あ〜〜

疲れた。

エロな亀に会って、エロな事知って、エロでからかわれた。

もう精神的にも肉体的にも疲れた。

眠い。寝よう。

……やばい。

体が熱い。

そしてダルい。

ああ……ついに来たか。

ザ・副・作・用 !!

やばいなあ……ルーテシアとアギトと合流しようと思ってたのに。

あかん……起きてられん。



















時空を駆けちまった少年



第36話










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いつものように暗いスカリエッティ地下アジト。

朝だけれども朝とはまったくわからないこのアジトで最近恒例となっていた朝の目覚ましが無くなっていた。

まあそれでもどうせまた馬鹿をやって何かなったのだろうとナンバーズ達は気にせず朝食をとっていた。





「今日は静かだな」



「そうだな」





トーレとチンクがコーヒーを啜りながらゆったりと話す。

朝食が済んだ2人の横で物凄い勢いで食べている他のナンバーズ。





「なーにしてるっスかねえ〜」



「さあねー。あっ、こら! ワタシの獲るな!」





ナンバーズ能天気代表のセインとウェンディ。

比較的ケイとは仲が良いが朝食の方が大事なようだった。





「ノーヴェ。食べ終わったなら少し見て来て」



「はっ? やだよ。あんなののとこ行くの」





ディエチが追加の料理を能天気2人に出すと、ちょうど席を立ちあがったノーヴェに様子をみてくるよう頼む。

ノーヴェの方はケイを毛嫌いしているため一気に機嫌が悪くなった。





「ならば私が行こう。昨日の今日だ。どこか痛めたのかもしれんからな」





チンクが立ちあがりケイの部屋というより牢に向かう。





「ちょっ、チンク姉が行くなら行くよ!」





慌てて追いかけるノーヴェ。

2人はそのまま食堂から出て行った。





「相変わらずチンク姉大好きっこだなー」



「そッスねー。あっ! セイン! 獲るなッス!」



「お返しだよ〜」



「「 はあっ…… 」」





残されたのはどこまでも能天気な2人とそれを見てため息しか出ない2人の4人だった。







































場所は移ってチンクとノーヴェのいるのはアジトの中でもかなり暗く湿っぽい牢屋のような作りの廊下。

ケイの寝床はここにある。

元々が実験素体扱いでもあるためここにいる。

そんな立場でもある程度自由が利いているのはルーテシアを甘やかすスカリエッティが頼まれたということが大きく関係したりしている。

ちなみにケイはそのことを知らないでいる。

そんなケイの部屋に着いた2人。

だが目の前にあったのは空のベッドと何故かその上に置いてある服だけであった。





「……いない?」



「逃げたのか?」





だがどこに?

