「はぁ……、はぁ」

 こんなにも息が苦しいのに。

「は――はぁっ!」

 こんなにも足が痛いのに。

「は、はは……」

 こんなにも――が苦しいのに。笑った。

「ははははは! ああ、そうだ! 分からない、分からないんだよっ! 何もかも、自分が必要としていたもの
さえも! 自分が大切だと思ってきたものも! どれもどれもどれもどれも!」

 雨音に消える自分の声。

「あんなにいきがっていて、自分のしてきたことに意味があるって思って。思って思って想って来たけど、結局
はこれだ! 俺が必要としているものは何だ。俺が大切だと想っていたのは一体なんだ。どれもこれも分からな
い事だらけだ!」

 隣の街灯が黒くなり、その後白くなってまた黒へ塗りつぶされる様に変化するのが見えた。そのまま自分は腕
にあるものを取り振りかぶろうとして――

「自分の事なのに……っ!?」

 ――足を泥に取られ、水を吸いぬかるんだ土の上に横たわる。

「ちくしょう……、何なんだろうな、俺。本当はどうしたいんだろうな」

 意識が遠くなるのが分かる。ちかちかと移り変わる街灯がぼんやりと目に映る。

「あんな風に俺も点いたり消えたりしてるな。もう分からないから――」

 街灯が完全に暗くなったまま、もう二度と点くことは無かった。

「――どうでも、いいや」

 消えかかっていた意識をそのまま手放す。遠くから少女の声が聞こえても、もう自分には必要の無い事だと、
関係の無い物だと、そう自分に言い聞かせて。
 そうして志麻恭司は心ごと消えることなんて出来っこないのに消えようとした。



















魔法少女リリカルなのは 救うもの救われるもの


第十八話「後悔と君に捧げる力を」






















 ――――巡航L級8番艦アースラ 通路 アースラ襲撃より4日前 PM 8:20



「いなくなった!?」
「はい、既に部屋はもぬけの殻で――」

 一度帰宅しようとアースラの転送装置へと向かっていたクロノの前に、1人の男性が息を乱しながら現れたと
思いきや、焦っていた事情を説明したと共にクロノの顔は青ざめた。

「アースラからは出ていないのだろう? だったらすぐにでも……」

 現れた男性はどうやらアースラ職員でも医療に携わる者だったのだが、その告げた内容が内容故にクロノは焦
る。

「それなのですが……。誰が座標固定したのかは分かりませんが、転送装置が動きまして」
「――っ! それで何処に!?」
「第97管理外世界、地球の……海鳴市という事だけはログから」
「志麻の奴、何を考えているんだ!」

 クロノが焦りのあまり苛立った声を出し、握った拳を廊下の壁に叩きつける。その音は空しくも廊下に響き渡
るだけだった。
 普段感情の起伏がそれほど激しくないクロノの変化に、医療スタッフは戸惑うも気にしないそぶりで報告を続
ける。彼が今すべき仕事は目の前にいる艦長に現状の把握と理解をしてもらう事だからだ。

「外傷のほうは大方問題はありませんので身体的には大丈夫かと思います。ただ、激しく動くと傷口はすぐにで
も開いてしまうので早めに捜索したほうがよろしいのは確かです」
「……すまない、取り乱した」

 叩きつけてしまった拳は赤くも姿勢を戻し毅然とするクロノに対して、医療スタッフもほっと息を撫で下ろす。

「いえ、誰しも怪我人が無断で何処かへ行ってしまうなんて聞けば、誰だって取り乱しますから。勿論私とて動
揺しなかった訳ではありませんので」
「フォローはよしてくれ、自分が惨めになりそうだよ。それより誰か追跡に回しているのか?」

 クロノの言葉に反応して男性は電子ファイルをいくつか手渡す。そのファイルを受け取ったクロノは一度全部
を見渡して、要点だけを取り出し情報として頭に入れる。

「つまり、大丈夫なんだね」
「はい」

 要点を読み取りそこから得た情報はクロノを安心させるものだった。彼は一度目を閉じてから何かを呟く。医
療スタッフはまだ報告すべき事があるのか、クロノの様子を伺いながらも口を開いた。

「艦長。一応、報告しておこうと思った事が2点程ありまして……」

 医療スタッフの声に反応して目を開け、そのままスタッフが話すのを待つ。

「実は――」

 それは落ち着いたクロノをまたしても動揺させる報告だらけだった。クロノはその報告にすぐ資料を目に通し
て、そして自身を納得させるように上を向いて何かを考える素振りを見せる。
 スタッフもクロノの様子は予測済みといったのか、特にクロノに対して怪訝な態度を見せずクロノの言葉を待
っていた。

「さぁて残業だ。君も勿論帰れるとは思ってないだろうね?」
「はい!」

 その後すぐさまにクロノは通信機器を使用して、アースラスタッフ全員に通達する。その艦長の言葉は艦内に
響き渡る無情の一言であったが。そのサービス残業ともとれる一言に後々スタッフ全員の嘆きの声で艦は揺れた
というが、それは定かではないという。





