シグナムさんの着替えを覗いてしまいそのままお仕置きバトルにあったその次の日。

俺はとりあえず何も起きない普通の生活を送ることができるのだろうか……不安だ。





時空を駆けちまった少年

第7話






     



 早朝、 〜六課演習場の端〜







いつもフォワードメンバーが高町さんの訓練を受けているはずの演習場。

そこで俺とシグナムさんは木刀をもって打ち合っていた。



「うらぁあ!」

「まだまだ甘い!」



昨日のアドバイスを元に俺は拳や蹴りを混ぜて攻めをしていた。

シグナムさんが木刀で打ちつけてきたらそれを受けそのまま押し合わずにすぐに蹴りを入れたり、

蹴りを回避するために離脱しようとしたときに両手持ちから片手持ちに木刀を持ちかえ、その空いた片腕で拳を打つ。



そういう攻めに変えてみた。

ようするに剣術と体術を混ぜてみたのだ。しかし所詮付け焼刃みたいなものでしかなかった。





「勝負あり、だな……」

「うっす…」



拳も蹴りもそう効かず、むしろ体勢を崩しやすくなっていたようだ。

蹴りを入れた後にあっさり軸足をとられ転んだところで切っ先を突き付けられた。







  Sideシグナム





「鍛えられたと言っていたな。誰にだ?」



「俺が6、7歳くらいだったかな、変な爺さんに3年連続で夏休みにどっか山の中で鍛えてやるとか言われて拉致られたんですよ。

『人呼んで謎のジジイ』とか名乗ってたんで『謎ジイ』って呼んでましたが」



拉致して教えたというのには少々その翁に人格的問題を感じられるが……

たった3カ月程度でここまでの基礎だけでも子供にできるようにさせたことには驚きを感じるな。



「それがどうかしたんですか?」

「いや、剣道とは違っていたので結構な剣術の達人が指導したのではないかとな」



おそらく相当の剣の使い手だろう。

一度手合わせをしてみたいものだ。





「まあ、実際無茶苦茶な爺さんでしたよ。打ち合いで簡単によけるは消えるは、サバイバルだとか言って山中駆け回させたり……

それからも毎日走ったり素振りしたりして鍛えろと言われて、今は1人で鍛えてますよ」





……何故わざわざ拉致してまで鍛えていたのになぜこんな中途半端なレベルの状態で1人で鍛えさせるのだ?

護身程度で済ませる気だったのか?





