1.「ある晴れた日」
「うわ……、これは凄い光景だな…………」
男は目の前で繰り広げられていたであろう光景に唖然としながらも、こうなるだろうと予測していた自分に苦笑する。
あのメンツで練習場に行って、おまけに機動六課も今日で解散だ。
その二つの条件が揃っている以上、こうなることは想像に難くない。
ぼろぼろになった、けれどもどこか楽しそうな皆を見て男は溜息を一つ。
仕方がない、彼女達はそういう点では全くと言っていいほど言うことを聞かないのだ。
まあ、でも、……剣呑な雰囲気でもないし敵との戦闘で怪我したわけでもない。
何時ぞやの繰り返しではないのだ。
幸せそうならば、と自分を納得させる。
今気にするべきはそこじゃないし、自分としても彼女達の笑顔はとても嬉しい。
だが、小言の一つでも言ってやらねばなるまい。
なんというか……、常識者として?
この際、自分が常識者かどうかは知らない。
たぶん、あの隊長陣に比べたら非常識じゃないとは思う。
などと自分でもわからない言い訳を誰にするともなく。
男は皆のところへ歩いていく。
だがその足取りは表情に反して軽かった。
「……ったく、どうしてお前らはそう加減ってやつを知らないのかねぇ」
「あ、大和君。にゃはは……、それは、まあ。ね?」
俺の溜息と苦言のセットに、苦笑するなのは。
いや、気持ちは凄いわかるんだが……。
俺だって訓練は嫌いじゃない。
それに六課最後の思い出として、こういうことをするのもいいと思ってる。
……別に、誘われなかったことを怒っているわけじゃないからな?
人数も合わせられなかったわけだし?
って、これじゃあまるで……。
そんな不穏な思考を頭を振って吹き飛ばす。
幸いなことに、俺のおかしな様子には気づかなかったようである。
とりあえず、現実に戻ってみようか。
隣のフェイトに目を向けると、さらに申し訳なさそうだ。
別に怒ってるわけじゃないんだが。
「もしかしなくても……心配かけた、よね?」
「心配っていうかなぁ……、いやある意味で心配ってのは間違いじゃないんだけれども。だって、自重って言葉がなのは達の辞書の中にないだろ?というか、手加減とかの関連ページもごっそりだろ」
たぶん他のページも無いような気がする。
「それは心外だな、キサラギ。ただ、そうだな……、少し白熱してしまっただけだ」
シグナムは男らしい笑顔で答えてくる。
おかしいから、それ。
だが皆も頷いているから、同じ考えであることからまず間違いない。
なんかキャロも毒されちゃってるような気がするけど……。
気にしちゃいけないんだろうなぁ。
前向きに逞しくなったと考えておこう。
うん、きっとそれが俺(の精神衛生)にとってもいいはず。
そのまま勢いを殺がれた俺は、小言もそれ以上言わずに談笑していた。
だが俺にとっての事件――本気で頭を抱えたくなるような――は、次の日に起こった。
解散日の翌日――つまり昨日、なのは達が全力で模擬戦を行った日――に、何故か俺は元機動六課の練習場に来ていた。
さらに不可解なことに、大勢のギャラリーまでいる。
最早意味がわからない、……仕事しろよお前ら。
とまあそこまで考え、どこかの世界に逃げていた思考を呼び戻す。
理解したくないなぁ、この状況。
どうせあの陸士隊のG・N三佐だろ。
面白がってやったに違いないあのおっさんを、とりあえずでも頭の中で張り倒してやった。
あくまでも頭の中だけに止めておくことは忘れない。
本気でやるなら、あの新しい家族と拳を交えることになる。
それよりもまずはあの武闘派姉妹とガチンコだろうが。
さすがにそれはもう御免こうむりたい。
などと、おおよそ戦う前の思考とは関係ないことを考えていた。
ふと、正面のフェイトと視線がぶつかる。
にっこりと笑いかけてくるフェイトに、こちらも笑顔を返しておく。
あ、フェイトの顔が赤くなった。
…………でもそれは俺もだろうなぁ。
なんてどうでもいいことを行いつつも、俺――如月大和(キサラギ ヤマト)――はフェイトと相対しながら昨夜のやり取りを思い出す。
全力全開の模擬戦が終わった後、二次会でのこと。
いつもの如く元気よく食べてるスバルに呆れていると、フェイトが近くにやってきた。
手がグラスだけなのを見ると、どうやら少し休憩の御様子。
そのままフェイトとテラスに出る。
今日は雲一つないためか、夜空が綺麗だ。
どこか遠くに楽しそうな声が聞こえる。
それがどこかに忘れてしまった昔のような、選ばなかった平穏な未来の気がして。
……って、似合わないな、こんな詩的なもの。
自嘲気味に笑い、テラスの柵に寄りかかる。
……ああ、皆楽しそうだ。
今ならわかる、あいつ『ら』の気持ちが。
傍らに立つフェイトを見ると、同じようにして中を見ていた。
俺と同じことを考えていてほしいと思うのは、俺の傲慢だろうか?
