「すごい、恭司君。フェイトちゃんにくらい付いてる」
「ああ、1月だけでここまで変わると思わなかった」

 ここはアースラのブリッジである。クロノやエイミィはもちろんの事、元艦長のリンディや他アースラスタッ
フがいた。
 全員目の前のモニターを注視している。そこには飛行魔法を使いお互いのデバイスで攻撃し合う恭司とフェイ
トの姿が映っていた。

「いい加減、誰かと訓練したほうがいいからと思って無理やりクロノに頼み込んだけど……。
 まさかフェイトの兄争奪戦になっているとは思わなかったわ」
「……」
「息子は何も語らないと……。まあ嫌いとまで言われたのだから私はもう知らないわ」
「リンディさん。そこまでにしないとクロノ君落ち込みすぎて仕事しないかもしれません」
「いいのよ、いい薬だわ。妹をないがしろにして仕事ばかりするダメお兄さん(仮)には……ね」

 するといい様に言われていた休暇中の執務官はアースラ元艦長に食いつく。

「(仮)って、タイトル決まらないから適当に選んでつければいいみたいな感覚の物を僕につけないでくれ!
 それに仕方ないじゃないか、母さん!」
「今は仕事扱いよ?」
「し、仕方ないじゃないですか……仕事あるのは本当なんですから」
「ええ、そうね。しなくてもいい仕事も引き受けるくらいですものね」
「う……」
「息子いぢりはここまでにして、今は恭司君とフェイトの戦いを見ましょうか」
「そ、そうですねー、あはははは……はあ」

 落ち込む息子をそのままにして、リンディはモニターをじっくり見る。
 相変わらずモニターには、スピード勝負と言わんばかりにヒット&アウェイで交差しては離れ、交差しては離
れるというのを繰り返していた2人の姿が。だが――

「このままでは恭司君は負けるわね、フェイトの顔はまだ余裕が見られるけど恭司君はもう息が荒くなってきて
いる」
「本当……」
「そろそろ何か仕掛けないと負けるわよ恭司君。でないとフェイトが妹にならないわよー」
「恭司君、冗談で言ったんだと思いますけどね……」
「クロノはハラオウン家追放で、恭司君をぜひとも我が家へ!」
「リンディさん、まずは美咲さんの許可を取ってくださいね」

 ええ、そうねとリンディはエイミィの言葉を返し、またモニターを見る。
 しかし美咲に許可云々の問題でないと、この場にいたアースラスタッフは全員心の中で突っ込みを入れていた。

「僕は――僕は……」

 そして結局クロノの存在は薄いものとなっていた……。















          魔法少女リリカルなのは 救うもの救われるもの 外伝ぜろに あと


                  「実技訓練……は賭けの味!?」


















 このままじゃジリ貧な上に、こっちがただ消耗していくだけだ。
 飛行魔法を使いマントをなびかせながら飛ぶフェイト。俺はフローターフィールドの上でただそれを眺める。

 先ほどからこちらもツインファクシと、つい最近覚えた飛行魔法を使ってフェイトに攻撃を仕掛けていたがそ
のどれもがことごとくバルディッシュによって阻まれてしまっていた。むしろ、その攻撃した隙を狙ってしっか
りと攻撃を入れてくるあたり、こちらが危うい物となっていた。お陰で手数で攻めようとしても、ことごとくカ
ウンターを入れられる始末である。
 おまけに、手札であるヴェールズシェルの構造もしっかり見切られ、魔力で鎌の形をしていた――ハーケンフ
ォームと言っていた――バルディッシュを戻し今では最初の起動状態のままバルディッシュ本体での攻撃を仕掛
けてくるあたり、かなり厳しい戦いを強いられる事となってしまっていた。

 しかも、こちらに合わせているのか射撃系の魔法は一切使ってこない。
 たしかにヴェールズシェルのお陰でハーケンフォームを使えない状況に追い込んだのはいいのだが、フェイト
にはまだ切っていない、そもそもにわざと見せていないカードがあるので油断は出来ない。
 こちらとしてもまだ見せていないカードがあるとはいえ、このまま切らないと負ける。

(だからこそ、こちらから切り込む必要がある。ルージュ、アレやるぞ)
<了解、ツインブレイク解放>
「ツインブレイク、セット!」

 ブーツに魔力を込め、付与させる。バリアブレイク能力と攻撃倍加の魔法で切り抜ける。
 俺の様子に気づいたフェイトはそのまま肉薄するために近づいてくる。
 速い、先程までのスピードとは大違いだ。

