ここ数日の間妙に俺に対するなのはの機嫌が悪いと思ってはいたが、その具合までは計れなかったのが要因な
のだろう。
 当然ながらなのはの言葉を俺が疑問に思うわけが無く、むしろ二つ返事で何も詳細を聞かずに了承してしまっ
たのが恐らく現状に陥る原因だったとも言える。いや、あの状況下ではそうしざるを得なかったと言うべきか。
とまあここまで考えておいて何なのだが正直に言えば、何故なのはが怒っていたのかが分からないという事につ
きるだろう。調子が悪いのかと聞いてみれば怒られ、なら何が原因で機嫌が悪いのかとまたしても聞いてみれば
ついには無視をされる始末である。
 はっきり言ってしまえば俺だけに対してというのは他の人からの証言から分かった。とりあえずなのはに近し
い人に対してなのはの様子について聞いてみると……。

 ――曰くいつも通りである。

 口を揃えてこう言うのだ。
 そんな俺にとって推理物におけるヒントというのは聞き込みでは得ることは無かったという事だ。
 こうして鑑みれば、これもまた疑問なのだが一部の人間は含み笑いで答え、一部の人間はなのはと同じような
顔をして答えていた気がする。案外この辺りが実の所ヒントになっているのかもしれないと本当に今になって思
うが既に遅い。
 何故なら俺は――












 ――なのはによって身体の自由を奪い去られ、捕らえられているからである。

「いい加減拘束を外してく――
 ――身体動かないのが辛いのでせめてバインド外していただけませんでしょうかなのはさん」

 いつになく弱気な俺がここにいた。























魔法少女リリカルなのは 救うもの救われるもの 外伝ぜろさん


「魔法における知略戦というのは立体パズルに近い物なのですかなのはさん」




















 さて、どうしてこうなってしまったのかと言えば話は早い。
 春休み真っ只中を謳歌し、つい先日どこぞの妹とドンパチしたあと、人に対して大きな声で言えぬ様な方々の
相手をし、その時無断で魔法をつかってお隣さんに大きく怒鳴られ、色々とあった後の1日。
 そんな他愛……もないと思う日々の1日に高町なのはが朝早く――いや昼前と言ったほうが正しいかもしれな
いが――我が家へと遊びに来たのが始まりだった。

「………………」

 無言である。
 玄関を開ければそこには俺とあまり身長の変わらない少女が立っていた。ただこの説明だと俺自身の尊厳が何
故かどこかに吹き飛んでいるのであまり言いたく無いのだが、それしか形容出来ないため捨て身覚悟での言葉を
選んだ。
 話が逸れてしまったがなのはが我が家へ遊びに来るのは珍しい、というのは語弊を生むが1人で遊びにくると
いうのは本当に珍しいことだった。しかしそんな珍現象という程ではないが、そんな日常の中にあるいつもの行
動とは違う彼女。更にはここ数日の間いつもの様子を見せてくれない彼女の姿が相まって何故志麻家を訪れたの
かという疑問で俺の頭の約8割は占められた。残りの2割は割愛しておく、男の子にだって色々とあるんだ。
 そうして俺が疑問という螺旋で思考を絡め取られている間に、ふと現実に戻ってみると目の前にいたなのはが
消えていた。何処へ? と疑問に思うも後ろを振り向けばそこにトコトコと擬音が合うような感じで歩き俺の部
屋へと俺の視界から消えようとするなのはの姿があった。
 おかしいと思ったのは最初からだ。そもそもにあの少女がこの様な行動は取らない。
 だが何となくであるが俺はいつものなのは何だろう? と一抹の希望を抱きつつ、自分の部屋へ入るなのはの
後を追う。

「おはよう恭司くん」
「あ……ああ、おはようなのは」

 お互い部屋に入った途端になのはが喋りだした。頭からはてなが取り除けない俺に対して畳み掛けるように話
しかけてくるなのは。
 なのはが俺に向きかえるとそこはいつもの笑みが待っていた、のだが。

「私のこれからするお願いに、はいか、イエスか、で答えてください」
「あ――はい」

 何故か逆らえないような気がしたんだ。
 情けないと罵られても言い、年下の少女にいいようにされていると言われてもいい。
 ただそれだけの凄みをなのはから感じたのは確かだったのだ。だがなんだろうか、なのはの後ろに紅茶の入っ
たティーカップ片手に微笑む少女が霞んで見えるような気がするのだけれど、気のせい……だよな。な?

「私と一緒にミッドチルダ、行きませんか?」

 間髪いれずに俺は答える……しか無かった。

「はい……」

 嫌だと言えば俺の身体はどっか飛んでたかもしれない。
 だってレイジングハートが何故か起動状態に入るどころか、いつの間にかイクシードモードで首筋に突きつけ
られたら誰だって即答するだろう……? っていうかちょっと刺さってるってなのは! 地味に痛いッス!
 そんな訳で、いやどんな訳なのか説明しづらいが俺はなのはに連れられるがままミッドチルダへと赴くことに
なった。



*




 というのがほんの数時間前の話で、冒頭に戻る。
 ミッドガルドに着いたと思ったら何故か管理局の地上本部を訪れ、誰かによって転送された後、俺はなのはに
よってバインドされ、いまや使われていないどこかの世界の市街へと放り出された。その間に逃げれば良かった
んじゃないか? とお思いの方もいらっしゃるだろうが……ミッドに行くまでの彼女はいつも通りだった訳で俺
は何にも疑問に思わなかったという事なのですよ。
 なんとなく今現在、無言の圧力を感じるなのはの視線から目を逸らす事なんて俺には出来なかった。その無言
も長くは続かず、なのはの方から沈黙を破る形となる。

