『ジョジョの奇妙な冒険外伝 SNOW MEMORYS
22話 硬さの恐怖B』





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突っ込んできた彰人は、スタンドを出し、その拳を思いきり振るった。

「ヌゥゥンッ!」
サッ!ドカァァ!

佐祐理はその攻撃を全力で避けた。
しかし、先刻自分がいた所を寸分の違いも無く、打ち抜き、壁ごと粉砕した。
絶句する。当たれば、死がプレゼントされる。

これは、予感だ。
一撃では死なないが、ニ撃三撃とくれば、絶対となる。
問題は、攻撃がくればくるほど死ぬ確立が上がっていく点。
いつまでも避ける事など不可能。
人にはスタミナがあるし、ましてや自分は女。
人並みにはあるつもりだが、あくまでも人並みでしかない。
そんな自分の体力では避けつづけるなど不可能。
不利な状況をあげれば、キリがない。
分断された状況。
目の前の男の圧倒的なパワー。
能力の認識。
恐らくとしか言えないが、経験値も段違いだろう。
そして、自分と相手の精神の違い。
目の前の男は、おそらく狂った人……いや、悪魔の皮を被った人だと断言してもいいだろう。
彼に人間らしい感情を、佐祐理は見出せなかった。

人間の感情を見出せない以上、男の攻撃は苛烈そのもの。
男の攻撃は攻撃でなく、殺意という衝動の行為そのもの。

狂信的なまでの忠誠心は、人を人として見出す事はできないという事の証明だ。
そして、佐祐理は現在のこの空気から状況を分析した。
自分でも、不思議なほどの冷静さを保つ自分に驚く一方で、やはり、と思う。
今までの自分には、絶対に有り得ないとさえ思っていた、死と同義の絶望感。
否、死と同義の絶望感なら味わっている。最愛の弟を失った瞬間から……

一度、味わったことがあるから動く事ができる。
そして、その感覚を自覚した自分もまた、悪魔の皮を被った人だと自覚した。
それを自覚したとき、佐祐理は……

「あははー」

笑った。いや、嘲笑した。それが向けた対象は彰人か?それとも自分自身か?
それを知るのは当人のみ……


夜の街を佇む一人のサングラスの怪しい男。
男は本能的に、嘲笑していると判断した。その事を疑問に思った事は無い。
事実、仲間にさえ……否、自分が信じた男の部下にも嘲笑された事がある。

『あんたは、狂った男だよ……』

と、そう評された。
しかし、目の前の少女は違った。彰人を嘲笑しているというのは分かった。

しかし、自分もその対象に含ませていると、感じた。

それが本当かは分からないが、そう感じたのは事実。
迷っていると感じた。そして……チャンスでありピンチだった。

「はぁ!」

声が聞こえると同時に、自分はバックステップを踏んでいた。

ビュォ!

一瞬、前に自分がいたところに、一寸の迷いも無い、拳の一撃。
先程、感じた迷いが嘘であるかの如く、鋭い一撃。

スタンドとは精神のエネルギーである。故に、迷いがあれば、その能力は低下する。

迷いを感じたのは、幻かと思えるほどの一撃。
彰人は迷いを感じた。しかし、攻撃に迷いは感じない。

「あははー……気付いちゃいました。気付いちゃいましたよ」

ポツリと響く少女の声。
その時の自分の顔は間抜けだと極まりないと自分では思っていた。
表情は見えない。地面に話しているように見えもする。

「舞が能力を持っていると知ったとき……佐祐理は嬉しいと感じる以上に、舞がなんとかしてくれると思いました。
事実、その通りに舞は勝つでしょう」

この台詞を聞いたとき、顔を赤くしたと自分では思う。
それを無視して……

「だけど、それだと逃げるだけですね。舞には本当に悪いことをしました」

佐祐理は顔をあげる。
その顔は笑っていた。本当に魅力的な笑顔だった。
男はその顔に魅入った。しかし、それ以上の恐怖を感じた。

死に近いであろうこの状況での、少女らしい笑み。

彼にしてみれば、理解不能の上、畏怖の対象にしかならない。
死を目前にして笑える、その神経に。

「今度は佐祐理が頑張ります」

幼き日に無くした、弟という存在。
厳しくした結果、失われた笑顔。そして、その生命。
それを舞に置き換えたと、信じた時もある。
それを自覚したときは、自己嫌悪どころか、自己憎悪にさえ陥った。

