まえがき
今回からデバイスの発言を[]のみで表現することにしました。
予想以上に英語が難しくなってきたので……。
ご了承お願いします。



「まあ今の話を聞けばわかると思うが、俺とクロノってあまりいい出会いをしてないんだよな」

「ロリコンって……」

少し引き気味のティアナ。キャロにいたっては自分の体を抱きしめている。体が震えているのは気のせいではないだろう。

そんな二人にフェイトは困った顔だ。それでも否定しないのはあの頃を思い出しているからなのか。言外に酷いな、フェイト。一応あれでも君の義兄 なんだけど。

「とまあクロノの異常性癖の話はそこまでにしておいて……。あのなのはさん、エイミィに連絡するのだけはやめてあげてください」



如月大和は不機嫌である。

惰眠を妨害されたからなどという些細なことで不機嫌になったわけではない。そもそも大和自身は早く起きることを常としている。そのほうがなのは 達と多くの時間を過ごせるからだ。だから別に原因は『日常』にあるわけではなかった。

不機嫌にした原因は目の前で呑気にケーキを食べている。内心で舌打ちするが、表には決して出さない。隣にはなのはがいるのだ。そんな表情は見せ られない。

だがあからさまに音をたてながらその二人のテーブルへと向かい、断ることもせずに正面の椅子に座る。そんな大和の様子にリンディは微笑む。その 表情がさらに大和を苛立たせた。

「……何の用事ですか。二度と姿を見せないように言ったはずですが」

「おいしいわね、このケーキ」

大和の言葉が聞こえないかのようにリンディはケーキを食べる。その様子に挑発されているとわかりながらも苛立ちを抑えきれない。少しだけ視界を ずらし、再度リンディに問う。

挑発にのらされてはいけない。のってしまえば最後、あちらに主導権を握られてしまう。それだけはなんとしても避けたかった。

一呼吸おいてもう一度話しかける。

「……こっちだって暇じゃないんですよ。要件を早く言ってもらえますか」

「皆にここのケーキをお土産に持って帰ってあげようかしら」

再度の挑発。白々しい態度に、大和はほんの少し失望した。もう少し要領のいい人かと思っていたからだ。故に先ほどよりは苛立ちを覚えなかった 。

ならば、と思う。相手が誠意をもって接しないのならば、こちらとてそれ相応の態度をとるだけ。

溜息を一つつく。そんな大和の隣でなのははおろおろするばかり。自分の不甲斐なさにもう一度溜息。これではまたアリサに怒られてしまう。

「要件をどうぞ。ケーキを食べるためだけに来たわけでは」

「それなら話は早いわね。もう一度言うけれど、私たち管理局と協力する気は?」

昨日と同じ言葉にまたかと思いかける。しかしそこで不審に感じた。管理局で提督という地位がどれほどのものかは知らないが、やはり地位相応の頭 は持っているはず。現にこの場へお伴を連れてきていないのがいい例だ。だとすれば、よほど自分に自信があるのか?

ならば何故、答えがわかりきっている質問をもう一度するのか。そこまで考えて、隣に座るなのはのことが関わってきた。その表情はどこか固い 。

「……まさか」

「彼女は私たちに協力してくれるそうよ?そこにいる彼もね」

そう言ってユーノへと視線を向ける。その瞬間、既に大和は自分に選択肢がないことに気がついた。遅すぎたのか。

「っ……」

「わかってもらえたかしら?」

「……わかりました、わかりましたよ。協力します、協力すればいいんでしょ。…………これが、貴方達の言う『正義』ですか」

きっ、と正面に座る女性を睨みつける。その視線にリンディは逸らすことをせず、真正面から受け止めた。両者の間に流れる不穏な空気。

しかしそれを先に無くしたのは、予想外なことに大和だった。体の力を抜いてイスに深く座りこむ。さっきまでの緊張感が嘘のように霧散していく 。

隣に座っていたなのはが安心したようにしていた。

「ですが、協力すると約束した以上、しっかりとやらせてもらいます」

「……本当か?」

突然、今まで黙っていたクロノが口を開く。クロノのあまり協力的でない言葉に大和は即座に反応する。

「何だよ?」

「僕は彼女に協力を依頼して、そして彼女はそれを受け入れた。その点において、何故君の了解を得なければならない?」

再び緊迫した空気が流れ始めた。大和はすまし顔のクロノを睨みつける。

「ごく最近に魔法を手に入れたなのはを、ユーノがいるとはいえ……放っておけるか」

「それが気にくわないな。……やはり正解だったみたいだ」

大和の言葉をクロノは嘲笑う。その様子に大和は何かが引っかかった。しかしその感覚が何かはわからない。

違和感を気にしながら大和は更に強く睨みつける。

「どういうことだ?」

「君がいない間に彼女に話したのさ。おかげで協力依頼はすんなりいったよ」

俺がいない間に……?

