サイキックフォース×魔法少女リリカルなのはSS Keith in Lyrical World


 聖王教会。
 数多くの次元世界に影響力を持つ、有数の大規模組織である。
 少数ながら有している独自戦力、教会騎士団は一騎当千の猛者揃い。
 実証されたことはないが、その実力は管理局最強の戦闘集団、戦技教導隊と正面きって戦える程と言われている。
 そして、その猛者共を束ねるのが、聖王教会教会騎士団騎士団長カリム・グラシア。
 通称“騎士”カリム。
 教会内外に徳の高い人間として知られている彼女だが、彼女自身に関することは、知名度とは裏腹に驚くほど知られていない。
 そんな人間のもとに、キースとフェイトは案内されていた。



▽―――第4話・騎士カリム―――



「こちらの部屋でお待ち下さい。間もなく、騎士カリムがお見えになります」

 シャッハの転送魔法で聖王教会本部―――大聖堂―――まで来たキースとフェイトは、彼女の案内に従い、豪華ではない、だが質素でもない、洗練された雰囲気を放つ応接室に案内された。
 壁一面を使った大きな窓からは、雲1つない夜空に浮かんだ2つの月が見えた。
 そして窓から眼下に見える景色は、山の上に建てられているこの本部―――大聖堂―――へと続いている街に、月明かりが降り注いでいるという幻想的な光景だった。
 窓際に立ち、黙ってその光景を見つめるキースに、フェイトが話しかけた。
 
「何を考えているんですか?」
「・・・・・今となっては、意味の無い事を考えていた。――――――もし、私がこの世界に呼ばれなかったとしたら、元の世界で、このような世界を作り上げられただろうか?」

 フェイトがどう答えて良いのか分からず無言でいると、キースは構わずに話し続けた。

「―――この世界は、ある意味私が夢見た世界の形の1つだ。人が持つ異能が、正しく人の個性として認識される世界。異能を持っているというだけで、迫害されることの無い世界。もちろん、全てが上手くいっている訳ではないだろう。異能の使い方が分からず、人を傷つけてしまう人もいるだろう。周囲の無理解で迫害されることもあるだろう。だがそれでも、この世界ならちゃんと生きていける。その方法が用意されている」

 キースの視線は、相変わらず眼下の街に注がれたままだ。
 だがフェイトには、彼の目には別の光景が写っているような気がした。

「だからかな、ただの自己満足かもしれないが、私はこの世界を護る仕事をしようと思う。自身が夢見た世界が、どんな世界なのか。それを見ていきたい。――――――そこで、貴女にお願いがある」

 そこまで言って、キースはフェイトに向き直った。

「私を、貴女の補佐官として採用して欲しい。確か執務補佐官は、幾つかの試験があるものの、ほぼ執務官の独断で採用できたはず。――――――戦闘のサポートという一点だけをとってみても、私を採用するメリットは十分にあると思うが、どうだろうか?」

 この突然の、そして思いもよらなかった申し出に、フェイトは驚きを隠せなかった。
 だがこの提案は、フェイトにとってこの上なく魅力的なものだった。
 なにせ彼の能力は、既に疑いようがない。
 戦闘力はもちろんのこと、執務官に必要な調査能力(とりわけ対組織戦能力)はずば抜けたものがある。
 そんな人間が補佐官としてついてくれる・・・・・。
 この上なく魅力的な話。
 キースの考えは、十分過ぎるほど理解できる。
 夢見た世界の形の1つが、目の前にあるのだ。
 それを見て見たいと思うのは、ある意味当然のことかもしれない。
 執務官(補佐官もだが)は、必要とあれば世界中のあらゆる場所に赴く。
 世界を見たいというのであれば、これほど適した仕事はないだろう。
 キースは自分の希望が叶えられ、フェイトは優秀な補佐官を手に入れられる。
 ギブアンドテイク。
 互いに得るものが大きい、理想的な提案。
 
 ―――受けるべきだ。
 
 フェイトの理性はそう告げている。
 何も問題はない。
 彼の協力が得られるなら、調査が難航している幾つもの次元犯罪を、解決に導けるだろう。
 この話を受ければ、「ロストロギアで生み出される悲劇をなくして行きたい」というフェイトの願いを叶える、大きな力となってくれるだろう。
 強力な手駒が手に入る。
 だから、受けるべきだ。
 理性が歌う、悪魔の囁き。
 だが、感情が否と言う。
 
 ―――彼は被害者。私は彼に何をさせる気なの?
 