「今はもう指導してもらっていないのか? 連絡などはつかんのか?」

「まったくしてもらってませんし連絡もつきません。やることできたから終わったらまた相手してやるとか言ってたけど」



ケイはそもそも本名も知らないのにどうやって連絡とるんだという表情だった。

うむ……無責任な話だな。



剣筋に間合いの詰め方などはうまく出来ているが攻め方が単純な理由を今の話からこの2つのみを教わっていたからだろう。

蹴りに打撃といったものはそこいらのチンピラと大差はないしな……まあ普通の人間なら強い方なのだろうが。

少し騙しを教えて剣筋の単純さをなくさせるか。





「まあお前の師の話はここまでにしよう。今日の反省の話に変えるが、もっと剣に気迫を乗せて相手に騙しをかけてみろ。

手足での攻撃を混ぜるのも悪くはないがまずはそこからだ」



「フェイントってとこか……こういう感じですか?」

「そんな手だけでやるな。……少し体の力を抜け」



体の力を抜かせ、後ろにまわり背中からケイの腕をつかんだ。



手取り足取り教えるのはあまり好きではなかったが、騙しの入れ方があまりにも下手すぎてみていられん。



「んなっ!?」

「体の力を抜けと言っただろ、力を抜け」

「は、はい」



いつも高町は新人たちを鍛えている。

私も教えたかったが新人では扱う武器も異なるため教えられなかったがこいつは剣を使う。

筋もいいしこれから鍛えればそれなりになるかもしれんな。

しばらく面倒をみるのも悪くないかも知れん。







    〜Sideケイ〜





いきなりのことで焦る。

学校でも女子とはあまり縁がなくあまり触れることがないのにここまで近づくのは初体験だ。



しかもシグナムさんのような美人にそんなことをされているので頭の回路にかなりキていた。



「いいか?こういう感じで体全体を使うような感じでするんだ」



この言葉と体を動かされたことによりなんとか思考をフェイントの入れ方のみに集中させることに成功した。



……やっぱ少し無理です。背中に柔らかい感覚が…



「こ、こういう感じですか?」

「そうだ、そうやって打ち合いの中にうまく混ぜていけ。そのタイミングの見分けは戦いの中で身につけろ」



そう言い斬り上げ、斬りおろしでの相手への牽制となるような一連の動きをその体勢のまま練習をする。

演武のように体の流し方、捌きを行った。

正直今までの体の流しと違っていた。



あまり受け流しのような形を作れていなかったが、この一連の動きのなかでその感覚がなんとくではあるが掴めた感じは強かった。





「ケイ兄〜〜」

「んっ?エリオか」





密着されたまま演武のような感じで木刀を振っているとエリオに呼ばれそちらを見る。

高町さんの訓練が終わり隊舎に戻る途中にシグナムさんとの会話が聞こえたのかこちらに近づいてきた。

その隣にはフォワード陣の3人も見える。



「ケイ兄もシグナム副隊長とトレーニング?」

「ああ、一人で走ってたら偶然会って、そのまま鍛えてもらってる」



朝走ってたら偶然シグナムさんも走っててこうなったんだよな。





「ふ〜ん……ところでいつまでくっついてるの?」



周りから見たらシグナムさんに抱かれているかのような状況を見てスバルはやや不機嫌になり、言葉に「サッサと離れろ」という意味を感じた。

そんな睨むなよ……いやらしいことしてたわけじゃないんだから……



「ん、すまんな」



ただ振りとフェイント、捌きを教えるつもりで後ろから俺の手を持っていたシグナムさんは別段気にせず離れる。



……少し残念なのが3割、ホッとしたのが7割だな……





「む〜何残念そうな顔してるの……ケイのエッチ」

「なっ、失敬な!」



白い目が変わらない……

やっぱ説得力皆無か……

周りから見ればそんな顔をしていたのだろうか……

そうなると仕方がないと言えば仕方がないんだが……



「では私はそろそろ戻る。ケイ、明日もこの時間に鍛えてやる。フォワード陣とここへ来い」

「あっ! どうもありがとうございました。明日もよろしくお願いします」



なんでかわからなかったが機嫌よくシグナムさんは訓練上から去って行った。

何でだろ……またボコられそうな、でもためになるようなそんな気がする。

湿布用意するべきかも打撲跡用に……

今日もちょっと痛いしな。













その後、訓練上から俺はフォワードの4人と一緒に隊舎へと戻っていた。

実際にどんな訓練をしたのかを話し合っているとティアナさんはシグナムさんと試合をしていたはずなのに

疲れてはいるが普通に歩いている俺に疑問を持ったのかそのことを聞いてきた。



「あんた副隊長に鍛えられてもらってたけど大丈夫だったの?」

「昨日みたいに打たれたりはしなかったし、全部寸止めやら軽い打ちにしてくれたよ。痛いし痕がありはするけど」



かなりの数を負けたがすべて寸止めか当てた程度だったため、たいしたダメージは残っていないから笑い話のように答えた。

昨日みたいには打たれなくてよかった……意識も飛びかけたし。



「でもいつもはまだ寝ているんじゃないんですか?」

「そうそう、昨日言ってたよね?」



二度寝をするのが日課だと言っていたはずなのに今日はしていなかったからキャロはに不思議そうに聞いてきた。

エリオもこの話を俺本人から聞いていたので確認のように尋ねた。



「確かに寝るつもりだったけど鍛えてもらえるならな」



今まで謎ジイに指導してもらえなくなって以来1人で鍛えていたけど、技術的なことはどうしようもなくてあきらめていたからな……

シグナムさん程の使い手に習えるのなら喜んで習おうと寝るのをやめたのだった。



「で、ああいう感じになって喜んでたんだ」



スバルはまだ根に持っていたらしく皮肉っぽく言ってきた。



「だから型を習ってだけだって……」

「でもヤラシイ顔をしていたじゃん」

「それを言われると痛いが……」

「もう、いい加減戻るわよ」



いい加減辛気臭くなったのかティアナさんに話を止められ安心する俺と恨めしそうに睨むスバルだったが話をやめ隊舎に入っていくのだった。

助け船サンキューですティアナさん。







〜機動六課寮〜







現在バイトの六課清掃中。

とりあえず今日からは先日の件でアイナさんに男子側のみの清掃を頼まれ、男子フロアだけを清掃できるようになった。

お仕置きとかはなく笑って許してくれた。

マジで感謝した。

また痛い目見るかと思ってたもん。





「いや〜バイトの上司は普通で助かったぜ」

「それは、はやてが普通じゃないって言いたいのか?」





後ろからやけにドスの利いた声がし、そちらを向くが誰の姿も見えず周りをキョロキョロと見回すがやはり誰の姿も見えない。



空耳か?最近ボケたか?



