この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件・地名等とはいっさい関係ありません。

 

第三話

 

 

ミッドチルダ首都クラナガンからそれなりに離れたところにアズマたちのアジト、もとい住まいはある。

なぜ人に見つからないようなところでもなく、廃墟のようなところにもしなかったのかというと、人里から離れすぎると不便であることと、それなりに近くにいたほうがさまざまな情報を得られるだろうという考えからだ。

もうひとつ付け加えるなら、千歳が

「埃っぽいのも、廃墟も絶対いや!! 人並みの生活は当たり前!!」

などと叫んでいたこともある。

最低限の情報はコンピュータやインターネット等によってえられていたが、アズマたちの欲していた情報はそんなところからではえられない可能性があった。人々の噂話にまで耳を傾け情報収集をしていたのだ。

 

「ふう・・・」

 

千歳が追っ手を抑えてくれているおかげでアジトに辿り着いたアズマは体の力を抜いて一息入れるために、懐からタバコを取り出しライターで火をつける。

ふーーーっと部屋の中に白い煙が漂う。

タバコはアズマの好物の一つだ。

一日に何本も吸うことは無いが、こうして一息入れたいときなどにはよくすっている。

・・・この世界へ来る前、学生だったころからずっと続けており、習慣の一つといってもいいだろう。

一度千歳に「止めとけば?」と忠告されたが、そこは引かなかった。

むしろこの世界にタバコというものがあるのか?と不安になったりもしたのだが、一応あった。

銘柄や吸い心地など多少違っているが、まあそのあたりは問題なかった。

 

(さて、のんびりしてはいられないな・・・)

 

タバコを握りつぶしてゴミ箱に入れ、今度は懐から薄いがすこし大きめのケースを取り出す。

これこそ、管理局から奪ってこれたジュエルシードだ。

箱にはロックがかかっているが、解除魔法でロックをはずす。

カチっという音を確認し、ふたを開ける。

箱の中には、蒼く美しい輝きを放つ宝石“ジュエルシード”が詰まっていた。

 

「・・・ついに手に入れたぞ、ジュエルシード。これでやっと・・・・ん?」

 

箱の中の数を確認する。

――ひとつ、ふたつ、みっつ・・・・・・・・・九つ・・・・・・十二個?

 

「・・・しまったな、十二個もいらない・・・。必要なのは九つだけでよかったのに。数を確認する暇が無かったからそのまま取ってきちまったんだな・・・」

 

そう、アズマたちが必要とするジュエルシードの数は九つ。それ以上はいらない。

必要なのは、かつてプレシア・テスタロッサが引き起こそうとした次元震と同じ状況を作り出すことだ。

余分を手元に持っていてもいいが、万が一ほかのジュエルシードの起動に反応して余計に起動してしまっては、かつての状況とはちがってしまう。それではダメだ。限りなく同じでなければ。

まあその状況にするには、管理局員が使用する“ディストーションフィールド”も必要になってくるのだが。

 

「はあ、面倒くさいが丁重に返却するか・・・。あ、また千歳にどやされるかもな」

 

十二個のうちの必要な九つをケースから取り出し、あらかじめ要しておいた別のケースにしまう。

残りの三つはそのもも同じケースに入れたままにしておく。

 

「さて、のんびりしてちゃ千歳のやつがやられちまうかもな」

 

軽いつぶやきと同時に、左手の黒手袋をはずす。

 

「またお前の力を借りるぜ、“プルート”」

 

左手に埋め込まれている深緑色の宝石に向けてアズマが声をかける。

返事などは、当然ながら無い。

この世界には“インテリジェント・デバイス”という人格を持つ武器があるそうだが、これがそれとは違うことはアズマには分かっている。

左手の手のひらを壁に向けると同時に足元に深緑色の魔法陣が展開し、室内はほんのりと薄暗い緑で彩られる。

 

「座標固定、対称の位置・・・確認、ゲート開け」

 

アズマのつぶやきの応じるように、魔法陣の輝きが増す。そして左手のプルートからも同じ深緑色の輝きが漏れてくる。

とどうじに、かざした壁から黒と深緑色が混じった靄のようなものがあふれ出してくる。

あふれ出した靄はアズマの身長よりも大きく幅もかなり広いものになっていく。

 

「よし、繋がったな・・・。さて、千歳を呼び戻すとするか」

 

 

 

 

――アズマがゲートを開くよりも前――

 

「燃えろーー!!」

 

千歳の叫びとともに、紅蓮の炎をまとったチャクラムがなのはとフェイトに襲い掛かる。

 