 ――――海鳴市 部屋 アースラ襲撃より3日前 AM 7:10



 ここに1つの卵があるとしよう。ソレは単体で立つことも出来ず、またソレ自体だけでは割れることも無い卵
だった。だが、それはどの物にも言えることだろう。誰かが物理的に力を加えなければ、意思を持たないものに
とってそれは当たり前の事なのだ。
 例えば、サイコロが勝手に目を変えるわけも無く、トランプのカードが勝手に52枚ある枚数を増やすことは決
して有り得ないのだ。
 だが人は違う。
 それは当然自我や意思を持つからであり、また物理的に力を与える側でもあるからだ。しかし、逆に物理的に
力を加えられて動くこともある。またその意思が無ければ人はただの骸だ。
 人は簡単にも壊れてしまうのだから。

「ん……、くぁ……」
「おはようございます、お目覚めはいかがですか」

 1人の少年が全体に純白色ともとれるようなベッドの上で目を覚まそうとしていた。その少年は白いワイシャ
ツを着て、寝苦しそうに腕を額に当てながら目を開けた。

「失礼ですが、お召し物を勝手に変えさせていただきました。あのままですと貴方様は体調を崩されますので」
「…………」

 烏の濡れ羽が如く黒い背広を着た男がベッドで横になっている男に声をかけるも、そのベッドを占有している
主は反応を返さなかった。目は虚ろい何処を見ているのかさえ分からぬような顔で、ただその目線の先にある天
井を眺めていた。
 だが背広の男はその様子に気にも留めず話を淡々と進める。

「ただの厄介だったのかもしれませんが、私共にとっては寝覚めの悪い事ですので勝手にさせていただきました。
それにお嬢様がそれを許す訳ではありませんので……」

 その時始めて、横たわっていたワイシャツの少年がピクリと腕を動かし反応を示した。ワイシャツ姿の少年は
志麻恭司。雨に濡れ、自分を苛めていた、ただ無力の少年。恭司は自分の左腕に違和感を感じたのだろう、ふっ
と視線を自分の左腕へと移した。

「すー……」
「うなされていましたよ、ずっと。そんな貴方が気にかかっていたのでしょう、手を離さず眠ること無くお嬢様
は貴方を見守っていたのです」
「……あ、アリ、サ」

 喉がやられていたのだろう、全く持ってその名を知らなければ何と言っていたのか分からないくらい酷い声で、
アリサ、と恭司は声に出したのだった。それで満足したのか分からないが、ほっと一息をついた執事――鮫島と
名乗った――が何も告げず部屋を出て行った。
 2人きりになるも、1人は満身創痍、1人は熟睡しているのだ。その部屋の音は窓から流れる風が運ぶ草木の
音色や小鳥が囀る音とともに、いくつかの犬の鳴き声が飛び込んできた。
 静止した世界。静寂というにはいささかうるさいが、それでも時の流れは非常にゆるやかに感じられるような
そんなひと時だった。
 ふとそこで気付いたのか、自分の左腕をしっかりとアリサによって握られていることが分かった恭司はなんと
なくだろう、その左腕をただただ見つめている。
 2人のいる部屋は何も無いという訳ではないが、客室なのだろう。ベッドとそれに追随してテーブル、チェア、
キャビネットに、装飾として壁には1枚の絵画。やはり屋敷と呼ばれる程の家の一室。質素には見えず、だがそ
れでいて執拗な程の装飾ではないのがまた、とてもセンスの良い部屋である。

「ま、た……、俺は無駄に、助けられ……、るんだな」

 かすれた声で自嘲する恭司。人を助けたい、救いたいと願う己が、誰かに助けられているというその状況を嘲
笑ったのだろう。だが口を皮肉そうに笑おうとしても、身体がうまく動かないのか引きつった感じの苦笑にしか
なっていなかった。
 その声で起きた訳ではないのだろうが、恭司の腕を離さず寝ていたアリサの意識が覚醒した。

「ん、んうう」

 アリサはむくりと上半身を起こし目を擦る。すると段々と目が覚めてきたのだろう、目の前にいる男が目を覚
ましていることに気がついたようで、慌てて恭司に詰め寄る。

「ちょ、何でいや、どうし……ああ、もう!」

 だが詰め寄ったのはいいのだが、何を話していいのか分からないのか言葉をアリサは一切出さなかった。心配
していた、そう言えばそれでこの話は終わってしまう。そうしてまた恭司は自分だけで背負い込むと思ったのだ
ろう。

「……」

 独り。
 そんな思いがアリサを苛む。
 喧騒が世を包むこの時、今ここに在る部屋だけは違っていた。まるで世界から一つずれた様な、はたまた区切
られたかのような、そんな空間。
 その事がアリサを焦らせるのだろうか。未だに声は出ない。