「……誰もいない?」

「ふっとべ!!」



下から衝撃が走った。

どうやら俺の視界の下にいたヴィータらしく俺が気がつかなかったことに怒り、体に合わないくらいの強烈な右ストレートを鳩尾めがけ放ってきた。

そしてそのまま悶絶させ腹を抱えている俺に向かって睨みをきかせ





「アタシがちいせえってことか!? ああっ!?」

「す、すまん……だ、だけどいいパンチだ…せ、世界狙えるぜ…」



悶えながらも見えなかったことを正直に謝罪するが同時に余計なことも一緒に言う。これが精一杯の仕返しだった。

そのまま俺は思っていたことを口にする。



「と、とりあえず八神さんが普通じゃないのは否定できんと思うが…」

「ん……いや、たしかにちょっとはあっけどよ……でも今まで一緒に暮らしてきた家族なんだ。バカにすんな!」



家族だったのか…そりゃ馬鹿にされるのは気に食わなかったのだろう。

そのため結構本気で怒っているのが感じられた。

いくらなんでもそれはこっちが悪かったな。



「すまん。悪気はなかったんだ。ただの愚痴だから許してくれるか?」



真剣な顔で謝る俺だった。しかしその手はヴィータの頭に乗せられ撫でていた。

ヴィータが外見はただの小さい子供なのでついあやすように撫でてしまっていた。

当然自称大人を名乗るヴィータは気に入らず……



「とりあえず許してやる。……けど撫でるな!」



そういい手を振り払う。結構撫で心地のいい高さと頭だったんだがな……



「ところでどうした? なんか用があってこっちに来たのか?」

「用はテメェにあるんだよ。なんでもスバルに魔力検査を頼んだらしいじゃねえか。だから呼びに来たんだよ。」



一応アイスを奢ることを交換条件に自分の魔力の有無を調べさせて欲しいとは言ったがこんな早くしてもらえるとは思っていなかった。

そのためやや興奮気味になった。



「もうできるのか? よっしゃ! 早速いこうぜ。案内頼む」

「おい! 掃除どうすんだよ!」



一応掃除が仕事のはずなのにそれを置いて検査に向かおうとする俺に咎めるように言った。



「もう終わってるぞ? キレイになってるだろ?」

「たしかになってるけど、さっきまだしてたじゃねえか」

「二度目をしようとしてたとこだ。掃除は速いんでな」



速く終わりすぎのように感じたのだろうがパッと見たところどこも汚い所が見当たらず、しょうがないって感じのヴィータ。

俺はアイナさんに検査のことを伝え許可をもらい検査室へと向かった。





       

〜六課技術部(+出張医療室)〜





「いらっしゃい、ケイくん」

「どうも、今日検査を手伝うシャリオ・フィニーノよ。シャーリーって呼んでね。」



検査のために技術部へ入るとそこには何かを設置しているシャマルさんと、まだ会ったことのない眼鏡の少し年上なくらいの女の人がいた。

なんとなくだがメカオタクな感じがおもいっきりした。



「この二人がお前の検査してくれっかんな。挨拶しとけよ」

「武ノ内ケイです。どうもよろしくお願いします」



そのためとりあえず軽く自己紹介を済ませると検査用の機械だろうか。

設置し終えたシャマルさんが検査を始めていいか聞いてきた。                  





「早速始めるけどいいかしら?」

「ドンとこいです! 空を飛んだりとか撃ったりとかできるくらいあるといいな」



高町さんが空を飛んでいるところやティアナさんが銃で魔法を撃っているのを思い出し俺もできるかなと期待を感じつつそんなことを言うが……





「あ〜、一応言っとくけどお前からはでかい魔力感じられねえから期待すんなよ」

「………」



いきなり期待を潰される言葉に何も言い返すことができない。

というより一気に気持ちが暗くなった。

この落胆は遠足を楽しみにしていた子供が遠足に雨で行けなくなった時の落胆に似てるんだろうな……





「け、けどまだわからないからね? 元気出して!」

「……そですね」



シャーリーさんがフォローをいれるがあまり効果がない。

だって期待をのっけから否定だぜ?



