ケイとシグナムの戦いに決着がついたと思った矢先の出来事だった。
その頃機動六課部隊長八神はやてはミッド上空よりその映像を見ていた。
目の前に映される空間パネルの映像。
そこには明らかに異常な雰囲気を纏ったケイと、地面に伏し大量の血を流すシグナムの姿が映っていた。





時空を駆けちまった少年

第34話










「シグナム!!」


部下であり夜天の書の主である自分の守護騎士であり家族であるシグナムが倒れた。
目の前の映像に写るシグナムは立ち上がる気配がない。
己自身とリンクしてるためわかる。
シグナムは瀕死の状況だ。
はやては一瞬取り乱す。
だが歯を食いしばりそれを隠す。


「シャマル! 保護対象の様子はどうや!?」


ヴァイスのヘリに乗り、今回の任務での最優先対象であるレリックを持った少女の容態を診ていたシャマルに通信を繋げる。
空間パネルには白衣を着たもう1人の守護騎士であるシャマルが写る。


「疲労が溜まっているけど命に問題はないわ。それよりも……」

「わかっとる。ヴァイス君はそのままその子を六課に運んで。シャマルは今すぐシグナムのとこに飛んで治療や!」

「了解!」

「了解!」


そうして映像が切れる。


「ロングアーチ! 現場の方に私は向かう。他の隊長にも向かうよう連絡! スバル、ティアナ、ギンガにも今すぐ退避を」

「フェイト隊長が既に向かっています! あと20秒で現場に到着します!」

「20秒……お願いや。間に合ってフェイトちゃん」


そう言って空間パネルをすべて切り、飛行魔法でシグナムの倒れた現場へと向かう。
その場にまだいる戦闘のできない3人の無事とシグナムの無事を祈りながら。




















その頃幻術を駆使しながら逃走をしていたクアットロの追跡をやめ新人とシグナムが戦っていた場所に音速を超える速さで向うフェイト。
その顔は不安と焦りでいっぱいだった。


「バルデッシュ。急ぐよ」

《 Yes.sir 》


そうして見えてくる先ほど空間パネルで見た現場。
そこへと降り立ち、新人たちを探す。
だがそこには1人しか立っていなかった。
その1人から注意を逸らさないようにしながら周りを確認する。
その立っている1人の後ろには血を流したシグナムが。
左手のビルを横目で見ると大きな穴を開けその前で倒れているティアナとその上に覆いかぶさるように気を失うスバル。
そして右手にはデバイスを完全に破壊され、意識朦朧としているギンガが目に映る。


「フェ、フェイトさん……」

「ギンガ。大丈夫?」


痛めた体を抑えながらフェイトに気付き、話し掛ける。
フェイトは警戒しながらギンガへと近づき支えようとする。


「一体何が」

「わかりません……ごっふ、ごっふ……ただ、ケイ君には完全に意識はなかったはずなのに……ユニゾンデバイスとの融合も解除されているのに……」


2人の前でただ空を仰ぎ見ているケイ。
その姿は普段の黒髪の状態であり、倒れたときの場所を見れば力尽き倒れているアギトの姿も見える。


「シグナムさんが斬られたすぐにスバルとティアナが蹴り出された衝撃波で倒されて、攻撃をしようとしたらカウンターで……ぐっ……」


そう言って苦しみながら腹部を抑える。
ギンガがカウンターを入れられた場所は丁度鳩尾の当たりだったようだ。
苦しみ方から内臓を傷つけたのだと判断し、安静にしろと言うようにその場に寝かせるフェイト。


「わかった。ここからは私とバルディッシュが抑える。ギンガは後から来るシャマルに治療を受けて後は……」


バルディッシュを鎌の形状に変形させ刃をケイに向ける。


「私がやる」


目の前に立っていたケイが視線をこちらに向ける。
眼はいつもの日本人特有の黒い瞳ではなく、灰色の瞳。
しかも眼の雰囲気に正常さを感じない。
スバル、ティアナ、ギンガが弱っていたといっても1撃で沈めた。
油断はできない。
ケイの口が歪んで笑う。
そして一瞬で眼前に現れた。


「速いっ!?」


拳が右から顔に飛んでくる。
すぐさまシールドを展開。
防いで攻撃に転じようとする。
高速機動魔導師のフェイトにはそうできるだけの余裕はあった。
だがそのシールドは簡単に砕かれ、防御のないフェイトはその顔を横から殴られ吹き飛ばされる。


「っあっ!?」


視界がチカチカする。
痛みも走るがすぐに視線をケイに戻す。
飛ばされながら相手に意識を戻すと一緒にすぐに対応を考える。
だが疑問が真っ先に湧く。


なぜ魔法を使われているわけでもないのにシールドが破られた?


