魔法少女リリカルなのは―――暗き瞳に映る世界―――

 

 

 

 

 

第二章 

 

 

 

第六話

 

〈決意〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の異変の中心である第149観測指定世界へと急行する艦隊の中に、アースラの姿はあった。

 

 時空管理局本局から出航して約半日、ロストロギア<メイガスの鍵>の真実の姿が明らかになり、同時にそれによって封印されているものの存在が明らかになって半日でもあった。

 

 管理局で起こった一部強硬派の八神はやてに対する行動は、この事件に際して初動の遅れを誘発する結果になっていた。

 

 事を起こしたスコット・カーライル提督とそのほかの人間はすでに拘束されているが、彼がリュウト・ミナセ提督に対して行った妨害行為により指揮系統に混乱が生じてしまったのだ。

 

 リュウトが指揮権を奪われていた時間は決して長くはない。だが、カーライルはリュウトの指揮下にあった探索部隊に対し、無期限の待機命令を管理局からの命令として出してしまった。

 

 その上で自分の息の掛かった部隊を探索部隊として任に当たらせたのだ。しかし、上官であるカーライルが逮捕、拘束されてしまった混乱で、その探索部隊は鍵が発動する兆候を見逃してしまった。

 

 だが、別の命令系統を持っていた定置観測隊が探索部隊に遅れて鍵の発動を感知し、本局へとその報告を行った。しかし、それと同時に、次元世界の一方面で小規模乃至中規模の次元震が発生し、管理局は大混乱に陥った。

 

 しかし、別の議題で既に召集されていた管理局の上層部会議でこの案件に対する対策が検討され、管理局はこの件に関して可能な限り最大限の戦力を投入する事を決定。

 

 アースラをはじめとするL級巡航艦数隻を中核とした主力艦隊十数隻は、今、戦場に向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミナセ提督。そろそろブリーフィングの時間です」

 

 

 アースラの艦橋で瞑目していた青年は、よく知る幼さを残したその声で意識を急激に覚醒させた。

 

 

「―――分かりました。なのは君たちも既に?」

 

 

「はい。先ほど」

 

 

「そうですか…」

 

 

 青年――時空管理局提督リュウト・ミナセ――の表情はあまり明るいとは言えなかった。

 

 このような状況ではそれも当然だと言えるが、その表情には別の理由がある気がする。リュウトに声をかけたクロノはそう思っていた。

 

 

「シグレ、ユーノ君はなんと?」

 

 

「先ほど通信があり、引き続き調査を続けるとのことです。それと、その通信で“対象”に関する資料も送られてきました」

 

 

 青年の意識が覚醒したのを見計らって近付いてきた使い魔に、リュウトは本局で無限書庫に篭っている少年の状況を訊ねた。

 

使い魔であるシグレの口から出た回答は、期待以上ではあったが、最高のものではなかった。

 

しかし、現状では期待するよりも、まず自身に出来る事を完遂しなければならない。

 

 

「では、会議室に着くまでに一通り目を通しましょう」

 

 

「は…」

 

 

 シグレは主の言葉に、自身の脇に抱えていたノート型の情報端末を差し出した。

 

 主の答えは既に分かっていたので、こうしてあらかじめ用意しておいたのだ。もっともそれを用意したのは、シグレとブリッジクルーで情報管制を担当しているエイミィの二人だったが。

 

 それを受け取ると、リュウトはすぐに立ち上がる。 そして、ブリッジで最も高い位置にある艦橋席に視線を向けた。

 

 そこには、やはりリュウトに視線を向けるこの艦の艦長の姿があった。

 

 

「…ブリーフィングだそうね…」

 

 

「ええ、艦隊からの砲撃で事が済めばいいのでしょうが………やはり、難しいでしょう」

 

 

「そうね…。艦隊司令も同意見らしいわ。さっき、私の個人回線に貴方宛の伝言を送ってきたわよ」

 

 

 リュウトとリンディが参加した艦隊首脳部の会議では、対象が姿を現した瞬間に、惑星軌道上に展開した艦隊全艦による一斉砲撃を行うという事が決定している。

 

 しかし、リュウトも他の参加者たちも、それで対象を殲滅できるとは思っていないようだった。

 

 会議で決定された方針は、艦隊砲撃の後、対象が健在だった場合は魔導師を降下させ、対象を捕捉するというものだ。艦隊は砲撃を続けるが、主戦場は大気圏内に移ることになる。

 

 そして、その作戦も別の目的のための布石に過ぎない。

 

 その最終段階のために、本局ではアルカンシェルを搭載した艦の発進を進めているが、それの到着を待っていては遅い。だからこそ、最悪この艦隊で対象を足止めしなければならないのだ。

 

 今回の作戦が総じて分の悪い賭けになっている。リュウトはそう考えていた。

 

 

「『降下部隊が出撃しないことを祈る』だそうよ」

 

 

「―――全く同感ですね」

 

 

「私もそう。でも、わざわざ言ってきたって事は…」

 

 

「そういうことでしょうね」

 

 

 艦隊司令の伝言を考えれば、彼が降下部隊の出番を望んでいない事が分かる。だが、それが叶わないであろう事も、司令は理解しているのだろう。

 

 リンディもまた、理解している。

 

 

「会議、私が行っても役に立たないでしょうから、ここで見ているわね」

 

 

「―――分かりました。それでは……」

 

 

 リュウトはそう言うと、コートの裾を翻し、クロノとシグレを伴って艦橋を出て行った。

 

 その後姿を目で追い、扉が閉まると同時に、リンディは艦長席に凭れ掛るように座る。

 

 リュウトの過去に何があったか、リンディにはよく分かっている。今回の件ではやてを弁護し、守った理由もおぼろげながら分かっている。

 

 幼い頃に家族を失い、今に至るまでリュウトは唯一つの目標に向かって進み続けている。

 

 それが分かっているからこそ、はやての弁護をリュウトに任せ、彼の要請に専念した。クロノも同じようにリュウトを信じ、なのは達と共にいることに納得したのだ。

 

 本来なら自分たちがはやてを弁護するべきだった。リュウトよりもはやてとの付き合いは長いし、彼女の事もよく知っている。

 

 それでも、リュウトは自分に任せて欲しいとリンディ達に頭を下げて頼んできた。

 

 リュウトが何を意図してはやて弁護にあれほどの力を尽くしたのかは分からない。だが、リュウトは本心からはやてを守った。ある意味、守護騎士たちよりもはやてに対する想いは強いのかもしれない。

 

 リュウトの過去も、覚悟も、決意も知っているからこそ、自分もレティも、クロノも今回は裏方に徹していたのだ。

 

 自分たちがリュウトの全てを知っている訳ではない。使い魔の彼女も、主の全てを知らない。

 

 十年。リュウトは確かにそれだけの年月を、はやてという少女に出会うために費やした。力を求め、知識を求め、未来と過去を求めて、リュウトはひたすら走ってきた。

 

 唯一つ、自分が生きている理由を果たすために。

 

 リンディにはリュウトの目的が分かるわけではない。でも、リュウトの心は少しだけ分かっている。

 

 息子と笑い合っていたのを見てきた。

 

 息子と喧嘩していたのを見てきた。

 

息子と共に成長していく姿を見てきた。

 

それでも、リュウトの真意だけは分からない。

 

クロノは自分よりもリュウトの事を知っているかもしれない。しかし、クロノはそれを語る事はしないだろう。

 

結局、自分はリュウトの助けにはなれないのだろうか。

 

息子のように見てきた青年が、リンディには遠かった。

 

 

「艦長…」

 

 

