「いきなりなにしやがる!!」
 

「ほぅ、良く避けたな」
 

「よく避けた、じゃねぇよ!? クソじじぃ! 朝起こすのになんで毎回、殺そうとしてくんだよ!!」
 

「馬鹿者! 戦士たる者、奇襲に備えて気を張り巡らせておくべきだと言っておるだろう!」
 

「いつの時代だ!? 今はそんなことすんな! 普通に起こせ!!」
 

「人間何が起こるか、わからんぞ。いつなにがおこってもいいようにしておくべきじゃ。
……もしかしたら異世界とか言うのにいけるかも知れんぞ」
 

「それとこれとは別だ!!孫を殺す気か!?」
 

「死んだらそれまでと言うことだ」
 

「よーし、ぶっとばす!」
 

「そのセリフは一度でもワシを倒してから言うんじゃな!」
 

なにごとにも対処できるように鍛えてもらっていた。
もちろん望んだわけじゃない。
でもそこらへんの奴よりは何が起こっても対処できるようになったつもりだ。
だけど……これは無理だろ。

第2話「リアルイベント?」
 

友人が良く言っていた。
異世界に行けば冒険、危機、未知がある。
そしてゲームによってはハーレムでウハウハだと。

俺もそれに関しては全ては否定しなかった。
なぜなら俺も異世界に行ってみたいと思っていたからだ。
 

突然に異世界に飛ばされ、勇者と謳われ、冒険の旅に出る。
そして旅の中で仲間と出会い、衝突したり、恋したり。
絶望や希望を体験し、国を救う旅から世界を救う旅になり……
最後は悪の魔王を倒して、名残惜しいながらも現実に戻る。
 

そんな夢物語を思ったり、願ったり、書いたりした。
俺がもし、異世界に行ったら〜なんて友人と何度も話したりもした。
だけど、現実はそんな甘っちょろいものじゃなかった。
 

金がなく、帰る家もない。
ゲームの世界ではイベントがあるかもしれない。
だけど、現実から来た俺にはそんなものは存在しないだろう。
 

そんな俺が出来ることはただ一つ。

 

「どこかでバイトするか……」

 

行動するしかないということだ。
 

モンスターを倒すと落とすお金で装備を整えたりアイテムを買う。
それが出来れば良いのだが、あいにくここは『とらハ3』の世界。
 

所持金は自分で働いて稼ぐしかない。
寝る場所よりもまずは金。
金がないと食べ物が買えないしな。
 

寝る場所は……まぁ、公園でも良いか。
ってなことで雇ってくれそうなところ探すかな。

 

「それにしても……」

 

異世界に来てもバイトすることになるとは……。
なんとまぁ、普通と言うか……。
異世界に来ている時点で普通じゃないんだけど、なんかなぁ……。















バイトを探すならやはりここで探すべきだろう。
 

俺が向かった先は――海鳴商店街。
どこかで見た頃がある24時間営業の『NOWSON』というコンビニや吉田家(きちだや)という牛丼屋まで。
 

現実からすればパクリなんだが、ここではそれが本物。
田舎から都会に来た観光客のごとく俺はあっちこっちを見て回る。
 

本当、現実世界と変わらないような。

 

「いらっしゃい! 今日は大根が安いよ〜!」
 

「今日のお勧めはサバ! 煮付けとかにどうだ!」

 

商店街には活気が溢れ、大声で客寄せをしている八百屋や魚屋。

 

「ええ、そうなのよ……」
 

「でも、それってあれでしょ?……」

 

楽しそうに会話しているおばちゃん達。

 

「あ、いらっしゃいませー♪」
 

「翠屋シュークリーム4つ、くださいな〜」
 

「翠屋シュークリーム4つですね♪」

 

