タイトル:ナイトメア・ワールド


第一話『少年』


その日、街の裏路地の一角に店舗を構える酒場『ハンティング』は、いつも通りの賑わいを見せていた。

『ハンティング』は会員制の酒場で、メンバーの全員がゴロツキである。

メンバーは皆、店のオーナーが直々に街へ繰り出して呼び集めた者達だ。

稀に、この酒場の噂を聞きつけて、人生に嫌気が差した若者が転がり込んでくる事がある。

だがこの酒場では、そういう者は受け入れられないのが常である。

オーナーが、自分の目で選んだ者しか信用しないからだ。



そんな『ハンティング』に、一人の少年が入ってきた時には、流石のゴロツキ達も我が目を疑った。

外見で判断するに、少年は小学生だろうか。

もしかしたら中学生かもしれない。

黒光りする艶やかな髪が肩まで掛かっており、瞳の色はブラック。

端正な顔立ちで、パッと見ただけでは女性と見間違うかもしれない。

服装は、上はチャックの付いた青いジャージに下は膝上丈のスパッツで、部活帰りの学生を思わせる風貌だ。

「オーナーは居るかい?」

少年は躊躇う事無く店のカウンターに肘を置き、店のマスターに質問を投げかけた。

「待てよ!」

そう叫んだのは、店の端っこの方に一つだけ置いてある埃まみれの赤いソファーを独占しているウェスタン風の男だった。

「てめえは何だ?いきなりやってきて『オーナーはどこか?』だと。ふざけんじゃねえぞ。何者だてめえ?」

少年はカウンターから肘を離し、ソファーの男に向き直った。

そして辺りを一瞥し、他の連中が自分に襲い掛かる気がないと見るや否や、男の目前まで歩み寄ってから口を開いた。

「僕は音村 真(おとむら まこと)。 訳あってオーナーを探している。オーナーに合わせて欲しい」

静かな口調だった。

男は左手に酒瓶を持ち、直接瓶の口から酒を煽った。

「ふん、何処の馬の骨とも知れねえような奴に、誰がオーナーの居場所を教えるかってんだよ」

「そうか、じゃあ・・・」

不意に、背後から並々ならぬ殺気を感じて、真は即座に飛び退いた。

次の瞬間、覆面を被った大柄な男が、たった今真が立っていた場所目掛けて木製の椅子を振り下ろしていた。

が、当然そこに真の姿は無く、少々背もたれの高いその椅子は、ソファーに座っていたあの男の脳天を直撃し、男は気絶した。

「チッ、避けやがったか」

覆面男は舌打ちすると、背もたれの無くなった椅子を真の顔面目掛けてブン投げた。

真はその場で仰け反ってかわすと、椅子は店のレンガ状の壁にぶつかって粉々に砕け散った。

「危ないじゃない・・・か?」

椅子をかわした真の目に飛び込んできたのは、正真正銘の投げナイフであった。

真は空かさず、両手を胸の前で合わせてナイフを受け止める。

所謂、『真剣白刃取り』である。

ナイフは、刃先がジャージに刺さった所で止まっていた。

どうやら、体には到達しなかったようだ。

それでも、後数秒反応が遅れていれば、命の保障は無かった。

真が手を離すと、ナイフは床の上に落ちた。

その時、明らかに真を除く酒場に居た全員の表情が変わった。

真の傍に居た連中は、そそくさと青い顔をして離れた。

まるで、何か恐ろしいモノを見たかのように。

「日曜の朝っぱらから騒がしい連中だ全く!ガキ一人入ってきたぐらいでギャアギャア騒ぐな」

突然、男の声が酒場全体に響き渡った。

全員の視線が、声のした方へ注がれる。

今しがた、ナイフの飛んできた方角だ。

そこに、一人の男が立っていた。

年齢は恐らく、30代。

少なくとも50代には達していないようだ。

銀髪交じりのクシャクシャの黒い長髪が印象的で、薄い紅色のレンズが入った銀縁のサングラスを掛けている。