「―――大丈夫よ…。大丈夫…だから…」

 

 

 エイミィの声に、リンディは自分が両の手で顔を覆うのを止める事が出来なくなった。

 

 リュウトは、ずっと苦悩し続けているのだろうか。それすらも、リンディには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノは、自分の前を歩く青年の後ろ姿を見つめていた。

 

 今回の審議では、リュウトは自分たちに頭を下げてまではやてを守ろうとした。

 

 もともと一執務官である自分に出来る事はほとんど無かっただろう。しかし、リュウトは自分と母にはやての運命を託して欲しいと言った。

 

 おそらく、過去の出来事よりも、今の自分達がはやてを大切な仲間だと思っている事を分かっていたのだ。

 

 リュウトの想いに嘘はない。自分はそれが分かるから、多少の悔しさなど押さえ込んだ。結果的には鍵の件もあって、自分の未熟さも知る事になったが。

 

 悔しかったのは、はやてを守れなかったことだけではない。リュウトの真意が自分には理解しきれていないこともだ。

 

 自分の父が死んだ11年前、リュウトの家族もこの世を去った。

 

 その後、リュウトは自分よりも早く修行を始め、先んじて管理局に入局した。

 

 そして、今に至るまで目指す場所に向かって進み続けている。

 

 修行中にはよく自分たちのことを語り合ったものだ。リュウトの妹の事もよく聞いた。

 

 なのは達を気にかけているのは、ひょっとしたら妹の事を思い出しているのかもしれない。悔しさに震える兄弟子を、クロノは何度も見たからこそ、そう思う。

 

 一つ魔導師としての階段を登る度に、リュウトは悔しさに身を引き裂かれそうな思いをしていたのだろう。

 

 魔法の才があったにも関わらず、家族の誰一人護れなかった。

 

 力を得ても、知識を得ても、本当の意味で護りたい人は既に居ないのだ。

 

 だが、リュウトは力と知識を求めた。

 

 虚しさと悔しさと戦いながら、闇の書を目指して。

 

 結論から言えば、過去の闇の書を敵としていたリュウトは、今現在の闇の書と戦ったなのは達に、一切の干渉をしてこなかった。

 

 闇の書を封印しようとしたグレアム達と違い、リュウトはなのは達に闇の書の運命を託した。過去の為に戦う自身ではなく、未来の為に戦うなのは達や自分に全てを委ねた。

 

 しかし、その時のリュウトはどれ程悔しかったことだろう。

 

 自分を抑え付け、自分よりも強く未来を求めた少女たちに全てを託した。

 

 だが、全てが終わった後に自分の報告を聞いたリュウトは、ただ頷いて話を聞いているだけだった。

 

 なのはもフェイトも、はやても知らないはずだ。リュウトの過去と闇の書の関係のこと。

 

 リュウトは話すつもりはないと言っていた。自分は、まだやらなければならない事があるからと、苦笑を浮かべながら。

 

 はやてを助けたのは、間違いなくリュウトの本心だろう。

 

 自分はリュウトの決意を知らないが、過去を知っている。

 

 一番初めに防御魔法を学び、二度と繰り返さないとひたすら修練を繰り返していた事も知っている。

 

 涙を流さず、悔しさに耐えながらも先を見続けたリュウトを知っている。

 

 自分に出来る事などそう多くはないと、いつもリュウトは言っていた。でも、自分に出来る事はしたいとも言っていた。

 

 ならば、自分も出来る事をしよう。この騒動を収め、リュウトの決意を見届けよう。

 

 あの頃の思い出を忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「静かに」

 

 

 会議室に入ったリュウトの声に、室内の喧騒は急速に収まっていった。

 

 収容人数ギリギリまで押し込まれた感のある会議室だが、その半円状の室内で不満そうな表情をしている者はいなかった。

 

 この作戦の為に契約したフリーの魔導師たちも、降下部隊の指揮官が有名な青年であるということで、興味深げな表情をしている。

 

 

「それでは、今作戦の説明に入る。質問等は随時受け付けるが、内容によっては答えることが出来ない事を了承しておいて欲しい」

 

 

 その言葉に、一人のフリーランサーが手を挙げた。

 

 リュウトはその魔導師に視線を向け、発言を促した。

 

 

「答えられない理由を聞いても?」

 

 

「機密云々は貴公らに言うまでもないだろうが、それだけではない」

 

 

「というと?」

 

 

 リュウトはそこで言葉を区切ると、視線を正面に戻して続けた。

 

 

「それについては追々分かるだろう。すまないが、今はそれで我慢してくれ」

 

 

 魔導師はしぶしぶといった様子だったが、納得したように頷いた。

 

 

「それでは、説明を始める」

 

 

 リュウトの声と同時に、会議室の照明が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦説明が中盤に差し掛かり、部隊降下が行われる部分になると、会議室の緊張感は最高潮に達していた。

 

 当然だ。

 

 我々は艦砲射撃の通じない相手(・・・・・・・・・・・)に喧嘩を売るというのだ。

 

 

「提督! それでは我々の役目は何なのですか?!」

 

 

 武装隊の魔導師が発言を許された瞬間にそう叫んだ。

 

 自分たちの戦う相手が、どのようなものかは分からない。だが、この数の艦に全力砲撃されて無事な相手に、自分達が果たして勝てるのか。

 

 だが、リュウトはその質問に顔色一つ変えることなく答えた。

 

 

「その質問の答えは簡単だ。我らの役目は時間稼ぎ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 

 その回答に、今度は通信回線で参加している別の艦の執務官が質問を返した。

 

 

『具体的な内容をお聞かせ願いたい』

 

 

「無論だ。それでは説明を続ける」

 

 

 リュウトは一つ息を吐くと、声を張り上げる。

 

 

「我らの役目は時間稼ぎ、ここまではいいな?」

 

 

 リュウトの質問に、肯定の沈黙が返される。

 

 青年はそれに頷くと、更に続ける。

 

 

「それにはまず、“対象”の説明から入ろう」

 

 

 その声に合わせ、リュウトの背後に無限書庫から得た“それ”の映像が浮かび上がる。

 

 

―――!!!

 

 

 会議室には、“それ”映し出された瞬間、先ほどとは別の感情が湧き上がった。

 

 それは、恐怖。

 

会議に参加しているものは、殆どの人間が“それ”に対して恐怖心を抱いた。

 

 そこに映し出されたのは巨大な人影。その大きさの比較となるべきものがその映像に無い為、詳しい大きさは分からないが、少なくともその威圧感から相当な大きさだと分かる。

 

 “それ”が音の無い映像の中で動く度、息を呑む音が幾つもリュウトの耳に聞こえてくる。

 

 全体的には赤黒い人型だが、体の各部が様々な色に染まっており、その体に無い色は無いのではないかというくらい、様々な色が混じっている。

 

 

「対象―――勝手ながらこちらで“マンティコア”との仮称を付けさせてもらったが、その姿を捉えた唯一の映像だ」

 

 

「唯一?」

 

 

 武装隊員の一人が思わず問いかける。

 

 リュウトはそれに唯一持っている答えで返した。それは、この敵が尋常ならざる敵であると証明するものだった。

 

 

「無限書庫に現存する資料の中で、確認できた範囲でマンティコアの姿を捉えたものはこれだけだった」

 

 

 無限書庫に収められたものの中で、ユーノがようやく見つけ出した映像がこれだった。

 

 つい先ほど届けられた資料の中に、この映像記録があったのだ。

 

 だが、あれだけ膨大な資料が眠る無限書庫でこれだけというのも、いささか不思議な話だ。少なくとも事情を知るリュウト以外の人間にはそうだった。

 