「ここまでくれば大丈夫、さあ恭司くん何でここに連れてこられたか分かるかな?」
「えぇっと――分かりません! なのはさん!」
「君に発言が許されているのはイエスとマムだけだよ」
「イ、イエス、マム」

 何か悪い物でも影響受けたか……?
 そんな風に思えるほどなのはのテンションは変だった。
 俺となのはの立ち位置は分かりやすい程に上下関係を促すかのように俺が地に拘束されて這い蹲り、なのはは
デバイスを起動しバリアジャケットを着込み、更には空を飛んで俺を見下すように見ているのだ。というかなの
はの目が血走ってるので少々恐怖を感じずにはいられないのですがどうでしょう。
 しかし、そんなどうしようも無い俺へと逆転のチャンス……というか救いの女神が現れたのだった。

(お、おい……何してんだお前は)

 おおっ!? 俺からしか見えないビルの隙間にいるあの姿……真紅のドレスはまさにヴィータじゃないですか。
どことなくお腹を抱えているのは腹痛でもしているのだろうか、少々痛々しい。だがそんなヴィータが今の俺の
姿を哀れんだのか、どう感じたのかは分からないが念話で俺に話しかけてきた。
 ヘルプー! ヘルプミー!

(うげ……なのはの奴がいる。今のあいつにかかわるとロクな事がないぞ)
(そのロクでもないって事がまさにここにあるんですけどぉ!
 っていうか何でなのはに関わると良くないって分かった?)

 俺の質問に何故だか言いにくそうに頭を掻きつつ顔が引きつりながら答えるヴィータ。

(いや、それなんだが……一昨日からなにやらドンパチやっててその事後処理が遅れに遅れ、つい今朝になって
管理局から解放されたらしい、今のあいつは……えっとつまりだ)
(……つまり?)

 無意識にも喉がなる、今上空にいるなのはは何故だか空を見てまさに上の空だった。
 なのはが何故あんな状況なのかそこにヒントがあると思ったのでヴィータの続きが気になった。だが帰ってき
たのは至極当然な事ながら、もっとも性質の悪いものだったのだ……。

(徹夜明けで最高にハイって奴らしい)
「すっげーはた迷惑ッスよねそれ! 
 つーかなんですか、そんなテンションに身を任せっきりにしたなのはが俺を拉致ったって事か!?」
「恭司くん、誰とお話してるのかな? 今は私と話してるんだよね」

 身体が動いた。
 バインドで拘束されている筈の身体が、本当に軽く振動したと思うくらい動いた。逆らったら――死ぬ。そん
な脅迫概念にも似た感覚が俺を包み込む。まさかなのはに限ってと俺の心は訴えるが、身体のほうは死を訴えて
いた。それにしたって勢い余って口にしてしまうとはなんたる不覚か。

「それじゃ、今バインド解いてあげるね。
 同時に――アクセルシューター」

 拘束が解かれ、動きの制限も無くなった俺はまず自分の身体が大丈夫か確認し、その後ふとなのはの最後の言
葉に何か取っ掛かりを感じる物があったのでなのはの方を見る。
 ――おい。

「ああ、なのはさん今俺の見える状況で少し説明してほしい所があるのですが、この卑しい私めに教えては頂け
ないでしょうか?」

 米国ちっくに手に平を上にして両手を肩ぐらいまであげ、肩をそのまますくめつつ聞いてみる。いやいや何か
の冗談ですよね、とジェスチャーするが如く。

「うん、これ訓練、恭司くん避けてね」
「淡々と言うなああああ!」

 避け……ってええっと目の前で展開してる魔力球の数はざっと――20発。
 恐らく俺のヴェールズシェルで受けるにしても恐らくシールドタイプでないと突破されるから、状況下として
は盾1枚。今すぐバリアジャケット展開して即座になのはの視界から逃げようとして大体21秒、これはなのは
にとって短いか、長いか……。
 どっちにしても受けつつ避けつつ逃げるしかない。そんなものは理想論に過ぎないが結果としてはそれしか無
いのだから選択肢としてはもう決まっている。
 説得しろというのは恐らく無理なので、とにかく逃げる。

(ヴィータ、ヴィータ。俺の言う事を大人しく聞いてくれたら、ハー○ン○ッツのアイスを今度奢ってやる、だ
から聞いてくれないか?)
(――4個だ)
(ぐ……間をとって2個ってどうだ?)
(3個だ)

 足元みやがって……だが死に掛けるよりはマシと考えた俺は3個で了承する。そのまま俺はヴィータにある事
をお願いした。

「ふうん、恭司くんさすがだね、もう算段ついたんだ」
「そんな事考えちゃいないよ、それよりいきなり訓練って酷いななのは。せめてルージュの起動くらい待ってく
れたっていいんじゃないか?」
「そうだね、いいよ」

 これで20秒。
 後は布石だけ投じて、天に任せるだけ……頼むぞヴィータ。

「ルージュ、とりあえず状況は見ての通りあんなものが一斉に襲い掛かってきたら身体が持たない」
<避ければいいじゃないですか>
「極論を言うなよ。んでその……だな、はっきり言ってしまえば自信が無い。
 まず9秒、その後は――そん時になってから考える」

 お互いに確認し合う、その間に俺は立ち上がりルージュセーヴィングを起動させ、颯爽と逃げる準備をする。

<ノープラン、ですね>
「仕方ないだろぉって話してる場合じゃなさそうだっ!」

 なのはがレイジングハートを天高々に掲げ、そして一気に振りかぶる!
 俺はなのはから遠ざかるよう一直線に逃げる!