「アリ、サ。あり……がと」
「あ、え、ええ」

 アリサが1人色々と思うことがあった中、ただ純粋に思った事を口にした恭司が言葉を発する。それが変に場
違いのような印象をアリサは受けたのだろう。彼女は戸惑いを隠せないまま反射的に返してしまい、何か言葉に
しようとしても、まるで喉に棘が刺さったかのようにうまく話せないのか、口を先ほどからせわしなく動かし、
視線もどこかあやふやだった。
 その事を客観的に見た彼女はふと自分が恭司の身体に覆いかぶさってるような現状を思い出し、咄嗟に先ほど
まで座って寝ていた椅子に腰を落ち着かせる。

「あ、う。え、えぇと」

 事情を問いただすべきなのだろうか。
 何かあるのは間違い無い。
 だけどまたこの間のようにはぐらかされてしまうのだろうか。

(まるで私だけが取り残されたよう)

 いつもはそんな事を思う事は無かったのだろう、アリサは余計に自分が滑稽に見えてきたのか落ち着きを取り
戻していた。

(何で今になってそんな事を思ったんだろう? 何でいつものように言葉がストレートに出ないのだろう? 思
った事を口にすればいいのに、何でこんなにも戸惑うのだろう?)

 自問自答を続けているアリサはこの場にとってまるで虚空で煌びやかに咲く一輪の花。だけどそれは物凄く悲
しい事だろう。何故そこに咲いているのかすら分からずに時を延々と過ごすだけの花なのだから。誰かに見られ
る訳でもない。誰かに批評される訳でもない、そんな美しい花だった。
 時だけが淡々と過ぎる。
 掛けられた時計の針は刻一刻と進み、その歯車が動き針が動く音もまた大きく聞こえるほどの沈黙が2人を襲
う。だがその時間も長くは無かった。

「あと、迷惑かけて――」
「そんな事はどうだっていいのよ!」

 恭司がその沈黙を破ろうとした時だ。その言葉を聴きたくないよう。また、そんな思いを彼がする必要が無い
ようにと言い聞かせるように、まるで慟哭のように叫ぶアリサ。
 その予想以上に大きな声を彼女が出したという事実が、満足に身体を動かせない恭司でも身動ぎしてしまう。
 急に大きな声を出したことが恥ずかしかったのかアリサは無言で立ち上がり、部屋を出ようとしてドアノブに
手をかける。

「今はいいから寝てなさい、分かったわね?」
「ぁ……」

 殆ど声の出ぬ恭司を無視するかのようにアリサの身長の倍はあるであろう扉が開け放たれ、すぐさま閉じられ
る。
 部屋に残ったのは恭司1人となったが、いくらか体力が残っていたのを使い果たしたかのように、恭司は目を
閉じまた眠りへと入っていく。



*





「よろしかったので?」
「何が?」

 屋敷の廊下を歩くのは先ほど恭司にあてがわれた部屋にいた2人だ。1人は苛立たしそうに、1人はその様子
を伺いながら言葉を続けた。

「いえ、本当はお声をお掛けしたかったのではないでしょうかと」
「……そりゃそうよ。何であんな所に1人でいたのか、何であんなボロボロなのか問いただしたかったわ。だけ
ど何よりあの目が許せなかった。まるで人の事見透かしたように見て、自分には手を出さないでくれみたいなあ
の独りよがりを強くした、凄く嫌な目」

 アリサは視線だけを落とし唇を噛みしめていた。
 力が及ばない。自分の想いが届かない。
 そんな事実を恭司に叩きつけられたように、悔しい思いをしているのが今のアリサだった。言葉を聴かずただ
1人殻に入り、自分から這い出して、結局また同じ殻に潜る。それが分かっていたからこそアリサは何も言わな
かった。本当は先日に会ったときからその兆候は見られていた。だがそれを指摘したところで彼を止める術が彼
女には手段として何も無かったのだ。
 非常に悔しい思いをしただろう。それが今になって現実に叩きつけられたからこそ、アリサは苛立ちを抑えら
れない。自分自身の事だからこそ余計に。

「彼は何と戦っているのでしょうね。ただがむしゃらに見えない何かと戦っているように見えて、それでいて、
その戦いから逃げているようにも見える。誰からも救いの手を差し伸べられた訳でもない、なのに独り――」
「それ以上詮索続けるのは野暮というものよ鮫島。アイツから直接聞かない限りそれは誰にも分かるわけが無い。
ただあたしに出来るのは悔しいけれど……、それを待つだけなのよ」

 執事の言葉を遮るのはアリサ。彼女の心境も押して測るべし、それは先日に交わした約束にも繋がる。

「何が『守る』よ。結局何も守られてないアイツが……、一番弱いんじゃないの」
「お嬢様」
「分かってるわ。今、弱音を吐いていいのは恭司だけ。誰もあの人を責める事は出来ないわ。だって恭司は恭司
の信念を貫いて行動しているのだから。責める事が出来るのはきっと恭司自身か――いや、止めておくわ」

