この作品は鬼丸さんの作品、ケイスケの機動六課の日々、IFギンガエンドの三次創作にあたります。
この作品を見る前に、鬼丸さんのケイスケの機動六課の日々とIFギンガを見ることを強く推奨いたします。



























もう一回、絆を作り直そう。

あの夜以来、姉さんが来る回数が格段に増えた。
手料理も食べた。

味付けには驚いた。

「ドゥーエさんに習ったの」

そう言って微笑む姉さんの横顔が、たまらなく綺麗だった。

姉と弟。
その絆が壊れ、新たな絆が生まれる。

男と女。

いまだ、姉さんと呼んではいるが、いずれギンガと呼ぶ日も来るのではないか…… 

でも、悪くはないよな……

自然に変わりゆく関係。
その変化を当然のように受け入れている俺。

たぶん……いや、きっと姉さんもそう思っている。

パクパクと目の前でご飯を食べている姉さんを見て、不思議と優しい笑みが零れる。

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「そう。ところで、この味付け良いでしょ。ドゥーエさんに……」

うん、悪くないよな。この関係。 

ドゥーエ料理教室の愚痴をこぼしながらも、笑顔な姉さんの横顔を見ながら、そう思った。 


………
……
… 

「で、これなんてエロゲ?」

「にぃ……またママが増えるの」

「う〜ん、はやてちゃん、あまり覗きは良くないと思うよ」

「なに言うとるんや!いま覗かんで、いつ覗くんや」

ダンダンと机を叩くは八神はやて。
机の上に置いてある、『ケイスケくんリア充補完計画』と書かれているプラカードと、二人が映されている水晶が宙を舞う。 

「そっそれは、そうと、まさか、本当に覗きの訳がないよね」

「その通りやフェイトちゃん。そう、ケイスケくんにやっと来た春。しかし相手は長年姉と思っていた相手。関係を作り直すのには多大な時間が掛かるのは明白や。そこで、私らの出番や」

「あまり、こう言ったことには首は突っ込まない方が……」

控えめにだが、反論をするなのは。
他の皆も口には出さないが同じ気持ちである。 

しかし、 

「甘い、翠屋のシュークリームより甘いで。ええか、恋愛は早い者勝ちや!ギンガはあのスタイルや容姿も相まって、男性職員からの人気は凄まじい。ケイスケくんだって、意外にモテてるんやで。この前かて、部屋掃除していたら、見たこともないピアスが落ちてたで」

コレやと、一同に見えるようにピアスを取り出す。

皆、このピアスには心当たりが無かった。

「大事なことやからもう一度言う、恋愛は早い者勝ちや!悠長なことしとったら、たちまち盗まれるで」

「たしかに」「そうかも」そんな空気が場を支配し始める。 

「と言うわけで、二人の中を思いっきり進展させるための作戦を発表するで、作戦名『雨降って地固まる作戦』や」

「うわぁ〜……名前聞いただけで全容が見えてきたなの」

………
……

ケイスケです。
ウチがメイド喫茶になっていたとです。

ケイスケです。
メイドが皆見覚えあるとです。

ケイスケで「にぃ……じゃなかった。ご主人様お帰りなさいなの」

「良い挨拶です。しかしお辞儀の角度をもう少し下げた方がよろしいです」

お帰りなさいませ、ご主人様。そう言って見惚れるような角度でお辞儀をするディード。

「シュークリームいかがなの」

その手のお店でしか見ないような、ピチピチのウェイトレスの服を着たなのはさん。 

「えっーと……肩揉みましょうか」

テレているのか、どもりながら聞いてくるフェイトさん。
ところで、なぜにバリアジャケット姿?

