贋物(にせもの)

弱い心と強き意志

 

 

 俺は一人だけ異端だった。

 旅をして人を助けるために人を傷つけ、拒絶され、最後には罵られ、裏切られる。

 唯一、仲が良かったのは、野生の動物。子ども達は純粋な心をしていて何時も懐かれる。本能に忠実な彼等は決して仲間を裏切らない。狼がどんなに餓えても自分の子や仲間を殺して食べないように。

 彼等と居る時少しだけ心が和む。

 彼等が居ない時、心の休む場所はいつも空が良く見える場所だった。

 雨や曇りは嫌いだ。青空が見えないから。夜に月が見えないから

 俺は一生罪から逃れられないのだろうか?それとも罪の意識に悩ませられ消えていくのだろうか?

 一族の……闇のチカラを一人で背負って苦しみながら歩き続けるのか?

 人はチカラの代償に何かを棄てるが、俺はチカラなんて要らなかった。ただ争わずに生きて行ければ良かったんだ。

 でもチカラを受け継いで生まれたときに俺は『普通』という代償を払わされた。

 それでも運命とかそんな得体の知れないものに振り回されるのは嫌だった。

 親父の奴は勝手にチカラに込まれて消えて、俺に問題事ばかり残した。

 母さんも病気ですぐ俺を一人にしていなくなった。

 皮肉な事に俺はこの呪われたチカラが無かったらとっくに死んでいた。

 もう誰も信じない。信じてもいずれ裏切られる。なら最初から信じなければいい。

 相手も傷つくだけだから。親しい人が傷つくのを見るのは嫌なんだ。たとえ綺麗事と罵られようと構わない。事実だから、だから誰にも心を許さないで生きていく、この呪われた力を残すわけにもいかないから。そう思っていた。

 でも旅を続けるのは心のどこかで温もりを求めているからかもしれない。もしかしたら自分と同じ人がいるんじゃないか、そう思っているのかもしれない心の奥深くでは。

 だからいつも俺は何かの微かなチカラの波動というか残留のような物をたどっている。今のところ当たりはない。今までのものは何かしろのチカラが宿った物だった。

 もちろん回収可能な物は回収してるし、回収が無理な物はチカラを写した後、消している。もし悪用されたら目覚めが悪いから。

 幸い旅をしていて食料や寝るとこに関しては自然が在る所であれば支障は無い。たとえ植物や土が無い所でも母さんが遺してくれた遺産が在るので苦労してない。

 ただどうしようもないほど孤独なだけだ。

 でもそれは自分で望んだ事。仕方が無いんだ。

「そう、仕方の無い事なんだ……」

 俺は凄く空いているバスの車内で感傷に浸りながら外の景色を見ていた。

 太陽はさんさんとアスファルトの道路を照らしている。俺の目が正常なら道路の上に陽炎ができている。まるで沖縄並みの気温と田舎っぽい、と俺はクーラーのきいているバスの車内で客観的に外の景色を判断した。

 バスの後にも先にも車らしき物はなく。ただ道路と歩道が続いているだけ。

 町はまだ遠いのだろう。歩いている人さえいない。いや一人だけ居た。バスの前の方の歩道を黒い上着とくたびれたジーパンを着て、何やらいかにも旅人って感じの荷物を背負った青年が歩いているのが後ろから見える。

 俺はその青年からチカラの波動を感じた。だがそれは俺の今まで感じてきた波動よりかなり弱々しかった。

 俺は丁度暇だったのでバスを降りる事に決めた。が、普通降ろしてくれ、と言っても降ろしてくれる筈が無い。かといって窓を蹴破って走ってるバスを飛び降りる事も可能だが修理費を払うとか色々面倒なので、でどうしようか考えていると横から女の子が声を掛けてきた。どうやら俺は考え事をして気を緩めてしまったらしい。俺らしくないな。

「あ、あの…………写真、撮ってもいいですか?」

 俺は内心、苦笑しながらまたか…と思いながら振り向くと、そこにはネコがいた。いや、ネコのぬいぐるみだったが、それを見て俺は思わず少し微笑んでしまったがすぐにそのぬいぐるみを掴んでいた手を引いた時に可愛い女の子が出て来たので表情を普通に戻した。

「ああ、別に構わないよ……」

「じゃ、遠慮なく撮ります」

 そう素っ気無く言ったが、女の子はもう片手に持ったデジカメで俺を取り始めた。どうやら人見知りが激しいらしいが、すぐ俺に懐き始めた。

 知り合いの女武器商人によると俺はどうやら反則的なほど顔が綺麗というか美形らしい、それまでは人が寄って来たり写真を撮られても人が俺の力を無意識の内に感じとって寄ってくるのだと本気で思っていた。それは俺が鈍いのではなく異様なほど人が寄ってきたからだ。あと自主的に親しい人を作ろうとしなかった事も原因だと思う。