いつか、舞も……。と、生きているのが辛いくらい後悔したときもある。

しかし、まだ舞は生きている。

この当たり前の事実を守る。
故に……

「佐祐理は……私は、舞と一緒に歩いて行きます」

これは理想だ。他人が聞けば、なんでもなく聞こえるだろう。
しかし、理想とは自分が決めるもので、他人が決めるものではないのだ。 そして、その理想を守り通す。それが、佐祐理の選んだものだ。

「だから、あなたを倒させてもらいます」

この決意が変わる事がないことを……
そう、佐祐理は誓った。

「言いたい事はそれだけか?」

落ちついたらしい彰人の声。
暗い声音。これは理想や希望を打ち崩すような、狂信的な信念。
声という名の刃。そして、それに力を持って、破壊する。

「貴様が何を言っても、貴様等の死は絶対だ。この俺の手で叩き潰す!」

絶望を叩きつける男。闇色という名の狂気を辺りに撒き散らす。
しかし……

ざわざわ……

この騒ぎを聞きつけた住民達がここに向かってきているようだ。

「ちぃっ!ここまでだな」

男は踵をかえす。

「だが、貴様等は今日中に殺す。覚悟するがいい……2人とも」
「……気付いていても……斬る!」

声が聞こえた方向は投げつけられた車の上。
そして……そこから跳躍した。
向かうべき先は、工藤彰人という名の点。
車の上から一直線に跳び、スタンドで斬りかかる。

「ハァ!」
「ヌゥン!」

渾身の力を込めた一撃。迎え撃つ拳撃。
そして、両者は後方に吹き飛んだ。
舞は下から上の攻撃のため、上に多少、吹き飛ぶが舞の運動神経は苦も無く着地という選択肢をはじき出した。
彰人は転がりながら、舞や佐祐理と反対側に吹き飛んだ。
舞は着地するも、顔を歪めた。

「舞!」

慌てて駆け寄る佐祐理。

「大丈夫……少し掠めただけ……あっちの方が危険だと思う」

なにしろ、全力で叩きつけたのだ。
しかも、重力という力を最大に活かし、垂直に振り落としたのだ。
これが効かなければ、正直、洒落にならないのだが……

「ククク……いい攻撃だ。理性が飛びそうだ!」

難なく立ちあがった。
体に傷はおろか、服さえ破けていない。

「な、なんで!?」
「何を驚く?貴様の攻撃は体に当たっていないのだぞ?体に当たれば、骨の3本の骨折は覚悟していたがな」

流石に驚愕の声をあげる舞。
自分の全力の攻撃……それが、服を破くさえできない。

「やっぱり……」

佐祐理の呻き声。
能力には気付いていた。だから、予想はできた。
しかし、予想は出来ていても結果は別物だった。

「服を硬くしている。しかも、舞の攻撃でも傷をつけることができないほど!」
「その通りだ」

佐祐理の予想は、強い攻撃を与えれば、倒す事ができる。
だが、目の前の男はその攻撃を与えても倒す事が出来ない。

「その通りだ!人が集まってきたからこの場は退散するが、隙を見せた瞬間に襲いかかるだろう!貴様等がに勝つことは不可能だ!
そして、絶望を抱いて死ね!貴様等は虫以下の存在だと自覚しろ。蟻に力があろうとも、人を殺す事はできない事を認識しろ!」

そして、逃走した。
彼の言葉は負け惜しみではない。現実問題として、攻撃が通じないのだから。
それと彰人の攻撃は強大だということ。
力の質量が違う。要するに、威力が違う。
舞の一撃は、おそらく、自身が使える能力の最強の一撃
しかし、彰人はただの一撃で互角かそれ以上の威力だったのだ。
対策はないわけではないのだが……まだ予想でしかないモノに運命を託す。