今は道が交わらないとしても、将来はきっと交わってほしい。
そう自分は望んだはずだ、確かに……あの時。
その気持ちは今でも変わっていないし、むしろ強くなった。
ぽつりと呟くかのように問いかける。
「……なあ、フェイト」
「ん?」
互いに視線は合わせない。
そうじゃないと、恥ずかしくていつもとは違うようなこと、……言えやしないんだ。
「俺たちは、あんな笑顔を守るために戦ってきたんだな」
「そうだよ、大和も守ったんだ。皆の笑顔を」
だから誇りに思っていい、と。
その言葉を受けて、少しだけ目をつぶる。
…………。
この道を走り続けて俺は。
やっと…………見つけたんだな。
そうして時が過ぎていく。。
沈黙が支配する空間だが、不思議と嫌じゃなかった。
むしろ心地いいとさえ思う。
「どうしたの、フェイトちゃんに大和君」
ようやくこちらに気づいたなのはがやってくる。
それもなのはだけじゃない。
はやてやスバル達もだ。
「……いや、何でもない。ところで、フェイトは俺に何か用事があったんじゃないのか?」
そのためにテラスに出たんだからな。
って、は言えないけれど。
今日もどこかいろいろとおかしいぞ、俺。
その言葉に本来の用事を思い出したのか、フェイトが少し顔を赤くする。
ほんと、表情豊かになったよなぁ……。
でもそこで顔を赤くする意味はよくわからないが。
「その大和、お願いがあるんだけど……」
「フェイトのお願い?もちろん何でもオッケー!!あ、ついでに上目使いで……あ、いや、なんでもないから。だから、その眼は止めてくれ、なのは!!」
なのはの視線が痛い、怖いじゃなくてな。
うん、そのあたりはあのシスコンの兄に似なくていいと思う。
あの人の視線に何度殺されかけたか。
これは比喩的表現ではない。
確かにこの世にはまだまだ俺が知らない神秘があるんだとその時痛感した。
文字通り痛いほどに。
そんなことを思い出していた俺の思考は、次の爆弾発言で木っ端微塵に吹き飛んだ。
「えと、私が勝ったら、キス……してほしいなって……。ダメ……かな?」
確実に時が止まった。
もう一度言うぞ、時が止まったんだ。
これもまた比喩的表現ではない。
この場全ての空間が、だ。
それは明らかに言葉が聞こえないはずの会場内も例外ではない。
当の本人は顔を真っ赤にして俯いているだけだし。
その隣に立つ『管理局の白い魔王』は直視できない表情だし。
やべ……手が震えてきた。
なんか「…………そんなに黒が好きなの?」とか、「だから、いつもフェイトちゃんがバリアジャケットを着る時に近くにいたんだ……」とか、「…………少し、頭冷やそうか?」なんて聞こえるけれども、絶対に気にしたら負けだ。
俺は自殺志願者でもないので、まだ死にたくない。
……それにしても。
うん、ヴィヴィオがすぐ近くにいなくて良かったとせつに思う。
あとなぜか居た、第二号シスコン兼ロリコンの兄が殺すような目で見てくるし。
お前確か艦長だったはずだろ?
……仕事しろよ。
それにしても、なんなんだこの状況は……。
いや、嬉しいんだけどね?