「ツインファクシ!」

 負け時と俺もフェイトへと突撃する、が――

「バルディッシュ!」
<Haken slash>

 気づけば、バルディッシュの形態が使えない状況に追い込んだと思い込んでいたハーケンフォームになってい
た。
 やられた! だが落胆している暇はないのだ。そのままフェイトは魔力で作られた刃をこちらに投げるかのよ
うに振りかぶった。
 投擲された刃が向かってくるが回避、できない! このまま直撃を喰らえば致命傷にならずとも、身動きが取
れない状況になるそれだけは回避せねば。

「――っ、ぶち壊せ! ブレイクショット!」
<ワンブレイクショット>

 フェイトに攻撃する切り札を防御に使う。
 ハーケンスラッシュの刃をそのままレンジが伸びたツインブレイクで叩き割る。お互いの魔法が一気にぶつか
り合い、爆発。魔力の残滓を残しつつ爆発の勢いで煙幕が出来上がる。
 この機をフェイトが逃すわけがない、どこだ……どこから来る!

「はあああああああ!」
「――上かっ!」

 ヴェールズシェルの構築は間に合わない、フェイトの刃をがむしゃらに回避する。
 なんとか回避できたものの、俺の体勢はひどいものだった。このまま追撃を入れらればいつかは討たれる。
 ならば――

「ブレイクショット!」

 逃がさないとフェイトが追撃してくるところに、俺は無理な体勢からサマーソルトのように体を動かして攻撃
を叩き込もうとする。だがフェイトは既に俺が攻撃することすら予測していたのか、回避行動を取っていた。
 ただフェイトが回避行動を取ってくれたお陰で、こちらへの追撃も緩む事となる。

「速い速い……こっちの裏を取ってくるなんてまったく末恐ろしいよ」
「恭司さんこそ、ツインブレイクはクロスレンジのみと聞いていたので、驚きましたよ」
「さすがにバリアブレイクはなくなるがな、バリエーションがないと手札が増えなくてね」
「では、こちらもそろそろ本気で――行かせて貰います!」

 ハッタリなんかじゃない、フェイトは俺に対して本気で潰しにかかってきた。
 射撃系の魔法も惜しみなく使い、距離を中々詰めない。
 さっきまではこちらが攻撃できるくらいの余裕があったが、今では防御と回避に専念しないとすぐにやられ
る!

(冗談じゃないぞ、この子)

 こちらが回避行動を取るとそのまま、回避した方向へ追撃。
 防御をとれば、攻撃が成功しないとみてすぐさまこちらが攻撃に移れないように回避する。
 無茶をしない、だけど確実にこちらを狙い仕留めようとする……まさに鷹のようだ。

(可愛い顔して、戦闘では気高き鳥か)
<冗談言ってる場合じゃありませんよ>
(分かってるよ、だけど手の出しようが無い)
<なら『罠』を仕掛けるべきではないですか? なんのために訓練してきたのですか>
(あれ、あまり使いたくないんだよな……特に女の子に対して)
<御託を並べるのはいいですが、やらないと倒されるのは恭司君ですよ>
(分かったよ……)

 魔法をフェイトに気づかれないよう構築する。狙いは俺の後方だ。
 だが何もして『いない』と、逆に何かして『いる』と悟られる。なので攻撃しようとする意思だけは失わない
ようにする。

(恭司さん目つきが変わった……何かしてる? でも防御も攻撃もする、けど!)
「プラズマランサー」

 フェイトは自らの周りに4つの魔力スフィアを生み出す。

「ファイア!」

 フェイトが一喝すると魔力スフィアから槍の穂先ような形をした魔力弾が飛び出し、俺に向かって放たれる。
 回避するか、防御するか。ヴィータの時ではコレが命取りだった。スピードから見るに誘導弾ではないのは分
かる。だが自分の何かが警笛を鳴らすのだ。回避するな防御しろ……と。
 ならば自分の経験、感覚を優先する為に一時、魔法の構築を取りやめ防御に専念する。

「携えろ風の盾」
<ヴェールズシェル・シールドタイプ発動確認>
「――っきっくう」

 俺はそのままフェイトの魔法を防御する。なんとかシールドタイプで防ぐ事が出来た――が。

「っせい!」
「くっ――ツインファクシ!」

 防御を取った俺にフェイトはハーケンフォームのまま突撃し、切りかかってきた。シールドタイプでは直接攻
撃のバリア貫通を防ぐ事は出来ない。つまるところ回避行動に専念せねばならなかった。
 しかしこれは同時に俺の策でもある。そのまま俺は魔法を完成させて一気に後方へと退く。
 俺の様子に何かを感じたのか、攻撃の手を緩めたフェイトだったが追撃するべくハーケンセイバーを放ちその
まま向かってくる。
 俺はそのまま回転する魔力の刃を回避し、さらに後方へと移動する。するとフェイトは距離を取ろうとする俺
を追う。
 まだだ――
 あと、少し。
 そろそろ追いつかれる、が――
 ――よし! かかった!