 その女武器商人の綾菜(あやな)は何と言うか俺にべたべたしながら俺が寝てるところに可愛い〜とか言って体当たりをかけたり俺が本を読んでるとどこからかカッコイイ〜とか言って後ろから抱き付いてきたりする。今もっとも俺を理解してる人であり、今もっとも俺が理解できない人だったりする。

 まぁ、そういうわけで俺は人混みがある所では完全に気配と言うものを消して旅をする。別に気配を消す事は俺にとっては手を動かすようなものなので一周間連続で気配を消す事もできる。その後はかなり体力を消費すると思うが。

 ふと考えが外れてきたと思い。俺はため息混じりに呟いた。

「らしくないな………」

「え、なんですか?」

 どうやら俺を写していた女の子が聞いていたらしい。

 なぜか泣きそうな顔をして何時の間にか本格的なカメラを両手で持っている女の子の顔を見たとき、俺はまた心の中でらしくないな、と呟き誤解をとこうとした。

「…ちがうんだ。自分が情けないと言ったんだ。つまり独り言だ、君は気にしなくてもいい……………」

「あ、そうですか?誤解してしまいましたね。すいません」

「………………………………」

 けろっと表情を変化させた女の子を見て、俺はこのバスを降りようと決めた。

 

 理由は二つ

一、                       この女の子も綾菜と同類だと思ったから、いつ俺に完全に懐くか解からないので早く逃げろと本能が告げているから。

二、                       なんとなく嫌な予感がするから。(前に行った雪降る町でスケッチブックのような物体を見たときなど


 そうと決まったらとっととバスを降りようと外を見たら、青年を完全に見失っていた。

 だが、俺はもうすぐバス停に止まりそうなのに気が付き、早く降りようと場違いなほど黒い一枚のコートを羽織って椅子から立ちあがった。ついでに俺は外のバス停を指差し、女の子に事務的に事実を話す。俺はそこで女の子がかなり整った顔立ちと可愛いらしい制服を着ていたことに気が付いた。

「俺はそこのバス停で降りるから、通してくれ」

 女の子はその言葉を聞くとカメラを肩に下げていたうさぎの刺繍が入った青いかばんに入れ、どこからかネコのぬいぐるみを取り出し、そのネコで喋る。

「はーい、真里(まり)も一緒に降りますのみゃーよろしくみゃ〜」

 ネコがぺこっと俺にお辞儀をした。

 俺はらしくないと思いながらも出口に向かって歩きながら忠告する。

「それ、どこかの学校の制服だろ?今日は平日だ。それに俺に関んない方がいい。怖い思いをするぞ………それでも付いて来るんなら好きにしろ」

 ぴー、ぷしゅっ、がしゃ

 止まって開いたバスの扉の側にある機械に向かって手を伸ばし――ちゃりん、とポケットから小銭を出して入金口にいれる。そしてなぜか目が合った運転手が俺に向かって親指を上に向けて立てた。

「グットラック。旅の少年よ。この町は凄いぞ」

 俺はまた、らしくない、と心の中で呟き、運転手に向かってあんたもな、と親指を立てた。

 それが最後に乗ったバスの姿だった。

 バスから降りた俺は、見失った青年を探すことにした。

 でも、始めて来た町なので探し様が無い。

 俺は若干途方にくれながらも歩き出すことにした。

 数歩歩いただけだが、半端じゃないくらい暑い。後ろから、暑いみゃー、暑いみゃー、茹でたこみゃ―、とかいう場違いな声が聞こえて来るくらい暑い。

 

 ぴこ、ぴこ……………

 

「みゃみゃみゃー!!すごいみゃー友達になるみゃー」

 

 ぴこぴこ、ぴこ

 

 俺は聞いた事が無い音とあい変わらず陽気な声を聞き、思わず唸ってしまう。

「む、…………」

 俺は嫌な予感を感じていたが、好奇心に勝てず振り向いてしまった。

 振りかえると、………………俺に付いて来た真里とか言う女の子が、ネコのぬいぐるみを使って、地球外生命体とじゃれあっていた。

「………………………………………………」

 その光景はあまりに異質だった。俺は躊躇わずその宇宙外生命体らしき物体に背を向け逃げ出した。

 

みぃにゃ――――、ぴこ―、ヒュイン……ゴキン!!!!

