「ほら〜ぁ、起きなさいよ〜っ、こうへ〜〜い」

「ん……」

遠くで長森の声が聞こえる……

「ねえっ、早く起きないと、ちこ……邪魔だよ!」

ガンッ!!
べショッ
シュゥゥゥ……

「……遅刻しちゃうよ〜?」

……今、なんか、非常に物騒な音が聞こえた気がするが……
オレはまだ眠いんだ……

「幾らなんでも、道端で寝るのは……って、ああもうっ!! 鬱陶しいなぁ――【水球】!!

シュパパパパーン!!
キシャァァァ……
ダバボボボ……

「……どうかと思うよ?」

……一体何が起こっているんだ……?
非常に気になるが……なんか目を開けるのが怖い……
意識はもう、とっくに覚醒しているのだが。

「はぅぅ……どうしたらいいの〜……このまま置いて行く訳にもいかないし……
 よし! こうなったらちょっと手荒だけど――」
だぁぁ!! ちょっと待てっ!! 何をする気だ!?」

このままにしとくと、何をされるか判ったもんじゃない。
下手すると殺されかねない。……いや、比喩じゃなく、マジで……
それは御免被りたいので、とっとと体を起こす。

「あ、起きた。おはよう浩平」
「ああ、おはよう……ってそうじゃなくて!! お前今、何してたんだ!?」
「えっ? 浩平を起こしてたんだよ? 浩平ったらいきなり眠っちゃうんだもん、びっくりしたよ」

辺りを見ると、そこは商店街の入り口付近だった。
どうやらあれからさして時間はたって無いらしく、気を失う直前と、殆ど同じ光景が広がっている。
ただ、オレと長森の周りには、小銭が散乱していたので、
ああ、さっきの音は、長森が、化け物を殺ってたんだな、と、理解した。







  みずかの剣







「……それで、学校は良いのか?」
「よくないよぉ……もう完全に遅刻だよ」

長森は腕時計を確認してため息混じりに呟いた。
正確な時間はわからないが、恐らく八時半はとっくに周っているのだろう。
長森も、何処か諦めた風だ。

「そうか、大変だな」
「なに言ってるんだよ。浩平も同じでしょ?」
「いや、オレは……今日からしばらく休学する事になっている」
「……なんでわざわざ? 明日から夏休みなのに……」
「……はい?」
「明日から夏休み。今日は終業式だよ?」

ぐぁ……気付かなかった……だったら、まったく意味無いじゃないか……
……頼むよ由紀子さん……
っつーか、受理する学校も学校だよな。

「でも、せっかくだから、今日は学校行こうよ」

まあ、どの道、学校にはいくつもりだったしな。

「そうだな、よし! 行くか!」

辺りの小銭を拾いながらオレはそう言った。



オレ達は通学路を走っていた。
どうせ遅刻なのは変わらないんだから、歩いていこうと言ったのだが、長森が――

『そんなの駄目だよ』

――といって聞かないので、しぶしぶそれについて走る。

「ねえ、浩平?」
「ん、なんだ?」
「さっきの……冗談だよね?」
「だから何がだ?」
「すらいムと、本気で戦ってたっていうの……」
「……本気だ」
「…そんなのおかしいよ、すらいムだよ? すらいム……浩平だって……あっ」
「どうした?」
「私……今まで浩平が戦ってるとこ、見た事無い……」

そりゃあそうだろう。
オレは今日の朝まで戦うどころか、あんな化け物にお目にかかった事すら無い。

「そっかぁ……浩平って、実は弱かったんだね……」
「しみじみ言うな、傷つくだろ」
「ごめん……あ、わかった! それで学校休んで、修行するつもりだったんだね?」
「いや……そう言う訳じゃないんだが……」



そうこうしている内に学校に辿り着いた。
どうやらもう、終業式は始まっているらしく、講堂の方から校長の声がもれている。
長森は、途中からでも入ろうと言っていたが、俺はそれを断り、一人教室に向かう。