 自室の前で立ち、まるで自分に言い聞かせるように言葉にするアリサだった。
 戸惑いを覚えた彼女の、彼女なりの結論。

「アイツが何を相手にして戦っているのか分からない。けれど恭司だけが戦っているわけじゃない。それを恭司
は分かっていないのよ。もし戦場の矢面に立たされてるのは自分だけと思い、誰かを守っているという事に対し
て悦に入ってるだけだったとしたらその時は……、容赦無くぶん殴って目を覚まさせてあげる」

 がちゃり、とドアノブを引き扉が開く音を立て、そのまま時間を立たずにして扉が閉められる。

「かしこまりました」

 アリサの独り言の如く続けた言葉に恭しく頭を垂れる鮫島。
 子とはいえ既に1人の人間。それにはそれぞれの意思と行動がある。それを正すのはもしかしたら大人の役割
というものなのかもしれない。
 時が巡りそれに気付く子もいるかもしれない。だがそれには膨大な時間が必要である。ならば誰が子を導くべ
きだろうか。





 ――――海鳴市 バニングス邸 アースラ襲撃より3日前 PM 5:40



 廊下に響く筈の無い足音。それは女性特有の軽い音でもなく、また子供ならではの不規則な音でもない。成人
男性のしっかりとした音色である。

「それでわざわざ俺を……?」
「左様でございます。それはさておき、まことにご足労ありがとうございます。私自らこのような事をしてしま
いお嬢様のお怒りを頂くとは思いますが、それでも放っては置けなかったのです」
「いえ鮫島さんは悪くないです。むしろ俺に教えていただけただけでも本当に感謝します」

 そう男性が話すとネクタイが少し緩くなっていたのに気付き自分のタイを占める。鮫島と男性はお互いに話し
ながら廊下を進んで行く。目的地まで遠いというのは家でも中々有り得ない光景ではある。

「仕事が終わってすぐというお忙しい所にご連絡してしまい申し訳ありませんでした」
「別になんともないのでそんなに畏まらないで下さい。何より自分の不甲斐なさにほとほと呆れるくらいですよ。
それより恭司は何処にいますか?」
「はい今は部屋で休んでいると思います」
「そうですか……」

 コツコツと革底が地面に当たって歩く音がする。やがて恭司の部屋に着いたのだろう、鮫島が歩みをとめ扉を
前に手で男性に対して促した。

「こちらにございます」

 鮫島によって促された扉をじっと見つめる男性。だがその手は決してドアノブを掴むことは無く、まるで何か
を思い出したかのように顔をふと上げてこう言ったのだ。

「紙とペン、あと封筒に……、ナイフを貸していただけませんか?」
「は、かしこまりました」
「直接は会いません。恐らく、俺が出る幕では無いと思うんです。気まぐれみたいなものですかね、そう、思え
るんですよ。自分が出て何かしてやってもいい、だけどそんな事しなくても妹達は現に立派に成長してくれてま
す。だから俺はその可能性に賭けてみようと」
「博打、ですか」

 思案顔になる鮫島に対して苦笑いを浮かべる男性。その苦笑の先にあるのは期待。その小さな期待のレートに
最大限で振り込むのは男性の思い。

「なんというか、自分もそこまで成長しているという訳ではないという事ですね。ですが歩いて進む道は自分で
決めたい物でしょう? 誰かにある程度方角を指針されても問題は無いですが最終決定くらい自分でしたいじゃ
ないですか」
「お人が悪いですね」
「そう見えてしまっても間違いないと思います。俺は他の人が思ってるほど"いい人"ではないですから」
「書くのに適した場所を用意させておきますので、そちらでお待ちしていただければすぐにお持ちいたします」
「ありがとうございます」

 誰か、と鮫島が声をかけると廊下の奥からやってきたお手伝い。いまやメイドと聞けばその姿が想像できてし
まうくらいにメジャーになった職業な人だ。だがその有名になった喫茶の人とは違い、生粋のメイドの姿がそこ
にはあった。
 彼女は、はいと答えすぐさま鮫島と男性のいる場所にやってきたメイドは鮫島と二、三言葉を交わした後にメ
イドは男性に向き直った。
 こちらです、と男性を案内させたメイドと連れて行かれる男性とも別れ、すぐさま要求された物を用意しよう
とする鮫島。

「いやはや、若いですね」

 まだ初老と言われるにはまだ早いと思われる風貌をした鮫島は、扉を見つめながらそう、呟いたのだった。





 ――――海鳴市 バニングス邸 部屋 アースラ襲撃より2日前 PM 4:20



 例え数を重ねても変えられぬものがある。
 それは人の生き方。
 不器用に生き続けるもの。狡猾にかつ傲慢に生きるもの。常に向上心を忘れずただひたすらに上を目指し続け
る為に生きるもの。限りない程の生き方があり、またそれはその人の歴史によって生み出される言わば道しるべ。
 あまりにも人は不器用に出来ていた。
 時間とはそれを唯一変えることの出来る薬であろう。だがそれでも大筋が決まってしまえば難しい。きっと誰
しもが言うかもしれない。それを修正する必要はあるのか、と。
 だがそれが正しい道ではなく誤った道であるならばそれは正してやろうと思うのが普通だろうが……、人は
常々不器用なのだ。
 人の正義にはそれぞれ正義があり、共感することも対立することもある。
 正義とは道しるべにある矢印だ。
 ならば正義と生き方を明確に持つ人間の覚悟とは一体どれ程のものなのだろうか。