そもそもどこにも行き場がない現状でどこに逃げるというのだろう。





「ん?」



「どうした?」



「いや、何か膨らんでる?」





ノーヴェが置いてある服が微妙に膨らんでいることに気付く。

近づいてその服を引っ張ってみる。

すると服の中から小さな何かがそのまま床に落ちる。





「へっ?」



「あ、赤ん坊?」





床に落ちた物を見て唖然とする2人。

そして





「おぎゃあー!!」





頭を打って大きく泣き叫ぶ声がアジトに木霊した。

















































「ああ、それはケイクンだよ」





キーボードを打ちながら後ろにいるノーヴェとチンクに説明するスカリエッティ。

ちなみにノーヴェの腕には赤ん坊の姿で小さな毛布にくるまれたケイがいた。





「いやー、私も先日話を聞いた時は驚いたよ。何でも副作用で幼児化してしまうというじゃないか」





ケイから知る情報をすべて聞き出したスカリエッティ。

その中にこの現象の話があったのだ。

そもそもケイのスキルは自分の体に別の物の要素を馴染ませるものである。

今回の場合は別の種族の細胞である。

スキルのおかげでそんなアホなことをしても生きているが、力の解放のしすぎで負荷は当然掛かる。

それを補うためか自分の体の痛んだ細胞を復活させるべく自動的に幼児化してしまうのだ。

それを繰り返して完全に馴染むようになるのだという。

つまり力を使い過ぎるたびに赤ん坊になって、人間離れしていくのである。

チンクとノーヴェにそれを説明し、作業を続けるスカリエッティ。





「ちょ、じゃあ何!? これをもう1回育てなおすわけか!?」



「その辺りのことは大丈夫だよ。1週間もすれば元に戻るそうだよ」



「……それは一体どういう原理なのですか……」



「そこは私も興味深いからデータを取っているのさ」





そう言って2人に作業で纏めていたデータを見せる。

非常に難しい内容の公式や、身体データ、明らかに専門用語だらけな画面を2人に見せる。

普通ならばさっぱりなデータの内容。

だが悲しきかな、ここに普通の人間はいない。

ばっちり内容を理解するチンクとノーヴェだった。





「幼児化するときの変化のデータは既にとれた。後は元に戻る過程のデータを取らないとねえ」





実はケイの知らない間に既に身体データを常にスカリエッティの元に送信する装置が埋め込まれていたのだ。

警戒はしていたがスカリエッティの方が何枚も上手。

表示されているデータもその装置によって採取されたものである。





「それはいいのですが……どうするんのですか?」





ノーヴェの抱えている赤ん坊のケイを横目に見ながら質問するチンク。

そんな話をしているというのに本人はすーすーと寝息を立てている。





「そうだねえ……ノーヴェに任せるよ」



「はっ?」



「赤ん坊のケイクンの世話をお願いするよ」

































「でおしつけられたと」



「なんでアタシが……」





リラクゼーションルームにてチンク、セイン、ノーヴェ、ディエチ、ウェンディの5人がソファーに座り

その真ん中にあるテーブルの上に赤ん坊のケイが置かれていた。

今も何事もないかのように眠っている。





「うん、滅茶苦茶だね。色々と」



「これがケイッスかー。いやーなんかすっげえかわいいッスねー」



「これがあんな風にな……時間の流れとは残酷だ」



「いやいや今から再教育でもすればいいんじゃない?」



「だが1週間後には元に戻るそうだぞ」





あーだこーだと話をするノーヴェ以外の4人。