フェイトのの中で仮説がいくつか湧く。
AMFを使っている。
可能性はある。先ほど逃がした少女たちと共に行動しているのならAMFの発生する何かを持っていても不思議はない。
魔法以外の特殊なエネルギーを使用。
だが特にそれらしきものは見えなかった。
とにかくそれを見極める必要がある。
地に足を付けブレーキをかけ攻撃しようとする。
正面から歪んだ笑いを見せながらケイが突っ込んでくる。


「【フォトンランサー】ファイヤー!」


10の電気を帯びた槍のような形状の直射型の魔力弾を放つ。
AMFならばかき消される。
何か特殊なエネルギーを使用しているのならここで何かしらの現象、目に見えなくともデータとして後で解析もできる。
だがそのどちらも起こることはなかった。


ただ単純に己に当たるであろう魔力弾だけを素手で叩き落としたのだ。


「なっ、素手で!?」


信じられない。
だが目の前でそれをやってのけた。
魔力を纏っているわけではない。
純粋な力のみで魔力弾を叩き落としたのだ。


「があああああああっ!」

「しまっ!? くあっ!!」


驚いて隙ができた一瞬にローラースケートでの衝撃波を飛ばされ直撃してしまう。
バリアジャケットの上からでも伝わる重い一撃。
衝撃は相当ジャケットの効果で緩和されているはずなのに体の芯に響く。
直撃の余波で吹き飛ばされ着地をするが膝をついてしまう。


(まずい! 一回距離を置かないと)


軋む体で飛行する。
一旦空に逃げダメージが抜けてから接近戦を高速で仕掛ける。
パワーは向こうが上だがスピードはフェイトが上である。
さらにケイは空を飛ぶことができない。
これらのことから立てた作戦だった。


(今こっちにケイの意識は集中している……その間にシャマルがシグナムを応急処置して……)


回復と同時にこれからの算段を立てる。
飛べずにこちらをずっと見上げているケイから目を逸らさずにいるとゆっくりと屈みこんだ。
一体何をする気なのか。
そう思った瞬間。
爆音と衝撃を生みながらケイが大きく跳ぶ。
それは真っ直ぐにではなく両側に建っている廃ビルに向かって跳び、壁蹴りでフェイトに向かって跳躍する。
そして上空のフェイトに殴りかかった。
フェイトはそれをかわし、再び落下していくケイを見て驚く。


「この高さまで!? しかも今度は魔力も使った!?」


確かに以前ケイはなのはとの戦闘で魔力をそのまま一気に放出して身を守ったことがあった。
それを今度は恐らく脚力を強化する機能を有したローラースケートと併用してジャンプしたのだった。


(だけどあんな攻撃なら簡単にかわせる)


フェイトはそのまま落下して行くケイに狙いを付ける。


「バルディッシュ。威力全開でトライデントスマッシャーを撃つよ。今のケイだと中途半端なことはできない」

『 Yes.Sir 』


三つ叉の鉾のような形の魔力砲撃を形成しそれを着地する瞬間に放つ。
それは確実に直撃のコースを取っていた。
ケイは着地と同時に上空からの砲撃に視線が行く。
フェイトは確実に決まったと思った。
今度は素手で叩き落とせるわけがない。
意識は刈り取れなくても相当なダメージは行くはず。
だがその予想は外れる。


「嘘!?」


先ほどは素手だった。
だが今度は黒い刀身の刀でフェイトのトライデントスマッシャーを防ぐのではなく斬り裂いたのだ。


「砲撃を斬り裂いた!?」


常識外れにも程がある。
すずかから異常なほどの身体能力の向上が見られたというのは午前の会議での連絡で聞いてはいたがいくら何でもありえない。


「遠距離からじゃこっちも決められない……だったら接近戦しかない!」


カートリッジをロード。
バルディッシュをザンバーモードに変形させ、音速で背後に回る。


「はあああああ!!」


完全に背後を取り背中から大きく振りかぶった一撃を放つ。
背中から入った1撃は勢いを落とさずケイをビルの壁へと吹き飛ばす。
そのまま壁を貫通し、大きな音とともに破片が周りに飛び散る。


(きっとまだ来る!)