「……………………」

 くすぶっていた。
 誰もが立ち上がると思い切っていた人間が落ちた様は誰もが見たくないだろう。羽ばたいていた鳥がふとした
きっかけで翼が飛ぶという事を忘れてしまった鳥がいたとして、それを人が見たらその鳥は鳥と思えるのだろう
か。

「……………………」

 ずるい、と思っていた。
 人が正しき道を見つけそれを歩み続ける人間の生き様はまさに甘美な如く美しい様。
 それを間近に見続け、またそれを望んだものが絶望の淵に入り込めばそれは抜け出せぬ泥沼か。

「………………く」

 手には1枚の、そしてたった1文が刻まれた紙。
 そのたった1文の言葉が恭司の胸を強く穿つ。
 何がこんなにも苦しいのか分からなかった筈だったのに、何故今もこう胸が苦しむのか。そう感じているかの
ように右手を左胸に当てる。
 幻想を抱き続け、夢を追いかけて、自分が成そうと思った事象を挫かれ。誰が彼を責めるのか。責めるべきは
己の矮小か。

「俺だってやめたいですよ。こんな……、無様な生き方」

 生き方を変えたかったのか、はたまた自分を責めているのか、そう自嘲するよう呟く。
 窓から見える世界は緑と青に包まれた景色。
 木々は揺れ、人も動く。

「だからって何でこんな書き方。ズルイですよ……恭也さんっ」

 昔は兄と呼び、気付けば敬称で呼んでいるたった1人の男の姿を恭司は思い浮かべる。
 不器用に生きそれでも自分の成すべき事が分かっている。そんな、人として尊敬し、また兄とも呼べる人の名
前を恭司は叫ぶかのように呼んだ。
 恭司はそんな彼の言葉で綴られた文が書かれ、また覚悟の証がある手紙を握り締める。

『もう止すんだ』

 そう手紙には書き綴られ、そしてその横には点々と赤いものが。その赤い斑点の様なものは恭司があの事故よ
り苦手としてきた、赤色。苦手になった原因である血だった。
 誰が見たとしてもそれは非常に不器用な手紙だ。
 どうでもいいと全てを投げ出し、誰からも見えない所でたった1人歩こうと思った。そんな人間がいまや大切
な友人に救われ、また兄とも呼べる人からも手を差し伸べられた。
 そこまでされて恭司の心は卑屈に出来ていなかった。
 もし人がこのような状況に置かれれば大概が卑屈に、そして自らを責め続ける。それをしなかったのは一重に
彼女の影響だろう。
 鏡は自身を映し出すだけじゃなく、その人そのものを映し出す。
 彼女の存在はある意味そんな鏡の役割だったのかもしれない。心が綺羅だったからこそ、守りたいと願ったの
だろう。

「守りたいか、なんて問われなくてもいつでもそうしたかった。救いたいと心から願ったからあの約束をした。
その心に嘘なんて無かった」

 淡々と恭司は零す。
 振り返ったのだ、過去を。自分の発祥を思い出すように、自分の生きてきた道を描くように。

「今度はずっとあの時から守りたいと願っていた人を守れなかったから。俺は自分が嫌になった」

 嫌いになりたかった。
 恭司は長い間思い描いた未来を、彼が願っていた未来を全て壊したのは自分自身なのだと責め立てる。

「嫌いになったから自分を壊そうと思った。自分を壊せばもうこんな思いをしなくて済むと思ったから。だから
俺はあそこから逃げ出した」

 魔法。
 これだけで見てしまえば魔法に直接的な因果は無い。だがそれでも魔法を手にしてから彼はずっと悩んでいた。
 それでいいのか、と。
 だからこそ余計に思ったのだろう。未来がまっすぐ見えなくなったからこそ、未知に飛び出していったまま、
がむしゃらに突き進んでいたからこそ。何もかも分からない……、と。

「だから振り返るべきだったんだ。アリサやすずか達をしっかり話をするべきだったんだ。家族であるあの人た
ちに相談すれば良かったんだ……」

 言葉は続く。自白とも取れるような心の叫びを言葉にする事で、落ち着きを取り戻す。
 誰かが願った訳じゃない。なによりそれは自分が願った道なのだからこそ、自分が取り戻さなくちゃいけない。

「そして誰より、何より……、あの人に相談すれば良かったんだっ」

 誰からも救ってもらえないあの人を自分が救いたいと願ったからこそ、自分の生き方を決める事が出来た。
 志麻美咲、というかけがえのない母親を。
 彼女の生きる姿は恭司にとって鮮烈に移った。特別な事はしていなかったと、恭司は記憶していても。自分1
人を守り育ててきたたった1人の人間を彼は尊敬する。

