「リョウスケ、リュウトから仕事の依頼――――」

 

 

「断れ」

 

 

「――――はぁ…」

 

 

「なんだよ…?」

 

 

「メッセージ付きよ。『君も日本男児の端くれなら借りの一つも返しなさい』だって」

 

 

「――――」

 

 

「ま、借りっ放しは男らしくないわね」

 

 

「――――」

 

 

「――どうする?」

 

 

「――――分かったよ! やればいいんだろ!? くそぉっ! あの腹黒陰険やろぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのは―――くらひとSSS 特別編―――

 

 

 

 

―孤独の剣士と白の剣聖 StrikerS

 

〈良介とキャロの大冒険〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊張する必要はないぞ」

 

 

「は、はい!」

 

 

「――――頼むから話を聞いてくれ」

 

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 

「――――」

 

 

 無駄であったか。

 

 む、再びお目にかかる、完全自立行動型警備端末『ブレスト』だ。――――そこ、警備端末にしては武力過多だとかいうな。空気銃のどこが戦力過多だ。

 

 ごほん、あれから何年経ったか詳しくは思い出せんが、久しぶりだな。

 

 我は今、マスターから言い付かった任務を遂行中だ。

 

 内容は『潜入捜査』

 

厳密にいえば違うが、やることはこの言葉が一番合うのだ。

 

そして今回我と行動を共にする三人のうちの一人が――――

 

 

「ル・ルシエ三士、緊張するのは分かるが、もう少し落ち着け」

 

 

 そうでなくては潜入捜査の意味がないではないか。

 

 

「す、すみましぇん!」

 

 

「――――」

 

 

 噛みおった。

 

 マスターの命令なら従うが、本気で大丈夫かこの娘。

 

 もう一組のメンバーとの合流をする前に、捜査対象に気付かれるんじゃなかろうか……

 

 

「――――宮本はマスターと違って野生っぽい奴だが、悪人ではないぞ」

 

 

 というか、マスターの方が悪人だぞ。

 

 あの人は必要と判断すると女子供でも九死一生にするからな。教導官時代に指導していた部隊があまりにも精神的にバラバラの状態だったからって、丸ごと病院送りにしたりとかしてるぞ。

 

 半死半生ならまだ分かるんだが……

 

 同じ強敵に相対した事で連携が生まれ、最終的にその部隊の任務達成率が上がったから良かったものの、当時は色んな部署から文句を言われていたらしい。

 

 ついでに言うと、その部隊には未だに怖がられているのだ。

 

 教導隊では比較的優しい教導官として知られているんだがな……

 

 

「――――はい、フェイトさんから聞いていますし、何度か直接会っています」

 

 

「ならば何故そこまで怯える?」

 

 

「それは――――」

 

 

 ふむ、この娘の経歴は知っているが、なかなかに難儀な性格のようだな。

 

 初対面で怯えられるのは宮本の特徴だが――マスターは初対面で侮られるタイプだ――ここまで怯えられるとは――――

 

 

「宮本が何かやらかしたか?」

 

 

「い、いえ! あのフェイトさんや高町教導官を殴れるからって――――あっ!」

 

 

「――――なるほどな」

 

 

「ううううう〜〜……」

 

 

 『あの』高町なのは一等空尉とフェイト・(テスタロッサ)・ハラオウン執務官、ついでに八神はやて二等陸佐を殴れる人間が怖くないはずはないか。

 

 ――――自業自得だぞ、宮本。

 

 

「奴は女子供も平気で殴るが、無意味に殴ったりはせんぞ」

 

 

 多分な。

 

 マスターは意味があると恐ろしい魔王になるから注意が必要だ。地形を変えるぞ。

 

 

「――――」

 

 

「それに、今日は我もいる。奴にとって我の電気銃は天敵だからな。問題なく撃退してやる」

 

 

「――――はい、ありがとうございます」

 

 

「気にするな、我はデバイスではない。妹たちのようにお主の上官ではないのだぞ?」

 

 

 ラファエルとルシュフェルは八年前に空曹長待遇を受け、今では三尉だ。我は単なる警備端末ゆえ、階級は持っておらん。我がマスターの私物扱いだ。

 

 

「――はい、ブレストさん。私の事もキャロって呼んでください」

 

 

「お主が希望するならそうしよう、キャロ」

 

 

 やはり、この娘には笑った顔が似合うな。

 

 このような娘が暗い表情をしていると、何かを無駄にしている気になるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? あれは宮本か。ポケットにはミヤ嬢もいるようだ。

 

 それにしても何をボーっと突っ立っておる、通行の邪魔だろうが。

 

 このような『テーマパーク』など、珍しくもなかろう。確かに広い敷地を持ってはいるが。

 

 

「――――おい、そこの野人」

 

 

「――――今なんて言ったスーパーボール!?」

 

 

「あ、ブレストさん。こんにちは」

 

 

 うむ、意識はあるようだ。

 

 そして、こんにちは、だ。ミヤ嬢。

 

 

「どういうことだ!? フェイ…ト……」

 

 

 違うぞ、キャロ嬢だ。

 

 

「こ、こんにちは、ミヤモトさん、ミヤさん」

 

 

「ど、ど、どどういうことだ!? 『保護動物密輸に関する潜入捜査』って聞いたぞ!?」

 

 

 確かに捜査と聞けばフェイト嬢を思い浮かべるだろう。

 

 それに宮本への依頼はマスターとフェイト嬢の連名だったしな。

 

 

「見ての通りだ。今回の捜査はキャロと貴様の二人で行う」

 

 

「――――ちょっと待ってろ!」

 

 

 そんなに焦ってどこに連絡を――ああ、フェイト嬢か。

 

 ――――さて、傍受傍受。

 

 

「おいコラッ! どういうことだこれは!?」

 

 

『ご、ごめん…! 私も最初はそのつもりだったんだけど、リュウトが…――――』

 

 

「役立たず!」

 

 

『えっ!? リョウス――――』

 

 

 切りおった。

 

 次は――うむ、マスターだ。

 

 

『――――は、はい。リュウト・ミナセ執務――――』

 

 

「――――」

 

 

 切ったな。というか、今のは――――フェイト嬢?

 

 うむ、再チャレンジだ。

 

 

『――――あの……リュウト・ミ――――』

 

 

「――――」

 

 

 切った。

 

 再びチャレンジ

 

 

『――――リョウス――――』

 

 

「――――ぐあああああああっ!!」

 

 

 通信機壊すなよ。

 

 

「――おい、俺は確かにあのクソ野郎んとこのナンバー打ち込んだよな?」

 

 

「うむ、我の視覚センサーにはそう見えた」

 

 

「は、はい、わたしにもそう見えました」

 

 

「リョウスケが間違えたわけじゃないですよ〜」

 

 

「そうだよな――――よし、もう一度だ」

 

 

 人間諦めが肝心とも言うが、今回は諦めてもしょうがない。

 

 とゆーか、ナンバー押す手が怒りで震えているぞ。

 

 

『――――リュウト・ミナセ執務室です! リョウスケごめん! だから――』

 

 

「――っておい!!」

 

 

 やっぱり通信先はフェイト嬢だな。

 

 何かを焦っているようだ。宮本に嫌われたとでも思ったか?