空いた穴から視線を逸らさずバルディッシュを強く握る。
予想は当たった。
すぐさまケイは攻撃してきたのだ。
飛ばされたビルの隣のビルから壁をぶち抜いて。


「くっ!」


反応したころには既に斬りかかってきていた。
ザンバーフォームは斬り合いでの勝負に向かないことは熟知している。
フェイトはすぐさま後退を選択し、ソニックムーブで距離を取ろうとする。
だがそれを発動した瞬間追撃して来たのは刀だけであった。
ケイは刀をそのままフェイトに投げつけたのだ。


「きゃあっ!」


紙一重で顔に飛んで来た切っ先をかわす。
外れた刀はそのまま超スピードで飛び、ビルを貫通しながら飛んでいった。


(もし今のが当たっていたら……)


確実に首から上が無くなっていた。
その光景を想像し寒気が走る。
だがこれで相手は丸腰。


(一気に決め……)


後ろを向き自分を襲った刀の行き先を見るために止まったのが仇となった。
ソニックムーブで取った距離を一瞬で埋められたのだ。
再び上空に逃げようとする。
だが今度は逃げられなかった。


「っつーーー!」


フェイトの金髪のツインテールの片方を掴まれ引き戻されたのだ。
地面に叩きつけられるフェイト。
髪から手は離され綺麗で長い髪が何本か引き千切られる。


(すぐに逃げないと!)


だが既に遅かった。


「がああああああああああああああああ!!」


地面にうつ伏せに叩きつけたすぐにその背中に相当な威力の拳が落とされた。
フェイトの意志とは別にバルディッシュが咄嗟にシールドを背中に展開したがそれをたやすく砕き、フェイトを襲った。


「かっは!?」


大きく逸れるフェイト。
口から血が出て、背中から骨の軋む音がした。
そして再び背中から大きな殺気を感じる。


(やられる!)


両目を強く瞑り歯を食いしばる。
だが


「【ラケーテンハンマー】!!」


鈍い音とともに何かが吹き飛ぶ音がした。
ヴィータがグラーフアイゼンの鉄槌で救ったのだ。


「【アクセルシューター】!」


ヴィータによって吹き飛ばされさらにそこに桜色の魔力弾が数十発撃ち込まれる。
空中でそのまま全弾喰らい辺りの建物を貫通しながらケイは吹き飛ばされた。


「なのは……ヴィータ……」

「フェイトちゃん大丈夫!?」

顔だけを上げてなのはとヴィータの救援に安堵するフェイト。
なのははすぐにフェイトにかけよる。


「シグナムは今シャマルが治療してる。スバルとティアナにギンガはリインが治療しながらキャロとエリオがヘリに運んでる」


ストラーダを瓦礫から掘り出し、隊長陣からの命令で気絶したスバルとティアナを運んだエリオとレリックを運ぶため六課に向かったはずのキャロ。
キャロはレリックを六課に運んでいたのだが飛行して来たはやてにレリックを預け3人の救出に向かったのだ。
はやてはスバル、ティアナ、ギンガが倒されたことを聞き自分が現場に向かうよりもキャロとフリードが向かう方がよいと判断した。
本当は現場に急行し4人の安否を確かめたかった。
だが状況を冷静に考えた。
ヴィータ、なのは、フェイトの3人の隊長が既に現場に向かっており、さらに治療にはシャマルが向かっている。
戦闘面、治療の面では既に足りている。
それに自分よりも巨竜となったフリードの方が人員を運べる。
そのままキャロと共に自分も現場に行こうかとも一度回収したレリックを再び戦闘の場に戻す危険性を考えるとできなかった。
部隊を率いる者として上の事柄より、現場に向かうことを断念したはやてだった。