そりゃ嬉しいか否かと聞かれれば、俺だって男だ。
フェイトのような美人に迫られて嫌なわけあるまい。
まして、俺(現在世間一般的にはあまりよろしくない不誠実な男だであることは間違いない。シスコン達にも言われたし)に好意を持っていてくれるのがわかっているのだから。
それがなのはの前だとしても。
それでも、それでもだな、フェイトよ。
とりあえずTPOを弁えてほしかったね。
もう遅いけど。
その後どうなったかなんて、語りたくもなかった。
「勝ったら地獄、負けても地獄……。どうしてこうなったのかねぇ…………」
半ば現実逃避から、なんとか帰ってくる。
よく考えれば、『勝ったら』という言葉があった以上、なにかの勝負をする予定だったのだ。
若干キャラも違うし。
なんと言えば良いのか……もう少し前までは皆の前でこんな事はなかったはず。
……誰かに入れ知恵されたのは間違いない。
問題はそれが誰かってことに尽きるわけだが。
それも含めて、気づかなかった俺が悪いと思っておこう。
何度目かわからない溜息をつく。
何故か大々的に広まったせいで、機動六課は全員見てるし。
下手すりゃ、他の人間も来るんじゃないか?
とりあえず、さ。
そのニヤニヤ顔を止めんか、ヴィータッ!
そこの賭けごともやめろッ!
言いたいことは山ほどあるが、残念ながら俺はツッコミキャラじゃないので放棄させてもらおう。
しかしそれにしても、やはり救いはヴィヴィオだけか。
そのヴィヴィオも俺とフェイトが戦うだけあって、どちらを応援するか迷っていたようだが……。
結局は両方を応援することに落ち着いたみたいでよかった。
一通り現状に嘆いたところで、雑念は捨てる。
前を見ろ、俺。
対するフェイトはやる気満々なのだ。
なんか『ド迫力』って言葉が浮かんだが、気にはしない。
今日はなにやら気にしてはいけないことが多すぎる気もする。
……まあいい。
もう一度ぐらい本気で戦ってみたいと思っていたから、前向きに考えるとしよう。
時間になったのか、司会兼解説者であるはやてがマイクで何かを言っている。
準備がいいよな、あいつら。
だがもうそんなことはどうでもいい、耳にすらはいらない。
今はただ、目の前の強敵を見据えるだけ、集中するだけ。
本気で戦わなければ、相手への侮辱となる。
それは俺自身も許せないことだ。
「フェイト、……本気でやらせてもらうぜ」
『Ready. 4th Form "Inferno Drive". Release 1st Limiter, ……complete』
インテリジェントデバイスであるファランクスドライバー・インフェルノを構える。
腰ほどまである巨大な杭打ち機。
フェイトとの戦いは速さが全て。
だからこそ、俺も防御は捨てる。
ジャケットも速さのみに特化したモードだ。
どうせ俺の力じゃ守りに入れば、必ず負ける。
故に攻めきるしか勝つ手段はない。
一方のフェイトも、
「もちろんだよ。バルディッシュ、真・ソニックフォーム……!!」
『Yes, sir. “Sonic Drive”』
闘志は万全、力も十分。
ならば後はただ、全てをぶつけ合うだけ。
ステークを仕舞いこむと同時に、そのまま飛び出してきた実体剣に真紅の魔力刃を纏わせていく。
「ファランクスドライバー・インフェルノ、……コール『アロンダイト』ッ!!」
『Call “Arondight”』
決して刃こぼれしない剣の名を継ぐもの。
魔力刃が構成され、突きの構えに移行する。
さあ、始めようか、フェイト。
俺の全てで、君に伝えようと思う。
試合は合図もなく、突然のように、だけどもお互いにはかったかのように始まった。
始まって少しからだ。
その段階で、俺の考えが甘かったことを確認のは。
攻撃系や拘束系の魔法が無ければ、俺の方が有利だという考えを。
実際に未だ俺はフェイトの守りを崩せないでいたから。
それからうちあうこと数十合。
「さすが優秀な執務官。……だが、まだまだ負けてやるわけには、っち、いかないなッ!」
俺は心の中で舌を巻く。
ほんの少し前まではここまで苦戦することはなかったのにな……。
まして今回は攻撃魔法は使用禁止だというのに。
始まる前までの俺はなんと迂闊だったことか。
と、そこまで考えて苦笑した。
そうだ、皆、……成長している。
そのことに考えついて、何故か寂しくなった。
ええい、歳をとったとか言うな。
鍔迫り合いをしているフェイトにもその言葉が聞こえたのだろう。
「うん、ありがとう。……でもね、今日は勝たせてもらうよ?」
戦いの最中だというのに、見惚れるような笑顔。
強くなったな、フェイト。
もう、守っていたと勘違いしていた頃の面影はない。
それが寂しくもあるけれど、嬉しくもあったから。
言葉ではなく、行動で答えることにしよう。
全力をもって戦うということで。
巨大な一本の剣と、半分以上小さな刃が。
黄色の閃光と真紅の光がぶつかり合って火花を散らす。
ぶつかり合うことでお互いの動きが一瞬止まる。
そのチャンスを大和が逃すわけもない。
鍔迫り合いの体勢から力任せに押しきる。
さすがに男のパワーには勝ちきれないのか、少しずつフェイトが後ろに下がり始めていく。
(いける、か……ッ!?)