「それじゃ――開始!」
「うひゃあ!」

 合図と同時に降りかかる災厄。
 桜色をした魔力球はまさに拳銃で撃たれた弾丸。火薬は魔力、弾も魔力。なんともセルフサービス旺盛な魔法
なんだろうか等と考えてる程今の俺は暇ではない。1発1発が正確にコントロールされてるだけじゃない、威力
もそれだけ考えて作られている。
 逃げようとした時に襲い掛かった1発を左に避けた瞬間アスファルト――かどうかはしらないが地面が抉られ
た。多分地面の素材も何か魔法でできているのだろうかは知らないがそれだけの威力を持っているという事だけ
は確認した。殺す気なのだろうか、彼女は……。
 落胆する暇もない上に、まだ1秒も経っていない。
 次に襲い掛かる魔力球を確認すると数は8発。地を走る俺に対して牽制するかのように上空から目の前へと動
く弾、後ろから迫る弾、そして左から動きを止める為の弾。
 全てがその次への布石と考えていい。
 ならば右に避けるのは愚計であるというのは分かるが、それでもなのははきっとその先を考えているだろう。
ならば俺がその裏をかくことが出来ればこの1秒は貰った。俺の選ぶ選択肢は……。

「――え!」
「でええぇぇい!」

 地面を思いっきり抉り、衝撃と煙幕を出して一瞬でもなのはの隙を突く。だがそれでもなのはのアクセルシ
ューターは俺を捕らえて離さない。
 だが……

「俺は前に一直線!」

 上空から来て俺の前を取るような動きをするのなら、それは上空から弾が俺の位置へ下がりそして俺へと向か
う、その段階を経る事によって俺にとっては上空の弾が脅威と為す。だが上空から回り込んで俺へと向かう瞬間、
その弾の運動量がほぼ0であることに違いは無い、そしてその弾だけ0の状態から再加速しなくてはならない。
 その止まる瞬間を狙い、俺は脇を逸れて逃げる。目標を見失う弾はそのままお互いを破壊しあうように8発全
てが衝突し、爆発音がするが気にせず俺は走る。
 っていうか逃げないと本当に危ない。

 だが――これで2秒!

 しかし、なのはもその程度で怖気つく程柔ではないことはあの映像記録を見ていれば分かる。ならば次に控え
てる作戦を変更するか、はたまたそのままの状態で狙ってくるかのどちらかだろう。
 一瞬でいい振り向いて確認すれば、なのはの動きが読めると俺は避けた時にそんな思いを抱く。
 俺はその時、そう思っていたがそれが愚策だったのはその後の展開を知っていれば分かっていただろう。
 走りながら飛び上がり横に1回転する要領でなのはを確認する、が――

<恭司君、後ろです!>
「――なに!?]

 確認した瞬間、なのはは真剣な顔をしていた。だがそれは本気で俺を攻撃しているという事の証明に他ならな
い。俺が振り向いた時にはもう手遅れだったのだ。
 そのまま俺の回転は止まることをせず逃げる方向へと向き直るもその目の前には計4発の弾があった。
 ――直進することすら読んでいたという事か!
 心の内で舌打ちする、しかし現実は変わらずなのはの魔法は俺の足を止めようとする。だが負けるわけには行
かない、そうこれは訓練なのだから打ち勝たなければ訓練にならない。
 盾で防ぐ事も考えた、だがそれは俺らしくない。ならば――壊せ!

「セット、クイック、ブレイク!」

 両足に感じる魔力をそのままに、一気に前にある弾へとぶつけ合う。
 したことは単純、ツインブレイクをそのまま叩き込んだだけ。俺の従来の訓練における基本的な事に変わりは
無かったので難しくは無かった。
 俺の魔法となのはの魔法がぶつかり合いそのままお互いの魔力は霧散する。
 これで3秒。
 だが目の前にある桜色の弾丸はまだ1つ残っていた。

「恭司くん討ち漏らしたね、駄目だよちゃんと目標は確認して魔法を使わないと」
「残念だななのは、俺の策に気付かないなんて……」
「何を……」

 1つ残したのには意味がある、それはこれからやることに必要な事だったからだ。
 思いっきり右腕を突き出す。
 通常のバインド魔法では考えられない、だがこれはバインドだけの効果では無い故にこの魔法だからこそ出来
る力技!

「掴んでやるっ!」
<グレイプニル、発動確認――捕獲します>
「えええええええええ!?」

 なのはがうろたえる姿を確認しなくても分かる。こんな事するのは恐らく俺だけだと思う。俺の手から伸びる
白く細い鎖は……なのはの弾丸1発を掴みとったのだから。
 通常バインドとは空間に固定する事によって、対象を捕縛し動きを封じ込めるという魔法だ。
 だがこのグレイプニルにはバインドではくくれない二次効果がある。それは空間ごと捕縛した対象をそのまま
座標を変えて移動させることが可能なのだ。その理論をルージュから聞いたことがあったが俺には到底理解でき
ぬ言葉の羅列がそこにあった。
 俺のグレイプニルはなのはのアクセルシューターを掴み取りさらに――

「うはははぁ、フィイィィッシュ! そのままいけえ!」
<対象の捕縛解除します――解除!>

 桜色の弾丸は砲丸投げの要領で再度発射し直される――本来の持ち主であるなのはに向かって。
 まだ4秒、これ以上は考えたくも無いがそれでも目安にしなくてはならない。
 アレを防ぐにはなのはは3つの選択肢がある。
 避ける、だかそれをすれば精神集中してコントロールしているアクセルシューターを一時手放すという事だ、
恐らく却下。
 受け止める、自らの魔法を受け止めるほどの防御魔法を展開するにはラウンドシールド以上の強度が必要だろ
う。だがこれも集中力が落ちるので却下だろう。
 最後コントロールし直す、これが一番正確でかつ隙の少ない行動だと俺は読む。だがそれをすれば俺の思惑の
餌食になるだけだ。
 だが俺はここまで考えて置きながら明らかになのはの力量を量り間違えていたのだ。何故なら彼女は――