「どっちみち欠席になるのに、このくそ熱い中、校長の長話なんか聞いてられるか……」

一人ごちながら、無人の校舎を一人歩く。
  そこで、ふと違和感を感じ足を止める。

「ありゃ? こんな所に渡り廊下なんて有ったか……?」

オレの記憶が確かなら、この先はなにも無かった筈だが。
ま、行ってみりゃ判るか。
好奇心に駆られ歩を進めると、そこには――

『闘技場』

――と書かれたプレ−ト貼ってある巨大な建物があった。

「なんだこりゃ……闘技場?」

確かにそう書いてある。
何故学校にそんな物が……とも思ったが、面白そうなので、入ってみた。
薄暗い廊下を抜け、扉を開けると……

「うぉ……」

古代ローマのコロッセオを模して作られたような、文字通りの『闘技場』だった。
本物と比べると随分小さいが、それでも、その光景は圧巻だ。

「何をしてるんだい?」
「えっ!?」

突然、背後から声をかけられ、思わず仰け反る。
振り返るとそこには、若い教師が立っていた。
直接、授業を受けた事は無いが、何度か顔を見た事がある。

「ははは、そんなに驚かなくても良いよ。……ここが気になるのかい?」
「え、まぁ……そうっすね」

一応事実なのでそう答えておく。

「見た所、君は……戦士見習いかな? 試験を受けにきたわけではないようだけど……」
「は? せんし? しけん……?」

なんの事だ?

「ふむ、まあ、いいだろ、僕も暇だったんだ。さ、中に入って」
「は、はぁ……」

なんだか良く判らなかったので、曖昧に返事をしておく。
しかし、その教師はそれを肯定と受け取ったのか、俺をリングに押し出し、扉を閉める。

「ちょ、まってくれ! オレは――」
『心配しなくても大丈夫だよ? いきなりそんなに強いモンスターは出さないから』

備え付けられたスピーカから、さっきの教師の声が響く。
モンスターというのは、さっきの奴等の事だろうから、つまりこの展開は……

『じゃあ相手は……『G・アんト』で良いね?』

戦え……って事だな。
G・アんトってのが何かは判らないが、まあ、いきなり殺られる事は――。

『あ、ちなみに怪物は手加減なんかしないから、死なないように気をつけてくれ。あと、怪物倒すまでそこの扉は、開かないから』

――あるのかよ!? その上逃げ場も無いと来た……

「お、おい、ちょっと待て! オレを殺す気か? おいっ!!」

しかし、既に反対側の扉からは、体長1メートルぐらいのでかい蟻が現れこっちに向かってきている。
スピーカからは、鼻歌がきこえてくる。どうやら出してくれる気は無いらしい。
こうなったらやるしかない…覚悟を決め、みずかの剣を……
……?

「あれ!? そう言えばオレ、みずかの剣、どうしたっけ?」

手には何も持っていない。背中には、鉄パイプを背負っているが……
良く考えたら、登校中、みずかの剣を持ってた記憶がない。

「しまった、落としたか?」

蟻は、既に目前に迫っている。
仕方が無いので、鉄パイプを装備し、蟻に向かって殴り付ける。

ガンッ!!

手応えは有った……が、あまり効いてはいない様だ。

「うおっ?」

大顎が襲い来る。何とかかわそうとするが、反応が遅れ腕を掠めた。

「いてぇだろ! こん畜生!!!」

再び、鉄パイプを振りかぶり叩きつける……が、やはり大したダメージは与えられない。
蟻は、一瞬怯んだが、すぐさまオレに襲いかかってくる。

「やべっ!?」

かわしきれない!?
とっさに、鉄パイプを構え、攻撃を防ごうとするが……

グゥワギッ…ン!

「げっ!?」

蟻は、やすやすと、それを噛み砕く。

やべぇ…
絶対絶命……か?