「貪り喰らえ! グレイプニル!」
<第二種捕縛魔法、発動>
「きゃっ!」

 フェイトの速度が一気に0になる。慣性も何もかもを無視し、俺はフェイトの捕縛に成功したのだった。

「――トラップ型のバインド!」
「動き回る鷹は捕まえてしまえばこちらの物だ……しかし何と言ったらいいのか――」

 そう、俺が躊躇していたのはこのバインド魔法なのだ。これはルージュがインストールしてある魔法であるの
はいいのだが、いかんせん体に鎖が巻きつくように捕縛するので……。

『妹に変な事するな! セクハラは犯罪だぞ』
「うぉあ、クロノいきなり出てくんな! もう少し空気読めよ!」

 いきなり俺の目の前にモニターが現れて、そこにまたしてもクロノの顔のアップが……。正直怖い。

『空気みたいだと! 僕を誰だと思っている、執務か――ッ』
「誰も空気みたいなんて言ってないだろ……まったく兄貴(仮)め」

 またエイミィさんあたりに切られたな。懲りない奴め……。
 しかし、クロノの登場ですっかりフェイトの事を失念していた。ただ、それが既に命取りだった。
 モニターが目の前から消える。そして変わりに現れたのが金色の刃。

「恭司さん――」
「へっ?」
「貴方の負けです」
「――っ!」

 バルディッシュはザンバーフォームになっており、気づけば喉先に切っ先を突きつけられていた。
 俺は無意識のうちに唾の飲み込んだ。
 俺がクロノに注意を逸らしている間、フェイトはグレイプニルの構成を見破り、拘束を解いた上で一気に俺へ
と肉薄した。というのが一連の動作である。

「はは……まさか兄貴(仮)に邪魔されるとは思っていなかったけど、負けは負けだな」
<先が思いやられます>
「うっさい。次があるのならこうはいかないぞフェイト」

 フェイトの方を見ると、きょとんとした顔になっていった。
 ――何故にそこまで驚く。

「次もあるんですか?」
「こんな結果、フェイトとしても不服だろう? だったら納得のいくまで何度もやるまでさ」

 俺としては割りと悔しさで一杯なのだが……勝負というのは運も状況も味方につけるのもまた実力のうちであ
る。だとすれば俺は状況を味方につけられなかったという所で、フェイトに劣ったのだ。
 とはいえ、間接攻撃をされてからはもう手も足も出ない状況だったのは誰の目にも見て明白なので、あえてそ
こは勘定に入れないことにする。
 おまけにフェイトに対して攻撃を一度も当ててないという程のレベル差だ。訓練をしていて少しは……とは思
っていたが、そんなもの本当に役に立っていたかどうかと言われても仕方の無い戦いだった。
 さて、賭けは賭けだ。

「あーあ、妹欲しかったけどなあ……。
 っと冗談はさておき、友達として……だったなフェイト」
「はい」
「かといって、いきなり変わることもないから――そうだなとりあえず明日は目一杯遊ぶとしようか」
「はいっ!」

 満面の笑みで返してくれるフェイトだった。
 そこで友達として、という言葉に何故か違和感を感じた。
 思い出せ、フェイトは俺の事なんて呼んでたっけ――――あ。

「今日からフェイトは俺にさん付けで呼ばないことな。ついでに敬語も無しだ」
「え?」
「当たり前だろ? 友達なんだからさ」

 俺の周りで俺に対して敬語を使うのはフェイトとすずかくらいだ。
 以前、すずかに何故友達なのに敬語で話すのかと昔問いかけた事があり、そのときは普通に年上だからです。
と至極当然とばかりに答えが返ってきた。すずかのはもう数年の付き合いなので慣れていたが、フェイトのはま
だ1年と少しだけであり、周りで敬語使うのが少ないので余計に違和感を前から感じていた。
 フェイトはなんて答えるかな? と少しだけ気持ちが高揚してくる。

「そうです……そうだね、友達なのに敬語はおかしいです――おかしいね」
「ぷっ」

 いきなりやる必要も無いのに、無理やり敬語を取り除こうとするフェイトがおかしくてつい笑ってしまった。
 そんな俺を見て赤くなるフェイト。まったくもっていつもの俺達と何も変わりなかった。

