幕間 其の一
――――海鳴市 某所 2月13日 PM11:00
「はあ、はあ――っ」
違う、私じゃない、私がやったんじゃない。
「はあ、はあ」
ただ私は強くなりたかっただけだ、人の上に立ちたかっただけだ。
「――っ」
私は誰よりも顕示欲が強かっただけだ。誰かに認めてもらいたかっただけだ。
「くっ――はあっ」
私はわたしはワタシハ私はワタシハわたしは私はワタ――
「違う、私じゃない……」
きっと、私のせいで――違う! 私ではない! あいつが来たから……だが今となってはもう遅い……。
私にはどうすればいいのか分からなかった、妻も、娘もいなくなってしまった。
そうして気づけば私はどことなく走っていた、見慣れぬ光景が流れていく。
一体何なのだろうかこの高い建築物は……おまけにその建築物から白い光が漏れ出している。
だが私にはそれが何かを調べる事もする必要もない……何故なら。
これさえ、これさえあれば……この『鍵』さえあればなんとかやっていける筈だ。
だが、私は理不尽という何かにより……どうにもならなかった。
――ドス。
「ってーな、どこに目ぇつけてんだよ……んだこのおっさん」
「どうしたケンちゃん」
「あー? なんかこのおっさんが俺にぶつかってきてよぉ」
「なんだこれコスプレ親父か? きもちわりぃ、つかぶつかってきて詫びくらいいれろや」
『な、何だ……私の知っている言葉じゃ、ない?……』
「何言ってんだこのおっさん、外人か?」
「いいじゃん、どうせ金くらい持ってんだろ」
「――くく、そうだな」
『な、何をするつもりだ。わ、私に近寄るなあ!』
――――海鳴市 とあるマンション 2月14日 AM7:40
「先日未明、○○県海鳴市において暴行事件がありました。被害者の方は40代後半の男性と見られており、警
察では加害者の捜索と同時に周辺での聞き込み作業に……」
「物騒ね……」
私は仕事へ行く前に日課でもあるニュースを見ながら、毎朝我が家に訪れる彼女を待つ。
「おはようございます」
遠くから声が聞こえる。私は見るものも無くなったのでふと立ち上がって後ろを振り向くと、私の家の隣に住
んでいる少女が立っていた。
息子を起こすのは普通私なんだろうけど以前、冗談のつもりで頼んだら、この子は文句の1つも言わずに息子
を起こしたのだった。そしてそのままなりゆきで頼んでしまっているのである。
「おはようフェイトちゃん、今日もかわいーわねー。
それじゃもう私、出るから。いつもすまないと思ってるけど、あのバカ息子の事よろしくね」
「はい、頼まれました。お気をつけて」
そういえば今日のニュースはここ、海鳴で起こったのだった。ふとそう気づいたので忠告がてら一言残して私
はそのまま家を出る。
朝食を用意してる間くらいから、妙にそわそわした。何か――嫌な事が起きなければいいけれど……。
そうして私――志麻美咲は嫌な予感を引きずったまま仕事へと出かけた。
――巡る巡る動く回る動く。
――加速していく。
――日常。