「すずかちゃんが言ってた状態……なのかな……」

「多分……常識外れな状態なのは間違いない……」


よろけながらも立ち上がるフェイトをなのはは支えながら話す。
ヴィータも含め3人は先ほどケイを吹き飛ばした場所から目を逸らさない。


「いくら何でもあれで立ち上がってこれるのかよ……いくら非殺傷設定でも死んじまうぞ……」

「でも油断できない……私も何度か決まったと思ったけど……」


そう話していると崩れた建物の舞う煙の中から人影が見えた。
デバイスを構え魔法を発動させる準備に入る。
そして姿が現れた。


「「「 !? 」」」


言葉に詰まる3人。
何故なら現れたケイの姿があまりにもボロボロだったのだ。
全身に大きな擦り傷切り傷を作り血を流し、先ほどの頭部へのヴィータの一撃が顔を赤く染め上げ、何度も何度も叩きつけられたせいで腕や足が
向いては行けない方向を向いているのだ。
そんな状況なのに立ち上がり歩いてきている。
異常過ぎる。
過去に全力全開で多くの犯罪者たちを捕えてきたがここまでなっても起き上がる者をなのはもフェイトも見たことがなかった。
ヴィータは大昔に戦場で人を殺めたことがあったが、ここまでの状況になっても立ち上がってきた者を見たことがなかった。
寒気が3人の体に走る。


「……なのは……」

「うん……」


エクシードモードのレイジングハートを構え砲撃の体勢に入るなのは。


「立ち上がってはいるけどあんな状態じゃもう歩くだけしかできねえ……それにこれ以上のダメージはやばすぎる。一発で意識を刈り取るんだぞ」

「わかってる……全力全開の純粋魔力ダメージで気絶させる」


これ以上の戦闘はケイの命に関わる。
幸いもうまともに動ける状態ではない。
1撃。
それで決めればこれ以上命に関わることはない。
3人の見解は一致し、この場で最も威力のある純粋魔力攻撃のできるなのはにその任が任された。


「いくよ……【エクセリオンバスター】!」


カートリッジを3発ロードし、巨大な桜色の魔力の塊がケイを飲み込んだ。
周辺を大きな衝撃で震わせ、轟音が響く。
砲撃を放った後にはその場に倒れているケイの姿があった。


「……終わったな」


なのははフェイトを支えながら、ヴィータは念のためグラーフアイゼンを構えながら近づく。
ケイは完全に動かず、沈黙していた。
それを確認したヴィータははやてに通信を入れる。


「はやて、目標を確保。このまま六課に運ぶ」

『わかった。くれぐれも油断せんように。フェイトちゃん大丈夫か?』

「うん、大丈夫。それより他のみんなは?」

『みんなスバルとティアナにギンガで意識を戻したよ。シグナムもシャマルの魔法で回復、命に別状はないって』

「よかったー」

「当たり前だ。シグナムの奴がそう簡単にくたばる訳がねえ」


4人の無事に安心するなのはと、嬉しそうに皮肉を言うヴィータ。
バインドをかけて護送しようとする瞬間その身体が高速の光につき飛ばされる。
そして先ほど逃がした少女達と同じ服を着た長身の女性が立っていた。


「ヴィータちゃん!?」

「誰だ!」


なのはとフェイトが身構える。


「フェイトお嬢様。あなたならおわかりになると思いますが」


長身の女性、トーレはフェイトにそう言い返す。


「……ドクター……ジェイル・スカリエッティの……」

「そうです。申し訳ありませんがこれは連れて返させていただきます。ドクターの指示ですので」


そのまま倒れるケイを肩にかつぐ。
ケイの体はぐにゃりと腰から曲がり反応がない。


「行かせると思っているのか?」

「ええ。既に準備は整っていますので」


トーレの足もとに紫色の光と共に魔法陣が展開される。


「転送魔法!? しまっ……」

「それではいずれ……次は私が戦うことになるでしょう」


そしてケイを抱えたトーレの姿は消える。
その場には取り逃がしたことに歯を食いしばるフェイトとなのは、不意打ちを受けダメージを負いながらも悔しがるヴィータが残されたのだった。













*****************************************************













機動六課の休日の戦闘が終わり数日がたった。
六課では保護した児童ヴィヴィオが目覚めなのはを母として懐いていた。
そしてそのヴィヴィオと同じ病院にて入院していたシグナムが目を覚ました。


「んっ……主……ここは……」

「おはよ、聖王教会系列の病院や」


そのまま何が起きたかを話す。
シグナムは静かにそれを聞き静かに頭の中でそれを整理する。


「そうですか……やはり普通の状態ではなかったということですか」

「そや。それに多分これからも今回みたいにケイ君が戦闘に出てくることもあるかもしれん」

「そうですね……ところで主……そのお顔は」


シグナムははやての顔の悪さに心配をする。
はやては今回の事件での報告書の作成とこれからあるであろう上層部からの呼び出しへの対応を考えるなど眠る暇もないほど忙しかった。
さらにシグナムのお見舞も毎日欠かさずしていたため疲弊していたのだ。