(あははー、博打ですね)
「校庭で続きをしましょう!」

去り行く彰人に大声で叫んだ。
彰人が去ってから数秒後、この道を使っていた少数の人々(5人程しかいない)は、活動を再開した。

「やっぱりですね。少しだけど確率があがりましたね」
「佐祐理……どういうこと?」
「とりあえず学校に向かいましょう。その途中に話しますよ」

舞に安心させるべく笑みを浮かべながら、舞の体を触る。
怪我をした部分を、佐祐理はよく見ている。

「でも、どうするの、佐祐理?佐祐理の能力が強くても、きっと勝てない」
「まともな手段では対抗できませんね。というより、相手に合わせる必要が全くないんだよ、舞。博打をしましょう」

諭すように告げる。そして、次の言葉は言葉が少し重い。

「博打……をね」
「博打?」
「たぶん当たっていると思うよ。
私たちが追いかけたとき、あの人が入ってから約30秒位してから、追いついたと考えて、何故すぐに攻撃しなかったのか?
辺りを見渡す時間を作ったのか?そこから予想して、すぐに硬くする事が出来ないからだと推測します」

あの間は、一般人を硬くし、動けなくし、さらにその間にされた事さえも認識しないというメリットのため。
ちなみに、彰人の任務遂行能力が低いとされるのは硬くしても、その後、見境無く暴れるからだ。

「それで?校庭を指定したから服を硬くしているはず……」

わざわざ校庭を指定した以上、不意打ちも予想しているはず。
ならば、何故指定したのか?

「そこで、硬くしてもらうんです。そもそも何故服を硬くするのか?そこが鍵ですね。舞、今、手当てを」

佐祐理は自身のスタンドを出し、舞の体に触れた。
その瞬間、舞の傷は無くなった。
直したのではない。無くなったのだ。傷跡もそして、服に付いた血痕さえも。

「佐祐理?これは?」
「あははー。佐祐理の能力は元に戻すんですよ。傷付いていない時にまで、戻すんです。こんなふうに」

彰人が壊した壁が空中に浮かんだ。
いや、浮かびながら直っていく。ビデオテープを巻き戻すかの如く、確実に戻していく。
そして、修復は完了した。

「佐祐理の能力は元に戻す事。一瞬で戻す事もできるし、今みたいに、巻き戻すようにすることもできます。それより速く移動しましょう」

周りは少しずつだが、人が集まってきている。
このままだと、これ以上の人数を巻き込む事になる。
移動を開始した。

「そういえば聞きたい事があるんだけど」
「なに?」
「どうやって車の上に移動したの?」
「……投げつけられた車のボンネットに手を付いて登れた」

Vサインをした、舞ちゃん。
最近、佐祐理さんにレクチャー中。
ちなみにパジャマは、佐祐理が選んだ可愛らしいモノを使っている。

閑話休題

佐祐理は作戦を話した。
舞は自分の能力を話した。

「佐祐理……一緒に頑張る」
「舞!いいです!それで不意打ちしちゃいましょう!」

希望は徐々にだが、膨らみつつある。
決着は近い。

To Be Continued

スタンド能力解説
スタンド名 リターン・トゥ・ヘブン(佐祐理命名)
使用者 倉田佐祐理
パワー  D スピード  B 射程距離  C
持続性  C 精密動作性 A  成長性  B

スタンド名 スウィート・ボーイ
使用者 工藤 彰人
パワー  A スピード  C 射程距離  E
持続性  A 精密動作性 E  成長性  D

後書き 作:いやー、長かったな
祐:…………
作:忙しかったからな。3ヶ月以上も間が開いてしまった。
祐:…………
作:実はこれ書いてたの、結構前なのに、保存してたのがどっかいっちまったからな
祐:…………
作:微妙に違うような気がするけど、まぁ、いいか。
祐:…………
作:うーむ……流石に殴り過ぎたか?
祐:…………
作:待っている間に、ずいぶんと殴ったからな
祐:…………
作:たった、1日50発殴っただけなのに……
祐:…………
作:たかが、スタンガンのリミッターはずして、毎日、押しつけただけなのに。
祐:…………
作:やれやれだぜ。次回には復活しろよ?
祐:…………(絶対に……殺す!!)
作:…………そうか
ドグシャ!ドグシャ!ゲドゲドゲド!グシャリ!………
(これより先は表現が適切でないことからカットします)





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