『ラブコメは禁止だ、禁止』
「なんていうか、本当に空気読まないなこの兄貴(仮)」

 またしても出てくる空気読まない現在短期休暇中の時空管理局執務官。この何もない世界に不釣合いなモニ
ターを出してこちらに話しかけてくる。

『(仮)はもういい加減止めろ、志麻お前が負けたんだ。フェイトは僕の妹のままさ』
「本人に聞かないと分からないだろ――ほれ」

 とフェイトのほう見ろと促す。
 フェイトはすごく笑顔だった。しかしその笑顔はこの場に入ればその真意が読める物だったが。

『フェイト、僕はまだ兄だよな』
「そうだね、クロノ兄さん(仮)」

 世界が凍った。
 いや正確に言えばクロノの世界が凍った。恐らく彼の自尊心に対して隕石でも降ってきているのだろう。

「さて、帰るかフェイト」
「そうだね恭司」
「ところで、アレはいいのか?」
「いいの、今日一日反省してもらうんだから」

 またここでフェイトに違和感。はて何度も感じるものでも無い筈なのだけど……。
 ああ、そういうことか。

「フェイト言葉使い、もう完璧になってるな」
「あ――」
「意識してないほうが、普通に喋れるみたいだな」
「そう……なのかも」
「はは、まあおいおい慣れるだろ。さて帰ったら何しようか?」

 一呼吸置いて、俺の質問に対してフェイトはこう答えたのだ。

「一緒にテレビゲームしたい……な」

 俺とフェイトはお互いに笑いあう。
 この何もない世界で、だけど確実に何かが生まれた瞬間だった。
 俺達の笑い声はどこまでも続く広い草原とこの青い空にとけていった。



                         *



 さて、後日談なのだが。
 何も無い世界からアースラへ戻ったとき、クロノの様子はもう見るに耐えない物だった。
 なにやらぶつぶつと「違う(仮)なんかじゃない、そうだ僕は兄なんだ……や、やめろ(仮)なんてつけないでく
れ――やめろ、ごめんなさいやめてください」と少々近寄りがたいオーラを出しながら呟いていた。
 おまけにリンディさんは俺に対してウィンクの1つを送るだけだったし。エイミィさんはクロノを元気付けて
いた。案外この2人くっつくのかも? などと邪推してみたり。

 俺達は帰ってから約束通り一緒にテレビゲームをした。
 余談だが、そういえばこのときになって初めて俺はアルフが喋れる事を知った。無茶苦茶驚いた。
 フェイトの家に戻ったら、玄関でアルフが悲しそうな目でこちらを見てくるから、何事かと思えば――

「何でアタシには何も教えなかったんだい? フェイト酷いよ」

 と犬の姿で喋ったので、俺は驚いた。
 俺は大騒ぎ、アルフは拗ねて、両名のフォローにフェイトはオロオロ。
 やっぱり何が変わったのかといえば、何も変わっていなかった。フェイトの言うとおり、変わったのはフェイ
トの心だけなのかもしれない。



 そして翌日。
 俺はクロノに外道と呼ばれた事を根に持っていたので、少々灸を据えるためにとある事を画策した。

「恭也さん、クロノの奴がなのはに――」

 あることないこと恭也さんに吹き込み、クロノにけしかけた。
 いくつかは事実を元に捏造したが、決め手だったのは――

「クロノの奴、仕事だって言ってあいつ自分の(仕事)部屋になのはを連れ込ん――」

 こう言った瞬間、恭也さんは目の前から掻き消えていた。
 生きろクロノ。
 と、けしかけた本人が祈るものでもないがな。



 さて、1人の犠牲のお陰でこの一連の騒動は終わりを迎えた。
 ただ……まさかこの出来事のせいで余計に騒動が大きくなってしまった事件があったのだが……。
 それはまた次の機会にしよう。

「今日のお昼どうする?」
「そうだな、翠屋にでも行こうかフェイト」
「いいよ、行こ恭司」
















                              ――――スプリングバケーションその1 了



























【あとがき】
 外伝02スプリングバケーションその1これにて完結です。きりや.でした。

 私にも昔、近所に年上の姉がいまして、よく遊ばれていたんでくれてました。
 今回の話はその時の事を思い出しながら書いていました。
 今後も何度かは外伝を書きながら本編の方を書き進めていこうと思います。

 また最後となりましたが、読者の皆様とこのSSの展示をしてくださったリョウさんに感謝を
 では次お会いできる機会を楽しみにしています







作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。