その様子を見てさらに力を込め、このまま押し切れるとガラにもなく思ってしまった。
だが俺の目論見は脆くも崩れ去ることになる。
フェイトがバルディッシュを躊躇なく引いたのだ。
押し切るために前のめりだった俺は、それに対応しきれず、逆に体勢を崩してしまう。
(ッ!?……やってくれるな、フェイトッ!!)
だがここは空中だ。
体勢ならばいくらでも、なんとか出来る。
魔法を使うまでもなく、ファランクスの銃撃の反動で体勢を無理やりにでも戻していく。
この戦いにおいて隙のある時間は、それに比例して危険度が増す。
できるだけ早く体勢を戻し、追撃を入れようと迫るフェイトに蹴りを放つ。
当たらなくていい、むしろ防御行動をとらせることが目的。
案の定フェイトはバルディッシュの柄で蹴りを止めるが、衝撃で少し動きに間があく。
その隙を今度こそ逃がすわけにはいかない。
そのままファランクスで突く。
さすがに模擬戦なのでステークは出していないが、それでもこれだけの質量だ。
なかなかのダメージになる。
はずだった。
「何っ!?プロテクションか……ッ!!」
とっさに避けきれないと判断したであろうフェイトは、ピンポイントで防御を展開。
俺の攻撃を受けきった。
ステークだったら話は違うだろうが、そのあたりを瞬時に判断しての行動のはず。
この早さで展開されるとは思っていなかったのもあり、若干次の手が遅れてしまった。
追撃は行わずに、一旦距離を離すことを第一にする。
巡りが悪いと言うべきか、それとも俺に慢心があったのか。
答えはほぼ後者に間違いない。
どうやら、俺はフェイトをまだ甘く見過ぎていたか。
意識的にファランクスを握る手に力を込める。
ここで意識を切り替えなければ、負けるのは俺だ……!
少し息をついて気を引き締め、仕切り直しといく。
それから数十合か数百合かうちあったが、状況はあまり変わらないと言うべきか。
お互いにスピード重視の一面があるため、攻撃が相手に当たらない。
先ほどの鍔迫り合いの状況が珍しいだけだ。
おそらく当てることができれば、まず一撃でなんとか出来るだけのパワーがある。
とはいえ、それはフェイトも同じ。
昔はあれに振り回されていたものだったのにな。
しかし持久戦に持ち込まれては……、さすがに分が悪いか。
フェイトも同じ条件とは思いたい、が。
自分の魔力量から鑑みても、さすがに楽観的過ぎる。
だからその甘い考えをすぐさま切り捨てた。
この勝負を体力切れ、なんて無様な結果に終わらせてなるものか!
それは俺のプライドが許さない。
全力をかけてフェイトに敗れる方が、まだいっその事清々しい。
ならば取れる手段は、唯一つ。
ここで俺の悪い癖が出た。
なのはに又怒られるなんて思いながらも、自分の魂が囁くのだから抗えるわけもない。
如月大和という人間は、本来こういう人間なのだ。
……イチかバチか一発にかけてみるしかない。
虎穴に入らずんば、ってやつだ。
現在のフェイトの位置を素早く再確認。
二人の間には高低差が存在し、俺の方が若干高い位置にいる。
ならば……、なんとかなるか?