その内容は15歳時のケイの悪口がほとんどで、どうすれば今から再教育できるかの内容であった。

主に直そうとするのはヘタレの部分と馬鹿なKY発言をする所のようだ。

そんな中ノーヴェはただ黙って机の上の赤ん坊を見ている。





「なあ……こいつって何食わせばいいんだ? ミルクだったとしてもねえぞ」





ピタっと全員の動きが止まる。

それもそうだ。

こんな犯罪者の地下アジトにミルクなんてものがあるわけがない。

仕入れるにしても時間もかかるしそんなに待つこともできない。





「……買いに行くしかないのではないか?」





チンクの一言でジャンケンが発動した。

言いだしっぺはセインだったが参加ができなかった。

「顔割れてるじゃん」の全員からの指摘である。

泣き泣き諦めるセインとついでに買ってきて欲しい調理器具のメモをするディエチ。

そして勝者は





「いやっほー! これでまたお外に行けるっスー!」





万歳をしてはしゃぐウェンディ。

少し外に出たかったと残念そうなチンク。

負けてよかったと心底思っているノーヴェだったが





「ノーヴェ。ドクターに以前言われて持ってきたミルクよ。飲ませておいくように」





突然やってきたウーノにミルクと哺乳瓶などの一式を渡される。





「あ、あれ? じゃあお買い物は……」



「行く必要がないわ」





絶望するウェンディだった。

そしてその横で





「新しい調理器具……」





微妙に沈むディエチもいた。



































「とりあえず作ってみた」





哺乳瓶にミルクを入れて運んでくるディエチ。

すると丁度赤ん坊のケイが泣きだした。





「な、何だ?」



「お腹すいたんじゃないの? ディエチかしてー、ワタシがやってみる」





抱っこをしてミルクを飲ませようと哺乳瓶を近づけると暴れ出す赤ん坊のケイ。

危うくセインが落としかけたがそれをチンクがキャッチする。

というより手を出せば丁度いい高さになるのがチンクだった。





「えっ? 何で嫌がるの? お腹すいてないの?」



「あははー、セインがぺったんこだからッスよー。アタシがやるっス」



「お前……何でもかんでも胸かよ……てかこいつ本当は記憶あるんじゃないだろうな」





全員呆れ果てる。

しかしウェンディが抱いても暴れだしまた落ちかける。





「な、なんでっスか!? アタシの胸じゃ満足できねえんスか!?」





それしか考えられることはないのか?

現在ロールアウトされている姉妹の中で最も下の妹の教育方針を少々考え直さなければならないかなと真面目に考える一同。





「……なー、これちょっと熱すぎるからじゃねえのか?」





哺乳瓶を持って温度を確かめるノーヴェ。

そう言われて温度を確かめてみると確かに熱かった。

少し冷まして温くなった所で飲ませてみるとどんどん飲んでいく。





「へー熱すぎると駄目なんだ」



「成程な、いわれてみれば確かにそうだ。熱すぎると大人だって飲めないからな」





いつの間にか子育てって難しいんだなーと話をわいわい始める姉妹達。

ふとした疑問はミルク一式を渡してから部屋から出ようとしたウーノを捕まえて調べてもらうまでに至る。

しかし何だかんだで調べているうちに1人でかなり難しい専門的なことまで調べ出し始めていた。

いつの間にか話に混ざらずに最近母親になった女性のブログなどまで読みだしていた。

わいわい話している姉妹の中でもう1人黙り込んでいるのがいた。

ノーヴェである。











(……もしかしてこれの処理もアタシがやるのか?)

