「んっ……まあ何でもない。シグナムも目覚ましたし一安心や。いやー何か肩の荷が一気に落ちた気分やわ〜」

「っつ……主!」

「ああ〜そうや。六課に帰ってシグナムが目覚ましたことみんなに教えてやらな。ヴィータなんか泣いて心配しとったからな〜」


そう言ってササッと病室から逃げ出していった。
病室にはシグナム1人がベッドに寝たまま残される。
茶化したように何もなかったというはやてにシグナムは強く反論しようとしたが逃げられ、溜息をつく。


(恐らく報告と私や負傷した新人の見舞に上層部への今回の報告が原因だな……)


不甲斐ない。
夜天の主を守る守護騎士の将たる自分が一番の重症の上、守るべき主に心労を与えてしまった。
そんな自分に腸が煮えそうになる。


「申し訳ありません主……」


だがそのことで自分を責めていても仕方がない。
何よりはやてや仲間がそれを望まないだろう。


「この汚名は……あの馬鹿の性根を叩き直すことで晴らせて見せます」


ベッドで横になり窓の外を見ながらそう決意する。
気のせいかそのバックには限定解除されたとき並みの炎が見えた。


(しかし……何だったのだあの現象は)


ケイの性根を叩き直すことに燃えていたのが沈下し疑問に思ったことだった。
この疑問が解決するのはまだまだ先のことであった。






















暗く広い空間。
それはどこにあるのかはわからないが、部屋の内装から相当な技術力のある場所であるのはわかる。
いくつかの足場が浮いておりその空間の中心へと繋がっている。
そこには3つのカプセルとその中に満たされたバイオ液、そして3つの人の脳があった。
管理局評議会の3人である。


「ふむ……この一件での子供をどう思う?」

「いやはや……次元世界の広さを思い知らされるな。まさか魔法を力でねじ伏せるとは」


カプセルのUとVと表示された脳同士がそう話す。
先ほど六課からの報告書、並びに数日前の戦闘データを見ていたのだ。
目がないので見たという表現で正しいのかは謎だがその情報は脳へと伝わってはいるようだ。


「以前から聞いてはいたが……まさかこれほどとはな」

「ジェイルのところにいるのだろう? 人口魔導師計画のサンプルとして使えるのではないか?」

「だが既に戦闘機人の方は完成の形に向かっている。余計なデータは完成時期を遅らせるのではないか?」

「それでもあれをうまく使えれば管理局の戦力向上に大きな貢献をなすぞ?」

「ふむ……どう思われる?」


Vの脳が先ほどから黙っているTのマークのカプセルに入った脳に問いかける。


「それよりも気になるのはそのような存在が手元にいることを報告してこなかったジェイルのことだ」


ケイがジェイル・スカリエッティのところにいるようになってからそれなりの日が経っている。
評議会はいつからケイがスカリエッティの所にいたのかはわからないが、報告が来ていないのは明らかにおかしい。


「……やはりジェイルは何かしら我らの思惑とは違うことをしようとしているようだな」

「杞憂では? あれが我らへの背信行為の愚かしさをわかっておらぬということはあるまい?」

「だがその可能性も考慮し"例の計画"を進めてきたのではないか。理論は完璧にでき既に形にもなりつつある」

「それはそうだが……」


3人が何かの計画について話し合っている中に1人の女性がその場にやってくる。
管理局本局の制服を纏うロングの美女。


「失礼いたします。メンテのお時間です」


そう言いカプセルの前で空間パネルを開きそこにデータを打ち込んでいく。


「ふう……まあいい。今はその少年をジェイルの元で研究させろ。データはすべてこちらに上せるように伝えよ。六課の尋問はなしだ」

「尋問をしないでいいのか?」

「下手に行って存在が広まるのもまずいだろう。六課側もこの情報を外に漏らしたいわけではあるまい」


元保護対象に捜査妨害、さらには少数精鋭を謳っている六課の半数がやられたとあっては部隊の存在を疑問視される。
それを踏まえての読みであった。


「何か問題が?」


メンテを行いながら女性が尋ねる。


「いや、問題はない。お前はそのまま作業を続けろ」


それに対し何も話しはしないという様に命令をする。
女性はメンテを続けたままゆがんだ形で微笑む。


「ジェイル・スカリエッティの背信の疑いですか?」


その一言が広い空間に沈黙をもたらす。


「な、何故貴様がそれを……うぎゃああああああ!!」


Uの番号のカプセルが破壊されると同時に叫び声が木霊する。
破壊したのはその女性だった。
その手には鋭く大きな爪がありカプセル内のバイオ液が滴り落ちる。
破壊されたカプセルの脳は無残にも床に落ちそのままただの肉塊と化す。