「嫌だ……、イヤだイヤだイヤだ――」

 頭を振り必死に目の前にある現実を否定しようとした。結局、恭司は逃避を選んだ。責める事もせずただ事実
を認めず、自己から逃げる事を選ぼうとしたのだ。
 その時だ。恭司にあてがわれた部屋の扉が勢いよく開かれるのは。
 息が続く限り逃避の言葉を続けた彼の息は上がっていた。その中にアリサが現れたのだ。恭司は混乱しただろ
う。今更取り繕う必要も無いのに目線を逸らし、否定した自分を更に否定しようとしたのだ。
 その行為がアリサを余計に苛立たせることになった。誰の目から見ても彼女は怒っていた。
 アリサは未だ視線を逸らす恭司に近づき、両手で彼の胸倉を掴んだ。

「さっきから聞いてればアンタは!」
「ぐ……あっ」

 急だったためその行動が読めなかった恭司の息が詰まり、彼の顔は苦しさで一杯になる。

「アリ、サ。何を――」

 その言葉で我に返ったのか恭司の胸倉を掴んでいた両手を離す。だが――

「――!」

 離した両手は自由になった。だがその瞬間に勢いよくアリサは右手を振りかざし、一気に恭司の左頬目掛けて
平手を叩き込んだのだ。
 バチンっ、という大きな音と共に恭司の顔は物理に反することなく叩かれたまま曲がる。叩かれたという事実
を認識しないまま、恭司の右頬にアリサの左手が容赦無く更に叩き込まれる。またしても予想以上の音を立てた
まま、恭司は痛みに顔をしかめ、体が崩れる。

「いい加減にしなさい志麻恭司!」
「アリサ何をする――!」
「喋るな!」

 怒号の勢いでアリサは恭司に言葉を叩きつける。彼女は胸ぐらを掴んだまま詰め寄り彼を睨みつけて一気に捲
し上げる。

「アンタ本当にいい加減にしなさいよ。さっきから聞いてれば自分の行動を責めるどころかその他全てを否定し
て。何があったかなんて一切聞くつもりは無いし聞く必要も無くなったわ。ただ恭司が腐ったってだけは分かっ
たから」
「何も知らないで……!」

 恭司のその否定的な言葉は激昂しているアリサを余計に苛立たせる物となった。現に彼女が掴むシャツはさら
に歪んでいくからだ。

「何も知らないですって!? 喋らないアンタが悪いのよ! アンタ1人で勝手に悩み続けて、勝手に自己完結
して! あげくの果てにはもう嫌だ? ふざけないでよ!」
「ぐ……」
「馬鹿だと思ってたけど違ってたわ。ただのエゴイストよ。そんな男の為に一々部屋なんて用意してるあたしも
馬鹿ね!」
「…………」
「言い返せないの? そうよね全部事実だもんね。アンタになのはを守る資格もなのはを守る必要も無い。腐っ
てるだけのへたれだものね! 約束というのがどれ程大事か、分かっていない。約束という言葉にどれだけの覚
悟が必要なのか全然理解していない。願い続け、願望を抱き、理想へ近づこうとしていたアンタはもう何処にも
いないのよ!」

 吐き捨てるように続ける言葉の暴力をそのままに、胸ぐらを掴んでいた彼女は一気に離す。そのまま彼女は腕
を組みベッドで力無く横たわった恭司を見下すような視線で彼の様子を眺める。
 こんなものなのか。
 彼女のの胸中は落胆で一杯だった。期待していただけに彼が落ちて行く様は彼女の目に醜く映った。

「分かってるんでしょ? アンタがそんな事したくて今の恭司が現実逃避しているという事を。ただ自分の理想
が崩れかかって逃げてるだけだって。誰もが理想になれる訳が無い。だからこそ人は努力し一生をかけてその理
想をいつまでも追い求めるのよ」

 一度息を吸い、乱れていた呼吸を彼女は元に戻す。冷静さを取り戻すには深呼吸するのが一番だろう。だがそ
れでも恭司を睨むのは忘れない。

「ただ単に1度の失敗程度でいちいち逃避しないで。アンタはいつまでも理想求め続ければいいのよ。それがア
ンタの約束した物に繋がる。それをお願いだから忘れないでよ……」
「…………その」

 アリサの言葉は淡々と続けられたが、恭司はそれに反論すべく、顔をあげ声を出した

「その1度の失敗で人の命が無くなってもか?」

 アリサにとって予想以上の言葉が返ってきた。
 そこまで深刻なものだったのだろうか、と推測するが事情は分からない。だからこそ彼女は彼女の言葉で恭司
を問いただす。

「たとえ話として、人の命が無くなってそれが恭司の失敗だとしても、恭司が直接下したわけじゃない。だから
そこに責任は無い。だけどそれは確かに状況次第かもしれないし、恭司の責任になるのかもしれない。たとえ話
なんてそんな程度よ。
 だとしても! 現実にたった1度の失敗で一々挫けていたら次に繋がる道はそこで途絶えるのよ? 次に救え
たかもしれない人が恭司が諦めたせいで死ぬかもしれないじゃない。だからこそ恭司は立ち続けなくちゃいけな
い。それが、アンタの追い求める理想なんでしょう?」