 或いは、リュウトの言った“マンティコア”という名前を知っていれば、察しはついたかもしれない。だが、ここにそれを知っている者はいなかった。

 

 会議に参加しているなのはに、隣席のフェイトがマンティコアという言葉について訊ねているのがリュウトの目に入った。はやては何処かで読んだ事があるらしく、必死でその名前を思い出そうとしているらしい。

 

 リュウトは映像が消えると同時に、説明を続けた。

 

 先ほどまで映像を写していたスクリーンには、図案化されたマンティコアの情報が映し出される。

 

 

「“マンティコア”という言葉の元になったのは、私の故郷の言語の一つで、意味は“人を食らう生き物”という」

 

 

 その言葉に、会議に参加していた者の何割かは映像が残っていない理由を察した。

 

 そして、リュウトの続く言葉がそれを肯定する。

 

 

「“マンティコア”は無限の食欲の持ち主とされており、今回の対象には相応しい名前と言えるだろう」

 

 

 リュウトはそこで、会議室の中を見回した。

 

 誰もがマンティコアの威容に飲まれ、歴戦の兵であるはずのベテラン魔導師ですら、その動揺を隠せないようだ。なのは達に至ってはすでにその顔は蒼白に近い。

 

 リュウトは正面に視線を戻すと、沈黙に覆いつくされた部屋に声を響かせる。

 

 

「―――はっきり言おう」

 

 

 リュウトの言葉に、会議室全ての、いや、通信でこの会議を見ている全ての人間が注目した。

 

 

「ヤツは全てを喰らい尽くすまで、止まりはしない」

 

 

 マンティコア、それは一国の軍隊を全て食らうとさえいわれた存在。

 

 今、目覚めようとしている存在は、確かにその名に相応しい特性を持っているのだ。

 

 

「今までに得た情報から分かった事だが、マンティコアはほぼ全てのエネルギーを吸収するという性質がある。それ故、映像や資料が殆ど残っていない」

 

 

 リュウトの言葉に一人の部隊長が手を挙げ、発言を許可された。

 

 

「全てのエネルギーという事は、魔力もですか?」

 

 

 リュウトはその言葉に頷き、更に説明を続けた。

 

 

「その通り。だが、魔力だけではない、熱や光、果ては力学的エネルギーすらも無効化される。それに…生命体の持つエネルギーもだ」

 

 

―――!?

 

 

 会議室内は騒然となった。人を食らう生き物というのは比喩でもなんでもない。事実を言い表しているだけなのだ。

 

 様々なエネルギーを内包している生き物は、マンティコアにとって最上の食物でしかない。

 

 

「資料が残っていないのも当然だ。受け継ぐべき者のいない情報は、ただ風化するだけだからな」

 

 

 リュウトの言葉を言い換えるなら、マンティコアに狙われた世界は、ほぼ全ての生命を食い尽くされた事になる。

 

 しかし、情報は僅かに生き残った人々の手で伝えられてきた。

 

 

「だが、残された資料はほとんど伝説の類でしかない。―――マンティコアを生み出したのは人間だと分かっているのだが、な」

 

 

「それは一体どういうことでしょう?」

 

 

 横にいたクロノの声に、リュウトは自嘲的な笑みを浮かべ、真実を告げた。

 

 

「マンティコアの遺伝子情報は、人間のものだ。我々と変わらない」

 

 

 会議に参加している全ての人々が驚愕しただろう。この醜悪な存在が、自分たちと変わらない人間だというのだ。

 

 だが、確かにそれならマンティコアを生み出したのが人間だという事も納得がいく。

 

 

「何らかの形でサンプルが採取出来たんだろう。その研究データが僅かながら残っていた。その結果、マンティコアの遺伝子は、多少書き換えられた形跡があるものの人間であるということだ」

 

 

 会議室内の雰囲気を察し、リュウトは話題の転換を図った。

 

 このままでは作戦に影響が出ないとも限らない。いや、このままでは間違いなく、影響は出る。

 

 

「それはともかくとして、我々がすべき事は時間を稼ぐ事だ。魔力が吸収されるといっても、ダメージが無いわけではない」

 

 

 そこまで話すと、リュウトの視線の先に一本の手が挙がる。フリーランサーの一人がリュウトを睨み付けていた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「管理局はこの一件をどう見てるんだ? 俺の聞いた話じゃ、これは管理局の不手際だって話だが」

 

 

 フリーランサーのその言葉に、他のフリーの魔導師たちも同調する。

 

 ここまで来て、彼らは自分達が戦う相手がどれ程強大なものかという事を認識したのだ。

 

 だが、その声もリュウトにはさして動揺をもたらさなかった。

 

 

「すでに責任者は処分されている。だが、これ以上の対応は、現状では不可能だと私は認識しているが」

 

 

「そうかい…! だったら俺はここで抜けさせてもらう。テメエのケツはテメエで拭きやがれ!!」

 

 

 リュウトの返答に、魔導師はそう吐き捨てて席を立つ。それに同調するように何人ものフリーランサーが立ち上がって会議室から出ようとした。

 

 管理局の局員たちにはそんな彼らを露骨に睨み付けるものもいるが、戦いにおいて自分の命と契約しか背負わないフリーランサーたちには関係のないことだった。

 

 リュウトもフリーランサー達を止めようとはしない。ただ、事実を告げるだけだ。

 

 

「構わない。違約金を支払って、事が済むまでこの艦に居てさえくれればな」

 

 

 その言葉に、魔導師達の足は止まる。そして、次の瞬間にはリュウトに向かって罵声が浴びせられた。

 

 

「なっ!? どういうことだ!! ここなら転送は可能だろう?!」

 

 

 先ほどとは別の魔導師の言葉に、リュウトは事も無げに答える。

 

 

「ここで話されている事は機密事項だ。当然の処置だろう」

 

 

「なッ?!」

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

 フリーランサー達の動揺は収まらなかった。自分たちの命を守りたいが為にこの仕事から降りようというのに、これでは意味が無い。

 

 やがて、怒りに我を忘れたフリーランサー達数人が壇上のリュウトに迫る。

 

 その事態にシグレはデバイスを抜くべく構え、クロノは彼らを止めようとリュウトの前に出た。会議室内に居る局員たちはある者は腰を浮かせ、ある者は事態の推移を傍観している。

 

 なのはたちもリュウトに心配そうな視線を向けている。守護騎士たちも一声あればすぐに飛び出さんばかりの状態だ。

 

 だが、鋭い怒声がその騒ぎを無理矢理押さえ込んだ。

 

 

「お前ら! 静かにしやがれッ!!」

 

 

 その声は会議室中に響き渡り、次の瞬間には完全な沈黙が場を支配した。

 

 その声の主は、人が少なくなったフリーランサー達の席に座り、騒ぎの張本人達を睨みつけている。

 

 

「お前らが喧嘩を売る相手を間違えんな。第一、本気でそいつとやり合うつもりか?」

 

 

「それは…」

 

 

 そのフリーランサーは他の魔導師たちよりも一回りは年上で、顔には幾つもの傷が刻まれている。それが一層、この魔導師の風格を高めているようだ。

 

 彼はリュウトに迫っていた魔導師達を睨みつけたあと、リュウトに向かって声を張り上げる。

 

 

「リュウ! テメエが呼ぶから来てやったってのに、挨拶も無しでこの騒ぎか?」

 

 

 リュウトはその言葉に苦笑を浮かべた。数年ぶりの再会ながら、彼の中で自分はほとんど変わっていないらしい。

 

 

「スカーフェイス。挨拶は事が済んでから、ゆっくりさせてもらうよ」

 