俺は結局暗い顔をしたまま検査機に入っていった。





「もう、ヴィータちゃん」

「仕方ねえだろ。事実だし」

「まあ、ヴィータさんがちょっとしか感じられないっていうなら実際そうなんでしょうけど」



いや……聞こえてますよ。

その会話……

こりゃ確実に魔力低いな。

まったくこれっぽちもなかったていうのは勘弁してくれよ。

そういや検査時間どんくらいだろ……寝て待と。



なにやらガンの検査をするようなカプセルみたいな機械の中で仰向けのまま魔力が少ないだろうと言われたことでふて寝に走ったのだった。







  検査組Sideヴィータ





ケイの魔導士の魔力の源であるリンカーコアの形状とその量を調べようとスキャンしたシャマル達だったけど

アタシも含めてスキャンに映されたその映像を見て驚かされていた。



「何? この形……」

「こんな形のリンカーコアなんて存在するんですか?」

「稀に変わったコアを持つ奴がいたりするってことか?」

「でもいくらなんでも変わりすぎよ…ありえないわ」



リンカーコアは普通丸い球状の形をしているはずだけどケイのそれは真ん中の球の周りに何かの輪が4つかかっていた。

この形に驚いたアタシはシャマルに急かすようにたずねた。



「魔力量はどうなんだ? 全然感じられなかったから少ないと思ったけど……」

「ちょっと待ってね……こっちは……はやてちゃんやなのはちゃん程じゃないにしても多いわね……AAランク並にあるんじゃないかしら」





なのはなんかは覚えてすぐのころから量だけAAAだったかんな……

てかAAランクってそれでも相当多いぞこいつ……





「……でもなんでこの魔力量で魔力が少ししか感じられないんでしょうか……」

「知るかよ……はやてに相談するか」





ケイの検査では異常しか感じられない結果になりかなりの不信感を募らせることになった。

アタシ達3人は事を重大だと考え部隊長であるはやてに報告し今後のことを考えるべきだと判断した。

      