 彼から全てを奪った私が、彼を使って自分の願いを叶える?
 そんなことが、許されるはずがない!!
 フェイトが理性と感情の狭間で揺れ動いていると、コンコン、とドアがノックされた。
 キースが返事を返すと、シスター・シャッハが部屋に入ってきて、

「お待たせしました。騎士カリムがお見えになります」

 と告げた。
 そうして部屋に入ってきたのは、“淑女”という言葉が、そのまま当てはまりそうな女性。
 整った容姿。
 人を安心させる穏やかな微笑み。
 腰まである、良く手入れされた乱れの無い金色の髪。
 そんな彼女を見て、騎士というイメージが出来る人間は、そう多くないだろう。
 だが彼女は、一騎当千の精鋭揃いと言われる、聖王教会騎士団の頂点に立つ人。
 カリム・グラシア。
 通称“騎士”カリム。

「お待たせしてしまって、申し訳ありません。聖王教会騎士団騎士団長カリム・グラシアです。―――本日は突然の招待に応じていただき、ありがとうございました」
「キース・エヴァンスです。かの名高き騎士カリムに招待されるなど、光栄なこと。感謝こそすれ、謝られるようなことではありません」
「本局次元航行部隊所属、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です。本日は、彼の保護担当者として同行しました」

 3人は簡単な自己紹介と握手をして、部屋の中央にあるソファーに腰掛けた。
 キースとフェイトが並んで座り、テーブルを挟んだ対面にカリムという形だ。
 シャッハは座ることなく、カリムの右斜め後ろに立っている。
 まず口を開いたのは、招待した側、カリムだった。

「―――まずは、お礼を言わせて下さい。貴方がいてくれたおかげで、お預かりしていた子供達は全員無事に、親の元へ帰ることができました」
「助けられる命を、助けただけのこと。――――――それはそうと、お預かりしていた子供達とは?」
「あの時、あの宿舎を使っていのは、聖王教会が運営している学校の者達でした。貴方が通りがかってくれたおかげで、誰一人欠けること無く、親の元に帰ることができました。重ね重ね、お礼申し上げます」
「そうでしたか。子供達が誰一人欠けること無く、親元に帰れたのなら、力を振るった甲斐があったというものです」

 カリムの穏やかな微笑みと、誠心誠意心を込めたお礼の言葉。
 同じく穏やかな表情を浮かべて答えるキース。
 こうして始まった2人の話し合いは、しばらくは、和やかな雰囲気が続いた。
 
 ―――時に世間話を、
 
 ―――時に冗談を、
 
 ―――時にちょっとだけ真面目な話を、
 
 洗練された2人の会話は、それだけで華があった。
 「何処が?」と問われれば、具体的に答えるのは難しいかもしれない。
 話し方が、仕草が、どういう訳か意識に残る。
 それも嫌な残り方でなく、もう一度見て見たいと、他人に思わせる残り方だ。
 そんな2人の会話に、内心驚いていたのはシャッハだ。
 今まで、カリムと初対面でここまで話せた人間は、ほとんどいない。
 大体の者は、カリムの持つ雰囲気に呑まれて大人しくなってしまうか、逆に自分を誇示しようとするかのどちらかだ。
 だがキースという男は、自然体で話している。
 どれだけ見ても、力んでいる様子も、緊張した様子も見当たらない。

(あの英雄クロノ・ハラオウンですら、内心の緊張を隠しとおせなかったというのに!!)