 

「テメエの奢りだぞ」

 

 

「私に飲ませないのなら、好きにしろ」

 

 

 リュウトはその男に気安げに答え、スカーフェイスと呼ばれた魔導師も言葉は乱暴だが、満更でもない様子だった。

 

 フリーランサー達は、この二人の会話に目を見張っている。

 

 

「けっ、誰がテメエみたいなガキに飲ませるか。おい、おめえらも席に戻れ! この作戦を成功させなきゃ、戻るとこも消えるぞ!」

 

 

 スカーフェイスの言葉に、フリーランサー達はハッとした顔で、お互いの顔を見合わせた。確かにそれが事実だ。冷静でいたつもりだったが、肝心な事を忘れていたのは、マンティコアに対して恐怖を感じていたからだろうか。

 

 

「自分たちの知らねぇとこで死ぬ事が決まってたら困るだろうが、この仕事に呼ばれただけありがたいと思え」

 

 

 その言葉に、魔導師たちは三々五々席に戻り始める。しかし、最初に声を上げた魔導師だけは戻らなかった。

 

 まだ、リュウトの言っている事に納得していないのだ。

 

 管理局が今回の発端だというのなら、何故自分達が巻き込まれなくてはならないのか。

 

 

「そこのお前、テメエも戻りな」

 

 

「だが…」

 

 

「言いてえ事は分かる。だが、今回は管理局だけの問題じゃねぇし、教会も動いてる。その意味が分かるな?」

 

 

 聖王教会の一部も今回の一件には絡んでいた。裏取引により、自分たちも甘い汁を吸う代わりに、管理局の一勢力に協力していたのだ。

 

 その引け目もあり、今回は教会も騎士団を派遣して協力体制を敷いている。その意味はフリーランサーにも分かった。

 

 誰が悪いではなく、今、自分に出来ることはなんだろうか。

 

 

「どこの組織にもバカはいる。その尻拭いは嫌だが、死ぬのはもっとゴメンだね」

 

 

「………」

 

 

「それに、そいつは強えぞ。他の傭兵連中に聞いたことねぇか?」

 

 

「………知ってる」

 

 

 魔導師はそれだけをポツリと呟いた。だが、席には戻らない。後一歩、踏み出す事が出来ないのだ。

 

 

「そいつは味方を見捨てねぇよ。俺も、そいつが居なきゃここにはいねぇからな」

 

 

「随分殊勝な物言いだな。スカーフェイス」

 

 

 リュウトの茶々に、スカーフェイスは不機嫌そうな顔でリュウトを睨みつけた。

 

 折角助けてやろうっていうのに、その態度は何だ―――そんな彼の心がその表情に出ている。

 

 

「おめぇこそ、随分変わった喋り方してるな。いつものバカ丁寧な口はどうした?」

 

 

 自分の知る青年は、子供ながらに随分大人びた口調で喋っていた筈だ。あれから数年経ったとはいえ、こうも変わるだろうか。

 

 リュウトはその言葉に肩をすくめ、ただ一言だけ答えた。

 

 

「こういう場では、この喋り方が礼儀だろう?」

 

 

 スカーフェイスは、その言葉でリュウトの演技を確信した。

 

 妙な子供だと思っていたが、時間は少年を青年にしただけではなく、別の部分も成長させていたようだ。

 

 スカーフェイスは喉の奥で笑いを堪える。

 

 

「確かに、そっちの方が偉そうだ」

 

 

「これでもそれなりに偉いんだがね」

 

 

 リュウトらしからぬ言葉に、どっと室内が笑いに包まれる。

 

 それが自分達を気遣っての慣れない言葉だと、誰もが分かっていたからだ。

 

笑いが収まる頃、いつの間にか張本人のフリーランサーは席に戻っていた。

 

会議はすぐに再開され、現在までに分かっているマンティコアの情報が参加者に伝えられていく。その度に質問や意見が出され、より作戦を強固なものへと変え、参加者たちの連帯感を高めていく、それは確かにリュウトや首脳部がこの会議に望んでいた事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言えば、我々の役目は6時間の時間稼ぎだ」

 

 

 再開した会議の場で、リュウトがそう宣言する。その口調に、やはりなのはたちは違和感を感じてしまう。

 

 彼女達が座っているのは最前列の隅で、周りは知り合いばかりだ。

 

 なのは達がこの会議に参加しているのを、リュウトはあまり歓迎していないように見えた。この作戦の前に自分たちはリュウトの心遣いを無にしているのだから、それも仕方の無い事だろう。

 

 この作戦が決まったとき、リュウトはなのは達を周辺世界の防衛線へと組み込むつもりでいた。だが、なのは達がそれを固辞し、リュウトやクロノと共に戦う、マンティコアと直接ぶつかるであろう現場への配置を希望した。

 

 なのはやフェイトは今回の事件に関しての責任感から、はやては守護騎士とリュウトやクロノが最前線に配置される事を知って、自身も同じ場に立ちたいと思ったからだった。

 

 自分たちの心に従い、彼女たちは仲間と共に戦う事を望んだ。

 

 リュウトはそれを、ただ黙って聞いていた。その時、彼が何を思っていたかは誰にも分からない。

 

 クロノやリンディがなのは達を説得しているさなかも、リュウトは決して口を出さなかった。

 

 結局、クロノ達の説得も虚しく、なのは達はアースラに乗り込んだ。

 

 闇の書の闇を消滅させた実績を鑑みれば、その配置は不当なものではない。むしろ、最良のものといえるかもしれない。

 

 

「なのは…」

 

 

 隣のフェイトがなのはに声を掛けてくる。その口調と表情はやはり暗いものだった。

 

 

「リュウト、怒ってるのかな?」

 

 

 フェイトは、はやての一件以来、リュウトのことをファーストネームで呼ぶようになった。

 

前はリンディと同じ感覚で、“リュウトさん”と呼んでいたのだが、先の一件でリュウトのことを、より自分たちに近い存在だと認識したからか、自然と名前で呼ぶようになった。

 

リュウトは自分達を裏切らなかった。その事実がフェイトの心に変化をもたらしたのだ。最初から自分を味方だと思ってくれる人だったと、フェイトは今更ながらに思い出した。

 

 

「大丈夫やと思う」

 

 

 なのはを中心に反対側に座っていたはやてが、フェイトの言葉に答えた。

 

 その口調はしっかりとしたもので、リュウトのことを信じている様子だった。

 

 

「あれかて、あたしらを心配しての事や。それに、ここに入ってきたときも、こっち見て何も言わんかったし…」

 

 

 はやての言葉に、なのはは小さく頷いた。

 

 

「そうだね…。わたし達が居ても、いいんだよね…?」

 

 

 そう話すなのは達は、自分たちに近づく気配に気づかない。おそらく、普通の状況と精神状態ならそんな事はないだろう。

 

 だが、少なくともその時は気配に気付かなかった。

 

 

「その通りです」

 

 

「「「!!!?」」」

 

 

 なのは達は自分の近くから聞こえてきた声に、声も出ないくらいに驚く。

 

 驚いた三人が見つめる先には、壇上のリュウトに視線を向けたままの使い魔、シグレが居た。

 

 無論、守護騎士や他のメンバーはシグレが近付いてきていると事に気付いていた。彼らにしてみれば、むしろ三人が気付いていなかった事の方が驚きだっただろう。

 

 シグレは驚く三人に視線を向けること無く、言葉を続ける。

 

 

「主殿は三人がここに居る事に最初からご存知でした。それこそ、艦橋に居るときからです」

 

 

 三人は自分たちに視線を向けないシグレの言葉を、驚きながらも聞き続ける。

 