「すぐにでも報告したいけどケイくんはどうするの?」

「そうですね、言うわけにもいかないですし」

「待ってろって言ってくる」





「おい……」

「どうしたの?」

「寝てやがる……」

「「えっ?」」

「スー、スー、……」

「き、危険は少なそうですね……」

「みたいね……」





いやこの状況で寝るってどういう図太い神経だよ。









〜六課部隊長室〜 Sideはやて





ケイ君の検査の後シャマルは検査の結果の内容を報告に私の所までやってきていた。

その場にはケイ君のリイカーコアの異常性と危険性について話し合いも必要と判断し、格隊長陣も揃っていた。



「確かに不思議な形をしとるな……」

「それに魔力量も多いなんて一体どうなってるのかな?」

「でもそんなに魔力を感じることもできないし……」



なのはちゃん、フェイトちゃん、私の3人は、報告の中にあったケイ君のコアの写真とスキャン結果からのデータを見て怪訝な顔をした。

その心中の疑問は検査に立ち会っていたヴィータとシャマルと同じやった。

リンカーコア自体を特によくは見たことなかったけど守護騎士のみんなは多くの人のコアを見てきたはずやと思い聞いてみた。



「シグナム達は今まで結構な数のコアを見てきたやろ? こんな感じのコアは見たことあるんか?」

「いいえ、確かに今まで多くのコアを捕集してきましたがこんなのは流石に…」

「アタシもねぇな」



シグナム、ヴィータ、シャマル、の3人はザフィーラを加えた3人と一頭でヴォルケンリッターとして過去に昔の主の命令や、私の命を救うために

多くの魔導士からリンカーコアの捕集を行っていた。

そのために多くのコアをみてきたが、それでもこのような形は見たことがないらしい。

ホンマにどうなっとるんや……



「魔力を感じることができないってことは自分で漏れるのを抑えているってことかな……」



形よりも魔力をあまり感じられないことの方を考えていたらしいなのはちゃんがふと口にした。



「仮にそうやとしたら今までのことは嘘ってことになるで…… それにスパイって線もでてくることになる」



本来、魔法を知らないものは例え自分が魔力を持っていたとしてもそれがわからずその力を垂れ流しの状態にしてしまっているらしい。

しかしなのはちゃんの言ったことが事実の場合、ケイ君は魔法を知っていてコントロールができるということになる。

そうなると先日の取り調べの内容であった魔法を知らないということは嘘となり、突然事件の中に現れたのは六課に潜入するためだったという

可能性が出てくる。





「リインはそんな感じはしないと思いますけど……」

「私もかな。もしそうだったら自分から検査してくれなんて言うかな」

「そうだな、もし間者だとしたら自分の正体をさらすようなことはしないだろう」

「私もそう思うわ。けれどもこの形状の理由の説明がつかないわ……」



自分からの検査の申し出の件から主人公のスパイという可能性は薄いと主張する守護騎士陣とフェイトちゃん。

たしかにその線は薄いと私も思う。



そして話はまずはコアの形のことから話すような方向に進んで来た。

しかしどう考えてもこの形状の理由がつかない。

とにかく私は感じた疑問を聞くしかないかと思いシャマルに質問を始めた。



「この周りの輪は結局なんなんや? アンノウンってなっとるけど」

「中心のコアの補助機みたいなものじゃないかと思うの。周りの輪はコアとはまた別モノみたいだし」

「これが魔力が漏れるのを止めているってとこか……」

「多分ね」



けれどあくまで推測の考えしか出てこない。

シグナムも自分の思ったことを質問することにしたのかシャマルに聞き始めた。



「しかしそんな形状の持ち主が自然に生まれてくるものなのか?」

「それは断定できないわ。まだリンカーコアには謎が多いもの」



リンカーコアは魔法の発展しているミッドチルダでもまだよく解析されていないため、その形状や特質性については

断定することができず、逆におかしい例があってもおかしくないのが現状やった。



「……自然じゃなくても作ることはできるかもしれない……例えば人造魔導士計画なら……」



なんやて?



「まさかフェイトちゃん……ケイ君が人造魔導士やって言うんか?」

「あくまで可能性だよ。でも可能性としては大きいと思う」

「フェイトちゃん……」



フェイトちゃんは彼女自身が母親からその娘のクローンとして造られた人造魔導士や。

そのせいでそのことに負い目を感じてる

しかもつい先日の調査から今回のレリック事件にその基礎理論を作り、さらにそれで犯罪を行っているジェイル・スカリエッティーについての

手掛かりをつかんだばかり。



自分のような被害者がいる思うとるんやろうな……



なのはちゃんはそんな彼女の心情を察してか、心配そうに見つめている。



「仮にやつがそうだとしても、本人は気にしている様子はない。それに奴には生みの親がいるのであろう?

ならば違うだろうし、お前が気にすることでもあるまい」



シグナムの言うように取り調べのさいに身元はしっかり話されているし、ケイ君自身が義理の親のもとで育っているわけでないということはわかっている。





「……そうでしたね」



シグナムの励ましにより少々だが暗さがフェイトちゃんの中から消えたようにその場の全員が感じられた。



「結局のところどうすんだ? 今は寝てるけどそのうち起きるぞ」

「えっ!? 寝てるですか? どういう神経してるですか…」





みんな呑気に寝ているケイ君に呆れるのだった。

たしかにこんなこと話されているのに呑気に寝てるっていうのはどうかと思うで……





「とりあえず様子見しかないな……ケイ君のことはこの場の秘密にしとこ」





ようわからん状況で話して不安にさせるのもようない。

魔法についても全然知らんのにさらに異常だと知ったら相当なショックを受けそうやからな……

魔力量はまあ……喜ばしいことやから教えとこか……





「ケイの生まれは私が調べてみるね。シャマルはケイの体自体のことを調べてみてくれるかな?」

「わかったわ。一応デバイス使用時のコアの変化もみてみたいんだけど……」

「じゃあ午後の訓練で適当なものを使わしてみるね」





検査のことには反対はないかったけど万一のこともあるかもしれへん……





「ほんなら私とリイン、ザフィーラは上空でいつでも非常用に結界張れるように待機しとくわ」

「うん、じゃあはやてちゃんとリインお願いね」

「はいです」



そのあと渡すデバイスは剣術らしきものを使うからアームドデバイスを渡してやってみようと話を進める。



「そうなると相手が必要だろう。私がしてやろう」



当然剣術の指導と相手をしてきたシグナムがうれしそうに志願してきた。

このとき、シグナムの戦いに対する喜びと期待の顔を全員が見た。

そしてこう思った。





(((((…ケイ((君))今度こそ死ぬかも…)))))











          〜六課演習場〜











俺が寝ている間に部隊長室で会議があったらしくその後、シャマルさんとヴィータから午後はデバイスも使った検査をするため演習場に来るよう

に言われたため現在この場にいる。

その際に魔力の量のことを聞いた。

魔力が思ったより結構あるから使用は可能だと言われた。



うっしゃーーー!! 空飛んでやるぜ!!





「じゃあ、このアームドデバイスを起動させてもらえるかな?」

「了解しました」



そう言われ高町さんからアームドデバイスを受け取った。



アームドって何だ?

まあデバイスには違いないか。



「起動させたあとはデータをとるために私と模擬戦だからな」

「……素人なんですから手加減してくださいよ」

「善処しよう」





……100%しねえ。

絶対してくれない。この人は。 







       〜フォアード陣〜 Sideティアナ





ケイが魔力資質があり検査の一環としてデバイスを使ったテストをすると聞き訓練前に見学していた。



「どうなるんだろうね〜」

「楽しみです」

「そうだね」



ケイの魔力に興味を持つフォワード3人こちらは実に楽しみというのがわかるが、あたしだけは難しい顔をしていた。

私はここにいる人たちと違って凡人だ……もしこいつまで多い魔力量の上に何かのスキルなんかを持っていたら……

てそんなこと考えない!



