい牛乳が用意されていて、それを飲んで私達は寝ます。

……

「……と、これが、私達の1日かな」

口をポカーンと空けてはやてちゃんが私を仰視する。

「ちょい待ち、なのはちゃん。嘘はあかんで嘘は」

うん、私も逆の立場なら、絶対に信じないだろう。

「はやてちゃんの気持ちは凄く分かるけど、嘘じゃないの」

「はぁ〜なんと言うか……チートクラスの主夫やな」

はぁ〜と頷き、感心したのかうんうんと頷くはやてちゃん。
しかし、しばらくすると、ニヤリと実に邪悪な顔付きになる。

あっ、なにか、嫌な予感なの。 

「と、こ、ろ、で、なのはちゃん。夜の方はどーなっとんのかなぁ?ケイスケくんの主夫っぷりも凄まじいけど、でも男の子やもんね。やっぱり、やることはやっとるん?」

「そっそんな事ないよ。ケイスケくんだって、仕事に家事でクタクタなのか。夜は部屋に入ったきり、朝まで出てこないよ」

「なんや、つまらんな〜。ケイスケくんも男やさかい、もっとこう……「それ本当なの、なのはちゃん」シャマル?」

真剣に思案するような顔で問い掛けるシャマル。

思わず、はいと答えてしまう。

「いくらなんでもおかしいわ。ケイスケくんの年齢を考えれば、三週間という期間にまったく、そうした事に行動を起こさないのは異常とも言えるわ。まして、なのはちゃんは今の彼の中ではお嫁さんよ」

言われてみれば、そうかもしれない。 

なのは自身も、しばらくの間は、そう言ったことも考慮はしていた。 



寝るときなどは、わざわざ、レイジングハートを装備したまま寝ていたものだ。 

予想に反して、夜の間はまったく与えた個室から出て来ないので、今では、安心して寝ている。

さらに言うなれば、男性経験がゼロの上に、男の事情に詳しくないと来れば、なのは自身、さしたる問題にはしていなかった。

しかし、医学上の観点から見れば十分にそれは異常である。

現にシャマルは、額にシワを寄せて悩んでいる。

「なのはちゃん……今夜、皆が寝静まった頃にでも、ケイスケくんの部屋に行ってみて……」

普段のはやてちゃんなら「夜這いや、夜這い」とからかうだろうが、シャマルの真剣な雰囲気に飲まれて、黙っていた。 
もちろん、私も「分かりました」としか言えなかった。

……

そして、夜。 

妙な高揚感を抑えながら、静かにケイスケくんの部屋の前まで来た。

しかし、部屋の前で、そんな気分は吹き飛んだ。 

部屋の中から、耳を澄まして、なんとか聞こえるほど呻き声がした。

「ケイスケくん!?」

慌てて扉を開けると、体中をバインドされて、猿ぐつわまではめられているケイスケくんがいた。

なぜと思うより先に体が動いた。
これも日々の訓練賜物か。

バインドの解除は少し手間が掛かるので、まずは猿ぐつわから。

「ケイスケくん……いったい通したの」

「逃……げろ……なのはさん。頼む……から近づかないで……くれ」

「えっ!?どういう意味なの……なのは……さん。もしかしてケイスケくん、記憶が」

よく見れば、目がぐるぐるしていない。 
でも、それならばなぜ? 

「気……抜くと、また戻っちまう。なのはさんを……襲っちまう。初日の……夜は……地獄だった。このバインドは、…知り合いに……貰った……道具で……ともかく……猿ぐつわ……はめ直して、寝てくれ。朝には……治まる」

ケイスケとしては、精一杯気を使ったのであろう。 

しかし、なのはの性格を考えれば、これは逆効果でしかない。

もともと、弱っている人や困っている人を見捨てることが出来ない性格。 

ケイスケの場合それだけにとどまらない。
職場では気さくに話せる、ちょと意地悪な異性。
ヴィヴィオの魔法のせいとはいえ、三週間にも渡り、脅威の家事能力を見せつけてた意外性。
それだけ見れば、昨今流行りの草食系男子でしかないが、彼はその能力に見合わず男らしい面も十分に兼ね備えている。

そんなこんなで、なのは自身の中でケイスケのランキングが急上昇中。 

そんな中で、ケイスケの弱りきっている姿は来るものがあった。なのは的に。

思い出して欲しい。 
なのはの親友と言えば、フェイトが有名であるが、彼女とどうやって仲良くなったのかと。

書けば漢字四文字でこと足りる。 

『肉体言語』

ジュエルシード事件を皮切りに、闇の書事件、ティアナ頭冷やそうか事件、JS事件と、彼女の『肉体言語』またの名を『OHANASHI』は枚挙にいとまがない。 

そこから導き出される結論。 

彼女は生粋のドS。

そんな彼女が、最近ちょっと気になる勝ち気な男の子が、深夜部屋にて、バインドで雁字搦めになってハアハアと弱っている。

しかもそれは自分の為との告白付き。

それらが程よく混ざり、なのはの中で科学反応を起こす。









キュン。







彼女はトキめいた。

……
… 

「ケイスケくん」

「まだ……居たのか……早く……」

カチャリと部屋の鍵が閉まる音。

「なのは……さん?」

「ふふふ」

妖しく笑うなのはさん。
その瞳の色は尋常ではない。 

あれはスバルと同じ瞳だ。 

捕食される! 

逃げなくてはと思うも、バインドでギチギチに固定されて、全然動かない。

「おち、落ち着こう。良いか、ひっひっふー、ひっひっふーだ。深呼吸だ。ラマーズな深呼吸でまずは落ち着こう」

「あなた〜と♪」

「そっ、それ以上ちかづくんじゃねぇ」

「わた〜しが〜♪」

「やっやめろぉ、ショッカー!ぶっ飛ばすぞぉ!」

「夢〜の国〜♪」

「あっ、あっ……ア゛ーーーーー!!」













ぽと




「むっ、花が」

「どうしたのシグナム」

「いや、なに、気に入ったので、取ってきた椿の一輪挿しなのだがな」

花が落ちてしまったと、残念そうに語るシグナム。 

しかし、落ちた椿を見て、なんとなくケイスケを思い出すシャマル。

「まさかね」

同時刻のとある聖王様の独り言。 

「クスクス。ばいばい、にぃ。こんにちわパパ」

隣の部屋からかすかに聞こえる、声を聞いて、ニタリと笑う幼女が一人。



この作品を展示して頂いたリョウさん、掲載を許可して頂いた鬼丸さん、そして、最後まで見て頂いた読者の皆様に感謝を








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