「レイジングハート!」
<All right>

 自らの魔法を受け止めずに、不屈の心の名を冠した自らのデバイスを信じきった、その結果がこれだ。
 レイジングハートはプロテクションを、そしてなのはは自らの魔法の制御に全てを賭けた。その行動は諦める
事をしない彼女達の姿が俺にとって美しく映える事になる。彼女達は俺の想定する3つの行動のうち2つを同時
に行い、俺にアクションをかける時間の負担を減らしたのだった。
 ああ、本当にすごいよなのはは、まったくもって想定外すぎる、だがだからこそ面白いというもの!
 同時に再度襲い掛かるなのはのアクセルシューターの数はあまり減っていなかった。当然ながら壊されたから
といってその後追加分が用意されないとは限らないという事だ。だからこそ俺はなのはの視界から逃げる必要が
あり、なのはは俺が視界から逃げないようにするのに必死なのだ。
 避けることが訓練ならば、なのはに反撃する意味は無い。例え殆ど無限に近い弾数でも標的を見失えば宝の持
ち腐れになるのだから。
 俺が目指すのはビルの中でもさらに上階ではなく地下があるようなビル。ヴィータにその場所を教えて貰い俺
は今その場へと目指そうとしている。幸い俺がバインドで拘束されている場所からほど遠く無い場所だった。
 しかし、これ以上時間をかけるのは俺の為にならない。
 いつまでもあの超高速でやってくる弾丸を避けきる自信は俺には無いからだ。今の今まではなのはにとって想
定外というアクションで誤魔化してきたが、現状ある俺の策の内にはなのはが驚愕するほどの手品は品切れであ
る。
 覚悟を決めろ志麻恭司。
 この先にあるのは痛みの待つ地獄か、無事辿り着く天国か、それは俺のとった行動が決める事だ。
 だから――走れ!

「くああぁぁぁぁぁぁ!」

 限界の限界まで走った、ツインファクシを使おうとも考えたがそれは諸刃の刃。
 なのはの方も先日からの疲れが溜まっているのか、精度はみるみる衰えていた。それでも高速で移動しつづけ
翻弄するアクセルシューターに死角は無かった。1発牽制に使い、その牽制を避ければ、もう2発で避けた先に
攻撃を仕掛け、その2発をツインブレイクで壊すと、その隙を狙って3発の弾がやってくるが、集中力の限界を
超えて3発丸まるグレイプニルで捕縛する。
 お互いの読みが無くなり攻撃が単調になったころにそれはやってきた。
 あと数mで目標のビル。
 つまりは――これであと数秒!
 何度か対峙している間になのはは俺の目的が見えたのか、攻撃が単調になったとしても攻撃の手を一切緩めな
かった。雨が降ってしまえばその降水量が変わっても雨が降るという事象に変わりは無い、その事を体現するか
のようになのはが攻撃してしまえば、単調だろうが緩めようが俺にとって脅威に違い無いのだから。
 側転の要領で俺の上空にあった弾を破壊する。
 なのはのアクセルシューターの数も減ってきてはいるが雀の涙程だろう。だけど今の俺にとってはその少しも
助かる。

「行かせちゃダメだよね……ディバイン――」
(やばいっ!)

 今の俺の体勢はお世辞にも十全とは言えない様な状態だった。避ける事は不可能、かといってツインブレイク
で相殺だなんてそんなの自殺行為。アレをどうにかしようってのが問題だって言うのに、現状じゃ思いつく手が
1つしか無い。
 何を迷うことがある、手があるのなら使うしかない。
 側転のまま俺はツインブレイクを発動させ、腰を思いっきり捻らせる。
 勢いを増した俺の足の速度は地面を一気に隆起させるに至るまでになり、一気に地面へと足を叩き落した。だ
が先程のアクセルシューターとは訳が違う、さっきのは避けるのに必要な時間を稼ぐ為……今回のは――

「あくまでクッション代わりだ、来い! なのはっ!」
「――バスター!」

 割れた地面でも自分の身体を隠せるものの影に隠れる。
 一瞬の判断が命取り、集中して使うヴェールズシェルの発動は、なのはのディバインバスターが届くまでに展
開は出来ない。ならば捨て身覚悟で――ビルに向かって衝撃もろとも吹っ飛ぶだけだ!
 俺が瓦礫で隠れた直後視界が桜色で占めると同時に轟音、俺がその瞬間覚えていたのは本当に俺の身体大丈夫
かなと心配になっていた事だけだった。

「――あっがっぐっ」

 いやいや人ってピンボールのように飛ぶものなのね、と関心している場合でない。
 実際地面を跳ねて吹っ飛べばそりゃ痛い、痛いけどバリアジャケットのお陰で大した怪我も無く、立ち上がる
事は出来た。そのまま状況判断。