 

 

『ご、ごめんなさい…!! リュウトが出たら面白い事になるって――』

 

 

「アホか!」

 

 

 面白いのはマスターだけだぞ。

 

 

「あのヤロウに代われ!!」

 

 

『――あの、リュウト…ね? 今、笑い転げてて……』

 

 

『――――くくくくく……ふふふふふふ……筋肉が…! 腹筋が…!』

 

 

 マスター……

 

 

「あ、あ、あのやろおおおおおおおっ!! いいから代われぇっ!!」

 

 

『は、はい!!』

 

 

 通信機の向こうでなにやらごそごそと音がするぞ。

 

 どうやら通信を代わっているらしい。

 

 

『――はいはい、お電話変わりましたー』

 

 

「――――よし!! ぶっ殺す!!」

 

 

 これは電話じゃないぞマスター。

 

 とゆーか、宮本で遊ぶな。逆撫でするな。

 

 いくら昇進して面倒ごとが増えたからって、他の人間でストレス解消は不味かろう。

 

 奥方たちに追いかけられている現状がそんなに嫌か。

 

 ――――嫌だな。

 

 

「――じゃない!! どういうことだ!?」

 

 

 通信に関してはスルーか。妥当な判断だ、精神衛生上それが正しい。

 

 

『依頼の通りですよ?』

 

 

「こんな場所で何を捜査しろっつーんだ!? 来場者数でも数えればいいのか!? それとも時空管理局の宣伝でもするか!? ヒーローショーでもやるか!?」

 

 

「リョウスケ!! 落ち着くです!」

 

 

 確かにテーマパークで出来る捜査など限られているな。

 

 しかも、営業中だ。余計に出来る事が限定される。

 

 というか、ミヤ嬢も声が大きすぎるぞ。

 

 

『――君の言葉を考えれば答えは出ますがね。時間がないようなので手短に説明しましょう』

 

 

「さっさと言え…!」

 

 

『はいはい、簡単に言いますと――――』

 

 

 マスターが説明した事をまとめると――

 

 一、このテーマパークがある組織の密猟された保護動物の密輸ルートの最重要地点になっている。

 

 二、どうやらこのテーマパークのオーナーも組織の一員らしい。

 

 三、捜査している事がばれると逃げられるから、あえてこの時間に捜査をする。

 

 四――――

 

 

「だったらフェイトの方が適任だろう? こう言っちゃなんだが、このチビがフェイトの代わりになるとは思えん」

 

 

「っ!!」

 

 

「気にするな、奴の口は次元世界一悪い。フェイト嬢ですら『役立たず』だぞ?」

 

 

「――――はい」

 

 

 難儀だの…

 

 慣れればどうということも無い宮本の口の悪さだが、慣れないと辛いものなのやもしれん。

 

 

『良介君、フェイトさんをメディアで見た事は?』

 

 

「は?」

 

 

 やはり分からんか。

 

 マスターは時折言葉が足りなくなるからな。

 

 

『ですから、フェイトさんを何処かのメディアで見たことはありますか?』

 

 

「――――ああ、ある」

 

 

 それは当然だな。

 

 なのは嬢と比べればメディアに対する露出は少ないが、それでも知っている人間は多かろう。

 

 

『管理局の執務官が犯罪組織の拠点に遊びに来る――――君なら信じます?』

 

 

「――――変身魔法とか……」

 

 

『ここに魔導師が居ますよと手を振って歩くんですか? 捜査対象の拠点で』

 

 

「――――うがああああああああああっ!!」

 

 

 切れた。

 

 

「わあったよ!! だったらせめて豆ドラゴン寄越せ!」

 

 

『豆ドラゴンって…ああ、フリード――いたたたたたたッ!!』

 

 

 何だ?

 

 ポケットに入った我の視線の先で首を傾げている所を見ると、どうやらキャロ嬢も何がなんだか分からんようだ。

 

 

『ヴウウウウ〜〜〜〜ッ!!』

 

 

『フ、フリード!? リュウトの頭咬んじゃダメ!!』

 

 

「え!?」

 

 

 フリードリヒか……

 

 

『いたたたたッ!――待ちなさいフリードリヒ君! 豆ドラゴンと言ったのは私ではなく――いたたたッ! 骨が! 骨が!』

 

 

『ガヴウウウウ…!!』

 

 

『フリード!! リュウトの頭放して! ああッ!? 血が出てる!』

 

 

「――――」

 

 

「――――」

 

 

「ど、どうしよう……」

 

 

 大丈夫かマスターよ。

 

 

『と、というわけで――』

 

 

 復活したようだ。

 

 だが、その後ろでは一人と一匹が何やら……

 

 

『――だからダメ。通信済んだら咬んでもいいから、ね?』

 

 

『キュウッ!!』

 

 

 をい、今不吉な言葉が聞こえたぞ。

 

 じつは怒ってるだろう?

 

 すごく怒ってるだろう、フェイト嬢。

 

 そんなに宮本と『ここ』に来たかったのか?

 

 

『――――私の方でフリードリヒ君は預かっています。さっきまで怒れる雷神もいたんですが……』

 

 

『――――バルディッシュ』

 

 

『――――いえ、何でもありません。とりあえず、竜という存在は我々の捜査にマイナスです。目立ちますからね』

 

 

「いや――もういい……」

 

 

 マスターの声が小さくなっていくぞ。

 

 衰弱しているという事か?

 

 精神的に衰弱しているのか?

 

 

「とりあえず、チビを連れてこん中回ればいいんだな?」

 

 

『ええ、詳しいことはブレストに聞いてください』

 

 

「――分かった。これで借り一つ返したぞ」

 

 

『結果次第ですね。私は結果を出しましたので』

 

 

「――――くそっ! 高くついた!」

 

 

『あっはっは』

 

 

「笑うなコラ!!」

 

 

 遊ばれてるぞ宮本。

 

 十年経っても遊ばれてるんだな……

 

 

『――まぁ、証拠さえ手に入れてくだされば後はこちらで潰しますので』

 

 

「潰すって…」

 

 

「宮本、それ以上喋るな」

 

 

 潰されるぞ。本気で潰されるぞ。

 

 ただでさえ色々あってストレス溜まっているのだ。

 

 

『では、御武運を――――って、フェイト君、バルディッシュを下ろしなさい! フリードリヒ君、何故か牙が輝いて見えますよ!? ま、まちなさ――――』

 

 

 通信終了、だな。

 

 無事に生き残れマスター、それはあまりにも不名誉な死だ。

 

 そしてそこで項垂れている剣士よ。いい加減立ち直れ。

 

 なんとも、男連中のダメージが大きいな……

 

 

「――――ハメられた」

 

 

「うむ、ハメられたな」

 

 

「どうにかしろよ、あのヤロウ」

 

 

「我がか? 無理だな、なのは嬢やフェイト嬢、もしくははやて嬢に頼め」

 

 

「――――翌日には俺の色々なものが危うくなってる気がする」

 

 

 正解だ。マスターに丸め込まれた三人の戦女神に追い回されるお前が見えるぞ。

 

 人心掌握は上層部の人間の必須技能だ。

 

 

「さて、マスターより臨時予算を預かっている」

 

 

「――――」

 

 

「何をそんなに警戒している?」

 

 

「今度は何をやらせる気だ!? 食人文化のある世界に送り込む気か!? それとも女ばっかの部隊に臨時教官として放り込む気か!? リンディの話し相手十日間か!? あいつの家で嫁さんとかの愚痴の相手か!? はてまた保護施設で一ヶ月間泊り込みの子守か!?」

 

 

「最後が近いな」

 

 

「うおい!」

 

 

 何故そこまで怯える。

 

 マスターはそこまで悪人ではないぞ。

 

 

「――マスターは決して、貴様の壊した重要文化財の弁償だとか、貴様の引っ掻き回した合同演習の後始末だとか、貴様が原因で発生した騒動の片付けだとか、時折人事部に送られてくる怨念込みの貴様の配属案だとか、貴様が本局で起こした喧嘩騒ぎだとかの恨みを晴らそうとしているわけではないぞ」

 

 

「――――身に覚えがあり過ぎます、リョウスケ」

 

 

「最初はともかく、他のは俺のせいじゃねえべや!? 最後のだってあのいけ好かない連中が――――」

 

 

 知るか。

 