 

 でも、そんな俺を、神様は見逃してくれそうも無い。神様を一度も信じた事は無いが、むしょうに祈りたくなった。

 俺は後頭部に衝撃を受け、その衝撃の中、神様に祈り、神様を呪い、最後に無力な自分を心の中で罵る。

 俺の努力も虚しくクリィティカルヒットした攻撃に意識を失いかけ始め、らしくない、という呟きは声にならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めると、そこには見知らぬ天井だった。

 いや、ボケるにはまだ早い。それにらしくないので前言撤回しよう。

 なんか……らしくないな、心が弱くなっている。もっと心を引き締めなきゃ、もう傷つかない様に、強く。誰よりも硬く。

 とりあえず、状況を把握しなければ、このままだとまずい。

 俺は辺りを見回そうとするが、俺の頭に突然霞のようなものがかかって、考えてことを喋り出してしまう。

「………真っ白な天井だ。俺は死んだのだろうか?否、俺はまだ死ねない筈…………………となると、ここは何所だ?……………………」

 俺は自白剤を打たれた事を悟り、すぐに頭の中を空っぽにする。そうしないと考えている事が言葉になって口から出てしまうからだ。

 けど、コツコツと誰かの靴音が聞こえてきたときだんだんス―ッと頭の中の靄がなくなった。

 どうやら効き目が切れてきたらしいな。

 自分の身体の事だが、相変わらず異常だ。

 とりあえず俺は若干痺れている上半身を少し動かす。

 そして、首を動かし周りを見る。どうやら俺が横たわっているのは診療所の診察台らしい、近くに机と椅子があり机の上にはいろいろな物が在った。思わず安堵のため息が出る。すかさず安全だと思った俺は自分の体の中にチカラを注ぐ、神経の一本一本を意識して、血管に血を流すように集中する。

 すぐに成果は出る。全身が熱くなるのがわかった。

 ここからが問題だ。いったんチカラを解放すると俺の眼は紅くなることがある。それは俺の精神状態に影響されやすく、より不安定な時や力を全開にして心の赴くままに戦ったときなどに発生するので、俺は一種の病気だと思っている。

 まぁ、前例が無いからどうこう言えないが、普通の人は気味悪がった目で見るので普段はならべく精神を自制して力を使わないようにしている。もちろん綾菜にも見した事が無い。

 所詮俺も弱い人間なのだろう。嫌われる事が辛い。だから一つの地域に留まる事が出来ない。

 結局、旅をする事しか出来ない。でも、旅のおかげで数少ない友と呼ぶ事が出来る人が出来た。おかげで僅かだが旅を楽しむ事が出来るようになった。そのことに関しては良かったと思う。

 でも、いつも思う。俺は旅を―いや人生を楽しむ権利はあるのか?資格はあるのか?と。

「……俺には血塗られた道が似合うのかもな………」

 俺は力のおかげですっかり動けるようになった上半身を起こし診察台に腰掛けている態勢になり自分の手を握り締めながら口の端を吊り上げ自虐的に笑った。

 自分は生まれてはいけない存在だった。なぜなら、俺は異端者だから。

 だが俺が何をした?俺はただ生まれただけなのに奴等はなぜ俺を狙う。

 奴等にとって俺は世界の敵でしかないのか?俺は…………

「………俺は化け物なのか?…………胸が…痛い……苦しい…でも……生きなきゃ…………いけないんだな……………」

 俺は………涙を流していた。知らず知らずのうちに俺は一瞬、弱さをだしてしまった。泣いている訳ではない。苦しい言い訳かもしれないが、ただ、心が痛くて、辛くて、苦しくて目から涙が流れてしまっただけだ、そう自分に言い聞かせる。