 今まで恭司を見続けてきたアリサの言葉は表面上穏やかな物であったが、その内容は酷くのしかかるように重
圧が酷いくらいに重い物だった。
 人はいつしか死ぬ。
 それは誰もが逃れぬ運命で、だけど逃げようとしたい運命の1つ。だからこそ恭司の心はその運命から逃げた
い人を救いたいと願っていたのだ。

「理想は理想よ。それに追いついてしまえば確かに現実になるかもしれない。けれどその追いついた先に待って
いるのは何? ただ達成した願いが成就した先に待つものは何かしら。山を登り山頂を目指し達成し幻想的な景
色を見た後に待っているのは、非情な現実よ。理想とは常に追い続け、追い求めるもの。それを邪魔されても、
挫折せず前に突き進み続けると言ったのは、何処の誰?」

 アリサは言いたいことを言ったのか、身を翻し扉へと向かう。

「人を愛せないなら理想を愛して。自分を強くありたいと願うなら願って。恭司が立ち止まってる姿なんてあた
し見たくないわよ」
「アリサ……」
「これだけ、じゃあね」
「待っ―――」

 道を閉ざすかのように木製の扉は閉じられる。
 アリサがしたことはただ単に許せなかっただけなのだろう。言葉通り恭司が立ち止まってる姿を見るのが苦痛
だったのだろう。だからこそ彼女は彼女なりに立ち上がらせたかったのかもしれない。
 恭司はただ消えていった友の姿を想像して、起こしていた体をベッドへと沈める。

「あはは……。ありがとうアリサ。俺はまだ進めるのかもしれない」

 そのまま恭司は目を閉じ意識も閉じようとした。



*





 恭司の部屋からさほど遠くない廊下で、ずるずると力を落とし壁に沿うようにして崩れて行くアリサ。別に疲
労困憊といった訳ではないが、それに近い物を感じさせる様子ではあった。

「ああああああ、悪い癖悪い癖って分かってるのに、やっちゃったなぁ。いつも言われてる気がするけれどやら
ないで後悔するより、やって後悔する側ってのは結構恥ずかしいものなのに」
「流石ですねお嬢様。私でもあそこまで出来ませんよ」
「――っ!?」

 アリサが驚いて廊下の暗がりに立っていたメイドを見つけた頃には、既に狼狽していた。言葉にもならない声
をその無秩序に動く口から発していたが、当然ながらその声はメイドには届かない。
 開いた口がそのまま塞がらないアリサを尻目にメイドはつかつかとアリサに向かって歩みを進めた。そのメイ
ドは先日の夕方、恭也を案内したメイドだった。

「効果てきめん、といったところでしょう。彼は多分立って飛びますね、ずっとずっと先まで。その時お嬢様は
どうするつもりですか? 焚きつけてそのまま、という訳にも行かないでしょう」
「責任持てっていうのかしら。でもね、あの人は誰が何言ったって飛ぶわよ。馬鹿だから。いっつも先しか見て
ないの。だけど先ばっか見てるから時々落としちゃうのよね、大切な物。だからあたしはその大切な物を拾って
あげる役で十分。時間ばかり進んで行く世の中だけど、恭司もまた進んで行く人であって欲しい」

 崩れた身体をそのままに、メイドに対して答えるアリサだった。でも彼女の顔は赤面ではない。前を見据えた
鋭い視線を秘めた表情である。

「謙虚ですねお嬢様。いつもの行動と今言ってる事は正反対なのに、説得力があります」
「悪かったわね猪突猛進で。だけどねこれでも良家のお嬢様やってるわけじゃあないわよ。いつかはお父様の仕
事を手伝う時がくる。だからこそ自分に責任と説得力を身につける必要があっただけよ」
「それでいいのですか?」
「……何が言いたいのよ」

 起き上がり、含みを持たせたメイドの言葉に怪訝な顔を浮かべながらアリサは敢えて聞いてみた。その答えは
とっくの昔に気づいているのに、彼女は口にしたのだった。

「生きていくのなら私はただ1人の為に生きて行きたいですね。特別な誰かじゃなくても、誰かを救えるのなら
私はその柱になっていたい、といった感じです。お嬢様もそう思える人がいるといいですね」

 笑顔で言う彼女は本当にそう思っているのだろう。誰かが傷ついているから助けるのではなく、自分の本当に
大切な人を守る為、救う為に一生を全うしていきたいのだと。彼女は悟っている。自分では救える数が決まりき
っているからこそ、その決まった数を全力で。
 アリサには彼女がどう写ったのだろう。ある種完成されてしまっている彼女の考えを否定するか、肯定するの
か、はたまた共存するのか。けれどアリサもまたこの先に見える道が分かっているのだろうか。まるで諦めに近
い表情をする。