一瞬言われたことが理解できなかった。自分がなのはの側を離れたのはほとんど無いはず。しかし一点だけ大和には思いつく節があった。それは昨日 リンデイ・ハラオウンと接触した時。

その瞬間、自分の不甲斐なさや相手への怒りが混ざって爆発した。

「おまえっ!」

一瞬の動作で詰め寄ると、大和はクロノの襟首を掴んで持ち上げた。怒りの形相の大和に対し、クロノは冷静そのもの。動じることなく大和を見つめ る。むしろ後ろにいるリンディの方が慌てているぐらいだ。

クロノは首を絞められたままで話し始める。

「僕は選択肢を彼女に示して、それを彼女が選んだだけだ。この意味がわからない君じゃないだろう?」

「その言葉にどれだけの意味がある!俺のいない所でなのはに話したこと、それを信じろって言うのか!」

言いがかりに近い怒りであることは大和自身も理解している。だが、理解していても納得できるかは別物なのだ。

少し大人びた発言や行動から忘れることもあるかもしれないが、大和とて年頃の子ども。自分ではどうしようもないことは幾らでもある。それをサポ ートしてやるのが年上の役目でもあり、周りの大人がやらなければいけないこと。それをクロノはわかっていた。

例えそれが憎まれ役であろうとも。それはリンディとも話して決めたことだった。管理局のことをどう言われようとも、少なくともリンディやクロノ に大和やなのはを利用しようという気は全くない。出来るなら止めたいとは思うが、彼らの気持ちは理解していた。だからこそ、サポートしようと決 めた。

大和に付き合うように会話を続ける。ここは人生の先達である自分が行うべき責任であるから。クロノ自身の気は進まないが。もともとこんな役回り ではない。ただ単に周囲の人間がそれ以上に似合わなかっただけの話だった。

「君がそう言うのなら、僕が何を言っても信じてもらえないだろう。それなら直接彼女から聞けばいい」

「そんな言い方でっ!!」

今まさに殴ろうとした大和は、意外なところから止められた。

「そこまでにして頂戴、クロノもよ。私たちはとりあえずこれで帰りますから、話は直接なのはちゃん達から聞いてみたらどうかしら」

そんなリンディの言葉を聞き若干冷静になった大和はクロノを放す。皺くちゃになった襟首を正しながら、クロノはリンディの隣に立つ。

それを見た大和もなのはの隣に戻った。怒りはまだ収まらないが、ここは冷静にならなければいけない場面。何度か軽い深呼吸をおこなった後、椅子 に座る。

すると弱々しくだが、右手を握られた。少し驚いたが顔は動かさない。握ってきた手が微かながら震えているのがわかったから。心の中で大きく溜息 をつく。いつもそうだ、自分の馬鹿さ加減に幻滅するのは。そうして後悔するばかり。

そんな大和となのはを尻目にリンディ達は帰っていった。



リンディ達が帰っても、すぐには席を立たなかった。それはなのはも同様。しかしいつまでもそこに座り続けるわけにはいかない。

意を決して立ちあがると、隣で俯いていたなのはと目があう。そのままどちらがというわけでもなく、外へと向かった。きっとここでは話しにくい内 容になる。それがわかるからこそ、なのはも立ち上がったのだろう。

行く当てもないままに外へ出る。士郎さん達に何も言っていないが、さっきの話を聞いているだろう。それなら必要はない。

すぐに話を切り出せそうになかったから、少しなのはと一緒に歩く。大和にはもちろん、なのはにも考える時間は必要だった。黙々と歩き続ける二人 。気づけばいつもの公園に着いていた。