ジッと見つめる先にあるのはオムツだった。



他の姉妹達は未だに気づかぬ疑問であった。





















**********************************************************



















場所は変わって機動六課。

ケイとの戦闘による傷も癒えていつもの24時間勤務状態へと戻りなのはによる厳しい訓練も再開された。

そして訓練が終わって煙を噴きながら倒れている新人4人。

再開された訓練はさらに厳しいものへとなっていた。

それは以前の事件での戦闘での敗北が大きな理由であった。

コンビネーションが悪かったわけではない。

油断があったわけでもない。

だが負けた。

といっても一番の原因はケイのセクハラ能力が判明したラケットのせいだったりするのだが……

ヴィータ曰く「負けは負け」だそうだ。

なのはの教導プランもヴィータが加わり大きく変更されており予想外の事態に対しての対応力についての訓練、

さらには格闘系統を使う魔導師戦用に海鳴の高町兄妹の訓練もしようかと検討中であった。

ちなみにこれは後日しっかり行われ4人は臨死体験を幾度か経験することとなるのだがそれは別の話。





「し、死ぬ……」



「……もー動けない〜〜」



「………………」



「きゃ、キャロ! しっかり!」





ぐてーとのびている4人。

特にキャロはもはや言葉すら発することができないようだ。

直接ケイと戦っていないだけにこの教導のキツさの上がり方の一番の被害者は彼女だろう。

しかし純粋なだけにそんなことをまったく思ってもいないのだった。

純粋って素晴らしい。





「それじゃあ1時間ほど休んでから通常勤務。夕方になったらまた訓練するからしっかり休むように」



「ストレッチもちゃんとすんだぞー」





「はいー……」と元気のない返事。

そこら辺に普段うるさいヴィータもキツくしすぎという自覚があるため特に何も言わない。

キツければいいというわけではないのはわかっている。

だがしかし遂にはっきりと姿を現した敵となぜかそれと一緒にいるケイ。

しかもそのケイは数か月で自分達が教導し、強くなっているはずの新人4人と(正確には4人の内の3人)と陸戦魔導師AAのギンガを倒すようにまでなった。

明らかに異常な伸びである。

スキルによる身体能力と意外性の大き過ぎるラケットのせいでもあるのだが。

ギンガが破壊したことにより貞操に関して少しホッとしたが、もしかしたらスカリエッティが再び直すかもしれないと思うとゾッとする女性陣。

だが打撃に弱いとわかりすぐさま近接戦闘、もしくは魔法砲撃の余波などで破壊しようと対策は簡単に考えられた。























直るどころかパワーアップして帰ってくるとは誰も思っていなかった。



















「はあ……あーもう……これって完全にオーバーワーク気味よね……」





以前やってた自分が言うのも何だけど……と内心思いながらつい呟いてしまうティアナ。

ようやく立ち上がった体をほぐしながらボキボキと体を鳴らす。

16の乙女からしないで欲しい音であった。





「でも隊長達もわかっているんじゃないんですか? 代わりとしてか事務的内容の仕事は減ったし休憩とかの時間も増えてますし」



「そこはラッキー……というか訓練より事務の方が辛いもん」



「でも……こうやっている内にもケイ兄さんはまた強くなっていっているんですよね……それにこの前の犯人の人達も……」





いいえ、そんなことはありません。

その本人は強くなるどころか赤ん坊になって抱かれながらミルクを飲んでます。

さらにナンバーズは訓練ではなくお喋り会といつの間にかブログ巡りをしています。

そんなこととも露知らず闘争心をメラメラと燃やす4人。





「次は勝つ!」



「次こそ撃ち抜いてやるわ! あのふざけたラケットごと!」





特に裸を見られた2人は殺気が混ざっていた。

当然である。

2人の中で倒して逮捕の後は磔の刑の上、なのはの砲撃魔法での処刑でも気が済みそうにないのである。





「……すごい殺気……」



「きゅくる〜……」



「僕も負けられないけど……あそこまでは怖い……」





それに若干引き気味なお子様2人だった。









































さらに代わって機動六課隊舎。

管理局地上部隊の部署の1つであるここに1名明らかに局員ではない少女がいた。

金髪オッドアイの容姿をし、先日六課で保護されたヴィヴィオである。

検査後、一時なのはが保護責任者として預かることとなり色々な裏技を使って隊舎での生活を共にしている。

普通は無理なのだろうが……機動六課およびその関係者にその言葉は通用しない。

いい意味でも悪い意味でも。

普通の基準が既にハイスペックなのであった。





「ヴィヴィオー、いい子にしてたー?」



「あっ、ママー」





訓練から戻ってヴィヴィオの様子を見に来たなのはに飛び付くヴィヴィオ。

その表情は誰が見ても微笑ましい程の笑顔だった。





「ごめんね、ユーノ君。訓練の間ヴィヴィオの面倒見てもらっちゃって」



「ううん。いいよ。本を読んであげてただけだし、読むのは好きだからね」





笑いながらそう答えるユーノ。

今は無限書庫司書長という役職についている。

普段から忙しい部署で2徹3徹は当たり前。

無限書庫の人間に人権はないのかと思うほどの仕事をこなす超ワーカーホリックな19歳男子である。

そんな彼がどうしてこんな所で子供の世話をしているのか。

実はなのはとフェイトに子供ができたと聞いて飛ぶどころか転移をしてまでやってきたのである。

ちなみに情報源はアルフである。

なのはとフェイト……世界はこんなはずじゃなかったことだらけという言葉が指すように2人はホンモノである。

そういうのが普通な世界もあるし、認められている世界もある。

だからわかってはいるのだ……わかってはいるのだが……やはりアルフを含めたハラオウン家一同と高町家一同はなんとかしたいと思う部分もあったりする。

その希望がユーノであり、ユーノ自身もなのはに惚れている。

間違っていないこの誤情報でユーノに一気に勢いをつけさせようというのがアルフの狙いであった。

このとき既にアルフによってユーノの休暇届けが提出され、人事部が泣いて喜んでいたのだった。





「ヴィヴィオ。ユーノ君にご本読んで貰えてよかったね」



「うん! ありがとうユーノパパ」



「!?」





パパ!?