 マスターはご子息の入学式に出席できず、奥方たちに白い目で見られていたぞ。二ヶ月くらいな。今ではご子息にも白い目で見られておる。

 

 

「――――まあ、心配するな」

 

 

 ちょっと耳を貸せ。

 

 ふむ、やはり成年男子の肩はなかなか広い。

 

 

「なんだよ、男に囁かれて喜ぶ趣味はないぞ」

 

 

「――――これ以上死に向かう道を増やすな」

 

 

 囁かれるぞ、色んなおなごに。

 

 

「――――それは兎も角、マスターはキャロ嬢の楽しい休暇を望んでおられる」

 

 

「は?」

 

 

「――な、なにか?」

 

 

 こら、キャロ嬢に目を向けるな。驚いているだろう。

 

 

「――本来ならフェイト嬢がエリオと共に連れて行くのが最良なのだろうが、現状それは無理だ」

 

 

 部隊も忙しいしな。

 

 

「それ故、マスターは貴様を呼んだ」

 

 

「――捜査は?」

 

 

「それも事実。本来はマスターとフェイト嬢が捜査していたんだが、いかんせんこの世界は管理局の影響力が低い。まあ、密輸犯もそれを狙っていたんだろうが」

 

 

 広域次元犯罪の可能性が高い故、マスターは様々な場所へと根回しをしていたようだ。

 

 だが、明確な証拠がない現状ではマスターやその部隊の派遣は不可。フェイト嬢は現地政府監視下での行動を条件に出された。

 

 それでは捜査など不可能だ。

 

 

「――――で、俺に声を掛けたと」

 

 

「うむ、お前はここの連中に顔を知られておらん。キャロも管理局の人間には見えんしな」

 

 

その二人がテーマパークで遊んでいても親子か、年の離れた兄妹にしか見えん。

 

 

「――――野郎……面倒事を押しつけやがって」

 

 

「やらんのか?」

 

 

「――――やる」

 

 

 だろうな、理由がある以上こやつは断らん。

 

 それが他人に約束させられた事だとしてもな。

 

 

「――――おい、チビ」

 

 

「え? あ、はい!」

 

 

 怯えてるぞ。

 

 もう少し丸い言い方は出来んのか。

 

 

「――フェイトのこと、好きか?」

 

 

 そうそう、それくらいって……何!?

 

 

「ええと…」

 

 

「誰にも言わねぇよ」

 

 

 な、なななな、何を…!

 

 いや待て、キャロ嬢の表情が――――

 

 

「――――はい!」

 

 

 ふむ?

 

 

「――分かった、行くぞ」

 

 

「わかりました!」

 

 

 ――――宮本もそれなりに大人になったという事か……

 

 好きな人間に認められたい。

 

 目標としている人に認められたい。

 

 自分を自分として認めてほしい。

 

 宮本は、その心をよく知っている。

 

 人に認められた上での孤独、それが奴の生き方かも知れんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――おい、離れすぎるな」

 

 

「す、すみませ――」

 

 

「いちいち謝んな!」

 

 

「ごめんな――」

 

 

「だから人の話を聞け!」

 

 

「あうううう〜〜……」

 

 

 本当に大丈夫かこの二人で。

 

 

「――――ミヤよ、この男は変わらんのか?」

 

 

「――――わたしの力不足ですぅ〜……」

 

 

 数分前の自分を抹消したいぞ。

 

 この男、根本が子供だという事を忘れていた。

 

 言葉だけならキャロ嬢と同年代の子供と変わらん。

 

 

「――落ち着け宮本、まずは動物園区画からだ」

 

 

「何?」

 

 

「我とミヤで周囲の走査を行う。どこに拠点があるか分からない以上、しらみつぶしにやるしかない」

 

 

「お、おい…まさか…」

 

 

「貴様の考え通り、水族館区画、プール区画、プラネタリウム区画、植物園区画、博物館区画、美術館区画、そして、遊園地区画と動物園区画。すべて一日で回る」

 

 

「おい! 殺す気か!?」

 

 

「心配ない、すべての区画に入る必要はないからな」

 

 

 マスターとフェイト嬢が決めたルートに、我が今修正を加えた。

 

 このルートで回れば一日でいける。

 

 

「それでは行くぞ」

 

 

「わかりました…!」

 

 

「――くそう…」

 

 

「リョウスケ、戦術統制ではリュウトさんの創ったブレストさんに従うべきです」

 

 

「ああもう! 嫁さんにあいつの浮気現場の写真送ってやる…!」

 

 

「捏造は良くないですよ!」

 

 

 うむ、我の前で悪巧みは許さん。

 

 

「――――宮本」

 

 

「なんだよ!?」

 

 

「くらえ」

 

 

 放電開始。

 

 

「ぎょわああああああッ!!」

 

 

 う〜む、ミヤ嬢も避難に慣れたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうして俺はこのチビと馬に乗ってるんだ?」

 

 

「――すみません…」

 

 

「仕方なかろう、子供一人では乗れんのだ」

 

 

「そうですよー」

 

 

「だからってどうして俺が……」

 

 

「他にいるか? 我は他の人間をキャロ嬢に触れさせる許可を得ていない」

 

 

「今なんて言った!?」

 

 

「キャロ嬢から触れたり、仕方なく触れる以外は他の男には触れさせん」

 

 

「――――」

 

 

「本人驚いてる!?」

 

 

 仕方なかろう、そうでもしないと心配性のフェイト嬢にマスターが殺される。

 

 

「――というか、もっとくっつけ」

 

 

「おい!」

 

 

「ええ!?」

 

 

「ブレストさん!?」

 

 

 何を驚く、ミヤ嬢まで。

 

 

「離れすぎるとバランスが取りにくい。落ちたらどうする?」

 

 

 フェイト嬢が怒るぞ。

 

 

「――――ああくそっ!!」

 

 

「きゃ!」

 

 

 うむ、それでいい。しっかりとキャロ嬢の腰を腕で挟み込め。それが二人乗りだ。

 

 こら、逃げるな。落ちたら大変だろう。

 

 

「うるせえ! なんでこんな事に…!」

 

 

「あう〜〜……」

 

 

「リョウスケ! ブレストさんの指示だからわたしは黙っているんですよ!? 分かってますか!?」

 

 

「分かってるよ! というか、黙ってねぇ!!」

 

 

 顔が赤いぞ宮本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、次は植物園か」

 

 

「うむ、ここは敷地が広い。他の施設にも隣接しているから外周を回れ」

 

 

「――――おい、行くぞ」

 

 

「はい!」

 

 

「むうううう〜〜〜〜……」

 

 

 唸るなミヤ嬢。

 

 たかが手を引いているだけじゃないか。

 

 

「――あちい…」

 

 

 熱帯エリアだからな。

 

 それにしてもキャロ嬢――――

 

 

「…………」

 

 

「おい! 顔がすげーことになってんぞ!?」

 

 

 うむ、紅いな。

 

 

「大丈夫……です……」

 

 

 我の周りには『大丈夫』という自己申告が頼りにならない人間ばかりなんだが、このキャロ嬢も同じと見た。

 

 

「――宮本、少し行った先に休憩スペースがある。しばらく休め」

 

 

「そんな時間あんのかよ?」

 

 

「その間に情報を整理する。無駄にはならん」

 

 

「――わかったよ」

 

 

「あ…あの、大丈夫です」

 

 

 キャロ嬢よ、我を侮るな。

 

 

「――――宮本、担げ」

 

 

「――――電気銃出すなよ!?」

 

 

「仕事を達成したらしまってやる」

 

 

「――――そういうわけだ。よっと――」

 

 

「え、ちょ、わひゃああああッ!?」

 

 

「俺の上で騒ぐな! 胸も無い小娘の分際で!」

 

 

 ――――うん? 一瞬でポケットからミヤ嬢が消えた。

 

 

「ミヤキィィ――――――ック・ツヴァイ!!」

 

 

「いて! いてて! いててててて!!」

 

 

 なかなか素晴らしい連続蹴りだ。

 

 

「早く行くですリョウスケ!! そして早く降ろすんです!!」

 

 

「ああもう、わあったよ!!」

 

 

 それが正しいぞ、宮本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? お父さんと一緒かい? よかったねぇ…」

 

 

 ――売店の老婆よ、これが親子に見えるのか?