いつもと同じように吹く風に身を任せる。何も難しく考える必要はないのだ。なのはは大和の物じゃない。それならやはり、なのはが進みたい道を進 むべきなのだ。

幾分か落ち着いた気持ちで大和が切り出す。いつだってこういうのは自分、男の役目だ。

「……本気なのか、なのは。今ここで管理局に従えば、この先必ず組織に飲み込まれることになる。あいつらだってわかってるはずだ、なのはの潜在 能力に」

「それでも、私がフェイトちゃんにしてあげられる事ってあんまり無いから。だから、私の出来る範囲でやれることをやろうって思ったの」

確固たる信念を持って、なのははしっかりと大和を見据えて話す。最初に感じたなのはのイメージとはだいぶかけ離れている。その気持ちだけで本当 は十分なのだが、そう簡単に認めるわけにはいかない。大和にも意地というものがある。

というよりは、体面的な問題の方が大きかったのだけれども。世間的にはプライドとも言う。何より、女の子の前では格好悪いことはしたくない 。

「だけど、いつか後悔する日が来るかもしれない」

「……大和君の言う通りかもしれない。でもね、フェイトちゃんを助けたいって思ってるのは、大和君だけじゃないんだよ。それにね、いつか後悔す るかもしれない日のことを悩むより、今を後悔したくないって思うから」

視線を一切逸らさないなのはに、大和は誰かの影を見る。それが誰かはわからないが、別に重要なことじゃない。大事なのは、なのはが本当にいつの 間にか、決心していたこと。

……いや、大和はまだなのはという人間を知らなかったのだろう。なのはの新しい一面を見たような気がして、少し不謹慎ながら嬉しい気持ちになる 。状況がどうであれ、親しい人の新しい一面を知るということは、殊の外嬉しいものだ。

誰かの生き方を他の誰かが強制するものではない。それはなのはを下に見ているという事実に他ならず、大和はそれを求めているわけではない。また 間違えるところだった大和はいろいろな感情を抱えながら溜息をついた。

なのはが危ない所に行くというのなら、自分もついていって危険を排除すればいい。至極簡単な話。だからそのために、自分はここにいるのだろう 。

なのはと同じく、大和も密かに心の中で決心した。この先、どんなことがあろうとなのはを守ってみせると。この身に代えても、必ずだ。

苦笑しながら呟く。

「…………頑固だよなぁ、なのはは」

「うん、アリサちゃんによく言われる」

なのはも苦笑で返す。もう二人の間には先ほどのような雰囲気はない。いつもの和やかな空気だけ、もう話すようなことではない。それなら気分転換 にそのまま散歩と洒落こむ。

調度いいことに露天販売のクレープ屋が来ていた。先ほどは食べられる雰囲気ではなかったから、タイミングが良かった。隣を歩くなのはに訊ねてみ る。

「いいタイミングでクレープ屋が来てるみたいだ。ちょっと食べないか、お腹空いたんだ」

「うん、私もちょっとお腹が減ってきてたし」

「それは良いタイミング!すいません、注文いいですか」

二人でメニューの前に立つ。軽くメニューを見つつ、大和は甘さ控えめのビターチョコレートをメインにしたクレープを、なのはは女の子らしくイチ ゴやらが包まれた甘そうなクレープをそれぞれ頼んだ。

注文したクレープを受け取って、再び並んで歩きだす。適度な長椅子を見つけて座った。海から吹いてくる風が少し気持ちいい。

「こうやって、一緒に食べられたらいいのにな……」

「ん?」

ぽつりとクレープを見ながらなのはが呟く。その言葉に何かを感じた大和は聞き返す。

「ううん、フェイトちゃんといつかこういう風に三人で食べられたらなって思ったの」

「……ああ、そうだな。うん、なのはなら……いや、俺達ならきっとやれるさ」

大和は純粋になのはのその願いを叶えたいと思った。そして自分も同じ光景を見れたら、どれほど素晴らしいだろうか。そう考えると、絶対にフェイ トを助けてやりたい。大和はそう決意を新たに固めていた。

しかし大和は全く考えもしなかったことがある。それは自分『が』その光景の中にいること。つまりはなのはやフェイトと同じステージに立つことだ 。自分でも気づいていない大和の根底にある考え方。病的なまでに自分が幸せを得ることを考えもしない。