「くっ!」

「わっ・・・」

Protection

Defencer

 

レイジングハートとバルディッシュが、それぞれの主人を守るためシールドを展開し千歳の攻撃に対し防御を行う。

本来なら、フェイトは高速飛行でかわすことのほうがいいのだが、現在彼女たちの周囲には炎の壁が取り囲んでいる。

うかつな高速飛行ではその壁に突っ込んでしまう可能性がある。

そのためフェイトはあまり行動できずにいる。

フェイトのことを知ってか知らずか。いずれにせよ行動制限がかけられていることに変わりはない。

炎を纏ったチャクラムと展開されたシールドが魔力を火花のように散らす。

弾き飛ばされたチャクラムは千歳の手の中へ戻っていく。

 

「レイジングハート! アクセルシューター!」

Accel Shooter

 

なのはの掛け声にレイジングハートが反応し、なのはの周囲に桜色の光弾が6つ発生する。

『アクセルシューター』

なのはの十八番である誘導操作弾。相手の攻撃を迎撃可能かつ精密で強力な射撃魔法である。

 

「シューーーート!!」

 

6つの光弾がいっせいに千歳のほうへ発射される。

ひとつひとつが全く違う軌道を描きながら、千歳に迫っていく。

並の相手なら、一つを防御する間にほかの弾丸が背後や上下から襲いかかり、そのまま防御のうえから削り取れるほどの攻撃だ。

だが、

 

「甘いよ!」

 

再びチャクラムが炎をまとい、千歳の腕から放たれた。

ふたつのチャクラムは複雑な起動で、周囲を飛翔していく。

そして千歳の上から攻撃しようとしていた光弾の一つが打ち落とされた。

 

「え、そんな!」

 

その一瞬の困惑で、操作にわずかな乱れが生まれた。そこをつかれほかの光弾全てが打ち落とされる。

光弾を打ち落としたチャクラムはそのまま円状の軌道を描きながらなのはに向かって飛翔していく。

眼前までチャクラムが迫ってきたが、それがなのはに当たることはなかった。

フェイトだ。

なのはの後ろで様子を伺っていたフェイトが、チャクラムをはじき返してくれたのだ。

 

「なのは、大丈夫?」

 

「う、うん、ありがとう、フェイトちゃん」

 

 

 

――やっぱりそううまくはいかないか・・・――

火炎の牢獄(イグニートプリズン)で二人の行動を封じ込めたまではよかったのだが、やはり相手は管理局員。そうそううまくはいかないものだ。

それに、単純な潜在能力だけなら明らかにあちらのほうが上。

先ほど光弾を打ち落とせたのは、向こうが本気でなかったからかもしれない。

もう内心ヒヤヒヤだ。

一応金髪の女の子のほうはスピード特化型のようであまり動けずにいるようだから、ひとりの動きを制限できただけでも上出来だろう。

だが、これ以上の戦いを長引かせればこちらが不利になる。

いまこの戦闘は足止めのためのものだ。必要以上に攻める必要は無い・・・無いのだが。

 

――どうしよう、楽しくてしょうがない!――

 

千歳は湧き上がってくる衝動を抑えるのが限界だった。

もともとの性格はそれほど戦闘好きではないのだが、“おもしろい”ことにはジャンルを問わず突っ込んでいくタイプの人間だ。

もちろん自分の力量と相手の力量の差は理解している。それでもだ。

自分と目の前の相手が繰り広げる戦闘に興味が湧かないかと聞かれれば、当然「湧く」と答える。

 

――アズマに何か言われるかもしれないけど、もうちょっとだけなら――

 

「おちびちゃん達、なかなかやるね・・・。なら、これならどうかな!」

 

千歳は炎の壁で囲ったこのフィールドを最大限に生かす戦法に出た。

大きくバックステップし、炎の壁の中に消えていく。

それを見たなのはとフェイトはほぼ同時に壁に囲まれたフィールド内の丁度中央で背中合わせになるように位置どった。

どこから来る?

 

《マスター! 0時の方向です!》

 

レイジングハートのよびかけがしたと思った直後

 

「もらったーーーー!!」

 

その方角の炎の壁から、千歳が火柱を吹き上げながら高速で突き進んできた。

フェイトは上へ、なのはは右へかわす。

 

轟音と熱風が突き抜けていく感触をなのはは感じた。

この攻撃は非殺傷なのだろうか?