「いった……」

 判断が済んだと同時に感じたのは口に広がる錆びた鉄の匂い。だが気にしている暇は無い、即座にビルの中に
入れたのならそのまま地下を目指さなければ、負ける。
 階段を探しながら歩いていると地面壊してでも下に行きたいと思うくらい焦る気持ちが俺を平静で無くしてい
く。さすがのなのはもアクセルシューターを一定数以上コントロールしたままこちらに来れる訳が無い。だから
こそビルに入るという意味では時間を稼ぐのには最適である。
 だが地上階ではそのままビルの中に入ることをせず上空から様子を見て、そのまま攻撃に移れるというなのは
にとってはメリットがある。それが地下に潜る理由の1つ。
 途中に階段を見つけそのまま地下まで移動する、するとそこは日本で言うならば地下駐車場のように広い空間
に柱がぽつぽつとあるだけで、あとは対面にある壁まで見渡せる程の場所だった。
 ここまで来ればあとは――運だけ。
 自らが下した策略はなのはのごり押し戦法に勝てるかどうか、まさに運任せなのだ。
 なのはもそろそろどのビルに入ってどこにいるのか分かるまでには至っただろう。間に合えばなんとかなるか
もしれないけど、それが成功するとは限らないんだよなぁ……。

<……来ましたね、それより怪我の方は大丈夫ですか?>
「心配するなんて珍しいなルージュ、そんなに柔じゃないのはお前も分かってるだろう?」
<いえ、その言いにくいのですが……>
「またも珍しい、いいからもったいぶらずに言って欲しいな」
<恭司君がそう言うのなら言いますけど、頭から血、出てますよ?>
「まあ、そりゃあの衝撃――頭ぁ!?」

 口の中に感じたあの違和感は口を切った物かと思ったら、どうやら頭から流れた血が自分の口の中に入ってい
たようで、それに気づかず俺は――ああ……なんかちょっとだけフラフラする。
 しかも気づけばもう目の前に白い人いるじゃん。
 これってもしかして俗に言う……詰んだ状態?

「恭司くん、ずるいよこんな所に逃げちゃうなんて――ちょっとだけ探しちゃったよ」
「随分キャラが変わってないか? いや案外これが素だったりして……」
「何か、言ったかな?」

 なのはが俺に向かって投げた言葉を聞いた瞬間、体が冷える様な気がした。
 気にしない……うん、気にしない。

「いいや、何にも言ってないけどね……」

 ここが正念場、何とかして時間を――

「とりあえず、恭司くん訓練の続きなの……次も避けてね」
「ちょ、ちょっと待てなのは。本当に少しだけ休憩しない? 俺大分魔力減ってきて……」
「私も一昨日からので殆ど無いよ、だからおあいこ」

 おあいこって何ですか!? っていうか魔力量に違いがあるっていうのに同じとか言われたら敵わんわい。
 まずいなあ、このままでは本当に時間潰すどころか第2ラウンドが始まる勢いだ。
 何か、何かなのはの気を引ける事か物があればあるいは……、くっそ血が減ってきて考えがまとまらない。こ
の怪我も応急処置くらい――あるじゃん時間を稼げる方法。

「な、なのは、ほら俺怪我! 怪我してるからさ、ちょっとだけ応急処置くらいはさせてくれよ」
「え――大丈夫?」
「ああ、一応手当てしちゃえば大丈夫だからさちょっと待ってて」
「うーん……分かった待ってるなの」

 切羽つまると人間必死になれるって本当だなぁ……っと感心してる場合じゃない。
 とりあえずいつも携帯してるガーゼに包帯、あとは消毒液。
 長い鉢巻を解き頭を触って確認してみると、怪我しているとはいえ額を少し切った程度だった。この程度なら
ば特に今後の動きに支障は無いみたいだ。それより幸いだったのが額から出てる血が目に入らなかった事だろう。
 ゆっくりと処置を施す、とにかく気付かれない程度に時間を稼いでおかないと間に合わないだろう。

「ところで、気になってたんだけどさ。なんで急に訓練だなんて言いだしたんだ?
 それも無理やりつれてくる形で」
「え、だって……」

 訓練と言い始めた辺りから一応気にはなっていたこの事。
 どうしていきなり訓練と言い、俺を連れてきたのか。
 ここがとにかく気になっていた事、何故なら訓練相手には事欠かないはずであるなのはが、わざわざ俺の相手
をする必要が無いからである。

「だって……だって……」

 あれ? なにやら不穏な空気ですよ、っていうか俺が苦手とする空気になり始めてって……。
 ああ、まずい。これは本当にまずい。こう例えるならば魔法使わずに1200mくらいの高さから一気に飛び
降りろって言われてるくらいに気持ちが追いやられる感じだ。
 今のなのはのテンションはおかしくなっているのだから、こう言えばこうなるってくらい理解出来ないのが俺
の馬鹿さ加減を物語る。

「恭司くん、他の人とは一緒に訓練したりして楽しそうなのに、私とは一切してくれないから。
 なのにこの前フェイトちゃんと一緒に訓練したってフェイトちゃんから直接聞いたよ? 酷いよ私だけ置いて
けぼりなんて……酷いの」
「あ、ああ……フェイトとのはほら、成り行きっていうかどっちかっていうと勝負に近かったって言うかなんと
言うか。な、なのはともいつかやろうかなぁとは思ってたけどさ……いつやろうかっていうのが中々思いつかな
くて――」

 うぐ……割と否定出来ない。
 だが、いつかは苦手とする相手ともやらないとなとも思っていたのは確かだったし、くそう良い言い訳が思い
つかない。
 当然ながらなのはは俺の返答に気を許すわけが無く、その後も俺を問い詰める。

「つまり私の事なんて眼中に無いって事なんだよね」
「ち、違うよ? ほらなのはって砲撃射撃が強くて俺のタイプと正反対だからさ、まずは自分の土俵で出来るだ
けの事をしてからにしようって思ってただけで……」

 何を言っても上辺だけのような言葉を紡ぐだけで、相手の心には一切届くことは無い。だが何か口にしていな
いと自分の罪として俺へのしかかるかのような気がした。
 その時になって何故か口を挟むルージュ。

<恭司君、馬鹿だ馬鹿だとは思ってましたが、本当に馬鹿だったんですね>
「思ってたのかよ!」

 まったくもってフォローするどころか俺を貶める様な事を口走る我がデバイス。そんなに俺の事が嫌いなのか
ね、まったく。
 そんなルージュを一瞥してから俺が前を見直すと、なのはが拗ねてた。思いっきり口を尖らせて俺を見ている。
 その視線には勝てないと分かっててやっているのか。

「その、あぁ……うん、分かった約束しよう近いうちにもう1回、訓練一緒にしよう」
「………………1回?」

 止めろその視線は――ずるい!
 た、耐えろ恭司、負けるな恭司。俺は男の子なんだ!

