オレ達はあの後、商店街で昼食を取り
(怪物が金をぽこぽこ落とすにも関わらず、物価に変動は無かった……なんでだ?)
今は、桜並木公園の祠の前にいる。

一見普通の小さな社だが、地下には、広大な迷宮が広がっているらしい。

誰が造ったのか知らないが迷惑な話だ。







  試練の祠







「浩平、これ持ってって」

長森が鞄の中から何か取りだし、俺に渡す。
それは、毒々しい緑色をした怪しい草の束……

「……何だこれは?」
「え、何って、薬草だよ?」
「やくそう……ね。で、どうするんだ? これ」
「アンタ、薬草の使い方も知らないの!? 良く今まで生きて来れたわね……」
「そんな事いわれてもなぁ」
「飲みゃ良いのよ、ちょっとした傷ぐらいだったらそれで治るから」
「飲むって……これ、飲み込むのか!? 傷口に塗るとかじゃなくて!?」
「浩平、まるごと飲み込む必要は無いんだよ?」
「ま、普通は数回に分けるわね。この量だったら……五回分ってとこかしら」
「あ……そうなのか?」

……まぁ、まずそうな事に変わりは無いが、とりあえず貰っとくか。

「あ、後これも」

そう言って、再び長森が鞄から取り出したのは、
小瓶に入った、何やらどす黒い粘着質の物体だった。
そしてその小瓶には、なぜか髑髏のマークが描かれている。
……なんか毒っぽいんだが。

「えりくさぁだよ。薬草じゃ間に合わないような怪我した時使って」
「……いや、こんなモン飲んだら、傷が治る前に死ぬだろ」
「そんな事ないわよ? 効き目バッチリ。あたしが保証するわ。
 ただちょっと……ん、んんっ…ほら、折原、早く行かないと日が暮れるわよ?」
「……ちょっと待て七瀬……お前今、何か言いかけただろ?」
「まぁ良いじゃないそんな事。それにえりくさぁって凄い高級品なんだから。
 ……で、行くの? 行かないの?」
「……判ったよ……行きゃぁ良いんだろ」

オレはえりくさぁとやらを受け取り、素直に祠の中に入っていった…





というわけで、祠の中。

中は思ったより広く、しかも、やや薄暗い程度で、視界もそんなに悪くない。

じゃ、さっさと行きますか……。





敵発見
目標―でっかい芋虫×2

「みずかの(略)っ!!」

パアアアアアアッ

――戦闘中――

―勝利―

「……なんだ、結構楽勝だな……これならそんなに苦労する事無いかもな」



――探索――

奇襲!!

敵――でっかい蟻×5

「どわっ!?」

――戦闘中――

―勝利―

「ふへえっ…」







―――――40分経過―――――



「きりがねえぞっ!!」



あれからオレは、結構な怪物を倒してきた。
しかし、一向に宝玉とやらは見つからない。
その上……芋虫や蟻や、蚯蚓や、蜥蜴など(一律でかい)が
嫌と言うほど出て来るので、思う様に前へ進めないのだ……

そろそろこっちの体力も限界だし、戦いでついた傷も結構酷い。
そして、薬草も使いきり、(ちなみに予想通り凄ぇ苦かった)
今こうやっている間も、頭から血が噴き出し、非常に危険な状態だ……
しかし、この黒い物体を飲む気にはなれないし……

…って冷静に現状を確認している場合じゃないな……何とかしないと。



「うぐぅ〜〜〜っ」
「ん?」

奥のほう(感覚的に)から何か声が聞こえてきた。

「…なんだ、また怪物か…?」
「た、たすけて〜〜」        
「人の声のような気もするが……まぁ、オレには関係ないな」

どんどん近づいてくる声を極力無視して様子を見る。
このまま通りすぎてくれればベストなんだが……

     「あ、そこの人、助けてっ! おばけが……」

……速攻で見つかってしまい、小学生ぐらいのガキがこっちに向かって走ってくる。
まぁ隠れていた訳じゃないので、当然と言えば当然なのだが……

「おう、お前、何やってんだ?」
「……うぐぅ だからそれ所じゃないんだって……」
「うぐぅ」
「真似しないでよっ!」
「ふむ……で、なんだって?」
「追われてるんだよっ!!!」
「誰に?」
「だから、おばけだよっ!!!」
「何で?」
「知らないよっ! そんな事っっ!! ってああああああっ!!
「なんだ? …っどあぁぁああぁぁぁぁ!!!