もし殺傷設定なら、食らえばただではすまないだろう。そんな思いが脳裏をよぎった。

 

上空へ逃れたフェイトは、立ち上る火柱の熱風と圧力をもろに受ける場所に来てしまった。

defenser

バルディッシュが再びシールドを展開し、その身を守ってくれる。

そしてフェイトが反撃しようと体制を建て直し千歳に向き直ったのだが、その千歳はすぐさま炎の壁の中に消えていった。

 

「くっ!」

 

フェイトはすぐさま地面に降り立ち、先ほどと同じようになのはと背中合わせになる。

このままではまずい、とフェイトは思った。

こちらは炎によって行動を制限されている上に、この狭い空間ではへたに大型の魔法を使えばなのはを巻き込む恐れもある。

対してあちらは、どういう原理か分からないが炎を自在に操り、さらには自分達を囲っている壁から奇襲を仕掛けることも出来る。

地の利は明らかに向こう側だ。

 

「ねえ、フェイトちゃん」

 

その思考を中断させるなのはの声がフェイトの耳に届いた。

 

「なに、なのは?」

「あの人がまた一直線に突っ込んでくるなら、設置型のバインドでなんとかならないかな?」

 

あっとフェイトは小さく声を漏らした。

そうだ、バインドだ。それがあるではないか。何故言われるまで思い出せなかったのだろう。

もしくは思い出せないぐらい動揺していたのだろうか?

だとしたら自分はまだまだだ。

それぐらい打開できないようではクロノのような執務官にはなれないだろう。

そうフェイトは思った。

 

「そうだね。それならきっと彼女の動きを封じれる」

「じゃあ、わたしの“レストリクトロック”で大丈夫かな?」

「うん、お願い」

 

フェイトの言葉を聞いて、なのははすぐさま行動に移す。

 

“レストリクトロック”

なのはが使う設置型捕獲魔法。指定区域に入ったものを拘束するものだ。

先ほどのように彼女が突進してくればたやすく成功するだろう。

 

「できたよ、フェイトちゃん」

「うん」

 

準備は整った。

二人は再び全方位を警戒する。

 

《上です!》

 

レイジングハートの声になのはとフェイトはすぐさま上空を確認する。

そこには少女が、千歳がいた。チャクラムではなく足の炎を纏わせ、その足を振り上げる形で降下しようとしていたところだ。

 

 

 

「食らえ!」

 

千歳は空中からかかる重力をも利用した踵落としをなのはとフェイトがいる場所に向けて繰り出した。

なのはとフェイトはお互い正反対に移動することでそれを避ける。

振り下ろされた千歳の足が地面へ叩きつけられる。

それと同時に纏っていた炎が爆散し、周囲へその衝撃波を撒き散らす。

千歳はすぐさまその場を飛びのき、再び炎の中へ行こうとした。だが・・・

がくっと体が傾き飛びのくことが出来ない。次の瞬間には、両手両足がなにかに縛られるように固定されその場を動けなくなってしまった。

 

「バインド!? しまったーー・・・」

 

千歳は自分の甘さと調子の乗りやすさが迂闊だったと後悔した。

だがもう遅い。どれだけ体を動かそうとしても、淡い桜色に輝く頑丈なこのバインドは破れない。

両手に握っていたチャクラムが炎となって消える。

千歳が消したのだ。この状況では持っていてもしょうがないから。

だが、火炎の牢獄(イグニートプリズン)だけは消えていない。こちらは時間が経つと消える時限式の術だからだ。

 

「捕まえましたよ」

 

目の前に白い服を纏った少女――確か、なのは、だったか――と黒い服にマントを纏った少女――こっちはフェイトだったな――が降りてきた。

 

「さあ、話を聞かせてください! どうしてこんなことをしたのか」

「そうです、話してくれればちゃんと弁明の余地があります」

 

少女二人がいいたいことは、なんとなく分かる。

こちらのことを気遣っているのだろう。もしくは、なるべく弁護したいといたところか。

 

(はあー、こんな幼いのに・・・あたしよりも五つぐらい年下っぽいのに、よく相手を気遣うようなことが出来るなー、っていうか、発言が大人っぽすぎて老けて見える・・・)

 

いまの心の声が二人に聞こえれば、おそらくいや絶対憤慨するかショックを受けるだろう。

それはそれで面白そうだなとも思った。機会があればぜひやってみよう。

 

(あとこの状況、“お話聞かせて”じゃなくて“お話聞かせろ”じゃないのかな・・・こっち動けないんだし)

 

手足が動けない状況で千歳はそんなことを考えていた。

 