 

 宮本からこんな素直な子供が生まれたら、我は自己診断をするぞ。

 

 母親候補はいるがな。フェイト嬢とか。

 

 

「違う! 親子じゃねぇ!!」

 

 

「そうなのかい?」

 

 

「はい…」

 

 

「俺はこいつの保護者代理だ!」

 

 

「――――ほうほう、お兄さんかい」

 

 

「ちがッ――――って、電気銃は待て…!」

 

 

「――――我の言いたいことは分かるな?」

 

 

「――――――――そうだよ、俺はこいつの兄貴みたいなもんだ」

 

 

 うむ、それでいい。

 

 今のうちに配役に慣れておかねばな。

 

 

「ほう…やっぱり」

 

 

「やっぱりって…」

 

 

 驚くなミヤ嬢。

 

 この老婆は目が悪いのだ、きっと。

 

 

「仲良さそうに見えたからねぇ…」

 

 

「嘘つけ!」

 

 

「嘘じゃないよ。ここまで走ってくるときも、お嬢ちゃん喜んでたろう?」

 

 

「は? こいつが?」

 

 

 ――――まさか…?

 

 

「――――ええと…すみません」

 

 

「――――」

 

 

 ――――謝る理由は無いが……

 

 

「リョウスケェエエエエエエッ!!」

 

 

「怒るなよ!?」

 

 

 まあ、故郷を追われて以来、男親に担がれたり背負われたりは無かったろうからな……

 

 今回は認めよう。

 

 

「どうしてあなたはいつもいつもいつもぉ――――っ!!」

 

 

「バカ! 隠れてろ!」

 

 

「うわああああああああああん!!」

 

 

「いて! 蹴るなこのチビ!」

 

 

 喧しいぞ、二人とも。

 

 そして老婆よ――――

 

 

「我はバニラアイスを所望する」

 

 

 周りに人はおらん。我の姿はこの老婆にはちょっとした玩具にでも見えるだろう。

 

 

「はいよ、そっちのお嬢ちゃんは?」

 

 

「あ、あの同じもので…!」

 

 

「まいどあり、お兄さんと仲良くね」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「うんうん、よく言えたねぇ…。オマケしておくから」

 

 

「はい! ありがとうございます」

 

 

 うむ、素直に笑うのが一番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はプールかよ…」

 

 

「問題でもあるか?」

 

 

 水着は貸し出していたし、我らは姿を消している。

 

 今回の任務に合わせて取り付けられたアタッチメント――七四式多機能光学迷彩の力だ。これは我の立体映像映写装置と合わせることで、半径三メートルの空間を周囲の風景に溶け込ませるのだ。

 

 そのため、我は今本体のみの姿になり、宮本の周囲を回っておる。

 

 

「――いや、今更文句はねぇけどよ……」

 

 

「そうか。なら楽しめ」

 

 

「――――お前も大概無茶だよな」

 

 

「マスターほどではない」

 

 

「にしても、おせぇ……」

 

 

「女性の着替えは長いものだ。我も更衣室の中までは入れん」

 

 

 そんな事をしていたと知られてみろ、我はマスターの私物だ――つまりマスターが盗撮をしていたという事になる。

 

 

「――――しかし、よく選んだな。我の目から見ても貴様の水着のセンスは……」

 

 

「あいつらに言うなよ!? どんな目に合わされるか…!」

 

 

 ふむ、まあ今はよしとしよう。

 

 宮本にしてはセンスのいい水着を選んだしな。

 

 というか、実はあれが趣味か?

 

 

「――――電気銃で脅したのは誰だよ…?」

 

 

「そうでもしなければ貴様は選ばん。せっかくの機会だ、経験を積むがいい」

 

 

「いらねぇよ!!」

 

 

 いちいちうるさい奴だ。

 

 ――――む、来たか。

 

 

「――――あの……」

 

 

「――――うう……こんなに恥ずかしかったなんてぇ……」

 

 

「――――」

 

 

 うむ、薄緑の水着にキャロ嬢の桃色の髪がよく映える。

 

 たしか、たんくとっぷびきに――とか言うらしいな。あいにくと我のデータベースに水着のデータは無いのだ。

 

 流石に肌の露出が多いのは我が止めるが、これならキャロ嬢にもよく似合う――筈だ。少なくとも妹たちと比べて見劣りする事はあるまいよ。

 

 

「――あの…? ミヤモトさん、似合いますか?」

 

 

「――――」

 

 

 固まるな。いい年した大人が子供の水着姿で固まるな。

 

 ――――まあ、今までの知り合いにはこのようなタイプはいなかったのかもな。なのは嬢たちは妙に積極的だ、これが普通の反応なんだと初めて知ったのやもしれん。

 

 

「――――あのぅ〜」

 

 

「――――リョウスケ?」

 

 

「うおっ!?」

 

 

 ミヤ嬢、怒るな。

 

 というか、何故お主も水着を着ておる。

 

 

「もう――――『女性が自分の服が似合うかと聞いたんですよ?』」

 

 

「――――その言い回しはヤ・メ・ロ」

 

 

 マスター嫌いなんだな、宮本。

 

 

「ああ〜……オーケー分かった、電気銃を仕舞え」

 

 

「――――ほれ」

 

 

 早く言え。

 

 

「ちっ! ――――あ〜……よく似合ってる」

 

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

「ミヤはどうですか!? この水着はこの日のために選び抜いたスクー――――」

 

 

「だああああああああっ!! そんなもん選び抜くな!!」

 

 

 ――――宮本……お前……そんな趣味が!?

 

 最悪この場からキャロ嬢を連れて逃げねばならん…!

 

 

「だって、忍さんが――『侍君の趣味はスク水だよ。だってわたしよりなのはちゃんたちの方が好きそうだもん』って昔……」

 

 

「あのアマァアアアアアアアッ! つーか、お前も信じるなッ!!」

 

 

「えええ〜〜〜〜ッ! 違うんですか!?」

 

 

 ――――はあ……

 

 

「――――キャロよ」

 

 

「はい?」

 

 

「そのまま素直に育ってくれ」

 

 

「は?」

 

 

 我の知っている女性に普通と呼べる者はいないのかもしれん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「波など大したことはない。海にでも行ったと思え」

 

 

「はい…!」

 

 

「――――いちいち波のプールぐらいでびびるなよ」

 

 

「す、すみません」

 

 

「リョウスケ!」

 

 

「分かった分かった!」

 

 

 先ほどまで浮き輪に乗せたキャロ嬢を宮本に引かせていたのだが、ある意味凄まじい光景だったな。似合わんことこの上ない。

 

 

「――まだおわんねぇのかよ?」

 

 

「ここの地下はパイプやら何やらで複雑なのだ。今しばらく待て」

 

 

「ち」

 

 

 我慢が足りんぞ、宮本。

 

 あちらを見てみろ、キャロ嬢はしっかり楽しんでいるではないか。

 

 

「――ミヤモトさーん!! 泳げましたぁ!!」

 

 

「おー」

 

 

 これで波は克服か。

 

 そういえば、海の波は平気でも、プールの波は怖いという人間もいるらしいな。

 

 

「――――あの…リョウスケ…? 今度はわたしも……」

 

 

「そこから動くな、姿が見える」

 

 

「ううう〜〜……」

 

 

 対抗心剥き出しだなミヤ嬢。

 

 ――――ん? このアナウンスは?