「2回くらいなら――」
「あと3回くらいは約束なの!」
「わ、分かりました……」

 すいません負けました。
 とりあえず春休み中になのはと訓練することあと3回はあるみたいです。俺、生きて春休み過ごせるかな。

「良かった、これで一緒に訓練できるね。
 とりあえず今日の訓練は終わってないの、だから恭司くん行くよ!」
「ま、待て待て待てーい!」

 テンション上がってる!? っていうかボルテージはまさにヒート状態って奴ですか! って俺も意味分から
ない事考えてる。しかもなのははこっちの話聞く耳持たずだし、目の前には既に桜色の弾丸が復活してるし。な
ぜかなのはのデバイスも普通なら分からない筈なのにノリ気に見えて仕方が無い。
 だがそれでも、俺はこの地下に来たもう1つの可能性に賭ける事にする。
 なのはが魔法を打てない様にするためにここにくる必要があった。1つは先程も述べたように時間稼ぎの為、
そしてもう1つは――

「なのは、ここで魔法撃ったら……このビル崩れるぜ?」
「…………」

 ――そう、一番したの柱が崩れてしまえばビルは崩れる、それは子供でも分かることだ。
 積み木を高く積み上げても、一番下にあるブロックをいくつか抜き取ってしまえばバランスはいとも簡単に崩
れ高く積み上げたブロックは一気に崩れ落ちる。地面が魔法で壊せるという事は、同時にこの建物自体を魔法で
壊せるという事に俺は確信持った。だから、なのはの射撃及び砲撃魔法は実質この場限定だが無効化されるとい
う事だ。
 打てばビル諸共崩れ、そこの下敷きになるのは目に見える。バリアジャケットを着込んでいるとはいえ、魔導
師だって人だ、物質によるダメージを与えられたら簡単に死ぬだろう。
 言わばルール、魔導師なら魔導師らしく魔法で戦え。
 今の魔法社会がどうなっているかなんて俺には分からないが、恐らくそういう事を言いたいのだろう。だがそ
んなもの簡単に崩れ去る事になる。
 事実、我が世界でもそうだ。昔は剣には剣でかつ一騎討ちを行っていた我が国も、他国から侵攻してきた敵に
対してそのルールを押し付けいつもと変わらぬ様同じ事をしたが、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに侵攻してきた
他国の船上から銃や大砲を撃ちこまれた。もちろん混乱しただろう剣には剣でというルールが簡単に壊されたの
だから。
 だから人が人である限り、その型を破る事は容易なのだ。それはどの世界もきっと一緒だろう。しかしこれは
あくまで訓練だ。それこそ、そのような事柄を持ち出してしまえば魔導師は戦えなくなる。そう、なのはが撃て
ば間接的にだが魔導師としてルールを破る事になる。
 俺だったら撃つと思うけど……恭也さんや美由希さん辺りなのはと同じ立場だったら気にしなさそうだし。
 さて、これで大分時間が稼げるかな?

「恭司くん、これは訓練だよ? 撃たなきゃ訓練にならないの」
「――――へ」

 ナニヲイッテルノデスカ?

「アクセル……」
「待って! とにかく待ちなさいそこの暴走娘!」
<覚悟、決めないといけないみたいですね>

 こんなところで覚悟なんて決められるか!
 撃たせてならぬものか、というより命がかかってるので俺もいささか本気にならないと。
 なのはの周りに漂う魔力スフィアの数はざっと見て12個。
 グレイプニルで無効化しても、離してしまえばまたコントロールは戻る。ツインブレイクで破壊できたとして
も数は限られる。なのはを取り押さえると言っても一瞬でもコントロールが崩れて柱にぶつかってしまえば終了。
俺が全て喰らって受け止める事が出来れば衝撃は抑えられるけど、かといってそれでも崩れないという保障は無
い。
 四面楚歌だな、どうにもならないと思えば楽だろう。だけどそれでも命は惜しいしなのはも助けてやらないと
俺が後味悪い。
 策なんて考えてられるか、もうどうにでもなれっ!

「シュート!」
「くそっ、レイジングハートも止めさてくれ!
 ルージュ、吹っ切れたなのはを全力で止めるんだ!」

 加速によるダメージの増加なんて気にしていられない、ツインファクシを駆使しなのはに近づく。
 直線的に動けばさすがに撃ってくださいと言わんばかりであるが――今度のは避けるのではなく受け止めない
とビルの生命線である柱を破壊し、導火線に火をつけることになる。
 8個が一気に襲い掛かる。
 うち2つをツインブレイクで壊し、1つをグレイプニルで掴み取ってそのまま標的のアクセルシューターにぶ
つけて相殺。その間にもいくつか直接的にダメージをわざと受け弾を減らす。

「……げほっ」

 至る所で爆発が起き、魔力が霧散した煙といくつかビルに当たった時に出た煙によって煙幕のように辺りの様
子が分からなくなってしまう。
 火をつければドカン、だな。
 それでもなんとか8個は被害を少なめにすることが出来た。
 追加分を作っていなければあと残るは4個。だが見えぬ視界でどこから来るか分からない上に、アクセルシ
ューターによるダメージで左腕は今や使い物にならない。
 どうする? と考えている間になにやら聞きもしたくない音がいくつか広がる。

 ――ガン! ガギン!