救いを求める者は、確かにここにもいた。



二人でクレープを食べ終えた後、少しだけ遠回りして帰宅した。なのはと二人きりで話したかったというのもあるし、ちょっと家に戻りづらかったの もある。幸い先ほどの騒動について何かを言われることもなく、二人は夕食までの時間をそれぞれで過ごすことになった。

とはいえ大和はユーノと作戦会議、なのははきっとレイジングハートとイメージトレーニングに勤しむだけである。

だがその作戦会議は難航していた。問題が山積み過ぎて何から手をつけていいかがわからないのだ。そのあたりは経験の差が出てしまっていると言わ ざるをえない。

腕組みしながら目の前に座っているユーノに話しかける。

「フェイトを助ける手段……か。ユーノ、何か案とかあるか?」

「いや、正直に言って僕にも……。レイジングハートも同じ意見のようだし」

はぁ、と揃って溜息をつく。相談できる味方が少ないことがこんなに辛いとは思っていなかった。だがしかし、案が全くないかと言われれば、そんな ことはなかった。

どこか自身無さげに大和が切り出す。

「八方塞がりではないんだが……」

「まさか大和には何か案があるのか?」

ユーノがそこに希望を見出したかのように反応する。だが。

「まあ……一応。でも博打要素が強すぎて、ちょっと躊躇したくなる」

「……大和がそこまで言うってことは相当だね。でも他に思いつかないんだろ?」

続く大和の言葉に思わず身震いした。ユーノの中での大和はどのような人物像になっているのか大変気になるところだ。

「全く!……いやまあ、威張れることではないんだけどな。ただそうなってくると、気になるのは時空管理局だな。出方が正直わからない」

「それには僕も同感だ。後手に回るわけにはいかない以上……っと、そうだ」

「何か思いついたか?」

大和が思わず前のめりになる。あまりの勢いにユーノは後ずさりしながらもそのまま答えた。

「ちょっとだけだけど、ね。それでも大和次第なのは変わらないけど……」

「俺の事は気にしなくていい。今はなのはとフェイトのことが最優先だ」

「それなら……」



ユーノが思いついたという手段。それは単純明快で、管理局に聞いてみるということだった。あまりに直球なユーノの言葉に、大和も呆気にとられた 。軽い衝撃から立ち直った大和は、意外にもその提案を――決して快くではないが――受け入れた。

そんな大和の姿勢にユーノは気高いと感じる。あれほど嫌悪している管理局に、もしかしたら頭を下げる必要があるかもしれないのだ。だが大和は自 身の事を本当に気にしなかった。下手なプライドも持たず、単に二人のために。

だからこそユーノは大和にそれを提案したのだし、交渉相手であるリンディも快く受け入れたのだが。それを大和は知らない。

「さあ、どうぞ。お茶を入れてみたんだけど、どうかしら?」

「それなら遠慮なく。……………………あの」

「?どうかしたかしら?」

「あ、いや、それ……」

大和の視線の先には緑茶の中に絶え間なく入れられていく砂糖とミルク。見ているだけで気持ち悪くなってくる光景だが、目の前の人物は平然として いる。

明らかに異常な光景なのに、はっきりと言えないのはリンディの成せる業か。

そんな大和の内心を知ってか知らずか、いい笑顔で砂糖とミルクを差し出してくる。なまじ悪意がないから無下に断るわけにもいかない。

だがしかし、あんな物を飲んでしまったら胸焼けは必至。断固辞退させてもらわなければならない。

「あら、結構美味しいのよ。大和君もどうかしら?」

「…………いえ、遠慮しておきます」

「美味しいのに残念ね」

そのまま一口、二口と飲んでいく。本当に美味しそうに飲んでいるので勘違いしそうになるが、血迷ってはいけない。目の前のリンディを見ながら自 分のお茶も飲むが、正直味がわからない。