「ふっふっふっ、どや天国……いやヘブン状態やろ!」

腕を組んで仁王立ち姿で現れる八神はやて。

その姿は以前の姉さんとうり二つ。

もう、元凶とか全てが一発で分かりました。

ふ〜 

ため息ついて、 

「帰れ」

「一言で切って捨てられた!」

「なんの魂胆があってのことかは知らんが帰れ帰れ」

「まぁまぁ、邪険にせんといてな。これは言わば恩返しなんやで」

「恩返し?」

「そや、恩返し。ケイスケくんや、この部屋には、よ〜世話になってるやんか」

「勝手に入って来てるだけだろ。特にそこの腹黒狸」

「でも、なんや最近ギンガと仲良うなってるみたいやし」

「うっ……」

「この前は、姉弟の関係やったから言い負かせたけど。次は違う。でも、まだ男女関係やない。だから、いまのうちにしか出来ん恩返しやな」

さて、私は生膝枕で耳掃除したろか〜 

笑いながら正座して、膝をポンポン叩くはやて。
でも、その笑みがそこはかとなく邪悪で、一歩を踏み出せない。

たしかに、はやての理論は正論であり、事実、姉さんに遠慮する必要はこれっぽっちもない。

だが、俺の理性がガンガンと警報を鳴らす。

葛藤。
しかしその葛藤を嘲笑うかの如く追撃が入る。

「えっーと、私は右手のひらのマッサージをするよ」 

「わっわたしは、左のひらをマッサージ……」

棒読みなセリフを吐くなのはさんに、テレて尻切れトンボなフェイトさん。 

って……なんだとおい!
膝枕して貰ってる体勢で両手のマッサージ……しかもあの恰好で…… 

罠だ。絶対に罠だ。
こんな見え透いた罠に誰が引っかかるか! 