「き、貴様何を……」

「ドクターからの伝言です。『予定が変わった。少々早いですがあなた方には退場願います。』だそうです」

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」


そのままVのカプセルも破壊され肉塊が2つに増える。


「やはりジェイルは背信行為に走ったか。まさかこれほど身近に刺客を置いていたとはな」

「ふふ、10年近くも気づかず私があなた達を殺せる場所に置いておくとは馬鹿としか言いようがありませんね」


女性の姿が変化する。
そこには金色の髪と妖しいきつめの眼の美女が現れる。
服装は管理局本局の制服から、ナンバーズのボディースーツへと変わっていた。
ナンバーズU番、ドゥーエ。
数年前にスカリエッティが評議会に忍び込ませたスパイだった。
ドゥーエはその手の爪を振り上げ最後のカプセルを破壊する。
3つの脳はガラスの破片とともに床に散乱する。
辺りにはバイオ液の独特の匂いと肉の腐った匂いが立ち上る。


「…………」


任務を遂行し終えたが何か違和感を感じる。
あまりにも潔く最後の1人が死んだことに対してだった。
まるでこのような事態も想定していたかのような最後の一言。


「……ふう、考えすぎね。さてここにもう用はないわ。すぐにドクターの所に帰りましょう」


そして懐かしの姉妹達、まだ見ぬ妹達との再開に胸を躍らせる。
何年もこのような場所でスパイ任務をこなし相当なストレスも溜まっていてその発散をどうやってしようかと心を躍らせる。
その場を後にしようと振り返った瞬間だった。
ドゥーエの腹の真ん中を何かが貫通し穴を開けたのだ。


「……えっ?っ……ごっふ! がっは!?」


一瞬何が起きたのか混乱する。
そして口から漏れる大量の血。
腹部を抑えその場に膝をつく。


「ふむ……この身体も悪くない。これで完成形の7割となると相当なものだな」



声のした場所に目をやる。
そこには長身でガタイがよく強靭そうな肉体の男が立っていた。
その手には杖型のデバイスを持っていた。
この男の魔力弾によって攻撃されたのだと理解するドゥーエ。


「魔力量……そして身体能力と固有スキル。まったくよくこのようなものを作れるものだ。やはり消すには惜しい者だなジェイルは」


デバイスを持つ手とは別の手を握りしめる。
それと同時に小さくだが何か機械音のようなものが聞こえる。


(この音……それにこの言葉の意味はまさか!?)

「さて、ここでお前を消してもよいがまだ使い道がある。このまま拘束させて貰おう」


男のデバイスの先端に光が集まる。
殺すつもりはないのだから非殺傷設定になっているのだろうがその魔力密度に旋律する。
痛みで動けない身体で何とか逃げようとあがくドゥーエ。
だが無情にもその充填された魔力砲はドゥーエを飲み込んだ。
暗いその空間に光が広がり轟音が響き渡った。

























********************************************************















……何か生暖かい湯に浸かってる感じがした。
なんだこれ?
目を開くと何かの液で満たされたカプセルの中にいた。
身体の何ヶ所かに点滴のときによくみるようなチューブやよくわからないコードのようなものが刺さっていた
……
………
…………いや、何処ここ?
目を覚ませばまったく未体験の場所でSF映画チックな状況。
こりゃもう混乱するしかありませんよ。
外の様子を見ると他にもカプセルがずらーっと並んでいる。
もしかしてスカのアジトか?


「おっ、起きたみたいっすよー」

「おーっす。おはよー」


声がしたと思ったらウェンディとセインがいた。
どうも外でトランプか何かしてたようだ。
2人の手には数枚のトランプに間に置かれた机の上には山がある。


「いやー3日も寝てるってビックリっすよ〜」

「あっ、ドクター? ケイが起きたよー」


はっ? 3日も寝てた?
ってか何? 何がどーなって今この中?