 まるでコンクリートが破砕されるような音。
 段々と視界が晴れてくると、桜色の凶弾はこの地下の広場を右往左往として柱を削り、地面を抉りながら果て
は壁を破砕しながら動いているのが見えた。
 なのはの様子を見れば彼女は目を瞑りレイジングハートをまるで指揮棒のように扱う姿があった。その姿は威
風堂々とは違う、まるで畏怖堂々とでも言うべきかそんな恐ろしい言葉を作ってしまうくらいに俺には彼女の姿
が恐ろしく見えた。
 段々と騒音が酷くなってくる。
 これは……崩れる!?

「なのは、もう止すんだ!」
<この階の損壊率20%超えたのを確認しました。
 言いたくは無いですが……そろそろ崩れますよ?>
「それ重要だから!
 ダメだもう間に合わない――くそ……なら脱出するしか手は無い、か」

 考えている間にもなのはの魔法はビルを喰い散らかす。
 脱出……脱出……。
 とにかく、なのはを抱えて無理やりにでも外に出ないと……。

「とりあえず、考えてても埒が明かない。行くよルージュ」
<スキンファクシ、フリムファクシ両起動確認――ツインファクシ発動します>

 なのはに向かって一直線。
 俺はスケートリンクですべるように、無作為に動くアクセルシューターをかわしながらなのはに近づいて行く。
 視界は既に万全とは言いがたく、そこらへんで煙が舞い上がり収まる気配もない。だが、それでも俺は止まる
ことをしなかった、すればそれこそお終いだ。
 なのはのアクセルシューターが増える事は無かったが、それでも超高速で動く魔力球は留まることを知らなか
ったかの様に動き続ける。
 大きく右に避け、左に避け、途中で柱を蹴り、天井を壊さぬように足で着地し直進する。あと少しでなのはに
近づける――そう思った時だった、なのはの天井が自分の魔法によって壊され崩れそうになるのを見たのは。
 フラッシュバックする、――が倒れた姿が。

「させるかよおぉぉぉっ!」

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。
 こんな事で終わりにさせてたまる物か、俺が俺であるために、俺は彼女を……助ける。
 天井から塊が崩れ去るのが見えた時には俺は跳んでいた。
 直後に岩と岩がぶつかり合う様な大きな音を立て、なのはがいたところは完全に見えなくなっていた。今の俺
には両腕の内、右腕でしか感触を感じる事が出来ないが、それでもそこに確かな物を感じ取ることが出来た。
 良かった今回は助ける事が出来た。
 だが安心するのはまだ早い。脱出する手を考えていなかった俺はどうするべきか悩むも、思い浮かんだ案のど
れもが手遅れな状況だった。
 もう、この状況下なら強行突破するしか手はない。
 また俺は跳躍しなのはの時は彼女の命を危険に晒したが、今度は2人が助かる為に天井を破壊し突破する。
 破壊され、瓦礫と下したのを見た後、自分が今地上階にいる事を思い出す。

「後、少し……もう少しで」

 ぎゅっと俺の両腕に抱えられているなのはをしっかりと守りながら、俺は走り出す。
 ビルの出口が見えた頃には既にいくつかの柱は崩れ落ち今にもビル全体が倒壊しかかっていた。
 ところどころで上から落ちる瓦礫に気をつけながら出口を目指す。
 途中で肩を痛めるが、問題は無い今は右腕に感じるものを失くさない為にも、日の当たる場所へ――



*





『――で、結果として助かったという訳ね』
「まあそんな所です。
 それにしても予想以上に早く駆けつけてくれたのは嬉しいのですが、もう見ての通りの体たらくでして」
『私が手を出さなくても良かったかしら、と思うわ』
「とんでもないですよ。あのままなのはによって俺が動けなくなってしまえば、本当にどうにもならなかったと
思いますし。
 あ、それより用意してくれたお茶まだあります?」
『あるわよ? 飲む?』
「ええ、いただきます。喉が渇いて仕方ないですし、それに俺のほうは細工してないですよね?」
『勿論よ、それじゃ転送するから』
「本当に便利ですよね、それ。俺も欲しいくらいです」
『ロストロギアの無断使用って事で、私クビにされちゃうかも』
「う……そんな事言われたら頼めないじゃないですか」
『ふふ、冗談よ。それにロストロギアなんて使ってないから安心していいわ。
 それじゃ、おやすみなさい』
「……? まだお昼ですけど、おやすみですか?」
『ええ、ちょっと疲れちゃって。それじゃ事後処理のほうも私の方でやっておくわ』
「何から何まで本当に助かります、ではまた一緒にお茶でもしましょう……っともういなくなってる。本当に疲
れてるのに悪い事頼んじゃったかな。
 おお、もう来たよでは早速――んっぐんっぐ、ぷは。やっぱこのお茶はあの人が入れたものに限るなあ」
「くー……すー……」
「よく寝てるなあ、それにしてもこの後どうしよ――ふああぁぁあ、あれ、なんだか眠っているのを見ていたら
俺も眠くなってきた。んん、耐えられないしこのまま流されるままでいいかも。ああ、空……青いなあ、日差し
も心地いいし。すいませんが後は……お願い……しま、す」