服装は、左胸に赤いコサージュをあしらった上下とも白のスーツで、両手をポケットに突っ込んでいる。

どうやらこの男が、この店のオーナーらしかった。

歳の割りに、男の頬は痩せこけており、老けて見えるが、威厳のあるその視線は自分の店でドンチャン騒ぎを引き起こしたゴロツキ達を黙らせるには充分だった。

「藤川兼一郎(ふじかわ けんいちろう)だな?」

「あ?」

真に名前を呼ばれて初めて、藤川はこの招かれざる客に視線を移す。

ふと彼は、真の足元に一本のナイフが落ちていることに気づいた。

途中、何人かのゴロツキが下がった他は、誰一人として動こうとする者はいなかった。

藤川は真に近づくと、無造作にナイフを拾い上げたかと思うと、それをソファーに座ったまま気絶しているあのウェスタン風の男目掛けて投げつけた。

ナイフは男の喉下に突き刺さり、男は死亡した。

「藤川、あんたに頼みがある」

真は眉一つ動かさず、藤川に話しかけた。

「何だと?」

藤川は途端に、不機嫌な顔になる。

これだけの数のゴロツキを従える彼に頼みごとを行うという事は、自殺にも等しい行為といっても過言ではない。

「『ナイトメア』について」

その言葉を聞いた途端、藤川の顔に笑みが浮かんだ。

「ついて来い」

真は黙って藤川に従った。



真が通されたのは、店の中にある藤川の自室だった。

薄暗い店内とは裏腹に、様々な美術品が並んでいる。

「まあ、座れや」

赤いテーブルを挟んで、二人は椅子に腰掛けた。

先に口を開いたのは藤川だ。

「『ナイトメア』か。てめえ、“そいつ”についてどの程度知ってる?」

真は無言で頷いた。

「百年前、束田 洋剣(つかだ ようけん)という人物によって発見された悪夢の土地。これまで何人もの調査隊が足を踏み入れ、誰も帰ってこなかった」

「よく知ってるじゃねえか」

藤川が意外そうに言う。

「ありふれた話じゃないか。今まで誰も見知らなかった土地が見つかって、出掛けた人間が行方不明になる」

「ま、確かに映画やアニメの世界では、良くある話だな」

藤川は椅子から身を乗り出し、不敵な笑みを浮かべる。

彼の笑顔には、見たものを戦慄させるおぞましさがある。

「で、俺にどうして欲しいんだ?」

真は腕を組み、目を閉じた。

「言ったろ。頼みがあるんだ。即ち、『ナイトメア』に行く為に船か飛行機を手配してほしいんだ」

藤川は一瞬、真の言った言葉が理解出来ていないようだった。

「何で俺がそんな事しなきゃなんねぇんだ!第一、俺はその島と何の関係も無いんだぜ!?」

藤川は背もたれによっかかり、両手を広げてお手上げポーズをとった。

「あんたはこの道じゃ名の知れた男だろ。顔の利く店の一つや二つ、あるんじゃないの」

真は、少々不機嫌な表情で尋ねた。

藤川は、暫く考え込んだ後、ふと何かを思い至ったらしく、再びニヤケ顔になった。

「・・・わかった。部下の中に自分の船を持ってる奴がいる。そいつに掛け合ってみらぁ」

その言葉を聞くが早いか、真は例を言ってそそくさと椅子から立ち上がり、足早に立ち去ろうとした、その時。

「但し!俺も一緒に連れて行ってもらうぜ。なあに、悪いようにはしねえさ。ただ、“行ってみたいだけ”だ」




〜作者より〜

皆さん初めまして、古川と言います。

初投稿ですが、如何だったでしょうか。

第一話から既にこのグダグダ感&意味不明さ。

本当にすいません。

これから精進していきたいと思いますので、宜しくお願いします。
古川 士(ふるかわ つかさ)






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