特に高い魔力もレアスキルも持たない自分に劣等感を感じているためケイにレアスキルがあって欲しくないと願ってしまい少し自分に

嫌悪感をいだきその考えをすぐに振り払った。





「ティア、なに難しい顔してんの?」

「なんでもないわよ。ほら起動させるわよ」

「魔法使えるようになったら管理局に入るかな?」

「さあね」







      Sideケイ





いざ起動させようとしたが起動の方法がわからなかった。



「……起動ってどうやるんですか?」

「動けと念じてみろ」



そうシグナムさんに言われ俺は目を閉じ、そしてデバイスを握りしめ念じ始めた。するとデバイスが音声を発した。





≪起動動作確認 魔力確認 形状を設定してください≫



「そのまま自分にあった形状の武器を考えてみて」



そう高町さんが補足してくれた。



武器……刀がいいかな……



自分の戦闘スタイルは剣術のためそのまま自分の中で日本刀を想像し始める。

すると体から何かが噴き出ているかの様になった。



ん〜〜? 微妙に何かあるような感じで揺らめいてるな……

なんつうか陽炎のような感じで微妙にその部分だけ揺れてる。





「魔力光……か? やけに視認しづらいな」

「これは……無色透明に近い銀色……かな……」





あっ、確かになんか日の明かりに当たって輝いてる。

マジで見づらいな……



「うまく行ってはいるようだな」

「マジっすか? よっしゃ」





しかしなぜだろうか。うまくいっているらしいのだが…

体から力がどんどん抜けていく……

だめだ……もう意識がもたな……い。



一気にガスが抜けたような大きな音がした。



俺が聞こえた最後の言葉は《 魔力枯渇 起動終了 》というデバイスの音声だった。



魔力枯渇って……なくなるの早すぎだろ……

そして意識は切れた。







        Sideなのは







いきなりケイ君からガスがいっせいに抜けたような音がしたと思った瞬間。





≪ 魔力枯渇 起動終了 ≫



「「「「「「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」



ケイ君が糸の切れた人形のように倒れた光景とその直後のデバイスの一言に私達全員はこの一言しか出なかった。



「な、なんで? いきなり……」

「何かは知らんが……魔力がなくなったらしいな」



現状把握をしようとしたがとにかく今はまずケイ君を医務室に運んで診てもらうのが先だ。



「そんなことより……シャマルさんすぐ来て!」



いきなりの出来事で浮足立つがすぐに思考を戻した。そうしているとヴィータちゃんが言葉を漏らした。



「何なんだよコイツは……」



それは私も聞きたいよ……

すぐに駆け付けたシャマルさんと、お前では運べんだろうと言ったシグナムさんがケイ君を抱えて医務室へと運んでいった。

フォワード陣を見るとそのシグナムさんとシャマルさんの背中を見つつエリオとキャロはケイ君の心配をしていた。



「……大丈夫かな」

「ただの魔力切れみたいだから大丈夫だよ……きっと」



そしてスバルとティアナの方も



「大丈夫だといいんだけど……魔法使えるの楽しみにしてたのに」

「……あとで医務室にお見舞いくらい行ってやりましょ」

「うん……」



それぞれがケイ君の体を心配していた。特にスバルはケイ君が魔法を使って飛んでみたいという話を聞いていたらしく

それが無理とわかった後の気落ちがないか心配しているんだろうと思う。

スバルを誘ったティアナの心情はよくわからなかったがきっとどこかで仲良くなったから心配なのだろうと思った。

とりあえずケイ君のことはシグナムさんシャマルさんに任せよう。





「えっーと、と、とりあえずケイ君のことは置いといて午後の訓練始めよっか?」

「とりあえずアイツのことは忘れとけ」

「ライトニングの2人は私が見るからね」



「「「「はい」」」」



そう言って午後の訓練を始めるのだった。

あれ……何か忘れている気がするけど……

何だろ…





         〜演習場上空〜





「主……」

「なんや?」

「私の見せ場は?」

「また次回です……リインもですけど」



   