 この使い魔は、自分たちの内心を知った上でここにいるのだ。ならば、聞かなくてはならないだろう。

 

 

「貴女方がここに居るという事は、確かに主殿の望む事ではありません。私個人の意見を言わせていただければ、貴女方は主殿の重荷になる可能性があります。出来るなら、この作戦に参加して頂きたくはありません」

 

 

「シグレさん…」

 

 

 なのはの言葉に、シグレは何も答えなかった。ただ、心の内を吐露し続ける。それはシグレが、リュウトの命を受けてここで三人に話し掛けているのではない事を証明していた。

 

 彼女は自分の意思で、三人に己の心を伝えようとしているのだ。

 

 使い魔は滔々と語り続ける。

 

 

「私の役目は、あの方の傍に在り、共に在り続ける事。契約はそれだけです」

 

 

 使い魔の契約は、使い魔自身の命ともいえる。それが果たされれば使い魔は消滅するからだ。それ故、使い魔は使い捨てが一般的だった。シグレやアルフ、リーゼ姉妹はそういう意味では例外的な使い魔だといえる。

 

 シグレとリュウトの契約内容は恐ろしく曖昧で、その気になればすぐにでも達せられそうな内容でありながら、尚且つ永遠の契約ともいえる内容だった。

 

 フェイトとアルフの契約も似たような内容だが、この二人の契約は“ずっと”という言葉である程度の期間が決定されている。しかし、シグレの契約には時間に関するものは無かった。在り続けるという言葉を期間と解釈も出来るが、契約時のリュウトの言葉はさらに短い言葉だった。

 

 

「あの方にこの命と名を頂いた時、あの方はただ、“我と共に在れ”とだけ仰いました」

 

 

受け取り方によっては幾つもの意味を持つ言葉は、本来契約には相応しくないだろう。

 

だが、リュウトはあえてその言葉で契約した。シグレは、その時の主の心の内を今でも知らない。今でも知る事も出来ないでいた。

 

ただ、望むなら、望んでもいいのなら、主の支えになりたい。

 

 そんなシグレの言葉を、いつの間にか守護騎士やアルフも聞いている。

 

 それぞれに別の表情を浮かべ、興味深そうにシグレの独白に耳を傾ける。

 

 

「私があの方を守っているのは、私の意志。―――ご存知ではないと思いますが、私は使い魔としては欠陥だらけの存在です」

 

 

「え…?」

 

 

 その声は、同じ使い魔を持つフェイトの声だった。あまり大きな声ではなかったため、気付いたのは隣にいたアルフとなのはだけだった。

 

 当然、シグレはそれに気付かない。気付いても、気にも留めなかっただろう。

 

 

「私がデバイス無しで使える魔法は僅か二種類。飛行魔法と念話だけです」

 

 

 それはシグレの素体となった大型鳥類の影響だと思われた。その種類の鳥類の殆どは内在する魔力こそ凄まじいが、それを行使する術を持たない。例外的に魔法を使える個体もいるが、それはあくまで突然変異でしかない。

 

 飛行魔法は元々が鳥類であるから使えるし、念話は素体となった鳥類が、長距離での意思疎通に念話とよく似た手段を使っているためだろうとシグレは考えていた。

 

 

「その上、この身は力が強いとも言えません。同じ使い魔であるアルフ殿と比べても、純粋な腕力では敵わないでしょう」

 

 

 もちろん、人間と比べればシグレの腕力は高い。だが、同じ使い魔のアルフ、守護獣のザフィーラと比べれば、その力は圧倒的に劣る。リーゼ達にすら及ばないだろう。

 

 

「速さこそ我が最大の武器であるとは理解していますが、それでも口惜しかった。命を賭してこの身を救ってもらったのに、私にはその恩に報いる術がありませんでした」

 

 

 契約したばかりのシグレは、リュウトの約に立とうと失敗ばかりしていた。当時はリュウトよりも年下の容姿だったが、今では主よりも年上の姿をしている。

 

 それだけの時間が経ったのだ。

 

 それでも、失敗ばかりしているのは変わらない。

 

 シグレは内心、自分がいつ捨てられるかと不安だった。

 

 

「主よりこのデバイスを賜った時、ようやく恩を返せると喜んだものです」

 

 

 そう言って、シグレは腰に差したデバイスに触れる。その表情はどこか柔らかで、普段の彼女とは違った印象を受けた。

 

 なのは達は、シグレのそんな表情を見た事が無かった。

 

慈愛と決意に満ちた、そんな表情を。

 

 しかし、その表情はすぐに消えた。

 

 

「私にとって、あの方の望みは、あの方の(めい)と同義なのです。そして、それは私の望みよりも次元の違う重さを持っている」

 

 

 そう話すシグレの表情は、先ほどとは違い、普段よりも厳しいものだった。

 

 触れれば切れそうな、鋭い気配が彼女を包み込んでいる。

 

 

「あの方が望むなら、私は何も言わずに従います。それが、あの方の命を奪うことになってもです」

 

 

「なッ!」

 

 

「それじゃあ…!」

 

 

 フェイトの驚愕の表情と、アルフの怒った様な表情。それは、かつて自分たちの進んだ道を彼らが歩いていることを示すものだった。

 

 だからこそ、アルフはシグレを睨みつけ、敵意を向ける事を止められなかった。

 

 

「あんた…自分の言ってること分かってんのかい…?!」

 

 

 声こそ小さなものだったが、その気配は怒りに満ちている。守護騎士たちも、彼女と同じような表情をして、シグレを見つめていた。

 

 かつて守護騎士たちも、主たるはやての意思に従って、はやて自身の命を危機に晒した。それを思い出したのかもしれない。

 

 シグレの決意は確かに一つの忠誠の証だろう。だが、それでは駄目なのだ。それでは、真に守るべきものは守れない。守護騎士たちはそう思った。

 

 

「分かっています」

 

 

「分かってるなら、どうして冷静でいられる…!」

 

 

 シグナムの声も怒りに震えていた。自分たちのことを知っていながら、同じ轍を踏もうとしているようにしか感じられない。そして、はやてにとってのなのは達のような存在がいるとは限らない。

 

 主のためを思うなら、主の命に逆らうこともまた必要なのだ。

 

 

「………ミナセが大切なのだろう? ならば何故、主たちをここから追い出さん」

 

 

 ザフィーラの言葉は、なのは達全員の言葉だった。

 

 自分達がリュウトの命を脅かす原因と成り得ると考えているなら、どうして自分達をここに置いておくのか。そして、何故自分たちにこのようなことを話すのか。

 

 

「これが命ならば、あるいは逆らったかもしれません。ですが、あの方は望んでいるのです。願っているのです。それに逆らう術を、私は持ち得ない」

 

 

 しかし、その決意は怒りに満ちた声に掻き消えた。

 

 

「嘘をつくな! ならば…ならばその拳は一体なんだ?!」

 

 

 シグナムの言葉に、シグレは自身の手が固く握り締められ、震えていることに気付いた。

 

 シグレはその手を無理矢理解くと、顔を俯かせて肩を震わせた。その姿は泣いているようにも見える。

 

 

「―――私とて、あの方の命を守りたい! ただひたすらに! あの方の為だけに! だが…それは出来ない…出来ないのだ………」

 

 

「どうして…ですか?」

 

 

 シャマルの言葉に一瞬だけ動きを止めると、シグレはなのは達に初めて視線を向ける。

 

 そして、その目には確かな悲しみがあった。

 

 