   『あ〜あ〜……なにやってんの?』

その時、耳元で声が聞こえた。あの、クソ教師の声じゃなく、少女の声……

「みずかっ!?」

それは確かに、みずかの声だった。

「…って、今は、それ所じゃねぇ!」
   『大丈夫だよ、ほら』

ピシッ!!

何かが、ひび割れたような音が響いた直後、周囲の景色が色を失い、全てが……停止していた。

「……ありゃ? ……どうなってんだ?」
『こうへいを、時間の流れから外したんだよ。この方がゆっくりお話できるからね』

目の前には、何時の間にかみずかが立っていた。

「時間を止めた……ってことか?」
『ううん、違うよ……でも、こうへいから見るとそうなるのかな?』

……良く判らないが、まぁ大した問題じゃないか。

『ねぇ、なんで『みずかの剣』使わないの? せっかくあげたのに……』
「ああ、わりぃ……無くしちまった」
はぁっ!? ……って、何いってんの、ちゃんと持ってんじゃない……』

そう言ってみずかは、オレの右手を指差す。

『その指輪だよ。必要な時に念じれば、ちゃんと武器の形を取ってくれるから』

みると、確かに、右手の中指に白金に輝く指輪がはめられていた。

「そうゆう事は、先に言ってくれ……」
『あはは、ごめん』
「……で、念じるって、具体的にどうやるんだ?」
『右手に意識を集中して、武器をイメージしてみて?』

オレは、言われた通りにやってみるが……

「……何も起こらないぞ?」
『あれっ? おかしいなぁ……』
「使えないって事か?」
『いや、そんなことないよ……うーん……あ、そうか、キィワード……
 じゃあねぇ……『みずかのを受け、我が剣よ、ここにっ!!』……って言ってみて?』
「………………は?」
『あれ、聞こえなかった? 『みずかの……』』
「あ、いや…………聞こえた……聞こえたけど……マジで?」

その恥ずかしい台詞を……オレに言えと?

『うんっ♪ それでバッチリの筈だよ……あ!』
「ど、どうした?」
『そろそろ時間だね……』
「え、あ…おい!!」
『あんまり長くここにいたら、色々とまずいんだよ。じゃ、元の時空に戻すよ?』

キィィィィィィィィィィ……ン

耳鳴りと共に、みずかの姿が薄れて行き、周囲の風景が色を取り戻して行く。

   『がんばって』
「がんばって……って、うおっ!?」

元に戻った瞬間、蟻が、オレに襲いかかってくる。

   『ほらぁ、早く言わないと』
「くそっ…『み…みずかの……あい…を受け、我が剣よ、ここに…』」

……何も起こらない。

   『声がちぃさぁ〜い! もっと気合入れないと、だめだよ!!』

そんな事言われても、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
だが、武器を失ったこの状態では、勝ち目が無いのも、事実だし……

…………

……ちくしょう……こうなったらヤケだ。

「みずかの愛をこの手に受けっっ
我が剣よっ、今ここにぃっっっっっ!!」

パァァァァァァァァァッ……

叫んだ瞬間、掌がまばゆい光を発し、みずかの剣が実体化する。

「これが……『みずかの剣』……」


つづく…


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   【折原 浩平】   高校生 Lv.1

HP 48/48  力 知 魔 体 速 運
MP  0/0   5  3  2  5  5  3
   
攻撃  7(10)      防御  6(9)
魔攻  4(4)      魔防  4(14)
命中  84%      回避  5%

装備  みずかの剣
      てつかぶと
     かわのよろい

所持金  532円


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魔術メモ


【水球】(うぉーたー・ぼーる)

  水属性魔術Lv1   対象 敵単〜敵グループ
  基本攻撃力 15  基本命中率 60  消費MP 2〜5
  こぶし大程の水の球を数個、敵に向かって投げつける。
  破壊力、命中率、共に低く、雑魚敵掃討用ぐらいにしか使い道は無い。


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2003/06/08  黒川






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