 シャッハの内心を他所に、2人の会話は続いていく。
 だが唐突に、しかし何でもないことのように、キースはシャッハに尋ねてきた。

「――――――ああ、そういえばシスター・シャッハ。貴女はあの時、どんな用事であの場所に?」

 予想されていた問い。
 シャッハは、予め用意していた答えを返した。

「視察です。聖王教会に仕える者は、お勤めの一環として、時折関連施設を視察することがあるんです」
「なるほど。騎士団長の直衛を勤める者でも、聖王教会の一員である以上、お勤めからは逃れられないということですか。大変ではないですか?」
「本来の仕事もありますので、簡単なことではありませんが、大変なこととも思いません。なにしろ騎士カリムは日頃から、「地位ある者は、己を磨く事を忘れてはならない」と言い、努力を欠かさない人。そんな姿を見せられては、直衛に立つ者として努力しない訳にはいきません。視察は見聞を広める良い機会として使わせてもらっています」

 シャッハの答えにキースは、

「立派な考えをお持ちのようだ。―――騎士カリムは、こんな立派な部下を持てて幸せ者ですね」

 と返し、相手が口を開く前に更に続けた。

「立派な上司に、立派な部下。そんな貴女方に、1つ質問をしても良いですか?」
「私達で答えられることでしたら」

 カリムが穏やかな微笑みを浮かべたまま答えた。

「では遠慮なく。――――――今、私がここにいるのは“偶然”ですか?」
「・・・どういう意味でしょうか?」

 数瞬考え、意味が分からないといった表情をするカリム。

「“偶然”教会の人間と出会った後に、“偶然”火災が発生して、“偶然”力を持っていた一般市民がこれを消火、子供達を救出する・・・・・。そんな“偶然”、本当にあると思いますか?」

 和やかな雰囲気が一転、緊張が走る。
 キースの眼光が鋭くなり、カリムも正しく悟ったようだった。
 彼が招待に応じた目的は、これを確かめるためだったのだと。

「私達を疑って――――――」

 シャッハが激烈な反応を示し言い返そうとするのを、カリムは片手で制し、微笑みを浮かべた―――だが決して目は笑っていない―――表情で口を開いた。

「・・・・・つまり、私達の自作自演ではないかと疑っているのですね」
「そういうことになる。――――――貴女方が“そういうこと”をする人間とは思いたくないが、以前私はこの“力”ゆえに狙われていた身でね。その辺りのことに妥協するつもりはない」

 カリムは、キースの隣に座るフェイトを見て思った。

(なるほど、フェイト執務官を同席させたのは、この為だったのですね)

 この時カリムは、既にキースの考えが読めていた。
 そしてそれに乗らざる得ないことも。
 フェイト執務官の前で言葉を濁せば、ほぼ間違いなく疑念を持たれるだろう。
 そう思える程に、“偶然”という要素が重なりすぎていた。
 今や次元航行部隊の顔とも言え、超一級の実力を持つ彼女にそんな印象を持たれるのは、今後を考えれば大きなマイナス。
 それが濡れ衣であれば尚更である。
 つまりキースは、フェイト執務官を同席させることにより、“答えない”という選択肢を潰してきたのだ。
 カリムの思考が、かつてないほど加速していく。
 
 ―――どうする?
 
 説明するのは簡単だ。
 自身が持つスキル、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)のことを話せばそれで済む話。
 だがこのスキルは、―――的中率があまり高くないとはいえ―――未来を見通す力。
 軽々しく口にすることはできない。
 しかし彼が言うとおり、“偶然”が重なり過ぎているのも事実。
 ここで言葉を濁せば、それはフェイト執務官の中に、確実に疑念となって残るだろう。
 それは避けたい。
 構想中である“機動六課”のことを考えれば、彼女の中に疑念を作ってしまうのは絶対に避けたい。
 しばし悩んだ末、カリムは口を開いた。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。聖王教会騎士団騎士団長カリム・グラシアとして問います。――――――彼は、信用できますか?」