「もうひとりは何処へ言ったんですか? 教えてください」

 

黒い少女、フェイトの声で千歳はそちらのほうへ顔を向ける。

そしてわざと含みがあるような顔で

 

「うーん、それにはちょっと答えられないかなー」

「なぜですか・・・?」

「だって、それを答えちゃったらこっちの目的達成できなくなっちゃうじゃない」

 

その返事を聞いた二人の少女の顔が少し曇る。

こちらとしてはもっともな答えを言ったつもりなのだが、彼女達は不満なのだろう。

いいかげん千歳はその意味の無いだろう質問にウンザリしかけていた。

 

 

『まったく・・・足止めだけでいいといっていたのに、一体何をやってるんだ・・・?』

 

 

三人のいる場所の虚空から、今度はそれほど低くない男の声が響いてきた。

なのはとフェイトはその声に、一体誰が、というふうにあたりを見回す。

だが、千歳にはその声はなじみのある声だった。

 

「アズマ!!」

 

 

 

なのはとフェイトの耳に、千歳の嬉々とした声が響く。

それは明らかに親しい人物に語りかけるような、そんな声だった。

つまり今聞こえてきた声の主は、もう一人の犯人であり、彼女のパートナーのような人物であるはずだ。

 

(一体どこに?)

 

なのははもう一度改めて周囲を見回すが、誰も見当たらない。

まだ周囲にはあの炎の壁が残っているから、その中のどこかにいるのかもしれない。

 

「なのは、あれ!」

 

フェイトの声に彼女のほうを振り返ると、ある一方を指差している。

その方角に目を向けると

 

「え、なに・・・?」

 

そこには千歳の背後から黒と緑の混ざった靄のようなものが噴出してきていた。

それは一定の間隔で広がっていき、千歳を包み込めるぐらいの大きさにまで広がった。

 

《マスター、何か来ます》

 

レイジングハートが警告をくれたその瞬間に、靄から何かが飛び出してきた。

なのはとフェイトはすぐさま、炎の壁ぎりぎりまで下がる。

直後、ふたりのいた場所に巨大な刃が煌き、一閃していた。

 

それを振るったのは、千歳と同じように真っ黒なコートに身を包み、頭からフードをかぶっている人物。

おそらく先ほどの声の主。

その右手には巨大な鎌が握られている。先ほど一戦したのはあの鎌だろう。

その人物の身の丈ほどもあろうかという大きな鎌。長い柄の先端には十字架のような刃が取り付けられており、その一つにもう一つ大きな刃が取り付けられて、鎌の形を成している。

なのははその鎌を見た瞬間、優雅だ、と感じてしまうほどにそれは整った形をしていた。

 

「世話を焼かすんじゃない・・・まったく」

 

そうため息をつきながら、男はなのはの仕掛けた――今は千歳を縛っている――レストリクトロックに左手を翳す。

よく見ると、男は鎌を持っている右手には何もつけていないのに、左手には真っ黒なグローブをはめている。

左手に何かあるのだろうか。

そう思っていたなのはだが、パキンッ、とバインドが砕ける音を聞きすぐに間の前に意識を戻した。

フェイトもじっと様子を伺っているようだ。

顔をフェイトに向けると彼女もこちらへ顔を向け、こく、と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

第三話 終

 

 

あとがき

 

うわーーー・・・ぐだぐだすぎてもうコメントしようが無いです()

話の展開は頭の中でできてるのに、それがうまく文章に表せないという・・・。

しかも描いていて、「あ、どこで話をきれば」とあとになって気づく始末。

読まれて不快になられた方にはここで謝罪しておきます。申し訳ありませんでした。

 

文章を書く上でキャラクターの視点が変わりすぎかもしれない・・・。

あと、デバイスは基本的にあまり喋らせないようにしてるのに会話に組み込まないとうまくいかないという・・・問題点は多いな、もっとがんばらなきゃ。

 

さて、ようやくオリ主がなのはとフェイトの前に登場。でもまだ顔は見せてない・・・。

次回で見せます。まあ当然ですが・・・。

次回は、戦闘はたぶん無い・・・かな。

かけひきみたいなことしますね。

オリキャラたちの基本的なステータスはなのは達よりも下です。

ガチで正面から挑まれたら100%負けます。

今勝てているのは、心理的に惑わすことで、有利なように見せかけているだけ(・・・・・・・・・・・・・・・)・・・ってことです。

 

 

それでは皆様、次回でお会いしましょう。

 

 

はあ・・・あとがき書くのも難しい・・・。




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