『やあ、体調の方はどうかな?』


セインが繋げた通信先のスカが空間パネルの映像で現れた。


「ごっぱ、ごぱぱごお」


喋ろうとしたら泡が口から出ただけだった。
って俺水中なのに呼吸しなくて大丈夫なのか!?
……あれか? よくある勝手に酸素を取り込んでくれるとかいうのか?
……びっくりだ。


『ははは、まあそれじゃあ話せないだろうね。まあいい』


どこがいいんだどこが。会話が成り立たんぞこっちは。


『さて、今なぜそこにいるのか覚えているかい?』


首を横に振ることで否定する。


『では説明しておこう。君が起動六課との戦闘で敗れた後トーレとセインにより君とアギトの救出、その後重症の君はここに運ばれたのだよ』


……そこまでやばかったのか?
というかあのシグナム師範から俺を奪還できたなおい。


『足の骨は完全に折れて肉を裂いて外に出ていたし、腕なんかも2,3か所の骨折。アバラに至っては内臓に刺さっていたよ』

「ぶっばごばっは!?」


そこまで!?
というかそこまでやられた記憶はねえぞ!?


『ははは、嘘だよ嘘。だが全身どこかしらの骨が折れて常人なら死ぬようなダメージなのは本当だよ』


人外万歳!
こーいうときだけそのことにありがたみを感じます!
生きててよかった!
しっかし……えー?
師範との最後の攻防はそこまでこっぴどくやられたってことか?


「いやー、映像で見たっすけどスゲかったっス〜。こー灰色の眼になって六課のやつら秒殺っスよー! っく〜しびれたっス!」


秒殺? 眼?
……まさかまた暴走したのか!?
じゃあ師範は!? スバルは!? ティアナは!? ギンガ先輩は!?
4人のことが気になって落ち着いていられなくなりすぐにでもカプセルから出ようとコードを引きちぎろうとする。


「ちょっ!? 何してんのさ!?」

「うがごげぼがぽが!!」

「何言ってんのかさっぱりだけど治療中なんだから大人しくしろ!? 足なんか変な方向向いてるんだぞ!?」


セインに言われて足を見てみる。
右足の爪先が変な方向向いていた。


「むがっぱあああああ!?」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


爆笑するウェンディ。
落ち着け、まずは落ち着け。
そう、そうだ。今ここ出たからって何とかなるわけじゃねえんだ。
落ち着こう。


『突然どうしたんだい? もし機動六課の魔導師の容態が気になるのであれば大丈夫だよ。死者は出ていない』


その言葉に少しホッとした。
もし暴走して何かをしてしまったのだったら本当にヤバ過ぎる。
アレは本当に相手を殺すことしかできない状態らしいからな。
今は自分でその状態になることはできるけどほんの一部だ。
ジジイが言うには解放し過ぎればどうなるかわかったもんじゃないらしい。
はあ……なんつうものを持った俺……
そんだけすげえ力ゲットして嬉しいとも思うけど最近は怖くも感じるぞ……
今更手放したいとも思わないけど。


『完治にはまだ数日掛かる。……いや、たった数日と言った方がいいかな。いくら治癒魔法に治療ポッドに入れているとはいえその回復速度は舌を巻くよ』


治療魔法?


「あっ、ルーテシアお嬢様が救出を手伝ってくれてさ。そのとき治療魔法もかけてくれたんだよ」


ああ、成程。
…………ああ……結局1人じゃ何もできなくて他人の力を……
1人じゃ何もできないのが人間だってわかっていても何か自己嫌悪……
もう少し1人でなんとかできるようになれよ俺。


『色々聞きたいこともあるが……今は話せない状態だね。完治後話を聞かせてもらうよ。君が隠していることも含めてね』


ギクゥ!
な、なんでそれが!
……ってこれだけ大事やったらバレるわな。
どうしよ……どーやって誤魔化そう。


『ではゆっくり養生したまえ』


画面が消えるのと一緒に通信が切れる。
やばす。非常にやばす。
もう話しても話さなくてもこれから俺どーなるのかさっぱりわからん。
というか六課と戦闘しちまっただろ。
もーどーなるんじゃあああ!
あの時はとにかくルーテシアのこともあるから救出優先にしたけど正体バレること想定してなかった!
どーすればいいんだあああ!!


「まっ、とりあえずこれでケイも共犯者っス。運命共同体一緒に頑張って管理局潰そうっス」


グッと親指を立てて来る。
俺もう犯罪者ルートで固定された!?
……マジで家に帰るにはどうすればいいの?