「知れた事。それは私の願い。主の命尽きるまで、守り、傍に在りたいという私の望み。だからこそ、出来はしない…。一度でもその心に従えば、あの方への想いが全て溢れ出てしまうのだから…」

 

 

 シグレはそう言って、リュウトの傍らへと戻っていく、その背中には決意があった。主の望みを至上とする悲しい決意が。

 

 その言葉を聞いて、なのは達は黙るしかなかった。七年間共にいた二人の関係に、自分達がおいそれと入り込んでいいものではないと思ったからだ。

 

 シグレの想い。それは人としての心を持った使い魔の想い。主をただ一人の人として共に生きたいという願い。

 

 だが、叶うはずの無い願い。それ故、シグレは使い魔としてリュウトに従っているのだ。

 

 7年間の間に培われた淡い想いなど、主の望みに比べればとるに足らないものだと、自分に言い聞かせて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議は滞りなく進んでいった。

 

 先ほどの一件で、フリーランサー達もようやくリュウトを程度の差こそあれ認める気になったようで、彼らからは積極的な意見や質問も出てきていた。

 

 結局のところ、マンティコアに対して魔導師が出来る事はそれほど多くない。攻撃を加えても吸収されてしまうのでは、本当に時間稼ぎぐらいしか出来る事はないだろう。

 

 そんな中、一人の武装隊員が僅かに躊躇いを見せながら手を挙げた。

 

 リュウトはそんな隊員の様子に気付き、質問を許可する。

 

 

「………あの…参考までにお伺いしたいのですが」

 

 

「なんだ?」

 

 

 リュウトの言葉を受けて、その幼ささえ残す若い隊員は、自分の隊の部隊長の視線を気にしながらも言葉を続けた。

 

 

「マンティコアは人間や他の生物を取り込むと仰いましたよね…?」

 

 

「ああ。実物を見たわけではないが、残された資料から高い可能性でそうだといえるだろう」

 

 

「では、取り込まれた場合………どうなるでしょうか? ひょっとしたら以前に取り込まれた人々を救出できる可能性も…」

 

 

 それは誰もが気にしながら、あえて避けていた質問だった。

 

 この作戦では、人間が取り込まれていることが分かっていながら、救出等の手順が存在しない。災害救助も任務の内であるはずの管理局の作戦であるにもかかわらずである。

 

 その答えは、簡単なものだった。

 

 

「資料から推察するに、マンティコアに取り込まれた生物はリンカーコアを除き―――ほぼ全て熱量に分解される」

 

 

「は…?」

 

 

 その声は、誰のものだったのだろうか。少なくとも数人の人間が同じ言葉を発していた。

 

 

「取り込まれて数分で跡形も無く分解される。もしも取り込まれた場合は、結界等で時間を稼ぎ、救助を待つしかない」

 

 

「………」

 

 

 沈黙が会議室に満ちた。

 

 誰もが自分が取り込まれたときの事を考え、少なからず恐怖していたのかもしれない。

 

 リュウトはそんな会議室内の空気を気にしながらも、言葉を止める事はない。

 

 

「だが、マンティコアの動きは決して早いとは言えない。注意していれば特に問題はないと本職は考えている」

 

 

「そう、ですか…」

 

 

「ああ、この場にいる人間はすべて精鋭だといえる者たちだ。その力を最大限に発揮してもらいたい」

 

 

「はい…!」

 

 

 リュウトの激励ともいえる言葉に、若い武装隊員は興奮からか僅かに頬を高潮させ、大きく頷いた。リュウトよりも僅かに年下であろうその隊員は、リュウトの言葉に自信を取り戻したのだ。

 

 リュウトは、隊員が座ったのを確認すると、次の問題点を挙げた。

 

 

「問題は他にもある。それは、<メイガスの鍵>がマンティコアに取り込まれている可能性が高いことだ」

 

 

 リュウトはさらに続ける。

 

 先行した部隊より、<メイガスの鍵>特有の魔力波動が異変の中心で観測されているというのだ。

 

以前ユーノと情報交換を行ったとき、マンティコア―――当時は未だ正体不明で、存在すらも可能性の段階だった―――が鍵に対して何らかの対策を講じている可能性が高いというのは、すでに懸念事項として存在した。

 

そのときはユーノ、リュウトの両名による報告書を提出し、鍵の研究を中止すべきであると訴えたが結果的には研究を止める事は出来なかった。

 

その後、リュウトとユーノは再び姿を消した鍵の探索で本局を追い出され、最終的には鍵は所在不明のまま、管理局に帰還することになる。

 

そして、今回の異変でようやく鍵の所在が明らかになった。ユーノ達が懸念したとおりの状況になってである。

 

マンティコアに関するユーノとリュウトの共通認識として、マンティコアが魔法に似た何らかの手段を行使できることは以前から分かっていた。そうでなければ、間に次元の壁を隔てて存在する幾つもの世界を滅ぼすなど不可能だからだ。

 

そして、この異変の直前にユーノが無限書庫で見つけた情報により、マンティコアが吸収した人間のリンカーコアを使って行使する古代魔法の亜種とも呼ぶべき術を持っていると判明した。

 

本来ならば他人のリンカーコアを使って魔法を行使するなど不可能だろうが、マンティコアはその術者本人も取り込んでいる。それ故、魔法を使用する事が出来るのだろう。

 

そして、この作戦での最大の懸念事項もそこにあった。

 

 

「マンティコアが、鍵を使って他の世界に転移するのは間違いないだろう」

 

 

 今回一部の者が求めた鍵の副次能力は、次元の扉を開き、タイムラグ無しでほぼ全て世界に転移できること。

 

 例外は鍵に情報の全く無い世界で、伝説に存在し、かつてプレシア・テスタロッサが追い求めた<アルハザード>やそれに類する存在くらいのものだ。

 

 そして、転移を許せば二度とチャンスが来ない可能性もある。

 

 

「鍵にはある程度の次元世界の情報が登録されている。それを元にマンティコアが転移する場合、奴の最初の目的地は限られる」

 

 

 それは、多くのエネルギーが存在する世界。

 

 

「一番可能性が高いのは―――ミッドチルダ」

 

 

 その言葉に、室内は騒然となる。

 

 ミッドチルダには時空管理局の本局も存在する。ある意味次元世界の中心ともいえる場所だ。

 

 そこを狙われては、管理局は一気に弱体化する。

 

 

「他にも候補地はある。聖王教会のある第12管理世界も可能性としては無視できない」

 

 

 そして、最終的にはほぼ全ての世界がマンティコアに捕食される可能性がある。

 

 無論、なのはとはやての故郷、地球もだ。

 

 魔力だけを求めるわけではない以上、多数の人間が住んでいる地球も当然狙われる。

 

 なのは達はそのことに気が付き、体が震えるのを感じた。

 

 家族や友人たちも、あの醜悪な生き物に飲み込まれてしまうのだろうか。

 

 その考えを読んだ訳ではないが、リュウトが対処策を告げる。

 

 

「それに対抗するため、教導隊主導で結界を張る」

 

 

 それにより、マンティコアの転移を防ごうと言うのだ。そして、転移させない理由はもう一つある。

 

 

「対象は鍵によって人為的に発生させた特殊空間に封じられている。その為、復活したばかりの対象は、長期間に渡ってエネルギーの供給を受けられずに弱体化した状態であると推測される。だが、転移さえ防いでしまえば弱体化した対象を、複数同時発射のアルカンシェルで消滅させる事もできる」

 

 

 それが今回の作戦だった。

 

 万が一転移を許してしまえば、マンティコアは転移先のエネルギーを吸収して機能を回復させ、アルカンシェルすら吸収してしまえる可能性が極めて高い。

 