 

 

<――――これより、波の出るプールにて大波タイムが始まります。小さなお子様のお連れの方は、ご注意ください>

 

 

「――――」

 

 

「――――」

 

 

「――――」

 

 

 あ、波。

 

 

「――え!? わぷ! きゃ、きゃあああああああああッ!!」

 

 

いきなりさらわれたぁあああああ!?

 

 

「み、宮本!!」

 

 

「ああくそ、分かってる!! ちくしょう! 波が強すぎて…!」

 

 

「キャロ! 頑張るです!!」

 

 

「は、はい! うわぷッ!」

 

 

「宮本ぉおおおおおおおッ!!」

 

 

 殺される! 我も殺される!!

 

 バラされる!! プレスされるぅううううう!!

 

 ――――――――ならば!!

 

 

「宮本!」

 

 

「ああッ!?」

 

 

「逝け」

 

 

 魔導機関出力上昇! 照準よし!

 

 大気砲(エアブラスト)ォ!! ファイヤァアアアアアッ!!

 

 

「な!? ちょ! ま――ぎゃああああああああああッ!!」

 

 

 逝って来い宮本!!

 

 

「きゃッ!? み、ミヤモトさん!?」

 

 

 よし行った!! 圧縮空気を一方向に向けて発射する鎮圧用武装だが、発射方向と威力と集束率を調整すれば人を発射できる!

 

 うん? 浮き上がってきたな。

 

 

「――溺れるわボケェ!! って、何だ?」

 

 

「――――」

 

 

 キャロ嬢?

 

 何故宮本の後ろに隠れる?

 

 

「――――す、すみません……今ので、水着どこかに行っちゃって……」

 

 

「なあああああああッ!? さっきの手の感触はそれかあああああああッ!!」

 

 

「リョウスケェエエエエエエ!!」

 

 

「探せ! すぐ探せ! 直ちに探せ!!」

 

 

 だ、だから宮本にくっついてるのか?

 

 ――――って……

 

 

「宮本! いいな!? 背中の感覚を消せ! 何も感じるな!!」

 

 

「無茶言うな! って、今ので訳の分からん感触がぁあああああああ!!」

 

 

「ほ、本気で怒りますよぉおおおおおおお!?」

 

 

「俺のせいじゃねぇええええええッ!!」

 

 

「見るな! 感じるな! 息ををするな!!」

 

 

「無茶言うな! 死ぬわ!!」

 

 

「あ、あそこです!」

 

 

 なに!? 確かにあの色は――!!

 

 

「宮本ぉおおおおおッ!!」

 

 

「くそったれえええええええええッ!!」

 

 

「だ、ダメです! 離れたら…!」

 

 

「抱きつくなあぁああああああ!!」

 

 

「リョウスケのバカアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 ふぅ……何とか回収できた。

 

 あとは、宮本の記憶を消す術を探さねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――死ぬ」

 

 

 ベンチに座るなり何だ、宮本。

 

 

「人間そう簡単には死なんよ」

 

 

「お前のあの主人を見てそういえるのか?」

 

 

「――――多分」

 

 

「おい!」

 

 

 仕方なかろう。

 

 

「――――」

 

 

 ん? 先ほどからキャロ嬢が静かだが――――

 

 

「――――――――」

 

 

「――寝そうだな」

 

 

「――うむ、見事な前後運動だ」

 

 

「――仕事しろよ」

 

 

「終わったぞ」

 

 

「おおい!」

 

 

 先ほどの騒ぎで忘れていたが、どうにも浄水・貯水施設の一部が取引現場として使われているらしい。

 

 さきほど走査した情報を整理して分かったのだ。

 

 

「――――ふあ…? すみません…」

 

 

 む、起きたのか?

 

 

「――――くぅ…」

 

 

「むにゃ……リョウスケェ……見てください…こんなに大きくなりましたぁ……」

 

 

 起きてないな。というか、いつの間にやらミヤ嬢も一緒に夢の中か……

 

 だが、丁度いい。

 

 

「宮本、キャロはそのままでいいぞ」

 

 

「は? 仕事はどうすんだよ?」

 

 

「目的の場所は分かった。あとは現場を押さえるだけだ」

 

 

「――――俺たちでか?」

 

 

「ああ、情報通りなら今日が取引の日だ」

 

 

 それに合わせて捜査したのだからな。

 

 迅速に解決しなくては、犯人に逃げられる。

 

 

「そして、それは営業が終わった後行われるはずだ」

 

 

 流石にこの人数がいる場所で取引は出来まい。

 

 営業時間後ならここに出入りしている業者の人間にでも化ければ済む。

 

 大荷物も問題なく輸送できるしな。

 

 

「疲れたままではろくに動けまい。休ませておけ」

 

 

「――――まあ、いいけどよ」

 

 

「珍しく素直だな」

 

 

 面倒くさいとぼやくかと思ったんだが――

 

 

「伊達にあのガキどもと十年も一緒にいねぇよ。この年頃のガキには、今回みたいな仕事はつらいだろうさ」

 

 

「――――まあな」

 

 

「それを分かってて野郎はこいつを遣したんだろ? 相変わらず胡散くせえ」

 

 

「――貴様はキャロ嬢と距離があった。だからこそ、今回貴様を呼んだのだ」

 

 

「あ? どういうことだ? って、おい!?」

 

 

「――すう…すう…」

 

 

 ――――――――

 

 ふむ、宮本の肩は暖かいか? キャロ。

 

 

「――――動くなよ」

 

 

「――――分かってるよ…! 電気銃しまえ…!」

 

 

 この男も丸くなったものだ。

 

 孤独を求めていながら、孤独になる事が出来ない剣士――それが我の印象だった。

 

 

「――話を戻すぞ」

 

 

「ああ」

 

 

 人のための力を持ちながら人のために生きない男。

 

 だが、それは本当の姿か?

 

 

「レリック事件はその頻度を増している。ガジェットの出現は増え続け、つい先ごろ新人たちのデビュー戦も終わった」

 

 

「ああ、知ってるよ」

 

 

「だが、不安要素は多くある」

 

 

 我には、この男が人に好かれる理由が分からなかった。

 

 

「そもそも相手の目的がわからない。そして、十年前の因縁も絡んでおる」

 

 

「――それも聞いた」

 

 

 だが、視点を変えてみた。

 

 第三者的な視点を捨て、この男と一対一で会話をした。

 

 

「分かるだろう? この戦いはいずれこの子らの心を試す」

 

 

「――――」

 

 

 ――――思った以上に、素直な男だった。

 

 

「みな若いのだ、あの部隊は」

 

 

「部隊長が十九だもんな」

 

 

 心が分かりやすいのだ。

 

 裏表がありながら、それすら容易に入れ替わる。

 

 

「若き力は時として運命を大きく変える。それが若さだからだ」

 

 

「ああ」

 

 

 本音で話せば、これほど気持ちが楽になる男はおるまい。

 

 

「――――最後の休息にするつもりはない。だが、この子らに平穏を与えたかった」

 

 

 ――――だからこそ、我はこの男に託す。

 

 

「部隊から離れ、一人の人間として普通の時間を与えたかった」

 

 

「だったら――」

 

 

「フェイト嬢では近すぎる。エリオも同様。だから貴様だ、宮本」

 

 

「わかんねぇよ、なんで俺みたいな人間に……」

 

 

「貴様だからだ。自分のために人のための力を使う貴様だからだ」

 

 

「――――」

 

 

「何も考えるな。ただ、この子と任務をこなしてくれ」

 

 

 それが――この子の平穏を生み出す。

 

 

「――ああ、仕事だからな」

 

 

「それでいい」

 

 

 ――――魔導師ではない、普通の子供としての未来をこの子に見せてやってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――結局、全員寝てしまったか」

 

 

 我は警備端末ゆえ寝ない。現在までの報告書も送らねばならなかったしな。

 

 それにしても――――

 

 

「――――兄妹だな。確かに」

 

 

 本能的に温もりを求め宮本に体を寄せるキャロ嬢と、自分に触れる暖かさを抱き寄せる宮本。

 

 こやつの過去など大して興味は無い。

 

 だが、一度暖かさを知れば、それは強さにも弱さにもなる。

 

 

「なあ宮本、その子は――――」

 

 

 ――――暖かいか?