 コンコン

 突然、自分の顔の目の前に在るドアから誰かがノックをする音を耳にいれ俺は慌てて涙を腕でごしごし拭う。

「入るぞ」

 ドアの向こうから聞こえる女性の声を聞き俺はさらに涙を拭うスピードを早くした。

 俺が涙を拭き取るのとドアが開くのはほぼ同時だった。

 ドアが開き、そこに居たのは白衣を纏った女医だった。

 彼女は机の近くに在る椅子を引き寄せて俺の目の前に座った。

 俺が女医だと判断したのは彼女がぶっきらぼうな態度をとっていた事と彼女の顔が看護婦に不釣合いなほど凛々しかったからだ。

 彼女は俺の顔を見つめていた。俺は彼女の眼を見ていた。

 この時、俺は不覚にも力を開放したままだった事を綺麗さっぱり忘れていた。

「………綺麗な紅だ……………」

 彼女は俺の眼を魅入られているかのように見ている。

 俺は一瞬放心して言葉の意味がわからなかったが、かろうじて女医の顔が近くに寄ってきているのが視界に入った。

「……え!……うわわっ!!!!」

 俺は慌てて、一気に壁際まで飛び退いて叫ぶ。

「お、落ち着いてください!」

 だが、あまり大きな声で叫ぶ事は出来なかった。

 なぜならここは仮にも公共施設なのだ、無闇に力を使って逃げる訳にもいかない。かといって攻撃するわけにもいかない。となると選択肢はおのずと一つに絞られる。でもその手段ははっきりいって使いたくない手なのだ、しかも後で綾菜にこっぴどく怒られるかもしれないというまさに最悪の手段なのだ。なぜ最悪かと言うと、綾菜の説教は最長で六時間続き後半は武器の仕入れのこと事などの不満や愚痴が続いたりするからだ。とてもじゃないが耐えられない。

 しかし、このまま女医さんが虚ろな目でにじり寄ってくるのをほっとく訳にもいかないので、最終手段を実行するのを決意する。

 まず、十分な距離をとる。十分な距離と言っても普段はこんな事に使わないから万が一の為にじっくり集中するためなので一メートルもあれば十分だろう。ここは戦場じゃない、リラックスしろ。落ち着け、落ち着くんだ俺。余計な考えは捨てるんだ。雑念は結果に悪影響しか与えない。

 次に出来るだけ鮮明に切断と慣れてない接続をイメージする。これは今まで使って慣れ親しんだ切断のイメージと苦手な接続のイメージを合わせるだけなのだがこれが難しい。合わせる事はとてつもなく難しいし負担が大きい。けど、単体だとこの場合間違い無く失敗するし構想を練ってから『真』に干渉しなければ俺のチカラは暴発する。過去に行使して俺は大体の制御を識った。

 あれはヒトが識って良いものではない。あれはヘタに行使したら死ぬ、それは絶対の真理だ。だが、元はといえば俺が原因なのだから仕方が無い、どんなにハイリスクでも今は出来る事をやるしかない。

 構想を練り終わったら次は身体の中の鎖を外す様にチカラを自らの内に向けて呟きながら放つ。

 

「I am broken of the my chain」

 

 俺の中の鎖が壊れた。限界を縛るリミッターと云う名の鎖が……………。

 そして俺は限界を超えたチカラで『世界』を認識する。だが、まだ何も考えない程度に思考を止める。状況を把握する事と圧縮した構想を頭の中に留めておくだけにする。

 そして行動。

 

「……………我が名の影において示す……………………」

 

 言を紡ぎながら距離を一気に詰め、彼女の鳩尾当たりに右手を当てる。彼女が動き出す前に残りの言を紡ぐ。

 

「…我が意思は……総てを断つ刃とならん!されど我の仮初めの姿は総てを繋ぐ護引者なり!」

 

 俺の言が総てに刻まれ、世界に干渉仕出すと共に激しい激痛が右手を襲う、視界が黒くなる,真っ黒に塗りつぶされる。否、自分で目を瞑ったのだ。意識が暗闇に沈んでいく……

 ソシテスウカイ『――――』

シタゼツボウトキョムノカンジョウガオレニオソイカカル。ショ―キキガク――ソウダ。イ――グウデヲ――タイ。イ―イ!―――――!ハヤ―、―ヤ―、――ク、コトバガ―――デキ―――ナイ。コ―バ?コト―?―トバ?コ――、イ―――――――ン――?

『―――ダ―――――――』

 ―――――ハ―?

『―――ダセ――――――』

 ――――レハ―?

『―モ―ダセ――――――』

 ―ンダ―レハ―?

『オモイダセ――――――』

 ナンダ―レハ―?

『思い出せ―――――――』

 ナンダコレハ…?

『思い出せカ――ク―――』

 なんだこれは…?

『思い出せ―――――――』

 意識が暗闇から浮上する。………俺はいったいなにを?

 抑えたのか?抑えたのならさっき、何かを聴いたような………

 それよりも――

「………俺はいったい………ダレダ?………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

 どうも皆さん初めましてコイルと申します。

 初めての投稿なのでかなりヘタな駄作ですが、どうかこの失態をさらっと流してくれると幸いです。かなり頑張ったので、最後まで読んでくれたら嬉しいです。

 短いと思う人も居るでしょうが、私にはこれが限界です。

 
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