 突然の問い。
 だがフェイトは、一切迷う事無く答えた。

「できます。彼は決して秘密を軽々しく口外する人間ではありません」

 即答で返される問い。
 この時のフェイトの表情は、シャッハから見ても、カリムから見ても、「彼は決して裏切らない」と言っているように見えた。
 悩むカリム。
 だがフェイトの毅然とした態度が、決断を後押しした。
 
「・・・・・いいでしょう」
「騎士カリムッ!?」
「良いのですよシャッハ。“後のこと”を考えれば、ここで話しておいた方が良いでしょう。―――ですが、最後に確認しておきます。聞けばもう引き返せませんが、それでも聞きますか?」

 キースは、迷う事無く肯いた。
 後に設立される機動六課に、キース・エヴァンスという異世界のファクターが食い込んだ瞬間である。

「―――分かりました。では、お話しましょう」

 そうしてカリムの口から語られるのは、自身が持つ古代ベルカ式レアスキル、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)のこと。限定的ながら未来を見通せること。その預言に“力持つ者が現れる”とあったこと。万一の事態に備えて、最も信頼できる者を預言が示した場所に派遣したことなど等々。
 身体の周囲に古代ベルカ語で、未来が書かれた幾つもの札を、浮遊させながら話すカリムの言葉を、キースはじっと聞き入り、全てを聴き終えた後こう言った。

「未来が見えても、なお真っ直ぐ前を向いて歩くというのは、並大抵の精神力で出来ることではないと思う。―――そんな貴女の強さは尊敬に値する。先ほどの無礼な物言いを許して欲しい」
「いいえ、気にしないで下さい。貴方からしてみれば、私達に疑いの目を向けても、仕方の無い状況が揃っていたのですから」
「そう言ってもらえると助かる」

 さて、ここで終わればキースは自分の情報は一切出さず、相手には持っているスキルのことまで喋らせるという、交渉事としては完全勝利だったのだが・・・・・・・・・・油断大敵。
 カリムの鮮やかな切り返しが待っていた。
 
「さて、次は貴方の番ですよ。キース・エヴァンス」
「なに?」
「レディにだけ秘密を喋らせておいて、自分のことは一切話さないなんていうことは、もちろんないですよね? 貴方という人間を信用して、秘密のことまで話したのですから、当然、貴方の話も聞かせてくれるのですよね?」

 ―――やられた!!

 瞬間脳裏をよぎった、キースの偽らざる思いだった。
 キースが目的があってここ―――聖王教会―――に来た(招待された)ように、カリムやシャッハも目的があってキースをここに招待したのだ。
 目的なんて、考えるまでもない。
 未来を見通すという力―――預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)―――の話が出た時点で、キースは気づくべきだった。
 それは預言に記された人間が、どんな人間かを確かめること。
 人間の心理を考えれば、決して推測できない答えではなかったはずだ。
 その為に彼女―――カリム―――は、己のスキル情報をエサにして、キース自身の口から自分のことを語らざる得ない状況に追い込んだのだ。
 無論ここで、“話さない”という選択肢は残されている。
 だがそれは、信用してくれた相手を信用しないという行為。
 相手にとっては侮辱以外の何物でもないだろう。
 
「・・・・・・・・・・勝ったと思ったのだがな。貴女の方が一枚上手だったか」
「危ないところでした。貴方も、相当に経験があるようですね」
「それほどでもない。――――――さて、私の話だが・・・・・あまり面白い話ではないし、確認が取れる話でもない。それでも良いかな?」