「さあね。あなたの言う1人ってのは気になるけれど、あたしがどう生きるなんてのは時間だけが知ってるのよ。
零れた砂はそうそうにはすくえない。きっとすくえる頃にはもう沢山の大切な物を零しているわ。だけどそれ以
上にきっと手に持っている物は綺麗な物だと思う。かけがえの無いものなんて、それこそ無くなってしまってか
ら分かるものだから零れてしまった砂は誰かに拾って貰うわ。だからあたしは恭司の拾う側でありたいわね」

 彼女は諦めでは無く、未来を見据えたものだった。見つけられる物は小さな光か、大きな光か。何もない暗闇
か。それは誰にだって分からない。時間が進む事とは不確定な要素が満遍なく散りばめられている事なのだから。

「食事にしましょう。いい加減ここで立ち話している訳にも行かないでしょう。あなたも」
「ええ、仕事しないといけませんね。給料分はしっかりさせてもらいます」
「さっきまでのはどっちかしら?」
「ふふ、内緒です」

 談笑しながら彼女たちは廊下を後にする。
 そうだ誰にだって未来は怖いものだ。





 ――――海鳴市 バニングス邸 部屋 アースラ襲撃より1日前 AM 3:20



 夜も吹け虫達も寝静まった頃合。部屋で眠っていた恭司がむくりと起き出した。身体に巻きつけられていた元
は白かっただろう包帯を端から取り巻いていく。完治とはいかないものの、出血は収まり傷口も大分閉じたわき
腹を見て恭司は独り思う。

「あれだけ難しい言葉使って励ましてくるとは、アリサも――いやいやこれ以上は言わない方がいいかな」

 続きを言った後それがどのような経緯でも、アリサにその事がバレた時を考えたのか恭司は身震いした。彼は
そのままそっとベッドから起き上がり、横に備え付けてあった棚からルージュセーヴィングを取り出す。
 何も言わないのは主人への信頼の表れか、はたまた呆れか。そのどちらともとれる沈黙を前に恭司はそっと
ルージュセーヴィングを右腕に嵌める。
 あの日着ていた衣類は既に洗濯され同じくルージュセーヴィングが置いてあった下の棚に丁寧かと思われるく
らいに畳んであった。その衣類に袖を通し、髪が乱れていたのでそれを手で乱暴に抑える。鏡に映る恭司の姿こ
そ少し衰弱したような感じを受けるが、瞳だけは変わらなかった。

「独りじゃない。誰かを守る事は独りじゃ出来ない。あの時決意を固めたんだ。誰かを守る為に誰かに守っても
らう為に、生きる。誰かに守ってもらうことは恥じゃない。そうなんだよね」

 ずっと開いてなかったこの部屋の窓。人が1人簡単に通れる程ある大きな部屋の窓を開ける。
 恐らくあの執事は気付いているだろう、と恭司は心に思いながらルージュセーヴィングに問いかけるかのよう
に呪文を口にする。

「我が手には救いの力、其の手に宿すは紅き誓い、闇夜も照らす力ある赤き光。
 ……顕現せよルージュセーヴィング!!」

 一瞬だけ部屋に紅色の光が灯る。
 自分に救う為の力を手にするためルージュセーヴィングを彼は執った。それは約束と何より自分の生きる道を
守る為に魔法を手にした。その光はただ眩いだけの白い光ではなく、血潮の通った真っ赤な光。
 思いを力に。
 力を思いに。

「アリサありがとう。俺はいつも皆に支えられて生きてる事が痛い程に分かったよ。だけど理想に辿りついても
人はまた新しい理想を作り上げる。それを続ける事が大事なんだと思うよ」

 握る拳はいつも熱く。
 熱いくらいに彼の瞳は生きていた。

「恭也さん自分に出来る事、精一杯やってみようと思います。その結末がどんなものだったとしても後悔だけは
しないように」

 気持ちが前に突き進む。
 進む道は常に切り開く。

「さあ行こうルージュ。俺達の戦う、生きる場所へ!」
<Yes, my load.>

 窓の縁を蹴り恭司は一気に加速する。
 空を自由に飛べればいいなといつも考えていた。彼の力はそれを遂行するにはやや足りなかった。だから彼は
自分に出来る精一杯の事をする。
 飛ぶ為に飛ぶ手段を。
 彼は飛び続ける事を選ばず、自分の力を信じ、恭司は駆ける。
 その足元には駆け上がるための足場を用意して。
























【あとがき】
 一年間程の工程に空きがありましたが、やっと形にすることができました。きりや.です。
 最近ではゲームばかりしていたというのが、原因ではありますが。それ以上に一昨年の10月より職場が変わり
まして、かなり忙しくなったというのもありました。アルトネリコが…アルトネリコがいけないんだっ!
 はい、すいませんです。
 ずっと前から言っておりますが、完結させます。


 また最後となりましたが、読者の皆様とこのSSの展示をしてくださったリョウさんに感謝を。
 では次にお会いできる機会を楽しみにしています。







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