        六課医務室 現在PM11時





「んっ……眠っ……」



……飯まで寝るか。



いつものように二度寝に入ろうとする。



「って、寝ちゃダメだよ! 起きてよケイ!」



すぐに誰かは認識できなかったが寝るのを止めるための声が聞こえそちらを見た。

そこにはスバルとティアナさんがいた。



「ん……スバルか……おはようさん」

「おはようじゃないよ。もう夜の11時だよ? 起きないと」

「何!? あっ! そういえば検査どうなったんだ? 俺憶えてねえ!」



寝ぼけていて忘れてたが、俺はデバイス起動したら気を失ったんだった。



「あんたは起動した瞬間、魔力切れで倒れたのよ。それでシグナム副隊長に医務室まで運んでもらったってわけ」

「もう、心配したんだよ……」



2人は俺が倒れたわけを説明してくれた。

ちなみにエリオやキャロも心配でさっきまでいたがそろそろ戻るよう言われたためもういないらしい。



話を聞き終えると俺は魔力はあるはずなんだが魔法を使えないということがわかった。





「そっか……俺魔法使えないんだな」

「え、えっと……」

「仕方ねえか! 元々魔法なんかなかった世界から来たんだし!」

「そ、そんなこと言わなくても……」

「あっ! 俺腹減ったわ。飯食ってくるよ。シャマルさんいないし伝えてくれるか?」

「えっ!?」

「じゃあ、頼むわ!」

「ち、ちょっと!?」



そういいベッドから抜け、スバルの返答も聞かず医務室を出ていく。

スバルは多分励ますつもりだったんだろう。

俺の願望を聞いて検査を頼んでくれたのもスバルだったのに悪いことをしたとは思ったが今は1人で考えたい気持ちなんだよ。

後で謝らないとな……



顔は明るく見せようとしていたがどう見てもつらそうなのがわかっただろうしな……

情けない……





         