 

 

「――――――――」

 

 

 暖かさをセンサーでしか感じられないこの身が、これほど虚しい事はないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――分かりやすいっつーか、期待を裏切らないというか……」

 

 

「分かりやすくて結構。期待を裏切られなくて一安心。さっさと証拠を押さえるぞ」

 

 

「――――本当に奴の喋り方に似ててムカつく」

 

 

「あははは……」

 

 

 ここまで来るのにいくらか時間を費やしたが、現在我々はこのテーマパーク中央のプール――その地下にいる。

 

 災害時の貯水槽として行政に申請されていた巨大な地下空間は、こうして密輸取引の現場となっているというわけだ。

 

 確認できる範囲で二十三人、予想では五十人を超える規模の取引だと聞いていたんだが――

 

 

「――少ないな。複数の組織に個人の密輸ブローカーまで現れる可能性があるとのことだったんだが……」

 

 

「そんだけ情報があんのにどうして管理局が出てこねぇんだよ」

 

 

「どれも決定的な決め手に欠けている。管理局は巨大な組織だ、動くにはそれ相応の証拠がいる」

 

 

「けっ! お役所仕事万歳って奴だな」

 

 

「――――取引物や犯人たちの各種個別データを採取している。このデータがあれば、強制捜査も可能になるはずだ」

 

 

 そのための準備をフェイト嬢が行っている。

 

 フェイト嬢といえば、先ほど報告書を送ったときに通信先で妙な気配を感じたのだが、あれはなんだったのだ?

 

 まるで、世界の底を覗いたような気分になったぞ。

 

 

「ま、こうして姿を消してれば見つかる事はねーか…」

 

 

「でも、あまり油断してると…」

 

 

「そうです…! その油断で何度痛い目を見ましたか!?」

 

 

「だあああッ!! うるさい! 分かってるよ!」

 

 

「――――うるさい…!」

 

 

 連中に見つかるだろうが…! 探査に集中しすぎて貴様らの見張りを忘れた我も悪いが。

 

 

≪あッ!?≫

 

 

「『あッ!?』じゃない! 見つかるだろう、って――――」

 

 

 気付くのが遅かったぁあああああああああッ!!

 

 その証拠にほれ――――

 

 

「誰だ!?」

 

 

「――おいどういうことだ! 俺たちを売ったのか!?」

 

 

「ふざけんな! ここは俺たちの大事な拠点だぞ!? そこに誰を引き入れるって言うんだ!!」

 

 

「お前ら! すぐに引き上げるぞ!」

 

 

「くそっ!! これだけのブツ集めるのにどれだけの金を使ったと思ってるんだ!」

 

 

 なんとまあ、悪人面のマフィアから学者然とした痩せ男、フェイト嬢とさほど変わらん歳の女までいるぞ。

 

 悪人だと分かる者から普通の学生のような奴まで、ひょっとして密猟した動物の取引だけではないのか?

 

 

「――――くそっ! 逃げるぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

「わわ…ッ」

 

 

 それが妥当な判断だ。マスターもこのメンバーでの戦闘は想定していない。

 

 

「撤退ルート確認。ついて来い」

 

 

「言われなくても!」

 

 

 いくら探査に夢中になっていたとはいえ、我も油断した。

 

 ――――この男はどこでも騒動を巻き起こすことをすっかり忘れていたのだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで走るんだ! 俺はともかくチビは…!」

 

 

「はあ…! はあ…! はあ…!」

 

 

「分かっておる。あと二百メートル、ラストスパートだ」

 

 

 なのは嬢の訓練がなければここまで付いてくることは出来なかっただろう。

 

 この子も常に成長しているということか……

 

 

「は…はい! がんばりま――きゃああッ!!」

 

 

「お、おい!!」

 

 

「キャロ!?」

 

 

 どうした? 何かにつまずいたように見えたが。

 

 

「はあ…はあ…す…すみません…足がもつれて…」

 

 

「――――ここが限界か。宮本、背負え」

 

 

「また俺かよ!?」

 

 

「抱えても、担いでも、抱き上げてもいい。急げ」

 

 

「――――だあもう! 分かったよ!」

 

 

「ミヤモトさん!?」

 

 

 それでいい。

 

 だが――――――

 

 

「――――リョウスケが…お姫様ぁ…」

 

 

「おい、さっさと行くぞ。ミヤ」

 

 

 横抱きくらい珍しくもあるまい。意外とバランスもいいしな。

 

 だというのに――――

 

 

「あう〜〜……」

 

 

「おいこら! さっきより顔色やばいぞ!?」

 

 

「うううううううううう〜〜……キャロ……うらやましい……」

 

 

 き、貴様ら――――

 

 

「とっとと走れええええええええッ!!」

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

「わきゃあああああああ!!」

 

 

「すみませぇえええええん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…! あれって…」

 

 

「く…! もたもたしている間に周囲を封鎖されたか」

 

 

「すみません…」

 

 

「キャロのせいじゃないです! リョウスケがのろのろ走ってるから!」

 

 

「俺のせいかよ!?」

 

 

 この状況になっても騒がしい連中だ。

 

 施設の周囲は完全に封鎖されているというのに……

 

 

≪聞こえてるか? さっきのネズミ!!≫

 

 

「あ?」

 

 

「どうやら連中、我らが数人しかいないとふんだ様だな」

 

 

「けっ! 舐めやがって」

 

 

≪今すぐ出てくれば命だけは助けてやる! それ以外は保障しねぇがな!!≫

 

 

「ど、どうしましょう…」

 

 

「リョウスケ…」

 

 

「ド三流だな」

 

 

「うむ、三流にすら届かん」

 

 

 まったく、もう少しまともな降伏勧告は出来んのか……

 

 

≪そっちの小娘は俺たちのルートに流してやるよ! そういう趣味の連中はごまんといるからな!! ひゃははははッ!!≫

 

 

「ひッ…!」

 

 

 ――――なに?

 

 

「――――おい、今なんつった?」

 

 

「すまん、聴覚センサーの調子が良くないようだ」

 

 

「キャロ、大丈夫です。わたしが守ります…!」

 

 

 ――――そこの男、その目はやめろ。気分が悪い。

 

 

「おい、宮本」

 

 

「なんだよ?」

 

 

「どうする?」

 

 

「――――」

 

 

 我はこやつの秘書のことを知っている。

 

 彼女がどのように一度目の人生を終えたのか。

 

 どのようにして宮本と出会ったのか。

 

 ――――どのように、二度目の人生を始めたのか。

 

 

「――――今度はまだだ」

 

 

「――――」

 

 

「分かっているだろう? キャロはお前の後ろにいる。手を伸ばせば届く」

 

 

「――――ああ」

 

 

「ミヤモトさん…」

 

 

「恨んだのだろう? 憎んだのだろう? それでも、貴様は越えてきたのだろう?」

 

 

「――――ああ」

 

 

「リョウスケ…」

 

 

 武士の心意気、見せてもらおうか。

 

 

「問おう、貴様はどうする? 剣士宮本よ」

 

 

「――――へッ! 決まってるだろ、俺の手の届く範囲に居る奴をそう簡単に――――くれたりしねぇッ!!」

 

 

「――御意。往け、剣士宮本。我が援護する」

 

 

「応!! 来い、ミヤ!!」

 

 

「分かりましたぁ!!」

 

 

「あの…! み、ミヤモトさん…」

 

 

 キャロ嬢…

 

 

「気にすんなよ、俺はお前を守る約束をしちまったんだ。約束なんて破ってばっかの俺だけどよ……一度も約束を破った事がないやつとの約束は、死んでも守る。俺の意地に懸けてな」

 

 

「いえ、ミヤモトさんが…」

 

 

――――心配だろうな。

 

フェイト嬢やなのは嬢をよく知るこの娘にとって、宮本は小さく映るだろう。

 

 

「心配ねぇさ、俺だってプライドくらいある。――――俺も生きて、お前を守る」

 

 

「――――はい!」

 

 

 それでも、小さい男ではない。

 

 

「――手伝って、くれるか?」

 

 

「はい!! 頑張ります!」

 

 

 誰かの隣で戦う事が出来る男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝てろ! 下郎が!!」

 

 

「ぎゃッ!!」

 

 

 背後に回り、延髄に直接電撃を――――叩き込む!!