そんな大和の様子が痛いほどわかるのか、クロノがこめかみに指を当てながら答える。どうやら向こうも困っているようだ。

自分が異常じゃなくてよかったと心の中から思う。

「……すまない。母さんは昔から『ああ』なんだ」

「い、いや、味覚は人それぞれだから、うん」

引き攣る大和に引き攣るクロノ。妙な光景の出来上がりだ。

「ところで大和君の話というのは何かしら?」

「……忘れるところだった。えっと、率直に聞かせてもらいます。管理局はこの事件をどう解決するつもりなんですか?」

手に持ったお茶を畳の上に置きながら答える。クロノが後ろで頷いているから合っているのだろう。さすがに飲めるものではない。

「そうね……。クロノ、貴方はどう考えてる?」

リンディの問いにクロノは腕を組んで考える。素直に答えようとするのは事件を解決したいからか。先日はいがみ合ったものの、予想以上にプロ意識 が高いのかもしれない。大和は少し見直した。

と同時に、警戒する。油断のならない相手になるかもしれない。もしもの時のことを考えるのは悪いことではないだろう。

「僕はフェイト・テスタロッサに指示を出している首謀者の居場所を探すべきだと考えています」

「例えばでいいんだが、探すとしてどれぐらい時間がかかりそうなんだ?」

「相手の居場所の手がかりが一切ないからな……。手っ取り早い方法として、フェイト・テスタロッサを尋問するという手だってある」

「…………」

さすがの言葉に大和は睨みつける。しかしクロノは少しだけ肩を竦めると首を振った。

「そんな目で僕を見るのは止めてくれないか。取ることができる手段の一つとして挙げただけだ、するつもりはない」

「じゃあ言うなよ……」

大和の言葉を流しつつウィンドウを操作する。

「地道な作業をしたとして……そうだな、だいたい早くて一カ月といったところか」

「一か月!?駄目だ、長すぎる……。もう少し早く出来ないのか?」

考えていたよりも長い。一か月もの間敵が何もしてこないとは考えにくい以上、時間は出来るだけ短い方がいい。フェイトの背後にいる黒幕が焦れて こないとも考えられないのだ。

「それは無理だろう。各部署への連絡や手続きだってある、そう簡単に早くはできない」
「……一か月もかかってしまえば、必ず相手に先手を打たれる。そうなってしまえば、もうフェイトを助けるなんて出来なくなる!」

大和は拳を握りしめる。握った拳が嘘のように熱い。

「だからこそ、僕達管理局が……」

「そんな言葉に何の意味がある?無理して隠そうとしているが、フェイトはもう限界だ。誰かがあの世界から無理やりにでも連れ出してやらないと、 助けの手を取らないフェイトは救えない!」

「だからといって、焦ってしまって全てが台なしになってしまっては意味がない」

叫ぶ大和に冷静に返すクロノ。お互いに言っていることは理解できるのだが、あまりにも立場が違い過ぎた。大和はフェイト、クロノは管理局。

「指図は受けない。俺には余裕が無いんだ、別のことに気を取られるわけにはいかない。相手だってジュエルシードを手に入れられなくて相当焦って いるはず。今がラストチャンスなんだ、ここで一気に決めるしかない」

「……どうするつもりなんだ?」

「勝者が全てのジュエルシードを手にする、という条件でなのはとフェイトが戦う。フェイトはこの条件を飲まざるをえないはず」

「馬鹿な!もし負けてしまって、全部とられたら……!」

「この作戦、必ずしも勝敗が重要なわけじゃない」

「何だって?……まさか、君は」

「……大事なのは、全てのジュエルシードが一ヶ所に集まるタイミングを自分たちで作ることができるということ。この一点こそが全てなんだ」

「つまり、なのはちゃんとフェイトちゃんの二人を囮にするってことね?」

飲んでいたお茶を置き、リンディは大和を見つめる。その視線をそらさず答える。待機状態のファランクスを握りしめた。

「そうとってもらっても構いません。そうでもしなければ、いつまでもタイミングを待つしかない。それじゃ全てが後手に回り続ける、誰もが救われ ない」

なのはやフェイトに嫌われたっていい。二人が笑って幸せに暮らせるのなら。自分のことはどうでもいい。そのためだけにここにいるのだから。

「……なんて分の悪い賭けだ」

クロノがこれ見よがしに溜息をつく。自分でもわかっている故に大和も苦笑い気味だ。リンディはそんな二人を見て微笑んでいる。彼女からしたら、 同年代の男の子同士の付き合いにみえるのだろう。