〜六課部隊長室〜 Sideリイン





今回のケイさんの検査は結局またわけのわからない結果になってしまいました。

仕事が終わってから隊長陣とシャマルのみんなでそのことについて話し合っているのでした。



「ケイ君はどうや?」

「今はまだ眠ってるわ」

「魔力切れの原因はなんだったかわかりました?」

「分らないわ……ただデバイスが形状を認識してその形を作って起動するために魔力を使用しようとしたら……」

「一気に魔力が抜けてぶっ倒れたってわけか」

「抜ける瞬間だけど周りの輪が少し光ってたわ……なんでかはわからないけど……」

「余計にワケわかんねぇよ」

「とりあえずその輪と球が何かをしているとみえるな……」



シャマルが採取したデータにはケイさんのリンカーコアがデバイス起動時に魔力を発生させようとした瞬間に、周りの輪がまるで回路のように

光りだしのが映っていたです。

そして倒れる一瞬前に中心のコアから魔力が切れたのか光が消えていました。



「けどこれで外部からのスパイの可能性はほとんど消えたね」

「そうですね。魔力のない人間にここでのスパイは無理があるです」



リインとなのはさんは魔力を使えないケイさんではスパイとして何もできないと判断してそう結論づけました。



「じゃあ、あとは生まれを調べるだけだね」

「そやね。けどそれはまた後でもええよ。今は一応検査のことだけカリムやクロノ君、リンディさんに報告しとこ」



そしてフェイトさんは念のためにケイさんの生まれの調査をし、はやてちゃんが検査の結果を六課設立の後見人の3人に報告することにしました。

ケイさんについてはこのまま様子見を続ける形となったのでした。







          〜六課隊舎外 海辺〜





「ハァッ〜……」



俺は遠い目で夜の海とその空を見つめてため息をついた。

まあ簡単にいうと魔法が使えないということにいじけていた。



「……………………」

「何してんのよ。あんたは…」

「のわっ!……ってティアナさんか……見てわかるでしょ」



後ろからきたティアナさんに気付かず、声をかけられ驚いたがすぐにまた遠い目になり海の方を見だした。



「いじけてんの?」

「その通り……魔力があるってわかったときは浮かれてたけど……俺も空とか飛んだりして、そんでもってこれが自分のしたいことになるかもって」



俺は自分の世界でしたいことが特になかった。

今は学生だから部活をやっているが社会に出てからしたいことは見つかってない。



そのうち見つかるかと思っていたら異世界に飛んできて魔法を知った。

魔法に大きな興味を持ち、使えるようになりたいと思った。

しかし魔力があるはずなのに魔法が使えないという矛盾は俺の気持ちの落差を余計に大きくした。





「普段から不器用でしかもこんな時にまでそれがでるなんてな……」

「じゃああんたはそこでやめるの?」

「えっ?」

「私はやめないわよ。夢のためにも。ここで……才能達の中ででもあきらめない」

「……夢って?」



言うか言うわないか迷ったような顔をしたティアナさんだったが少しの間考えてから話してくれた。



「執務官になることよ。私はスバルやみんなとは違って魔力も少ないし、レアスキルもない凡人よ。だけど努力すれば叶うって証明してみせる」

「……凡人ね……じゃあ魔法の行使すらできない俺は?」

「知らないわよ。そんなこと」



知らないってあんた……



「魔法が使えない人だってここには大勢いるわ。そういう人たちでも自分の特技を生かした専門分野を持って仕事をしてる。

けどあたしの夢を叶えるにはそのための特技もなくて、力も才能もここのみんなより劣っている。だから凡人なの」



自分のなりたいものになるには力が足りないから凡人か……

たしかに特にしたいこととかなりたいもののなかった俺が魔法を使えなかったことくらいでいじけるのは辛気臭いだろうな……



「……それでも夢を追いかけて努力しようと思えることがすでに才能だと思えるよ。俺には」

「私は思わないけどね……で? あんたは?」

「……ここにいられるのは短いけど……何かしら方法を見つけてみる……すっきりするまでやってみる」



そういい俺は立ち上がった。

正直魔法の使用ができるようになってどうしようとか考えるよりも今は使用方法を探してみるか……

デバイスとか改造でなんとかなるかもしれないし、ダメだったとしてもきっと後悔はしないで済む。




「まあ、無茶しない程度に頑張りなさいよ」



そう決意した俺をそっけない感じでだがティアナさんは応援してくれた。

キツイところもあるけれども基本的にやさしくて面倒見がいい人だったんだな……



「ティアナさん……」

「なによ?」

「ありがとな」



心底感謝した俺はそのままお礼を言った。とりあえず今はこんくらいしかできないもんな……



「う、うっさいわね……あたしはスバルが困ってたから来ただけなんだから……後で謝っておきなさいよ」

「了解です」



照れ隠しのようにぶっきらぼうにそう言うとクルリと後ろを向き隊舎へと向かった。

そして俺もその場で一度背伸びをするとその後ろを追いかけてティアナさんの隣に行き、2人で隊舎の中へと入っていったのだった。







  

                                    つづく









おまけ







「ティアナさん、顔赤いぞ? もしかして照れて……」

「黙らないと撃つわよ?」

「なんでもありません」

「よろしい」





「ケ〜イ〜」

「「んっ?」」

「ケイ……あ、あのね元気だしなよ……魔法つかえなくても……その……」

「あ〜、ごめんな。さっきはちっと拗ねちまったんだ。ホントごめん」

「えっ? あっ! そっか! 元気になったんだ。よかった」

「ああ、ティアナさんのおかげでな。ありがとな」

「ま、あんたの情けない顔を見れたから良しとしとくわ。あんまし手間かけさせないでよね」

「そりゃまた、手厳しいな……」

「好きに言ってなさい」

(う〜、なんかいい雰囲気?)





      おまけ2





「ただいま〜。そしてまた世話に……」

「「大丈夫だった(でした)!?」」

「最後まで言わしてくれよ……とりあえず大丈夫だ」

「あ、あの魔法は……」

「魔法がなくても大丈夫だよ!ケイ兄には他がきっとあるよ!」



こんなチビッ子にまで迷惑かけたか…



「だな! 見てろ! 必ず使う方法見つけてやるから。無理でも……そしたらどうしよ。帰ってもしたい仕事とかないし……」

「だったらここで何かしたいこと見つけてみたら……」

「向こうにしたいことがないならこっちで……魔法関係のできることならいくらでもあります!」

「……だな。向こうじゃなんかしたいことねえしこっちでする方がおもしろいかもな」

「あっ! そ、そうだキャロ。急いで部屋に戻って!」

「い、いけない! フェイトさんに怒られる!」

  

 現在12時半過ぎ

   

「時間か? 別にまだ遅くは……」

「遅いよ……すごく遅い……2人はもう寝ないとね……」

「「は、はい!」」  

「それとケイ……なんでこんな時間まで2人を起こしてるのかな?」

「えっ……えっと」

「……ちょっとお仕置きかな……」



               



    おわる     







      

      あとがき





以前はリンカーコアの周りに武器を創造できる13個のコアがあったんですが、その能力だとかなりチートなものしか思いつかない感じになったり

あっても意味がないだろうとか、多過ぎだとかいう理由でやめました。

輪の方はそのままにしました。

魔力量もチートになっていく原因になるので減らしました。

AAランク並の量と言っても公式設定ではランクというのは試験と任務達成率によって決まるとなっているんですが、無印の頃だと魔力量で

なのははAAAランク並だと言われていたのでそう書きました。

AA並でも多いんですが、これくらいないと短期間で高ランク魔導士相手に生き残れるようになるのは難しいと思いAA並にしました。






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