 

 それが我の戦い方だ。

 

 魔導師ではないこの連中なら、我にも十分戦える。

 

 

「ミヤモトさん! 上から狙ってます!!」

 

 

「分かった! 宮本選手! 第一球投げたあああああッ!!」

 

 

 おいおいおい…!

 

 金属の塊投げたぞあの男。

 

 

「がッ!」

 

 

「よっしゃストライク!!」

 

 

「デッドボールだ」

 

 

 生きてるか、下郎。

 

 

「――ぁぁぁぁああああああああッ!!」

 

 

「おせえ!! テメエ程度の速さで俺に当たるかぁああッ!!」

 

 

 奴の周囲には達人ばかりだからな。

 

 その場で体重移動――そして、相手の勢いを利用して……

 

 

「突きぃいいッ!!」

 

 

「ごッ!!」

 

 

 非殺傷でなければ死んでるな。

 

 

「おらおらどうした!? このチビ連れてくんじゃなかったのか!?」

 

 

「くッ…! 近付くな! 遠距離で仕留めろ!!」

 

 

 甘い、翠屋のケーキぐらい甘い。

 

 

「俺を遠距離で仕留めたいなら――砲撃魔導師でも連れて来い!!」

 

 

「なぁッ!?」

 

 

 突っ込む宮本と、その動きに驚く犯人グループ。

 

 結果は決まったな。

 

 

「ぐあッ!」

 

 

「げッ」

 

 

「がはッ」

 

 

「ぐううッ!」

 

 

 魔導師や達人相手以外なら、宮本は決して弱くはない。

 

 才能ではない、経験だ。

 

 門前の小僧なんとやらという奴だな。

 

 

「ラストォオオオオッ!!」

 

 

「や、やめ――――ぐがッ!!」

 

 

 自分たちの言葉に責任を持つことだ。

 

 ――――失せろ、下郎が。

 

 

「――――?」

 

 

「どうしたキャロ?」

 

 

 何かを探しているようだが――

 

 

「人数が足りません。それに、取引現場にいたはずの容疑者がいないんです…!」

 

 

「なッ!?」

 

 

 くそっ! 照会中に戦闘が始まったから、気付かなかった!

 

 

「――――宮本!! 不味い! 奴らに――――」

 

 

 ――――逃げられる!

 

 

≪てめえらッ! そこを動くな!!≫

 

 

「ッ!」

 

 

「なんだと?」

 

 

 我のセンサーを掻い潜る――――いや! ジャマーか!?

 

 

≪くそっ! 管理局が出てくるなんて聞いてねぇぞ! 『奴』は何してやがったんだ!!≫

 

 

 『奴』?

 

 管理局に協力者でもいるのか?

 

 

≪動くな! 管理局の魔導師だろうがなんだろうが、俺の仕事の邪魔をしたからには死んでもらう!!≫

 

 

「はッ! 手下どもが寝てんのに、どうやって俺らの相手をするつもりだ!」

 

 

 その通りだ。

 

 ――――いや、待て。

 

 ジャマー……そうか!

 

 

「宮本! 奴の手下はこいつらだけじゃない!!」

 

 

「何!?」

 

 

「ど、どういうことですか?」

 

 

≪そっちの小さいのは気付いたみたいだな! 俺は臆病でね、全部の兵隊を一気に場に出すなんてできねぇのさ!!≫

 

 

「!!」

 

 

 急にセンサーに反応が…!

 

 ジャマーを解除したのか!

 

 

「――――おい、何人だ?」

 

 

「ざっと三十人、他にも伏兵がいる可能性がある」

 

 

「そんな…!」

 

 

 融合状態の宮本にはミヤ嬢の戦闘管制がある。

 

 だが、我々にはこの包囲網を突破するだけの力がない。

 

 エネルギーも半分を切ったか……

 

 

「――――宮本、キャロ嬢を連れて行け」

 

 

「なんだと…!?」

 

 

「我が囮を務める。その間に包囲網を突破し、管理局の部隊を連れて来い」

 

 

「だったらテメエが行け! 俺の方が耐えられるだろ!?」

 

 

「キャロ嬢はどうする? いくら魔導師とはいえ、フリードリヒもいない状況で、誰がこの子を守る?」

 

 

 気にするな、これが我の役目だ。

 

 

「――――ふざけんなよ…! 俺に逃げろっていうのか!?」

 

 

「約束を果たせと言っている。キャロ嬢に何かあった時、マスターになんと言い訳するつもりだ?」

 

 

「それは…!」

 

 

「ここで貴様が退いてもマスターもフェイト嬢も、誰も貴様を責めん。これから貴様が行う行動は、正しいことだ」

 

 

「ブレストさん…」

 

 

 キャロ嬢、そんな顔をするな。

 

 マスターに怒られてしまうではないか。

 

 

≪さあ! 男を殺せ! 小娘を奪え! 人の顔に泥を塗った報い、受けてもらう!!≫

 

 

 気配が接近している。時間はないな……

 

 

「さあ――行け」

 

 

「――――」

 

 

 宮本、約束を果たせ。

 

 

「――――いやだね」

 

 

「なに!?」

 

 

「俺はてめぇと約束したんじゃねぇ。奴と約束したんだ」

 

 

「そんな事いってる場合じゃないだろう!?」

 

 

「うるせえ! 男が、こんな事で退けるかああアアアアアアッ!!」

 

 

 宮本――!

 

 !! これは…!

 

 ――――――――緊急コード!?

 

 

≪――こちらは時空管理局です。この施設は完全に我々の包囲下にあります。ただちに武装を解除し、投降しなさい――≫

 

 

 視覚センサーの故障ではない――!

 

 空が、光っている……

 

 

「おい! 今の…」

 

 

「フェイト…さん…?」

 

 

 フェイト嬢……来たのか……?

 

 

『ブレスト? 聞こえる?』

 

 

「聞こえるぞ、フェイト」

 

 

 よく聞こえる。自分の通信機がこれほど素晴らしいものだとは、今まで知らなかったぞ。

 

 

『良かった…! いつでも出られるようにって、リュウトが艦をこの世界の領域すれすれに待機させてたの』

 

 

「――――」

 

 

「あの野郎…! 俺たちに何も言わなかったじゃねぇか!」

 

 

『ごめん、この世界の政府に気付かれたら困るからって…』

 

 

 おいおい…!

 

 政治問題になるぞ!

 

 

「あの野郎はどうした!?」

 

 

『リュウトなら今…』

 

 

 マスターなら…?

 

 

「――――――――ふ、ふざけるなああああああああッ!!」

 

 

「きゃあッ!」

 

 

 何だと!?

 

 

「おい! 管理局が介入したんだぞ! 大人しく……」

 

 

「黙ってろ! こいつを人質にしてここから逃げてやる!!」

 

 

 ――――下衆が…

 

 だが、キャロ嬢が人質になっている以上、手を出せん…!