 カリムは無言で肯き、先を促した。
 そうして語られた話に、カリムとシャッハは驚きを隠せなかった。
 
 ―――魔法とは似て非なる力を操るサイキッカー。
 
 ―――異能を持つ者への、繰り返される迫害。
 
 ―――人の尊厳全てを踏みにじる数々の人体実験。
 
 ―――同胞を救う為に立ち上げた組織、サイキッカー集団ノア。
 
 ―――苛烈を極める戦いの最中に起きた、ロストロギアによる召喚。
 
 ―――次元漂流者となり、二度と元の世界に戻れなくなったこと。
 
 ―――フェイト執務官による保護。穏やかな生活。
 
 ―――そして至る、今。
 
 正直、カリムには想像がつかなかった。
 キースはかなりオブラートに包んで話していたが、彼が元の世界でやっていたことは、突き詰めれば現体制への反抗。
 そして新しい体制の創造。
 二十歳にも満たない青年が、どれだけの能力と、どれだけの決断力と、どれだけの実行力を持てば、一から組織を起こし、幾多の人の命と人生を背負い、世界規模の抵抗運動が出来るのだろうか?
 この話を、嘘と断じるのは簡単だ。
 この場で、そう言えばいい。
 だがキースの話には、そう言わせないだけのリアリティがあった。
 本当の地獄を体験した者にしか語れない生々しさが、彼の話にはあった。
 そこでふと、カリムは先代騎士団長のことを思い出した。
 騎士団長の座を譲り受けた時にもらった、あの言葉。
 
「―――“力”とは、武力のみを指して言うのではない。人を纏め導くのも立派な“力”だ。だが魔導師は、自身が圧倒的な強者ゆえにそれを忘れてしまうことが多い。カリムよ、お前は決してそれを忘れないでくれ」
 
 確か先代の騎士団長も、彼と同じような目をしていた。
 聖王教会が保有する全戦力を投入することになった、二度の大戦を生き延びた老騎士。
 既に他界しているが、今でも尊敬の念が色あせることはない老騎士と同じ目。
 
 ―――キースの話は、信じられると思った。
 
 沈黙するカリムを見たキースは、
 
「―――だから言っただろう。面白い話ではない、と。それに、初めに言った通りこの話は確認が取れない。責任ある立場にある者が信じるには、問題あるだろう」
 
 と言うが、カリムは首を横に振り、「信じます」と答えた。
 
「・・・・・客観的に見て、確認も無しに信じられる話ではないと思うのだが?」
「―――先ほどお話した私のスキル、預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)ですが、あれは古代ベルカ語、しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章で綴られるものゆえ、事が起こってから正しい意味が分かることも多々あります。―――今回も、そうだったようです」
「どういうことかな?」
「預言に綴られた“力ある者”。私は当初、貴方の絶大な氷結能力のことを指しているのだと思っていました。ですが、話を聞いて考えを改めました。“力”とは物理的なもののみを指している訳ではなく、人を纏め導くのも“力”であると。―――そのように考えれば、貴方の話にも納得がいきます。その若さで幾多の人の纏め導くなど、並大抵のことではありません」
「私が嘘をついているとは、考えないのか?」
「正直に言えば、聞いた直後は思いました。――――――ですが良く考えてみれば、この場でそんな嘘をつくメリットが貴方には何一つない。更に言えば、預言に綴られた“力ある者”という言葉の解釈、そしてこの私が貴方から受けた印象を踏まえて、嘘ではないと判断しました」

 カリムはハッキリと、キースを見つめて言った。
 その表情に迷いはない。
 
「信じてもらえたようで、何よりだ」
「こちらこそ、思い出したくない過去だったでしょうに、よく話してくれました」
 
 両者の緊張が解け、穏やかな雰囲気が戻る。
 この時になってようやく、フェイトとシャッハは、いつの間にか緊張しきっていたことに気づいた。
 背筋を流れる冷たい汗が、その証拠だった。
 
(―――すごい。「切れるカードはほとんど無い」なんて言っていたのに、ここまで渡り合うなんて)
(―――彼の過去・・・恐らく嘘ではないでしょう。物理的な“力”だけの人間が、騎士カリムとここでまで渡り合うなんていうこと、できるはずがない)
 
 これが隣で話を聞いていたフェイトとシャッハの、偽らざる思いだった。
 2人の思いを他所に、キースとカリムの話は続いていく。
 先ほどとは違い、穏やかで和やかかな雰囲気だ。
 そうしてしばらく経ち、時計の針が午後7時を指した時カリムは、
 
「この後、一緒に夕食でもいかがですか?」

 とキースとフェイトを誘ったのだった。



 第2部 第5話へ続く



 




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