「ぜひお願いします」

本能が理性を凌駕しました。 

………
……


ほぁっ〜 

そんな雄叫びが安アパートに響き渡る。

頭ははやての生膝
右手はなのはさんの生膝&手。
左手はフェイトさんの生膝&手

ヴィヴィオは「にぃ、暑いでしょ」と言って、団扇であおいでくれる。

最後に、ディードは「ご主人様、お口をお開け下さい」と言って、フルーツをあ〜んとしてくる。
なんかもう、いつ昇天しても良いです。

瞳を閉じて昔を想う。

部屋に寄生されて幾星霜。

辛いことや苦しいことや、果ては肉体言語まであったけど、今の現実を見れば十二分にお釣りが出る。

まさにヘブン状態。

先ほど、ヴァイス陸曹が遊びに来た時など、

「これで勝ったと思うなよー!!」

と叫んで走り去って行った時など胸がすくうようだ。

神様はちゃんといたんだ。

普段は祈るどころか、信じもしない神様に感謝の念を捧げる。

だが、その幸せも長くは続かなかった。

コンコンとノック音。

こちらの返答を待たずに、ドアが開かれる。 

「ケイスケ。今日はロールキャベツよ。これがすっごい会心の出来で…………ね……」

鈍い音を立てて鍋が落ち、ロールキャベツがバチャリと床に散らばる。

……

side〜はやて

ギンガは無言で部屋から出ていこうとした。

「待ってくれ姉さん」 

膝枕をされとったケイスケくんは急いで立ち上がり、ギンガを捕まえた。

「離してください」

ぞっとするような冷たい拒絶。

こんな声初めて聞いた。
ケイスケくんも思わず、手を離してしまい、ギンガはスタスタと去って行った。

ケイスケくんは、まるで電源が切れたかのようにいつまでも玄関の扉を見ていた。

「いつまで、そうしてるつもりなんやケイスケくん!」

「あっ……いや、その」
きっと彼は混乱しているのだろう。
私だって、あの当事者になればきっと混乱する。 

でも、いつまでも混乱してはいられない。 

「早く追わんか!ギンガはきっと待っとるで!それに、悪いのは早とちりしたギンガや!ケイスケくんはなんも悪くあらへんよ!だから」

「っ!!ああ、そうだった。今から勘違いした姉さんを捕まえて来る」

言うや、彼は疾風の如く部屋から出て言った。




20分後、とある公園にて

公園でギンガを捕まえたケイスケくん。

「姉さん、話を聞いてくれ」

「話すことはないわ。それより、早く帰ったらどう」

捕まえた当初のギンガは、『暖簾に腕押し』『糠に釘』ケイスケくんの話をちっとも聞いてはくれなかった。

それでもケイスケくんは辛抱強くギンガに話しかける。 

頑なに相手にしていなかったギンガも、だんだんと声を荒げ感情的になってくる。

「違うんだ。誤解なんだよ」

「なにが誤解よ!あんな……あんな……」

感情はさらにヒートアップ。
声を荒げた怒鳴り声が夜の公園に響き渡る。

「ケイスケの馬鹿、スケベ、変態!」

「……」

黙って罵られるケイスケくん。

先ほどとは逆に、黙殺される形になったギンガは益々激昂し、容赦なくケイスケを責め立てる。

感情的で、支離滅裂。

もはや、冷静で理知的なギンガの普段の面影はない。

「なにか言ったらどうよ!!」

パンと乾いた響き。

頬をはたかれたケイスケくん。

「なにか、なにか、言いなさいよっ!!!」

でも、ケイスケくんは何も言わずにギンガを抱きしめた。

「なっ!離して、離しなさい」

身悶えるギンガ。
だが、ケイスケくんはさらに両腕に力を入れて、抱きしめる。

「姉さん……ごめん。そんなつもりは……姉さんを傷付けるつもりはなかった……」

魔力で聴力を水増ししなければ聞き取れぬほどの小さな声。

当たり前か、だって、耳元でささやいとるんやからな。 

「でも、俺には姉さんが……ギンガが一番に必要なんだ」

「ケイスケ……ばか……」

夜空にギンガのすすり泣く音が吸い込まれていく。



「うわぁ……にぃ……大人だ」

「ふむ、これからはギンガさんの事を奥方様と呼ぶ事に致しますか」

「でも、なんか、ケイスケくん手慣れてないかな?」

上からヴィヴィオ、ディード、なのはと少しズレた感想を漏らす。

「あの……そろそろ、帰った方が良いよ。さすがにこれ以上は……」

六課最後の良心と名高いフェイトが、これまた、まともな意見を出す。 

「なに、言っとんのや。途中から一番かぶりついて見とったくせに」

「うっ……でも」

「おおっ!にぃ、激しい」

ん?と振り返ると、そこには、大人なキスをする二人の姿。

「あ〜〜〜たしかに、そろそろ撤収した方がええな」

主に子供の教育的な面で。 

「ほな、撤収や」

最後にもう一度二人を見て、

「なぁ雨降って地固まるやろ」

祝福するように呟いて、





両手に良く生い茂った木の枝を持ち、歩伏前進で草むらから去っていく八神はやてとその御一行。

そのなんとも残念な姿は割愛させて頂く。
















そう思っている時期が私にもありました。 

ぴちゃりと頬にぶつかる飛沫。

目の前で繰り広げられている残酷無惨劇にどうやら、私の思考は遠い世界に逃げてしまっていたようだ。

えっ、上のやりとりはなんだって? 

そんなもん、私の妄想に決まっとるやろ。 

現実はなぁ…… 

部屋に入ってきて、ロールキャベツを落とすとこまでは一緒や。 

その後……有無を言わさず狼狽するケイスケくんを引っ掴んで……あとは言わんでも判るやろ。

雨は雨でも血の雨や。

ただなぁ……私も捜査官として色々見てきたけど……

人はここまで謝る事が出来るのだろうか。
人は謝罪する人間をここまで無表情に殴り続ける事が出来るのだろうか。

改めて、人間の業の深さを思い知りながら、頬に付いた血飛沫を拭い、私達はそそくさと部屋を後にした。 

「ふふふ、スバルの拳は秒間千発。私の拳は一万発。ケイスケはどこまで耐えられるかなぁ」

「ちょっ、へぶっ、むりっ、あぶっ、ぽ……」

『むりぽ』

ケイスケくんが最後に残した遺言。

その遺言を胸に刻みつけ、とりあえず電話。

「もしもし、八神ですけど、こんばんは。率直に言いますと、お宅のお嬢さん、人殺しになってまうかもしれませんよ」

「なんだ、なんだ藪から棒に」

訳を話すとゲンヤさんは懐かしそうに、 

「そうか、ギンガが……いや、あいつもクイントに似てきやがったな。昔は俺も良く殴られたもんよ。一度な部下とナンパに行ったときなんて……」

以下延々と昔話の血なまぐさいノロケ話。



ご馳走様です。

しかしゲンヤさんの、ほのぼのとした声を聞くと、殴り愛から生まれる新しい絆も悪くないのでないかと思えてきた。

ケイスケくんがマゾになるか、死ぬか、画期的な打開策を閃いて普通の男女交際となるか……

友として、第3の選択肢を選んで欲しいが、高確率で1か2だろう。

ケイスケくん。力強く生きるんやで。


星空に祈りながら帰路に着く。

ショートカットで公園を横切ったら、ワンカップ片手に、くだをまくヴァイス陸曹がいました。

夜風に乗って、くだが聞こえてくる。

「ケイスケの野郎……なんてうらやま……げふんげふん、けしからん真似を……ってか、あいつの部屋に忘れたピアス取りに行けないじゃないか……やってられっか、馬鹿野郎!」







あ゛っ。

ゴソゴソとポケットを漁り、ピアスを取り出す。

うん、あの人が付けてるのと同じやな。

「…………………………まっ、ええか」

空を見上げると満天の星空。

きっと明日も晴れるだろう。

「え〜い」

可愛い掛け声とは裏腹に、渾身の魔力を込めて、ピアスを放り投げる。 

星にな〜れ星にな〜れと。

あの星空にまた一つ星が増える。

なんてロマンティックなのだろうか。

だから、聞こえない。
先程までいたアパートのある方角から、断末魔のような叫び声など聞こえない。 
だってこんなにロマンティックな夜なんだから。






この作品を展示して頂いたリョウさん、掲載を許可して頂いた鬼丸さん、そして、最後まで見て頂いた読者の皆様に感謝を








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