ああ……なんていい響きなんだろう……僕のことをパパと呼んでくれる子がなのはに抱かれながら……

まるで仲のよい家族のようだ……とほんわかした気持になる。

だがそれは一瞬だった。

ユーノの視界には扉の隙間から殺気をなんとか押し隠している金の死神の姿が目に入る。





(ふふふ……誰がパパなのかな……ねえユーノ)



「ひっ……!?」





言葉は出ていない。

出ていないのだがユーノの耳にははっきりと聞こえた。

全身にねっとりと纏わりつくような負のオーラと共に。





「パパね。すっごいご本読むの上手なの! なのはママも一緒にお話聞こう!」



「んーでももうすぐお昼だし……」



「じゃあヴィヴィオとママとパパの3人でお昼食べるー」



「んーユーノ君大丈夫? 忙しかったりしない?」





超高速処理可能なユーノの脳がクロノの突然の請求により徹夜7日目に突入したとき以上の冴えを発揮した。

先日終わらせた仕事とこれからやるべき仕事、そろそろやってきそうな地獄からの通知(クロノの請求)とその他色々な仕事の処理。

これらとなのはとヴィヴィオとの食事。

ユーノの決断は決まっていた。





「うん、大丈夫だよ。それにせっかくヴィヴィオが誘ってくれたしなのはとも久々に話がしたいからね」





ユーノの脳内であっさりと蹴り飛ばされるクロノ。

知るか。いつもいつも間の悪いときに請求しやがって。

流石に温厚な人間でも腹は立つようだった。

そのまま食事に出かける3人。

あまりのほんわかムードに出るに出られなかったフェイト。

そのままぽつんと立ち往生。

空しい……





「あっ、フェイトさん」



「これからお昼なんですけどご一緒しませんか?」





そこに丁度通りかかったエリオとキャロ。

そんな2人の無垢な言葉に涙しながら抱きついて、そのまま笑顔で食堂に向かうフェイトであった。

がんばれユーノ。

密かに燃やすなのはフェイトガチ矯正はみんなが味方だ。

成功するかしないかはわからないが。

その辺は神のみぞ知るところなのだと思っておくべきである。





















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さて、場面は再びスカリエッティアジトに戻る。

先ほど賑やかに子育てについて会話をしていたはずの全員が押し黙っている。

理由はノーヴェの先ほどの疑問に全員が気づいて一体誰がオムツの取り換えをするかということである。





「「「「「「「 ……………………… 」」」」」」」





下手に発言できない。

知らない赤ん坊ならよかったかもしれない。

だけど知ってるどころかケイなのである。

ナンバーズの全員の中でそこが問題だった。

まあ何より問題なのは元に戻った後のケイの自尊心がどれだけ残るかということだが、そこを心配してくれる人はいない。





「……どーすんのさ」





ノーヴェが切り出す。





「ノーヴェがやるべきっス。そもそもドクターはノーヴェに任せたんスから」



「まーさっきまで騒いでたワタシが言うのもなんだけどそう思う。てかしたくない」





正直に言い放つウェンディとセイン。





「それはみんな同じでしょ……」



「同感だ」



「自分の赤ん坊なら何も思わないけど無理よ」





ウーノの言葉に一瞬「自分の?」と疑問を持った残りの姉妹たち。

だが深く聞くのをやめた。

なんとなく聞かないほうがいい気がしたのだ。





「今は隣で寝てるけどさ……アタシだってやりたくねえよ」





ミルクを飲ませた後満腹になったからかまた眠った赤ん坊のケイ。

話声で起こすわけにもいかないので隣の部屋で寝かせているのである。

しかし食べて、寝て……ときたらもうオムツ交換は時間の問題だろう。

こうやって話し合っている間にも刻々とその時は近づいているのだ。





「し……仕方ない……わ、私は姉だ……汚れ役も私が……」





やや声を震わせながらチンクが名乗りを上げるが、姉に負担をかけることを好まないのがノーヴェである。