そして店頭でシュークリームやクッキーを売ってる外人さん。
 

うん、ある意味、現実世界よりも人の温かみがあるかもしれない。
近年、スーパーやデパートが増え、八百屋や魚屋という伝統ある店の客足はそちらに取られてしまっている。

それにより倒産してしまう店も増えてしまっている。
利益を得るためやに色んな商品があり品揃えがいいスーパーやデパートの方が良いのは分かる。
だけど人と人とのふれあいが少なくなっているのは確かだ。

買い物する客と店員。

それだけの関係になっている。
客と店の人が世間話する。

スーパーやデパートではあまり……というかまったく見られないだろう。
こう言う商店街を見ると八百屋や魚屋などの野菜や魚しか売ってない店と言うのはずっと続いてほしいな。
 

笑顔で接客している人もスーパーやデパートのレジでは見られない。
ただ買い物カゴから商品を取り出し、機械を使い精算する。
終われば次の人の分の精算、それの繰り返し。
 

 

「はい、どうぞー♪」
 

 

本当、そう言う人達には見せたいね。
ああ言う風に、笑顔で接客している人を……

 

――って、ちょっと待ったぁ!!

 

思わず自分自身にツッコミを入れてしまう。
と言うか気づけよ俺……。
 

よく透き通るソプラノボイスで笑顔で接客している外人さん。
 

 

フィアッセ・クリステラ。
 

 

まさかこんなに『とらハ3』の人間早く会えるとは思ってもいなかった。
 

つーか、本当に美人だな、おい。
人目で分かる存在感。
 

きっと、どこを歩いても男達の視線を独占するだろう。
 

 

「……あんな美人がこっちの世界に居たら、アイドルになれるな……って、フィアッセは一応、有名人だったか」
 


なんてことを考えてると思い出した。
フィアッセが働いているということは当然、働いている場所、翠屋だ。
考えながら歩いているうちに翠屋の近くまで来ていたらしい。
 

『翠屋』
海鳴商店街の一角にある洋菓子屋兼喫茶店。
アニメでもゲームでも外観は立派だと思ったが、現実はもっと素晴らしかった。
窓から中を見ても綺麗で穏やかな雰囲気なのがわかり、従業員たちもせっせと働いている。
確かに老若男女関係なく親しまれ、フィッアセなどの美人が働いていれば人気な店と呼ばれるに相応しいだろう。

 

むぅぅ……是非、翠屋の料理を食べたい。
空腹状態の俺は、犬がエサを前にマテされているような心境だ。
 

だって、翠屋だぞ、翠屋!
ある意味、三ツ星料理の店よりも人気は上だぞ!
なのはとかとらハ知ってる人とかだけど。
 

だけど、俺の今の残金では料理は愚か、自販機の飲み物すら買えない。
……そう言えば、バイト探してる途中だった。
 

すっかり目的を忘れていた……。
くそ……目の前に、あの翠屋があるってのに御飯が食べれないなんて……
 

バイトして貯めて食べに行くかな。
 

ん?
 

バイト……翠屋……翠屋でバイト。
 

翠屋でバイト=金がもらえる=翠屋で御飯が食べられる。
 

それだ!!
翠屋でバイトしたら良いんじゃないか!
そうすれば金ももらえるし、飯も食べれる。
一石二鳥じゃないか。

それに頑張れば仲良くなれるかもしれないしな。

と言うわけで、さっそくバイト志願してみようかな。
……履歴書いるのかな?
 

まぁ、良いやとりあえず聞いてみるか。
フィアッセと話してみたいのを我慢しつつ、俺は翠屋へと入った。
 

 

「いらっしゃいませー」
 

 

店内に入ると店員さんの明るい声に歓迎された。
 

 

「あ、俺、客じゃなくて、バイト希望なんですけど……」
 

「バイトですか? ちょっと待ってくださいね。
……マスター! バイト希望者が来てますよー」

 

ちょっと待ってねー、と厨房から聞こえ、しばらくすると桃子だと思う人が来た。
 

いやいやいや、若っ!?
どうみても20代後半、いや前半でも通じるぞ、この若さ!?
実年齢は……と言おうと思ったけど、嫌な予感がしたのでやめた。
 

軽い面接と言うことで奥の席に連れて行かれた。
席に座り、面接が始まる。

 

「名前は……えーと、何くんかしら?」
 

「あ、陸奥峻(りくおく しゅん)です」
 

「じゃあ、峻くん。
……なんで翠屋で働きたいと思ったの?」
 

「えーと、それはですね……」

 

さっそく理由を言おうと思ったが固まる。
ど、どう説明すれば良いんだ!?
 