                                               つづく







     おまけ 〜数日前の戦闘でのセインさんの大脱走〜




「ところでセイン」

「うん?」

「どーやって教会の騎士から逃げたっスか?」

「あ〜実は……」

「実は?」

「ビルをぶち抜いてきた刀が吹き飛ばした瓦礫があの騎士の頭に綺麗に当たって気絶させたからそのまま逃げた」

「ぶっは、ま、間抜けっスね〜そのシスター」

「あ、あははー」(じ、実はワタシも頭打って気絶して先に目覚めたって言えない……)






     おまけ2  〜事件当日の店長〜


「……あの野郎……買い物にどんだけかかってやがる……」

「あなた〜私の服知らない? 1着見当たらないんだけど」

「うげっ!? し、知らねえな」

「そう? おかしいわね〜……ここに閉まったと思ったんだけど……」

(早く帰ってこいあのクソガキ! さもないと俺の命が!)
























     あとがき



ふう……やっと終わったーーー!!
戦闘パート終了! これでまたしばらくは日常というかシリアス戦闘のない部分が書ける!
いやー戦闘物で書いてるのに戦闘書けないってだめっすね。
最近は「鋼殻のレギオス」を読んでたりしたんですがそれよりも「いぬかみっ!」「ラッキーチャンス!」の方が自分の中で影響がでかいというw
戦闘もあるのにあれだけ面白く書けるのはすごいと思いますね。
自分もああいう物語が書けるといいのに……
この休日での戦闘は連載初期から考えていた形で特に書きたいと思っていた部分でした。
1年以上SSを書くようになっていながら表現が甘いなと思いつつも妥協みたいな文面も多々……すいません。
さて、次回からはナンバーズとの共同生活部分です。
おそらく何人かはその回のメインヒロインとなっての話が出てきます。
セッテ、オットー、ディードの出番ももうすぐですね。
その後は本部襲撃、そしてゆりかご事件の方へと進めるつもりです。
評議会の方はオリジナル色を強くしながらさらにこれから絡めていくつもりです。
ではまた次回もよろしくお願いします。




    Web拍手返信



※ケイさんへ 
爆笑させていただきました!かなり面白かったです!できたら更新をもっと早くしていただけると嬉しいです 

>ありがとうございます!
>更新速度は最近マジで悩んでいます……夏休みにはもっと書けるようがんばります。


※ケイが最高ですね!ひん剥くとはやりおる! 次のバトルも楽しみにしてます

>しばらくバトルはないかも(汗)
>とりあえずギャグメインな感じで書きたいと思っている現状です。
>ちょっとした戦闘はあるかも?


※ケイ君さ〜ラケットで2人のバトルジャケットをやるのはいいけどさ〜おいたがすぎると・・・・・・・修羅が進化するよ。間違いなく君だけの為に

>ケイ「……ま、魔除けの札を買っても……無駄だろうな……」

>修羅1「リボルバー……」

>修羅2「スターライト……」

>ケイ「お、落ち着け!? というか2の方それ3年後の技……!?」(ジュ……) ←蒸発しました



※ケイよ、ラケット直して他の人達ひんむけwww骨は拾って犬に食わすからwww

>ケイ「食わすな! というか殺されるのは絶対なのか!?」

>シグナム「当然だろう。さて、介錯はしてやる。遺言はあるか?」

>ケイ「というか切腹!? 俺の家は元百姓ですよ!」


ちなみにラケットはパワーUPして帰ってきます(ぇー



※ケイさんへ ギャグじゃなくて悪ふざけにしか見えません。

>ラケットの事は結構賛否割れるかなと思いながら書きました。
>悪ふざけと思う方もいるでしょう。不快な思いをさせてしまいすいません。
>でもこういう作風にしたいというものを持って書いていますので特に修正、言いわけはしないで行こうと思っています。



※時駆け感 
なんかケイの人生、爺の所為で狂わされた様な気が、爺が関わらなければ成らない理由が無かった訳だし。

>あはは……(汗)
>ぶっちゃけその通りです。
>正直言いますと連載初期はそこら辺をまったく考えないで妄想のままに書いていたので気付いた頃にはそうなっていました。
>それを直すともう物語全部1から直しになるのでできないんですが……
>いやはや……最初に物語を書く上での設定は大事ですね。




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