 そうなれば、もう一度鍵を作ることが出来ない以上、有効な対処は出来なくなると考えられた。

 

 

「作戦の説明は以上だ。質問は?」

 

 

 全ての説明が終わる頃には、すでに質問や意見など出ない。

 

 出来る事は唯一つ、6時間の時間稼ぎのみ。

 

 会議室内は決意に満ちた沈黙に支配されていた。

 

 リュウトはそんな様子を見て、一つ頷いた。おそらくこの会議を見ている各艦の艦長達も同じ気持ちでいるだろう。

 

 

「では、最後に降下部隊を率いる一人として言わせてもらおう」

 

 

 リュウトは、この会議での自分の最後の仕事を始める。

 

 それは、自身の決意を表す事。

 

 そして、彼らに決意を求める事。

 

 

「艦隊司令と同じように、私もこの作戦会議が無駄になる事を願っている」

 

 

 リュウトの言葉は続く。それを聞く参加者たちは各々の思いを胸に秘めている。

 

 

「だが、我らの役目はすべての事態に備える事だ」

 

 

 なのは達も、リュウトの言葉に耳を傾ける。このようなリュウトは見たことが無いが、これもまた、リュウト・ミナセの一面だった。

 

 

「我らには出来る事がある。すべき事もある。この状況で、それがいかに幸運であるか、諸君らは分かっているだろう」

 

 

 リュウトは内心、自嘲気味に笑っていた。

 

 かつて守れなかった自分がこの台詞を口にするのは、幸運なのか、不幸なのか。

 

 

「出来る事を果たせ。すべき事を果たせ。諸君らには、守れるものがある」

 

 

 全ての瞳が、リュウトの言葉を待っていた。

 

 この若き提督の言葉を待っていた。

 

 

「若造がと思うだろうが、言わせてもらおう」

 

 

 一瞬の沈黙。リュウトは一拍の間を空けると、自身の決意と共に告げた。

 

 

「諸君らの決意が果たされることを期待する!!」

 

 

≪了解!!!≫

 

≪応!!!≫

 

 

 轟音とさえ言える声が、リュウトの決意に応えた。

 

 敬礼をする局員。

 

 手を掲げて吼えるフリーランサー。

 

 立ち上がって拍手を送るもの。

 

 様々な決意を胸に、彼らの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全体での作戦会議が終了し、部隊単位でのミーティングも終わりを迎え始めた頃。なのは達はリュウトの執務室を訪ねた。今回の作戦で、なのは達はクロノと共にリュウトの直接指揮下に入ることになったからだ。

 

 先ほどまで行われていたミーティングでは、なのは達もリュウトと個人的に話すことは出来なかった。

 

 しかし、リュウトには自分達をアースラに乗せた理由も聞いておきたかったのだ。

 

 しかし、なのはとフェイト、はやてとアルフがリュウトの執務室のドアの前に立って、数分が経過していた。

 

 三人の誰もがこの部屋に入る理由を持っている。だが、入ることが出来ないでいた。

 

 備え付けのインターフォンに手を伸ばし、引っ込める。三人が交代で何度も繰り返した動作だった。

 

 

「いい加減にしてほしいんだけど…」

 

 

 アルフがそう言うのも無理はない。

 

おそらく中に居る青年は来訪者に気付いているだろう。いっその事、中から呼んでくれないだろうか。アルフはそんな風に思った。

 

しかし、部屋の中からは何も聞こえない。

 

アルフは嘆息して、インターフォンに手を伸ばした。

 

 

「リュウト、あたしだ」

 

 

 その声に応えて中から聞こえた声は、どこか気落ちした様子だった。

 

 

『5分13秒。私が何かしたんでしょうか』

 

 

「さあね。入るよ」

 

 

『どうぞ』

 

 

 リュウトの言葉は気落ちしていることを除けば、いつもと変わらなかった。

 

 

(こんな事だろうと思った…)

 

 

アルフは心の中でぼやく。部屋の前で過ごした時間は何だったのだろうか。

 

 そのアルフの内心に気付かず、三人はほっとした表情で顔を見合わせている。

 

 アルフはそんな三人を見て、再びため息を吐いた。

 

 

「さあ、三人とも、リュウトに言う事があるんだろう? さっさと入る」

 

 

「え…? ちょ…」

 

 

 はやての言葉を無視して、アルフは扉を開ける。

 

そこには執務机に座ったリュウトの姿があった。シグレはいないらしく、気配はない。もっとも、シグレが本気で気配を隠せば、見つからない可能性もあるが。

 

 

「仕事中でお茶は出せませんが、それでよければごゆっくり」

 

 

「見りゃ分かるよ。それにしても、見事な山だね」

 

 

 アルフはそう言って、リュウトの机に積まれた書類を眺める。この山を自分が処理することになったら、きっと逃亡を図る。

 

 

「さっきのやつは見事だったね。シグナムも感心してたし、何より長くないのが良い」

 

 

「大勢の人たちの教育の賜物ですよ。それに、指揮官はああして部下に死ねと命じる。私にはそれが辛い…」

 

 

 リュウトの言葉に、アルフはやれやれと頭を振ってソファに座る。

 

 

「何か御用ですか?」

 

 

「あたしじゃなくて、その子ら」

 

 

 アルフはソファの上にある小物を玩びながら三人を示す。自分はあくまで付き添い兼背中を押す役だ。アルフはそう思っていた。同時に蹴飛ばす役にならなくて良かったとも。

 

 三人がリュウトに話しかけるタイミングを計っているのは分かっている。ならば、自分は待つべきだろう。だが、それと同時に、精神リンクから流れ込んでくるフェイトの感情に、アルフは嘆息したくなる。

 

 会議でのリュウトは、なのは達の知っている彼とは随分違った。だから、戸惑っているのだろう。

 

 自分の知る人物の新たな一面を見て、戸惑う気持ちは分かる。だが、人間の本質などそう変わらないだろうに、とアルフは手に持った小物を眺めながら考えていた。

 

 テーブルの上に置かれたガラス製の小物。それが万華鏡の類である事に気付いたアルフが照明にそれを翳す。すると、ガラスの容器に入った液体そのものが微かに発光し、内部のオブジェクトを輝かせた。

 

 アルフの興味は一気にそちらに傾く。

 

 

「珍しいもの持ってるね。初めて見たよ」

 

 

 リュウトはアルフの手にある万華鏡を一瞥すると、書類に目を落とす。

 

 

「貰い物です。シグレが気に入っていて、こうして移動する度に一緒に引っ越しですよ」

 

 

「ふうん。あのシグナム並の堅物が、意外な趣味だね」

 

 

 先ほどのシグレの言葉を思い出しながらも、アルフはそれを表に出さない。

 

 当然、そんな彼女の心の内など知らないリュウトは、視線を動かさないまま小さく笑う。

 

 

「彼女はそういう種類の小物が好きで、自分の部屋にも飾ってるみたいです」

 

 

 私は見た事ありませんけど…、そう言って笑みを深くするリュウトに、アルフは意外そうな視線を向ける。

 

 

「見たこと無い? シグレの部屋っていうと、あんたの家のだろう」

 

 

 それなのに一度も見た事が無いというのだろうか。

 

 アルフが不思議に思っていることを察したのか。リュウトがあっさりと答えをバラした。

 

 何かを思い出すような、懐かしいような笑みを浮かべて。

 

 

「他人の部屋に入る趣味は無いもので」

 

 

「………」

 

 

 リュウトの性格を考えれば、至極当然の理由だった。自分の分身といってもいい使い魔だが、リュウトにとって家族となんら変わらないのかもしれない。

 