 

 

「ここまで大きくした組織を、こんな事で失って堪るか!」

 

 

 この男――――哀れだな。

 

 

「――――この程度の犯罪組織を生き甲斐にするのか?」

 

 

「何!?」

 

 

「――宮本…」

 

 

「ミヤモトさん…」

 

 

 剣が――――震えている?

 

 

「失いたくないもんなら、他にいくらでも創れるだろう!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「人のせいにするな! 人に責任を押し付けるな! 自分から逃げるなッ!!」

 

 

 ――――後悔、か。

 

 気づいたときには、取り戻せないものだ。

 

 それが、なんであるか分からんがな。

 

 

「――――くそおおおおおおおおおおッ!!」

 

 

「宮本! キャロを!」

 

 

「ああ!!」

 

 

 周囲の気配が一気に迫ってくる。

 

 宮本と我で抑え、キャロ嬢を救出できるか?

 

 

「――――――――さすが、良介君の言葉は心に染みる」

 

 

≪!?≫

 

 

「そうは思いませんか? フェイト君」

 

 

「――リョウスケ……」

 

 

「フェイト!?」

 

 

夜空に浮かぶ白き衣の魔王と、金色の戦女神――――管理局が本気で動いた…!

 

 

「これがリョウスケの戦いだって分かってる。でも、わたしも、失いたくないから…」

 

 

「――――そういうことです。キャロ君は任せました」

 

 

「お、おい…!」

 

 

 マスター、その笑顔は何だ?

 

 

「守ってもらいましょう。あの告白通りね」

 

 

「こ、こくは…ッ!」

 

 

 違うと思うぞ。

 

 

「――さて、始めましょう。」

 

 

「リョウスケ。キャロの事、お願い…!」

 

 

Phantom Zero.

 

 

Sonic move.

 

 

「宮本! 行くぞ!!」

 

 

「ああくそ! いつか絶対泣かす!!」

 

 

 泣かされるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミヤモトさん……すみません……」

 

 

「黙ってろ!」

 

 

「うぐ…ッ!」

 

 

 くッ…! あの二人のように高速移動出来ない我らに、どのような手段があるというのだ…!

 

 

「――――おい、丸いの」

 

 

「――――何だ」

 

 

「――――プールで使ったやつ、いけるか?」

 

 

「――――そうか…!」

 

 

 大気砲なら宮本の速度を瞬間的に引き上げ、あの下衆がキャロ嬢を傷付ける前に確保できる…!

 

 だが――――

 

 

「隙を作らねばならんぞ。一瞬とはいえ、我らの動きは奴に遅れる」

 

 

「分かってるよ。俺に任せろ」

 

 

 何…?

 

 おい、どこへ行く。

 

 

「――――おい、てめぇ」

 

 

「な、なんだ…! 近づくな! 殺すぞ!?」

 

 

「はッ! やってみろよ。その瞬間――――殺されるぜ?」

 

 

「なに!?」

 

 

 な、何を…?

 

 

「見てみろよ。――――――――てめえの部下、片付いたみてぇだぜ?」

 

 

「なにッ!?」

 

 

 宮本の言葉に…奴の気が逸れた――!!

 

 

「――――いけええええええええッ!!」

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

「大気砲ォ!! ディスチャージッ!!」

 

 

「――――なにッ!?」

 

 

「そいつから、手をはなせぇえええええええッ!!」

 

 

 行け、宮本!

 

 

「一刀…! 両・断!!」

 

 

「ぎゃあああああああッ!!」

 

 

「ミヤモトさんッ!!」

 

 

 見事なり――宮本。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というか、後ろで笑っているマスターが恐ろしいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労さま、良介君」

 

 

「――――体がうごかねぇ…」

 

 

「大気砲を受けて動けたら、それこそ意味がないでしょう。それより――――」

 

 

「あ?」

 

 

「いくらキャロ君が大切だからって――――そんなに抱き締めなくても、誰もとりませんよ?」

 

 

「なあああああッ!?」

 

 

 気づけ愚か者。

 

 突っ込んだままキャロ嬢を確保したは良いが、そのまま一緒に転がってたぞ。

 

 

「――――」

 

 

「おい!? 大丈夫か!? 生きてるか!?」

 

 

「照れてるだけですよ。しかし――――紅い……」

 

 

 ピクリとも動かん。

 

 本当に大丈夫か?

 

 

「――あ、ミヤモトさん……」

 

 

 生きとるな。

 

 

「ああ〜…生きてるか?」

 

 

「は、はい…」

 

 

「そうか…」

 

 

「はい…」

 

 

 う〜む、何故か居心地が悪い。

 

 

「――――あの、ミヤモトさん」

 

 

「ああ?」

 

 

「名前、教えてもらっていいですか?」

 

 

「――――良介――知ってるだろう?」

 

 

「違うんです。これで――名前呼べるなって…」

 

 

「は?」

 

 

 は?

 

 あ、マスターが笑いを堪えてる。

 

 

「――――今度、遊びに行きますね。お礼も――――」

 

 

「いや、そんなこと――」

 

 

「――――――すみません、タイムアップです」

 

 

「うおっ!?」

 

 

「きゃッ!」

 

 

 マスター、ぶち壊しだぞ。

 

 

「すみませんねぇ、フェイト君に指示を出して遠ざけたのはいいんですが……」

 

 

「あ、だから静かだったのか…」

 

 

 フェイト嬢がいたら、今頃宮本は担架の上だな。

 

 

「――――はやて君と、なのは君も到着したみたいです」

 

 

「な」

 

 

「ブレストの報告書見られてしまいましてねぇ…」

 

 

「お、おい」

 

 

「親子なら許せたのかもしれませんが、どうにも違うようで…」

 

 

「――――向こうで三色の光が見えるんだが……」

 

 

 我にも見えるぞ。

 

 

「さて、逃げましょう」

 

 

「――――じゃ適当に遊びに来い」

 

 

「あ、はい」

 

 

「では――」

 

 

「じゃあな」

 

 

「え、え、えええええ〜〜ッ!?」

 

 

 早ッ!?

 

 あっという間に暗闇に消えたぞ。

 

 あ、三色の流星が追いかけていった。

 

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

「みぎょああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 

 安らかに眠れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザ・オマケ

 

 

「――――で、なんでお前がここにいる」

 

 

「リュウトさんがアリサさんに色々教わるようにって…」

 

 

「何を!?」

 

 

「『君はなのは君たちに比べて彼の事を知らないので、一番彼に近いアリサ君に色々教わると良いでしょう』って」

 

 

「あのやろおおおおおおおおおッ!!」

 

 

「――――あの、ダメですか?」

 

 

「うッ」

 

 

「遊びに来いってくれましたし、お礼もしたいなって…」

 

 

「いらん! 帰れ!」

 

 

「そ、そんな…ぐす…」

 

 

「泣くなよ!」

 

 

「だって……だって……」

 

 

「だああああああッ!! お前が泣くと厄介な奴が怒るんだよ!」

 

 

「ひっく…ご、ごめんな…さ……」

 

 

「なーくーなーッ!!」

 

 

「すみま…せん、リョウスケさん…」

 

 

「リョウスケ…い…ら…――――今度は誰? どこで引っ掛けたの? 怒らないから言いなさい…!!」

 

 

「ぐああああああああッ!! 覚えてろよぉおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 む、宮本の湯飲みが割れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

 ジーク・キャロ! ハイル・ミヤ!

 

 同志よ! 怒るな!!

 

 これが限界だ!

 

 いや、嘘はついてないぞ!

 

 

 

 次があれば、今度はミヤ嬢だ!!

 

 同志諸君の意見を聞かせてくれ!!

 

 




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