「分の悪い賭けは嫌いじゃないんでね。……ファランクス、アクセル・セカンドを三回連続だ」
『Yes. Accel Move "2nd"…Set』
速さに勝つには、さらなる速さで挑めばいい。
大変簡単なことだが。
少しでも失敗すれば地面に正面衝突、皆様方にお見せできない顔になる可能性はある。
だが、それだけの価値があると俺は思うからこそ。
フェイトが動き出す瞬間、俺は。
『Flash Action "2nd"』
魔法によって加速した動きで、ファランクスを思いっきりフェイトに向けて投げた。
An another view ?Fate・T・Harlaown-
「…ッ!バルディッシュ!」
『Sonic Move』
咄嗟の反応だった。
デバイスを持ちなおしたと思ったら、まさかの投擲。
ファランクスはあの質量と速度でこちらへと直進してくる。
止められない、あれは……。
だからとっさの判断で緊急回避するしかなかった。
でもそれがたぶん、失敗だった。
Another view end
フェイトが避けたこと。
だがそれを確かめる間もなく、俺はすでに動き出していた。
避けるのを見てからでは間に合わない。
それならば同時に動き出せば問題ないのだ。
魔法を使って全力で投げたファランクスは思いのほか速い。
だから間にわないとの予測。
しかしあれに追いつかなければ、ここで負ける。
体が軋むのを体のあちこちで感じながらも、一回目のアクセルムーブで追いついて、何とかキャッチ。
現在位置は……フェイトの右後方。
そしてその勢いを殺さず、遠心力を使って瞬時に再び投擲。
さすがにこれは予測できていたのか、難なく回避するフェイトだが……。
その俺は投げた方とは逆に向かって二回目のアクセルムーブを発動。
あと一回……!!
その投擲を失敗したと思ったのか、フェイトはすぐさまこちらに一直線に向かってくる。
確かに今俺の手元には武器はない。
さすがにバルディッシュと素手でやり合うわけにはいかない以上、俺はどうやっても対処出来ないはずだと思っただろう。
俺にとって防御系が時間かかることも知っている。
だから選択肢が無い。
そう、本来ならば。
策はある、それは一度しか使えない。
だが、それに気づかず突っ込んでくるフェイトを見て、知らず知らずのうちに唇が釣り上る。
『Sovereign Rail』
あらぬ方向を飛んでいたファランクスが、急激に方向転換しフェイトに突撃した。
An another view ?Fate・T・Harlaown-
嫌な予感。
たぶん本能的にと言ってもいいのかな。
とにかくわからないけど、今はむしろ私が追い詰められているんだと思ったから。
無理やりにでも軌道を変えないと……!
「お願い、バルディッシュ!」
『Yes, sir』
私の最大限の反応。
一瞬だけ見えた背後に、信じられないものを見る。
青く光輝く拳闘士の道。
それが見えた瞬間、あの投擲の意味がわかった。
Another view end
(……気づかれたッ!?)
急激なフェイトの軌道変更。
明らかに俺に対してではない。
心の中で舌打ちをする。
スバルとノーヴェから知恵を借り、出来うる限り再現した王者の道。
苦労したかいは十分にあったと思う。
だが元々彼女達の先天的固有能力であるもの。
おいそれと模倣できるはずもなく、術式を組み上げていくにつれその思いは強くなっていった。
それでもやり遂げた。
二人に届いてすらいないとしても。
そのカードを今切らなくていつ切る?
無理やり発動しているにすぎないその道は、自身の能力からみてもこの一度きり。
チャンスはそう簡単に何度も落ちてやいないし、これ以上は作りきれない。
だからこそ、今更変えるわけにはいかなかった。
「もらったぞ、フェイトッ!!」
ファランクスとの挟撃。
だがそれすらも、更なる速さをもって避けられた。
横に何とか逃げ切るので精いっぱいだったのか、苦しそうな表情だ。
反撃を行ってこないことからも、相当無理をしたのかもしれない。
だがしかし。
「まだ、……終わりじゃねぇぞッ!!」
体が痛いのはおそらく俺も同じく無理をしすぎたせいか。
だが今はそんなことを言っている場合ではない。
フェイトをさらなる加速で追うため、高速で飛んでくるファランクスを足場にして蹴り飛ばす。
体が、軋む……!!