 

『いやー、ちょっと光に吸い込まれて、気がついたら海鳴に居て、一文無しになってまいました。
ってなわけで働かせてください♪』
 

 

……明らか変な目で見られるし、もしくは警察に通報されてしまうな。
つーか、ただの危ない人じゃん。
どう説明しようかな……。

 

「それは?」

待ってるよー!?
むむむ、本当にどうしよう。
理由、理由がー!?

 

「……もしかして、聞いちゃいけなかったかしら?」
 

「え……?」
 

「そうだとしたらごめんなさい……」
 

「え、いや……あの……」
 

いやいやいや!?
何を勘違いしておられるのでしょうか!?
悲しそうな顔をして謝ってくる桃子さん。
 

と言うか、どんなけあなた優しいんですか!?
普通、バイト希望してるんだから聞くでしょ、そこ!?
 

くそ、どうするー、クールなれ、俺!
そ、そうだ!
 

俺は以前書いていた小説の主人公の設定を思い出した。
 

くそ、信じてもらえれるかわからないが、これしかない!

「いえ、そうじゃなくて、信じてもらえないと思っただけなんです……」
 

「信じてもらえない? どうして?」
 

「実は……」

事実と嘘をおりまぜつつ、説明。
両親は幼い頃に死んで、父方の叔父の家に居候していたが、その叔父も死去。
家の方は叔父が死んでまもなく、俺を嫌っていた他の親戚連中によって追い出される。
当然、学校もやめさせられた。
バイトもしようと思ったが、履歴書が無い、住所不明などの理由でどこにも採用されず。
そのまま、行くあてもなく彷徨っていて、海鳴についたが、お金もわずかしかなかった。。
そして、翠屋に着き、バイトを頼み込んだ。

……これなら多分大丈夫だとは思うんだけど、俺が説明し終わったあとの桃子さんが
 

 

「そんなつらいことがあったのね……」
 

 

と涙目になってしまった。
な、なんていうか仕方がない嘘とは言え……罪悪感がひしひしと……。
 


しばらく俺と桃子さんの間に気まずい空気が流れる。
 

……やっぱりダメだろうなぁ。

名前を言っても、所詮は住所不特定な若者。
家出しているか何か犯罪を犯したと疑われるのが普通だろう。
 

桃子さんが優しいのはゲームで分かってるけど、それは個人的。
それをさすが店に自分の感情を持っていくことは……。
 

 

「うん……そんなことを聞いたら桃子さん放って置けないわ……」
 

「え……?」
 

 

思わず桃子さんの顔を見ると何かを決意したような顔。
ま、まさか……。
 

 

「峻くん、今日から働いてちょうだい」
 

しましたよー!?
 

 

「え、あの、本当に良いんですか……? 住所不特定ですよ、俺」
 

 

自分で言っておきながら思わず聞き返してしまう。
だって、その、なぁ?
 

 

「いいのよ。それに息子と同じくらいの子を放って置くことなんてできないわ」
 

 

……なんと言う人間の鑑。
今の世の中の人に聞かせてあげたいね。
人と人は助け合って生きていくものだと!!
 

そんなこんなで陸奥峻。
異世界に飛ばされ約数時間後に翠屋に働くことになりました。
……タイトルつけるなら、翠屋イベントその1終わりってところかな。
 

 
 

あとがき
1話で短いと言われたので1話より長く頑張ってみました。
これでも短いらしいのですが(汗
次回は10KB以上書くように頑張ります。






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