手に持っていたお茶を一気に飲み干して立ちあがる。あまりの甘さに胸やけしかけるが表情には出さない。

「ああ、分の悪い賭けさ。だけどな、教えてやるよあんたら管理局に。何事も自分たちの思う通りにはいかないって事を」



いつもの公園から戻ってくるとなのはに先ほど話し合ったことを伝える。突然のことに驚いていたようだが、すんなり受け入れてもらえたようだ 。

「……ってことだ、なのは。どうしてもフェイトと戦うことになるんだが、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ大和君。こんなチャンスを与えてもらったんだもん、今度こそ名前を呼んでもらうんだ。友達になりたいの!」

ぐっと拳を握る。いつも以上に燃えているようだが、その理由がいまいちわからない。大和の知らないところでフェイトと何かあったのかもしれない 。

いいことだと的外れなことを考えながら話を続ける。

「……ああ、そうだな、きっと二人ならいい友達になれる。それは保証するよ、俺が」

俺とだって仲良くなれたんだ、と心の中で呟く。自慢にはならないけれど。

「大和君」

「フェイトは強敵だ。しっかりと作戦を練らないとな」

戦う以上フェイトとはいえ、負けてやるつもりはない。なのはも覚悟を決めたのだから、お互いの全力をぶつけ合ってほしい。そうしたらよくあるマ ンガのように何かが芽生えるかもしれない。

なんだか魔法少女とかけ離れて行っているような気がするのだけども。

「うん!」

「レイジングハートも頼む」

[もちろんです]

なのはは受け入れた。フェイトはどうするのだろうか。フェイトからしたら受ける必要はない話。しかし大和は何故か受け入れると確信していた 。



フェイトとクレープを食べながら話す。なのはには悪いが、一足先に願いを叶えさせてもらった。

「私が……あの子と……?」

大和が切り出した言葉にフェイトは困惑した。何度か戦うたびに友達になろうと言ってくる女の子。どんなに痛い目にあっても差し出す手はひっこめ ない。そんな彼女のことをフェイトはいつの間にか気になり始めていた。

それと同時に大和からその女の子のことを聞かされて、少しだけ変な気分になる。形容しがたいこの想い。リニスは教えてくれなかった。

胸の中に抱えるもやもやを考えながら話を続ける。

「ああそうだ、フェイト。フェイトが何に悩んでいるのか、何を我慢しているのか……今の俺にはわからない。でも、それでも、フェイトを心配して いる人がいるってこと。それを知って欲しい」

「……うん」

しっかりと見つめながら話す大和に、フェイトは顔をそむける。見ていたいのに見ていたくない。だけど視線を不自然に外し続けるわけにもいかず、 最終的にクレープへと落ち着いた。足元に座っているアルフが目に入る。

だがそんなフェイトの様子には気づかず大和はアルフへと視線を移す。

「……そっか。ま、アルフも頼むぜ」

「任せときなよ。あんたが言うなら信じられるからね」

「それは光栄だ」

そんな二人の会話を聞いていたフェイトのクレープは、いつのまにか手の中で溶けていた。



決戦は海鳴海上公園。管理局が外界と切り離した戦うための特別な場所。

それぞれが違う思いを胸に、決戦の時を待つ。

「神のみぞ知る、ってやつか。だけど、そんなふざけた結果には終わらせない。神なんてものに決めさせやしない。彼女達の戦いは、彼女達自身の手 でつけてもらう。だから、俺は……」

大和は戦いの場を見つめながら呟いた。



あとがき
更新が遅くなってしまっていて申し訳ありません。
いろいろあって書けない状況が続いておりました。
リハビリしながらなんとかスピードを上げていければと思っています。

コメント返信
>いつも楽しく読ませていただいています。
>近頃更新がありませんが、震災によるものでない事を祈っています。

ここ半年以上、生活が大変忙しく書く気力が無かったものでして……。
心配をかけてしまって申し訳ありません。
これからも楽しく読んでもらえるように頑張っていきます。

>なのはやフェイトが、主人公にそれぞれ惹かれつつあるのがいいですな。
>こういうのは好物なので期待しています。

自分もほのぼのとしたのが好きです。
ただ、それだけでは面白くはないかなと思ってもいます。
なのでもっと深く書いていけるよう頑張ります。



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