ドドドドドドドドドドドドドドッッ

ガキが走ってきた方から、数十匹の怪物が大挙して押し寄せて来た。

「何やったんだ! お前っ!!」
「わかんないよっ!」

よし、ここは一つ……

「よしっ! よく聞け、二手に分かれるぞ!
 オレは、あっちに向かって走る! お前は今来た道を戻れっ!!」
「うんっ!! ……て、何でだよっ!!」
「わかんない奴だなぁ……おとりだよ」
「だからっ!!! 何でボクが……うぐっ!?」

しかし、その時、既にオレはとんずらかましていた……

「うぐぅ〜〜〜〜待ってよぉ〜〜〜……」







―――10分後―――


「はぁっ……はぁっ……」
「はぁっ……うぐぅ……」
「何とか……撒いたな……」
「う、うん……」

迷宮の中をさんざ逃げ回り、途中で見つけた扉をくぐって待つ事3分。
怪物の群れは通りすぎていったようだ……

ここはどうやら、大き目の部屋になっているらしい。
怪物の姿は見当たらないので、少し休憩を取る事にした。

「……で、お前は一体なんなんだ?」
「ボク? ボクは月宮 あゆだよ。キミは?」
「折原 浩平だ。遠慮無く『浩平様』と呼んで良いぞ?」
「浩平君だね」

ナチュラルに無視しやがった……

「……で、こんな所で何してたんだ?」
「それが、ボクにも良くわからないんだよ。気が付いたらここにいて……」
「ふーん……じゃあなんで追われてたんだ?」
「それもさっぱりだよ……」
「でも、何もやってないのにあんな事にはならんだろ?」
「う〜ん……あ、もしかしてこれのせいかも……」

そういって月宮と名乗った少年は、コートのポケットから赤い玉を取り出す。
赤い玉……七瀬が言ってたのはこれの事か?

「ボクが居た所のすぐそばにいっぱい落ちてたんだよ……
 すごく綺麗だったし、いっぱいあったから、一個ぐらいいいかなって……」
「くすねてきた訳だな?」
「うぐぅ……」

……これはチャンスだな。

「よし判った。それをオレによこせ」
「え? 嫌だよ。せっかく持ってきたのに……」
「だが、それを持っているとまた怪物に襲われるかもしれないぞ?」
「でも……うん、分かったよ。その代わり、ボクを外まで連れてってくれる?」
「おう、お安いご用だ」


――こうへいは赤い宝玉を手に入れた!!――

よし、後は外に出るだけだな……

「んじゃ、行くか」
「うんっ!」


オレ達が立ちあがろうとしたその時、
部屋の入り口の扉を開け、何物かが入ってきた。

「……月宮さん、やっと見つけたよ」

声からして、どうやら男の様だが、ここからでは顔は確認できない。
……この声、どっかで聞いた事があるような……

「知り合いか?」
「ううん……知らない」

男は、ゆっくりと近づいてくる。

「あれ、なんで折原がいるんだ? 参ったな……まあいいや。
 さ、月宮さん……こっち来て。そんな奴の側にいたら食われちまうぞ?」
「……浩平君、ボクの事、食べちゃうの?」
「食うかっ!!!」

こいつ……言うに事欠いて何てこといいやがるんだ……
幾らオレでも…………いや、そうじゃないな。

「お前……一体なにもんだ?」
「おいおい、俺の顔を忘れたのか?」

男は指先から小さな炎を出し、自分の顔を照らす。
オレは……その男の顔に、確かに見覚えがあった。

「お前は……」








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  【折原 浩平】  へっぽこ戦士 Lv.5

HP  54/100   力 知 魔 体 速 運
MP  0/0     10  5  2 10 12 4
   
攻撃  15(18)       防御  12(16)
魔攻  6(6)       魔防  7(17)
命中  87%       回避  10%

装備  みずかのしゃもじ
      安全メット
     作業服

所持金  193円


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  【月宮 あゆ】  こそ泥 Lv.1

HP  28/28    力 知 魔 体 速 運
MP  9/9     2  2  3  3  8  6

攻撃  5(6)       防御  3(5)
魔攻  4(9)       魔防  4(9)
命中  86%       回避  12%

装備  ミトン
      カチューシャ
     ダッフルコート
     はねリュック



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補足

あゆの称号【こそ泥】は、【盗賊】の下位に属する物で
別に言葉通りの意味ではない。
……ま、どっちでも同じような物だが。


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2003/07/02  黒川





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