驚愕に染められるフェイトの顔が、一瞬だけなんとか見える。
躊躇はしない、ただ一撃。
ここで決めなければ、勝機を確実に逃す。
だからこそ、気合を込めて叫ぶ。
『Flash Action "2nd"』
全力で、それでいて怪我をさせないように。
意識だけを狙わせてもらう!!
「これで極める……ッ!覇真、轟撃拳(ハシンゴウゲキケン)ッ!!」
必倒の一撃がフェイトに直撃した。
結果から言えば、俺の賭けは半分成功したと言える。
最後が直撃でなかったせいか、フェイトはまだまだ戦えた。
ピンポイントに打点を見切られ、また予想に反し防がれたのだ。
ただしそれでも無傷とは言わなかったのだが。
そこで決められなかった俺にも、やはり攻め手はない。
元々そこまで魔力が多くはないのに無理をしすぎたせいだ。
間違いなく膠着状態に陥っていた。
だがもう……だらだらと戦い続けるほどの力は残っていなかったから。
試合が始まってどれくらいたっただろうか。
もうお互いにぼろぼろだ。
断続的に俺を襲う頭痛に顔をしかめつつも、表面では余裕を気取る。
おそらく見透かされているとは思う。
曰く、わかりやすいらしいからな。
しかし俺だって男である以上、見栄は張らせてほしい。
「……これで終わりにしよう。少し時間もかかりすぎた」
ちらりとギャラリーのほうを見る。
さすがに観客も増えすぎた。
皆暇過ぎるんじゃないか?
「……そう、だね。じゃあ、最後は」
「ああ」
フェイトが言わんとすることに頷く。
一呼吸おいて、二人の視線が絡み合う。
互いの答えはただ一つ。
「「全力全開!!」」
余談ではあるが。
遠くでなのはの顔が赤くなっていたのは気にしないことにしておこう。
勘違いしているようだが、お前は全力全『壊』だから。
なんて野暮なことは言わない。
魔王降臨とか洒落にもならないのだから。
先ほど足蹴にした相棒を構え直す。
……怒ってない、よな?
「ファランクス、いけるか?」
『Yes, my master. Let's fight to the finish』(もちろんです。勝負を決めましょう)
「ああ、いくぞ。……カートリッジ、リロード。」
『Reload cartridge, Set steak』
勢いよくカートリッジが排出され、そのまま再装填を行う。
もう見慣れた光景だ。
「コール、『パイルバンカー』!!」
『Mode "Pile Bunker"』
勢いよく魔力刃のかわりに巨大なステークが飛び出す。
今は、目の前の女性の名を忘れろ。
明鏡止水の境地にて、繰り出すは必殺の一撃。
全ての想いをのせてただ撃ち抜くのみ!
An another view ?Fate・T・Harlaown-
ファランクスからステークが飛び出すのが見えた。
やっぱりあれが大和の本気。
だから私も、全力で想いをぶつけるんだ。
それが、なのなに……大和に教えてもらったことだから。
二人には本当に感謝してる。
あの時、何度拒絶しても私に諦めずに話しかけてくれたなのは。
あの時、絶望の淵から私の手を握ってくれた大和。
だからありがとうって……伝えるんだ。
「……バルディッシュ」
『Yes, sir』
無意識のうちに握りしめていた。
「うん、いこう。……カートリッジ、ロード」
『Load cartridge』
「勝つんだ、こんどこそ……!!」
繰り出すは必堕の一撃。
全ての想いをのせて断つんだ!