「ま、待った! チンク姉がやることねえよ! なんでもかんでも姉だからってそんな理由でしたくないことする必要ねえよ!」



「だが妹たちの誰もしたくないのだ。仕方ないだろう」



「チンク姉……」





なぜか死地に赴く家族同士のような空気が流れる。

理由が理由なら感動場面だがその理由がオムツ交換なので感動するものは誰もいないだろう。





「……よし、ジャンケンだ」





まさかのノーヴェのジャンケン発言。

普段はセインとウェンディくらいしか物事を決めるのにジャンケンを使うものはいなかった。

誰もが驚いたが公平性を持たせて決めようというのだ。

ノーヴェと同様にチンクに嫌々押し付けるのも悪いというのが全員の心中だった。

みんな頷いて立ち上がる。





「いくぞ……ジャンケン……」





全員が構える。

一触即発。

超高性能な戦闘機人のセンサーと運動性ををフルに発揮して誰がどの手を出すのかを見極める。

無駄なハイテクの使い方だった。





「「「「「 ポン! あいこでッショ! しょ! しょ! しょ! 」」」」」」





全員がこんなことをしているのだ。

もちろん勝負はあいこ。

相手が自分より強いのを出せばそれより強いのを、さらに変えてきたら自分も変える。

超ハイレベルなジャンケンが続く。

ちなみに普段はそこまでしていない。

普通に好きな手を出しているだけである。











10分後









勝負はまったく付かなかった。

それどころかまだあいこが続いていた。









15分後









未だに続く。

体力も集中力も並みじゃなかいだけに勝負を長引かせる。









20分後









まだつかない。





「ちょっとストップ! これじゃあ決まらないって! セインさんはセンサー使うのやめることを提案する!」





セインの提案に全員が同意する。

勝負は完全な運任せへと持ち込まれた。

というかまあこれが普通なのだが。





「「「「 じゃんけんぽん!! 」」」」





20分以上かけた勝負があっさりすぎるほど決着がついた。

ノーヴェの1人負けである。





「……あ、アタシか……」





ずーんと影を背負いながら項垂れる。

誰も勝利を喜ばない。

それだけ空しい勝利だった。





「じゃあノーヴェ。後はよろしく」





ウーノが一声かけて部屋から出ていく。

これ以上問題発生してジャンケンになるのは御免だったのだ。





「今日は下ごしらえに時間かかるから調理室にいくよ」





ディエチも同じように出ていく。





「うーん、なんか疲れたッス。アタシはお昼寝してくるッス〜」



「えーっと……セインさんは……あっ! そうだそうだ。いろいろあるんだった。いろいろー。んじゃそういことで」





後に残されたノーヴェとチンク。





「私も手伝おう」



「チンク姉……」



「数日の我慢だ。その後に煮るなり焼くなり好きに復讐すればいい。それまで頑張ろう」





ノーヴェの目尻に涙が滲む。

ぶっきらぼうな自分にいつもやさしく頼りにしろと言わんばかりに世話を焼いてくれるチンク。

そんなチンクが大好きなノーヴェは感動のあまり抱きつこうとした瞬間





「ふくくれーーーー!!」





感動の空気をぶち壊すかなり舌っ足らずな声が扉を開くと音と同時に響いた。

























************************************************













だーー! くっそ! やっぱ小さい頃の姿になった!

赤ん坊状態から戻ったはいいけどまだ2,3歳の姿だから動き辛いし喋りづらい!

しかも裸だよ!

よし、そこの扉から出て服を貰おう。





「ふくくれーーー!」





……あれ?

なんで扉の向こうには感動シーンで珍入者が現れて感動ぶち壊しみたいな感じでノーヴェとチンクが固まってるんだ?