*





 実際には間に合わなかったが、とりあえずアイツとの約束は果たした。
 さてバレない内にとっとと家に帰るとする――

「ヴィータさん、どこ……行くのかしら?」

 どうやら覚悟を決めないと行けないらしい。
 ああ、モニター越しに見えるお前らが羨ましいぜ、2人仲良く寝てるんだからよ。こちとらお前らの事後処理
で色々とやらされてるんだ、後でキョージの奴からお詫びとして頂く予定のアイスをアイツの前で頬張ってやろ
うかと思うくらいだ。

「何言ってるの、貴方がなのはさんを焚き付けなければ恭司君、あそこまでボロボロにならずに済んだのよ?
 まったく2人揃って任務について2日かけてきっちり解決したと思ったら、その任務の事後処理と書類作成を
全てなのはさんに押し付けて、更に全てが片付いたのが翌日の朝な疲れきったなのはさんの前で先日のフェイト
との話を持ちかけるなんて酷いとは思わないの?」

 まったくもってその通り、アタシは酷い奴だ。
 ……そう思うならするなって? いやいや、キョージが強くなる為に必要だと思っての親切心からくる行動だ
ぜ。

「ああ、なのはと一緒に寝ずで任務についた後解決したはいいが書類作成が面倒だからアイツに全部押し付けて
アタシは寝てすっきりした後、なのはの奴がぐったりしてるから元気ださせてやろうと思って、キョージの話題
を出してやったら、急に飛び出して行ったからな。
 いやあ、面白かったぜ。
 キョージ奴がいきなりバインドされてる所を見たときは笑い出しそうで動揺しちまったからな。ちょっとでも
素振りを見せればバレるところだった、我ながら完璧な演技だったと自負するぜ」
「ふう……そういいわ、今日は特別として1人の捜査官に今日の片付けを手伝って貰うから今日は帰っていいわ
よ」
「お、マジか。んじゃそうさせてもら――捜査官? なんで捜査官が訓練の事後処理なんてするんだ?」
「最近になって色々と事件を解決してるルーキーらしいわ。本当この子が管理局に入ってくれたお陰で大分楽に
なったわ、やっぱ人材は1人でも必要なのよ。それに事後処理なんて大概誰でも出来るようになってないと駄目
なのよ?」
「ふぅん……」

 アタシは関心が無いという素振りをしておきながら、さっきから流れる冷や汗が止まらない事に気付いた。
 嫌な予感しかしない。
 今日の朝になのはの奴をけしかけたのは確かだし、訓練できる世界の提供をしたのもアタシだ。そしてその様
子を見に行ってキョージの奴を笑いに行こうとしたら逆に色々と頼まれごとをされた。まあアタシがある意味原
因だし、とりあえずそこは恩でも売っておこうと思ってアイツの頼まれごとである1つをこなすためにも、すか
さずこの提督の所に来たって訳だ。

「こんちわ、なんや事後処理を任されたんやけど、リンディさんのとこやったんですね……ってヴィータなんで
ここにおるん?」
「こんにちは、ありがとう来てくれて助かるわ」
「それにそこに写ってるのって、恭兄となのはちゃんやないの。あぐらかいて寝とる恭兄の膝を枕代わりにして
寝るなのはちゃん……こう1枚記念として残しておきたいくらいですねリンディさん」
「は、はやて……」

 急に扉が開いたと思えば、入ってきたのはアタシの主はやてだった。
 これは非常にマズイ。

「早かったわねはやてさん。そうだ丁度お話を聞いてもらうついでに今日のヴィータさんの行いを聞いて欲しい
のだけれど、いいかしら?」
「別に問題は無いですけど、ヴィータが何かやらかしたんですか?」
「ええ……かくかくしかじかで」
「ほうほう、それで」

 アタシの後ろで2人が今朝からの事を一部始終隠さず話している。
 今の内だ、逃げろ!
 そう思って駆け出そうと思ったんだが、身体動かねえ……。

「あかんよヴィータ、逃げ出そうなんて卑怯な真似ヴォルケンリッターとして恥ずべき事やろ?」
「い、いやこれとそれとは別で頼みたいん――いえ、なんでもねーです」
「いいんよ別に出て行こうとしても、でもな身体動かんやろ、それヴィータが恐怖で動かないだけなんよ?」

 いや、普通にバインドされてるだけだし……、でも身体動かないのは事実だけどさ。だから顔だけはやての方
を振り向いたんだけどそこには、すっげー笑顔のはやてが立っていたんだ。
 アタシは悟ったね、もうどうしようも無いってこういう事を言うんだって。

「あ、あはははは、はやてぇ」

 笑って誤魔化せる相手じゃないって事ぐらい知ってるけどよ、やっぱこういう時って笑うしか無いよな。

「甘えるような声出しても許さへんよ? とりあえずお嫁にいけなくなるくらいお尻叩こうか?」
「お尻は嫌だあああああぁぁぁぁ――――きゃんっ!」

 今日と次の日は臀部がとても痛かったとここで言っておこう。
 もう、こういう企みはしないようにとアタシはこの日に誓ったのだった。

「――ずず……はぁ、平和ねぇ」

























【あとがき】
 外伝その3いかがでしたでしょうか、しがないSS書ききりや.です。
 もし、これがパラレルな世界ならそれこそなのはの言動はおかしいのでしょう。ですが今作のなのはは既に自
分の進路として教導官になる事を目指しているという形となっています。
 最近いくつか感想をいただけるようになりまして、かなり自分の中で嬉しいという感情が昂ぶっていたりして
ます。同時に本当にありがとうございます。

 また最後となりましたが、読者の皆様とこのSSの展示をしてくださったリョウさんに感謝を。
 では次にお会いできる機会を楽しみにしています。






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