Another view end
刹那、二つの閃光がぶつかりあって、爆発した。
二人の全力全開がぶつかり合った後、その場に立っていたのは一人だけだった。
「……これは俺の勝ちってことでいいのか、はやて?」
バリアジャケットの黒いコートをぼろぼろにしながらも、なんとか立っている大和。
いつの間にかバリアジャケットがノーマルモードになっているのは、それの維持に回すだけの力がないからだろう。
事実、どことなくふらふらとして頼りない。
瞳の色も今は両目とも同じ――日本人特有の黒色――に戻っている。
おそらく相当無理して立っているのだろう。
どことなく表情が暗いのは、少し壊してしまったせいか。
大和の腕にはフェイトがお姫様抱っこされていて、傍らにはファランクスがステークからささっている。
その姿にどこか哀愁が漂っているのは、きっと気のせいじゃないはず。
今日は足蹴にされたり、若干放置されたり散々な仕打ちのようだ。
『It's an everyday occurrence』(いつもの事ですから)
なんとも健気なデバイスか。
で、抱えられているフェイトは。
その顔は首まで真赤で、負けたのにどこか嬉しそうなのは見間違いではないであろう。
なのはの隣に座るヴィヴィオが羨ましそうに見ているが、それ以上になのはが羨ましそうである。
つか、今日は怖い。
なんか後日、今日と同じ状況がフェイトとなのはが交代しただけで起こりそうな気がした。
それは確信に近い勘。
「……いいんやない?」
いい笑顔だ、はやて。
平時だったら、素直に綺麗だと思えるほど。
だが、今の笑顔はいただけない。
目が笑ってないぞ、はやてよ。
それでその日はお開きになったのだが。
というか、その後のことも例によって話したくない。
一言だけ言うとすれば、俺にとって鬼ごっこがトラウマになったのは間違いことぐらいか。
さらにその翌日、つまるところ続けて事件は起こる。
「……で、どうしてこうなってんのかなぁ」
昨日俺は勝ったはずだ、確実に。
それはその後のなのは達の機嫌からもわかる。
だがなんだ、この状況は。
俺の店にどうして皆が集まっている?
何故スバル達がキラキラとした目で俺を見る?
ついでにどうしてチンク達もここにいる?
俺は何も言ってないし、おまけに勝手に貸切にされた。
ついでに現実から目を逸らすなよ、なのはとフェイト。
原因は明らかにお前らだろ。
この店の場所を言ってないから、ほとんどの奴が知らないはずだし。
言っておくが、伝えるタイミングがなかっただけだ。
断じて隠しておいたわけだではない。
基本的に俺だけだから、不定期休業にすることが元々多かったのもあるんだが。
そんな状態の店を教えるなんて無様な行為、俺には到底受け入れられん。
だから秘密にしていただけだ。
しかし……なんだか、ここ最近の皆は。
やたら手回しがいいなと再び思った。
どうやら聞いてみれば、スバル達の提案らしい。
昨日の戦いで俺の昔に興味を覚えたというのだが……。
本当かどうかは定かではない。
別にわざわざ聞き出すこともないのだし、それに…………。
「…………まあ、しょうがない。確かに俺の昔話に興味がわくのはわかる」
「ですよねっ!!」
すんでのところで、本音を止め切った。
今更、彼女たちに言わなくてもわかるだろうから。
しかしその態度に気づいていないのか、元気よく答えてくるスバルは身を乗り出さんばかりだ。
その姿に何度目かの溜息――安堵と呆れを含んだ――をつく。
まあ、嫌な気持ちじゃないことは確かなんだから。
そんなことを思う自分に苦笑しつつ、腹をくくる。
こうなれば一蓮托生だ。
なのはとフェイトに、ついでにはやても巻き込んでやろうか。
すると何故か脳裏に赤信号と横断歩道が出てきた。
……渡んねーから。
「んじゃ、機動六課への俺からの御褒美としよう。そうしたほうが納得できるし、主に俺が。そうだな、まずは俺がなのはやフェイト出会う……いや、『出逢う』前から話そう」
お手製のコーヒーを片手に語り始める。
すでに皆は聞く体勢だ。
それはシグナム達も同様。
って、あんたら居たのか……。
どうも暇でお人好しな仲間たちばかり。
だけど、うん、嫌じゃない……むしろ、この気持ちは。
だから話そう。
皆と紡いできた、あの輝かしい想い出を。
自分の生きてきた道を、彼女たちに示そう。
きっと、それすらも糧としてくれるだろうから。
それこそ自分が、先を往く者として負うべき責務だと思うから。
ゆっくりと目をつぶる。
少しして、目を開けた。
「まずはだな……」
空は今日も、……『あの日』のように澄み渡っていた。
To be continued...?
あとがき
初めまして、夜の無愛想と申します。
今回のSSが初めての作品になるので、拙いところばかりですが、頑張っていきたいと思います。
ここはこうしたほうがいい、というご指摘をお待ちしたいと思います。
とくに人物の口調の御指摘や質問はありがたいです。
ヒロインはなのはとフェイトのダブルヒロインでいくつもりです。
あとオリジナルの設定などは、こまめに書いていこうと思います。
それでは。
作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル、投稿小説感想板、