「な、なんでそんなかたまってるんだ?」



「…………」



「ケイ……お前……意識あるのか? というか大きくなったか?」



「あ、ああ。うん。ある。あかんぼうのすがたじゃなかったらいしきはしっかり」





チンクの質問に答える。

喋りとかは下手だけど。





「な、なにかあった?」



「何かあったも何も……」





チンクのバックに何か怒りが爆発する寸前の火山みたいなのが見える!?

何だ!? 何があったんだ!?





「この……大馬 「ざけんなこらあああ!!」「ぎゃああああああああ!!」 も……の……」





チンクの怒りが爆発する寸前ノーヴェの方が速く動いた。

所謂「ぐりぐり」をかまされたのだ!

痛いーー! 痛いーー!!





「ぎゃあああ! いたいー!」



「何だったんだ! アタシのさっきまでの無駄な心労は何だったんだ! このクソ野郎ーー!」



「なに!? もしかしてあかんぼうのすがたのおれってもらした!?」



「そーいう意味じゃねええ! ていうか思い出させるなあああ!」



「げんざいしんこうけいでおもいだしてるだろおおお! てかやめれーー! がんじょうさとかそんなにないんだからぎぶ!ぎぶ!」





ちくしょおお!

俺の記憶のない間に何があったんだ!?

誰かヘルプミー!!











「子供なんて嫌いだああああ!!」



「だからってぎゃくたいははんたいーーー!」



「おまえが言うんじゃねええ!」



「のおぉぉぉおお!」



「……はあ……私も休もう」







いつまで続くんだこのグリグリはああああーー!

はやく元に戻りてええええ!!



















                                          つづく













おまけ1





ルー「……ドクターから連絡きた」



アギト「何て?」



ルー「……期間限定の弟ができたって……」



アギト「はっ?」



ルー「名前はケイだって。ちなみに本人だって」



アギト「……何がどうなってるんだそれ?」













    おまけ2





ウーノ「ドクター。あのような状態でもここに置いておくのですか?」



スカ「彼かい? ああ、興味深いじゃないか。私も計画実行までの間退屈はしないよ」



ウーノ「子供がお好きなのですか? ルーテシアといい彼といい」



スカ「生命の神秘だとは思うよ。試験管も溶液もなしで母体から複雑な組織と構造をもった生命が誕生するのだからね」



ウーノ「そうですか」



スカ「女性は神秘の生き物だよ。本当に」



ウーノ「欲しいと思いませんか?」



スカ「? 既に完全に自分の手で生み出して君たちがいるじゃないか。寂しいとは思わないから大丈夫だよ」



ウーノ「……そうですか」



スカ「安心したまえ。最終ロットのナンバーズももうすぐ完成だ。また賑やかになるさ。そういえばコーヒーを入れてくれるかい?」



ウーノ「どうぞ」



スカ「ありがとう。……ん? 砂糖はないのかい?」



ウーノ「失礼します」



スカ「ウーノ? 砂糖は? おーい。どうしたんだい? いつもの砂糖はどうしたんだい? ウーノ!?」











                                           おわれ













     あとがき





はい! 今回のヒロインはノーヴェでいってみました!

ぶっちゃけ仲良くなることないケイとノーヴェ。

取っ組み合い、口喧嘩、犬猿の仲っぽくしようとおもいながらもノーヴェメインの話も書きたいなと思いつつ書いてみました。

赤ん坊化な今回の話。

副作用は結構前からチラつかせながら書いていてやっと今回書けました。

発情期、女体化、子供化などと考えていましたが発情期はさすがにまずいかな(汗)と思いボツにしました。

次くらいからはついに残りのナンバーズのオットー、ディード、セッテを出していこうと思っています。

それが書けたら少しペースを上げるために1度話を飛ばして地上本部襲撃まで持っていこうかなとか考えています。

ナンバーズとの日常はその合間や後に追加で書こうかと思います。

それでは失礼します。



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