 リュウトが浮かべた笑みは、他の誰かに向ける笑顔とは違うものだったのだから。

 

使い魔も使い魔なら、魔導師も魔導師だ。使い魔からの一方通行の想いも、使い魔に対する魔導師の想いも、しっかり繋がっているじゃないか。

 

 アルフはシグレの想いがリュウトに確かに届いていると感じた。リュウトのシグレに対する感情が何かは分からない。だが、唯一無二のパートナーである事は間違いないだろう。

 

 ひょっとしたら、自分はそれを確かめたかったのかもしれない。付き添いだ何だと理由をつけても、結局自分と同じ使い魔であるシグレの言葉が気になっていただけなのだろう。

 

 でも、心配はない。この魔導師も使い魔も、自分とフェイトと同じように、固い絆で結ばれているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達は、私に何か用があったんじゃないですか?」

 

 

 ふと告げられたリュウトの言葉に、なのは達はお互いの顔を見合わせた。

 

 自分達がここに来た理由を忘れ、リュウトの話に夢中になっていたのだ。普段は聞けないシグレの趣味に、驚いていたのかもしれない。

 

 しばらく顔を見合わせていた三人だが、意を決したなのはがリュウトに向かって頭を下げた。残る二人も、その動きにつられたように頭を下げる。

 

 

「すみませんでした!」

 

 

「「すみませんでした!!」」

 

 

 リュウトはそんな三人を呆れたような、驚いたような目で見ている。自分がなぜ謝罪を受けているのか分からない。そんな表情だった。

 

 

「どうして謝るのか、聞いてもいいですか?」

 

 

 リュウトが気を取り直して聞いた質問に、フェイトが答えた。

 

 一度きっかけさえ掴めれば、あとはそれほど躊躇う事はないのだろう。

 

 

「リュウトの気遣いを無駄にしちゃったから…」

 

 

 その言葉に、リュウトは嘆息した。まさか、三人がそれほど気にしていたとは思わなかった。日頃の態度を見れば、なるほど可能性はあったかもしれない。

 

 だが、自分はそれほど高尚な人間ではない。結局のところは彼女たちの意思という言葉に逃げただけなのだから。

 

 実績を持っている彼女たちの参加は、指揮官としては有難い。だが同時に、別の感情があるのも事実だった。

 

 だが、それだけで人の命を動かす事はしない。

 

 

「君達が言いたい事は分かりました。ですが、気にする必要はありません」

 

 

「でも…」

 

 

 思わず声を上げたはやてだけではなく、なのはやフェイトも同じように申し訳なさそうな表情を崩さない。

 

 リュウトはそんな三人に、笑みを見せた。困った後輩達を見る、先輩としての目。

 

 

「先ほどの全体会議で、私の言った事は覚えているでしょう」

 

 

「はい」

 

 

「…はい」

 

 

 なのはとはやてと共に、無言でフェイトも頷く。

 

 

「君達は自分の出来る事をやろう、すべき事をやろう、そう考えているのでしょう。ならば、私は何も言うつもりはありません」

 

 

「リュウトさん…」

 

 

 自分の名を呼んだはやてに笑みを向け、リュウトは続ける。

 

 ただ、この子らよりも年上で、少し物事を知っている人間として。

 

 

「私も自分の出来る事を、すべき事をします。私がすべき事は君達には出来ない。君達がすべき事も私には出来ません。私は、それを分かっているつもりです」

 

 

 三人は、ただ黙って聞いていた。自分達がするべき事、出来る事。そして、やりたい事。

 

 アルフはカレイドスコープを光に透かしながら、三人の後姿に重ねている。幾つものこの光の中に、三人のすべき事があるのだろうか。

 

 

「頑張れとは言いません。ただ、自分にだけは正直に、真直ぐに前に進んでください。―――これは私の師の一人が言っていたことですけどね」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 三人の声が光に重なったように、アルフには感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第七話につづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜あとがき〜

 

皆さんこんにちは、悠乃丞です。

 

 長いよ…。終わらないよ…。やっぱり第二位だよ…。段々と長くなっていくよ…。その内、200Kb越えるんじゃないか…?

 

 おのれスカーフェイス…。

 

 ………失礼しました。

 

 

 

 今回は、はやて編からマンティコア編への幕間といった所でしょうか。前回の話では、後半のスピード感を優先した所為で抜けてしまった、リンディとクロノにスポットが当たりました。というか、リュウト君は今回脇役です。シグレの話もあったし、完全に幕間といった感じです。

 

今回の話のメインはもちろんマンティコアですが、サブには使い魔二人の物語もありました。リリカルには何人かの使い魔が出てきますが、今回はアルフに頑張っていただきました。ザフィーラは…ねぇ? 男だし。

 

 カレイドスコープは資料の中から面白そうなのを組み合わせてみました。ちなみに、あのカレイドスコープはミッドチルダ製です。きっと作れるはずです。あそこの技術力なら。

 

 リーゼ姉妹がいればもっと分かりやすくなったのかもしれませんが、いないものはしょうがない。あの二人が出てくるとコメディになってしまうのですよ。連作用短編にはすでに出てきてるし…。(第三章予定

 

 ちなみに二人はリュウトからの依頼で、別の場所で魔法生物とドンパチしているはずです。出てくる予定はないですが。

 

はやてもいるので、あの二人はリュウトに合流できなかったのです。

 

さて、スカーフェイスさんはいずれ短編で出てくるかもしれません。もちろん、本名ではありませんよ。

 

あのキャラはリュウトの十年と、その中で培った様々な人脈を表す役目がありました。人生とは出会いと別れとはよく言いますが、それはリュウトにもいえる事です。

 

自分で十年を振り返ると、ずいぶん大勢の人と出会っていたものだと改めて思いました。

 

偉そうな言葉遣いのリュウト君に違和感を覚える人も居たかもしれませんが、人を率いる上では、何かしらの演技が必要だと思ったためこうなりました。

 

リュウトは様々な上官と接してきています。その中で、自分なりの上官像を作り上げていったのでしょう。それが、あのリュウトです。これも彼の十年だといえるかもしれません。

 

さてここで、ある方よりのご質問にお答えいたします。

 

リュウト君の役職である主席執務官ですが、モデルになったのは日本国自衛隊統合幕僚監部の主席法務官や、主席後方補給官でございます。各幕僚監部にもある役職ですけどね。

 

役目も似ていて、様々な部署を総合的に運用するための役職といったところです。なので、階級はともかくそれなりに影響力を持っている訳ですね。大きな決定は上にお伺いをたてなければいけませんけど。ちなみに、元になった役職がどれ程の影響力を持っているかは分かりません。(何!?

 

首席か主席かは字面で決めました。(ぉ

 

なので、一期や二期のクロノ君や、三期のフェイトの執務官とは別のものです。実務官じゃ微妙という理由もありますが。

 

こんな役職の人間が前線に立っている理由は、これもお仕事の一部だからです。広告塔は辛いのです。元々は名誉職だったし…。

 

まあ、話を考えているときに資料として覗いた統幕のHPにあった役職を、モデルにしたというのが正しい経緯です。なので、実際の役職はこんなんじゃない!という指摘は、来ても困ります。

 

第三期で自衛隊式の階級だと聞いたときは、何気に驚愕していました。

 

 

 

さて次回は、ついに姿を現す“マンティコア”

 

それに対し、なのは達は自分の道を貫くために頑張ります。

 

そして、折角あるのに、原作では使わなかったアースラのビーム砲塔がついに火を吹きますよ。

 

 それでは皆さん、次回のお話で会いましょう。




作者悠乃丞さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。